子ども・子育てビジョン(抄)

第1 子どもと子育てを応援する社会に向けて

○子どもが主人公(チルドレン・ファースト)

  子どもを大切にする社会をつくりたいと思います。それはわたしたち人間すべてが子どもである時代を経て、大人へと成長する存在だからです。
  子どもは社会の希望であり、未来の力です。子どもの笑顔があふれる社会は個人の希望や夢を大切にする社会です。だからこそ社会全体で子どもと子育てを応援していきたいと思います。
  子どもにとって安全で安心な社会は、すべての人にとっても安全で安心な社会でもあります。キッズデザインの普及や、質の高い子どもの居場所づくりは、日本経済の活力にもなりえるのです。わたしたちは子どもが社会の主体的な一員であると位置づけ、その子どもと子育てを国、地方、企業(職域)、地域、NPO、家庭、個人など社会全体で応援する姿勢を明確に打ち出すことで、豊かな日本社会をつくり続けていきたいと考えています。
  また近年、家庭や家族の形態、親の就業の有無や状況、個人のライフスタイルは実に多様化しています。離婚や死別によるひとり親家庭、虐待を受けた子どもたち、障害のある子どもたち、定住外国人の子どもたち、など特別な支援が必要な子どもが増えています。「教育の格差」「子どもの貧困」の問題が懸念されている時代だからこそ、格差や貧困をなくし、その連鎖を防止していくことがわたしたちに求められています。
  わたしたちは、子どもの権利条約も踏まえ、すべての子どもたちが尊重され、その育ちが等しく確実に保障されるよう取り組まなくてはなりません。

○「少子化対策」から「子ども・子育て支援」へ

  そもそも、この国は、子どもを生み育てるという希望がかなえられる社会になっているでしょうか。
  これまで「少子化対策」として、さまざまな計画の策定や対策が講じられてきました。しかしそれが目に見える成果として、生活の中では実感できない現状にあるのではないでしょうか。
  若者が雇用など将来の生活に不安を抱き、結婚や出産に関する希望の実現をあきらめ、子育て当事者が悩みを抱えながら苦労しているといった現実があります。
  これまで進められてきた少子化対策の視点からは、真に子ども・若者のニーズや不安、将来への希望に応える政策を生み出すことはできなかったのです。
  わたしたちは当事者の目線で、子ども・若者の育ち、そして子育てを支援することを第一に考え、個人が希望を普通にかなえらえるような教育・就労・生活の環境を社会全体で整備していかなくてはなりません。
  各種の調査によれば、多くの若者が将来家庭を持つことを望み、希望する子どもの数は平均2人以上となっています。家庭を築き、子どもを生み育てるという個々人の選択が尊重され、それが実現される社会を築くことが大切です。
  子どもと子育てを応援することは、「未来への投資」であり、子ども手当の創設は、その大きな一歩です。子ども手当等の支援と教育や保育等のサービスとを「車の両輪」としてバランス良く組み合わせて、子ども・若者と子育てを応援する社会をみんなで作り上げていきたいと考えています。

○生活と仕事と子育ての調和

  子どもの成長、子育て、個人の生活、仕事をバラバラに切り離して考えることはできません。さらに、家庭や職場における男性と女性の役割についてもあわせて考えていく必要があります。
  例えば、我が国の女性の年齢階級別の労働力率を折れ線グラフにした際に見られる、いわゆる「M字カーブ」を台形型にしていくことは、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現でもあり、保育サービス等の子育て支援策や、職場や家庭における男女の役割のあり方とも密接に関連する課題です。
  「子ども・子育て支援」を進める際には、「男女共同参画」「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」「子ども・若者育成支援」のそれぞれの施策との密接な連携を図っていく必要があります。
  若者の雇用を確保し、出産と子育ての環境を整備すると同時に、男性と女性の仕事と生活の両方を調和させていくことが、安定的で持続可能な経済社会の実現へとつながるものと考えています。
  子どもと子育てをみんなで支えるセーフティネットを協力してつくりあげていきたいと思います。
  次代を担う子どもたちが健やかにたくましく育ち、子どもの笑顔があふれる社会のために、この「子ども・子育てビジョン」は、子どもと子育てを全力で応援します。

第2 基本的な考え方

1.社会全体で子育てを支える

○子どもを大切にする

・どのような状況にある子どもであっても、多様性を尊重し、困難な状況に対しての支援を行うことにより、すべての子どもの生きる権利、育つ権利、学ぶ権利が等しく確実に保障されることを目指します。

○ライフサイクル全体を通じて社会的に支える

・多様な家族形態や親の就労の有無に関わらず、すべての子どもの育ちと子育てを切れ目なく包括的に支えます。

○地域のネットワークで支える

・地域の子育て力を高め、それぞれの地域の特色を生かし、子どもと子育てを中心として地域のネットワークで支えるとともに、地域の再生を目指します。

2.「希望」がかなえられる

○生活、仕事、子育てを総合的に支える

・結婚や出産は個人の決定に基づくものであることは言うまでもありません。個人の希望する結婚、出産、子育てを実現するという観点から、子どもを生み育てることに夢を持てる社会を目指します。

○格差や貧困を解消する

・子どもがいる現役世帯の世帯員の相対的貧困率は、2007年の調査で12.2%、そのうち、ひとり親世帯については54.3%となっており、OECD諸国の中でも高い水準であることが課題となっています。
・親の経済力や幼少期の生育環境によって、人生のスタートラインの段階から大きな格差が生じ、世代を超えて格差が固定化することがない社会を目指します。

○持続可能で活力ある経済社会が実現する

・男女が互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなくその個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現を目指します。
・若者、女性、高齢者、障害のある者など働く意欲と能力を持つすべての人の社会参加を実現することにより、活力ある社会が実現します。
・将来世代に負担を先送りするのではなく、社会全体で必要な費用を賄うための負担を行っていくことが必要です。
・我が国の合計特殊出生率は、平成17年に1.26と最低を記録し、平成20年には1.37と3年連続で上昇しましたが、この動きが確固たるものになれば、少子化の流れが反転し、人口の急激な減少スパイラルからの脱却が図られます。

※結婚や出産に関する個人の希望が実現した場合の合計特殊出生率は、1.75程度になるものと試算されています。

第3 3つの大切な姿勢

1.生命(いのち)と育ちを大切にする

『一人ひとりの子どもが幸せに生きる権利、育つ権利、学ぶ権利を大切にします』

○妊娠・出産の安心・安全と子どもの健康を守るための環境整備や支援を進めます

・安心して妊娠・出産できる家庭、地域、社会をつくり、生まれてくる子どもたちを歓迎できるよう、妊婦健診や周産期医療など、安心・安全なお産ができる環境整備や支援を進めるとともに、生涯を通じた女性の健康支援(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を図ります。
・子どもたちの健康を守り、親の不安を軽減するため、小児医療の充実を図ります。
・子どもが欲しくてもできない方々の悩みや苦しみを少しでも軽減するため、男女を問わず、不妊治療への支援を進めます。

○子ども手当の創設や高校の実質無償化などにより、すべての子どもの健やかな育ちと教育の機会を確保します

・教育を含む子育て負担の軽減を図りつつ、次世代を担う子どもたちを社会全体で支える観点から、「子ども手当」を創設し、高校の実質無償化に取り組みます。

2.困っている声に応える

『子どもや子育て家庭の不安を解消し、困っている声に応えます』

○保育所に入れない子どもたちや放課後の居場所のない子どもたちを抱える子育て家庭に、十分なサービスが提供されるよう環境整備を進めます

・保育所の待機児童を一刻も早く解消するため、既存の社会資源を最大限に有効活用することなどにより、サービスを拡充するとともに、すべての子どもがどこに生まれても質の確保された幼児教育や保育が受けられるよう、幼児教育、保育の総合的な提供(幼保一体化)を含めて、子どもや子育て家庭の視点に立った制度改革を進めます。
・放課後児童対策について、必要とする人がサービスを受けられるよう量的な整備とともに、質の改善を図ります。

○一人ひとりの子どもの置かれた状況の多様性を社会的に尊重し(インクルージョン)、ひとり親家庭の子どもや障害のある子どもなど、特に支援が必要な方々が安心して暮らせるよう支援するとともに、子どもの貧困や格差の拡大を防ぎます

・ひとり親家庭(母子家庭・父子家庭)が安心して暮らせるよう、子育て・生活支援、就業支援、経済的支援(児童扶養手当等)の充実を図ります。
・障害のある子どもが他の子どもたちと同じように健やかに育っていける環境づくりを行うとともに、一人ひとりのニーズに応じた一貫した支援を進めます。
・児童虐待を防止するとともに、社会的養護を必要とする子どもの増加や多様化に対応するため、家庭的養護の促進や施設機能の見直しなど、社会的養護の充実を図ります。
・多様な家庭や家族の形態に応じて、また、定住外国人の子どもなど特に配慮が必要な子どもたちについて、権利擁護ときめ細かな支援を行います。

3.生活(くらし)を支える

『若い世代や子どもの立場に立って、家庭や地域の生活を支えます』

○子どもや若者が円滑に社会生活に移行できるようにします

・社会経済情勢や雇用構造の変化を踏まえ、若い世代への就労・生活・自立に向けた支援など、「人生前半の社会保障」の充実を図り、若い世代の生活基盤を支えます。
・ニートやひきこもり等の困難を有する子ども・若者への支援については、新たに制定された「子ども・若者育成支援推進法」に基づく施策の展開を図ります。

○仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を推進し、いわゆる「M字カーブ」の解消など、女性が出産や子育てのために仕事をやめなくてもよいように、また、出産や子育て後に円滑に仕事に復帰できる社会が実現するよう、働き方の改革と職場環境の改善を進めます

・政労使の合意による「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「行動指針」を着実に実行に移し、社会全体として働き方の見直しを進めます。
・とりわけ若者など就労による経済的自立が可能な働き方ができる社会、結婚や出産、子育てに関する希望が実現される社会、性や年齢にかかわらず、誰もが自らの意欲と能力をもって様々な働き方や生き方が選択できる社会を目指します。

※「子ども・子育てビジョン」は、少子化社会対策基本法(平成15年法律第133号)第7条の規定に基づく「大綱」として定められたものである。

お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成22年11月 --