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資料7



交流教室の実践例


実践例1 学校内交流(教科)(A−3、B−2

1 図工の学習
 平成14年度から図工の教科担任として特殊学級在籍児童2名と共に交流学級に取り組んだ。授業者の意識は、まず、いかに障害のある子を活かすか、交流学級の児童には良い印象でスタートしたいと考え、オリエンテーションと単元、教材に工夫を施した。オリエンテーションでは、表現には一人一人の思いがあっていろんな形や表情、表し方があることを理解できるよう話をした。教科は活動を通しての仲間意識を育みたいという願いから、小グループ(生活班)で粘土を使っての造形活動を行った。粘土は作り直せる特徴をもっているので、友達から作り方を教えられる場面が何度か見られた。協同し合えることはお互いに良さを学ぶことができるとともに喜びを共感できる。また教え合うことは優しさを交換し合えることである。
 そして、平成15年度はともに学び合える教材として造形学習のほか、鑑賞学習に視点を置いた。教材は「砂絵」で、空想の動物を題材とし、完成後に鑑賞しあった。作品に至っては、個々の児童の実態により技能上困難な部分は教師に援助を求める自己認識と意思表現の力の育成も図った。

<平成14年「どっちの粘土でショウ!」>
 
<平成15年「未来の動物 砂絵」>
     
<平成15年「たくさんの友達 砂絵」>
 
<平成15年「砂絵 鑑賞学習での記録文」>

 また、セットものの教材では、模倣ができる能力を活かし作りたい工作、描きたい絵を表紙や教科書などから選択させて制作する指導を行っている。これは、自ら思考することが苦手な児童にとっては目標とする作品が視覚を通して認識できることが効果的である。また、友達の作品を見て作ることは障害のある児童にとって良い環境である。作業量の程度の差は、特殊学級で補える。上級生の図工にも言えることであるが、教師と一緒に作った作品でも児童は完成作品に達成感を味わっている。2学期の後半の工作では、木を使った単元「ひみつのすみか」で、特殊学級在籍児童の作品が、交流学級の友達の手本として、紹介される場面があった。特殊学級担任が交流学級へ図工科専科として交流学習を実施して3年目は、2年目に引き続き『交流学習の基本』を軸に授業を進めており、「障害のない児童に育てたい力」「共に生きていく上での必要な能力や態度の育成や連帯を築く力」「障害のある人たちへの正しい理解」と障害のある児童に育てたい力「人間的共感を豊かに共有し生きる喜びを強めること」「多様な集団、多様な経験を基礎に生きる力をより確かにし、豊かなものにすること」を教科学習からも育んできたことにより、交流学級の児童らは、教師の行動を観察し特殊学級児童との関わりを身につけてきている。これは、長いスパンによって確立されたものである。したがって、日常の生活にも望ましい交流が見られる。しかし、学年が進むにつれて弾力的な対応にも限界が生じ交流の難しさも見えてきている。そこで、今後も教育的ニーズに応える学習単元、学習指導方法、支援の方法を考えていかなければならない。  
<平成15年「だんだんめいろ」づくり>

<交流学習での学習指導案抜粋>
 題材名「音をカタチにしてみると」
 題材について
   育みたい資質や能力
(1)   楽器や身の回りにあるものの音を見つけ、自分なりのイメージを広げ絵や立体に表す。
(2)   視覚や聴覚を関連させ、協応させる中で生まれるイメージを自分なりに楽しみ活動できるようにする。
  題材観
 通常、造形活動というと、見たものを絵や立体に表すというのが一般的である。しかし、こうした視覚的なものを中心にした捉え方は、大人の見方であるといえる。これらは、むしろ造形活動の一部を構成するのであって、全てではない。子どもの発達の過程を見ていくならば、むしろそれらは、視覚中心というよりも触覚や他の五感を働かせた活動として捉えられる。つまり、五感を十分に生かした全身的な活動が、イメージの豊かさを生んでいくと考えられるのである。こうした視点から、題材を捉えるならば、触覚や視覚を協応させ、生かした活動の可能性を考えられる。
 つまり、音や線や色などを結びつけイメージ化する活動である。音を素材として設定することで、楽器のみならず、自分の生活する環境の中にもいろいろな音があることを発見し、新鮮な感覚で対象を捉えることにつながる。さらにそれを絵や立体に表すことを通して、子ども達は、自分のイメージを豊かにし、材料や作り方を工夫し、その活動の楽しさを味わうのである。
  特殊学級の児童観
 特殊学級の児童は、色別はでき、絵の具を使うことは多少声がけが必要であるが慣れていると判断する。遊びの学習では、動物の鳴き声や音が出る物をゲーム形式で行い声に出して表現することを楽しみながらできる。このような観点からイメージを自分なりに絵や立体に表すことができると考えた。また、交流学習を通して、互いに自分以外のいろいろな作品を見ることにより、表現の仕方を広めることで学び合うことができること、自分なりのイメージなので極端な技能の差が表れないために集団に埋没せず、自分の考えを活動や言葉で表現できるよさがある。支援は主に教師の机間巡視で声がけをしたり、手本を示したりすることはもちろん、周りの友達は場に応じて支援ができると思われる。

○ 題材の指導目標
<共通の目標>
(1) 音を聴いて得たイメージをもとに自分なりの思いを広げ、絵や立体に表すことができる。
(2) 視覚と聴覚の共感覚を楽しむことができる。
<特殊学級児童>
(1) 音を聴いて得たイメージを持つことができる。
(2) 自分の持っている力を発揮し、模倣したり、イメージ化して自力で絵や立体に表すことができる。
(3) 自分や友達の作品を見て、思ったこと、感じたことを発表する。

○ 指導計画
<1次>
  楽器や身の回りにあるいろいろな音を見つけ自分なりにイメージし絵に表す。・・・1時間(本時)
<2次>
  楽器や身の回りにあるいろいろな音を見つけ自分なりにイメージし立体に表す。
  友達や自分の着想や表し方の良さを鑑賞しあう。・・・・1時間

○ 指導内容と支援内容
指導内容 支援内容
A児 B児
楽器や身の回りにあるいろいろな音を見つけ自分なりにイメージし絵や立体に表す。
楽器やいろいろな音を出す役割を指名し、イメージを強化する。
音を声に出してみる
模倣の範囲でも表現できるようにする。
絵の具や粘土の使う際の注意点を話す。
楽器やいろいろな音を出す役割を指名し、イメージを強化する。
音を線などで表すことを示す。
絵の具の彩色が単色にならにように声がけをする。
友達や自分の着想や表し方の良さを鑑賞しあう。
自分の作品を発表できるように話す。
話ができる内容を考え、意図的に発表させる。

○ 本時の目標
 音を聴いて得たイメージをもとに自分なりの思いを広げ、絵や表すことができる。

○ 展開
学習の流れと時間 児童の主な学習内容と学習活動及び評価のポイント 教師の働きかけ
全体 A児の支援 B児の支援
導入
挨拶
音当て
  (5)
音を聴きそれが何であるかをあてる活動を通して、音に関心を持つ。
   
楽器の音、自然材の音、人工材の音などを聴き、その違いや特徴に気づく。
身の回りには、たくさんの音があることに気づく。
音に興味関心を持つことができたか。
   
 
音をもとに、そこから得た自分なりのイメージを絵にあらわすことを知る
指名して楽器の音を出すことで学習に対する気持ちを高める。(教)

クイズに対応しているか。
指名して楽器の音を出すことで学習に対する気持ちを高める。(教)

クイズに対応しているか。
クイズ形式でする。子ども達からは音源が見えないようにする。
音源を提示、確認し、楽器や身の回りにはいろいろな音があることに気づかせる。
   
イメージや線や色、形を使って自由に工夫して表すことを知らせる。
展開
課題提示
活動の流れの確認
イメージ化
  (35)
イメージ化を図り、見えない音をどんなふうに絵に表すことができるか、活動への期待感を持つ。
パート1>
楽器の音をもとに、自分なりのイメージを絵に表す。(個人)

パート2>
人工材の音をもとに、自分なりのイメージを絵に表す。
(グループ)
グループ発表>
できた作品をグループで提示する。
(グループ)
模倣しても活動できることを話す。(教師)
   
活動の流れを見失わないように声がけをする。(教)
絵の具の使い方を支援する。(教・友)

絵に表すことができたか。

回りの協力が得られるようにする。(教)
   
うまくできたところを話せるように励ます。(友)
模倣しても活動できることを話す。(教師)
   
声がけをして自力で活動できるように励ます。(教)
絵の具の色は単色にならないようにする。(教・友)

絵に表すことができたか。

支援が必要な場合は友達に声をかける。
うまくできたところを話せるように励ます。(友)
初め、活動にやや戸惑った児童には、友達の作品を見ることをとおしてイメージや表し方の楽しさを掴むことを話す。
絵の具の筆の使い方によっても表し方に違いがあることを話す。
   
自分のイメージを大切にすることができたことを確認する。
まとめ
本時の学習のこと
次時の学習の確認
挨拶
(5分)
感じ取ったイメージを形や線、色で自分なりに表すことができたか。
イメージを感じとり、絵に表すことができたか。
イメージを感じとり、思い通りに絵に表すことができたか。
全員できたことを評価する

(教)は教師の支援、(友)は友達からの支援
実践例2 学校内交流(教科・生活単元学習) (A−3、B−2

 取り組みについて
 本学級には、1年生のMさん、2年生のK君、3年生のT君の3人が在籍している。3人とも、給食、掃除、技能教科等多くの時間を交流学級で過ごし、それぞれの学級の友だちと休み時間等一緒に過ごすことができている。ただ、時々、交流学級の友だちが本学級の児童に対して「お世話をしてあげている。」という態度で接している場面を見かけることがあった。そこで、本学級(なかよし学級)の児童が自身を持って取り組める蒸しパン作りを通して、互いに認め合う交流学習を2年に渡り計画した。初年度は、2年生の生活科「お祭りをしよう」に『むしぱんや』として参加し、次年度は1年生の生活科「お手伝い名人になろう」のなかで蒸しパンを1年生と一緒に作った。以下はその実践の様子である。
   
 初年度「むしぱんや」の学習の流れ
第1次 さつまいもの収穫をする   ・・・2時間
第2次 さつまいもを使って蒸しパンを作る   ・・・8時間
第3次 蒸しパン屋の準備をする   ・・・3時間
第4次 お祭りで蒸しパン屋をする   ・・・2時間
第5次 お祭りの感想を作文に書く   ・・・1時間
   
 学習の様子
 【さつまいもの収穫】
 生活科の時間、1・2年生をグループに分けて収穫を行った。T君もK君もそれぞれのグループで楽しそうに収穫していた。狭い畑ではあったが、段ボール箱2箱分あった。2年生で大きさの分別約1キログラムずつの袋詰めを行った。1・2年生全員と全職員が1袋ずつ持ち帰った残りをなかよし学級で使うことにした。
 【さつまいもを使った蒸しパン作り】
 2人とも初めての調理実習だったため、喜んで取り組んだ。始めは一つ一つ担任が指示し、包丁も一緒に持っていたが、回を重ねることにより、手順を覚え自分達でできるようになってきた。4回目には量を2倍に増やしたが時間内にでき、後片付けについても自分達で気づいてするようになった。5回目は1・2年生分80個を3人で作った。お祭りの時間の関係上、さつまいもは前日に洗って切るところまで準備しておいたが約1時間で蒸し器にいれるところまでできた。準備や手順についても無駄がなく、学習の成果が発揮できたように思う。
 【蒸しパン屋の準備】
 2年生の生活科のお祭りに、蒸しパン屋として参加することを決めた後、どんな準備が必要か話し合った。T君は2年生の友だちがすることを見ていて、看板を作ることを提案した。また、1・2年生全員にもれなく蒸しパンを渡すために引換券も作ることにした。
 【蒸しパン屋】
 なかよし学級の教室で、2年生の2件のお店と一緒に『むしぱんや』を開いた。お客は1年生と職員、それに2年生の保護者が何人かいらっしゃった。T君もK君も「いらっしゃい、いらっしゃい。」と元気にかけ声をかけ、お客さんが来ると我先にと蒸しパンを渡そうとする。「引換券を下さい」「ありがとうございました。」等の声かけを忘れないように注意をして、担任はそれとなく見ているだけにした。お祭りの最後に、2年生にも蒸しパンを渡し、まだ温かさの残っている蒸しパンを1・2年生全員で味わって食べた。80個というたくさんの数をなかよし学級だけで作ったことを知った児童は、「T君すごい。」「おいしい。」と素直に喜び感動していた。
 【お祭りの感想】
 お祭り(蒸しパン屋)をした直後、感想を作文に書く活動を行った。自分達がしたことと、嬉しかったことをそれぞれ発表し、書き留めた。
  T君
「きょう、むしぱんをつくったから、たのしかったです。かっちゃんといっしょにしました。スプーンあらいがきつかったけどまたしたいです。みさきちゃんが『おいしかった。』といったからうれしかったです。」
  K君 「きょう、むしぱんつくりをしました。1ねんせいがかいにきました。『いらっしゃい、いらっしゃい。』といいました。あいかちゃんもきました。ひきかえけんをもらってむしぱんをあげました。」
   
 平成12年度「お手伝い名人になろう」の学習の流れ
  第1次 蒸しパン作りの計画と手順書の作成 ・・・2時間
  第2次 蒸しパン作り ・・・6時間
  第3次 1年生との合同授業 ・・・2時間
   
 1年生と一緒の蒸しパンづくり
 【生活科「お手伝い名人になろう」の授業の中で】
 なかよし学級が収穫したさつまいもで蒸しパンを作っている同じ時期に、1年生は生活科で「家の人のしごと」について学習を行う。児童がそれぞれ家の人の様子を観察し、家の中で行われている仕事に関心を持ち、自分達でもやってみようという単元である。1年担任は、「お手伝い名人になろう」という題材で、実際に学校で洗濯や茶碗洗いなどを友だちの前でしてみせる計画を立てた。そこで、本学級のMさんは、お手伝いの発表をお料理「蒸しパンづくり」とすることに決定し、他の児童とは別に時間を設定し、1年生の友だちと一緒に蒸しパンを作ることにした。また、その時、K君やT君も一緒に参加し、1年生に作り方を教えてあげることにした。
 【蒸しパンづくり】
 前年度同様、なかよし学級で繰り返し蒸しパン作りに取り組んだ。T君K君は慣れたもので、作り方の手順を見て、自分達でどんどん作業を進めることができた。包丁の扱いについても、また板付きの包丁を用意したことで、担任の補助が必要なくなり、さいの目切りも上手にできた。Mさんについては、包丁はまだ難しかったが、回を重ねていくにつれ生地をカップに入れたり、洗い物をしたりする手際が良くなってきた。また今年度は全校児童に蒸しパンをプレゼントしようということになり、40個近い数を6回作った。
 【1年生との合同授業】
 研究授業として、1年生の生活科となかよし学級の生活単元の合同授業を行った。T君とK君は、みんなが調理用具を洗ったり生地を作ったりしている間に、蒸しパンに入れるさつまいもを刻んだ。Mさんはみんなと一緒に洗い物等進んでしていた。カップに生地を入れる時は、なかよし学級の3人は、それぞれ別のグループに入り、1年生に教えたり、やって見せたりしながら一緒に活動した。
 蒸しパンを蒸す間、1年担任が主になって、調理の感想や友だちの様子について気づいたことを発表させた。1年生は、はじめは同じクラスの友だちのことを発表していたが、しばらくして、「T君やS君がお芋を切るのが上手だった。」とか「Mちゃんが鍋を上手に洗っていた。」という感想も聞かれた。本学級の子ども達も、友だちや下級生に自分の得意なことを教えてあげることができ、うれしそうだった。
   
 単元を終えて
 初年度は、収穫したさつまいもを使って低学年にもできる調理ということで蒸しパンを設定し、子ども達はとても喜んで取り組んだ。本番のお祭りに向けて繰り返し蒸しパン作りの練習を行い、その都度目的を持たせた。1回目は自分達のため、2回目は交流学級の先生のため、3回目は家族のため、4回目は小学校の先生方のためにと、あげる相手を変えることによって意欲も継続し、いろいろな人から感謝の声を聞き、人に喜んでもらう嬉しさも感じることができたようだった。
 次年度は前年度の経験をふまえ、児童の得意なことを他の学級の友だちに教えてあげるという形をとった。今まで、なかよし学級の児童は、どうしてもお世話してもらう存在であることが多く、友だちの前で手本をして見せたり、リードしたりすることはほとんどなかった。しかし、この単元で、1年生に教えてあげるという経験をしたことで自信を持つことができたようだった。1年生についても、「なかよし学級の友だちはすごいなぁ。」と素直に感じてくれたように思う。今回の授業を行うに当たって、道具の準備や調理の計画をなかよし学級担任が行ったことで、本学級の児童は慣れた手順で調理をすることができた。また、2人の担任が授業の支援に入ったことで、1年生にとっても安全な調理活動が行えた。特殊学級の児童に対する手立ては、通常学級の児童に対しても有効に働くということが分かった。
 また、今回の授業を計画、実行できたのは、1年担任の協力のおかげである。特殊学級からの一方的な働きかけだけでは、障害児に対する理解や啓発はなかなか難しいと思う。
 交流学級と特殊学級担任とが、話し合い協力し合う機会を設けていくことを、これからも是非続けていきたいと思う。


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