総合規制改革会議(平成13年4月~平成16年3月)終了以降も規制改革をより一層推進するため、平成16年4月、民間有識者13名から構成される規制改革・民間開放推進会議を内閣府に設置(議長:宮内義彦 オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長・グループCEO)。
本会議では、平成17年度の主要検討分野として、「医療」、「教育」、「農業」等を上げ、それぞれのWGを設置。教育WGにおいては、1.免許・採用制度、2.学校選択制、3.情報開示、評価等について検討された。
その後、各省との折衝等を踏まえ、昨年12月21日に標記答申を取りまとめた(22日には同答申の具体的施策に関する記述を最大限尊重する旨の閣議決定)。
教育の原点・基礎としての義務教育を見た場合、児童生徒が等しく、その能力・適性に応じた教育サービスを受ける機会を与えられてはいないのが現状である。例えば、公立学校においては一部の地域で学校選択制が採用されているものの、児童生徒・保護者の選択の自由が保障されているわけではない。また、教育課程等も、学校現場が児童生徒一人ひとりの能力・適性を考慮しつつ的確かつ柔軟に改善していくことが望まれるにもかかわらず、全国一律の画一的基準がそれを制約している。さらに、公立学校教員の任命権は原則として現場から離れた都道府県教育委員会にあり、その意思決定に対して教育サービスの受益者である児童生徒・保護者の声は反映されにくい。本来最も尊重されなければならない児童生徒・保護者のニーズや評価が顧みられず、教育現場に最終的な権限と責任が与えられていないシステムの下では、児童生徒・保護者というユーザー本位の教育が実現するはずもなく、特に、真にきめ細かい対応が必要とされる学力的に不利な立場にある児童生徒、すなわち「教育弱者」が置き去りにされ、早い段階から学習意欲を喪失してしまうことになりかねない。
本年10月6日に発表された内閣府「学校制度に関する保護者アンケート」によれば、現在の学校教育に「不満」と回答した保護者が43.2パーセントにも上り、「満足」と回答した保護者は13.0パーセントにとどまった。このゆゆしき事態を解消するためには、現在の我が国の教育制度に関して抜本的な変革をもたらすべく、あらゆる必要な法的・予算的・行政的措置を通じてユーザー本位の教育を実現していかなければならない。
(1)教員の質の向上を目指した免許・採用制度及び教員評価制度の改革
1.免許・採用制度改革 -社会人経験者を含む多様な人材の確保・活用に向けて-
現在、教員の採用は、大学での教職課程を修了し、教員免許状を取得した者に事実上限定されているのが実態である。教員としての適格性は、養成過程のみではなく、実践を通じて確認され、培われていくものであることから、必ずしも免許状取得者のみに限定することなく、社会での豊富な経験を持つ者や特定分野に秀でた能力を有する者を含め多様な人材に門戸を開放し、世の中から広く人材を募ることが重要である。また、団塊世代教員の大量退職を間近に控えて、ややもすると大量採用に流れることも予想されるが、少子化の進展と教員の年齢構成の均衡を考慮し、多様な人材を幅広い年齢層からバランス良く採用することは、教員の質の維持・向上にとって喫緊の課題のひとつである。また、上述の内閣府によるアンケートにおいても、社会人経験のある教員の採用には88.8パーセントの保護者が賛成している。
なお、本年12月5日に発表された内閣府「教育委員会・学校法人および教員へのアンケート」においては、特別免許状制度の授与件数が少なくあまり活用が進んでいないと思われる理由を尋ねたところ、任命権者である都道府県教育委員会からでさえ、「文部科学省の定める授与基準が曖昧で使いづらい」という回答が31.9パーセントも寄せられた。また、公立学校教員の新規採用について、「候補者の身内に教育委員会関係者、学校関係者などがいる場合、採用時点で有利に働いているのではないかという声に対してどのように考えるか」を尋ねたところ、有利に働くと思う(「有利に働く面があると思う」と「多少、有利に働く面があると思う」の合計)との回答が、採用権者である都道府県教育委員会では0パーセントであったのに対し、市町村教育委員会では5.9パーセント、現場の教員では58.9パーセントという結果となった。採用権者から遠ざかるほど教員採用における公正性を疑問視する傾向が見られた。
各都道府県教育委員会においては、多様な人材を登用するため、特別免許状・特別非常勤講師制度を活用するとともに、人物重視の採用選考、採用に関する年齢制限の緩和・撤廃、社会経験を適切に評価する特別選考等を実施しており、近年では、採用者の1割は、民間企業等の勤務経験を持つ者が採用されている。今後、これらの取組みを更に進めるとともに、特別免許状制度の趣旨を周知し、より幅広く多様な人材の登用を促進することが必要である。併せて、採用選考における情報公開を引き続き進める必要がある。当面、下記の施策を実施する必要があるが、当会議としては、その状況を踏まえ、必要に応じて追加的な措置を提言する所存である。
「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」(「骨太方針2005」。平成17年6月21日閣議決定)において、「優れた教員の確保・育成に向け、豊富な社会経験や特定分野の能力を有する人材等多様な人材の活用を促進しつつ、教員養成・免許・採用制度の抜本的見直し・改善を行う」ことが決定されていることにかんがみ、少なくとも以下の施策を早急に講じる必要がある。また、何れの施策も学校段階にかかわらず、特に私学助成という形で公金が投入されている私立学校にも適用すべきであることは言うまでもない。
なお、制度の創設が検討されている教職大学院の修了者の採用・処遇については、その修了者が教員としての一定以上の資質を備えているとの先験的な前提に立って、制度的に大学学部卒業者や一般大学院修了者等と異なる措置を講じることは適当ではなく、修了者の実績等を踏まえ、都道府県教育委員会等において選考の公平性に留意しつつ対応すべきである。
社会人経験者を含む多様な人材を確保することは、学校教育の多様化、活性化を図るために重要なことである。民間企業等に勤める者で教員免許状を取得している者は、現職教員の数倍以上いると見込まれており、こうした人材の登用を促進していくとともに、教員登用の複線化を進める観点から、教員免許状未取得者への特別免許状の活用を促進することが重要である。
現在、教員免許状を有しない者にも教員採用試験の出願を認め、合格後に臨時免許状または特別免許状を取得させて採用している都道府県は12県のみ(平成17年度)であるが、小学校での採用実績はなく、中学校・高等学校での工業、商業、農業又は看護の専門的な科目においてでしか実施されていない。
また、団塊世代の大量退職期を間近に控え、特に都市部ではすでに小学校教員の大量採用期に入り実質合格倍率が急激に低下していることにかんがみれば、小学校においても優れた資質能力をもった多様な人材を確保するために教員の採用選考を改善・充実させる必要がある。
これらを踏まえ、多様な人材を確保するための方策として、全国規模で学校段階、公私の別、教科を問わず、教員免許状を有していないが、担当する教科に関する専門的知識経験又は技能を有し、また、社会的信望や教員の職務を行うのに必要な熱意と識見を持っている者に対して、特別免許状の授与を前提とした採用選考を実施することについて、積極的に活用するよう、各都道府県教育委員会や学校法人等に促すべきである。また、その際、特別免許状制度について、制度の趣旨等を広く周知徹底し、その活用促進を図ることが必要であり、その一環として、各任命権者において免許状未取得者に係る特例的取扱いの状況を含め、採用選考の状況を広く公表するよう促すべきである。
なお、各都道府県教育委員会等においては、上記のような採用選考を実施する際には、免許状未取得者も応募できる旨を志願者側にも周知徹底すべきである。【平成17年度中に措置】
教員免許状を有しない有為で多様な人材の採用選考等、教員登用の複線化を進める観点から、特別免許状の活用を促進する必要がある。同免許状は、大学での教員養成教育を受けていない者に教員免許状を授与するために昭和63年に制度化されたものであるが、授与件数は制度創設から平成16年度までの16年間を合計しても149件にすぎず、当該期間の採用総数約32万人に対して極めて少数にとどまっている。
したがって、特別免許状の授与については、面接等を中心とした、教員としての最低限度の資質のチェックを行う客観的な仕組みとする必要がある。具体的には、現在、特別免許状授与のための教育職員検定の受検に際しては、任命権者・雇用者による推薦が必要とされているが、都道府県教育委員会や学校法人等の任命権者・雇用者は、特定分野に秀でた能力を有する者の雇用が必要となった際に、推薦すべき者を迅速かつ適切に選出・雇用できるよう、日頃から、教育に対する熱意と識見を持ち、専門的知識・技能を有する社会人経験者を幅広く発掘・把握するよう努めることが必要である。その際、本人の資質を証明できる第三者(当該者の採用を希望する学校長等の任命権者・雇用者以外の者)による任命権者・雇用者への事前の推薦を活用するなど、特別免許状の活用を促進するようにすべきである。また、任命権者・雇用者と授与権者の間で、第三者による任命権者・雇用者への事前の推薦を踏まえつつ、教育職員検定の必要書類、学識経験者の意見聴取事項についてあらかじめ取り決めを行うなど、事務手続きの簡素化、迅速化を図り、特に私立学校採用への志願者で普通免許状を持たない者が、私立学校において特別免許状の授与の申請が負担となることによって、事実上不利に扱われることのないように配慮するよう努めるべきである。併せて、他県の特別免許状を有している者については、実務等の観点で、その実績を考慮した簡易な方式で検定を行うなど、教育職員検定の実施にあたって、状況に応じた弾力的取扱いを行うよう促すべきである。また、学校教育に関し学識経験を有する者から意見を聞くことを含む教育職員検定の透明性を確保するよう、各都道府県教育委員会に対し、適切に合否基準等の情報を公開するよう促すべきである。
加えて、特別免許状を小学校教員に拡充するなど、小学校においても優れた資質能力をもった多様な人材を確保することが重要であり、要件を満たす者であれば、国語、算数、理科、社会等、複数の教科についてそれぞれの特別免許状を授与することも十分に可能である旨を周知することも含め、小学校教員への特別免許状の授与促進を図るよう促すべきである。【平成17年度中に措置】
受験者の関係者の中に、教育委員会関係者、学校関係者、自治体関係者などがいることが、採用に有利に働いているのではないかという懸念が一部にあることも念頭におきつつ、教員の採用については、透明性・客観性が確保された採用選考とすることが必要である。具体的には、面接試験を重視する等、人物重視の採用選考を引き続き進めるとともに、採用の客観性・公正性が損なわれることのないよう、採用選考の実施主体である各都道府県教育委員会等に対して、それぞれが求める教員像を明確にし、学力試験問題や採用選考方法・基準を公表するとともに、面接にあたっては、多様な構成により、幅広く公正な立場から面接を行える者を確保し、選考の過程での利害関係者による接触等を排除するなど、採用選考の透明性・客観性を高め、採用が厳正かつ公正に行われることにより教育への信頼が確保されるよう努めることを促すべきである。【平成17年度中に措置】
各都道府県・指定都市の教員採用選考試験においては、現在、ほとんどの県市で教員免許状の所有を前提とした選考を実施しており、教員免許状を持たない社会人にとって教員採用の門戸はほとんど開かれていない。また、教員免許状を所有する社会人向けに、大学卒業後すぐに教職に就かず民間企業等に就職した者を対象とした社会人特別選考を実施している都県が存在するが、この場合、通常、教職の専門性を見るための学力試験が実施されている。仮に教員免許状を有する新卒者と同じ試験を社会人に対して実施した場合、社会人がたとえ教職に対する意欲、適性を有していたとしても、採用試験に合格することは非常に困難と考えられる。
このため、都道府県教育委員会等においては、社会人活用を促進するため、新卒者とは別の、例えばその者の民間企業等での勤務経験を適切に評価するような、社会人特別選考の実施を促進すべきであり、また、その中で教員免許状を持たない社会人に特別免許状の授与を前提とした特別選考の実施を検討すべきである。
教育委員会が求める教員像を明らかにするとともに、採用選考の透明性を高めて公教育への信頼性を確保するため、学力試験問題等の公表、採用選考基準の公表を検討することが必要である。
教員志願者、教育関係者、地域住民等に教育委員会が求める教員像を明らかにして、各学校や地域のニーズに対応した適格な教員の確保を促進するとともに、採用選考の透明性を高めて公教育への信頼性を確保するため、学力試験問題等の公表、採用選考基準の公表を検討することが必要である。
その際、教員採用が競争試験ではなく選考であることにかんがみ、学力試験問題、論文課題のみを公表するのではなく、実技試験及び面接試験等の他の試験・課題のおおよその内容、各試験の比重や配点の目安を公表して、採用選考試験全体の情報公開を進め、これらにより教育委員会が求める教員像の全体を明確に示すよう工夫を講じることが望まれる。
初等中等教育局教職員課
-- 登録:平成21年以前 --