資料3 日本教育大学協会提出資料

これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」(平成27年7月16日教員養成部会 中間まとめ)に対する意見  

日本教育大学協会

 

1.はじめに
 本中間まとめにおける「1.検討の背景」「2.これからの時代の教員に求められる資質能力」「3.教員の養成・採用・研修に関する課題」に対する認識は,基本的に,日本教育大学協会としてもその認識を共有している。それを踏まえた上で,「4.改革の具体的な方向性」については,教員研修,教職課程の質の保証・向上,中学校等の教員免許状所有者の小学校での活動,教員の資質能力の高度化等について,以下に意見を述べる。
 特に,「教員養成の大学院レベル化」について,高度専門職業人としての教員養成の中核を担う国立教員養成系大学・学部にとって重要な課題であり,日本教育大学協会として強い関心をもっている。今後,拡充期を迎え,教員養成のモデルからスタンダードへ,その役割を転換されようとする教職大学院について,日本教育大学協会としては,国立教員養成系大学・学部,教職大学院,修士課程の適切な役割分担によって,より一層,高度専門職業人としての教員養成を図っていくことが必要であると考える。

 

2.「4.改革の具体的な方向性」について
(1)「教員育成指標及び研修指針の策定」について【13,14頁】
 教員の養成,採用,研修の接続を強化し,より一体性を確保するためには,関係者間で教員の育成に関する目標が共有されることが必要である。その際には,全国を通じて配慮されなければならない事項やそれぞれのキャリアステージにおいて最低限身に付けるべき能力などについて国が示す整備指針や,望ましい研修の在り方や実施されるべき事項を示す研修指針の策定について,教員養成系大学・学部等の関係者の意見を十分に聞きながら検討を行った上で策定することが求められる。

(2)道徳教育の充実について【16,18頁】
 道徳の教科化にともなって教職課程において道徳教育が適切に指導されるようにするためには,大学において専門性を有する人材の配置が確保されるよう,教育職員免許法上,教職に関する科目における「教育課程及び指導法に関する科目」の「道徳の指導法」のカリキュラムの改善と単位数の増加等,適切な措置が必要である。
 なお,従来から曖昧であった総合的な学習の時間の指導法等についても,免許法上,教職に関する科目の内容に明確に位置づけていくことが必要である。

(3)英語教育の充実について【16,18頁】
 小学校中学年の外国語活動導入,高学年の英語の教科化に向けて,小学校における外国語活動,英語教育を充実させるためには,教員養成系大学・学部を中心として,教育内容や指導法の開発を進め,それに基づいて現職教員の指導力の育成を図ることが不可欠である。
 また,現在,小学校においては,英語教育推進リーダー等を中心にして英語担当教員の研修等を進める動きが見られ,こうした動きを全国的に展開させることが必要であるが,長期的に小学校教員に英語に関する専門性と指導力を確実に担保するためには,小学校と中学校等の免許の併有の促進,小学校における専科教員の配置を進めるなどの対応を進めるとともに,最終的には,教育職員免許法に明確に位置づけて小学校教員の英語に関する専門性と指導力を育成することが必要である。

(4)特別支援教育の充実について【17,19頁】
 インクルーシブ教育を推進するためには,発達障害を含む特別な支援を必要とする幼児・児童・生徒に関する理論及びその指導法について,教員として最低限必要な資質・能力として全ての学校種の教職科目として位置づけることが不可欠である。

(5)教員研修の充実について【19~25頁】
 免許状更新講習については,「国公私立の教員を通じ,また,現職教員及び非現職教員を対象として行われるものであり,免許制度の根幹をなすものである」(23頁)とされているが,十年経験者研修との関係の整理が急務であり,教員が教職生活の全体を通じて,自発的かつ不断に専門性を高めることを支援する制度へ転換することが検討されるべきである。
 初任者研修,十年経験者研修などの法定研修については,教育公務員特例法によって公務員である教員のみを対象としている。中間まとめが「幼稚園から高等学校教員まで百万人以上にも上る現職教員の研修の意義はとりわけ大きく,早急に体制を整備する必要がある」(24頁)と指摘するように,我が国の学校教育において重要な役割を担っている私立学校の教員を含めた教員全体の研修実施体制の構築が急務である。そのためには,幼稚園から高等学校までの国公私立学校のすべての教員を対象とした教員の身分や,高度専門職にふさわしい研修の在り方を定めた法制度の整備が必要である。

(6)教職課程の質の保証・向上について【29~31頁】
 学士課程における教員養成教育の評価については,事前規制型の質保証システムだけでなく,事後確認型の評価システムを併用していくことが必要である。中間まとめが指摘するように,「教職課程を有する大学における教員養成教育の多様性を尊重しつつ,各大学が任意で参加し,学校や教育委員会の協力を得ながら,ピアレビューを中心とした,相互に学び合うコミュニティーを形成し,大学の枠を超えて学士課程段階の教員養成教育全体の質的向上に資する」ような質保証システムを提唱していることは評価したい。教員養成教育の現状を自律的・主体的に改善しようとする各大学の取組を支援するシステムの構築が早急に求められる。

(7)中学校及び高等学校の免許状所有者による小学校での活動範囲の拡大について【32,33頁】
 義務教育学校制度の導入,小学校における外国語活動・英語教育の充実のために,中学校及び高等学校の免許状所有者が,「教科等に加え学級担任も可能とするように制度改革を行う」(32,33頁)ことについては,さらに慎重に検討を重ねる必要がある。小学校という児童の発達段階(特に,低学年と中学年),小学校の教員組織体制を踏まえれば,学級担任による全教科指導体制は,我が国の小学校教育を支える根幹であると言える。
 中学校等の教員に対し「小学校における組織,教育内容,学級運営等に関しあらかじめ研修を行う」(33頁)ことによって小学校への配置を拡大するという対応が一般化すれば,実質的に,教員免許制度の根幹をなす相当免許状主義をなし崩しにするものとなる。
 教育職員免許法別表第8によって免許状の併有を促進すること,小学校の専科教員の育成を図ることが,長期的に見て,義務教育学校制度,小学校における外国語活動・英語活動の充実に資することになると考える。

(8)特別支援学校の免許状の保有率向上について【34,35頁】
 「障害者の権利条約」の批准ならびに「障害者差別解消法」が平成28年度から施行されることを鑑みると,特別支援学校や特別支援学級等で特別支援教育の対象となっている幼児・児童・生徒を教育する教員の専門性を教員免許状によって担保するべきである。現在,特別支援学校における特別支援学校免許状の保有率は72.7%,小・中学校における特別支援学級・通級による指導等を担当する教員の特別支援学校免許状の保有率は30%程度にとどまっており,早急な改善が求められるところである。
 なお,現在,免許法認定講習等の免許状取得を促進する現職教員を対象とする取組については,教員養成系大学・学部の特別支援教育を担当する教員が中心的な役割を担っている。このことから,免許状の保有率向上ならびに特別支援教育に関する専門性向上を強化するためには,それを担う教員養成系大学・学部において専門性の高い教員を適切に配置することが求められる。

(9)教員の資質能力の高度化について【36~39頁】
 ○「中間まとめ」においては,「将来的には教員養成の大学院レベル化も視野に入れつつ,教職大学院を中心とした大学と教育委員会が連携した教員の養成や研修を進めていくことが必要である」(38頁)とし,当面の取組として「教職大学院を中心とした大学における履修証明制度の活用等による教員に資質能力の高度化」を提言するにとどまっている。「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」(平成24年8月28日)が「修士レベル化に向け,教職大学院や修士課程の教育の改革,新たな学びを展開できる実践力育成モデルの構築等,段階的な体制整備を着実に推進する」と答申した内容と比較して,「中間まとめ」における履修証明制度,認定講習の活用によって大学院レベル化(修士レベル化ではない)を図るという方針は,教員の高度専門職業人としての養成という点で一歩後退した観は否めない。この背景には,教職大学院が今後,全国展開されることが想定されながら,全国の教員数に比較してその定員は非常に限定されており(量的な課題),また,教員の研修ニーズが高く,学校教育の基本でもある教科指導の領域がカバーしきれていないなど(質的な課題),拡充期を迎える教職大学院が教員養成のモデルからスタンダードへ,その役割を転換する上で課題を抱えており,今後の定員拡充の見込みとその規模,カリキュラム改訂の方向性,教員配置の展開等が不透明であるなどの根本的な問題があるものと考えられる。
 ○「中間まとめ」は,教職大学院と修士課程の関係について,「国立の教員養成系修士課程については,高度専門職業人としての教員養成機能は原則教職大学院に移行させること」(36頁)とされている。教職大学院は,平成27年度には,21国立大学(入学定員718人)と6私立大学(同170人)の合計27大学(同888人)にとどまっており,今後,平成28年4月には18大学,平成29年4月には7大学で設置される予定となっているものの,100万人を超える教職員の高度専門職化という要請に応えるためには,量的に極めて不十分であると言える。教職の高度専門職化を実現するためには,教職大学院と教員養成系の修士課程の適切な役割分担によって推進することが必要である。
 ○教職大学院を量的に拡大するためには,45単位以上という修了要件,教育課程の運営に必要な教員数,4割以上必要とされる実務家教員の割合や実務家教員の採用基準等,教職大学院担当教員は大学設置基準や大学院設置基準の教員に算入できないという規定(いわゆる専任教員のダブルカウントの平成30年度以降の恒久化の問題)の見直しなど設置基準の柔軟化・緩和について検討する必要がある。
  また,現職教員の一定の割合が継続的に教職大学院で学ぶ環境を整えるために,「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」及び「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」に基づく研修等定数を基礎定数に算入するなどの抜本的な措置が必要である。
 ○教科等について学問的に幅広い知識や深い理解を強みとする教員の養成,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,社会教育主事等の専門的な学校支援人材の養成,ICT教育や国際理解教育,環境教育等現代的な教育課題に対応できる人材等の養成,アクティブラーニングなどの新しい学びのカリキュラムの開発や法的紛争を想定した危機管理システムの開発,教育委員会と協同して教育課題を分析する研究者の育成,学部における教職課程担当教員や教職大学院の研究者教員,教員養成系修士課程を担当する教員の養成については,教員養成系大学の修士課程や博士課程等を中心にして行うことが必要である。

 

3.その他
○教員養成系大学・学部の機能強化と財政支援について
 教員養成系大学・学部はそれぞれの強み・特色を生かした教育・研究・社会貢献の機能を強化し,改革に取り組んでいるところである。教員の資質能力の向上に係る今後の具体的な改善方策を実施する上で,教員養成系大学・学部の機能強化及びそのための財政支援が特に必要であることを明記していただきたい。

    
以上

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初等中等教育局教職員課