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参考資料


中央教育審議会生涯学習分科会(第26回)議事要旨

1.  日    時   平成15年12月1日(月)10:00〜13:00

2.  場    所 文部科学省分館6階   601特別会議室

3.   議    題
(1)    生涯学習の振興方策の在り方について
(2)    その他

4.   配布資料
資料1   公民館,図書館,博物館の民間への管理委託について
資料2   行政サービスの民間開放等に係る論点について
資料3   学習者のニーズと行政と民間教育事業者との連携等の状況について
資料4   ITを活用した多様な学習機会の提供状況について
資料5   関連答申(抜粋)
資料6   第26回(12月1日(月))生涯学習分科会の主な論点について(案)
資料7   第19回以降の生涯学習分科会における主な指摘事項(社会教育施設関係)
資料8   第19回以降の生涯学習分科会における主な指摘事項(学習者のニーズと行政と民間教育事業者との連携等関係)

5.   出席者
委   員 木村副会長,山本分科会長,松下副分科会長,浅井委員,糸賀委員,大日向委員,奥山委員,加藤委員,鎌谷委員,柵委員,白石委員,竹内委員,西村委員,増田委員,山岸委員
事務局 銭谷生涯学習政策局長,松元生涯学習総括官,布村政策課長,森本学習情報政策課長,山田調査企画課長,芝田生涯学習推進課長,折原社会教育課長,山田生涯学習企画官,その他関係官

6.   議事等

(1)    事務局より指定管理者制度について説明後,自由討議が行われた。

山本分科会長
   平成10年の生涯学習審議会答申の時は,地方分権や規制緩和は国の流れとしてやむを得ないものとして,積極的に打って出るところを打ち出していかなければならないという議論になり,今後はネットワーク行政を進めていってはどうかという提案がなされた。日本は,明治から昭和30年頃までは団体中心主義であった。その後,人口の変動によって都市化が進んだことに伴い,団体があまり機能しなくなり,団体中心主義から施設中心主義に移行していった。お金も使えるようになったこともあり,施設の充実を図り,公民館等が学級・講座等を実施するようになった。現在は,情報化の影響により,従来のような施設中心主義から,ネットワーク中心主義への転換期を迎えている。平成10年の答申時には,ネットワーク行政を構築するために,学習資源を収集・活用することを提言している。

奥山委員
   平成15年9月から導入された指定管理者制度が地方公共団体を揺さぶっており,本年の12月議会と来年の3月議会に全国でこの条例を出さなければならないが,大変議論が紛糾している状況である。
   これまで,社会教育施設においては,地方公共団体自らや行政が所管する財団が管理運営を行ったり,館長を必置にすること等によって,質の確保を担保してきたが,指定管理者制度の導入による民間事業者の競争入札のようなことが発表されると,新聞の報道をはじめ,市民の間や議会においても,何から何まで民間で実施してもよいのだという声が強まることになってしまう。
   地方都市の場合,公共施設を受託できるだけのノウハウがある民間業者がなかなかない状況である。また,指定管理者制度の導入に当たっては,業務の具体的範囲等を詳細に規定しなければならないが,例えば,図書館の運営に当たって,市町村や地域住民にどのようなサービスを提供してもらえればよいのか,日々どの程度満足するのかということも大事だと思うが,将来的なことも含めてよりよい図書館にするための基準を,どうやって仕様書の中で明確にできるかということは非常に難しいと思う。
   例えば,公務員の図書館の職員はにこやかではないから,民間に委託すれば明るいサービスをしてくれるだろうという程度のことで,民間に委託しろという声も出ているが,一方で,利用者のコピーをどう判断するかという著作権の運用一つにしても,どのようなガイドラインを出すのかということは非常に難しいと思う。
   仙台市を含めて,図書館行政について多少の経験があった地方公共団体でもこのような状況であり,まして,新しく図書館ができたばかりの経験が少ない地方公共団体は,先に指定管理者に移れと言われても,指定管理者にすぐ委託できるのだろうか,とても難しさを感じている状況である。
   したがって,サービスの質のガイドラインを,地方公共団体の職員,図書館の専門職等も含めて早急につくらないと,安かろう悪かろうということが非常に懸念される。
   また,仙台市でも,図書館などはこれまでネットワークの中で職員が移動しながら業務を実施していくというスタイルを採っているが,民間が参入した場合に,例えば,仙台市の7館の図書館を7つの別の業者に委託して競争状態をつくったらよいのではないかというような極端な意見を真剣に考えている方がいる。
   さらに,現在,仙台市の図書館の職員は,宮城県又は東北全市の様々な職員との交流と研修の機会を持つことにより,10年先がどうなるのかというような知見を自らの中にも広めているが,民間業者の運営になったときに,果たして受託会社にそこまでの将来に対する人材の育成ができるのかという問題があり,長期的な視点をどう指定管理者と擦り合わせつつ,どのようによりよい社会教育施設としての運営の責任を担っていくのかということがなかなか見えない。

糸賀委員
   現段階では民間事業者そのものがなかなか育っていないという現状であり,すぐにこれを委託すれば,想定しているようなメリットが十分発揮できるかどうか不安な面がある。文部科学省では,民間に管理を委託した場合のメリットを具体的にどのように想定しているのか。平成10年の生涯学習審議会の答申に「施設の機能の高度化や住民サービスの向上のためには,上記のような法人等に委託する方がかえって効率的な場合もある」と記述されているが,どのようなことを効率的と考えているのか。
   また,指定管理者制度が導入されても,依然として館長は教育委員会が任命するが,すべての業務を民間に委託してしまった場合に,館長から直接の指揮命令が機能しないのではないかということが心配されるが,この場合,館長からの指揮命令の権限がどのように残されるのか。
   さらに,山本分科会長が説明された施設中心主義からネットワーク行政への移行が,今回の指定管理者制度とどのように結びつくのか補足していただきたい。

折原社会教育課長
   指定管理者制度の導入は,地方分権という大きな考え方の下で,国から地方へ,官から民へという流れから来たものである。すなわち,地方において,現場の知恵を生かした柔軟で弾力的な地域再生の取組が可能となるようにすることがねらいである。
   また,奥山委員が言われたように,職員がにこやかに住民に接するだろうという程度で導入しろという意見もあるようだが、本質的な背景には,地方公共団体における行財政事情が非常に厳しいという現状があると思う。可能な限り経費をかけずに同じようなサービスを効率的に行うことができることがメリットの一つである。他方で,住民の方々の意識が高まっており,自ら関わり自らのサービスができるようにしていきたいという希望もあると思う。
   さらに,地域経済の活性化や雇用の拡大もメリットとして挙げられている。ただし,この指定管理者制度はすべての自治体でこれを導入するということではなく,一つの選択肢であり,地方自治法においても,「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは」と規定し,それぞれの地方公共団体の判断と責任として打ち出されている。すなわち,細かなことまで国が考えるのではなく,質の確保については各地方公共団体で判断することであることを御理解いただきたい。
   次に,委託が行われた場合に,行政と民間の二種類の職員がいることにより,館としての一体的な組織運営ができるかどうかについてであるが,現在でも,2分の1以上の出資法人への管理委託をしている例や,直轄方式で管理運営が行われているところでも業務委託,一部分の業務については民間も含めて様々な機関に委託している例も多く,そこでは,地方公共団体の職員である館長が,委託先の職員に対して命令できないで困っているという声も聞くことがある。どのように調整して地域住民によりよいサービスを提供するかということは,選択した地方公共団体の工夫を踏まえて整理されるものと考えている。

山本分科会長
   ネットワークと指定管理者制度との関係についてであるが,図書館などの図書資料のネットワークは既に構築されており,一番弱い領域は専門職員の問題である。地方分権や規制緩和の流れの中で,逆風を順風にするにはどうするかというようなことを考えた場合,旗を立てて反対するのではなく,残る部分を我々が掴んでおくことが必要だと思う。すなわち,専門職員がアウトソーシングの流れで委託されたときに,我々が最後に掴んでおくべき部分は専門的な知識・技術であり,これらを蓄積しておくことが非常に重要となると思う。例えば,今,国立教育政策研究所の社会教育実践研究センターでプログラム立案のCD−ROMをつくっているが,この中に専門的な知識・技術を入れ,それをネットワークの中で蓄積していくということも考えられると思う。

浅井委員
   地方分権にしても,NPM(ニュー・パブリック・マネジメント:民間の経営理念や手法を導入しマネジメントの効率化・活性化を図るという考え方)にしても,その根底にある考え方は,自由と責任を持った個人や地方公共団体が活発にいろいろな活動をすることだと思う。自由に活動するためには,責任を必ず取るということが重要であり,指定管理者制度にしても,責任者を誰にするのかということはきちんと考える必要がある。
   また,専門職員はこれまでも任意設置だったが,専門職員を置くことができないならば,少なくとも有資格者を必置にするなどして活用していただくようにしてはどうか。ただし,現在,たくさんの有資格者がいる状況であり,どのように有資格者を活用するのかということを検討する必要がある。有資格者は,過去に資格を取得したままになっており,質を確保していくためには,国立教育政策研究所,社会教育実践研究センターなどが研修していくことが必要である。
   さらにネットワークを構築するためには,ネットワークリーダーのような仕組みが必要であり,そこを動かさないと資源は流れないということをきちんと押さえる必要がある。
   また,図書館や博物館は国際的に存在する施設であるが,先進国である日本が,国際的な水準からどんどん後退していってよいのかと思う。1999年に検討され,2000年に出された「21世紀日本の構想」懇談会の報告書は,社会教育について,「日本の学校教育の充実が実は広義の社会教育,文化行政の貧困と背中合わせにある」と指摘している。この報告は首相官邸で作成・提言したものであるので,国際的な水準はきちんと保つように努めていただきたい。

糸賀委員
   地方分権の考え方からしても,最終的にどういう施設の在り方がよいかということは利用者や地域住民が決めればよいと思う。ただし,地域住民が,本来の望ましい公民館の在り方や,図書館,博物館の在り方について,十分な知識や情報を持っていないと思う。本分科会においても,委員の方々それぞれに公民館や図書館,生涯学習のイメージも違っており,まして住民になれば,一層いろいろなイメージで図書館や博物館の在り方を捉えていると思う。こうした場合,にこやかに対応できる職員がいるというレベルで図書館や公民館の在り方を考えられてしまったら,単に安かろう悪かろうという方向に行ってしまうという心配がある。本来は,これからの高度情報化社会や,少子高齢化社会,生涯学習社会の中で,それぞれの施設がどういう役割を果たすのかという,きちんとしたビジョンがあって,このビジョンを達成するためには指定管理者制度を導入して民間業者が参入することにより,メリットがきちんと発揮できるという議論が必要であり,今の地方公共団体の財政事情を考えると,人件費が節約できるからよい,図書館であれば一通りの貸出業務ができればよいと思われてしまい,かえって地域社会全体の生涯学習活動が低下してしまう心配がある。
   どういうビジョンを掲げて,そのビジョンを達成するためには,行政が直接運営していくのか,財団に部分的に委託するのか,それとも指定管理者制度でいくのかということは,個々の地域が選択すればよいと思うが,図書館について言えば,平成13年度に「望ましい基準」が大臣告示され,時代の流れで完全に大綱化・弾力化されてしまった。イギリスでは国が非常に細かい図書館の基準を出しているが,日本は,地方分権の流れで大綱化・弾力化されてしまっている。すなわち,ビジョンを掲げないために,指定管理者制度にした場合にどういうサービスがよいのかが見えず,経費の節約という面だけが強調されてしまうことを懸念している。やはり,どのような図書館や生涯学習社会が望ましいのか,その望ましい姿と指定管理者制度の関係を示さないと,今の地方公共団体の状況では,単なる人件費の節約と捉えられてしまうと思う。
   さらに,ネットワーク行政の意義はよくわかるし,専門的な知識・技術を持った人がいなければならないこともよくわかるが,ネットワーク行政と指定管理者制度とのつながりが依然としてよくわからない。

山本分科会長
   社会教育施設の管理運営の民間への委託という問題は,一つの流れだと思う。それならば,こちらは専門的な知識・技術を蓄積し、外から来るものに対して質を確保するように努めることである。
   地方においては,更に市町村合併が絡んできており,地方でそれぞれ検討していただいているところであるが,生涯学習の今後のビジョンは,この分科会で示すことが必要ではないかと思っている。ところが,この領域では,ビジョンとなると抽象的なことしか出てこないことが多い。したがって,今回も最初にこういう具体的なものを議論していただいた上で,最後は中教審の答申にあるように,教育基本法に絡めて生涯学習社会の実現を提案しているため,そこに結びつけて考えていただきたい。このため,生涯学習のビジョンは本分科会においてアイデアを出していかなければならないと思っており,それが我々の責任だと思っている。

山岸委員
   イギリスでは,NPOや住民と行政との間で,仕事をする前に,コンパクト,あるいはローカル・コンパクトという協定書を交わす。これは,どういう目的や基準でどのような評価をするのかということをお互いの協議により詳しく決定していくものであり,これに基づいて契約が行われ,事後に評価をしていくということを明瞭にしている。ぜひ日本でも,サービスを受ける側との協議を経ていくというふうにしていければよいと思う。財政が逼迫した状況の中で,そのサービスが更によくなるということはなかなか難しいかもしれないが,サービスを受ける側が発言した結果によって動き出せば,受け取り方は異なってくるのではないかと思う。
   しかし,一方的に行政が人件費を安くするために民間企業やNPOに委託する場合には,人材の確保はとても見込めず,質どころではなくなってしまうと思う。現状でも,NPOが支払う給料の半分の金額で行うという,とても信じ難い状況が行われているところもあり,ぜひ協定書を作成する過程でコストの問題も解決していくことが必要であるとともに,協定書の中で,情報公開や,評価,契約の問題についても考えていくことが必要である。

加藤委員
   本質的に教育基本法の見直しをしようという大きな流れの中で,公民館や図書館,博物館の議論があると思う。例えば博物館などは国民の資産であり,もっと言えば世界の資産であるという認識を住民や国民の側が持ち,それを維持しているのかと思う。これは,今の教育基本法の見直しの流れの中の,伝統・文化,あるいは日本人のアイデンティティーというものが凝縮されているものであり,資産の活用という意味で,学校制度ともっとコラボレートすることが必要であると思う。
   一方で,資産の維持や保持にはお金もかかるため,ここを強調するのであれば,お金の集め方や使い方について議論することが必要となる。
   民間が参入し競争の促進を図ることで効率化を図ろうという議論があるが,これは公務員制度を効率的な仕組みで運用して,職員がコスト意識を持てば,別に民間に委託をしなくても効率化できると思う。したがって,単に指定管理者制度はコストの問題だけを考えているのか,それとも国民的あるいは地域の資産として活用していくということを考えているのかということを議論しないと,民間開放のことだけを議論していても実感を持った議論にならないのではないかと思う。

山本分科会長
   民間への管理委託の問題は,事務局でも検討いただき,両方で詰めていきたいと思う。

     (2)    事務局より学習者のニーズと行政と民間教育事業者との連携等の状況等について説明後,柵委員より「社会教育施設のIT活用による新しい可能性」について説明が行われた。

柵委員
   社会教育施設のIT活用による新たな可能性の一つ目は,「市民が創る知識財の書庫」である。これは市民の「知の発信」を活性化し,デジタルアーカイブとして地域で,あるいは地域を超えて共有していくということである。
   二つ目は,e-Japan戦略の中で盛んに言われている「ユビキタス・ラーニング」であり,特に教育での効果が考えられる。「いつでもどこでも」ということは従来からも言われているが,ネットワークを通じてデジタルコンテンツだけではなく人からも学ぶことが可能になってくる。
   イメージとしては,地域の社会教育施設の現在の事業や施設,学習と組み合わせて,市民の「知の発信」支援機能を持たせることと,デジタルアーカイブ機能を持つことにより,地域の広がりを持った学習支援ができるのではないかと思う。
   具体的には,自宅や企業からも学習参加ができる。これは従来のeラーニングだけではなく,参加機会を提供するものであり,できるだけ専門家や地域の人々がどんどん参加できるようにしていくことによって広がりができるのではないかと思う。
   また,地域の市民講師に向かって活動機会を提供することができる。ITを活用することにより,デジタルコンテンツとして蓄積され,それが共有化されていくことが可能になってくると考えられる。
   さらに,従来の施設や自宅という場所にとらわれずに,野外学習活動や,まちづくりのような社会活動の現場での学習ができる。ワイヤレス・ブロードバンド技術を活用して携帯端末に講師の方やコンテンツを配信し,その場で学びながら,現場で生かすことも可能になってくると考える。
   こうした取組を進めていくことによって,ネット上だけではなく,社会教育施設においても新しい学習者が参加し,新たな施設の利用が考えられる。また,人だけではなく,コンテンツも集まるということも十分考えて,実際に学習をした現場からコンテンツを発信することを含めて,地域の知識の書庫に発展していけるのではないかと思う。
   このほか,地域全体が博物館という「エコ・ミュージアム」の考え方の中で,具体的な自然観察,野外学習活動の中で,その地域の中にある様々な自然や歴史,生活の場所において,学習のポイントがあるということを探知することができる技術も進んできており,そこでコンテンツや講師から学ぶ,ネットを通じても学ぶことが可能になってくるとともに,学んだ結果を更に還元し,コンテンツを蓄積していくことにより,地域の知識づくりへの参加が進んでいくのではないかと考えている。
   最後に,こうしたことを実施したいけれどもITの専門技術がなくて大変だという話をよく聞くが,こうしたITの専門技術に関するシステムを一つの施設に整備することにより,例えば本当に身近な公民館の中からも,ネットを活用した知識の発信やデジタルアーカイブが実現されていくのではないかと思う。この際に,地域の実際の施設の中での活用と組み合わせて地域ぐるみで学習を進めていくような仕組みを目指してはどうかと思う。

     (3)    「学習者のニーズと行政と民間教育事業者との連携等」について自由討議が行われた。

大日向委員
   多様なニーズに対応していくことは大切であるが,一方で,ニーズを育てていくことの必要性を再認識することが必要であり,特に,教育産業や育児産業の導入に関しては慎重であるべきだと思う。また,よい事例を提起しながら各地方公共団体がビジョンを明確にし,ガイドラインを策定するということは欠かせないと思う。
   さらに,詳細な基準を策定する際には,情報公開や評価システムの整備が大切であると思う。先ほど,図書館等の民間管理委託に関して様々な議論がなされたが,それと同じことを,この学習者の多様なニーズにこたえるための民間教育事業者との連携に関しても確認していく必要があると思う。

松下副分科会長
   してみたい生涯学習の内容や,実施状況,学習をしていない理由などの学習者の実情に関してのデータについて,これまで生涯学習が推進されてきてからの時系列的な変化を知りたい。また,例えば自宅や公民館など,どこで学ぶかということも考えれば,社会教育施設でどのようなことを提供したらよいのかということにつながるのではないかと思う。

浅井委員
   高度経済成長期までは,役に立つ実用的な知識・技術や職業的な知識・技術に対するニーズが高かったが,1970年頃から経済的に豊かになると,人々は精神的なものを求めるようになったため,趣味や教養のニーズが高くなってきた。その後90年代半ば頃からは,学習者のニーズ自体は大きく変わっていないが,行政の側で趣味や教養に公的なお金を出すことが好ましいのかと議論されるようになり,現代的な課題中心に変わらなければならないということが言われるようになった。しかし,現代的な課題の学習機会を提供しても人が集まらないというジレンマがあり,現場では大変苦労されているのが実態ではないかと思う。

山田生涯学習企画官
   経年的な調査はまだ実施されていない。生涯学習の世論調査については,平成4年の調査実施後,平成11年に実施されているという状況である。

糸賀委員
   世論調査の中で,生涯学習の実施状況を見てみると,「特にそういうことはしていない」と回答した率が,平成4年2月の前回調査に比べると微増している。これまでは生涯学習をしたことのある人は増加してきていたが,今回初めて生涯学習をしたことのある人が減少しているのはなぜか。

浅井委員
   調査の手法自体は同じ方法だと思うが,生涯学習を行ったことがある人は,昭和63年調査よりも平成4年調査の方が増えて,平成11年調査で減少している。これは,恐らく経済的なものが関係していると思う。
   特に問題があると感じていることは青年層の学習率が低下していることで,これは大学進学率の伸びに関係しているかもしれないし,学習の概念が変わってきていることに関係しているかもしれないと考えている。生涯学習の実施状況やニーズを聞いても,若者には学習という言葉にある種の抵抗感を持ち始めているふしがみられ,別の聞き方で調査していく必要があると思う。
   例えば,若者は,インターネットで学習することが日常化しているが,それを生涯学習の範疇の中に捉えていないのではないかと思う。こうした学習活動をデータに反映されるようにしないと,今後,どんどん学習率が後退するデータが出てくると思う。

加藤委員
   行政が生涯学習の評価にかかわっていく場合には,もう少し違う評価軸が要求されているのではないかと思う。すなわち,生涯学習の概念自体が,とらえる人や使い方によって幅があり,人生を豊かにするという視点や,知識欲,自己実現という軸で評価をしていることが多い。今我々が直面している課題は,もう少し差し迫っているものであり,雇用と生涯を健康で生きられるかどうかという社会保障の二つの問題があると思う。したがって,単に知識として職業生活を豊かにするという意味で生涯学習を行うのではなく,次の仕事を見つけられるぐらいの,ターゲットを絞った,再就職に役に立つという観点が必要だと思う。
   また,現在の社会においては,収入の面でも意識・生活の面でも階層分化が進み,最下層の人々が増えているという統計が見られるが,その予備軍として,高校や大学を出ても就職をしない無業者がどんどん増えている。失業者や無業者の増加は非常に大きな社会問題であり,これらの人々にターゲットを絞った評価の軸を加えていかなければ,本当に国が果たすべきミニマムな役割が果たせなくなっていくのではないかと思う。これは,文部科学省だけではなく,厚生労働省も一緒に考えていく問題である。

山本分科会長
   生涯学習社会の教育学習システムについて,生涯学習分科会で本格的に検討する必要がある。

松下副分科会長
   生涯学習という概念自体は,人によってとらえ方が異なるが,個人の学習と生涯学習社会を構築するという理念と両方あると言われているが,旧総理府の実施した「生涯学習の世論調査」は,個人の学習に焦点があるのではないかと思う。個人の学習は重要であるが,生涯学習社会を皆でつくろうという理念に基づいて,個々人が学習成果をどのように生かそうとしているかという実態を知る必要があると思う。配布資料の中で,学習成果を「地域での活動に活かしている」という項目があるが,もう少し広い意味で,生涯学習社会をつくるという気持ちが個人の学習の積み上げとしてどのように育っているかということをとらえる必要があると思う。

鎌谷委員
   生涯学習が,メニューをたくさん揃え,内容をいろいろ構成しながらも,ずっと待っているような気がしてしまう。生涯学習は,やはり個人が自ら学ぼうという気持ちの中で学習していくものであり,そのための施策がないのではないか。すなわち,公民館や図書館などを揃えて待っているのではなく,そうした施設等も通じながらも,他の意味から学習者個人の学習意欲を積み上げるような,学習意欲を起こさせるのではなく,起こしてもらうような施策が必要ではないかと思う。
   そのためには,学校教育や家庭教育が非常に重要であるし,教育基本法が改正されることに併せて,学校教育法も改正されると思うが,この中にも個人の学習意欲の喚起ということを十分取り入れていくべきではないかと思う。
   また,生涯学習事業調査報告書(平成14年5月文部科学省委託調査)の中で高等教育機関との連携状況の調査結果があるが,高等教育機関の中に専門学校は含まれているのか。

浅井委員
   先ほど山本分科会長も言われたように,これからはネットワークということを考えていかなければならないと思う。例えば図書館の場合で言うと,身近な図書館に欲しい資料があるとは限らない。例えば,東京で区立図書館に行くと,東京都立中央図書館の資料であれば有無を調べてくれて,1ヵ月ぐらい待てば手に入るが,北海道の資料までは調べてもらえず,手に入らない。
   しかし,以前,ドイツに行っていた時には,地域を超えて,資料をすぐにコピーで取り寄せてくれた。すなわち,図書館間のネットワークができていた。そういうネットワークをきちんとつくることが必要であり,そうしたネットワークを構築するためには,ネットワークを動かす仕組みが必要である。さらに,その場合,公立図書館のネットワークだけではなく,大学図書館を含めたネットワークをつくることができればよいと思う。その場合,ネットワークリーダーがいなければ資源が流れないので,そこをつくる必要がある。

糸賀委員
   国立大学同士のネットワークは既にあり,公共図書館同士のネットワークについては,それぞれの図書館同士が任意であればやると思う。例えば,東京都立と北海道立の図書館同士で資料の相互貸借をし,都立図書館から地元の市区町村立の図書館に対して資料を送付するというネットワークはできると思う。
   情報のネットワークだけではなく,物そのものを運ぶという物流のネットワークとの両方が完備して本当の意味での生涯学習が実現できると思う。また,そこに民間事業者が係わることも考えられる。すなわち,物流は宅配便を使うと思うが,少数であれば,行政のお金を使うよりも民間の宅配業者を使った方が早く,安く,確実に届くだろうと思う。こうした意味では,この分野での民間事業者との連携は成り立つと思う。
   これからの図書館は「2005年の図書館像」で提言されているような,デジタルの情報・資料と,伝統的で目にやさしい紙に印刷された本という,デジタルとアナログとが共存し,それを有機的に使うハイブリッドな図書館が考えられる。そうしたときに,民間事業者や地方自治体が設立した図書館と,国立大学法人あるいは私立大学との連携が生まれやすい素地はできつつあり,現実にはシステムとしては動いていないが,基盤は整いつつあると思う。
   是非,他の委員にもこの「2005年の図書館像」を見ていただきたい。これは文部科学省が作成した報告書としては画期的な報告書であり,お父さんとお母さん,小学校5年生の女の子と中学生の男の子の一家四人が,2005年に地元の図書館をどう使っているのかという物語風の仕立てになっている。所々にカラーのイラストも入っていて,読んで楽しい報告書になっており,文部科学省のホームページに掲載されているため,是非これを見ていただければ,これからの図書館のビジョンを知ることができると思う。
   出てくる図書館は「e図書館」という構成になっており,ハイブリッド図書館がどんなものなのかということのイメージを具体的に持っていただけるだろうし,図書館における地域の中での生涯学習について,同じ枠組みの中で議論しやすくなると思う。
   さらに,浦安市立図書館やニューヨークの公共図書館などの先進的な図書館を,委員の方々と一緒に視察をするという機会を持ったらよいと思う。浦安市立図書館は創業機会を増やすということをかなり意識した図書館であり,参加した大学生がビジネスプランをつくり採用されたということも実例としてあるため,こうした図書館の是非をめぐって議論をした方が,具体的な話がしやすいと思う。

木村副会長
   現在,指定管理者制度は非常に大きな問題になっており,社会教育施設だけではなく学校施設,学校教育そのものに対して非常に大きなインパクトを与え始めている。中央教育審議会の行財政部会において議論していることの一つが,公立学校の包括的管理委託という問題である。これは狭義に指定管理者制度を解釈すると,施設の委託ということになるが,ソフト面の委託も含む可能性が出てきており,行財政部会においても今後どのように提言していくか非常に悩んでいるところであり,生涯学習分科会での議論を参考にするため参加させていただいた。
   また,これは経済財政諮問会議で出てきたことであるが,経済財政諮問会議では我が国の経済をどうやって活性化させるのか,我が国の無くなったダイナミズムをどうやって復活させるかという議論をしており,例えば義務教育がそれによってどうなるかとかいうことはあまり考えていない。したがって,学校教育や生涯学習のビジョンはやはり我々がつくらざるを得ないと思う。


以上


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