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2004年6月15日

「総合施設」についての意見

全日本教職員組合


 経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003に基づく「就学前の教育・保育を一体として据えた一貫した総合施設」についての、現時点でのわたしたちの意見を述べます。
 尚、具体的な内容についての論議が進んだ後、改めて関係者の意見を聴取されることを要望します。

1、 国の公的責任を明確にした論議を求めます
 わたしたちは、中教審幼児教育部会の「議論の整理」の冒頭にある「乳幼児期は、人間の一生において、きわめて大切な時期である。この時期のすべての子どもに、その発達段階にふさわしい生活や経験を通して人間形成の基礎を養い育てることは、われわれ大人の務めである」という記述は、これから述べる意見と共有できる認識であると考えます。
 こうした認識は、同文書でも取り上げられている「児童の権利に関する条約」にも合致します。「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、・・・児童の最善の利益が主として(第一義的に)考慮されるものとする。」という国際条約のこの条文は、乳幼児の問題を論議する土台にも据えられるべきものです。そうした立場から、この「総合施設」が、「経済財政運営と構造改革」の具体化として出されたことについて、その出発点において「子どもの最善の利益」の観点から乳幼児期の施設のあり方を考える立場と矛盾していることを指摘しないわけにはいきません。
 幼稚園のもとになる教育基本法と学校教育法、保育所のもとになる児童福祉法は、それぞれ教育と保育における国の公的責任を明記しています。この間、問題となっている「幼保一元化」は、子どもの教育を受ける権利を等しく保障するという教育の機会均等から離れて、それぞれの規制の低い方に水準を合わせ、国の財政責任を後退させ、さらに民間企業に新たな市場(利潤追求の場)を提供する保育・教育の切り捨ての方向で進められてきたことに、強い反対の声が広がっています。こうした中で、新たに出された「総合施設」が、施設設備をはじめとした設置基準等においてもこれと同じ方向性を持てば、保護者・国民の願いと反することになります。
 私たちは、乳幼児期の施設の在り方について、国の公的責任を明確にした議論が必要だと考えます。


2、 乳幼児期の発達保障と、切実に求められている諸課題の解決について
 わたしたちは、専門職として公立・私立の幼稚園で日々子どもたち・保護者の方々と接する中で、次の課題を行政の力で解決することが切実に求められていると考えます。

1  職員配置・施設設備の改善は、緊急の課題
 これまでの経験では理解しづらいほどの様々な「育ちそびれ」を抱えた子どもたちが増大しています。その背景に、長引く不況の中でリストラや経済的困難など社会の様々なゆがみが若い世代の家庭を直撃し、安心して子育てをする土台が崩される状況の広がりがあります。したがって、今まで以上に一人ひとりの子どもとゆとりを持って接したり保護者の子育ての悩みの相談に応えられる職員配置・施設設備の改善は、緊急の課題です。

2  保護者の願いに応えた幼報国・保育園の充実を
 多くの保護者は、時代が変わっても「わが子が健やかに育ってほしい」「子育てに夢を持ちたい」と願っています。ところが現実には多くの悩みや不安を抱えています。わたしたちは今年9000名を越える乳幼児の保護者(幼保の枠を越えて)アンケートを実施し分析中です。別紙資料をご覧いただきたいと思います。「子育てや環境について不安に思うこと」の問いへの回答で、1位は「忙しくて子どもと関わる時間が減った」、2位「子どもが病気でも休めない」、3位「急な用事に子どもを預かってもらえるところがない」、4位「子どもといてイライラしてしまう」となっています。自由記述欄には「心配で子どもだけで外遊びに出せない」などの声も目立ちます。今、安心して子どもを産み育てる条件整備は緊急の課題です。こうした保護者の願いに応える方策は、幼稚園・保育園の壁を取り払うことではなく、それぞれを充実させることだと思います。

3  解決すべき具体的な課題と、「総合施設」の議論とのかかわり
○対象児と形態について
 保育所待機児童が増大する中で、保育所の増設でこれに応えるのではなく、幼稚園の場において必要な条件整備のない安易な「延長保育」「預かり保育」「2歳児入園」の政策が各地で行われています。その結果、「園庭の使い方をはじめ遊びの制限をせざるを得ない」など子どもの発達上の困難が増大しています。こうした問題が「総合施設」の中に制度として持ち込まれれば、課題解決に逆行することになります。少子化の今こそ、幼稚園・保育園の充実のチャンスであり、安心して子育てができる条件整備になると考えます。また、議論の中で出されている直接入所制度は、保護者負担や障害児の入所の障害になるという面でも大きな問題があると考えます。
○教育・保育の内容について
 わが国の幼稚園・保育所は、豊かな実践の成果を歴史的に蓄積してきています。その成果をふまえながら、幼・保・小の保育・教育関係者や自治体の関係者、保護者の連携を強めることで教育・保育内容の一層の充実がはかられます。そして、子どもの教育を受ける権利を等しく保障するために、どのようなカリキュラムが必要かは、現場の実践の中から子どもの発達課題に即してつくられるべきものです。
 そうした現場の取り組みを援助するために行政に求められていることは、次の項で述べる条件整備です。子どもの発達課題を何よりも大切にして、「幼児教育の機会の拡大」のモデル事業として「総合施設」という枠組みづくりの論議が先行しないようにすることが大切だと考えます。
○施設設備・職員配置について
 今日、全国の42道府県が義務教育段階において少人数学級に踏み出しています。小学校で30人学級が導入されつつある中で幼稚園の定数が35人、保育所の4・5歳児が30人という現状は、国の責任で早急に改善すべきです。「総合施設」の検討過程においてこうした定数の問題は具体的に出されず、「地域の実情に応じて」「最低限必要とされる基準」などの意見が出されていることに危惧を感じます。
 社会保障審議会児童部会の意見の中で、「総合施設における基準は幼稚園、保育所のいずれか緩い方に合わせるべきという総合規制改革会議の考えでは、労働条件が悪くなり、職員が定着しない。子どもの最善の利益を考えれば、職員に安定した労働条件を確保することが必要」とあります。実際、この意見が心配しているように保育所の設置基準にある調理室が、総合規制改革会議の経済効率第一の考えで「緩い方」にあわせてなくされる方向に論議がすすめば、保護者の願いに逆行するものになります。先にあげた保護者アンケートでも、下記のように保護者のみなさんが食材の種類や質、添加物などに気をつけ、手作りで安全な食事に高い関心を持っていることがわかります。
問. お子さんの食事で気をつけていることを2つ選んで下さい。(13項目より)
答. 1位 食材の種類や質4598人 2位 手作り2709人 3位 好き嫌い2459人 4位 食事中はテレビを消す1936人 5位 添加物1475人

○公的責任について、保護者・現場の声をふまえた講義を
 今まで述べてきたように、教育基本法と学校教育法、児童福祉法に明記された教育と保育における国の公的責任を果たすことが乳幼児の発達保障にとって必要です。この間の議論の中で「費用負担の在り方については、・・・不均衡な状況の是正・・・検討を行う・・」という意見も出されています。しかし、低い方に水準を合わせたり、「不均衡是正」の名で、財政負担を国から地方へ、また保護者へと転嫁し、後退することがあってはなりません。
 保育所運営費の一般財源化、規制緩和による公立保育所の民間委託、民営化の促進などの政策の流れの中で、平成18年度実施をめざす「総合施設」の議論が行われています。幼稚園、保育所に次いで第3の施設として「総合施設」が平成18年度制度施行が検討されています。それが現行より低い水準としてスタートすれば、それは財政削減のモデルにはなっても子どもの幸せを頼って保育・教育に携わってきた人々、保護者から歓迎されません。
 今年1月、国連子どもの権利委員会は、日本政府に2回目の勧告を出しました。そこでは、「子どもの最善の利益」のために、諸政策を子どもや市民社会とともに継続的に見直すこと、また子どもに影響を与える事柄に子どもの意見の尊重と参加を強く求めました。乳幼児は、自ら言葉によって施策に意見表明は出来ません。だからこそ、子どもの一番身近にいる保護者・そして日々子どもに接している現場の教職員の意見を尊重し、その声を受け止める方策が不可欠と考えます。




《参考資料》 子育て・幼保一元化を考えるアンケート 2004年

年齢 人数
6歳 1697
5歳 2316
4歳 1982
3歳 1450
2歳 1149
1歳 836
0歳 181
NA 36
9647
回答者のお子さんの年齢
《アンケートのお願い文より》
 この全国アンケート活用して、保護者のみなさんとごいっしょに次のようなとりくみをすすめたいと思っています。
 みなさんの「子育て」の実情、悩み、不安、願いを集め、国や自治体、保育園、幼稚園などの関係者に届け、話し合いをすすめます。
 「幼保一元化」や「多様な子育て支援」など今後の育児・保育政策の検討に対して、「子育て中の親・保護者の声」として反映させたいと思います。また、「子育てについてのシンポジウム」(仮称)等を開催し、世論やマスコミへのアピールにも活用させていただきます。


10 子育てや子育て環境について、不安に思うことがあったら、3つまで選んで下さい。

      人数  
           
  どう子どもと接したらよいか分からない 412   2.8%
  子どもといてイライラしてしまう 1,672   11.5%
  家族で子育てについて意見が違う 842   5.8%
  身近に子育て相談できる人がいない 260   1.8%
  親同士の付き合い方が分からない 722   5.0%
  子供のことを考える余裕がない 306   2.1%
  忙しくて子どもと関わる時間が減った 2,913   20.0%
  賃金やリストラなど働く条件の変化が生活や子育てに影響を与えている 1,047 7.2%
  土曜・日曜の出勤が増え子どもと過ごす時間が減っている 1,427   9.8%
  子どもが病気でも休みにくい 2,179   15.0%
  急な用事に子どもを預かってもらえるところがない 1,924   13.2%
  その他 846   5.8%
 
14,550




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