資料3 教員として必要な資質能力の全体を確認するための科目の新設等について(案)

1.趣旨

 課程認定大学では、従来から、教員免許状の授与に必要な教員として最小限必要な資質能力(教職課程の個々の科目の履修により修得した専門的な知識・技能を基に、教員としての使命感や責任感、教育的愛情等を持って、学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等の職務を著しい支障が生じることなく実践できる資質能力)について養成してきた。
 このうち、専門的な知識・技能については、これまで「学力に関する証明書」(教育職員免許法第7条により規定。実務的には単位修得証明書及び学位取得証明書として取り扱われている)で明示的にその全体を確認している。

 一方、教員として最小限必要な資質能力のうち、専門的な知識・技能以外については、これまで基礎資格(学士の学位等)の取得及び教職課程の単位修得等により確認されている部分があるものの、教職指導等を通じて個々人において形成されているとして、明示的には確認されてこなかった部分がある。

 このため、今後は、課程認定大学において、教員として最小限必要な資質能力の全体について、教職課程の履修を通じて、確実に身に付けさせるとともに、その資質能力の全体を明示的に確認する方策を講ずる必要がある。具体的には、「大学における教員養成」の原則や、我が国の教員免許制度等との関係を考慮すると、教職課程の中に新たな必修科目を設ける方向で検討することが適当であると考える。

2.新たな科目の創設

(1)名称

 「教職実践演習(仮称)」(1単位)。

(2)目的

 教職課程の履修全体を通じて身に付けるべき最小限必要な資質能力を最終的に形成し、その確認を行うための総合実践を行う演習科目。

(3)内容等

 当該科目には、教員として求められる以下の事項を含むものとする。(別紙参照)

  1. 使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項
  2. 社会性や対人関係能力に関する事項
  3. 幼児児童生徒理解に関する事項
  4. 教科等の指導力に関する事項

 内容の検討に当たっては、最新の教育に関する動向等を踏まえつつ、以下の点に留意する。

  1. 教職の意義や教員の役割等を再確認させること
  2. 教員の具体的職務内容や学校現場の実態等についての理解を深めさせること
  3. 教科指導や生徒指導等に関する実践的指導力の基礎の定着を図る

(4)指導方法等

  • 総合実践に関する演習科目であることを踏まえ、講義形式は極力避け、演習(指導案の作成や模擬授業・場面指導等の実施等を含む)、事例研究、グループ討議、学校現場や教育関連施設における体験活動等を適切に組み合わせて実施することが望ましい。
  • 科目の目的・性格に鑑み、基本的に複数の教員の協力方式で実施することが望ましい。
  • 最終年次の教職課程のほとんどの科目を履修した段階において実施することが望ましい。
  • 個々の学生の履修履歴等に応じて、例えば学生を複数のグループに分けて、内容の重点化を図るなど、柔軟な指導方法を工夫することが望ましい。

(5)新設のための方策

  • 免許状の授与に必要な現行の修得総単位数は変更しない。
  • 教職に関する科目の単位数を減じ(1単位)、新設科目に充当する。
  • 単位数を減じる教職に関する科目は、「教職の意義等に関する科目(2単位)」とする。
  • 新設科目の科目区分は、現行の教科に関する科目や教職に関する科目とは異なる新たな科目区分(例えば、総合実践に関する科目(仮称))として設定する。

3.教職指導の充実

 上記のような科目の創設とともに、今後は、学生が教職についての理解を深め、将来教職に就くことについて多角的に考察する過程を援助し、動機付けを図るような指導(教職指導)を充実することが重要である。
 教職指導の重要性は、教養審第一次答申等でも指摘されてきたが、個々の大学や学生の取組に委ねられている部分が多く、課程認定大学全体としての取組は必ずしも十分ではなかった。このため、教職課程全体を通じた教職指導の実施を、法令上も明確にすることが必要である。
 具体的な実施については、各課程認定大学の判断に委ねられるが、教職課程の履修対象者に対して、早い段階から、例えば学校現場や教育関連施設を体験する機会や子どもたちとの触れ合いの機会、現職教員との交流の機会等を提供するなど、課外における活動も含め、体系的・計画的な教職指導の実施を検討することが期待される。また、例えば個々の学生について履修履歴を確認しながら、各学年の修了毎に必要な教職指導を行うなど、柔軟な指導の工夫や、それに応じた体制整備を図ることも考えられる。
 以上のような改革を実現する上で、教養審第一次答申等において提言された「教員養成カリキュラム委員会」の設置は大きな意義を有する。同委員会は、今後、教職課程における授業科目間の整合性・連続性の確保等のほか、上記の新設科目や教職指導の企画立案・実施を行う上で中心的な役割が期待されるところであり、課程認定大学における設置と機能の充実・強化を促進する必要がある。

(別紙)「教職実践演習(仮称)」について(イメージ案)

含めることが必要な事項 実施に当たっての着眼点(例)
1.教員として求められる使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項
  • 教員としての自らの使命の再確認とその明確化
  • 学校の教育目標の達成や当面の課題の解決のため、他の教職員や保護者等との協力による自己の役割の遂行
  • 幼児児童生徒が抱える課題の改善に向けての根気強い指導の実施
  • 自らの課題の掘り起こしと、その解決のための研修の実施など、職務遂行能力の向上に向けた取組
2.教員として求められる社会性や対人関係能力に関する事項
  • 教員としての基本的な職責や義務の自覚に基づく規律ある行動の実施
  • 組織の一員としての自覚と、他の教職員との協調・協働による職務の遂行
  • 保護者や地域の関係者との適切なコミニュケーション
3.教員として求められる幼児児童生徒理解に関する事項
  • 幼児児童生徒との適切なコミュニケーション
  • 幼児児童生徒の発達の特性や心身の状況に応じた指導の実施
  • 個々の幼児児童生徒が抱える課題の理解と、それに応じた指導の実施
4.教員として求められる教科等の指導力に関する事項
  • 一貫性・計画性をもった授業の実施
  • 板書・教材等の活用や的確な話し方による授業の実施
  • 児童生徒の反応を踏まえた授業の実施
  • 児童生徒の学習の定着状況の把握

※ 右欄に掲げる着眼点(例)とは、当該科目の実施を通じて、教員として必要な資質能力の全体を確認するためには、どのような点に着目して授業を展開することが考えられるのかを例示として示したものであり、具体的な授業内容や履修の到達目標を示すものではない。

(参考)教員免許状取得に必要な科目の単位数

(大学での養成による場合)

 普通免許状の取得には,以下の基礎資格と単位修得が必要。

免許状の種類 所要資格 最低修得単位数
基礎資格 教科に関する科目 教職に関する科目 教科又は教職に関する科目 特殊教育に関する科目 その他(注1) 合計
小学校教諭 専修免許状 修士の学位 8 41 34   8 91
一種免許状 学士の学位 8 41 10   8 67
二種免許状 準学士の称号等 4 31 2   8 45
中学校教諭 専修免許状 修士の学位 20 31 32   8 91
一種免許状 学士の学位 20 31 8   8 67
二種免許状 準学士の称号等 10 21 4   8 43
高等学校教諭 専修免許状 修士の学位 20 23 40   8
91
一種免許状 学士の学位 20 23 16   8 67
盲学校
聾学校
養護学校教諭
専修免許状 修士の学位及び小・中・高・幼の教諭の免許状       47   47
一種免許状 学士の学位及び小・中・高・幼の教諭の免許状       23   23
二種免許状 小・中・高・幼の教諭の免許状       13   13
幼稚園教諭 専修免許状 修士の学位 6 35 34   8 83
一種免許状 学士の学位 6 35 10   8 59
二種免許状 準学士の称号等 4 27     8 39
  • (注1):その他の科目は日本国憲法,体育,外国語コミュニケーション,情報機器の操作である。
  • (注2):この他,養護教諭及び栄養教諭の免許状がある。

教員免許状取得に必要な科目の内訳

中学校教諭一種免許状(社会)の場合

区分 細目
教科に関する科目
 右記の科目についてそれぞれ1単位以上合計20単位以上修得
  • 日本史及び外国史
  • 地理学(地誌を含む)
  • 「法律学,政治学」
  • 「社会学,経済学」
  • 「哲学,倫理学,宗教学」
教職に関する科目
 右記の科目について合計31単位以上修得
  • 教職の意義等に関する科目…2単位
    (教職の意義及び教員の役割,職務内容等)
  • 教育の基礎理論に関する科目…6単位
    (教育の理念,教育に関する歴史及び思想,児童等の心身の発達及び学習の過程,教育に関する制度的事項等)
  • 教育課程及び指導法に関する科目…12単位
    (教育課程の意義及び編成の方法,各教科の指導法,道徳の指導法,特別活動の指導法,教育の方法及び技術)
  • 生徒指導,教育相談及び進路指導等に関する科目…4単位
    (生徒指導・教育相談(カウンセリングを含む)・進路指導の理論及び方法)
  • 総合演習…2単位
  • 教育実習…5単位
教科又は教職に関する科目
 上記の教科に関する科目又は教職に関する科目について8単位以上修得
 
その他の科目
 右記の科目について各2単位以上修得
  • 日本国憲法
  • 体育
  • 外国語コミュニケーション
  • 情報機器の操作
介護等体験  小学校又は中学校の免許状を取得するためには社会福祉施設等における7日間以上の介護等の体験が必要

お問合せ先

初等中等教育局教職員課