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2004年6月17日

幼保「総合施設」についての見解

全日本自治団体労働組合

 現在、社会保障審議会児童部会で検討されている幼保の「総合施設」について、自治労としての見解を策定し、厚生労働省での検討作業への意見の反映に努めるとともに、関係機関や保育団体との意見交換や連携を深め、地域におけるすべての子どもの豊かな子育ちの権利を保障する保育制度改革の取り組みを進めていくことをめざします。

1. 幼・保の「総合施設」検討にあたっての基本的問題意識
(1) 「基本方針2003」がめざす「幼保一元化」の問題点
 政府は2003年6月28日「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(基本方針2003)を閣議決定し、経済の活性化と財政の確立を最大の目的に「ビジネスチャンスの高い分野」での規制改革・構造改革特区を推進し、「ビジネスチャンスと雇用の拡大」を図ってきました。とりわけその最大の対象として「保育分野」を位置付け、地方分権改革推進会議とも連携し、運営主体の規制緩和や調理室の必置規制の廃止を含めさまざまな設置・運営基準の緩和を行ってきました。
 しかしこうした「規制緩和」の大半は、子どもの権利の拡大や保育内容の充実ではなく、企業活動にとっての参入条件の緩和でした。今回「18年度」本格実施をめざして検討されている「幼保一元化施設(総合施設)」作りも、こうした一連の「規制緩和」の一環として強くその実施が迫られているものであり、検討にあたっては、こうした背景や動機への警戒を持ちながら、誰にとっての「総合施設」なのかを明確にして取り組んでいくことが必要です。

(2) 社会保障審議会児童部会での検討に至る経過
1 「基本方針2003」の決定とその後の経過
政府は、地方分権推進会議や規制改革推進会議の報告を受け、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」の「国庫補助負担金の整理合理化方針」の中で、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設」を「平成18年度までに検討」し、保育所運営費の一般財源化の検討を進め、必要な措置をとる」ことを決めました。
2003年8月、厚生労働省の「次世代育成支援施策のあり方に関する研究会」は、保育施策は「保護者と保育所が直接向き合う」形に改め、「必要性や優先度認定の新制度(要保育認定)」を導入し、自治体は「供給体制の整備や質向上の仕組み」、「機能・役割に応じた公的支援」を行ない、バウチャーは不適当だが「国・地方自治体・企業や国民全体で支える仕組みを検討する」との報告書を出しました。
昨年12月に突然2004年度政府予算編成過程において公立保育所運営費負担金一般財源化が方針化されるとともに、総合規制改革会議第3次答申で、総合施設は「平成16年度中に検討、17年度に試行実施と法整備、18年度本格実施」と、1年前倒しされることになりました。
2 社会保障審議会児童部会での検討
 厚生労働省は、規制改革推進会議第3次答申や「基本方針2003」指摘を踏まえ、2004年1月15日の第14回社会保障審議会児童部会から「総合施設」の検討を開始しました。
 確認された検討事項は、1.総合施設の機能・サービス、2.利用者の範囲・利用方法、3.総合施設の施設・人員・運営の基準、4.費用負担のあり方(財源のあり方、利用者負担あり方)、5.その他(基盤整備のあり方、既存施設との関係等)の5点で、以降4月23日の第18回児童部会まで、関係者のヒヤリングを含め5回の審議が行われました。5月以降は、女部科学省中央教育審議会幼児教育部会との合同審議が開始され、2004年7月中の「中間取りまとめ」に向け合同審議と並行的な審議が行われています。

(3) 現行保育所制度への影響
1 保育一元化との違い
 総合施設は「第三の制度」として検討されており、保育所・幼稚園・総合施設の「三元化」となります。総合施設の中では「幼稚園型」と「保育所型」の子どもが育ち合っても、地域の子どもは、3つの施設に分けられることになります。
 総合規制改革会議や地方分権改革推進会議における「総合施設」の設置運営基準に係わる「双方の低い方の基準に合わせる」との主張は、保育施策に対して「財政削減」や「市場原理の導入」、「規制緩和」を迫るものです。こうした「総合施設」に対する主張は、一方で、「児童の視点に立って」、「地域のニーズに応じ」との視点が掲げられているものの、実際には保育所と幼稚園の「効率的な運営」に主眼におくものであり、私たちが求めてきた、保育の公的責任を基本に、地域の全ての子どもたちが育ち合う「保育一元化」とは大きく異なるものです。
2 保育所制度への影響
 検討課題には、「入所方式・利用料の設定・補助金のあり方・所轄部署・基準や設備」など、保育所と幼稚園の制度的差異が検討課題として掲げられています。
 同じ「保育に欠ける」子どもでありながら、総合施設利用児と保育所利用児の処遇に差ができれば、いずれ「統一する」動きになり、保育所制度に大きな影響を与えるものとして危惧されます。
 総合雄設が「直接入所」になれば、特に、福祉的ニーズを有する子どもや障害児など家庭支援や配慮が必要な子どもが排除されかねません。また「一律の保育料」になれば、経済的に苦しい家庭の子どもは利用できなくなる恐れもあります。
 それだけに、私たちが求めてきた地域における全ての子どもへの保育を保障する「保育所制度をベースにした総合施設」になるよう求める必要があります。

(4) これからの保育所・総合施設に求められるもの
 深刻化する一方の児童虐待の増大、親だけでなく地域社会を含めた社会全体の養育力の低下の中で、社会全体での子どもと家庭への子育て支援機能の強化が喫緊の課題となっています。とりわけ保育所も幼稚園も利用していない0歳から2歳児までの多くの子育て家庭への地域の支援機能は極めて脆弱です。
 また学級崩壊等にみられる、地域の人間関係が希薄化し人と関わる力が育ちきれないという子育ち・子育ての問題への取り組みや、生活スタイルが多様になり、その生活実態から生じる多様な保育ニーズに応える取り組みが求められています。単に3才〜5才の保育のあり方を論じるものではなく、総合的に地域の子育ち・子育て支援を担うことが必要です。
 そのため保育所についても「保育に欠ける」規定を見直し、保育を希望する子どもたちの保育を実施できるようにすべきですし、子育て支援センター事業や一時保育など、地域の子育て支援事業の拡充に積極的に取り組む必要があります。
 いずれにしても、保育所・幼稚園・総合施設が役割を分担し連携して地域ニーズに応えることができるよう、次世代育成支援行動計画の中に位置付けることが求められます。


2. 幼・保の「総合施設」検討にあたっての基本的な課題
(1) 「総合施設」の基本的性格と役割について
 総合施設は、保育(幼児教育)を希望する全ての子どもと、育児のサポートを希望する全ての家庭が利用可能な施設とすべきです。保育所・幼稚園とともに、子育ち・子育て支援を行う「第三の施設」として位置付け、次世代育成支援行動計画の中にも位置付けた整備が必要です。

(2) 「総合施設」の制度的基礎構造
 「総合施設」は、保育所が果たしてきた「福祉的ニーズヘの対応」が確保されることが不可欠であり、基本的な制度は、公的責任で実施される保育所制度をベースに検討されることが必要です。

(3) 「総合施設」の果たすべき機能・役割
 「総合施設」は、養護と教育を一体として展開する「保育」を実施するとともに、それぞれの家庭の生活実態に即した多様な保育サービスを実施することが必要です。また、地域の子育て支援として、育児情報の提供・相談をはじめ、在宅育児を支え多様な保育・とりくみを実施することも必要です。このため、次世代育成支援地域協議会や虐待防止ネットワークなどに加入し、関係機関と共に、子どもの権利を守る取り組みや、子育てにやさしい街づくりに向けた取り組みを展開することが求められています。


3. 総合施設の具体的用件について
(1) 施設利用に関する事項
1 利用の対象・範囲について
 
保育を希望する児童と、子育て支援の各種サービスの利用を希望する全ての親子を対象とすべきです。
地域の人間関係の再生や人と関わる力を育てることが今日の課題であり、0歳から就学までの子どもたちの育ち合いや一貫した保育が必要であり、年齢による利用対象の区分は設けるべきではありません。
特に、就労支援・家庭支援のためにも、送迎の利便性・担当者間の連携を考慮し、0歳から就学までの子ども全てを対象とすべきです。
児童館や放課後児童対策の実施状況によっては、学童期を含めた保育の実施も必要となります。
2 利用方法・利用決定の仕組みについて
 
子どもの保育保障・子育て支援・就労支援の観点から、希望する子どもが利用できる制度にすべきであり、施設設置者の恣意で利用が拒まれないような制度にすべきです。
特に、障害児・被虐待児・ニューカマー(来日・滞日外国人)の子どもや経済的に困窮している家庭など、配慮が必要な子どもを、入所拒否できない制度を作る必要があります。
そのため保育所と同様に、市町村に申し込み、保育所と調整して入所が決定される仕組みが必要です。その上で、施設長には「応諾義務」を課す必要があります。
利用希望者が定員を超える場合は、「保育に欠ける」必要度の高い子どもや、「地域で共に育つ」観点から、近隣の子どもを優先して利用決定することが必要です。

(2) 設置・運営基準について
1 施設の設置・運営に関する所管省庁について
 総合施設は0歳からの保育を実施し、地域の子育て支援を実施するので、従来の実績から厚生労働省が担当するのがふさわしいと考えます。また、乳幼児期の子育て支援や虐待問題への対応など、他の行政施策との連携が必要で、次世代育成支援行動計画の担当が市長部局で担当されているところがほとんどであることから、「総合的」対応は、厚生労働省・市長部局でないと連携がとりにくいと考えます。
2 設置主体の要件について
 子どもの育ちを保障する観点から、継続性・公平性・中立性を確保し、質の高い保育を実施するため、市町村、または、社会福祉法人・学校法人に限定すべきです。
3 施設の設備・運営基準について
質の高い保育を実施するためには、現行の双方の基準を満たすことが必要です。
特に、長時間・長期間の保育を実施するため、体調不良児への対応や、おやつや延長保育の補食への対応が求められ、さらに食育の観点からも、給食室は「必置」すべきです。
給食センターなどからの配食は認められません。
地域の子育て支援を実施するため、子育て支援センター事業・一時保育事業・子育て相談室などへのスペースの確保や利用者への情報提供用事務機器(利用者用パソコン)の整備が求められます。
4 施設職員の「資格」について
3歳以上児の担当は両免許所持が望ましいのですが、保育所勤務者は既に幼稚園教育指導要領に準じた保育を実施しており、幼稚園教員資格がなくても対応できます。
しかし、より質の高い保育を目指すため、希望者に研修の機会を保障し、幼稚園教員資格を追認することが求められます。(保育所だけではなく、障害児施設・養護施設や役所の福祉課勤務の悍育士も同様扱いが必要です。)
3〜5才児童を担当する幼稚園教員には、児童福祉関係の研修を実廃する必要があります。
0〜2才児や地域子育て支援担当者は、保育士資格が必要です。
5 職員配置基準
保育所配置基準を基本とするべきです。
一時保育・支援センター事業・特定保育事業など特別保育にも、最低基準を設定すべきです。
さらに、幼稚園教員に認められている研修権保障や教材準備のための研修保障要員、家庭支援担当者(ソーシャルワーク担当者)や看護師(保健師)の配置基準を設定します。

(3) 費用負担のあり方
1 国と地方の負担など財源のあわ方
厚生労働省・文部科学省予算に加えて、次世代育成支援のための予算を確保する必要があります。
最低基準を維持するため国庫補助負担金とし、保育所や幼稚園に対する補助と同様の補助を実施する必要があります。
2 利用者の負担
保育料は自由設定とせず、自治体で決定すべきです。
次世代育成支援の観点から、保育料負担が高額にならないよう公費負担を基本にし、所得に応じた保育料負担とすべきです。利用時間が保育所と同様の場合は、保育所保育料と同額とすることが必要です。
地域子育て支援の各種事業についても、市町村が実施する制度として、保育所で実施する事業の利用料と統一して設定する必要があります。

(4) その他
1 基盤整備のあり方について
次世代育成支援行動計画の中で、幼稚園や保育所とあわせて適正配置されるよう計画すべきです。
そのため、設置については、市町村の承認・合意が必要とし、設備・建設補助は保育所・幼稚園建設に準じて行う必要があります。

2 既存の幼稚園や保育制度の見直し、改善について
保育所保育に対する誤解や保育所に対する差別感を生じさせないために、保育所保育に「就学前教育」の位置付けを行う必要があります。
保育所の「保育に欠ける」の規定の解釈を広げ、育児支援が必要な家庭、虐待リスクの高い家庭、乳幼児検診でフォローが必要な子ども、障害児、ニューカマーの子どもなどに入所勧奨する制度を作り、利用対象児童の拡大を促進する必要があります。
また、少子化や都市化のため子どもの遊ぶ環境が不十分な地域で育つ子どもにも、希望があれば入所を認める制度に変更することが必要です。
幼稚園における預かり保育においても、子どもの健康面の配慮から、午睡・間食供与など、保育所に準じて、生活や養護内容の充実を求めます。そのため、給食設備設置補助を行う必要があります。



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