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平成16年6月22日

「総合施設」についての考え方

全国国公立幼稚園長会


 幼稚園と保育所のあり方等に関しては、これまでも、役割、意義などを統一し、一元化すべきとの度々にわたる論議がなされた歴史的な経緯があります。
 本会では『総合施設』を、このような経緯があったところへ、平成15年6月のいわゆる骨太の方針「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」により、「―就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設の設置を可能とする―」として関議決定されたことを受け、大きな論議を呼んでいるものと、捉えています。
 一方、女性の社会進出、家庭や地域の子育て環境の変化、教育への多様な期待等により、地域によっては、既存の幼児教育施設(幼稚園・保育所)では、制度的にも、社会の実情やニーズにも対応しにくい状況が出現してきています。このような社会の変化も、就学前の子どもたちの教育・保育を再考する背景として挙げられます。あわせて、現在、地方自治体の統廃合が各地ですすめられており、少子化の進行とあいまって、総合施設の設置と共に、幼稚園、保育所の適正な配置を見直す必要性が生じていることも考慮すべき事項であると考えます。
 また、国を挙げて教育改革をすすめる中で、義務教育に接続するものとして、就学前教育、特に、5歳児と小学校1年生との教育の接続を周り、系統的に教育をすすめる必要が生じてきています。また、子どもたちの実態に目を向けると、近年、運動能力の低下、基本的生活習慣の乱れ等、育ちに著しい変化が見られます。このことから、家庭や地域の教育力との関連も考慮され、地域全体で乳幼児の教育・保育を一体的に見ていく必要が生じていることも、総合施設についての議論の背景となっていると捉えています。
 本会では、以上を踏まえ、幾つかの項目にわたり、現時点での総合施設に関する考えを、以下の通り述べることとします。


必要性・意義
   ・ 現状では幼稚園の設置は地方によっては偏在している状況が見られる。小学校就学前の希望するすべての幼児に、幼稚園教育を受ける機会を保障する必要がある。
 ・ 小学校就学前の全ての子どもたちに良質な教育を保障する観点からの、就学前教育・保育の再構築が必要とされる。
 ・ ライフスタイルの変化とともに人々の価値観、とりわけ、教育・保育に関する価値観が多様化している。多様なニーズに対応し、就学前教育に関する選択肢の拡大を図ることには意義がある。
 ・ これまで重要とされながら幼児教育に関する真剣な討議や施策は先送りにされてきた感がある。「総合施設」の検討を機に、○次代を担う人材の育成 と ○乳幼児それぞれの発達を踏まえその時期にふさわしい教育・保育の環境整備 の視点から国民的議論を起こすことは大いに意義がある。
 
性格
 ・ 既存の幼稚園、保育所と並ぶ第3の就学前教育・保育の制度とする。
 ・ 「子どもの視点に立つ」ことを最優先する。
 ・ 教育の機能、保育(生活)機能、子育て(世代育成)援の機能、3つの機能を有す。
 ・ 良質な教育・保育を保つことは基本であるが、地域や自治体の実情、経済性、特性等を考慮し、地域や自治体の自主性を専重し、多様な形態での設置を可能とする。
 ・ 全国一律・一斉の設置でなく、必要な市町村での設置とする。
 ・ 小・中学校等との連携、地域のネットワークの活用、外部人材の活用などを通して社会に開かれたものとする。
 ・ 希望するすべてのこどもを対象とし、保護者の就労の有無などの要件を問わないものとする。
 
名称
 ・ 「幼稚園」「保育所」とバランスのとれた名称とする。
 ・ 「乳幼児総合園」など内容に相応しい名称とし、それぞれ愛称を付ける。
 
所管
 ・ 文部科学省とする。
 ・ 保護者や社会のニーズに応じ様々な保育サービスを展開することにも意義はあるが、昨今はそのことが偏重されている感がある。次代を担う子どもを教育するという意味でも「子どもの視点に立つ」ことを最優先し、教育機能を重視すべきである。是非とも文部科学省の所管としたい。
 ・ 但し、低年齢の乳幼児には養護的なケアが必要とされることから、厚生労働省等、関係省庁とも緊密な連携を図るものとする。
 
設置主体
 ・ 市町村、学校法人、社会福祉法人とする。
 
実施事業
「教育機能」「保育機能」「子育て〈次世代育成〉支援機能」の三つの機能を備えた事業実施を基本とする。
教育事業
既存の幼稚園と同じく、全ての3〜5歳を対象に幼稚園教育要領に基づいた教育を実施する。4時間を標準とするコア・タイムを設け、教育課程を編成・実施する。
特に5歳児は小学校教育との連続性を考慮した教育内容とする。
就学前の幼児、小学校低学年児童、双方の育ちが促せるよう、小1プロブレムへの対応等を視野に、小学校との連携を一層すすめる。
現役教員(異校種も含む)の研修、地域や家庭を対象とした講演会、教員養成校の実習等、地域の「幼児教育センター」としての事業を実施する。
保育事業
0〜2歳児を対象に養護に重点を置き、保育所保育指針に準じた保育を実施する。
0〜2歳児は、その発達上、特定の大人との関係の中で人への信頼感、情緒の安定、必要な生活習慣の獲得などを得ていく時期であることを考慮し、保育時間、人員の配置などの事業内容に配慮するものとする。
0〜5歳児すべてについて、子どもの負担にならない範囲で、保護者の就労等のニーズに応じ、保育(預かり保育を含む)を実施する。
子育て(次世代育成)支援事業
親が親として育っていくために必要な力を形成するよう「親育ち支援」を実施する。
就労をはじめ、障害のある子を持つ等、子育てに困難を抱える家庭を支援するためのシステム(地域関係者による支援システム等)を構築し、子育て支援のセンター的事業を実施する。
次世代に親となる、小・中・高校生、大学生などが直接子どもとふれあい、体験的に子どもへの理解を図る場としての事業を実施する。
乳幼児期の育ちの重要性を広く社会に発信し、理解を得るためにも、父親や企業関係者の保育・教育への参加の機会を確保する事業を実施する。
 
 
設置基準
 ・ 教育の場としての環境、保育(生活)の場として必要な施設・設備、子育て支援の場として備えるべき施設を配備する。
 ・ 3〜5歳は教育の場として幼稚園設置基準を基本としつつ、1学級35人とする定数等、現状に課題のあるものについては検討し、望ましい基準を設ける。
 ・ 子育て(次世代育成)支援のための専門員を配置する。
 ・ 0〜2歳児、および預かり保育等の保育(生活)の場として必要な環境を検討し、望ましい基準を設ける。
 
財政措置
 ・ 既存の幼稚園、保育所、総合施設ともに、子育て家庭が、一律の経済負担となるようなシステムを構築する。(例、子育て切符のようなものを配布し、それぞれが選択した施設で使用できるようにする。)
 ・ しかしながら、すべての人に教育を受ける権利を保障する観点から、既存の公立の財政措置システムや保護者の年収に応じた補助等、一部現在の制度を残すことも必要である。
 ・ 少子社会にあって、将来の我が国を支える人材育成の観点から、社会全体が経費を支えるシステムをつくる。(当事者だけでなく、例えば「子育て税」の創設等を考慮し、国民全体で負担する仕組みづくり)
 
入所方法
 ・ 施設と利用者との直接契約とする。
 ・ 施設、利用者双方が顔の見える関係の中で、共通理解に基づいた入所方法とすべき。
 
既存施設との関係
 ・ 今後、幼稚園、保育所、総合施設それぞれの特性が明確になっていくことが予想される。
したがって、地域の実情に応じて、三者を適正に配置する。
 
実施事業の質の確保
教育の場としての質の確保
3〜5歳児に関しては教育課程を編成する。
0〜5歳児の発達を見通したカリキュラムに基づき事業を実施する。
教職員の資質の維持向上を図るため、研修・研究の機会を十分に確保する。
特に、いわゆる幼稚園で園内研究と呼ぶ、施設内でテーマを持ち必要に応じて外部講師等の助言指導を受けながらすすめる研究制度を導入し、教職員の資質の向上、教育の質の向上を図ることが肝要である。
総合施設としての特性を考慮した、新たな研修内容を設けることも必要とされる。
教職員の勤務に関しては、学級経営の充実等3〜5歳児の教育の専門性を維持するため、日、週等の安易なローテーションはすべきでなく、この点に関しては十分な留意が必要である。
自己点検・自己評価を実施し、その上で、保護者、地域など関係する外部の人の評価を取り入れ、改善に向かう仕組みをつくり、教育の質の維持・向上を図る。
保育(生活〉の場としての質の確保
0〜2歳の時期は、特定の大人との関係の中で情緒の安定を図り、人への信頼感などを獲得する重要な時期であることを踏まえ、特定の人との関係が成立するような人材の確保に十分な留意が必要である。
自己点検・自己評価を実施した上で、第三者評価を実施する。
長時間を施設で過ごすことに配慮し、地域や社会とのふれあいがもてるよう、地域や外部人材の活用を図り、安全に配慮した上で地域や社会に開かれた場としていく。
子育て(次世代育成〉支援の場としての質の確保
地域の子育てをコーディネートできるなど専門性を有する人材を配備する。
地域ボランティアなど外部人材の活用及び関係諸機関による連携を進める。
 
その他
免許(或いは資格)
幼稚園教諭免許と保育士資格の併有を条件とすることは、教職員の安易な使い回しにつながる可能性が危惧される。保育・教育には共通の分野が多くある一方で、特に0〜2歳児の保育、3〜5歳児の教育の分野では、それぞれに専門性が要求される。経済性、効率性重視の安易な使い回しは、必要な専門性の獲得に困難を生じる。
現段階では、養成校で総合施設を視野に入れた対応が為されているわけではなく、幼稚園教員を志し、上級免許を取得、或いは経験・研修を積みながら、保育士資格を持たないために、幼稚園教員としての門戸を閉ざされるなどのことが無いよう、当面は格段の配慮が望まれる。
一方、総合施設が新たな試みであることから、既存の免許、資格のほかに、経験等を加味し、総合的な視野で0〜5歳児の教育・保育を実施するに足る専門的な免許(資格)を創設し、機能の充実と質の維持・向上を図ることも今後は必要となる。
施設長
施設長にどのような人材を当てるかは重要である。
総合施設内の教育・保育の内容に始まり、教職員の指導・管理・監督、保護者や地域との望ましい関係を築く力など、教育・保育に関する高い識見、コーディネートカ、豊かな人間性、多大なリーダーシップが要求される。
幼児教育は、小学校以降の教育と異なり、教科書を持たず、環境の充実を図りつつ、遊びを通して心身の発達を助長していくものである。従って、人格形成の基礎として重要視されながら、見えにくい、理解しにくい部分が多くあるのも事実である。
総合施設においては、教育機能を重視する視点から、幼児教育を真に理解している人材、即ち幼稚園長としての経験のある者を当てることが肝要である。もしくは、最低限の条件として、教育機能部分の責任者に幼稚園長を当てることが求められる。
施設長としての人材確保とともに、施設長には多大なリーダーシップが求められることから、リーダーとしての資質向上のための研修等の制度化も必要となる。
国公立幼稚園の今後の役割
良質な幼児教育の提供が国公立幼稚園によって多くなされていることは、研究・研修実績、上級免許の保有率等、実証的なデータからも、また、保護者や地域から寄せられる信頼、小学校教育との連携の推進実績等からも明らかである。
総合施設の設置に向けての動きに伴い、今後、一部の公立幼稚園が総合施設に転換されることも予想される。公立幼稚園が総合施設に転換される際は、これまで培ってきた良質の幼児教育実施のためのノウハウを最大限活用することが望まれる。施設・設備等ハード面と、人材、環境づくり等ソフト面との双方が十分に活かされることを強く望む。
今後の国公立幼稚園は、幼児教育の専門性をさらに高め、これまで以上に、地域の幼児教育の先導的な役割を担うと自負する。



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