小学校段階の英語教育の目標については、
が考えられる。
すなわち、1の考え方が英語のスキルの向上を目標とするのに対して、2の考え方は、英語を用いて、言語や文化に対する理解、積極的にコミュニケ-ションを図ろうとする態度、国際理解を深めることを目標とするものといえる。
1の考え方については、例えば、音声面でのスキルの高まりは経験上ある程度期待できるが、小学生にとっては会話表現や文法などの面でのスキルを実際に活用できる場面は限られていることから、多くの児童にとって、中学校に入学するまで英語に関する興味・関心を持続することは難しいのではないかといった懸念がある。
また、研究開発学校の実践等から、小学校で英語を学習してきていない生徒も、中学校入学後ある程度の期間が経過すると、会話表現や文法などの面でのスキルについてはさほど遜色がない水準に達するとの指摘もある。
2の考え方については、中・高等学校において実践的コミュニケーション能力を育成するための素地をつくることができること、グローバル化社会の中で求められる国際コミュニケーション能力の育成や学習意欲の継続、国語力との調和という点では優れているが、コミュニケーションを図ろうとする態度や国際理解は、客観的に測定したり検証したりすることが難しく、その成果が見えにくいという懸念がある。
外国語専門部会としては、こうしたことを総合的に勘案すると、中学校での英語教育を見通して、何のために英語を学ぶのかという動機付けを重視するとの観点や、言語やコミュニケーションに対する理解を深めることで国語力の育成にも寄与するとの観点から、2の考え方を基本とすることが適当であると考える。
そして、この場合においても、1の側面について、小学生の柔軟な適応力を生かして、英語の音声や基本的な表現に慣れ親しみ、聞く力を育てることなどは、教育内容として適当と考えられる。
小学校段階において英語教育を実施することについては、国語力の育成との関係を懸念する指摘が見られる。例えば、先述の英語教育意識調査によれば、小学校で必修とすることに消極的な回答をした教員や保護者の中で、「正しい日本語を身に付けることがおろそかになると思うから」と回答する者が約4割となっている。
教育課程部会においては、言語を習得するということは、その人の論理に関わる重要な問題であって、物事を考えるときには日本語を用いて考えるので、ヨーロッパの言語を取り入れて、思考能力は大丈夫か慎重に考える必要があるとの意見や、小学校教育では、日本語を正しく使える、自分の思いをきちんと相手に伝えることができることが重要であるとの意見があった。
外国語専門部会においては、英語を学習することは、国語力の育成と対立的にとらえるべきではないのではないか、広い意味での言語についての感覚が高まり、国語力の育成に良い影響を与えるということも考えられるのではないかとの意見が数多く示された。例えば、次のような意見である。
これまでの研究開発学校の取組や諸外国での聞き取り調査などにおいて、週1~2時間程度の英語教育を行うことで、国語力に支障が生じたということは把握されていない。文部科学省が実施したスクールミーティングでは、最近の子どもたちの一般的な状況としてコミュニケーションが取れなくなったという指摘があるが、研究開発学校の取組においては、英語を学ぶことにより、国語など英語以外の教科でも積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲や、日本語できちんと話をしたり注意深く聞こうとする態度が養われたり、日本語という言語に対する意識が高まったりするなどの良い点があったとの指摘がある。
EUでは、言語教育の多様化を進めており、母語以外に2つの言語を学ぶべきであるとしている。そのための各国共通のカリキュラムのガイドラインとして「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠」が作成されている。EUの「教育と学び(教育とトレーニングに関する白書)」においては、「他の言語に接すると母語が堪能になるのみならず、言語教育が母語の習得をも容易にする」とされている。
外国語専門部会としては、小学校の英語教育を充実するに当たっては、次のような方向で検討することが適当であると考える。
現行学習指導要領においては、中学校の外国語教育は、「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う」ことを目標としている。また、高等学校の外国語教育では、「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、情報や相手の意向などを理解したり自分の考えなどを表現したりする実践的コミュニケーション能力を養う」ことを目標としている。
教育課程実施状況調査の結果では、書くことについて良好でなく、特に内容的にまとまりのある一貫した文章を書く力が十分身についていないので、例えば、文レベルでなく文章レベルの訓練が必要である。
外国語専門部会の議論の中では、話すことについて、英語が使えるというレベルでは十分でないので、基本的な英語の音声の特徴をとらえ、正しく聞き取り発音することができることなどの技能を定着させる必要があるとの意見があった。
教育課程実施状況調査の質問紙調査の結果によれば、「英語が大切である」、「ふだんの生活や社会に出て役立つ」と考えている中学生は、他の教科に比べて多い。一方で、「好きだ」という割合は他の教科とさほど変わらないが、学年が上がるにつれて減少する傾向にある。
また、英語の授業が「分からないことが多い」、「ほとんど分からない」と回答する生徒の割合が中学校1年で2割、中学校3年で3割近くあるなど、他教科より高い傾向にあり、学年が上がるにつれて増加する傾向にある。さらに、他教科に比べ、成績上位層と下位層への分布が広範にわたっている。
「英語が使える日本人の育成のための行動計画」において、国民全体に求められる英語力として、例えば、中学校卒業段階では「挨拶や応対、身近な暮らしに関わる話題などについて平易なコミュニケーションができる(卒業者の平均が英検3級程度。)」、高等学校卒業段階では、「日常的な話題について通常のコミュニケーションができる(卒業者の平均が英検準2級~2級程度。)」という目標が示されている。
なお、中学校においては、聞くこと、話すことに重点を置くこととされているが、同時に、読むこと、書くことも取り扱うこととされている。これまでは、中学校に入学した段階で、四技能を一度に取り扱う点に指導上の難しさがあったが、小学校の英語教育を充実することとなれば、これを解消ないし緩和することができるとの意見もある。
こうした課題を踏まえつつ、高等学校の教育までを見据えて、小学校、中学校、高等学校の外国語教育がそれぞれどのような役割を果たすべきか検討する必要がある。
外国語専門部会としては、小学校の英語教育を充実するに当たっては、小・中・高等学校の教育目標について、次のような方向で検討することが適当であると考える。
このように、高等学校までの英語教育の目標や内容を整理することによって、英語力向上の道筋を明確にし、小・中・高等学校教育の連携を密接なものとすることができると考える。小学校における英語教育は、会話表現、文法などの英語のスキルを身に付けさせることを直接のねらいとするものではない。小学校では、この段階にふさわしい英語でのコミュニケーション活動を行うことが、中・高等学校での英語教育の改善とあいまって、現行学習指導要領で目標としているところの実践的コミュニケーション能力の向上につながるものと考えられる。
教育目標に関する上記1(英語のスキルをより重視する)及び2(国際コミュニケーションをより重視する)の考え方に基づいて、国語力の育成との関係、中・高等学校における英語教育との関係についての検討を踏まえて、具体的な教育内容を検討すると次のような内容が考えられる。
上記1の目標を踏まえると、それに即した教育内容としては、例えば、英語の歌、物語、会話などに接することにより、英語の音に慣れること、聞くことを中心としながら、関連して、話すことなど音声面での言語活動が基本となると考えられる。その際、基本的な単語や表現例を用いて英語で聞くこと、話すことなどの言語活動を行うことが考えられる。(なお、読むこと、書くことについても、一定の単語、慣用表現を小学校段階において学習することも考えられるとの意見がある。)
上記2の目標を踏まえると、それに即した教育内容としては、例えば、実際に英語でコミュニケーションを行ってみることにより、日本語とは異なる言語に触れ、言語の面白さ、豊かさ等に気づかせることが基本となると考えられる。その際、例えば、挨拶をする、簡単な質問をする、自分の好みを伝えるなど、簡単な表現を理解したり、用いたりする等の言語活動を行うことが考えられる。また、ジェスチャーなどの非言語的手段の役割を理解させること、多様なものの見方や考え方を理解させること、言語や文化に対する関心を高め、理解を深め、これらを尊重する態度を身に付けさせること等が考えられる。
上記の1と2の教育目標をどのように組み合わせるかによって、具体的な教育内容が設定されることとなる。仮に、上述のように、2の考え方を基本として、1の考え方を組み合わせることとすると、次のような教育内容が考えられる。
外国語専門部会としては、子どもにとって身近な言語の使用場面を設定し、英語でのコミュニケーションを体験させることでコミュニケーションに対する積極性を身に付けさせるとともに、それに適したテーマで言語や文化(国語や日本の伝統文化など)について理解させることを基本とすることが適当であると考える。その際、テーマにふさわしい基本的な単語や表現例を用いることなどにより、音声面を中心としたスキルを身に付けさせることを組み合わせていくことが望ましいと考える。また、英語を学ぶことで、異文化理解だけでなく、国語や我が国の文化についても併せて理解を深めることができるような内容とする必要があると考える。こうした考え方を基にして、今後さらに専門的な検討を進める必要がある。
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