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「基本方針2003」がめざす「幼保一元化」の問題点 |
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政府は2003年6月28日「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(基本方針2003)を閣議決定し、経済の活性化と財政の確立を最大の目的に「ビジネスチャンスの高い分野」での規制改革・構造改革特区を推進し、「ビジネスチャンスと雇用の拡大」を図ってきました。とりわけその最大の対象として「保育分野」を位置付け、地方分権改革推進会議とも連携し、運営主体の規制緩和や調理室の必置規制の廃止を含めさまざまな設置・運営基準の緩和を行ってきました。
しかしこうした「規制緩和」の大半は、子どもの権利の拡大や保育内容の充実ではなく、企業活動にとっての参入条件の緩和でした。今回「18年度」本格実施をめざして検討されている「幼保一元化施設(総合施設)」作りも、こうした一連の「規制緩和」の一環として強くその実施が迫られているものであり、検討にあたっては、こうした背景や動機への警戒を持ちながら、誰にとっての「総合施設」なのかを明確にして取り組んでいくことが必要です。
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社会保障審議会児童部会での検討に至る経過 |
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「基本方針2003」の決定とその後の経過 |
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政府は、地方分権推進会議や規制改革推進会議の報告を受け、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」の「国庫補助負担金の整理合理化方針」の中で、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設」を「平成18年度までに検討」し、保育所運営費の一般財源化の検討を進め、必要な措置をとる」ことを決めました。 |
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2003年8月、厚生労働省の「次世代育成支援施策のあり方に関する研究会」は、保育施策は「保護者と保育所が直接向き合う」形に改め、「必要性や優先度認定の新制度(要保育認定)」を導入し、自治体は「供給体制の整備や質向上の仕組み」、「機能・役割に応じた公的支援」を行ない、バウチャーは不適当だが「国・地方自治体・企業や国民全体で支える仕組みを検討する」との報告書を出しました。 |
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昨年12月に突然2004年度政府予算編成過程において公立保育所運営費負担金一般財源化が方針化されるとともに、総合規制改革会議第3次答申で、総合施設は「平成16年度中に検討、17年度に試行実施と法整備、18年度本格実施」と、1年前倒しされることになりました。 |
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社会保障審議会児童部会での検討 |
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厚生労働省は、規制改革推進会議第3次答申や「基本方針2003」指摘を踏まえ、2004年1月15日の第14回社会保障審議会児童部会から「総合施設」の検討を開始しました。
確認された検討事項は、 .総合施設の機能・サービス、 .利用者の範囲・利用方法、 .総合施設の施設・人員・運営の基準、 .費用負担のあり方(財源のあり方、利用者負担あり方)、 .その他(基盤整備のあり方、既存施設との関係等)の5点で、以降4月23日の第18回児童部会まで、関係者のヒヤリングを含め5回の審議が行われました。5月以降は、女部科学省中央教育審議会幼児教育部会との合同審議が開始され、2004年7月中の「中間取りまとめ」に向け合同審議と並行的な審議が行われています。 |
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現行保育所制度への影響 |
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保育一元化との違い |
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総合施設は「第三の制度」として検討されており、保育所・幼稚園・総合施設の「三元化」となります。総合施設の中では「幼稚園型」と「保育所型」の子どもが育ち合っても、地域の子どもは、3つの施設に分けられることになります。
総合規制改革会議や地方分権改革推進会議における「総合施設」の設置運営基準に係わる「双方の低い方の基準に合わせる」との主張は、保育施策に対して「財政削減」や「市場原理の導入」、「規制緩和」を迫るものです。こうした「総合施設」に対する主張は、一方で、「児童の視点に立って」、「地域のニーズに応じ」との視点が掲げられているものの、実際には保育所と幼稚園の「効率的な運営」に主眼におくものであり、私たちが求めてきた、保育の公的責任を基本に、地域の全ての子どもたちが育ち合う「保育一元化」とは大きく異なるものです。 |
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保育所制度への影響 |
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検討課題には、「入所方式・利用料の設定・補助金のあり方・所轄部署・基準や設備」など、保育所と幼稚園の制度的差異が検討課題として掲げられています。
同じ「保育に欠ける」子どもでありながら、総合施設利用児と保育所利用児の処遇に差ができれば、いずれ「統一する」動きになり、保育所制度に大きな影響を与えるものとして危惧されます。
総合雄設が「直接入所」になれば、特に、福祉的ニーズを有する子どもや障害児など家庭支援や配慮が必要な子どもが排除されかねません。また「一律の保育料」になれば、経済的に苦しい家庭の子どもは利用できなくなる恐れもあります。
それだけに、私たちが求めてきた地域における全ての子どもへの保育を保障する「保育所制度をベースにした総合施設」になるよう求める必要があります。 |
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これからの保育所・総合施設に求められるもの |
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深刻化する一方の児童虐待の増大、親だけでなく地域社会を含めた社会全体の養育力の低下の中で、社会全体での子どもと家庭への子育て支援機能の強化が喫緊の課題となっています。とりわけ保育所も幼稚園も利用していない0歳から2歳児までの多くの子育て家庭への地域の支援機能は極めて脆弱です。
また学級崩壊等にみられる、地域の人間関係が希薄化し人と関わる力が育ちきれないという子育ち・子育ての問題への取り組みや、生活スタイルが多様になり、その生活実態から生じる多様な保育ニーズに応える取り組みが求められています。単に3才〜5才の保育のあり方を論じるものではなく、総合的に地域の子育ち・子育て支援を担うことが必要です。
そのため保育所についても「保育に欠ける」規定を見直し、保育を希望する子どもたちの保育を実施できるようにすべきですし、子育て支援センター事業や一時保育など、地域の子育て支援事業の拡充に積極的に取り組む必要があります。
いずれにしても、保育所・幼稚園・総合施設が役割を分担し連携して地域ニーズに応えることができるよう、次世代育成支援行動計画の中に位置付けることが求められます。 |