中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会高等学校理科専門部会（第4期第2回（第10回））議事録・配付資料［資料2］

　理科の有用性という面から考えると、技術との関連、社会との関連といったことが実感を伴った有用性ということに結びつく道筋ではないか。そういったアプローチも必要ではないか。
　科学技術が世の中の役に立っているとは思えないといった調査結果があるが、理科の勉強は科学技術の基礎を勉強しているんだということを、生徒に意識させることが重要である。
　理科や数学に対してあまりポジティブな感覚を持っていない子どもたちは、こんなことをやっても役に立たないと思っている。これをやると役に立つから勉強するというよりは、役に立たないと思っている気持ちをどこまで修正できるかの方が切実な問題だと思う。
　生活に役に立つという面と、もっとずっと上の将来、つまり職業を持つときに役に立つとか、科学技術社会に生きる力として役に立つとか、役に立つという中身を少し分類して考える必要があると思う。
　生活に役立つなどといったことに限らず、目の前にある事象に対して理解ができたというときに、生徒は本当に意欲を示してくる。目の前にあることを理解できたという、その辺がキーポイントになるのではないか。
　高等学校では、身近なことや既に知っていることが理科を勉強することによって納得できた、理解できたといったところまでいき、その後、いろいろな形で役に立つということにいきつくのではないか。役に立つということにあまり直結的にばかりとられないようにすることが大事である。
　地域の高校生の理科の発表において、物化生地にとらわれない環境教育にかかわる研究テーマがここ数年、増えている。おそらく生徒は社会の役に立つというようなところを意識しているのではないか。その一方で、物理、化学、生物、地学の研究は、ほんとうに自分がおもしろいと思った、教科書で習ったことを発展させた、あるいは、ふと生活をしていて興味を持ったので調べ始めたというのもある。
　「理科が役に立つと思うか」という質問にポジティブに答える生徒を作るためには、基礎を理解する満足感を与え、それが生徒自身の身近な疑問に答えてくれる喜びを与えればよい。それが彼らにとっての「役に立つ」実感になると思う。

2．科目の履修について

　高等学校自体の多様性や生徒の多様性を考えると、すべての生徒にこれを同じように履修させて学ばせるのは、なかなか難しい。高等学校の多様性に合わせた教育課程を履修できるような多様性を準備する必要がある。
　科目の履修方法については、全部について1つのとり方ではなく、選択可能な理科の科目の構成と、どの部分を選択肢にするかが複数考えられれば、高校の現場で対応できる幅が広がり、多様な生徒への対応が可能である。

3．教育内容について

　理科の勉強が、より系統的、体系的な勉強によって論理的な力がつくのではないか。いろいろなものを総合的に教えるよりは、理科の教科の科目については、ある程度の系統性を持たせれば、自分の中で考える体系になって、自信がついていくのではないか。
　学習指導要領の目標等に、例えば持続可能な社会の構築の基礎を学ぶといった記述を入れることを考えてみてはどうか。
　日本には科学技術という言葉があり、科学と技術が関連しているのが日本の特徴である。高校までの教科を見ると、科学と技術は全く分かれており、技術の面は別のカテゴリーに入っている。
　ナノテクノロジーの技術の教育は、日本では一切入ってなく、物理、化学、生物、地学のままで、昔から変わっていない。20世紀後半から21世紀にかけての自然科学の進歩が取り入れられていない印象がある。
　生物は非常に古典的な生物が積み重なってずっと来ている。新しいものも入ってきているが、現場では一体どのようにそれを取り込んで授業を実際やっていけばいいのかを考えている。思い切って古いものを捨てるなど抜本的な改革をすべきである。
　科目によって状況が違うが、新しいところが基本的になっているところは、大胆に変革できるような枠組みをつくることが大切である。
　生徒の多様性に対応した理科の内容が必要であり、それが結局は生徒がしっかりわかって、理科を好きになることにつながる。また、高い内容を必要とする生徒もたくさんいるため、教科・科目の方を生徒に十分対応させていくことが必要である。
　OECDの調査結果では、例えばアメリカの学校で学んだ科学の知識は、学校卒業後も身に付いているが、日本の学校で学んだ科学の知識は、必ずしも社会で生きる教養に結びついていないという結果もある。
　教育の議論においては「不易と流行」の判断が重要である。教育そのものが、伝統ある文化なので、改革を議論する場で話されることは、その場で語られること全てが、教育全体でみれば20パーセントぐらいであることを忘れてはならない。
　応用上役に立つ基礎的な知識を系統立って教え、それを、自信を持って使えるようにすることが大切である。これまで通り基礎を大事にしながら応用力を育てる手立てを考えれば、生徒たちの能力の高水準を維持できると思う。
　大学までを見通した、積み上げ方式の系統的な教育課程が重要である。
　初等中等教育の理科の中身は、ほとんど身近に観察できることに対する科学的理解を目指しているから、身近な実例はたくさんある。しかし、実例から入る構成にすると、知識がバラバラになる。系統的に教えながら、学んだことによって深く納得できる身近な実例を、随所に適切に配置することが重要と考える。

4．指導方法等について

　探究的な学習を重視することは大事であるが、教師の力が非常に大事だと思う。
　生物が学問的に非常に変わっているが、新聞をにぎわすようなトピック的なものを先生方が材料として授業の中に取り上げ、生徒の関心を高めることができるというレベルでいいではないか。
　例えば遺伝子の分野は、実際の世の中と教科書の中身が随分離れてきている気がする。論理の組み立て、中身によって、工夫の余地があるのではないか。
　一番教科書で、改善を要するのは中高、特に高校だと思う。知識量の関係でぎりぎりの知識だけを書いてあるような印象を受けるため、きちんとした科学概念の説明、新しい話、職業との関係、科学を探究するプロセスなどをもっととり入れた方がいい。
　生徒の多様性への対応として、出版社によっては、同じ学習指導要領に対して、標準版と大判の2種類の教科書を出している。これは、これからも生かすべきだと思う。
　子どもたちが最もよく接する教科書に、「明快に書かれている」という書籍本来の性質を、もっと持たせるべきだと思う。
　教科書に一旦書くと決めた事柄は、わかりやすい日本語で、論理的に、初めて学ぶ者に通じるように書くべき。

5．言語力について

　論理性を高校の理科の中で言語と結びつけて強化していくというのはとても大事だと思う。
　言語を使う、コミュニケーションをすることの前提には、自分に自信が持てるかどうかという自己イメージの高さというのが絶対条件になると思う。自分で考えたことよりも、教えてもらったことが正しい、だから教えてというような態度を多くの人がとってきた結果、今の理科に対する意識が非常に低くなっているように思う。
　主体的にものを考える力がないと、誰かが書いたことをただまとめるだけになってしまう。自分で考えていくという基本的な力が大事である。

6．その他

　中学校は今、第1分野、第2分野に分かれているが、それを思いきって変えるならば、第1分野、第2分野の分け方を生物と化学、地学と物理にした方が、内容相互の関連が近いものになるのではないか。
　現在の理科の教科書、特に小学校の理科の教科書が、オープンエンド的でわかりにくくなっていることは問題である。今の小学校の教科書は、専門家が読んで初めて何を言いたいのか推測できるような書き方になっているので、現場の先生もスムーズに理解できるものに是正すべき。先生が教科書を100パーセント分かって教えることは重要である。

高等学校理科専門部会（第4期第1回（第9回））における主な意見（論点ごとに整理）

1．生徒の意識について

2．科目の履修について

3．教育内容について

4．指導方法等について

5．言語力について

6．その他