(2)主として設置基準に関連する事項について

1.課程の目的

 専門職大学院の課程の目的は、専門職大学院設置基準上、「高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とする」とされている。ただし、法科大学院については、同設置基準上、「専ら法曹養成のための教育を行うことを目的とする」と特に規定されている。

 教員養成分野の専門職大学院については、上記3(1)のア)イ)の目的・機能を前提とすれば、設置基準上は、例えば「専ら教職の養成又は研修のための教育を行うことを目的とする」などの共通的な目的規定を整理する方向で検討する。
 その上で、各大学の責任において、大学としての特色や得意領域等を考慮し、また、学校関係者等の意向を十分踏まえ、対象とする学生層や養成を目指す教職像など当該課程の具体的な教育目標・方針等を明確に設定することが適当である。

2.標準修業年限

 専門職大学院の標準修業年限は、専門職大学院設置基準において2年とされている。ただし、学生の履修コース等として1年の短期集中コースや長期在学コースの設定が可能であり、また、専攻分野の特性により特に必要があると認められる場合に限り、1年以上2年未満の標準修業年限を設定することができるとされている(ただし、現在まで具体の事例はない)。

 なお、法科大学院については、専門職大学院設置基準において特に3年と規定されているが、法学既修者については、各大学院の判断で1年を超えない範囲で在学したとみなすことができるとする規定も置かれているため、実際には、各法科大学院において、未修者を対象とする3年の履修コースと、既修者を対象とする2年の履修コースが設定されている。

 教員養成分野の専門職大学院については、従来の修士課程における現職教員の再教育や学部新卒者の受入れ実績等を考慮し、標準修業年限としては、一般の専門職大学院と同様2年とする方向で検討する。
 その上で、各大学において、現職教員の履修の便宜に配慮し、短期履修コース(例えば1年コース)の開設や、逆に、長期在学コースの開設を積極的に進めることを期待する。

 また、各大学の判断・工夫により、学部での免許状未取得者を対象に、専門職大学院に在学しつつ、その履修と併行して学部の教職科目を履修できる長期在学コース(例えば3年コース)を設けることも可能とする方向で検討する。

3.修了要件

 専門職大学院の修了要件は、専門職大学院設置基準において、2年以上在学し、当該専門職大学院が定める30単位以上の修得その他の教育課程を修了することとされており、研究指導を受けることや、論文審査の合格は必須とされていない。
 なお、特に法科大学院については、3年以上在学し、93単位以上を修得することとされている。ただし、法学既修者は、各大学院の判断で、在学期間は1年を超えない範囲内で、また、単位数は30単位を超えない範囲内で軽減することが可能とされており、その結果、法学未修者は3年、法学既修者は2年の修了要件が一般化している。

 教員養成の専門職大学院は、研究者養成を目的とせず、教職の養成・研修に特化した実践的な教育を行うという課程の目的にかんがみ、修了要件としては、研究指導等を要しないこととし、一定期間の在学及び必要単位数の修得のみで足りるとするのが適当である。
 その場合、現在設置されている専門職大学院にいては履修単位を40単位から50単位程度としている大学院が多いことなども考慮し、専門職大学院設置基準において45単位程度以上と規定する方向で検討する。

 また、特に実践的な指導力の強化を図る観点から、修了要件として必要な単位数のうち一定の単位(例えば10単位)以上は、学校における実習によることとするとともに、教職としての一定の現職経験のある学生については、入学前の教職経験を考慮し、大学の判断で、一定の範囲(例えば10単位)内で、教職経験をもって専門職大学院における実習とみなすこともできるようにする方向で検討する。

4.入学者選抜

 専門職大学院の入学者選抜については、専門職大学院設置基準上は、一般的な規定を設けていないが、特に法科大学院については、入学者選抜に当たって、1入学者のうち法学部以外の出身者又は実務経験者の割合が3割以上になるよう努めること、2同割合が2割に満たない場合、選抜の実施状況を公表すること、と規定し、これらにより多様な知識又は経験を有する者を入学させるよう努めなければならないとの努力義務規定が定められている。また、このため、入学者の適性を適確かつ客観的に評価するよう特に規定している。
 これは、法科大学院が、新しい法曹養成制度の中核をなすものである点を踏まえ、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、設置基準において特に要件を定めたものである。

 教員養成の専門職大学院については、3で指摘したように、教員免許状を持たないまま大学を卒業し、様々な社会経験等を経た者が、改めて教職を目指す場合の一つの有力な養成機関としての機能も合わせ持つことも期待されるが、他方、引き続き「開放制」の原則の下、学部段階で幅広く教職への道が用意される以上、一般的には、入学者は学部段階で一種免許状を取得している者が基本となり、法科大学院と同様に多様な学生の受入れを法令で義務付けるのは必ずしも適当ではない。
 むしろ、各大学の責任において、専門職学位課程の具体的な教育目標に基づくアドミッション・ポリシー(入学者受入方針)を明確にし、将来の中核的・指導的な教員に相応しい資質能力・適性を適確に判断しうるよう、入学者選抜を工夫することが重要である。
 なお、教員免許状未取得者に教員への道を開くことについては、専門職大学院在学中に各学部で必要単位を修得させることとし、その際の授業料の取扱い等について検討する。((3)4参照)

5.教育課程

 専門職大学院の教育課程については、専門職大学院設置基準上、「教育上の目的を達成するために専攻分野に応じ必要な授業科目を開設し、体系的に教育課程を編成する」と定められている。
ただし、法科大学院については、専門職大学院設置基準に基づく告示において、1.法律基本科目(憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法に関する分野の科目)、2.法律実務基礎科目(法曹としての技能・責任その他の法律実務に関する基礎的な分野の科目)、3.基礎法学・隣接科目(基礎法学に関する分野又は法学と関連を有する分野の科目)、4.発展・先端科目(先端的な法領域に関する科目、法律基本科目以外の実定法に関する多様な分野の科目)の全てにわたって授業科目を開設するとともに、学生の履修がいずれかに過度に偏ることのないよう配慮すると定められている。

 教員養成の専門職大学院が、学校現場における中核的・指導的な教員に必要な資質・能力を育成するためには、学校教育に関する理論と実践との融合を強く意識した体系的な教育課程を編成することが特に重要である。

 このため、各大学で提供される教育プログラムに共通する一定の枠組みとして、体系的に開設すべき授業科目の領域の種類(例えば、1.教科等の実践的な指導方法に関する内容、2.教育課程の編成・実施に関する内容、3.生徒指導、教育相談に関する内容、4.学級経営、学校経営に関する内容)を、専門職大学院設置基準に基づく告示等で明らかにする方向で検討する。
 その場合、各専門職大学院が、その特色や得意領域等を考慮し、また、教育委員会等の意向を十分踏まえた上で、特色ある教育課程を柔軟に編成できるよう、ある程度弾力的・大綱的な基準とすることに留意する必要がある。

 上記各領域の履修について、学校の小規模化の中で、スクールリーダーたる教員は幅広い分野において指導性を発揮することが求められること、また、既存の専修免許状制度が得意分野を伸ばすことを主眼としていることとの差異化が必要なことから、基本的には専門職大学院においては、設定する科目群の全てについて履修することとし、各科目群から具体にどの科目を修得するか、また各科目群を上回る科目の履修は、学生の選択や各大学院におけるコースの設定に委ねることとする。

 なお、教育課程の基準における小・中学校教員の別について、小・中学校に関する諸制度全般について義務教育に関する改革を一体的に進めていることを踏まえ、また、小学校における教科専門の深化が求められている一方、中学校においても、小学校と同様きめ細かい生徒理解や指導の改善が求められていることを踏まえ、特に小・中学校の差は制度上設けないこととする。

6.教育方法

専門職大学院の教育方法については、専門職大学院設置基準上、1.事例研究、現地調査、双方向・多方向の討論、質疑応答等の適切な方法により授業を行うこと、2.学生に対し、授業の方法、内容、年間授業計画、学修評価・修了認定基準をあらかじめ明示すること、3.学生が1年間又は1学期に科目登録できる単位数の上限を定めること、4.授業を行う学生数は、授業の方法、施設設備等諸条件を考慮し、効果が十分にあがる適当な人数とすること、などが定められている。
なお、法科大学院については、1.学生が科目登録できる単位数の上限は、1年に36単位を標準とすること、2.授業を行う学生数を少人数とすることを基本とし、法律基本科目においては50人を標準とすること、が特に定められている。

 教員養成の専門職大学院については、少人数で密度の濃い授業を基本としつつ、理論と実践の融合を強く意識した新しい教育方法を積極的に開発・導入することが必要である。
 具体的には、例えば、ケーススタディ、シミュレーション授業、授業観察・分析、各種のインターンシップ、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)などの教育方法を積極的に開発・導入することが必要である。
 設置基準上は、基本的には、一般の専門職大学院に適用されている基準を適用する方向で検討する。

7.履修形態

 専門職大学院の履修形態は、一般の大学院と同様に、昼夜開講制、夜間大学院、長期休業期間中の集中コース、eラーニングによる遠隔授業、サテライト教室の利用、科目等履修制度など、弾力的な履修形態が可能となっている。

 教員養成の専門職大学院の場合も、特に現職教員が職務に従事しながら履修できるよう、履修形態について特段の配慮・工夫を行うことが望ましく、設置基準上は、一般の大学院、専門職大学院と同様の基準を適用する方向で検討する。

8.教員組織

ア)専任教員

 専門職大学院の教員組織については、専門職大学院設置基準等において、専門分野に関し高度の教育上の指導能力がある専任教員を一定数以上置くこととされ、分野・規模ごとの具体的な数値基準が設けられている。なお、専門職大学院の必要専任教員(設置基準等で示される最低必要数分)は、原則として学士課程・修士課程の必要専任教員数に算入することができない。

 教員養成の専門職大学院の必要専任教員数については、標準的なカリキュラムの検討と平行し、その教育内容・方法等の特色を踏まえ、具体的な規模の在り方を引き続き検討する。その際、制度発足当初において、学部等における教育との関連性や優秀な教員の確保の必要性等の観点から、必要な経過措置についても併せて検討する。

イ)実務家教員

 専門職大学院設置基準では、専門職大学院の必要専任教員のうち3割以上は、専攻分野に関し5年以上の実務経験を有し、高度の実務能力を有する者とされている。
 なお、法科大学院の場合は、課程修了後、司法試験を経てさらに司法修習が予定されており、法科大学院が直ちに法曹として活動するために必要な全ての教育を行うものではないこと等を踏まえ、実務経験者の比率をおおむね2割以上と定めている。また、実務経験者は、法曹としての実務経験を有する者を中心に構成すると特に規定している。

 教員養成の専門職大学院についても、11で指摘したような現行の教員養成システムにおける問題点(「教職経験者による指導が少ない」)の反省に立ち、学校教育に関する理論と実践の融合を図るためには、専任教員のうちの相当割合の者については、教職等としての実務経験を有する実務家教員とすることが特に重要である。
 具体的にはどの程度の割合が適当と考えるか、また、「実務家教員」の範囲をどのように考えるか、引き続き検討する。

ウ)FD(ファカルティ・ディベロップメント)

 専門職大学院の教育水準を確保する上で、直接の教育活動を担う教員の質の確保が重要であり、専門職大学院設置基準では、各専門職大学院は、授業の内容・方法の改善のための組織的な研修・研究を実施する旨定められている。

 教員養成の専門職大学院でも、具体的には、例えば、学生による授業評価、教員相互の授業評価(ピアレビュー)、教員グループによる教材の選定・開発、教育委員会等と協力した研修など、ファカルティ・ディベロップメント(FD)を積極的に開発・導入することが必要であり、専門職大学院設置基準上は、一般の大学院、専門職大学院と同様の基準を適用する方向で検討する。

9.連携学校等

 現在の専門職大学院設置基準には、関連機関との連携に関する特段の規定は置かれていないが、教員養成の専門職大学院の場合、長期にわたる実習や現地調査など学校現場を重視した実践的な教育を進める上で、市中の学校との間で連携協力関係を結ぶこと(連携協力校の指定)が重要である。

 現在、大学設置基準では、教員養成系学部は附属学校の設置が義務付けられているが、教員養成の専門職大学院の場合は、附属学校を設置している場合は、その積極的な活用は当然の前提としつつ、附属学校以外の一般校の中から連携協力校を指定することを義務付ける方向で検討する。

 また、連携協力校以外にも、企業、官庁、教員研修センターなど様々な関係機関と連携することにより、教育内容・方法の改善や指導体制の充実を図ることが望ましい。

10.大学院の形態

 大学院について、すでに大学間の協力による連合大学院制度や、大学以外の専門的試験調査研究機関のスタッフを大学院の基幹的スタッフとして活用する連携大学院制度が導入され、成果を挙げている。
 教員養成に関する専門職大学院についても、このような仕組みを活用することが考えられる。特に、各都道府県・政令指定都市には教育センターが設けられ、学校教育実践に係る実証的な調査研究や教員研修において大きな役割を果たし、専門的スタッフも育成してきていることを踏まえ、これらの専門的スタッフを大学院の基幹的教員として活用することも考えられ、専門職大学院において理論と実践の架橋を目指す教育を実現する上で有効と考えられる。
 その際、設置基準上の実務家教員の取扱いにおいても、このような教育センターの専門スタッフの活用を念頭に置いた運用が考えられる。

11.学位の種類

 専門職大学院の修了者に授与される学位は、学位規則上、「修士(専門職)」とされている。
 ただし、特に法科大学院については、学位の国際的な通用性等も考慮し、アメリカの「J.D」に相当する学位として、「法務博士(専門職)」と定められている。

 また、アメリカの大学のスクール・オブ・エデュケーションでは、教育課程・コースが研究者養成向きのアカデミック・プログラムと高度専門職業人向けのプロフェッショナル・プログラムに分かれ、このうち後者の修了者に対しては、主に教師を対象としたM.Ed(修士レベル)か、学校管理者や行政担当者を対象としたEd.D(博士レベル)が授与されている。

 教員養成の専門職大学院の場合、学位の国際的な通用性等も考慮し、上記「M.Ed」に相当するものとして、例えば「教職修士(専門職)」あるいは「教育修士(専門職)」等の特定の専門職学位を学位規則において定める方向で検討する。

12.評価等

 現在、国公私立の大学は、大学設置基準において、教育研究等の状況について自己点検・評価を行い、その結果を公表することが義務付けられるとともに、7年ごとに大学の教育研究等の総合的状況について、国が認証した評価機関(認証評価機関)による外部評価(認証評価)を受けることが義務付けられている。さらに、専門職大学院の場合は、これらに加えて、5年ごとに分野ごとの認証評価を受けることも義務付けられている。

 教員養成の専門職大学院においても、中核的・指導的な教育の養成・研修の場としての水準の維持・向上を図るため、大学としての自己点検・評価や認証評価が重要であり、一般の専門職大学院に適用されている基準を適用するとともに、専門職大学院制度発足と同時に認証評価が発足・機能するよう、大学関係者、学校関係者、地方教育行政担当者等により構成される専門の認証評価機関を速やかに創設し、その評価等を踏まえた不断の改善を促すシステムを構築するよう関係者の努力を促すとともに、国として支援することとする。

13.名称

 上記の諸要件を備えた教員養成の専門職大学院については、法科大学院と同様に、何らかの特定の共通の名称を称することができるような扱いとする方向で検討する。

お問合せ先

初等中等教育局教職員課