資料5‐1 (補論)専門職大学院におけるカリキュラムについて(案)

1.全体構造

  • 専門職大学院における教育課程・教育内容は、大きく分けて、全ての学生が共通的に履修する「共通科目(基本科目)部分」と、「学校における実習」部分、各コースや専攻分野により選択される「コース(分野)別選択科目部分」に分けられる。
    全体構造

科目群への科目の配置と履修の在り方

  • 現行の修士課程における専修免許状制度は、修士課程において深い研鑽を積み、特定の分野について得意分野を持った教員の養成を目的としている。
     他方、児童生徒数の減少に伴い学校の小規模化等の中で、学校のみならず地域におけるスクールリーダーとしての役割を担う教員としては、幅広い分野において指導性を発揮することが求められる。また、即戦力としての新人教員についても、学校現場における職務について、広く一通り、自ら学校における課題に取り組む資質・能力を有することが求められる。
  • このため、専門職大学院においては、設定する科目群の全てについて履修することとし、各科目群から具体的にどの科目を履修するか、また各科目群を上回る科目の履修は、学生の選択や各大学院におけるコースの設定に委ねることとする。

科目における「理論と実践の融合」

  • これまで、実践に関する内容が教育実習にのみ負わされており、理論に関する科目と、実践に関する内容が区々になっていた。このため、理論と実践との統合は双方の受講という形で学生にのみ負わされていた。
  • 専門職大学院において、学校現場における実践力・応用力など教職としての高度な専門性を育成するためには、学校教育における理論と実践との融合を強く意識した体系的な教育課程を編成することが特に重要である。
  • このため、「理論と実践の融合」の観点から、それぞれを人・科目が役割分担するのではなく、同じ人・科目が実践と理論を架橋する発想に立つ必要がある。つまり、例えば、共通科目は理論的教育、コース(分野)別選択部分は実務的教育というような二分法的な考えをすべきではない。
  • 具体的には、
    1. 授業観察・分析や現地調査(フィールドワーク)、実務実習など、学校における活動自体に特化した科目を設定するとともに、
    2. 個々の科目内部において、ケーススタディや授業観察・分析、シミュレーション授業、現地調査等を含めたものとする、
      など、理論的教育と実務的教育との架橋を実効的に図る工夫が必要である。
  • 特に上記2について、その教授内容は、理論が単なる理論のための理論ではなく、学校における教員の実践を裏打ちするとともに、様々な事例を構造的・体系的に捉えるためのものとする必要がある。具体的には、
    1. 実践的指導力を備えた教員の養成との観点から、教員に必要な指導力(スキル)を獲得させるものであること、
    2. スキルを説く際、なぜそのスキルを活用するのかについての背景、必要性及び意味について説明できるものであること(意味づけ、説明できるための理論、現状や問題点を俯瞰できるものであること。)、
    3. ケーススタディや授業観察・分析、シミュレーション授業、現地調査等により、教育現場における検証を含むものであること、
       が重要である。

2.学校における実習部分

  • 学部段階における教育実習をさらに充実・発展し、実践的な指導力の強化を図る観点から、「学校における実習」を含めるものとする。
  • 学部段階における教育実習の内容は、ともすれば授業実習に偏りがちであり、この点について、平成9年の教育職員養成審議会第一次答申においても指摘されている。
     特に専門職大学院における実習においては、附属学校や実習協力校等との連携を密にし、学校運営、学級経営、生徒指導をはじめ学校の教育活動全体について総合的に体験し、考察する機会とする必要がある。
  • この「学校における実習」は、学部段階における教育実習を通じて得た学校教育活動に関する基礎的な理解の上に、ある程度長期間にわたり、教科指導や生徒指導、学級運営等の状況を経験することにより、自ら学校における課題に取り組む資質・能力を培うものとする。
  • このため、「学校における実習」の量については、具体的には、例えば10単位程度を下限とする。
     この場合、現職教員の学生については、入学前の教職経験を考慮し、一定の範囲(例えば10単位)内で、教職経験をもって専門職大学院における実習とみなすことができるようにする。

3.共通科目(基本科目)部分

  • 近年の少子化の進展による、1学校、1学年、教科毎の教員数の減少の中で、複数の教員がお互いに指導力を向上させ、教員全体としての指導力の維持・向上を図るためには、学校内のみならず広く地域単位で中核的な役割を担う教員が求められている。
     また、これまでの学級単位における各教科の指導から、グループ指導、少人数指導や習熟度別指導などクラスの枠を超えて多様な学習集団に対応した指導方法の理解が必要となっており、また総合的な学習の時間の実施や選択教科の拡充など、教科の枠を超えた教科指導の理解が必要になっている。このため、従来の教科や学級の枠を超えて、多様な指導形態・指導方法を円滑かつ効果的に実践できる教員が求められている。
  • このような教員に対する社会的要請に対応するため、専門職大学院においては、上記1で述べたとおり、高度な専門性を有する教員の養成、特に現職教員については、学校現場における中核的・指導的な教員に必要な資質・能力を育成するため、当該学生がどのようなコース・選択をとる場合においても履修する基本的要素を共通的に定めておく必要がある。
  • この、制度的に定める、共通的・基本的内容は、大きく区分すると以下のようになる。
    1. 教科等の実践的な指導方法に関する内容
      • (具体的内容例)
        • 教材研究・授業計画
        • 指導方法(授業構成・授業形態の工夫を含む。)
        • 指導と評価 など
    2. 教育課程の編成・実施に関する内容
      • (具体的内容例)
        • 学習指導要領と教育課程の編成実施
        • 個に応じた指導の充実
        • 指導と評価の一体化、教育課程の自己点検・自己評価
        • 総合的な学習の時間の全体計画の内容と取扱い(各教科・道徳・特別活動との関連、学年間や学校段階間の指導との関連への配慮を含む。) など
    3. 生徒指導、教育相談に関する内容
      • (具体的内容例)
        • 児童生徒理解の内容と方法
        • ガイダンスの機能と教育相談の充実
        • 問題行動等に関する事例研究
        • 学校における生徒指導体制、家庭・地域や関係機関との連携 など
    4. 学級経営、学校経営に関する内容
      • (具体的内容例)
        • 学級経営の内容と果たす役割
        • 学級経営と学年経営(学年経営案、学年会、学年行事など)
        • 保護者と連携を図った学級経営
        • 学校組織、公務分掌とその機能
        • 校内研修の意義・形態・方法
        • 開かれた学校づくり(家庭や地域社会との連携、学校間交流の推進、学校運営と学校評議員、情報公開と説明責任) など
        • 学級・学校運営と評価
           (※)上記学校組織論・経営論などの内容の中で「マネジメント」「リーダーシップ」など(教育分野以外も含めた)一般的内容との関係をどのように整理する必要があるか。(項目として別にするのか、それぞれの内容にこれら視点が含まれるべきものか。)
  • また、学校現場における実践力・応用力など教職としての高度な専門性の育成の観点、特に、地域における指導的教員等としては、教員相互、又は地域の保護者や関係機関との人間関係の形成・維持の重要性の観点から、
    1. 対人関係能力の育成に関する内容
      • (具体的内容例)
        • 人間関係論
        • コミュニケーション論(対生徒、保護者、同僚、学校外(関係機関、広く社会))
        • 教職倫理・学校倫理
        • 教職員の徳育
       を含める必要がある。
    • (※)5について、この場合の人間関係や倫理的内容は、社会人(一般)としての内容か、教師として(特有)の内容か。
    • (※)5について、このような内容を教員に義務付ける趣旨から鑑みて、科目として設定することが適切か、又は特に1 3 4の科目の中で内容として含めることとすることが適当か。
    • (※)1~5を通じて、「具体的内容例」の側から記述することが適切か、「具体的科目例」「具体的学問分野(論)」の側から記述することが適切か。
  • これら共通的・基本的内容は、現職教員学生と学部新卒者とが共に履修することが適切な科目、別々に履修することが適切な科目があり得るが、いずれの内容についても履修する必要があることには差異はない。
  • これら共通的・基本的内容について、各専門職大学院に共通する基本的要素として、設置基準上明らかにしておく必要がある。
  • なお、教育課程の基準における小・中学校教員の別について、小・中学校に関する諸制度全般について義務教育に関する改革を一体的に進めていることを踏まえ、また、小学校における教科専門の深化が求められている一方、中学校においても、小学校と同様きめ細かい生徒理解や指導の改善が求められていることを踏まえ、特に小・中学校の差は制度上設けないこととしている。このため、小・中学校に係る特に必要な内容は、各大学院において各科目郡の中に必要な科目を設けることとする。
  • このほか、各専門職大学院の特色や指導目標等により、大学独自の共通・必修科目を設定することはあり得る。
    • (具体的内容例)
      • 特別支援教育に関する内容
  • なお、これら共通科目(基本科目)の履修に当たっては、コース(分野)別選択内容の基礎となる理論の修得とともに、その理論が単なる理論のための理論ではなく、学校における教員の実践を裏打ちするとともに、様々な事例を構造的・体系的に捉えるためのものとする必要がある。(上記1.参照)

4.「コース(分野)別選択部分」

(1)コース(分野)の設定の考え方

  • 各学生は、共通科目(基本科目)を確かな土台とした上で、各コース、学生の専攻分野、研究テーマ等に応じた科目を履修することとなる。
  • コース(分野)設定においては、
    1. 教育現実における今日的課題を設定し、その解決の研究に必要な、学問分野の枠を超えた科目群(例えば「学力定着のための教材開発」における、教科教育法、認知心理学、学習集団論、など)をコース・専攻分野とする場合、
    2. 「教科カリキュラム研究科目群」「教育組織マネジメント研究科目群」「教育臨床研究科目群」など、各学生の関心領域に応じた科目群を、コース・専攻分野とする場合、
    3. 一般教授学、心理学、教科教育法学など、個別学問体系を基礎とする科目群を、コースや専攻分野として構成する場合、
      など、その設定方法は各専門職大学院の特色や得意領域、指導目標等により様々な方法があり得る。
  • 専門職大学院においては、事例に関する知識を、基礎的理論を基に構造的・体系的に捉えることのできる資質・能力を通じて、学校現場の課題に取り組むことのできる力量の育成を図ることが重要であることから、コース(分野)の設定に当たっては、各学生の関心領域に応じた科目とすることや、教育現実における今日的課題を設定し、その解決の研究に必要な、学問分野の枠を超えた科目群とすることが特に有効と考えられる。
     他方、学問体系を基礎とする科目群によるコース・専攻分野設定においても、1.で述べたとおり、その科目群の履修内容が、単なる理論のための理論ではなく、学校における教員の実践を裏打ちするとともに、様々な事例を構造的・体系的に捉えるためのものとすることが重要である。

(2)フィールドワーク的な内容の捉え方

  • 学校現場における実践力・応用力など教職として高度な専門性を備えた教員を育成する観点から、事例に関する知識とそれを構造的・体系的に捉える知見を踏まえつつ、現場の課題に実際に取り組むことのできる力量の育成が必要である。このことから、特にコース(分野)により選択する内容においては、現地調査(フィールドワーク)や実務実習的な内容が含まれることが重要である。
  • この現地調査(フィールドワーク)や実務実習的な内容の実施の仕方としては、
    1. 設定したテーマにおける課題演習・研究に関する科目の中で、必要な授業・講義、事例研究・分析、授業計画案作成等とともに、現地調査(フィールドワーク)や現地活動(例えば研究授業実施など)を含める場合のほか、
    2. 各学生の課題に応じた、学校での実務実習(例えば、教科カリキュラム編成・運営実務、教育組織マネジメント実務の実習など)を課す場合、
      など、その実施内容・方法は、各専門職大学院の特色や得意領域、指導目標等により様々な方法があり得る。
  • いずれの場合においても、その実施に当たっては、大学の指導教員と調査・実習校の指導教員との間で、指導計画、実習指導、事後分析指導等に当たって、密接な連携・協力が必要である。

お問合せ先

高等教育局専門教育課

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