第2章 栄養教諭制度の創設

1 栄養教諭の職務

 栄養教諭は、教育に関する資質と栄養に関する専門性を併せ持つ職員として、学校給食を生きた教材として活用した効果的な指導を行うことが期待される。このため、(1)食に関する指導と、(2)学校給食の管理を一体のものとしてその職務とすることが適当である。

(1)食に関する指導

1 児童生徒への個別的な相談指導

 児童生徒の食生活の現状にかんがみ、生活習慣病の予防や食物アレルギーへの対応などの観点から、栄養教諭が児童生徒の個別の事情に応じた相談指導を行うことが、児童生徒の健康の保持増進のために有効であると考えられる。その際、食に関する問題への対応には、児童生徒の食の大部分を担う家庭での実践が不可欠であることに留意し、保護者に対する助言など、家庭への支援や働きかけも併せて行うことが重要である。
 児童生徒の食生活に係る問題の中で、個別的な相談指導が想定されるケースとしては、

  • (a)偏食傾向のある児童生徒に対し、偏食が及ぼす健康への影響や、無理なく苦手なものが食べられるような調理方法の工夫等について指導・助言すること
  • (b)痩身願望の強い児童生徒に対し、ダイエットの健康への影響を理解させ、無理なダイエットをしないよう指導を行うこと
  • (c)肥満傾向のある児童生徒に対し、適度の運動とバランスの取れた栄養摂取の必要性について認識させ、肥満解消に向けた指導を行うこと
  • (d)食物アレルギーのある児童生徒に対し、原因物質を除いた学校給食の提供や、献立作成についての助言を行うこと
  • (e)運動部活動などでスポーツをする児童生徒に対し、必要なエネルギーや栄養素の摂取等について指導すること

 などが考えられる。これらの相談指導には、栄養学等の専門知識に基づいた対応が不可欠であり、学級担任や家庭だけでは十分な対応が困難な場合も多いと考えられるため、栄養の専門家である栄養教諭が中心となって取り組んでいく必要がある。また、必要に応じて、学級担任や養護教諭とティームを組んで、あるいは学校医や学校歯科医、他の栄養の専門家などと適切に連携を図りながら対応していくことが考えられる。
 このように、栄養教諭は、児童生徒の食生活に関し、その専門性を生かしたきめ細かな指導・助言を行う、いわば食に関するカウンセラーとしての役割が期待される。なお、食に関する相談指導に当たっては、教育相談室や余裕教室を利用するなど、個別相談に相応しい環境で行われることが望ましい。

2 児童生徒への教科・特別活動等における教育指導

 食に関する指導は、個別指導以外にも給食の時間や学級活動、教科指導等、学校教育全体の中で広く行われるものであり、その中で栄養教諭は、その専門性を生かして積極的に指導に参画していくことが期待される。
 各学級における給食の時間や学級活動における指導は、一般的には学級担任が年間指導計画を作成して行うものであるが、食に関する指導の充実のため、その指導計画に基づいて栄養教諭が指導の一部を単独で行うなど、積極的に指導を担っていくことが大切である。
 特に給食の時間は、生きた教材である学校給食を最大限に活用した指導を行うことができるだけでなく、食事の準備から後片付けまでを通じて、食事のマナーなどを学ぶ場としても活用できるなど、食に関する指導を行う上での中核的な役割を果たすものである。栄養教諭は、学校給食の管理を担う立場から、学校給食を最も有効に活用した指導ができる存在であり、計画的に各学級に出向いて指導を行うことが期待される。他方、給食の時間は原則として全校一斉に取られるため、栄養教諭が全ての学級において十分な時間を取って指導を行うことは物理的に困難である。したがって、給食の時間や学級活動の時間における指導は、学級担任等と十分に連携することによって、継続性に配慮しつつ行うことが肝要である。特に、複数の学校を担当する栄養教諭については、この点がより重要となると考えられる。
 また、家庭科や保健体育科をはじめとして、関連する教科における食に関する領域や内容について、学級担任や教科担任と連携しつつ、栄養教諭がその専門性を生かした指導を行うことも重要である。特に、食に関する問題は、児童生徒にとっても身近な問題であると同時に、他の様々な問題と関連する広がりを持ったものであり、各教科や特別活動、「総合的な学習の時間」などにおいて、例えば、食べ残しと環境負荷の問題や、食品流通と国際関係、食文化を含む地域文化など、食と関係した指導を行う場合には、栄養教諭を有効に活用していくことが期待される。さらに、各教科指導において触れた食品を学校給食に使うなど、学校給食との連携を図ることにより、児童生徒の興味・関心を引き出し、より教育効果の高い指導を行うことが可能になるものと考えられる。
 なお、食に関する指導は、既に指摘したように学校教育活動全体の中で広く行われるものである。学校において食に関する指導に係る全体的な計画を策定するに当たっては、栄養教諭がその高い専門性を生かして積極的に参画し、貢献していくことが重要である。

3 食に関する教育指導の連携・調整

 学校における食に関する指導は、給食の時間をはじめとして、関連教科等に幅広く関わるものであり、効果的な指導を行っていくためには、校長のリーダーシップの下、関係する教職員が十分連携協力して取り組むことが必要である。その中で、栄養教諭は、栄養に関する専門的な教員として、例えば、食に関する指導に係る全体的な計画の策定において中心的な役割を果たすなど、連携・調整の要としての役割を果たしていくことが期待される。特に、学校給食と連携した授業を実施する場合などは、学校給食の管理を担う栄養教諭が、教務主任や学級担任等と連携し、年間指導計画における食に関する指導の計画と給食管理との有機的連携を確保することによって、食に関する指導の効果は一層高まるものと考えられる。また、例えば校務分掌において給食主任を担うなど、その専門性を生かして積極的に学校運営に参画していくことも重要である。
 同時に、児童生徒の食の大部分は家庭が担っているという実態を踏まえれば、食に関する指導は、学校内における児童生徒への直接的な指導のみにとどまらず、広く家庭や地域との連携を図りつつ指導を充実させていくことが重要である。具体的には、給食だより等を通じた啓発活動や、食物アレルギーに対応した献立作成などについての保護者に対する助言、親子料理教室等の開催、地域や関係機関が主催する食に関する行事への参画などにおいて、栄養教諭がその専門性を発揮し、積極的に取り組んでいくことが期待される。
 このように、食に関する指導を効果的に進めていくためには、学校の内外を通じて、教職員や保護者、関係機関等の連携を密接に図ることが肝要であり、栄養教諭は、その専門性を生かして、食に関する教育のコーディネーターとしての役割を果たしていくことが期待される。

(2)学校給食の管理

 現在学校栄養職員が行っている栄養管理や衛生管理、検食、物資管理等の学校給食の管理は、専門性が必要とされる重要な職務であり、栄養教諭の主要な職務の柱の一つとして位置付けられるべきである。具体的な職務内容としては、

  1. 学校給食に関する基本計画の策定への参画
  2. 学校給食における栄養量及び食品構成に配慮した献立の作成
  3. 学校給食の調理、配食及び施設設備の使用方法等に関する指導・助言
  4. 調理従事員の衛生、施設設備の衛生及び食品衛生の適正を期すための日常の点検及び指導
  5. 学校給食の安全と食事内容の向上を期すための検食の実施及び検査用保存食の管理
  6. 学校給食用物資の選定、購入及び保管への参画

 などが考えられる。特に栄養教諭にとっては、学校給食は食に関する指導を効果的に進めるための重要な教材でもあり、その管理においてもより一層の積極的な取組が期待される。
 同時に、献立のデータベース化やコンピューターによる物資管理など、可能な部分については情報化を進めるなどにより一層の効率化を図り、食に関する指導のために必要な時間を十分に確保できるよう工夫していくことが求められる。
 なお、学校給食における衛生管理については、平成8年度の腸管出血性大腸菌O157による食中毒事件以降、その徹底が一層図られ、学校給食が原因と考えられる食中毒の発生件数は減少してきているところであるが、より安全で安心な学校給食の実施のためには、学校給食における衛生管理を今後さらに充実強化していくことが大切である。

(3)食に関する指導と学校給食の管理の一体的な展開

 栄養教諭は、生きた教材である学校給食の管理と、それを活用した食に関する指導を同時にその主要な職務の柱として担うことにより、両者を一体のものとして展開することが可能であり、高い相乗効果が期待される。学校給食の教材としての機能を最大限に引き出すためには、その管理を同時に行うことが不可欠であり、また、食に関する指導によって得られた知見や情報を給食管理にフィードバックさせていくことも可能となると考えられる。具体的には、例えば、体験学習等で栽培した食材を学校給食に用いることで、生産活動と日々の食事のつながりを実感させたり、食に関する指導を通じて児童生徒の食の現状を把握し、不足しがちな栄養素を補うため、献立の工夫や保護者に対する啓発活動を行うことなどが考えられる。

2 栄養教諭の資質の確保

 食に関する指導と学校給食の管理という職務内容に照らし、栄養教諭には、学校栄養職員と同等以上の栄養に関する専門的知識・能力に加え、児童生徒の心理や発達段階に配慮した指導ができるよう、教育の専門家としての資質も求められる。
 これらの資質を制度的に担保するため、栄養教諭制度の創設に当たっては、保健指導と保健管理をその職務とする養護教諭の例を参考としつつ、新たに栄養教諭の免許状を創設することについて検討すべきである。その際、栄養に関する専門性については、児童生徒に対する栄養指導を行うという職務内容に留意しつつ、原則として、健康の保持増進のための栄養の指導等を担う管理栄養士の資格に相当する程度の専門性が確保できるような制度設計について考慮すべきである。また、教育に関する資質は、養護教諭の例を参考とし、教職に関する科目の履修を課すことなどによって担保することを検討すべきである。
 なお、現に学校栄養職員として勤務している者についても、教育的資質の向上を図り、その専門性を食に関する指導に活用していくため、一定の要件の下に栄養教諭の免許状を取得できるようにするなどの措置について検討する必要がある。

3 栄養教諭の配置等

 栄養教諭の配置については、栄養教諭が教育に関する資質を有する教育職員として位置付けられるものであり、また、学校給食の管理と食に関する指導を一体のものとして展開するということを基本として考えるべきである。
 また、学校給食の管理と食に関する指導を一体的に展開するという栄養教諭の職務を踏まえれば、共同調理場方式を採用する学校の場合、栄養教諭の配置は、共同調理場における給食管理と受配校における食に関する指導を併せて行うことを前提として考慮すべきである。
 ただし、学校給食の実施そのものが義務的なものではないこと、現在の学校栄養職員も学校給食実施校全てに配置されているわけではないこと、及び、地方の自主性を尊重するという地方分権の趣旨にかんがみ、栄養教諭の配置は義務的なものとはせず、公立学校については地方公共団体の、国立及び私立学校についてはその設置者の判断に委ねられるべきである。
 平成13年5月の学校給食実施状況調査によれば、公立小中学校のうち学校給食実施校は30,602校であるのに対し、学校栄養職員は10,250人となっている。学校栄養職員から栄養教諭への移行を考えた場合、学校給食実施校を含め、栄養教諭を配置することのできない学校も想定されるが、近隣の学校の栄養教諭が出向いて指導を行うなどの工夫を講ずることによって、直接栄養教諭が配置できなくとも食に関する指導の充実が図れるようにすることが大切である。
 なお、栄養教諭制度の創設後も、全ての学校栄養職員が一律に栄養教諭に移行するわけではないため、栄養教諭と学校栄養職員が並存することとなると予想されるが、栄養教諭制度創設の趣旨に照らせば、将来的には、学校栄養職員の資質を高め、栄養教諭への移行を促進することにより、食に関する指導の充実を図るべきである。

4 栄養教諭の身分等

 栄養教諭の職務内容等にかんがみ、公立学校の栄養教諭については、教育公務員特例法の適用を受け、自らの資質の向上に不断に努める必要がある。また、国公私を通じて、栄養教諭は学校教育活動全般への積極的な参画が求められる。

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-- 登録:平成21年以前 --