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コミュニティ・スクールに関する人事について、ご提案にあったような弾力的な対応は現行でも可能であるが、このことについてはどのようにお考えか。 |
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教育課程の決定にも「地域学校協議会」が関わるということだが、義務教育における学習指導要領の担保の必要性との関係をどのようにお考えか。 |
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人事の問題については、現行でも校長が地方市町村教育委員会に意見具申をし、それが県に上がっていくというシステムになっている。しかし、その経過が外からは大変見えにくい。コミュニティスクールでは、校長はおおっぴらに教員をリクルートでき、学校が情報を開示して教員を公募し、たとえば、保護者や地域学校協議会メンバーも参加する公開授業などをとりいれてもいいかもしれない。校長や教員の代表が、協議会と相談の上、人選をし、それを協議会が承認するという仕組みにするなど、プロセスが透明で、学校と地域学校協議会の権限が明確になっているところが、現行制度と顕著に違うところだ。透明性を高めた形にしたほうが、住民の参加意識の向上も期待でき、学校の活性化につながるのではないか。 |
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教育課程については、当然、学習指導要領は満たすということが前提である。ただ、私立学校でそうであるように、各学年ごとの細かい決まりというより6年間でしっかりと達成するという程度の弾力性が望ましい。授業内容やクラスの編制、非常勤の採用の仕方等に関して、学校が自主的に計画を立て、「地域学校協議会」の承認を受けながらやっていくということである。
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コミュニティ・スクールについては、現在の公立学校に対して指摘されている問題点のひとつである閉鎖性を打破するための一方策として、地域住民の意向を反映させた運営形態をとっていくという理解でよいか。 |
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地域住民の意向を反映させた運営形態をとるということを明示的に規則化するのがコミュニティ・スクールである。
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コミュニティ・スクールは、今までやってきている教育改革の延長線にあると理解。 |
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カリキュラムの決定について「地域学校協議会」に権限を持たせるとした場合、これはどのような形で実施されるのか。 |
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例えば、校長や学校側のいろいろな要望を聞いて、「地域学校協議会」が責任を持ってカリキュラムの中身まで決定し、学校側に指示することは困難だと思われる。 |
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「地域学校協議会」が権限を持つといっても、実質的には校長を中心とした学校側がカリキュラムづくりなどの学校経営の素案を作る。それを計画化していく過程で「地域学校協議会」がいろいろ意見し、学校と議論を経て最終案として「地域学校協議会」に提案し、「地域学校協議会」がそれを認めて計画を実行に移すという方法になるのではないか。 |
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実際のコミュニティ・スクールの運営についてはいろいろな方法があると思うが、校長が中心になるという理解でいいと思う。例えば、現在の私立学校における理事会と校長のイメージを想定している。 |
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校長は理事会に計画や採用人事を諮り、理事会がそれを承認する。校長の意向を却下するということはあまりないが、承認は必要だし、校長も緊張感をもって意思決定することになる。もちろん、校長が不適当な提案をしたら、さし戻しもあるだろうし、計画の実行にあたって当初計画から逸脱するようなことをしたら、いつでもストップをかけられるという関係である。
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学校評議員制度をうまく機能させることによって、このコミュニティ・スクールと同じことをやっている学校もある。結局は校長に新しい制度を活用する気があるかないかではないか。 |
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校長の意欲が大事だということは、ご指摘のとおり。ただ、コミュニティ・スクールでは、校長、地域学校協議会などに、学校経営の意思決定権が制度的に付与されているというのがポイントだ。権限が委譲されているかが大きい。たとえば、評議員には何も権限がない。また、校長が選ぶことになっているので、校長によっては、自分の仲間のような人を評議員に選んでお茶を濁すだけになるかもしれない。 |
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評議員制度がうまくゆく可能性もあるが、それを、よりよく機能させるために、権限と責任をきっちりと制度設計しようというのがコミュニティ・スクールの発想だ。
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地域ニーズの把握は難しい。 |
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現代社会では、住民の地域意識が低くなっている中で、コミュニティ・スクールの導入の前提である地域の動機の高まりはあるのか。一方、コミュニティ・スクールを導入することで、逆に地域意識が高まっていくという考え方もあるかと思うが、結局、形から入らざるを得ないのではないか。 |
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地域ニーズの把握がそう簡単でないことはおっしゃるとおりだ。具体的な方法論としては、先ほど述べた、足立区教育委員会と共同で開発しているニーズ調査のやり方など、今後、検討する必要がある。 |
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いいシナリオとしては、学齢期の子どもがいる人もいない人も、「自分の地域に優れた小・中学校があるということは町の誇りであるから、卒業生なども集まって時間とエネルギーを投入しよう」という気持ちを持ち、単に意見を言うだけではなくて、責任も共有して学校経営に参画し、それが地域コミュニティの活性化になるというもの。 |
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ただ、このような取組に無関心な住民が多いと、町の有力者のような人が「地域学校協議会」、ひいては学校に大きな影響力を及ぼしてしまう可能性があることも否定できない。しかし、そのようなことを起こさせないということを含めて、権限と責任を委譲して、地域の中で学校を運営してもらおうということだ。 |
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福祉の分野では、地域住民がとてもいいデイケアセンターを作ったりしている。痴呆性高齢者のグループホームが、全国で3,000戸以上設置されており、この1年間では2,000戸の増加という急な伸びをみせている。このうちのかなりの部分が地域NPOが設置したものだ。 |
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このように、保育や介護の分野をみると、日本の地域には自主的で効果的な取組を十分できる力があるのではないかという気がする。
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長野県の教育委員会の委員をしておられるということでお伺いしたい。 |
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長野県が構造改革特区に申請を出している株式会社やNPO法人による小・中・高の運営と、今回のコミュニティ・スクール構想は関係あるのか。 |
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長野県の教育委員は務めているが、その決定は就任前のもので、私は関与していない。 |
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一般論としていうなら、大学や大学院はともかく、小・中学校を株式会社が学校法人を作らずに運営するということに関しては、私個人は慎重にしたほうがいいと考えている。 |
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ただし、問題は、誰が設置主体になるかということではなく、むしろ、何をどうやるかということだろう。ちゃんと住民参加がされ、アカウンタビリティを担保するような仕組みがあるかということが重要であると考える。 |
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コミュニティ・スクールは、現行の制度を一歩進めて多様化を行おうという取組であり、原則的に特区とは別のものであると考えてよいのではないか。
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コミュニティ・スクール導入の前提は、地域のニーズというご説明であったが、現在の保護者の要望は学力問題なのではないか。すなわち、地域が望む学校像、教師像、教育内容というのは実は普遍的なものではないか。 |
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また、不登校児やLD、あるいはハンディキャップを持った子どもたちを対象とすることも想定しているとのことだが、それは地域のニーズではなく、個々の子どもたちに対するニーズではないか。 |
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そのようなスタンダードがあるとすれば、地域のニーズに応じた特別な学校を作る必要があるのか疑問。 |
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地域とは何かということについては、ご指摘のとおり、もっと丁寧な議論をしないといけない。多様なニーズというのは地域ではなくて、個別の問題であるが、それを地域として解決しようという意志があるかということだと思う。障害者や不登校などの問題への対応は、ある程度広域で対応する問題だろう。すなわち、従来の通学区域という区切りで対応するより、関心を共有するより広い地域の人たちが集まって対応するほうがいいかもしれない。このような関心を共有する人たちの集まりをテーマコミュニティを呼ぶことがあるが、コミュニティ・スクールは、地域コミュニティとともにテーマコミュニティという意味も含まれる。また、こういった個別のニーズに対しても、行政が対応する必要があるが、それには、従来の公立学校制度だけではむずかしく、コミュニティ・スクールという選択肢があったほうが可能性が広がる。
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人事の問題について、日本の学校は原則的に終身雇用であり、賃金が保障されているという前提があり、優秀な人材が教員になってきている。それに対して、地域がどのような権限で採用し、どのような労働関係になるのかが不明確なままでは優秀な人材の確保が難しいのではないか。 |
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日本の教員は、たぶん、世界各国と比べて、潜在的資質は大変高いものがあるのではないかと思っているが、今のままでよいとは思わない。 |
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評価が悪ければすぐリストラされるといったシステムは極端で、望ましいとは思えないが、やはり多くから望まれる人材はより尊敬を受け、より自分の意向を広げられるような立場にたち、逆に、よい評価をうけず、教員に向いていない人には教員をやめてもらうというような入れ替わりがなければ停滞してしまう。コミュニティ・スクールでは、学校も教員も、開かれたプロセスの中で、お互いを選ぶということから、活性化が期待できる。しかし、教員の身分の問題などを含めて、これは、コミュニティ・スクール独特のものというよりはもっと大きな問題である。
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日本の制度というのは、教育に限らず、それぞれが大変緻密に構成されている。けれども、緻密であるがゆえに動かないという面が、司法や行政などにおいてもみられる。 |
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問題は、うまく動かないところをどうするか。そのときに、工夫して新しい仕組みを導入し、今までとは別のものをやってみるということも必要である。このコミュニティ・スクールもそういう趣旨であると理解。そこで、「地域学校協議会」という重要な組織を作って、新しい試みをするときに、誰がどのようなイニシアティブをとるのか。「地域学校協議会」というのはどのようなメンバーに構成されるのが望ましいのか。具体的な構想があればご教示願いたい。 |
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「新しいタイプの学校運営の在り方に関する実践研究」校の実例では、公募した委員のほうが学校運営に関わることに積極的であるなどの例がみられる。地域学校協議会メンバーについても、一定程度は、公募委員を入れる形式が望ましいと考えられる。 |
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ただし、構成員のすべてを公募にすると、特定の思想を持った者に偏るなどの危険性があるかもしれない。イギリスの学校の理事会の場合は、保護者と地域代表、教員など、いくつかのグループからなり、そのどれもがマジョリティにならないようにという規定がある。フランスの場合は保護者の間で、委員の選挙なども行うようだ。 |
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カリキュラム作りなどで地域の要望がどのように最終的な計画に結びついたのかをご教示願いたい。 |
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その過程で「地域学校協議会」と学校側との間で意見の調整に手間取ったといったケースがあれば、あわせてご教示願いたい。 |
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教育課程について、「地域学校協議会」から基礎基本を重視した学力問題に対応してほしいという要望がみられた。これは徹底した反復学習といったかたちで学習に取り入れられている。 |
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「地域学校協議会」と校長との考え方の違いについては、学力問題について基本的な認識が異なっている部分があり、調整に手間取った。例えば、考える力や自ら判断する力、学習意欲といったものも学力なのだということがなかなか理解していただけず、まずはペーパーテストの点数を上げてほしいという強い要望がみられた。
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校長のリーダーシップといっても、人事権も予算裁量権もない中で、リーダーシップを発揮しろというのは無理な話であるというご指摘であった。人事権については、具体的にあってほしい人事権というのは、どのような内容のものか。 |
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やはり、優秀な教員が欲しいという一言に尽きる。 |
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優良企業というのは顧客満足度も高いが、従業員満足度も高い。 |
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実際に「新しいタイプの学校運営の在り方に関する実践研究校」に勤務している教員から、例えば勤務時間などの面において苦情が出たりするようなことはないか。 |
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本校においては、自分の時間を犠牲にしてでも教育に熱を注いでいる教員が多い。 |
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その意味では、教員が目標を見失って不安になることがないよう、学校の運営方針を明確に示すことが必要。 |
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現実には、いつまでも教員の奉仕的なものに頼っているわけにはいかないのではないか。 |
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土曜日の夜からの地域住民との会議に出席する必要があるのなら、その勤務時間の休暇への振り替えを柔軟に認めるなどの法的な措置も必要となってくるのではないか。現行制度で振り替えは一日単位でしかできない。
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学校評価について過去の体験でいうと、個々の学校は非常によいものを作っている。ところが、公表という点が全然進んでいない。公表するという意識がない。 |
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それぞれの学校では、どのような取組をされているか。 |
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従来は学校が自己評価するシート、項目を外部評価にも使っていた。ところが、最近は評価する側から評価項目も自分たちで作りたいという動きがみられる。 |
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そういった点からも制度に対する理解と学校運営に関する関心の高まりを感じる。 |
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この「新しいタイプの学校運営の在り方に関する実践研究」に取り組まれての感想をお伺いしたい。 |
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この試みをずっと続けることによって、日本の学校が変わる可能性はあるか。 |
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あると思う。 |
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ただ、校長と「地域学校協議会」とのせめぎ合いはものすごいエネルギーを必要とするという懸念もある。
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英国の例をみても、なにかを変革しようとする際はどうしても利害関係をめぐって様々な衝突が起きる。 |
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英国での経験からすると、日本の学校では会議がやたらと多く、また、運営もうまくないように思う。 |
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英国では、大体会議は1時間位で終わり、議論も後戻りせず、効率的に行われている。民間から学校に入られたという立場から、このような効率性ということについてはどのようにお考えか。 |
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ご指摘の、職員会議の効率性の改善にも取り組んでいる。 |
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職員会議の一週間前に、校長である私と教頭と教務主任で議題すべてに目を通し、会議にかけるかどうかを決定する。その後、資料をセットして前日までに各教員に配布し、目を通して意見を考えておくことを求めるようにした。 |