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保育総合施設に関する意見書

平成16年6月9日
(社)全国私立保育園連盟

 総合施設問題に臨む基本的な考え方

 総合施設の創設は、昨年6月、幼保一元化問題と一般財源化問題の中から急浮上したものであることから、保育所現場では不安・懸念の声が強い。現在の政治の流れの中では、新しい「総合施設」が現行の保育所の基準を下回る託児施設となり、保育の質を下げ保育制度を大きく崩す危険性も大きい。そうならぬことを強く願い、この問題を通して現状よりもより良い方向に向かうことができるように積極的に考えていきたい。

 この問題を考えるとき必要なことは、子どもと子育てをめぐる現状を原点のところから見つめ、そこから出発することである。
 家庭・地域の子育て力の著しい低下から、我が国の子どもの育ちは、かなり危機的な状況に置かれている。少子化が大きな問題となっているが、子どもの育ちの質が実はもっと心配な状況である。
 一方、保育施設も、質の低下の危機にさらされている。保育所はこれまで「児童家庭福祉」の考え方の下で「養護と教育が一体となったもの」として保育の質を高めてきたが、近年「親の就労保障のための託児施設」としての社会的要請に効率的に応えようとする規制改革の流れによって著しく荒らされようとしている。
 また、幼稚園は「幼児教育施設」としての評価を得て来たが、とくに私立幼稚園の場合、厳しい市場競争にさらされ、「託児施設」としての機能を合わせ持ち始めている。
 「児童家庭福祉」の視点を欠いたままでの「託児施設」への傾斜は危険である。
 
 こうした危機的な状況から道を拓くためには、福祉と教育という、これまで分立して来た二つの分野が、近い将来の統合も視野に入れて共に「次世代育成支援」に当たるという考え方を思いきって打ち出すべき時に来ているのではないか。「保育総合施設」を、この考え方に沿った試みの一歩として位置づけてはどうか。
 もう一点、これまで社会的な支援が立ち遅れていた、家庭で育てられている0〜2歳児とその家庭への支援の強化が緊急に必要である。この分野では、この年齢の子どもの保育について蓄積のある保育所が力を発揮することが求められているが、とくに、新たに創設される「保育総合施設」は、こうした機能も併せ持つ施設となる必要がある。


 「保育総合施設」の具体的な在り方

 上記に述べた基本的な考え方が重要であり、具体的な問題は比較的柔軟に考える必要があるが、具体的な在り方について、私たちの考えを以下に示してみたい。

(「新しい第3の施設」として求められる三つの機能)
1.既存の保育所、幼稚園と並立する新しい第3の施設として創設し、下記の三つの機能をあわせ持つ総合施設とする
1  既存の保育所がもっている「保育に欠ける子」を対象とする保育の機能
2  既存の幼稚園がもっている全ての幼児に開かれた幼児教育の機能
3  全ての在宅子育て家庭(とくに0〜2歳児)への子育て支援機能

(現行の保育所、幼稚園の基準の高い方の基準を適用)
2.保育総合施設を、質の高い施設とするために、職員の配置、施設等の最低基準は、原則として、現行の保育所、幼稚園の基準の高い方の基準を適用すべきである。調理室必置の基準は、保育総合施設においても保持すべきである。保育者の資格については、全ての保育者が保幼両資格を持つことは要求されないが、3歳未満児の保育に当たる保育者は保育士の資格を持つ必要がある。

(地域に密着した小規模な施設が可能なように)
3.「総合施設」というと、とかく大規模な施設を想定しがちであるが、本来、子どもの施設にとって規模が大きいことは必ずしも好ましいことでなく、地域の育児力を高める機能を果たすためにも、むしろ地域に密着した小規模な施設を想定すべきである。過疎地域等子どもの少ない地域においても小規模な保育総合施設が成り立つような配慮をする必要がある。

(要保育認定による入所と自由な入所決定による入所の共存)
4.「保育に欠ける子」を対象とする保育の機能と全ての幼児に開かれた幼児教育の機能を一定の定員内で共存させるためには、定員内の一定部分については保育所と同様に市町村行政による要保育認定と優先度の判定を経た入所が必要であり、同時に、定員内のある部分については施設による自由な入所決定を可能とする必要がある。

(保育費用は国が決める最低の基準に基づいて市町村で決定する)
5.保育総合施設にかける保育費用は、現行の保育所に保障されている水準、私立幼稚園に保障されている水準を下回るべきではなく、国が決める最低の基準に基づいて市町村で決定する。
保育費用の一部となる保護者負担についても同じであり、自由価格制はとるべきではない。

(在宅子育て支援として備えるべき必須機能)
6.保育総合施設が「在宅子育て支援」として備えるべき必須機能は、ひろば機能、−時保育機能、ケースマネージメント及びコーディネート機能。その他、オプション機能として様々な地域子育て支援の機能が望まれる。

(ソーシャルワーカーを配置するための基本的費用の必要)
7.「在宅子育て支援」のための費用は、基本的な費用として公費から支払われるものと、個々の事業に応じて公費から補助されるもの及び利用者が負担するものとがある。基本的な費用の中には、ソーシャルワーカーを配置する費用が含まれる必要がある。

(設置主体は市町村、社会福祉法人、学校法人の三者に限定するべき)
8.新たに創設される保育総合施設の質の高さを確保するため、保育総合施設の設置主体は、当面、市町村、社会福祉法人、学校法人の三者に限定するべきである。

(「保育に欠ける」規定の在り方について)
9.「保育に欠ける」の規定は、福祉機能を維持するため、保育所においても新しい、保育総合施設においても引き続き維持する必要がある。ただ、家庭に保護者がいても、例えば障害をもつ子ども、ひとり親家庭の子ども、育児能力に欠ける家庭の子ども等も含めるなど、その範囲を広げる必要がある。

(保育総合施設と保育所、幼稚園の条件等のバランスを保つ必要性)
10.三者の並立が長く継続したものになるかどうかはともかくとして、当面、三者が並立することが前提であるから、利用者に不公平感が生じないよう、保育総合施設と保育所、幼稚園とが、その条件等においてバランスを保つ必要がある。

(地域の状況に対応できる柔軟な制度の必要性)
11.子どもと家庭をめぐる状況は、地域により大きなちがいがある。新しい保育総合施設の制度は、様々な地域の状況に対応できるような柔軟な制度設計でなければならない。

(既存施設との共存の必要性)
12.「福祉と教育という二つの分野が、近い将来の統合も視野に入れて共に次世代育成支援に当たる」という考え方に沿った試みの一歩としての保育総合施設を提案したが、保育所にせよ幼稚園にせよ、その在り方は地域や個々の施設の歴史により様々であるから、既存の施設が新しい保育総合施設に無理に吸収されたり淘汰されたりするようなことがあってはならない。



 引き続き検討すべき課題

(教育、養護、保育、幼児教育等の概念の整理見直しについて)
13.総合施設の創設で懸念されることの一つは、「幼児教育」の機能をもつ施設は新しく創設される総合施設と幼稚園のみで、保育所にはそれはないといった誤った見方がなされることである。
 保育所における保育は「養護と教育が一体となって豊かな人間性を持った子どもを育成する」営みであり、教育機能をその中に含んでいる。むしろ私たちは、学齢期以上の子どもの教育と乳幼児の教育の大きなちがいは、それが養護と一体のものとしてなされなければならない点にあると考えている。例えば食育の機能は重要である。
 「幼稚園は教育施設、保育所は福祉施設」といった線引きがなされてきた不幸な長い歴史によって、教育、養護、保育、幼児教育といった概念が混乱したまま来ており、その整理見直しは容易でないが、新設される保育総合施設は、この混乱をそのまま引きずるのではなく、福祉と教育という二つの分野が接点をもつことによって、この混乱した状況を実践的に整理し見直していく場としてとらえる必要がある。

(保育費用の一元化への検討について)
14.保育総合施設という以上、そこに支払われる保育費用が「保育所機能は保育所体系から、幼児教育機能は幼稚園体系から」ということはありえず一元化されたものとなるだろう。従って、その具体的な仕組み、公費としての性格、財源などについての検討が不可欠である。その場合に、既存の保育所、幼稚園との均衡を図る上からも、保育所についても既存の体系について変更が必要となるかもしれない。そのことも含めた検討が必要である。
  なお、これは一般財源化を前提とした補助金統合化を意味するものではない。

(次世代育成支援への社会的資金投入拡大について)
15.新しい保育総合施設及びそれを含めた新しい児童家庭福祉と幼児教育の体系が、これまでの水準を下回るものであってはならないのは無論のこと、「保育に欠ける」の範組の拡大、全ての幼児への教育権の保障、在宅子育て家庭への社会的支援の拡大などの考え方を含む以上、財源の拡大は不可欠の要件である。
 その具体的な方法については私たちの考え得る範囲を越えるが、こうした構想が大きく実を結ぶためには、現在欧州諸国と比べてあまりにも少ない次世代育成支援への社会的資金投入を大きく拡大していく必要がある。





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