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緊急提言
 「総合施設」を足がかりに次世代育成支援施策の大きな展開を!

保育・子育ての環境づくりを進める会
世話人代表 大日向 雅美
汐見 稔幸
森上 史朗

 平成15年6月、「地域において児童を総合的に育み、児童の視点に立って新しい児童育成のための体制を整備する視点から、地域のニーズに応じ、就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の設置を可能とする」との政府方針が閣議決定され、平成17年度に試行事業、平成18年度から本格実施の予定で、「総合施設」検討が厚生労働、文部科学の両省で進められています。
 私たちは、この総合施設が現在の保育・子育ての危機的な状況をより一層深めるものなのか、それとも大きな展望を開くきっかけとなるのか、強い危惧と期待とを合せ抱いています。
 もとより中心的視点は何よりも「子どもの育ち」にあります。私たちは、この総合施設が、在宅子育て家庭への支援も含めた「次世代育成支援」の展望を開く場となることを願って、以下に緊急提言としてとりまとめました。
 開係各位のご理解と忌憚のないご意見をお願いする次第です。


(総合施設の基本的な意義について)
1. 総合施設のあり方と次世代育成支援、子どもの育ちの保障をどう考えるか。

 近年の社会構造の著しい変化を背景に、深刻な子どもの「危機」、子育ての危機的な状況が起きています。
 子どもが人との関わりの中で育つ体験の欠如は、「キレる子」、少年犯罪の増加のみならず多くの課題を投げかけています。
 同時に子育ての孤立感やストレス、「親としてこれでよいのかという不安感」等、親の「質的な悩み」が、日常化してきており、子どもや親に対して具体的な育ちの保障やエンパワーが求められています。
 「総合施設」は、こうした子育ち・子育ての危機に対して、全ての子どもに良質な保育・幼児教育を保障する視点、仕事と育児の両立を図る視点、全ての子育て家庭を援助し、親としての育ちを助ける視点を共に持ってアプローチする施設とするべきです。また共に育ち合う地域社会の実現を目指す拠点として位置付けるべきです。


(総合施設の意義について)
2. 幼児教育と児童家庭福祉の二つの分野が接点をもつ場として

 総合施設は、従来の幼児教育と児童家庭福祉が等しく子どもたちに対応するための環境整備の一環であり、将来の保育・就学前教育のあり方を見直す契機として位置付けるべきです。国や自治体のコスト削減策としての幼保の「一体化」であるべきではなく、幼児教育と児童家庭福祉の両者が接点をもつ「新たな場」として展開するべきです。


(総合施設の意義について)
3. 新たな子育ての社会化と子育て力再生の拠点として

 新たな総合施設では、広く子育ての社会化の充実への道を市民参加型の動きとも連携を取りながら整備していく必要があります。育児疲れの解消や親育ちの取組み等、在宅子育て家庭への支援の強化に積極的に取り組むことが求められます。
 地域の子育て力を再生する拠点として期待されます。


(総合施設の役割・機能について)
4. 総合施設に求められる三つの機能

 総合施設は、具体的な対象の量については、個々の地域の実情に応じるとしても、以下の三つの機能を統合した施設であるべきです。
1 既存の保育所が開発・蓄積してきた乳児の「養育・保育機能」
2 幼稚園・保育所が開発・蓄積してきた「保育・教育機能」
3 全ての在宅子育て家庭への「子育て支援機能」
 在宅子育て支援として備えるべき機能については、具体的には現行の子育てひろば機能、一時保育機能、ケースマネージメント及びコーディネート機能。その他、オプション機能としてさまざまな地域子育て支援の機能が望まれます。


(総合施設の保育・教育内容について)
5. 幼稚園・保育所が開発し蓄積してきた保育・教育機能の統合

 総合施設の保育・教育内容については、例えば「教育の部分は幼稚園が蓄積してきた幼児教育を、養育・養護の部分は保育所が蓄積してきた保育を」といった考え方がされかねませんが、その点はもっと丁寧に議論し検討する必要があります。
 もともと幼児教育についても、学校教育法が「幼稚園は幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。」と「保育」という言葉を使って規定しているように、学校教育でイメージされる教育をそのまま下ろしてきたものではありません。
 また保育所保育は「養護と教育を一体としてとらえたもの」として開発され蓄積されてきた歴史があり、教育と別のものではありません。
 したがって、総合施設の保育・教育内容は「保育所が開発し蓄積してきた乳児の養育・保育機能と、幼稚園・保育所が開発し蓄積してきた幼児への保育・教育機能を併せもつもの」として組み立てられるべきです。


(総合施設の保育・教育内容について)
6. 多様性に配慮した保育の展開

 総合施設には多様な年齢、就労形態の家庭の子どもたち等、様々な家庭や子どもたちが集まり、保育・教育時間や保育ニーズも多種多様となります。
 例えば午前中中心の子どもと夕方までいる子どもが同じ場にいることになり、午睡する子ども、しないで帰る子ども等子どもの日常行為に差が出てきます。同じ場における異なるいくつかのグループに向けた日常の保育の展開で大事なことは、職員の認識を一致させていく努力です。そうした視点を保育者が共有することに有効な研修活動の確立が同時に求められます。


(入所の仕組み・利用方法、費用について)
7. 幼児教育を受ける権利を保障しつつ、要保護児童をしっかりと受けとめられる制度の仕組みに

 総合施設は現行の保育所制度並びに幼稚園制度を一元化したものとなることが予想されますが、その場合保育に欠ける子どもの入所が保障されないようなものであってはなりません。
 したがって、現行保育所制度と同様に市町村行政による要保育認定と優先度の判定を経た入所も必要です。
 総合施設にかける保育費用は、現行の保育所に保障されている水準、私立幼稚園に保障されている水準を下回るべきではなく、また処遇格差の増大を防ぐ意味から、自由価格制はとるべきではありません。
 しかしながら、地方自治体では幼保の一体的運営へのニーズが高く、保護者負担の格差是正も求められています。こうした総合施設における新たなしくみと現行の保育所や幼稚園のしくみとのバランスも必要となることから、とくに国レベルにおいて、関連する現行制度における費用体系の見直しを行うことも必要です。


(総合施設の運営設備基準について)
8. より高い運営設備基準の構築

 総合施設の具体的な施設の基準や職員等の配置を含めた運営内容に関する基準については、何より親と子どもにとって豊かな時間と空間を過ごせる場となるような基準の設定が求められます。
 子どもと家庭をめぐる状況は、大都市圏、地方中小都市、町村部、過疎地など、地域により大きなちがいがあります。したがって、できる限り地域の実情に応じた合理的・弾力的な施設の設置・運営を可能とする部分は一定程度設けられる必要がありますが、何より、総合施設における新たな基準が、現行の保育所・幼稚園の質を低下させるようなことに繋がってはならず、職員の配置、施設等の最低基準は、原則として保育所、幼稚園の基準の高い方の基準を適用して構築されることが必要です。とくに3歳未満の乳児については、現行保育所の基準を含めより一層質が高められる方向を求める必要があります。
 また職員については、在宅子育て支援のための専門的な担い手として、ソーシャルワーカー等を配置することが保障される必要があります。


(行政体制について)
9. 市町村レベルの所管による総合施政の必要性

 総合施設の設置に当たっては、上記のような基準等の質を確保するために、一定の基準に基づいた所轄庁による認可が必要となりますが、運営に当たっては例えば保育所のように、市町村レベルの所管が基本となるべきです。
 またこの機会に私立幼稚園も含めて、保育・子育てに関わる事務を全て市町村に一本化していくことが望ましいと考えます。


(地域行動計画について)
10. 地域行動計画策定と子育てを応援するしくみの必要性

 従来の様々な「子育て支援」機能に加えて、次世代育成支援施策を有効に機能させるためには、こうした事業が本当に必要としている人の手元まで届くようなしくみづくりが必要です。従来の広報や窓口でのちらし、インターネット等の活用にとどまらず、支援を必要としている親・保護者に情報と支援が確実に届くようにするための地域行動計画を策定することが必要な条件となります。


(運営方法について)
11. 地域の市民による運営委員会の必要性

 新たな総合施設の質を担保する意味からも、情報公開と第三者評価の仕組みは基本です。
 また総合施設の運営に当たっては、例えば地域の市民による運営委員会を設置し、第三者評価に対するチェック機能を持たせる等の新たなしくみが求められます。
 広く次世代育成支援施策と総合施設について、地域市民がその後の事業活性化のために参画しながら、個々の地域の実情に併せたより良い総合施設を構築することが可能となる基盤の確保が必要です。

以上




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