特別支援教育・学校構想についての意見
財団法人 全日本ろうあ連盟
ろう児の教育的ニーズ
ろう児教育に関しては、日常的な場面や教育における児童同士、あるいは教師との意思疎通を図るコミュニケーション言語(主に手話)と教科指導を受けるために必要な教育言語(手話・口話等)の確立と、それらの明確な位置付けが求められる。
個々の児童の障害の特性を考慮することが望ましいが,基本は,視覚によるコミュニケーションを主とするのが自然であり、日常的に使用するコミュニケーション手段が手話である場合は、手話を教育言語として位置付けるべきである。
特別支援教育コーディネーターに求められる資質
ろう児教育には,「聴覚障害の特性」の把握が必須であり、特に手話については言語学的な素養も含めて、学校及び教師に対しての適切な指導を行うことが求められる。なお,手話には,手話通訳士の資格を条件とするなどレベルの高い手話技術を考慮するべき。
特殊教育教諭免許の統合化について
現在、ろう学校の教師の手話に関する知識及び技術的なレベルは,ろう児のニーズに対応可能なレベルではない。免許の統合化によって、その専門性の更なる低下が懸念される。
従って、統合免許については,ろう教育に限定した専門的な免許を残す必要がある。その場合,現在の「ろう免許」を手話に関するエキスパートを含有したレベルとする。ろう教育(手話を含む)に熟達した教師についてはマスターティーチャー制度を設け、管理職レベルの扱いとし、全国のろう学校への移動、配置を可能にすることが望ましい。
養成レベルでは,大学における教諭養成課程、特にろう教育に携わろうとする学生に、手話の知識及び技術の課程を充実した上での養成を行なう必要がある。特に日本語(国語)の教師については、児童のニーズに沿った教育を行う必要があることから手話通訳士の資格、あるいは同等の技術、知識を有することが求められる。
また、ろう児の教育を行なう場合、聴覚障害の特性を充分に理解し得る同じ聴覚障害教師によって行なうことが好ましいので都道府県教育委員会においては、特別枠を設けるなど、聴覚障害をもつ教師の選考に充分な配慮を行なう必要がある。
ろう教育を担当する教師について
口話教育を絶対視する教育によって、大多数の教師が,音声言語を理解させることに固執し,ろう児との自然なコミュニケーションを図る努力すら怠ってきたと言える。ろう学校という聴覚障害児専門の学校に教師として在籍しながら手話すら出来ず、児童とのコミュニケーションや発達に対する自己研鑽の不十分な教師が存在するためにろう学校の専門性を高められない結果となっていると指摘できる。
ろう教育に携わる教師に対しては,手話や聴覚障害問題に関する研修を継続的に行なうことによって、その専門性を高めることが重要である。
特別支援学校について
基本的には,ろう学校が必要であり,特別支援学校に解消することに反対である。また,都道府県のろう学校の名称は残すべきである。
ろう児の教育については,在籍する児童の減少により、集団教育の環境の崩壊などが指摘できる。これは,専門性を失ったろう学校への魅力が薄れたことや学力等の問題で普通校へインテグレーションするろう児童が増えたことも一因としてあげられる。
ろう学校の専門性と学力を高めることによって、児童数の増加に結び付け、障害を同じくする児童の集団教育の場の確保を図らなければならないし,最低でも1県1ろう学校は残すべきである。 また,統合が避けられない場合でも,他の障害児との統合ではなく,普通小・中学校における教育形態とすることが望ましい。
インテグレーションは,聴覚障害児のコミュニケーション環境の保障を考慮した場合は、個別的な統合、同化ではなく、集団的な統合、同化であらなければならない。これはコミュニケーション手段の配慮、聴覚障害集団の一員としてのアイデンティティの確立には,聴覚障害児の集団教育の場が必要とされるからである。また、現在のインテグレーションにおける聴覚障害児の情報・コミュニケーション保障が救済措置的な性格(補聴システム、パソコン要約筆記、)を有するものであることから普遍的な保障を考慮しなければならない。
学習指導要領に「手話」を明記すること。その際,以下の理解が必要である。
1) |
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幼児から高等部、専攻科まで |
2) |
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単に口話の補助的手段ではなく、手話が多くのろう者にとっては不可欠な言語、コミュニケーション手段となっていること。 |
3) |
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手話に関する系統的な指導「教科としての手話科」 |
4) |
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聴覚口話法と対等のものとして手話を位置付けること。 |
5) |
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「準ずる教育」ではなく一般校と同等の達成目標の設定。 |
手話に関する研究について
ろう児に対する手話教育の確立のためには、行政支援による研修センターの設置運営並びに民間研究研修団体への支援と認知及び研究・研修の委託を行なうことが考えられるべきである。また、手話教育のための教材開発などを社会福祉法人全国手話研修センターなどに委託することも求められる。
ろう学校の設置・管理制度の見直し
ろう学校の高等部など財政的な事情により従来の都道府県の枠を越えた広域形態の学校運営も視野に入れなければならないと考える。
この運営については都道府県教育委員会においては聴覚障害の特性についての理解が十分でなく,適切な運営・管理に懸念がある。
従って、ろう学校の運営に関しては広範囲な関係者〔生徒・保護者・教員・卒業生・親の会・聴覚障害者団体・聴覚障害教育関係者・医療関係・福祉・企業等〕を主とした幅広いコミュニティを形成し、管理運営することが望ましい。
その他
人工内耳や新生児スクリーニングを推進している医療関係者には,ろう教育に関する知識が不十分なまま暴走している傾向が見受けられる。
文部科学省としては、ろう児教育を根拠として,このような事態に対応すべき責任があると考える。
結果として,特別支援教育・学校の構想は,ろう児の手話コミュニケーション環境に何らの配慮も見出せないものとなっている。
過去、特殊教育の対象にならなかった障害児童を掬い上げる形になった点では評価に値するが、この方法をろう児に当てはめるのは、「森を見て、木を見ない」の類であると指摘できる。ろう児のコミュニケーション手段は様々なものがある。このような多様なコミュニケーション手段に対応できるのは、専門性を持った教育システムである。この原点を踏まえ、慎重に進めていただきたいものである。