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資料2




中央教育審議会「今後の学校運営の在り方について」中間報告に対する意見

全日本教職員組合


1.「地域が参画する新しいタイプの公立学校運営の在り方について」

   登校拒否・不登校は、若干減少したとはいえ、13万人をこえ、「学級崩壊」や子どもたちの「荒れ」など、子どもと教育をめぐる諸困難は依然として広がりを見せています。このもとで、子どもたちのすこやかな成長・発達を助けるために、子どもをめぐる問題をとおして、おとなやおとな社会をみすえ、おとなやおとな社会が何をするべきかについて、国民的な討論をすすめ、その解決をはかる努力が求められています。
   とりわけ、学校は、子どもたちが一日の大半を過ごす場であり、学校をどう改革していくかは重要問題であり、子どもたちのすこやかな成長・発達を保障する学校づくりのために、父母・教職員、地域の人々が力をあわせることが求められています。
   この立場から、全教は、「学校づくり5つの提案」をおこなっています。「学校づくり5つの提案」とは、1子どもの意見表明、2父母との情報共有、3子ども、父母、教職員による三者協議と合意形成、4教職員の同僚性の形成、5教育行政へ要望を出すルートづくり、というものです。
   この「5つの提案」の中で、まず、子どもの意見表明をあげているのは、学校づくりは、何よりも子どもの成長・発達を保障するためにあり、そうした学校をつくるためには、学習主体である子ども自身の意見や考え、要望を聞く必要があると考えるからです。また、学校がすすめている教育活動が、父母の願いにそったものになっているかについては、学校の情報公開と、情報の共有、共有された情報にもとづく、率直な意見交換が必要であると考えるからです。
   全国各地での実践やとりくみをみても、子どもたちが、学校や教育の問題について率直に自分たちの意見を表明することが広くおこなわれており、父母も、教育への関心と学校教育への参加の意欲を高め、実際に学校づくりに参加してきている状況が生まれています。また、地域の人々が、子どもを地域で育てようと、学校づくりに参加し、積極的役割を果たしている例も少なくありません。
   これらの事実を見ても、こうした学校づくりは可能であり、大いに発展させなければならないと考えています。

   このことをふまえて、「中間報告」を見るならば、「中間報告」が「地域が公立学校の運営に参画することの意義について」の項で、「保護者や地域住民の側に、自らが学校の運営に積極的に参画することによって、自分たちの力で学校をより良いものにしていこうとする意識が生まれつつある。こうした意識の高まりを的確に受け止め、学校と保護者や地域住民が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能となる仕組みを構築していくことが求められている」という現状認識については、理解できるものです。

   しかし、「制度化にあたっての基本的な考え方について」では、以下に述べる重大な問題点を持っていると指摘せざるをえません。
   第1は、子ども参加の観点がないことです。全国各地で、生徒会を中心とした子どもの代表、PTAを中心とした父母・保護者の代表、校長を含めた教職員の代表による「三者協議会」や、それに地域の人々などを加えた「四者協議会」などのとりくみが、高校のみならず、中学校段階でもおこなわれ、広がってきていますが、いずれも共通するのは、子どもの代表を含め、その意見を聞きながら教育活動をすすめていることです。また、そうしたシステム化がおこなわれていない場合でも、アンケート活動によって子どもの意見を聞いたり、授業改善を子どもたちの意見を聞きながらすすめたりするとりくみが広くおこなわれてきています。それは、学校がすすめている教育活動が、子どもたちの願いにそったものとなっているかどうかを判断するには、学習主体である子どもの意見を聞くことがどうしても必要となってくるからです。
   学習主体である子どもの意見表明を保障することは、学校教育の前進にとっても、また、子どもの権利についての国際的基準である「子どもの権利条約」がその第12条で子どもの意見表明権を規定していることに照らしても、どうしても必要であると考えます。
   「中間報告」は、この子ども参加の視点を欠いたものとなっており、決定的な不十分さを持っているといわざるを得ません。

   第2は、教育行政が学校教育に介入・干渉する危険性をはらむものとなっていることです。「中間報告」では、「地域運営学校」にかかわって設置を予定している「学校運営協議会」委員に教育委員会関係者を加えていますが、これは、おこなうべきではありません。学校運営は、学校教育と密接不可分であり、これを担うのは、学校を構成する不可欠の三者である子ども、父母、教職員であるからです。しかもそれは、各学校の自主的なとりくみを奨励する形ですすめられなければなりません。
   教育行政に求められるのは、そうした学校の自主的なとりくみを教育条件整備の面から援助することであり、教育行政が「学校運営協議会」の一員として参画し、学校運営や学校教育にかかわること自体、教育基本法第10条が厳に禁じる教育行政による教育に対する「不当な支配」となります。
   また、同様に、教育委員会が、「学校運営協議会」委員を「委嘱」したり、「学校運営協議会」の議事に関する事項を教育委員会規則で定めたり、教育委員会が「地域運営学校」の指定や取り消しをおこなったり、「地域運営学校」の教育活動を「不断に点検・評価」したりすることは、おこなってはならないことです。
   しかもこれを教育委員会が一部の学校を指定してすすめることにより、結局は学校がおこなう教育活動を教育行政が点検・評価してランク付けをおこなうことによって学校の格差づくりをすすめ、それをとおした支配・統制をすすめることにつながってしまいます。これでは、学校の自主性の発揮が妨げられ、教育の前進にはつながりません。この点で「中間報告」は重大な問題をはらんでいると考えます。

   以上二つの重大な問題点を指摘したうえで、いくつかの問題に触れて述べます。
   一つは、「学校運営協議会」の権限が肥大化されているという問題です。「中間報告」では、「学校運営協議会」が「校長と責任を共有する立場」とされていますが、これは、学校や校長の固有の責任と権限を掘り崩し、結局責任の所在を不明確にし、「学校運営協議会」に法的根拠なしに肥大化された権限を付与するものとならざるを得ないものです。
   この「学校運営協議会」の権限の肥大化は、現行法に抵触する大きな問題を引き起こします。「中間報告」では、「学校運営協議会」が、「学校における教育課程編成の基本方針、予算執行や人事配置等に関する基本方針について、校長等の提案に基づいて承認を行う」と述べられていますが、教育課程編成は学習指導要領も述べているとおり、各学校がおこなうものであり、教育課程の編成過程で、子どもや父母の意見を聞くことは重要ですが、学校がつくる教育課程を、学校以外の機関が「承認」することは、あってはならないことであり、現行法では予定されていないことです。また、校内人事は、校務分掌の一環であり、その決定過程で保護者等の意見を聞くことはあっても、その決定は、「校務を掌り所属職員を監督する」校長の権限に属する問題であり、教職員人事全体にかかわっては、教育委員会の権限や校長の内申権にかかわる問題です。
   校長や学校の持つ権限を上回って「承認」などを与える権限を「学校運営協議会」に付与することは、現行法との関係で法的根拠をもたないものであり、学校教育の自主性に対する介入・干渉を引き起こす重大な危険性をもつものです。

   二つ目は、「学校評議員制度」と「学校運営協議会」との関係がきわめて不明確であるという問題です。
   「学校評議員制度」については、われわれとして意見をもっており、そのあり方や構成も含めて抜本的に改善しなければならないと考えるものです。しかし、「学校評議員制度」を是とする「中間報告」の立場に立ったとしても、「学校評議員制度」と「学校運営協議会」との関係がきわめて不明確です。「中間報告」では、「学校評議員制度」の現状について、「その意見を踏まえて教育内容の改善を行うなど大きな成果を上げる学校があるものの、運用上の問題を抱え、必ずしも所期の成果を上げ得ない学校もある」などの意見は述べてはいるものの、「学校評議員制度」と「学校運営協議会」との関係については、言及されていません。これでは無責任というそしりを免れないと考えます。
   以上のことから「地域運営学校」とそれにかかわる「学校運営協議会」については、学校の自主性の尊重を基本に、抜本的に見直すことを要求するとともに、全教の「学校づくり5つの提案」についても検討していただくことを要望するものです。

2.「公立学校の管理運営の包括的な委託の在り方について」

   そもそも、「公立学校の管理運営の包括的な委託」をいま、なぜ提案しなければならないかという根本問題があります。父母・国民、教職員の間に、学校教育をもっと子どもたちの成長・発達を保障する場へと改善してほしいという要求や要望は広くありますが、そのために公立学校を民間や学校法人に委託してほしいという要求はほとんど存在しないといって過言ではありません。むしろ公教育の担う責務という観点から、学校の民間委託等に対する反対意見は強く存在しており、それは、この間の校長会などが表明している意見からも明らかです。まず、この点で根本的な疑義があります。
   また、「中間報告」は、内容的にもいくつかの重大な問題点を持っています。まず第1の大きな問題は、「中間報告」が委託先として「原則として、学校法人など」としており、株式会社の学校教育への参入を否定していないという点です。
   そもそも、一人ひとりの子どもたちに固有の価値を見出し、そのもっている諸能力を全面的に発達させるという、教育の論理と、市場原理・競争原理にもとづき、利潤追求を目的とする企業の論理とは、原理的にあいいれないものです。
   そしてそれは、憲法第26条に規定されている子どもの学習権を公的に保障するがゆえに「公の性質を持つ」とされている学校教育を根底から変質させることにつながる重大問題を持つと考えます。
   したがって、第2の問題は、子どもの学習権そのものが脅かされるという教育の根本問題にかかわる重大なリスクを生む危険性をもつものです。
   「中間報告」自身も「課題や懸念」として、「契約途中段階における契約解除や受託者の経営破たん等により、学校が閉鎖された場合、児童生徒の教育を受ける権利が侵害されるおそれはないか」と指摘しています。子どもの学習権そのものが危うくされる危険性がある制度など、絶対に導入すべきではないと考えます。
   以上のことから、民間委託をはらんだ「公立学校の管理運営の包括的な委託の在り方について」には、明確に反対の意見を表明するとともに、教育の根本に立ち返った抜本的な再検討を求めます。


以上



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