5.教員免許更新制について

(1)基本的な考え方

  • 教員免許更新制は、一般的に、免許状に有効期限を設け、一定の要件のもとで更新の可否を決定する制度として理解されているが、上記4.に示したような基本的な視点に立ち、今後の教員養成・免許制度の改革を考える場合、その一環として、教員免許更新制を新たに導入することには、一定の意義がある。
  • 他方、教員免許更新制については、平成14年の中央教育審議会答申(今後の教員免許制度の在り方について)において、現行制度等との関係で、いくつかの問題点を指摘した上で、導入には「なお慎重にならざるを得ない」と提言したところである。このため、教員免許更新制については、具体的な制度の在り方について検討する前に、導入の意義や他の制度との関係、平成14年答申との関係等を、あらかじめ整理することが適当である。

(2)導入の意義及び位置づけ

  • 教員免許更新制の意義は、具体的な制度設計により異なるが、一般的に導入の意義(メリット)を示すとすれば、例えば、次のような点が挙げられる。
    • 教員が常に緊張感を持って、自己研鑽に励むことを促すとともに、教員全体の資質能力を向上させていくインセンティブとしての役割が期待できること
    • 国・公・私立学校の別によらず、教員として相応しくない、あるいは免許状の信頼性を損なうような場合のチェック機能としての役割が期待できること
    • 現行の免許状の上進制度や現職研修と相まって、教職生活の節目ごとに専門性の一層の向上が期待できること
    • 公立学校の教員について、現在の分限制度の適切な運用や教員評価の取組みの一層の充実が期待できること
  • 教員免許更新制の位置づけも、具体的な制度設計により異なるが、基本的に免許制度における位置づけはもとより、養成・採用・研修や評価、処遇等との関係を明確にすることにより、教員の資質能力を全体として高めるとともに、教職に対する信頼の確立につながるような制度として考えることが適当である。

(3)他の制度(現職研修、公務員法制、他の資格制度等)との関係

  • 初任者研修や10年経験者研修等の現職研修は、教職生活全体を通じた体系的な研修の一環として行われるものであり、教員の専門性の向上を図る上で重要な役割を果たしている。教員免許更新制は、これらの現職研修や自己研鑽と相まって、専門性の向上が一層促進されるような制度として考えることが適当である。
  • 公立学校の教員については、教員免許更新制と公務員法制(分限制度等)との関係を、また、私立学校の教員については、更新制と労働法制との関係をそれぞれ整理することが必要であるが、この点については、身分上の問題と資格制度上の問題を基本的に切り離して、整理することが適当である。
  • 現在、他の資格制度において、更新制を導入しているものは少ないものの、例えば、業務の安全確保が求められる資格や、業務の遂行上、一定の身体・技能が必要とされる資格等においては、更新制が設けられているものもある。
     資格制度の在り方は、本来、当該制度の特性や業務の性質等を踏まえて検討されることが基本である。教員の職務の本質は、日々の教育活動を通じて、一人一人の児童生徒がその一生を安全、幸福に、かつ有意義に生きることができる基礎を培うことである。また、児童生徒が教員を選ぶことができない中で、その一生を左右しかねない重要な役割を担う職業であり、このような職務の重要性と特殊性に鑑みると、教員免許状は、広い意味で、児童生徒の将来の安全確保に関わる資格として位置づけることができる。

(4)平成14年中教審答申との関係

  • 平成14年の中教審答申は、更新制を実施した場合の効果や問題点を明らかにしつつ、更新制の導入の可能性について検討したものである。これに対して、今回の諮問においては、更新制の意義や位置づけ、具体的な制度設計等を含め、更新制を導入することについての検討が求められている。このような検討の趣旨を考慮すれば、平成14年中教審答申で指摘された課題を解決しつつ、どうすれば更新制が有効に機能するのかという観点から、検討を行うことが適当である(なお、平成14年答申で指摘された問題点については、別紙のような方向で検討することが考えられる)。
  • 平成14年の中教審答申は、将来的な更新制の導入を否定しているものではなく、科学技術や社会の急速な変化等に伴い、再度検討することもあり得ることが示されている。近年の学校教育の変化としては、例えば、以下のような点が挙げられる。
    • 子どもたちの学力について、最新の国際学力調査の結果等から、低位層が増加しているなど、低下傾向が認められるとともに、学習意欲や学習習慣・生活習慣等の面で、引き続き課題があること
    • 学校評議員や学校運営協議会等、保護者や地域住民が学校運営に参画する仕組みが整備されるとともに、学校に自己評価の努力義務が課され、また学校運営の状況に関する情報の提供が課されるなど、学校が説明責任を果たし、保護者や地域社会の信頼を深めていくことが重要となっていること
    • 教職に対する情熱や使命感が低下している教員が少なからずいることや、いわゆる指導力不足教員の増加、一部の教員による不祥事等を背景として、教員の資質能力に対する社会全体の信頼がゆらぎつつあること
    • LD/ADHDなど、子どもに関する新たな課題が明らかになっており、また脳科学と教育との関係や子どもの人間学など、子どもや教育に関する研究が進展していること
  • これらの変化の萌芽は、既に平成14年の答申時も、一部現れていたが、現在、こうした変化が、より明確に、かつ複合的に生じてきており、そのことが学校に対する保護者や国民の信頼を揺るがす主な要因となっている。
    このため、中央教育審議会においては、義務教育における制度や教育内容の在り方、国と地方の関係・役割の在り方、学校・教育委員会の在り方、費用負担の在り方など、義務教育全般に係る検討を行っているところである。これまでの議論では、安心し、信頼して子どもを託すことのできる学校を求める保護者や国民のニーズが高まっており、義務教育の質の向上に国家戦略として取り組む必要があること、その際には「教師に対する揺るぎない信頼を確立する」ことが極めて重要であるという認識が示されている。
  • 以上のような諸状況を考慮すると、今後、信頼される学校づくりを進めていく上で、教員の資質能力を確実に保証することにより、教職に対する尊敬と信頼を確立する必要性は、平成14年答申時に比べて、格段に高まっていると考えられる。

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