教育課程部会(第118回) 議事録

1.日時

令和2年7月27日(月曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 旧庁舎6階 第二講堂 ※WEB会議と組み合わせた方式

3.議題

  1. 個別最適化された学びについて
  2. 教育課程部会等におけるこれまでの検討の状況について
  3. その他

4.議事録

【天笠部会長】
 それでは,定刻になりましたので,ただいまから第118回中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会を開催いたします。
 本日はお忙しい中,部会に参加いただいたことにつきまして,誠にありがとうございます。本部会は,新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するため,対面会議とウェブ会議を組み合わせた方式で開催いたします。
 それでは,会議の留意事項及び本日の配付資料について,事務局から説明をお願いいたします。
【板倉教育課程企画室長】 今日は御出席いただきまして,ありがとうございます。前回に引き続き,本日も対面会議とウェブ会議を組み合わせた方式にて開催させていただきます。御不便をおかけすることもあるかと存じますが,何とぞ御理解のほど,よろしくお願い申し上げます。
 ウェブ会議と組み合わせた方式で行うことから,御発言に当たっては,インターネットでも聞き取りやすいよう,はっきり御発言いただく。御発言の都度,名前をおっしゃっていただく。ウェブで御参加の方について,御発言時以外はマイクをミュートにしていただく。御発言に当たっては,ウェブで御参加の方は手を挙げるボタンを押していただき,会場にいらっしゃる方は札を立てていただくという御配慮をいただけるとありがたく存じます。御協力のほど,よろしくお願い申し上げます。
 それでは,資料の確認をさせていただきます。本日の資料は,議事次第にございますとおり,資料1から4までがございますので,確認をお願いいたします。御不明な点等ございましたら,事務局までお申し付けください。
【天笠部会長】 それでは,御案内に従いまして,議題の(1)に入りたいと思います。個別最適化された学びについて,取り上げさせていただきます。
 本議案につきましては,本日は,まず奈須委員に,個別最適化された学びに関する,これまでの経過や考え方について御発表いただきます。
 その後,文部科学省初等中等教育局中川哲視学委員に,教育におけるコンピューターの活用について御発表いただきます。
 まずは奈須委員からお願いしたいと思いますけれども,奈須委員の後,中川委員から,続いて御発表をお願いするということで,その後,委員の皆さんから質問と御意見をお願いするという進め方とさせていただきたいと思います。
 それでは,まず,奈須委員から,およそ20分前後でお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【奈須委員】 奈須でございます。よろしくお願いいたします。
 資料と,それから,今日,パワーポイントを少し準備しましたので,それに沿ってと思います。
 近代学校への批判と改革には大きな2つの原理が存在していると思います。
 第1は主に教育内容に関わるもので,各教科の縦割りによる暗記中心の書物教育を批判し,子供たちが実社会の中で,身近で切実な問題を解決しようとする中で価値ある学びを実現するという原理で,今日でいう「生活科・総合的な学習の時間」,「社会に開かれた教育課程」,「教科等横断的なカリキュラム・マネジメント」,「合科的・関連的な指導」,「探究」などと深い親和性があると思います。
 第2は主に教育方法に関わるものですが,一斉画一的で没個性的な在り方を批判し,一人一人の子供の要求や必要感に根差した個別的で個性的な学習の機会を保障しようという原理です。これが今日のテーマである「個別最適化された学び」あるいは「個に応じた指導」ということにつながるものだと思います。
 初期における個別化された学びの実践としては,1920年代,米国のダルトン・プランなどが有名です。この写真にございますが,我が国でも同時期,奈良女子高等師範学校附属小学校等において,例えば毎日,第1校時を「特設学習時間」として,子供一人一人の興味,必要感に応じた自由で個別的な学習を実は展開していました。
 その位置づけについて,当時,同校主事の木下竹次は,「学習者は,この時間は独自に材料と場所と用具と指導者とを選定して学習する」と述べていますし,また,全ての子供に価値ある学びが確実に生じるよう,「全校の教師は各学科,教室または運動場,学習園等に出て,自分の下に集合する各学年の生徒を個別的に指導する」としています。
 なお,同校では個々人による自立的な学習を「独自学習」と呼びますけれども,同時に集団の中で相互に学び合う「相互学習」も大切にしていて,学習過程としては,「独自学習」から始まり,「相互学習」に入り,「独自学習」で終わるといった流れを考えていました。つまり,個別化された学びと集団での学びは共存できますし,むしろ互恵的な関係にあるということが100年前から知られていたということになります。
 1950年代になると,心理学を中心に教授・学習研究が進んでまいりまして,個別化された学びの在り方にも変化が生じます。
 まず,スキナーがプログラム学習とティーチング・マシンを開発しています。
 また,クロンバックがATIの考え方,学習者の適性と処遇には交互作用があって,両者の組合せによって学習効果が異なってくる。つまり,何が効果的な指導法であるかは,その指導を受ける学習者により変わってくるということを指摘します。これは,学力保障には個別最適化が必要であり,また,それによって公正さが担保されるという根拠をもたらしたものだと思います。
 1963年になりますと,キャロルが学習適性を学習者が必要とする時間の量だと定義して,もし十分な時間が与えられれば,全ての学習者が学習課題を習得できると主張します。また,これを受けてブルームは,形成的評価の考え方と組み合わせて完全修得学習,いわゆるマスタリー・ラーニングを樹立しました。我が国では梶田叡一先生を中心に,この動きが導入され,また,独自の発展を遂げたことは,よく知られていることかと思います。
 また,米国では教育の現代化の動きの中で,ピッツバーグ大学のIPI,ウィスコンシン大学のIGE,全米行動科学研究所のPLANといった政府からの財政支援を受けた個別学習用の教材,コース開発の大型プロジェクトが展開したということが知られています。
 1967年になると,イングランドでプラウデン報告書というのが出されます。これは子供中心,生活重視の考え方を公的に認めたもので,米国でも個別化された学びを重視する,いわゆるオープンエデュケーションが広がりを見せます。
 同時期,日本では,1971年の中教審答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」が出され,「国民の教育として不可欠なものを共通に修得させるとともに,豊かな個性を伸ばすことが重視されなければならない」とされています。また,この2つの目標を実現するために,「個人の特性に応じた教育方法によって指導できるように改善されなければならない」ということが既にこの時期に打ち出されていました。
 この理念の実現に向け,当時,国立教育研究所にいた加藤幸次氏は,2つの目標に対し,それぞれ「指導の個別化」と「学習の個性化」という概念を対置するというモデルを考案します。
 ここで「指導の個別化」と呼ばれるのは,全ての子供に共通の基礎学力を等しく着実に保障するという目的に対し,一人一人に最適化された指導法あるいは学習時間,教材等の豊かで柔軟な提供を進めるという考え方です。
 一方,「学習の個性化」とは,全員が共通に身につけた基礎学力の土台の上に,その子ならではの得意分野やこだわりを持つ領域に対し,学校教育のリソースを集中的に投下することで,自己理解の推進,アイデンティティーの確立,あるいは将来のキャリアを展望する基盤の形成を促すものでした。
 このような考え方に立った実践が,当時,全国で展開されるわけですけれども,その例として,愛知県東浦町立緒川小学校の取組を紹介したいと思います。この学校では,通常の学級単位での集団学習ももちろんやっているわけですけど,それ以外に,「はげみ学習」,それから,「週間プログラム」による学習と呼ばれていますが,いわゆる「単元内自由進度学習」,それから「オープン・タイム」という3つの個別化された学習をカリキュラムに位置づけて実践しておりました。
 「はげみ学習」というのは,既に一斉指導等で教わった内容について,その定着度合いを個別的に確認し,問題のある箇所に対して補充的な再学習を施すことにより,全ての子供に基礎学力の着実な保障を狙うという個別化された学びです。文字,読書,数と計算から楽器の演奏,器械体操等の領域について,毎週1回,85分間,2年生以上の全校体制による無学年制で実施されていました。子供たちは各自のペースでカード等に取り組み,全問正解できれば次の段階に進みますが,不正解であれば,教師による個別指導や各種メディアを活用した,この中にはコンピューターも含まれていますが,そういった自学による補充指導を行っていきます。
 「はげみ学習」は無学年制で実施されますので,前学年の内容を学び直すということも行われていました。また,定着に問題がなく,学習カードをどんどん終えていく子供も出ますけど,当該学年を超えて先の学年の内容を先取りする,いわゆる早修は認められていませんでした。
 「はげみ学習」は,こんな様子です。1985年当時,これは私が学生時代に同僚が撮った写真ですが,こんな実践が日本で行われていたということです。子供たちは,各自のペースと判断で必要な学習材を手に取ります。また,個別化された学びなので,教師による丁寧な個別指導がいつでも受けられるということになっていました。また,当時,最新鋭の機器だったパソコン,写真にありますが,これも既に活用されていたということでございます。
 「単元内自由進度学習」,「週間プログラム」による学習ですけれども,これは先ほどの「はげみ学習」がドリル的な習熟を狙うのに対して,概念形成や高次の思考も含めた,より一般的な教科内容を個別化された学びとして実施するためにつくられたものです。子供たちは,時数,学習の流れ,利用可能な学習材,学習機会を記した「学習の手引き」というカード,これは一番最初に来るカードですけれども,それに基づいて,各自で計画を立てて,自由に学んでいきます。単元内自由進度ですから,学習の進行については基本的に子供に委ねられますので,ある特定の時間を見ると,同じクラスの子供が違う課題に取り組んでいたり,異なる活動をしていることもあるということです。ただ,確実に学習が進められるよう,途中二,三か所チェックポイントを設けてあって,そこでは,教師による確認,それから,必要な指導が行われていました。
 単元内自由進度学習には,さらに2つ,特徴があります。1つは,複数教科を同時進行で進める。よくやられたのは2教科2単元を同時進行で進める。子供たちは,どっちからやるか,食事をするときに,好きなものから食べるか,それは後に残すかみたいな発想ですけど,自由に時間を組み合わせて進めていきます。もう一つは,子供の学習適性に配慮して,「学習の手引き」が数種類作られるということです。これはATIの考え方に基づく工夫だと言えますけれども,教育工学的な指導の最適化の立場には立たずに,教師は個々の子供にコースの推奨はしますが,最終的な選択は子供に委ねられていました。これにより,当時で言うと自己学習能力,今日でいうメタ認知や学習の自己調整能力の涵養が目指されていたということになります。
 これは他校のものになりますけど,「学習の手引き」の中身です。左側にガイダンスプリントというのがありますけど,この学校では,学習に先立ち,一体何を学ぶのか,なぜ学ぶのか,どんないいことがあるのかを子供たちにしっかり伝えるということになっています。それから,右側にあるのが「学習の手引き」で,利用可能な時間,単元の目標と構成,それから評価,評価もいろいろな方法でやっていますね。それから,学習の流れと利用可能な学習材があります。また,活動としては,理科のてこの学習なので,さおばかりをつくるとありますけど,個別化ですが,活動的,体験的な内容も入っています。また,一番下のところに,早く進んだ子供たちに対して,子供たちもやりがいを感じるような発展的,魅力的な学習材を配置しています。
 「週間プログラム」の学習の様子ですね。実験や観察も自分のペースで進めます。その中で,自然に教え合いや学び合いも生じていました。それから,教師の主な仕事は,子供の様子の見取りということになるかと思います。これをすることで,子供たちの様子をしっかり見取って,着実な学習を目指していくということになります。
 「オープン・タイム」は,自分の興味,関心に基づいて,自由に学習内容を設定して探究する学習です。今日でいう個人総合,個人により課題が異なる総合的な学習の時間に相当します。当時,3年生以上の子供に対して,全校ティーム・ティーチングで,毎週1回,85分,実施されていました。奈良女子附小の「特設学習時間」と同様な学習ですけど,1つのテーマを最低4回,1か月連続するということで,子供たちに計画力を育てる。思いつきでやらないということですね,それから,自己評価能力の育成を目指していました。
 「オープン・タイム」の様子です。例えば,室町時代の学習をきっかけに,お茶のお手前を体験的に学んでいる子供,バイクを解体して,その仕組みを納得がいくまで探究する子供,手芸をやっていますが,地域のボランティアから教わる。つまり,教師だけではなくて,いろいろな人に学び,教わるという経験が,当時,できたようですね。
 3つの個別化された学びの様子を見る中で,特徴的なのは,様々な場や姿勢でリラックスして学んでいる。正座している子もいれば,こたつでやっている子もいますが,これはとても大事なことかなと,リラックスして集中する。当時,学習中に自由に利用できるお茶のコーナーなんかも準備されていました。
 緒川小では,当時,カリキュラムの最大4割が個別化された学びになっていました。逆に言えば,個別化された学びをかなり徹底して実践しても,6割は集団を基盤とした学びになっていたということです。また,時数的には当然ですが,標準授業時数を厳守します。個別化された学びというのは,基本的には教育方法の工夫なので,主に内容に係る授業時数にはあまり支障が出ないということが関係しているかと思います。
 それから,緒川小学校のカリキュラムについての追跡調査,効果研究が幾つかありますけど,例えば1990年3月の卒業生の大学,短大の進学率は56.4%,当時の愛知県の平均が37.9%なので,18.5ポイント高いということです。また,近隣の卒業生と比べて,高校生の調査ですけど,自分でテーマを決めたり選んだりして,いろいろな活動を通して学習するのが好き,図書館,博物館,美術館などに自分から行く,現在社会の問題について関心がある,あるいは小学校で学んだことが役に立っているといった項目について,肯定する反応が多かったということが知られています。
 2000年以降になりますと,また,いろいろな動向が起こってきます。今見てきた個別化・個性化教育は,「多目的スペース」への補助,「ティーム・ティーチング」や「個に応じた指導」などの政策を追い風に,90年頃,非常に隆盛しましたが,2000年を境に衰退していきます。
 理由は幾つかありますけど,1つは,当時の学力低下論の中で,個別化が学力の低下や格差を助長するという議論があったことがあるかと思います。
 もう一つは,学習理論としての状況的学習論とか社会的構成主義が出てくる中で,これらは他者との協働の中で知識が社会的に構成されるという考え方ですので,個別化は孤立化,それまで個別化はindividualizedとかpersonalizedと言われていましたけど,それはisolatedなんだという批判が行われた。これは日本だけではなくて海外でも広く行われた批判です。
 一方,2004年,イングランドではパーソナライズド・ラーニングということを教育の柱に展開したりもします。
 そして近年,やっぱり注目すべきは,AIを用いた個別学習システムの開発と普及が進んでいるということです。学習者の反応から知識状態を推測し,出題内容,ヒントを最適化するという技術自体は,かなり前にインテリジェントCAIとして成立していたと思いますけど,より大規模なデータに基づく精緻で迅速な判断,柔軟な対応が可能になっているということは注目すべき動きかと思います。
 以上のことを踏まえて,今後に備えるために,私なりの5つの論点を申し上げたいと思います。この5つです。一つ一つ見ていこうと思います。
 まず,個別化された学びによって何を目指すかという目標論,学力論をはっきりしていく必要があるだろうということです。個別化された学びには「指導の個別化」と「学習の個性化」という2つの目標論があるというのは見てきたとおりですし,いずれに対しても,強みや可能性があるかと思います。これをどう考えるかということです。
 また,個別化された学びに対しては,学力の低下や格差をもたらすという批判が,しばしばなされます。典型は習熟度別指導だと思いますけれども,習熟度別の学習集団に対して最適化された教材や指導法を持ってくるというのが,例えば完全修得学習なんかでも大きな前提になってきます。これに対し批判の多くは,単に習熟別に集団だけを編成した実践を取り上げていて,それは個別化された学びとはとても言えないということだと思います。つまり,原理的に忠実ではない実践,これが広がりを見せているということは注意すべき問題だと思いますが,それによって個別化された学び自体を原理的に批判するのは誤りだっただろうと思います。今後議論する中で,個別化された学びが,どんな原因で,どんな成果をもたらすのか,正確な理解を押さえていく必要があるかと思います。
 2つ目は,個別化によって生じる個人間での進度の差をどう考えるかという問題です。学びに困難を感じている子供のフォローアップに重点を置くというのが,日本の実践的な伝統だったと思います。遅い子に前年までの内容を再学習する機会を保障するということ,さらに,先ほどもありましたが,早い子には発展学習を工夫することで,単なる足踏みにならないようにという配慮を日本の現場はしてきました。一方で,海外などの事例を見ると,ハイ・タレントな子供の才能教育をどうするかということもあり,これも当然,個別化された学びの範疇であろうと思いますが,そこでは早修が認められていることも少なくありません。今後,飛び級などの早修まで認めるのか,あるいは,単元なり,学級,学年の枠内での動きにとどめるかということは,個別化された学びをめぐる重要な論点だろうと思います。
 3つ目は,個別化された学びが暗黙裡に想定している学習論への自覚です。プログラム学習,初期のCAIあるいは「はげみ学習」などは,かなり行動主義的な学習を基調としています。既に一定の意味理解が生じている内容について,さらなる習熟,自動化を効率的,効果的に行うために個別化しているということでしょう。一方,「単元内自由進度学習」をはじめとした多くの個別化された学びでは,学習とは意味理解であり,それに伴う個人の知識構造の量的・質的な変化だと考える認知主義的な学習論を想定していますし,それに合った,いろいろな教材が開発されていたと思います。
 状況論の立場は,個別化された学びに対しては批判的ですけれども,人間の学習の全てが協働的な場での知識生成としてなされるわけではないでしょうから,個別化された学びを学校で実施することには十分な妥当性があると思います。
 第4に,個別化された学びの在り方に対する様々な意思決定,とりわけ最適化の判断を誰がどう行うかということが重要だと思います。海外の取組では,子供の反応や学習適性に関するデータに基づき,教師やシステムが最適化の判断を一方的に行うということも少なくなかったと思います。一方,我が国では,必要な情報を全て開示しますが,最終的な判断は,原則として子供に委ねるということが多かったように思います。したがって,その場合,子供の意思により,推薦されたのとは異なる選択をするということも十分あるんですけど,結果的に,やはり,それではうまく学べないということもしばしばありまして,その経験を子供は省察し,次回以降に生かしていく。つまり,そういう経験を通して,子供がメタ認知の能力とか自己調整の能力あるいは自己理解を深めていくということですね,この辺りをどう考えるか。
 それから,この観点から危惧されることとして,今後ますます進展すると思われるAIによる情報推薦ということですね。これは子供にとっても,教師にとっても,無視や抵抗のしがたいものと映る可能性があるかと思います。情報推薦は様々な限界を持つと思いますけれども,ある1面においては,確度の高いものであればあるほど,利用者は,そのまぶしさというんですかね,それに幻惑されがちとなって,限られた枠組みの中での再生産を繰り返すという罠にはまるということは,僕らの日常でもよくあることかと思います。加えて,個人情報になりますので,学習ログの取得をどうするか,管理をどうするか,利用の在り方をどうするか,これについては,個人情報の問題あるいは人権等の問題で慎重な議論が求められると思います。
 最後,5番目として,個別化された学びの展開に不可欠な教材の現場への提供をどうしていくかということです。その体制づくりの問題です。我が国では,主たる教材としての教科書の実践への影響力がとても強いと思います。教科書はよくできていますが,一斉指導を前提に作られているので,そのままでは個別化された学びには使えません。これが学校や教師に対して大きな負担となる,イニシャルコストが高いということが個別化された学びの実践継続にとっての大きな問題でした。
 海外では,パッケージ化された教材カリキュラムが豊富に存在しますし,地域の教育センターに様々なパッケージが常備されていて,学校からの電話1本で,職員がそれを届けてくれるといったサービスも存在していたのを私も見たことがあります。
 そういう意味では,ICTを用いた個別学習システムの開発と提供には非常に大きな可能性があると思います。ただ,もちろんそこでは単なる量的拡大だけではなくて質的な向上,今,4つの論点で見てきたような事柄への十分な配慮・検討が必要だろうと思います。このことは,この動きが民間企業の活力を大きな頼みとしているということからも非常に重要です。少なくとも,行動主義的な学習論や工学的最適化の考え方に立脚したドリル教材ばかりが開発・供給されるといったことがないようにすることが大事だと思います。今後,体制の整備に関する官民,省庁を越えた連携,そこでの慎重な議論が大切だと思います。
 以上でございます。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは続きまして,中川視学委員から御発表をお願いいたします。
【中川視学委員】 私は,文部科学省の初等中等教育局の視学委員をしております中川と申します。よろしくお願いします。簡単に自己紹介させていただきます。初等中等教育局の視学委員と,その前に,実は2017年に文部科学省に入省しておりまして,プログラミング教育を推進しております。あと,GIGAスクールの推進も御支援させていただいているという立場でございます。
 私はもともとグローバルなIT企業に勤めておりまして,20年近くおりましたけれども,その後,その会社を退社して,IT企業を自分で起こしたところ,文部科学省に声をかけていただいて,公募に応募して,視学委員にいるという立場でございます。
 今日のテーマは,個別最適化された学びということですが,産業界では,コンピューターを利用して,今どんなことが行われているのか,マーケティングの側面ですけれども,お話をさせていただこうと思います。このテーマで話してもらえませんかというお話をいただいたときに,私,最初,パーソナライズと言っていたんですが,パーソナライズは個人化と産業界とかマーケティングの世界では言いまして,よくECサイトのショッピングサイトなんかに行くと,中川さん,こんにちは。あなたにお勧めの商品はこうですよというのがよく出てきますが,これが個人化で,個別最適化された学びというのは,インディビジュアルだったり,オプティマイズということだと思うんですけれども,マーケティングの世界だと,個人のさらに最小化された個別化のニーズというのを推論して提供するということでして,中川さんかどうかはどうでもよくて,渋谷の交差点に立っている50代の男性に,今どんなニーズがあるんでしょうか推論して,こんな商品どうですかと提案するということなんですね。あくまでも,個人を特定するかどうかはどうでもいい話という,2つのポイントがあって,よく活用されています。
 教育の分野で言いますと,先ほど奈須先生のお話もあったような,AIドリルというのがコンピューター,AIを使った教育のコンテンツということでよくお話しされますけれども,それ以外にも教育分野では,文房具としてのコンピューターの利用だったり,コンピューターサイエンスの教育といったようなところが今取り上げられています。
 教育の世界においてコンピューターが使われる背景というのは社会と連動していると思うんですけれども,社会の背景といたしましては,インターネットに接続するデバイスというのは2008年段階で世界人口も超えていまして,IDCの発表によりますと,2025年には416億台のインターネットにつながるコンピューター,IO機器デバイスが動いて,これがデータをどんどん生み出すと言われています。
 2019年の11月段階のインターネットの通信料というのを総務省がずっと公開されているんですけれども,コロナ前ということで,今,コロナ禍の状態でオンライン会議がなされているわけですから,インターネットのデータ量というのは,どんどん増えてきている。年々,大体15%から23%ぐらい増えているんですけれども,IDCの発表によりますと,2025年には80億ゼタバイトのデータ量がクラウド上に蓄積されると言われています。実は,クラウド上のデータというのは,全体の90%がここ2年ぐらいで蓄積されたもので,私たちは,爆発的にデータが増えているという現状を理解しておく必要があるということです。
 身近なケースで言いますと,連休中,あんまり車に乗らなかったんですけれども,車にはカーナビがついていて,渋滞情報を表示してくれますが,VICSというシステムがあって,皆さんも名前をお聞きになられたことあるかと思います。これは車が通ったかどうか検知するセンサーがいろいろなところに置いてあって,それが道路交通情報センターに集まって,FM波だったり,ビーコンの情報で車に配信されるという大規模なシステムで,それ用につくられたシステムですけれども,最近,スマートフォンの地図アプリを起動して車のナビをしてもらうと,かなり精度が高く,渋滞情報なんかを出してくれることがあると思います。これは何が起こっているかというと,私たちがスマホの地図アプリを起動して,ナビゲーションをセットすると,その情報が全部,クラウドの地図アプリを提供してくれている会社にデータがたまるわけですね。GPSの地図情報がありますので,これを何万人が使うと,今この道路をどれぐらいの人がどれぐらいのスピードで通過しているというのが分かるので,法定速度より遅かったら,渋滞しているんじゃないのということで赤く表示するというような仕組みがなされています。これは普段使っている我々の端末が,地図サービスやクラウドデータを通して生活を豊かにしている,いわゆるデジタルトランスフォーメーションの分かりやすい1つの例かなと思います。
 これをハッキングした,ハッキングというのは別に悪いことをしたわけではないんですけれども,仕組みを確認するということで,面白いことをされた方がいらっしゃって,カートにスマートフォンを何十台も乗せて,のろのろ歩いてみた。ここには地図情報,地図アプリが起動されたスマートフォンが置かれていますので,ゆっくり歩くと,あれ,この橋は,えらいたくさんのナビゲーションがセットされたものがゆっくり動いているから渋滞しているんじゃないのということで,地図上のこの赤いところが渋滞しているかのように表示された。この仕組みをよく理解した人がハッキングしたという,YouTubeでも出ているので確認していただければと思うんですが,現代社会において,今,たくさんのコンピューターがインターネットに接続してデータを生み出している。そのデータがコンピューターによって処理されて,私たちに届けられ,生活がどんどん豊かになっているという現状を考えると,データが生み出されて活用されるという仕組みをよく知っていて,それを上手に活用できるということは大変重要なことだと考えています。
 教育にこれがどう適応できるかという話に入る前に,すみません,前置きが長いんですが,地図の話をしましたので,自動車の世界ではどうなっているのか,自動車におけるコンピューターやAIの活用例を少しお話ししようと思います。
 こちらに表示した写真はテスラモータースのホームページのトップ画面ですが,もし,お時間と御興味のある方はページへ行っていただくと,これはアメリカの公道ですけれども,手を離した状態で自動運転をしている様子が御覧いただけると思います。もともと,テスラは2007年に創業されて,2010年頃に日本でも電気自動車が出て,もともと電気自動車の会社だと思っていたら,2015年にオートパイロットというのをリリースされて,これが翻訳すると「自動運転」となると思うんですが,私もたまたま友人がテスラに勤めていたもので,2016年に,乗せてくださいということで試乗させてもらいました。その当時,日本の公道では手を離すことは許されていなかったので,数秒だけ,本当にハンドルが動いているのかなというのを確認したんですけれども,未来社会というか,科学技術がこんなに進歩したのかと,かなりの衝撃を受けたことを覚えています。ただ,オートパイロットという訳がミスリードをする訳で,「自動運転」と訳してしまえるので,多くのユーザーが,車が勝手に自分を目的地に運んでくれると思って,手を離して,場合によっては,スマートフォンでゲームアプリなんかをしながら高速道路を運転してしまった結果,中央分離体に,自動運転,オートパイロットしている車が激突してしまって,大きな事故を招いた。これは2015,2016年ぐらいから2020年まで,結構,事故が出るたびに大きくニュースになっていますけれども,今の技術レベルでは,機械に完全に物を委ねてしまうというのは,まだ難しいということです。
 一方,これは庶民的なというか,ホンダのホームページから見せていただいたものですが,この連休中もこのプレゼンがあったので,私,ホンダのディーラーに遊びに行きまして,今,自動運転というと語弊があって,運転支援機能がついている,AIで操作する車で,一番安いの,どれぐらいですかと,150万円ぐらいで手に入るんですね。私の乗っている車もホンダ車で,車線の真ん中を走るようにアシストしてくれたり,前の車との距離が詰まり過ぎていたら車が自動的にブレーキ踏んでくれるというような機能がついています。現在の車の技術レベルで言うと,まだLEVEL2という,運転者が意思決定をするという前提で,車はあくまでもアシストしてくれるという機能ということです。当然,業界では最先端の研究が行われて,LEVEL3,4,完全に車が運転してくれるという世界を技術開発していて,これは早晩来るのではないかと言われているんですけれども,現段階では,まだ,LEVEL2です。
 自動車の運転って,私も教習所に通って,先生から教わって,ライセンスを頂きましたが,私は合宿でない,1か月弱ぐらいの期間で運転の技術を学びました。運転には,おおよそ正しい運転というものがあって,ルールがしっかり存在していて,運転をします。よくトロッコ問題なんかで,自動運転でどっちが正しいですかというのが難しいという話をされますが,そもそも,そんなにスピードを出さなければいいわけで,止まれるスピードで運転をするという前提で,機械が壊れない前提で,正しい運転が存在します。何よりも重要なことは,自動車産業というのは,今こぞって,IT,AIに投資をしている。私もIT企業出身なので,ちょっと調べてみましたら,今の運転支援機能を搭載している自動車のプログラミング,コード,行で表すというのは今日的ではないんですが,行数でいうと1億行です。私が昔所属していたグローバルなIT企業でマイクロソフトオフィスという製品を出荷していましたが,私がいた頃,2013のバージョンでいうと4,400万行ですね。なので,自動運転の車は倍ぐらいのコーディングがされているということです。このエンジニアが足りないというので,これは産業界でも問題になっているんですけれども,今日のテーマではないので。こういったAIがどのように動いているのかというのを,ベーシックな部分をしっかり理解しているのは大変重要だと思いまして,今日は,サンプルのデモというか,動画を持ってきました。
 私,文部科学省で先生方が小学生向けにプログラミング教育を行うサポートをしているんですけれども,今,小学生向けのプログラミングでも,AIを組み込んだプログラミングというのができるようになっていまして,これはスクラッチという子供向けのプログラミングツールで,実際に,笑顔か,悲しい顔をしているのかという写真を撮って,コンピューター判別させましょう,AIで判別させましょうというプログラムです。AIは,いきなり何も学習していない状態で物事を仕分ける,判別することはできませんので,教師データというのを与えてあげる必要があるんですね。その教師データを笑った顔と悲しい顔の写真を撮って,コンピューターに覚えさせます。その後,コンピューターに,もう一度別の顔を見せて,これは笑っていますか,悲しい顔をしていますかというのを判断させるんですが,実際にコンピューターに学習している動画を御覧いただきたいと思います。
 上の笑った顔というところに,これから写真を撮ります。男性の笑っている顔ですけれども,いろいろな角度で撮って,コンピューターに覚えさせました。今度は,悲しい顔をしている男性の写真をいろいろな角度で覚えさせたということですね。この覚えた写真をTrainingというボタンを押して,AIに悲しい顔と笑った顔を覚えさせる。今,男性が笑った顔をしていると,上の笑ったというインジケーター,オレンジのバーが出ます。実は,笑っているのに,とある方向を向いたときには悲しいとコンピューターは判断してしまっているんです,お分かりですかね。悲しい顔をしているのに,こちら側の方向を向くと,笑っているとコンピューターが判断してしまっている。実は,これはAIに対して,正しい情報,正しい教師データを与えなかったがゆえに,AIが判断ミスをしているというデモです。
 撮った写真を並べてみますと,このような写真です。笑顔の写真と悲しい写真,を連続写真で撮ったものですが,この写真の特徴をよく分析してみると,笑顔のときは左向きの写真が多いんです。悲しい顔をしているときは右向きの写真が多いんですね。コンピューターは,今回,この教師データから,もちろん,顔の眉毛の角度とか口を見ているんですけれども,それよりも何よりも,笑顔のときは左を向いていますよねということを学習してしまって,実際,悲しい顔をしているのに,左を向いたときには笑顔と判定してしまったということなんです。
 何が言いたいかといいますと,AIにはまだまだ限界がありまして,通常のコンピューターというのは,我々プログラマーがルールをつくって,それをプログラミングしていって,コンピューターに条件分岐をさせるんですけれども,AIというのは大量の教師データを与えて判断させるので,ルールを全部細かく決める必要がないという利点はあるものの,与えた教師データに間違いがあったり,偏りがあったりすると,AIは正しい判断をしてくれないということを,このデモで皆さんに御理解いただけるといいなと思って御用意しました。もちろん,最近は教師なしデータでAIを使うという事例もあるんですけれども,これもあくまでも振り分けして,クラスタリングしてくれるだけで,最終的にそのクラスが,例えば,笑っているのかというのを,ラベル付けは最終的に人間がしてあげる必要があって,人間の関与というのは非常に大きいということをお伝えしておこうと。
 先ほどのスライドと同じですけれども,ドライバーと車の関係は,車はあくまでもドライバーを支援してくれていて,最終的な判断は人間が行うということと,短い期間で免許が取れて,正しい運転というのが存在して,自動車産業はAIに投資しているというところを教育に置き換えてみますと,コンピューターは学習者の学習活動を支援してくれると今の段階では考えるべきだと。決定はしてくれないんだということですね。勉強の内容を支援してくれるというのが,先ほど先生がおっしゃった,例えばAIドリルとかコンテンツを提供してくれるということだし,こういう順番で勉強したらいいですよ,学習,例えば記憶をすればいいですよということを支援してくれる,学習の方法を支援してくれるということをコンピューターが担ってくれる可能性がある。ただし,今日は個別最適化ということですので,個別化はしてくれても,それが最適なのかどうかということは,先ほどの運転のケース,それから,笑顔と悲しい顔を判定するケースからも御推察いただけるように,人間が行っていく必要がある。背景としては,免許は合宿で1か月で取れますけれども,教育というのは,例えば大学まで行くとすると16年間,非常に長い期間を使って勉強,学習をするわけで,正しい教育とか正しい学習というのは,私たちプログラマーに御指示いただけるように定義できるでしょうかということがテーマとしてあります。ひょっとすると,この分野のこの記憶についてはこういうやり方というのはあるかもしれないので,そういったように分野を特定していくというのは非常に重要かなと思います。何よりも,教育業界と言っていいのか,教育の分野では,どれぐらいIT投資をしていますでしょうかというのが私たちにとっては非常に重要なところで,しっかりとした投資がないと,AIはまだ正しい判断はできないということですね。
 考察すべきポイントとしてまとめますと,特に今回,私は個別最適化された学びと,コンピューター屋にそれを問われているので,AIドリルとか,そういったものを念頭に置かれているのかなと思いまして,整理をしてみますと,学習方法とか手順が確立しているエリアというのはどこでしょうかと。もし,ここに用いると効果的ですよというのがあるようでしたら,そこに用いるといいのではないかなというのと,あと,人間が判断する領域はまだ大きいとすると,教育においては,学習者であったり,教員であったりということだと思いますが,用いるコンテンツの特性の理解,先生のお言葉で言うと「教材研究」ということになるかと思うんですが,それがどのぐらいのレベルを包含している教材なのかというのを正しく押さえている必要がある。
 あとは,自動運転で,最終的にはドライバーがハンドルを握るというところからも御推察いただけるように,ドライバーの腕が未熟であればあるほど,そこはしっかりとしたサポートが必要になるということを考えると,発達段階ごとに,活用方法に対する研究,例えばAIドリル一つとっても,これをどのように活用するのかという研究が非常に重要になってくるのかなと。それは本当に学習者にとって,コンテンツやメソッド,内容と方法が最適化されているのかというのを判断する必要がありますし,コンピューターが最適ではない問題をどんどんサーブしてくれて,それを延々解いてしまうということがあっていいのかということですね。
 あとは,教員がモニタリングをしたり,介入したりすることも教材においては重要かなと思います。
 最後のスライドになりますけれども,学習者にとって,この現状を考えますと,コンピューターを使わないという選択肢は,今,社会的にはないと私は思っているんですけれども,そもそも,コンピューターの理解をしっかりしたり,道具としてのコンピューターを上手に使うということに加えて,AIの利活用というのを考えていく必要がある。ただし,個別のAIドリルが,例えばいろいろなメーカーさんからバラバラ提供されたときに,教員がそれぞれのモニタリングシステムを全部見るというのは結構大変な作業になると思いますので,そういったものを統合的に見るような校務支援システム,今,事務的な要素が強いように私は感じていますが,指導や評価にもっと直結した,学習者が使うAIの教材と連携したようなものが必要ですし,そういったデータが集まってきたときに教師は意思決定をなされると思うんですけれども,意思決定を支援するようなシステムというものが今後求められるのかなと考えております。
 私の説明は以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは,先ほどの奈須委員,今の中川視学委員の発表につきまして,御質問,御意見がありましたら,御発言をお願いしたいと思います。手を挙げていただければ,こちらでそれを確認した後,発言をお願いしたいと思いますので,どうぞ,その意思を表示していただければと思います。まず,Zoomで参加されている方を優先し,その後,対面でこちらに出席されている委員の方という順にさせていただきたいと思います。Zoomで参加されている方,どうぞ手を挙げていただければと思います。よろしくお願いいたします。
 今,私のほうで,秋田委員,戸ヶ﨑委員,堀田委員,大島委員,その4人の方を確認させていただいておりますけれども,ほかの委員の方,ありましたら,どうぞ続けていただければと思います。
 それでは,今申し上げましたように,秋田委員,戸ヶ﨑委員,堀田委員,大島委員,この順でお願いしたいと思います。
 まず,秋田委員からお願いします。
【秋田委員】 東京大学の秋田です。
 奈須委員,中川視学委員から,大変,構造的で分かりやすい御説明をいただきまして,ありがとうございました。3点の質問をさせていただきたいと思います。
 1点目,いずれの先生も教師の役割について話されていたと思うんですけれども,特に奈須委員のほうで,指導の個別化,学習の個性化において,一人一人を見取るということであったり,それから,例えば,なぜ学ぶのか,何をどうして学ぶのかを事前に伝えていくというようなお話がありました。緒川小の場合は学校全体でそういうシステムをつくっていたと思うんですけれども,そうした教員の研修とか学校のシステムというものが,当時,どのようにつくられていたのか,あるいはそこに自治体がどう関与していたのかというところについて,やはり,個別最適化をしていく上で重要なことだと思いますので,教員側の研修のことを1点伺わせていただきたいと思います。
 2点目として,誰が最適化するのかということで,奈須委員からも,最終的に,子供一人一人が自分の最適化の学び方を学んでいくことが極めて重要だと話されました。今日の教育心理学等では,自己調整学習と言われるところを御指摘くださいました。そのためには,子供が最適化を学んでいく,個々の内容の支援だけではなくて,最適化を学ぶためにどのような支援が必要なんだろうかというところについての教師の働きであったり,学校の体制をお聞かせいただきたいと思います。
 3点目は,中川視学委員と奈須委員に伺いたいところです。積み上げ方ということで,算数や国語の学習ではよく行われると思うんですけれども,特に,指導の個別化に最適の内容というものを,小中高という学校種において,どのように考えていったらよいのかというところについて伺いたいと思います。
 以上,3点の質問をさせていただきます。
【天笠部会長】 例によりまして,進め方としまして一問一答という形は避けさせていただいて,それぞれの委員からの質問と意見が出ましたら,最後に,それぞれ中川視学委員と奈須委員にお願いするという形を取らせていただきたいと思いますので,御了解いただければと思います。
 それでは続きまして,戸ヶ﨑委員,お願いいたします。
【戸ヶ﨑委員】 戸田市教育委員会の戸ヶ﨑でございます。
 奈須先生,中川視学委員,大変勉強になりました。
 まず,奈須先生の資料,特に,歴史的な経緯や今後における論点整理など,大変勉強になりました。私なりに,質問というより感想や私見を幾つか申し上げたいと思います。
 まず,手元の資料の1ページの個別化された学びと集団での学びは十分に共存でき,むしろ互恵的な関係にあるとか,5ページに,個別化された学びの導入展開においては,集団での学びとバランスや有機的関連により,より効果を目指すことが重要であるとありますが,これは,個別最適化を推進するということは,「集団の学び」と「個別化された学び」の効果的な組合せを追求することでもあり,ウィズコロナの指導法として,今,注目されている授業の「ハイブリッド化」における基盤とすべきことであると思いました。
 続けて,3ページの基礎学力の保障や個人差の収斂といった「指導の個別化」と,個性伸長や教育的価値の拡散といった「学習の個性化」の重要性は,両方とも誰しもが認めるところではないかと思います。
 一方で,4ページの緒川小学校の「はげみ学習」の実践にある,当該学年を超えての早修は認められないとか,当該学年の定着・習熟でもやるべきことはいくらでもある,というくだりに,早修や修得主義への思いの強い方々から異論が出るのではないかと思いました。
 続けて5ページの第2の特徴のところで,「学習の手引き」や「複線型のプログラム」が準備され,今,秋田委員からありましたけれども,最終的な選択は子供に委ねる,これにより自己学習能力,メタ認知や学習の自己調整能力の涵養が目指されているとあります。ここは,現在「遠隔・オンライン学習」が注目されていますが,こうした日頃の指導や能力の育成なしに,その効果は上がらないと思っています。大変,重要なことと思いました。
 続きまして,6ページの「学習の個性化」の取組も,総合的な学習の時間で特に問題なく実践できるのではないかとか,教科等横断的なカリ・マネが推奨されている今日では,これ以上の創意に満ちた取組も可能というくだりがありますが,ここは現在,いや従来からかもしれませんが,私は学校現場の「教育課程の3大課題」と捉えているものがあります。1つが総合的な学習時間の充実,2つ目が教科等横断的な学びの充実,そして3つ目がカリ・マネの推進です。考えてみると,「学習の個性化」を進めることは,まさに,この3大課題の解決に向けても有効と考えます。
 7ページ,「今後に備えるための5つの論点」はどれも大変重要だと思います。時間の関係で,8ページの第4だけ触れたいと思います。「最適化」の判断を,誰がどのように行うのかが重要とありますが,まさにそのとおりなのですが,まずは,「個別最適化」という用語の意味や概念を明確にすべきと思います。というのは,そもそも28年12月の中教審の答申,新学習指導要領,第3期教育振興基本計画,いずれにも出てこないこの用語です。学校現場や教育委員会の解釈は,ばらばらというか理解されていないのではないかと思います。
 それと,「AIによる情報推薦」の光と影は,全くそのとおりだと思います。
 それから,8ページと9ページの第5,「教科書で教える」ことについてですが,個別化された学びに向けては,教科書を活用できる教師の指導力の育成や,教科書の多様な学びへの対応,リソースブックとしての利活用が促進できるデジタル教科書の開発に,大いに期待したいと思います。
 9ページの最後,今後のICTを用いた個別学習システムの開発において,ドリル教材ばかりに終始するようなことにないようとありますが,一言で言うと,予定調和的な出題から脱することができるようなコンテンツ開発を,官民や省庁を超えた組織で行っていってもらいたいなと思っています。
【天笠部会長】 戸ヶ﨑委員,そろそろよろしいでしょうか。詰めていただければと思います。
【戸ヶ﨑委員】 では,一旦これで。本当は中川視学委員のもあったのですが。
【天笠部会長】 時間が難しいかもしれませんけれども,すみません。
 続きまして,堀田委員,お願いいたします。
【堀田委員】 東北大学の堀田でございます。
 分かりやすい御発表,ありがとうございました。2つ申し上げたいと思います。
 まず,1つ目ですが,奈須委員から,AIからの情報推薦がきらびやかに見える可能性についての御指摘がありました。また,中川視学委員からは,AIが誤った判断をする可能性についての御指摘がありました。先ほど秋田委員からも,自己決定が大事だというようなお話がありました。「個別最適化」という用語を考えますと,誰にとっての最適化かという点については,個々の学習者である子供に対する最適化だと思いますが,誰が最適化をするのかという点については,システムや教師がしてあげる話なのか,学習者である児童生徒自身が最適化するのかという辺りを,きちんと詰めておく必要があるかと思います。
 そこで私の意見ですが,1つ目は,個別最適化というのは,データや助言を基に個々の児童生徒が最適化を行うことと定義するのが今日的ではないかと考えます。そう考えれば,教師やAIドリル等は,児童生徒が自分で最適化をするのを支援しているのだと考えることができると思うわけです。
 2つ目の意見ですが,そのように考えると,むしろ学習状況をサマライズして可視化するような,そして,それを本人や教師にフィードバックするような機能こそが重要だと思います。その上で,自分で決めさせる,あるいは決めきれない段階においては教師が寄り添って助言するということが大事だと思います。たくさんの実践事例やデータの蓄積によって,もし,指導の仕方とか決め方に一定の定式化ができるのであれば,それをシステムに組み込んで,支援機能として膨らませていくことができるわけですから,先進技術を利活用した研究開発学校のようなものをしっかりと動かす必要があるのではないか,そこから教育課程を考えていくことが大事ではないかと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 続きまして,大島委員,お願いしたいと思います。その後,市川裕二委員,それから髙木委員,ここまでこちらで把握しておりますけれども,Zoomで参加されている委員の方,ほかによろしいでしょうか。
 それでは,大島委員,お願いいたします。
【大島委員】 東京大学の大島です。
 奈須委員,中川視学委員,現状と今後について端的にまとめていただきまして,また,示唆に富んだ発表をしていただきまして,ありがとうございます。
 奈須委員に1点質問と,中川視学委員に1点質問と,最後,共通して,質問というかコメントをいただければと思っています。
 まず,1点目の奈須委員についてですけれども,最後,5つのポイントとしてまとめていただいた2点目で,個別化によって生じる個人間での進度差でどのように考えるかということで,恐らく,例で挙げられていたのも,ある程度の学習者のレベルが統一されているような印象を受けたんですね。そういう中で,学習者のレベルをどう扱えるのかであったり,やはり,先生の負担というのは,かなり多くなってきていると思うんですね。例えばアメリカであったりEUでは,かなりオンライン教育がされているので,国際的に,2点目に関してどのようなことがされているのかというのを教えていただきたいということが1点目です。
 2点目は中川視学委員についてですけれども,実を言うと,私自身も機械系なのでAIを使っていろいろと研究をやっているんですけれども,おっしゃるように,教師データ,どのように学習するのか,やはり,データ自体をきちんとしたデータにしないといけないということと,あと,検証が非常に重要な観点だと思いますので,それについてですが,AI自体の技術が向上しているということと,データが蓄積されていると,走りながら全体がよくなっているということですけれども,そうなったときに,やはり,今のIT技術と,例えば3年後のAI技術と,非常に変わってくると思うんですね。そうすると時間軸での差が出てくると思いますので,それに対して,今後,コンピューターの活用について,学習者に対して,技術のアップデート,データのアップデートに対して,どうやって対応していくかということですね。ちょっと技術的な質問ですけれども,非常に興味があるので教えていただけたらなと思います。
 最後,本日は比較的,教科的な学びのことがあったと思うんですけれども,学校というのは,教科以外の学びとして,教科ですと実験であったり,集団生活することによってのクラブ活動であったり,学校行事など,それが総合しながら,一方で教科を深めるということもあると思うんですね。そうすると,やはりオンラインというAIなりの個別化というもののコンピューターを使ったものというのは非常に大事である一方で,オフラインの対面でしかできない学習というのはあると思うんですね。そこら辺をどうやってブリッジしていくのかなというのが個人的には非常に興味がありますので,それについての御意見なり,今後について御意見をいただけたらなと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは,次に,市川裕二委員,お願いしたいと思います。Zoomで御参加されている方,次の髙木委員までということで,取りあえず失礼させていただきたいと思います。
 それでは,市川委員,お願いいたします。
【市川(裕)委員】 全国特別支援学校長会の市川でございます。
 特別支援教育の立場から一言,意見といいましょうか,検討していただきたいことをお話しさせていただきます。
 個に応じた指導と個別最適化された学びですが,奈須先生の資料の中にも,個に応じた指導と個別最適化された学びとか,子供たちは様々に異なっているという現状認識とか,子供の学習適性とか,特に認知スタイルということが書かれておりましたが,特別支援教育においては,個に応じた指導は極めて重要な考えであり,ある意味,教育全体が個に応じた指導を行っているとも言えます。それは,特別な支援を必要とする児童生徒の長所とか,短所とか,認知的能力とか,障害特性に応じて,目標も指導方法も個別最適化されているわけでございます。この議論における個別最適化された学びと,特別支援教育における個に応じた指導はどのように整理されるべきかを検討する必要があると考えています。個人的には連続性と捉えるべきであると思いますが,特別な支援を必要とする児童生徒の場合には,障害の程度による合理的配慮という考え方の下に,目標や指導方法等も検討されていますので,障害の程度による合理的配慮についても,個別最適化との関係を検討する必要があると思います。ただ,このことは,この部会で検討する必要があるのかというと,難しいところだと思います。中央教育審議会とはやや離れた部会で,文部科学省の特別支援教育課が扱っている新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議という会が立ち上がっていますので,その会議で扱うか,文部科学省の中で,この会が扱っている教育課程課と特別支援教育課の課をまたいだ調整をしていただけると幸いです。
 私からは以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 では続きまして,髙木委員,お願いいたします。
【髙木委員】 お願いいたします,髙木です。
 今,市川委員がおっしゃいましたけれども,個別最適化につきましては,私,いろいろな学校へお伺いしていても,かなり解釈が異なってきております。これは前回の教育課程部会でも市川副座長が言われたことで,この用語の定義化をきちんと行っていきませんと,これから,教育界はかなり混乱すると思います。本日,戸ヶ﨑委員も言われておりました。
 本日の奈須委員の5つの論点が,私はこれから大変重要になってくると思います。この点を押さえながら,用語の定義化を本会全体でしていきませんと,個別最適化の内容と,それを学校教育でどのように取り上げていくかという方向性が見えてこないと思います。一人一人を大切にしたということは,これまでも日本の学校教育では扱ってきています。そこと個別最適化とはどこがどう違うのか。本日,奈須委員が御報告されました5つの論点とも,どこが異なるか。それを時代潮流の中で,教育としての個別最適化と言いつつ,個の多様性と多義性を保障しないで,修得主義的な教育として,単に学習の理解の速さのみによる学習の個別化を図るといった個別最適化の定義化は避けなければならないと考えています。個別最適化ということ自体は,一人一人の児童生徒の個を尊重するという意味からは重要ですけれども,児童生徒の成長期にある学校教育において,児童生徒の資質,能力を学習理解の速度のみの限られた枠組みの中から個別化を図ることは留意していかなければならないと思います。「最適化」という言葉に関しましては,先ほど,秋田委員や堀田委員の意見に同感いたします。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは,対面で参加された委員の方,御意見等々ありましたら,お願いできればと思います。
 吉田委員,どうぞ,お願いします。
【吉田委員】 吉田でございます。
 今日の奈須先生と中川さんの御発表,本当にありがとうございました。個別最適化された学びというのは長い間言われてきていたわけですけれども,そういった中で,今,子供たちというのは一人一人が確実に違います。それを,どちらかというと日本の教育というのは,今日の奈須先生の資料の8ページ目の最後のところに教科書のことが書いてありましたけれど,教科書と教育課程の縛りというのが非常に強いと思うのですね。それによって全部の子が同じことを学ばなければいけないという方向性が非常に強く出てきてしまっているので,今,高等学校の新しい学びでも,普通科を減らすべき云々という話もありますけれども,私は,教育課程をもう少ししっかりと捕捉した上で,個別最適化したことができるようなものにしなければいけないのではないかと。そういう意味では,今回のコロナ禍というのは,非常にいろいろなことを変えるベストタイミングになってしまったのではないかなと。ICTの問題で, GIGAスクールなどがさんざん言われておりますけれども,私は,オンライン授業ができたかできないかによって,子供たちの学力は確実に違っていると思っています。それと同時に,逆に,オンラインができた学校というか,パソコンを生徒一人一人に持たせていた学校は,教員がやらざるを得なくて必然的にできることになってしまったという,私は,いい意味も悪い意味もコロナにはあったのではないかなと思っています。
 そういう中で,先ほど中川視学委員がおっしゃったようなICTを文房具にという考え方は,私は非常に賛同できます。子供たちに,奈須先生がおっしゃる最適化の教育を与えるとも,やっぱり一人一人が違うわけですから,子供たちに最初から何でも選ばすということはできないと思いますけれど,教員が一人一人全部関わるということもできないわけですから,その辺を,オンラインとか,オンラインのドリルとか,そういったものを教員たちが適宜合わせて使ってあげることによって,子供たちだって幾らでも変われるのではないか。それから,文房具という意味で言えば,例えばの話,今の子供たちは,ちょっとやっていれば,パワーポイントとか,エクセルとか,簡単にできます。逆に我々より進んでいます。こういう子たちが将来出てくるわけですから,私は心配ないと思っていますが,そのためには今,協議する前段階として,何しろ1日も早く全員にコンピューターを持たせること,ICT環境の整備,それから,各家庭でのルーターとWi-Fiの整備,こういった物があって初めてできることではないかなという思いが強いので,あえて言わせていただきました。
 それで,それによって,今,うちの学校で面白い現象が出ているのは,昔は学校で始業式とか,終業式とか,みんな放送でやったりしていましたが今はオンラインでやれば,どこにいたって,家にいたって,放送での式と同じようなことができてしまうわけですね。それから,オンラインとオフラインがハイブリッドで選択できるということもあるわけです。ですから,これから,コロナもどうなるかまだ分からない中で,何しろ文科省には大至急ICTを整えていただいて,そして,今日,先生お二人からお話のあった個別最適化された学びができるような環境づくりができればと願っておりますので,よろしくお願いします。
【天笠部会長】 それでは,委員の方からの質疑等々についてはここまでにさせていただき,奈須委員と中川視学委員は,今までの委員の方からの質問にお答えいただきます。それぞれの意見と質問等々も,なかなか大切なポイントを突いたのではなかったかと聞いておりました。大変限られた時間で恐縮ですけれども,大体,三分前後ということを心持ちとして,まず,奈須委員からお願いし,続いて中川視学委員からお願いしたいと思います。
 奈須委員からお願いいたします。
【奈須委員】 ありがとうございます。
 まず,今の御意見を伺っていく中で3点確認したいんですけど,1つは,個別最適化というのは,100年前から,やむにやまれぬ思いの中で,現場で生まれてきた。だから,これは教育界において原理的に常に必要なことだと思います。ICTがあれば,いろいろなことができるのでとてもありがたいですけれども,ICTがなければできないわけではなくて,紙と鉛筆で幾らでもできる,むしろ教育の原理だと。その中に,どうやってICTを位置づけていくかということが,まず,大事だろうと思います。
 2つ目ですけど,特別支援教育,あるいは一方で才能教育という広がりを当然持っていると思います。私たちが30年前よく聞かされたのは,全ての子供がスペシャルニーズだと。全ての子供にはかけがえのなさがあって,そのかけがえのなさに寄り添っていくのが個別化という考え方だと。それはとても大事なことだと思います。
 それから,このところ,ドリルのほうに関心が行きがちですけれども,今日も見ていただきましたが,全てのコンテンツで可能です。例えば,今日お示しした学習の手引きは,理科のてこの実験ですけれども,理科の実験をして,てこの概念獲得をして,それを活用するということも個別化で十分可能です。だから,そういう意味では幅広い扱い,あるいは個人で探究するといったことも可能なので,個別化というのをドリル的な習得に限定する動きがあるとすれば,それはとても危険だろうと思います。
 御指摘の中で大事と感じた2つのうちの1つは,やっぱり最適化を誰がやるかということです。堀田先生から御指摘があったように,AI化されたデータというのは,これまでにない,多様な意味のあるデータが膨大に得られますので,最適化の在り方が変わってくると思いますが,秋田先生からもお話がありましたけど,子供自身がそのデータに基づいて,実質的に最適化するという学習を進めていくことがとても大事で,これは自己調整学習とか,メタ認知とか,学習適性の理解という点でもとても大事で,そういう意味では,やっぱり,AI化されたデータが膨大に提供されるということ自体は,とても大事なことで,可能性があることだと思っています。そこら辺は,仕分をきちんとやることが大事だろうと思います。
 それから,もう一つですが,全ての子供は非常に多様ですので,個別化していくと,学級,学年を超えて幅が出てくるということだと思います。そのときに,早修するかどうか,アクセラレーションをかけるかどうかということが教育的に大きな分かれ目で,海外には御案内のようにアクセラレーション,早修を認めて進めているところもあります。これを日本でどう考えていくかというのが教育課程の基盤的なものにもなってくると思います。ただ,日本の伝統的な実践の経緯としては,アクセラレーションはあまりしてこなかった。むしろ,しんどい思いをしている子に目をかけて,その子たちが確実にできるようにしていくという補償的なというんですかね,コンペンセーションのほうに重みが書かれていたということが大事なことかなと思います。
 以上でございます。
【天笠部会長】 では,続きまして,中川視学委員,お願いいたします。
【中川視学委員】 奈須先生もおっしゃられた会議でも,個別最適化は過去から行ってきたということですと,そこで,もし,教師なり組織に非常に負荷が高い,それはコンピューターでやったほうが都合がいいということであれば,積極的にコンピューターを使っていければいいのかなと思っています。そもそも,コンピューターは,繰り返し可能なものを支援するような装置ですので。
 あと,秋田委員から御質問いただいた適応分野というところに関しては,理解に応じた学習でそこをサポートしていくために個別化をしていくという側面と,例えば,総合的な学習なんかで探究的にものをやっていきましょうといったときには,それは個別化というよりも個人化で,私の興味をきちんとキャプチャーしていることが重要なのかなと思うと,全てサイロに個別化していくことばかりではなくて,個人としての興味というのを押さえていく個人化の部分も重要なのかなと。言葉の定義が曖昧だというお話もありましたけれども,その2つ,個人化と個別化というところは,私は1つポイントになってくるかなと思っています。
 あと,大島委員から御質問いただいた,私はAIの専門家ではありませんので,AIの進展はAIの専門家にぜひ引っ張っていただいて,そこにデータをどのように供給するかという観点でいうと,私は,教育に関しては,他の分野と比較して,圧倒的にデータは不足していると感じております。それは学校現場に,これまで端末,コンピューターが持ち込まれていなかったわけで,あるデータは教員が手書きで書いた通知表なり指導要録ということになりますと,それもどこまでデータ化されているのかという問題があって,データが圧倒的に少ないことを思いますと,AIのアルゴリズム,テクノロジーというのが進展していくのを追いかけながら,データをしっかりと整えて,供給できるようになっていることが必要だと思います。そういった観点でも,例えば,デジタル教科書が持ち込まれた際に,デジタル教科書がどのように使われたのかのログを取ったり,そもそも,どこのログを取っているのかが分からないということになりますと,IDというか,コードがきちんと振られているということが重要になってきます。こういった取組を国を挙げてするべきと考えております。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 議題1につきましては,ここまでとさせていただきたいと思います。時間的な関係で,こちらで急いた進め方をさせていただいた等々,あったかと思います。御意見いただけない方等々,事務局に,その旨お伝えいただければと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは,続きまして,議題2に移らせていただきます。
 資料3を御覧ください。7月17日に開催されました新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会において,これまでの教育課程部会における審議経過について,私より報告させていただきました。報告の主な内容及び特別部会での議論につきましては,この後,事務局より説明をお願いしたいと思います。
【板倉教育課程企画室長】 資料3でございますが,今,天笠部会長から御説明がありましたとおり,7月17日の特別部会で配付され,天笠部会長,また,事務局から説明がなされたところでございます。
 中身につきましては,今まで先生方で御確認いただいたものでございますが,項目としては,学力の確実な定着に向けた方策について,個別最適化された学びと協働的な学びについて,特定分野に特異な才能を持つ児童生徒に対する指導について,履修主義と修得主義,年齢主義と課程主義,授業時数の在り方について,STEAM教育等の教科横断的な学習の推進について,ICTの活用についてという構成で出来上がったものでございます。
 こちらにつきまして,7月17日の特別部会でどういった意見交換があったかと申しますと,これまで以上に,幼児教育と小中学校教育のカリキュラムの連携を推進することの重要性について意見がございました。
 また,履修主義,修得主義の組合せについては,今後,具体的にどのように変わるのか,文部科学省,教育委員会,校長,教師の役割はどうなるのかといったことについても議論がございました。
 私からは以上でございます。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。今御説明いただきました資料3につきましては,今後いただきます御意見とか,あるいは諮問事項等々の関係等を踏まえまして,議論の取りまとめに進めていきたいと思います。今後,この記載の充実について,より一層図っていきたいと思っておりますので,それぞれのお立場で,審議経過のまとめ方等につきまして御意見をいただければと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。
 また,17日の特別部会におきましては,新しい時代の高等学校の在り方ワーキンググループにおいて議論がなされており,そこにおいても,その報告がありました。教育課程部会と連携して,さらに検討を行う必要があるとのことですので,こちらについても,事務局より説明をお願いしたいと思います。その後,委員の方から御意見をお願いしたいと思います。
【塩川参事官】 それでは,資料4-1に基づいて御説明させていただきたいと思います。こちらは,先日17日の特別部会に,教育課程部会同様に,高校ワーキンググループの審議経過ということで報告したところでございます。
 高校ワーキングでございますが,中教審の諮問の中で3つ,生徒の学習意欲を喚起し,能力を最大限に伸ばすために,普通科等の学校の在り方,2つ目として,地域社会や高等教育機関との協働の在り方,3点目として,時代の変化,役割の変化に応じた定時制,通信制課程の在り方についてということで,9回,検討を進めてきているものでございます。
 資料4-1の1,2にございますように,高校全入時代の中で,高校生が多様化している中,一人一人の高校生の多様な学びのニーズに応じた高校教育の実現が改めて重要であること。
 その上で,2ポツにございますが,今般の新型コロナの中で,ICTを最大限活用した学習保障の必要性が顕在化してきており,対面指導,ICTといった二元論ではなく,最適な組合せ,ブレンディッドでの教育というのが必要であるという議論が重ねられたところでございまして,これらを踏まえまして,3,4ということで,具体の方策について,今,検討を進めているところでございます。
 3でございますが,各学科・課程に共通して取り組むべき方策ということで,全ての高校について必要なものということで,まずもって,高校の学びを言わば人生の羅針盤として公開する,20年,30年先の社会像,地域像を見据えた高校教育の推進というものは必要であって,その実現に向けて,地域,大学等,学校外の教育資源も最大限活用した高度な学びが必要であるし,2つ目のところにありますが,中山間地域や離島については,ICTも活用して,複数等の高校が共同して,強みを有する科目の選択履修を可能とする等の資質の向上等,必要があるということ。
 それから次の四角でございますけど,設置者においては,学校の教育目標をそうした将来像から改めて分析して,期待される役割,目指す学校像などを,改めてスクール・ミッションとして再定義すること。その上で,各高等学校において,ミッションに基づく入学から卒業までの一貫化,体系化した教育課程を実施すべく,卒業,教科課程の編成,実施,入学者受入れといった3つの方針の策定,公表が望まれることなどが共通の方策として掲げられたところでございます。
 次のページでございます。4,学科等の特質に応じた個別の各論でございます。まず,普通教育を主とする学科でございます。普通科改革のところに書かせていただいておりますが,普通科しか普通教育を主とする学科として置けない現行から,スクール・ミッションに基づいて,生徒の実態を踏まえた学習者第一の学びを促進する観点からも,学校の設置者の判断で,普通科以外の学科についても設けるようにできるということで,大綱化,弾力化を図っていくということでどうかということでございまして,例えばでございますが,普通科に加えて,3つ黒ポツがございますが,こうした学科を設けるようにしてはどうかということ,それから最後のポツにございますが,上の2つに限らず,特色・魅力ある教育を実現する学科についても,普通科以外のものを設置者の判断で設置できるようにしてはどうかというものでございます。
 次に,専門学科改革でございます。社会が加速度的に変化する最前線の地域産業に開かれた教育課程の実現を,地域の関係者が一体となって取り組むことが必要であるということ。
 それから,総合学科では,新規外部人材の活用の推進等により,総合学科の本旨たる単位制,多様な選択という特色を生かした教育の推進を図っていくこと。
 それから,次の四角でございます。定時制・通信制課程でございますが,多様な生徒の多様な学びのニーズを実現するという機能をきめ細かく推進するためにも,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等の専門スタッフの充実,関係機関との連携,ICTの効果的利活用等,必要な措置を講じる必要があること。
 それから,最後の四角でございますが,特に通信教育の質の保証については,今現在においても不適切な運営教育を行っている事例がある中でございますので,そうしたところの質保証の徹底ということで4つのポツを掲げさせていただいておりますが,まず最初に,年間指導計画の策定などによる教育課程編成実施の適正化,それから2つ目でございますが,サテライト施設の教育水準の確保,3つ目でございますが,多様な生徒にきめ細かく対応するためということで指導体制の充実,最後でございますけど,主体的な学校運営改善の徹底ということで,法令に基づく学校評価の実施・公表の徹底,基本情報の開示徹底,DX時代の先端技術の効果的活用に向けた実証研究を進めていってはどうかということでございます。
 特別部会では,こうしたポリシーの必要性でございますとか,社会に開かれた教育課程を高校で実現するためにも,普通科改革の方向性として,どれぐらいの規模を想定しているのかといった議論がございましたが,そうした議論については,我々もひとえに,まず高校ワーキングの議論として,とにかく,現場の実態に応じて普通科改革を進めていくのが重要であって,そうしたツールを国としてもできる限り支援していくことが大事という議論があったところでございます。
 簡単でございますけど,事務局からは以上でございます。
【天笠部会長】 説明どうもありがとうございました。
 それでは,今御説明いただきました資料3,それから,資料4につきまして,委員の方からの御質問,御意見等々,お願いしたいと思います。進め方につきましては,先ほどと同様に進めたいと思いますので,まず,Zoomで御参加の委員の方,手を挙げていただければと思います。いかがでしょうか。
 今,杉江委員,根津委員,髙木委員,萩原委員,4名の方ですけれども,それでは,杉江委員からお願いします。
【杉江委員】 杉江和男です。
 資料4-1の高等学校教育の在り方について,既に資料の中にありますけれども,現在70%を占めています普通高校は,これから,スクール・ミッションを定めて,それぞれが個性化されていく方向に行くと思いますし,それから,残りの30%は専門高校でして,工業ですとか,商業ですとか,水産とか,農業とか,既に8分野で教育をしております。したがいまして,これらを合わせますと,これからは,どの高校も,ある特定の教科とか分野に重点を置いた教育を行うということになっていきます。そうなりますと,今の専門高校はそうですけれども,教養科目の時間数が普通高校から比べましたら少なくなりますので,その結果,大学入学試験における不利というのは免れないという状況にあります。
 このような現実を見ますと,資料4-1には,大学や就職など,出口を目標にしないと書いていますけれども,高校生にとっては,目先の大学入学が目的になっている現状から言いますと,恐らく,高大接続のところで協議されているとは思いますけれども,出口である大学や企業が何を評価して選別すべきかということを根本的に見直して,その方針を開示しないと,高校,また,広くは初等中等教育の改革というのは実現しないのではないかと危惧しております。大事なことは,教科が何であっても,それを通して,何を学んだか,身につけたかということでありますので,それを評価しなければならないと思っております。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは続きまして,根津委員,お願いいたします。
【根津委員】 早稲田大学の根津と申します。
 資料4-1の高等学校教育の在り方の論点整理で,今お話にもありましたけれども,4のところ,学科・課程の特質に応じた教育実践の充実強化について意見を述べたいと思います。普通科改革とあるんですけれども,これは恐らくタイプミスだと思うのですが,そこの2行目,「普通教科を主とする学科」とあるんですけど,恐らく,これは「普通教育を主とする学科」ではないかと思います。そうしたときに,この「普通」というのが何を意味するのかというのが恐らく議論になるだろうと思うんですけれども,報道等を見ますと,どうも普通科という名称は残るような気配もあるわけですね。この辺りが,何が一体普通なのか,その対義語は何なのかというところも含めると,これはちょっと乱暴な言い方かもしれないんですけれども,「普通」という言い方をやめたほうがいいのではないかなと個人的には思うんです。それが「普通教科」というタイプミスにつながるかどうかというところはあまり考えないほうがいいのかもしれませんけれども,「普通」という言葉を使ってしまうことで分からなくなるところがあるのかなというのが個人的な意見です。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。続きまして,髙木委員,お願いいたします。
【髙木委員】 お願いいたします,髙木です。
 高等学校教育に対しての現状認識は,今回,配付されました資料4-2の論点整理に的確にまとめていると判断しています。しかし,問題は,今日の高等学校教育についての本当の理解がどの程度されてきているか。現状の学校教育に対して,戦後70年続いてきていますので,一般社会から,かつて自分の受けてきた現体験的な教育内容の枠組みの中から高等学校教育を考えられている面が多くあるのではないかと考えています。
 そういった現状の方向を転換するためには,今回出てきましたスクール・ミッションの再定義が非常に大事になってくると考えています。スクール・ミッションの再定義をきちんと社会全体の問題として,これからの高等学校教育の在り方を世間一般で周知し,議論していくということが論点整理が有効に機能していくことになると考えています。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 続きまして,萩原委員,その後,市川裕二委員,お願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【萩原委員】 萩原ですが,私も,資料4-1,高等学校教育の在り方についての件です。先ほど3名の先生方からも御指摘があるように,高等学校における出口の問題,それから,スクール・ミッションの問題等々ありますが,委員会報告の中で,実態に応じた普通科改革ということで進めていきたいというお話もあったと,伺いました。ぜひとも,高校の実態に応じつつということで,その中で,普通科をどう定義し,どう考えていくのかということについても,さらに,ワーキンググループ等で深めていただければと思います。また,それを受けて,教育課程部会で高等学校について,さらに議論を進めていくことができればと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
続きまして,市川裕二委員,お願いいたします。
【市川(裕)委員】 教育課程部会におけるこれまでの審議過程で,特定の分野で特異な才能がある児童生徒に対する指導についての中で,「知能指数」云々という言葉が出てくるんですけれども,特異な才能を持つ児童生徒に対する教育を考えるときには,知的障害という考えをどう捉えるかを検討しないとならないと思っています。学校教育法第72条には,特別支援学校が対象とする障害が知的障害者という言葉も出てきますし,同法第81条には,小中学校,高等学校等の特別支援学級の対象のお子さんとして「知的障害者」という言葉が出てきます。ただ,発達障害の児童生徒の場合は,知的障害を併せ有する場合と有しない場合があり,知的障害を平均した知的能力の程度で捉えると,知的障害を併せ有すると考えられてしまう児童生徒であっても,特定の分野に才能を発揮する児童生徒はいるわけでございます。こうした児童生徒は,才能と学習困難を併せ持つ児童生徒となると考えられます。このため,知的障害をどう捉えるかを法律も含めて広く考えないといけないと思いますが,これも,この部会というよりも,新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識会議等でしっかり検討していただいて,この部会との調整を図っていただく必要があると考えます。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは続きまして,松本委員,お願いいたします。
【松本委員】 1点目は,普通科の名称についてです。早稲田大学の先生がおっしゃっていたように,「普通科」という名前は,私も以前から,変えたほうがいいのではないかなと思っていました。普通科というのは,多分,工業科や商業科などに対しての普通だと思うんですけれども・・・。そうではなくて,きちんとしたアイデンティティーを持たせた,内容に即した名前にしたほうがいいのではないかなと思います。
 2点目は,資料4-1にありました対面指導とICT活用の二元論というのはよくないという点です。そのとおりだと思いますし,ベストミックスしていったほうが当然いいに決まっているわけですけれども,では,これをどのようにやるのか,また,大学ではなく小中高の場合には,誰がやっていくのか,どうやっていくのかという戦略がないと,なかなか難しいと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。現在,資料4について,比較的,多く出ておりますが,資料3についても御意見をいただければと思いますので。
 篠原委員,どうぞ,お願いいたします。
【篠原委員】 今どなたかがおっしゃった資料4-1,対面指導かICT活用かという二元論に陥ることなく,最適な組合せによるべきだとの指摘には私も賛成です。方向性はこれでいいと思うんですけれども,松本委員がおっしゃったように,例えば,教育格差,学力格差を生まない,生んではいけないという前提に立つと,どういう学習評価をするのか,学力評価をするのかというところに,大変難しいところがあると思うんですね。その辺の深掘りを,ぜひ,今後,特別部会でも続けていただきたいなと思います。ありがとうございます。
【天笠部会長】 今,堀田委員が手を挙げられていますので,堀田委員,お願いいたします。
【堀田委員】 堀田でございます。
 資料3に意見をしたいと思います。1点だけです。7番のところにICTの活用があります。ここには,ICTは有効に活用するとか,活用そのものが目的ではないとか,人が大事だとか,あるいは旧来の方法も大事にするのだというようなことが書かれていまして,それらは確かにそのとおりだと思うんですけど,ICTがこれからの学校のインフラであるということを,もっと明確に打ち出して書いてはどうかと思います。教育課程編成も,ICTというインフラがあることを前提に国から基準が示され,各学校でカリキュラム・マネジメントが行われていくということを明確に書いてはどうかと思います。先ほど中川視学委員がおっしゃったように,これから,いろんなものがデジタルで流通することによって,再利用が可能とか,ビッグデータが使えるとか,社会コストが下がるなどのメリットがありますので,そういう時代の学校教育の基盤のインフラがICTなんだということを明記してはどうかと思うのです。そうでないと,今までのように教える道具としてのICTのことばかりに目がいってしまうのではないかと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 ほかに,委員の方,いかがでしょうか。
 戸ヶ﨑委員,いらっしゃいますか。戸ヶ﨑委員,先ほど御意見のときに,後のほうの関わりの中で失礼いたしましたけれども,それらを加えまして,今の資料3と4について,何か御意見がありましたらお願いできればと思いますけれども,いかがでしょうか。
【戸ヶ﨑委員】 特に資料3,4のことというより,先ほどの中川視学委員の御発表について意見を言いたかっただけですが。
【天笠部会長】 どうぞ,お願いします。
【戸ヶ﨑委員】 ここで話してしまっていいのですか。
【天笠部会長】 それが恐らく資料3のところと関わってくるということが十分にあるのではないかと思っております。
【戸ヶ﨑委員】 御配慮いただきありがとうございます。できるだけ短めにお話しします。先ほど中川視学委員からありました,ICTによる個別最適化のお話の中で,学習コンテンツなど学習者向けにばかり目がいってしまうわけですが,教師向けのITサービス,いわゆるエドテックが非常に少ないのが現状です。今後は,教室や授業,また,生徒指導などを3K,つまり,経過,勘,気合から脱して,科学していかなくてはならないと思っています。また,子供たちの個別最適化された学びの実現とか,また,先ほどお話がありましたけれども,子供たちが最適化を学んでいく支援を行っていくためには,それを指導する教師に対しての個別最適化された研修も並行して進めていくべきと思っています。従来のように一律の研修をしていては,子供の個別最適化も学びの実現や支援をするスキルの育成は,なかなか難しいのではないかと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 Zoomで御参加された,秋田委員,お願いいたします。
【秋田委員】 資料4-2に関する細かな点ですけれども,参考までに,お話をさせていただきたいと思います。このコロナ禍において,高校生がかなり学校間格差が大きく,ICTに触れられた高校生と,実際にはそうした授業が全く受けられなかった高校生の生の声を聞いてきました。そして,GIGAスクール構想は,義務教育に関しては戦略的にICTが配置されたわけですけれども,高等学校においては,格差が大変大きくなっているという現状があります。その中で,実際のいろいろな調査を見ますと,オンラインで授業を受けた高校生に関して言えば,高校生は,教師の期待以上に柔軟にICTの操作に対応ができている。実際の調査を見ると,もう一度,対面がいいのか,オンライン授業かということについて,数千名の調査の結果がベネッセから出ています。高1,中1は,今度授業が始まるときに,より対面授業を希望していて,高2,高3や中2,中3は,既に学級経営とか,ある種の一体感ができている学年では,ICTを好む傾向があるというようなデータが,今回,6月のデータをもとにして出ております。
 そうしたことを見ますと,資料4-2等では,内容によって二元論に陥ることがなくということは書かれていて,対面指導が効果的なもの,地域社会での学びが効果的なものというようなことが書かれていますけれど,内容だけではなくて,やはり,学年段階によっても,まず,学校が学校として,高等学校が高等学校としてあるために,対面で機能しなければならない学年や学期と,学期や学年の進行に応じてICTが可能なものというような観点も今後必要になってくるのではないかと,生徒の実際の声から感じましたので,細かい点ですけれども,意見を述べさせていただきます。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは,恐れ入りますけれども,資料3をアップしていただけませんでしょうか。資料3の1ページからお願いいたします。
 まず最初,こういうところから御覧のとおり始まることは皆さん御承知のとおりかと思うんですけれども,最初の4行,通常,ここのところが,私どもは,何ゆえにこういうことを取り上げて,議論を重ねて,そして,その方向性を見いだすのかどうなのか,そういった問題意識あるいは現状認識等々が記されるところになるかと思います。それがある意味でいうと,大臣からの諮問事項とより重なるところかと思うんですけれども,その諮問事項を踏まえた上で,今私が申し上げたような,そういうことが記される部分というのがここのところに当たるのではないかと思うんですけれども,こういうことについての現状認識等々について,また,委員の皆さんからも,それぞれお考え等々があるかと思います。どうぞ,そういう御意見等々を事務局に寄せていただければと思います。それを整理,集約して文章化するという段階に入ってきているのではないかと思いますので,よろしくお願いします。
 では,続きまして3ページ,お願いします。2.として,個別最適化された学びと協働的な学びについてということで,御覧のとおり,それぞれ,文章化されて記されているわけで,ここまでのところも,これまでの委員の方からの御意見等々を整理して,こういう形で文章化されていますし,また,今日もお二人の方からの御発表をもとにしながら,皆さんの御意見等々をここに書き込んでいくということに,今後なっていくかと思うんですけれども,御覧になってみて,委員それぞれの方からの御意見等々も,ここに寄せていただければと思います。
 次に,5ページをお願いします。4.のところで履修主義と修得主義云々とありますけれども,これが先ほど事務方から,先立っての特別部会で御質問が出たところでありまして,これらのことが今後どういうことになっていくのか,あるいは,この部会として,どういう見解としてこのところを記していくのかということが,その場で質問としても出たわけでありますけれども,私どもとしても,この辺りところで,現在のところ,こういう文章化されている段階でありますけれども,また,委員の皆さんからの御見解をお願いできればと思います。
 次の7ページ,授業時数の在り方ですね。授業時数の在り方についても,今の線に沿って記されておりますので,どうぞ,それらのところについて,また,それぞれの委員の方から御確認いただければと思います。
 続きまして,8ページをお願いします。STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進についてということですけれども,これは先ほどの資料4,主として,高校ワーキンググループということですけれども,これは私の個人的な見解ですが,6.で書かれているSTEAM教育というのは,どちらかというと方法的な利点として挙げられていて,総合的学習の時間等々でSTEAM教育の手法を導入するということがより成果が上がってくるのではないか,こういう立場,トーンで書かれているんですけれども,1点,これはまた,今後,部会で御意見いただければと思うんですけれども,STEAM教育というのを1つのカリキュラム論としての提起をしている部分があるかと思います。そちらについてはどう考える。要するに,従来の文系,理系というところを超えた新しいカリキュラムの教育課程の在り方という提起がSTEAM教育の提起の中にはあるというのが私の理解ですけれども,ただ,義務教育段階と高等教育段階では,それぞれ扱い方というんでしょうか,STEAM教育の捉え方というのも,学校段階によって違いがあるのではないかと思います。この部会は,主として義務教育を守備範囲とするというところが多くとするならば,ここに記されているような見解が1つの立場であるのではないかと思っております。ただ,高等学校の在り方等々を考えた場合には,カリキュラムの文系,理系という在り方ということで議論を深めていく必要があります。むしろそれは,ワーキンググループに引き取ってもらうような話になっていくのかもしれませんけれども,そう考えた時に,資料4の捉え方というか考え方というのが,どうも義務教育との考え方の接続ということについての目配せがもう一つかなというのが私の捉え方であります。大学との接続ということについては,随分,エネルギーを注いでいるように思うわけですけれども,今申し上げたような観点から,義務教育と高等学校の在り方という辺りの接続の在り方ということについては,もう少し議論を深めていただく必要があるかなと思いますし,また,この部会からも,そういった提起もできるかなと思っております。
 その上で,ICT教育の活用についてということは,先ほど来,それぞれの委員の方から御意見もありましたので,これは今後,ここに書き込まれていくことになっていくのかなと思っております。けれども,今,ざっと,資料3について,改めて,これまでの議論の経過の確認と,この部会としての課題等々,そして,それをこういう形でどうまとめていくのか,文章化していくのか,次回以降,それぞれのお立場で御意見等々をお願いできればと思います。市川委員から御発言をということで,どうぞよろしくお願いいたします。
【市川(伸)副部会長】 ありがとうございます。
 資料3についてですけれども,2点,気になったことを述べさせていただきます。
 1つは2ページですが,これは表現上の問題なのかもしれませんけれども,真ん中に,幼児教育と小学校低学年,中学年,そして,高学年以降においてということが出ています。この段落の後半については,私も発表のときに申し上げた点,どちらかというと,低学年,中学年では反復,習熟的な学習も大事ですよと。高学年になるにつれて,理解を重視した学習方略を使用していくというようなことは述べました。小学校あるいは中学校,高校においては,教科の内容を習得するということが非常に大きいので,その中でも,こういう発達の流れのようなことはあるだろうと。
 ただ,今回,見ますと,それに幼児教育がくっついているんですね。「幼児教育というのは,これこれの教科内容を習得しなくてはいけないというような縛りはそうありません。どちらかというと,体験活動とか創作表現活動を割と自由に行うというようなところが幼児教育の特色かと思うのですが,ここの表現を見ますと,幼児教育において行われている,自ら問いを持って探究し,協働することによって理解を深める学習を小学校以降にもつなげていく」,これがちょっと違和感がありまして,幼児教育って,こんな大学のようなことをやっているのかなという思いを持ってしまいました。
 確かに,幼児たちの教育の現場の状況を見ていると,すごく伸び伸びと,自由に活動しているように見えるけれども,やはり,キーワードとしては,体験活動とか自由な創作表現活動,確かにこれは小学校以降にもつなげてほしいことなので,そういう表現をしていただくほうが流れとしてはいいのかなと思いました。これが1つです。
 もう一つは,改めて個別最適化なんですけれども,大きな流れをつかんで,この言葉を導入することが大事かと思いました。今日の奈須委員の御発表にありましたように,もともと何が批判の対象になっていたかといえば,一斉画一的な授業なんですね。みんなが一緒に教室で同じことを学んでいく。それに対して,個に応じた教育とか,これは加藤先生の言葉にしても,私は概念的には非常に大事だと思いますが,個別化とか,個性化ということが出てきて,もっと個を大切にしていこうということですね。歴史的にも非常に重要な実践が出てきたと思うんですが,その後どうなったかということで,奈須委員のお話にあったように,2000年以降,また教育界の様子が変わってきました。もっと学習者の相互作用を重視していこうという考え方が出てきた。個別化,個性化というのとちょっと違う方向が出てきて,ですから,いろいろな子供たちがいて,そして課題は共通であるけれども,お互いに対話をしながら,協働的に学んでいく,これがすごく重視されるようになってきた。これが今回の指導要領でも,「主体的,対話的で深い学び」として生かされています。いろいろな個性を持った子たちだけをそれぞれ集めるのではなくて,いろいろな個性を持った子が,むしろ一緒に課題解決をしていくようなことが重視されたという動きになっているわけですね。
 ですから,指導要領の中では,戸ヶ﨑委員がおっしゃっているように,「個別最適化」という言葉は使われていません。今回,ここで使うということは,一種のリバイバルなんですよね。リバイバルするときに,50年代,60年代からの教育を知っている人にとっては,「えっ,個別最適化」と,ちょっと古めかしい印象を持つかもしれません。「個別」も「最適化」もちょっと古めかしい言葉で,最適化というのは,やはり何か基準があって,その基準を達成するためには,こんな特性を持った子供はこうやって学ぶと,一番,効率よくできますよという,ATI(適正処遇交互作用)も含めてそういう考え方なのです。こういうのが再び出てきたということは,いろいろな意味が考えられると思うんですけれども,あんまり協働とか対話的ばかり指導要領で言い過ぎたので,もっと個を大事にすることを考えましょうという意味で出てきたのか,今,この言葉を使うことの意味というのははっきりしたほうがいいと思いますし,また,この言葉の定義ですけれども,私はこの前申し上げましたけれども,2通りあり得ると思います。一つは,これは昔と同じ意味なんですと。個別最適化というのは,例えば,「テストスコアを最も効率よく上げるためにはこんな学び方をするといいというのを一人一人に処方して,そうするといいですよ」という,昔の個別最適化のような意味で使うんですと。しかし,学習というのはそれだけではないですよというような注意をした上で,意味としては,個別最適化を昔の50年代,60年代のような意味で使うというのが1つの言い方です。
 もう一つとしては,個別最適化の意味自体が昔と違うんですと。もっと広い意味で,「個に応じた教育」のほうが軟らかいかもしれませんけれども,「一人一人によって課題も違う,ゴールも違う,今はこういうものを個別最適化というのです」と言って,より広い意味で使っていくということです。言葉の定義ですからどちらでもいいんですが,現場も非常に混乱するし,教育のことについて学んできた人たちも混乱するし,ここのところははっきりしていく必要があるかと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。おおよそ時間も迫りましたので終わりにしたいと思うんですが,今,貞広委員が手を挙げられてます。貞広委員,1分以内でお願いできればと思うので,よろしくお願いいたします。
【貞広委員】 資料3について,1点,意見を申し上げたいと思います。
 「カリキュラム・マネジメント」という言葉が書かれているんですけれども,もう少し強調して書かれる必要があるのではないかと考えます。なぜかと申し上げるならば,この資料を見ましても,今後,履修主義と修得主義,対面とリモート学習,場合によっては平時と緊急時,個の学びと集団の学び,個別化,個性化というように,今まで同時には起こっていなかったものを何らかの形でベストミックスしていかなければいけないという,そのためのカリキュラム・マネジメントが必要だということで,今まで以上に複雑な方程式を解くような形でカリキュラム・マネジメントがなされないと,この資料に書いてあるような教育はできないということになります。そうなると,より高次のカリキュラム・マネジメントが必要だという書き込みがあってもいいのではないかと考えました。
 以上,申し訳ありません。
【天笠部会長】 それでは,杉江委員から発言を求められていますので,杉江委員,1分以内でお願いいたします。
【杉江委員】 資料3の5ページの4に,履修主義,修得主義,年齢主義,課程主義というタイトルがありまして,それのまとめというんでしょうか考え方が6ページの一番下の丸,このため,全児童ということで書いているんですけれども,実はここは義務教育について,それから基礎学力について書いているんですけれども,これからSTEAM教育ですとか,スーパーグローバルハイスクールですとか,それから,専門高校を対象にした記述が少し欲しいなと思います。ここに書いていることの義務教育とはバランスが違うだけですので,ただ,少し記述が必要でないかと思います。
 以上です。
【天笠部会長】 どうもありがとうございました。
 それでは,予定の時間が参りましたので,本日の議事は以上ということにさせていただきたいと思います。
 事務局におかれましては,本日の意見を受け止めていただき,今後の審議に生かしていただければと思います。
 また,委員で御発言いただけなかった方,補足意見がありましたら,メール等々で,事務局までお願いできればと思います。それらの意見につきましては,今後,ホームページ等々で公表することを予定しておりますので,御承知いただければと思います。
 最後に事務局から,次の予定ということですけれども,今日,少し,この間の委員の方からの意見等々というので,事務局から何かお答えというか,御発言したいことがあったら,それを含めて結構ですので,よろしくお願いいたします。
【板倉教育課程企画室長】 今日は,教育課程部会のみならず,特別支援教育でありましたり,高校のワーキングとの連携の話でありましたり,いろいろと課題をいただいたと思っております。そこにつきましては,まさに事務局同士できちんと連携して,審議に生かしていきたいと思っております。
 次回の教育課程部会の審議予定でございますが,8月24日,10時から12時の開催を予定しているところでございます。
以上でございます。
【天笠部会長】 それでは,本日予定しました議事は全て終了いたします。
 これで閉会したいと思います。今日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――