中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会高等学校地理歴史・公民専門部会（第4期第1回）議事録・配付資料［資料14］

　子どもたちは、日本の国は小さい国だと思っている。ところが、国境は全部海の上にある。それを結ぶと、広大な領土が出てくる。そのほとんどが海なので海洋国家であるという特色が出てくる。そうすると島根県沖の竹島のことなども理解できるが、日本の土地の部分だけを概念していて、そもそも日本という国が理解できるのか。北海道と沖縄の違い。例えば昼が来る時間は随分実はずれているというようなこともある。日本の国土に対する基礎的・基本的な知識というものがいつ学ばれるのか。子供たちの社会的な判断力を育成していくという基本的な方向性はよい。しかし、基本的なことがわかっていないければ、応用もあり得ない。
　4年生の段階から急に世界とのつながりが出てくるところはやや突飛な感じがする。従来から、例えば小学校の3、4年生で、スーパーで売られているバナナはどこからやってきたんだろうといった授業をしている。そうすると、フィリピンからという話になってくるが、隣の県がどこかも知らないまま、フィリピンの位置は知っているというのは、非常にちぐはぐな感じがしてくる。とりわけ小学校段階においては、日本の地方と県の所在地、南は暖かくて、北は寒いくらいのことを基本的に押さえさせる必要がある。社会科における基礎・基本として、例えば地方名、県名、日本で最も高い山、というように用語を明記するなどすれば、指導する側も絞りこめる。
　中学の世界史は、日本の歴史との関連において学習するが、もう少し中学段階、義務教育段階で、例えばイスラム世界のことなど、基本的なことは押さえるべき。
　高等学校は世界史が必履修で、日本史については、実態として4分の1の生徒が履修していない。世界、国際化社会の中で日本人としてのアイデンティティーを身につけさせようとするなら、高校生も日本史を必履修にする必要があるのではないか。日本史は、小・中学校で学習するが、高校生の発達段階に応じた日本史を高校生の時点で学習させるべき。
　社会経済システムの高度化について、ルールや法の大切さはよいが、お金の流れについては、日常生活における貨幣の役割を知ればほぼ十分であって、デリバティブや、いわゆる金融のところまでは必要ない。また、中学校で、民主主義、自他の権利と義務という点について、大人社会においても極めて幅も広く、底も深くて難しい問題を中学校で教えられるのか。中学を卒業したら、社会人として最低限生きていけるということを身につけるのが義務教育の役割であるので、基本的な概念が広すぎはしないか。
　小・中学校社会科の歴史学習は、我が国の国土の学習を中心にして、世界との関係を見ながら日本史の教育が中心に行われている。そういう点では、国際化の進展に伴い、我が国の文化や、世界の歴史についての学習内容を充実させるということの必要性は十分理解できる。
　高等学校において、国際化、グローバル化の中で、日本に住みながら世界的な視野、世界の歴史と地理的な背景について学習する必要があり、そういう意味では、世界史必修については理由がある。世界的な観点から地理を学ばせるか、あるいは日本人としてのアイデンティティーをさらに高めるために日本史を学ばせるかというのは、十分に検討すべき。
　これまで社会科というのはわりと暗記科目と思われてきた。今回、自分で考える力、いろんな事象の関連を説明したり、自分の考えを論述できる、いろんな資料からいろんなことを考えさせるという方向に変わることはよい。しかし、最低限教えるべきことは教えなければならない。
　社会科は、まじめに考えれば考えるほど事項が多くなるので、やはり目標意識をはっきりさせるべき。義務教育では最低ここまではというのと、高等学校はその発展のここまで、あとは生涯学習の中でというぐらいで行うべき。
　社会科で一番大事なのは、国家社会の形成者だと思う。その中には、仕事について社会生活をするということもある、日本人として、日本列島の上に成立している共同体の中で生きていくということもある。戦後60年、地域の学習と世界の学習はやったけど、真ん中の日本列島の上に成立した共同体についての歴史や文化をほとんど教えてこなかったのではないか。戦後の歴史教育を再考すべき。
　高等学校の必履修について、明治の開国以来を教えるとすれば、世界史だとか日本史ということを抜きにした近現代史であると思う。日本史と世界史を通底するような近現代史の教科書ができれば、そういう授業科目があってもいい。
　新制中学の頃の教科書『民主主義』はよい。単なる戦後の民主主義というものを教えるだけでなく、やがてくる資本主義体制のいろいろな問題点や共産主義体制がやがて限界に来るのではないか、ということもきちんとあの時点で書いてある。あの時期にあれだけのものをつくったということを考えると、近現代史は難しいからといって避けるのではなく、検討いただきたい。
　社会科は、どの教科よりもねらいと実際の授業が遊離している教科ではないか。また、法に関する教育はもっとしっかり実施してもいい。代表的に挙げるべき法、学ばせるべき法は何なのかを大事にすべきである。民主主義、自他の権利と義務など基本的な概念に関する学習を充実させることはよいが、表面上、言葉を覚えさせる授業にならないことを危惧する。現代に関する学習の取扱いについては、真剣に検討する必要がある。
　高等学校の必履修については、例えば日本史、世界史をそれぞれ3単位・3単位にして、地理を2単位にした上で、全部必修にする。そうすると8単位だが、現在の必履修の組み合わせでも4単位・4単位で取っているところもある。単位数を減らしながら必修化していく方法も一つの考え方ではないか。
　前回の指導要領の段階で小学校3、4年生をあわせていたのは、それぞれの住んでいる地域の実態が違っていたという、それなりの理屈づけがあった。それを今回改めるのであれば、一体何が問題で3、4年を分けたのか、ということを明らかにしておく必要がある。
　新たな項目を設ける、重視する、充実するなど、どちらかというと内容が増える方向を感じているが、増えれば、何かを削らないとおさまらない。どの校種のどの学年で何を学習するのかというところで整理すべき。中身は入れたけど、何も身につかず社会科離れになることを危惧する。
　歴史の授業に関して、小学校では、5年生、6年生で、縄文、弥生からはじめる必要があるのか。例えば、明治維新ぐらいから始めるとか、あるいは江戸時代ぐらいから始めるといったことはどうか。近い時代から始めて、現在までたどり着いて、歴史は今日の新聞とつながっていて、今日の新聞が何年後かには歴史の教科書に載るかもしれないということがわかるような勉強の仕方ができないか。中学や高校で弥生を習っても遅くないのではないか。
　テレビのニュースを見て、その内容がわかる程度の基礎知識、新聞を読んでわかる程度の基礎知識というのを身につけるべき。最終的には、例えばマニフェストが理解できて、政策の違いが理解できて、投票ができるくらいになってほしい。投票率がどれだけ上がっていくかということが、社会科教育がうまくいくかどうかの指標ではないか。
　日本の中学や高校ではレポートが少ない。たくさんの科目を仮に必修でやっても、結局、定期テストに暗記中心のような問題が出て、それで評価される。特に、社会科はそういう科目だと思われてしまう。このため、確かな知識に基づいてしっかり論述するという方向はよいと思う。さらに、レポートを大事にしていくような方向を出してはどうか。
　高等学校で自前で理科4科目、あるいは地歴、公民と言われている社会科をすべてやろうというのは、現行の6時間で5日制の下では無理である。特に普通科高校においては、次の進路ということを考えると難しい。
　高等学校では地歴、公民と分かれているが、ここでしかできないこととは一体何なのか、精査する必要があるのではないか。また、関心、活用という言葉がたくさんあるが、これらのもとになるのは知識である。特に社会科、地歴、公民科で一体何が知識なのかということを精査すべき。
　社会科、地歴・公民科においては、地域や国、あるい世界について知り、深く慈しむ、よりよくしていこうという姿勢を育てることが大切。このため、社会福祉や防災といった観点も必要ではないか。
　高等学校では、レポートを書かせる、議論をさせるといった授業を進めるべき。大学入試では現状ではなかなか役には立たない。しかし、大学入試でぜひ手間のかかる入試を行い、知識をただ単に問うだけではなく、その知識が活用できるかどうかを問うべき。また、例えば、平和をテーマに議論をすると、歴史観、人生観、社会観、国家観などが問われる。少なくとも教室の中では、こうしたものに対してタブーをなくすということが必要。
　免許法にもかかわるが、高等学校は地歴科と公民科に分けて採用している。公民科は地歴の免許は必要ないし、地歴を教えない。公民の内容だけ知っていればいい。しかし、実際は、政治・経済、倫理を指導するとき、歴史をしっかりと勉強していない学生が本当に指導できるのか、疑問。
　戦後、社会科が本来正しい意味の政治教育をしてこなかったことは問題。改めてねらいについて考えてほしい。
　地理も歴史も繰り返しが多いのではないか。小・中・高と繰り返して出てくるので、聞いている子どものほうは、あまり興味がわかない。全体の構成を考えてほしい。高校の必履修科目については、義務教育の中学校までできちっと日本史のことはすべき。高校で繰り返すことはよくない。世界全体から見て相対化するという視点を高校では持つべき。そういう意味で、全体を大きく変えることでない場合には、今の形でいいのではないか。

教育課程部会（第3期第33回）における主な意見（社会科、地理歴史科、公民科関係）