戻る


4   重点的に取り組むべき課題とそれへの対応

   行政や関係機関等は,国民全体の人間力の向上と,地域社会の活性化による地域の再生を図るため,既に述べた今日の社会的要請の高い以下の5つの課題に重点的に取り組むことが必要である。
   1 若者,中高年層の職業能力の向上
2 家庭の教育力の向上
3 地域の教育力の向上
4 健康対策等高齢者への対応
5 地域課題の解決

   これらの課題について,それぞれの教育や学習が行われる場や振興する主体において,求められる考え方,指摘された事項は以下のとおりである。

1.職業能力の向上
(1)基本的考え方

   職業能力の向上を図るためには,学校教育段階から,勤労観,職業観の醸成を図るとともに,社会教育施設等においても,若者や働き盛りの世代の人のための職業能力の向上につながる学習支援を充実していくことが重要である。この際,少子高齢化の進行や女性の社会進出等に伴い,女性や高齢者が職業を通じて個人の能力を高めていくという視点も重要である。

(2)指摘された事項
    1 学校
  人々の生涯学習の基礎を培うためには,初等中等教育の段階において,生涯にわたる学習の必要性や学び続ける意思と方法,技術を教育することが重要。
  初等中等教育段階から,児童・生徒の一人ひとりに勤労観・職業観の育成を図る教育を充実するために,インターンシップの充実やキャリアアドバイザーの活用などを進めることにより,職業に関する知識・技能の習得を図ることも重要。
  学校内外を通じた奉仕活動・体験活動等の充実を図ることにより,勤労の尊さや社会性,情操等を養うことが必要。
  2 大学等
  近年,社会・経済が高度化・複雑化し,グローバル化が進展する中で競争化していく社会を生きていくためには,職業能力の向上につながる学習の支援や,国民の教育レベルの高度化に対応することが重要であり,大学等(大学,大学院,短期大学,高等専門学校,専門学校)の高等教育機関の役割が極めて重要。
  社会人の受け入れが拡大するような入学,履修形態の改善,より多くの社会人をひきつける魅力あるものになるような教育内容・方法の改善に取り組んでいくことが必要。
  学生の学習意欲を喚起し,高い職業意識を育成する上で,在学中に将来のキャリアに関連した就業体験を行うインターンシップの促進が重要。しかしながら,企業やNPOにおけるインターンシップの受け入れについての体制が十分ではないという指摘もある。したがって,今後,大学等は,インターンシップについて,実践と理論の学習を結びつけて質を高めることを検討することとともに,企業やNPOなどの地域社会の関係者との連携をさらに強化していくことが必要。
  職業能力の向上につながる学習を支援するためには,大学等が都道府県,市町村,公民館等との連携(ネットワーク,コンソーシアム)を強化することが必要。
  働き盛りの世代の社会人等が職業能力の向上を図るために,ITを活用した遠隔教育を充実することも必要。
  3 都道府県や市町村,公民館,青少年教育施設,女性教育センター等
  若者・中高年層の職業能力の向上の課題への対応に重点化を図り,職業能力の向上に係る学習機会を積極的に拡充していくことが必要。このため,大学や専門学校,職業訓練施設等との連携を強化し,これらの機関の専門的技術や職業に関する知識等を活用することが必要であるが,町村では大学等が存在しない所もあるため,ITを活用した遠隔型の学習機会の提供の充実が特に必要となると考えられる。
  企業との連携を強化し,企業がどのような職業ニーズを持っているのかといった情報等を把握した上で,これらの情報を積極的に提供しつつ,学習内容の工夫を図るとともに,学習成果を企業が活用していけるような評価の仕組みを構築することが求められる。
  子どもや若者,働き盛りの世代の学習や活動の拠点になるよう,講座内容や施設の改善,開館時間の延長等を図ることが必要。
  4 図書館
  地域の学習・情報拠点施設として,その果たす役割は非常に大きく,職業能力の向上のためには,ビジネスに携わる人々に対して積極的にビジネス支援のための情報を提供していくことや,中小企業の支援やベンチャー企業の創業・起業のための情報を提供していくことが求められる。
  経営・創業・資格取得といったビジネスや職業能力の向上に関連する資料を集めたコーナーを設置したり,これらの資料を活用して,ビジネス支援のための講座などを開設することなどが考えられる。
  ビジネス関連のデータベースの導入を進め,情報探索の方法を司書が説明するセミナーを開催することが考えられる。
  商工会議所,ハローワーク,職業訓練施設,大学等との連携を強化することが重要。
  5 民間教育事業者
  民間教育事業者の提供している講座等については,一定水準以上のものについて動機づけを与える取組や,教育サービスの品質保証に向けた民間教育事業者による自主的な取組への支援など,質の確保のための取り組みを充実していくことが必要。
  6 社会教育関係団体,NPO
  インターンシップやワンストップサービスセンターの設置など人材育成・社会参加を支援する事業は,NPOが主体となって推進してきているが,今後もその果たすべき役割が期待されており,このための行政側の環境づくりが望まれる。
  7 企業
  景気の低迷による企業の経営の悪化,雇用形態の変化等により,Off-JT(通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練・研修)は減少傾向にある。このため,企業も,生涯学習という観点から,勤務時間の弾力化など各個人が職業能力の向上のための学習活動により参加しやすい環境を整えることが求められている。
  特に,研究者や経営に携わる人材は,社内業務以外にも,大学院や海外を含めた研究機関等で知識・技術等の向上を効果的に図ることが必要。
  8 学習者への支援
  厚生労働省関係の教育訓練給付金は,大学等で学ぶ社会人などの学習者への経済的支援として極めてニーズの高いものであり,今後,大学,短期大学,専門学校等における対象講座を拡充するなどにより,学習者への支援を充実することが必要。

2.家庭の教育力の向上
(1)基本的考え方

   家庭の教育力の低下については,これまでも,様々な場で指摘されてきたところであるが,最近,教育力の低下が著しいことが改めて指摘されている。
   家庭の教育力の向上を図るためには,学校や地域において,学校教育段階から,親になるための学習の充実を図るとともに,親になった後も,広く子どもから学び,仲間同士の親とも学び合うことなどにより,地域全体で学び合って,親が親として育ち,力をつけるような学習を大幅に充実するための方策を検討することが必要である。

(2)指摘された事項
    1 学校,大学等
  小・中・高校のみならず,大学等においても,保育所等に行って乳幼児の世話をする等の活動を行うなど,保育所等との連携が図られているところもあるが,より連携を強化し,生徒等の保育体験の一層の充実を図ることが必要。
  2 市町村,公民館,女性教育センター等
  家庭教育に関する講座の開設など親への学習機会の提供を充実したり,子どもを持つ親同士,あるいは子どもを持つ親と地域の子育て経験者が交流する場となる「子育てサロン」等での学習,親子での体験活動などを充実するなど,家庭教育への支援の大幅な強化を図ることが必要。
  育児に関する悩みや不安を抱える親からの相談にいつでも的確に対応するため,「子育てサポーター」の資質向上を図るリーダーの育成等,家庭教育に関する相談体制を充実することが必要。
  児童虐待の急増や育児不安の広がりなどに対応するため,地域における子育て中の親や,市町村(教育委員会,母子保健福祉部局等),幼稚園,保育所,学校,児童相談所,PTAなどの子育てに関連する機関や団体から構成される子育てを支援するネットワークづくりも重要。また,公民館や女性教育センター等が,子育て中の親同士の交流の輪である「子育てサークル」や,親同士の,より地域的な広がりを持つ輪である「子育てネットワーク」などの拠点として活用されることが必要。
  なお,保健センター等においても,家庭教育に関する講座の開設や「ブックスタート」活動などによる子どもに対する読み聞かせの支援等を充実することが必要。
  都道府県や市町村では,子育て中の主婦など外出できない人に対する支援として,ITを活用した家庭教育に関する学習機会や相談体制等を充実することも必要。
  学校におけるPTAや保護者会等の機会を活用した講座の開設の充実が必要であるとともに,余裕教室の活用などにより,乳幼児を持つ親等の交流の場をつくることが,「開かれた学校づくり」,「次世代育成」という観点からも重要。
  3 図書館
  子育て支援のための資料コーナーを設けたり,親に対して子ども向けの本の選び方や読み聞かせの方法等を説明したり,子育ての楽しさを体験させるなどの企画が期待される。
  既に各地の図書館において取組が進んできている「ブックスタート」活動などの子育て支援のためのサービスの充実が必要。
  4 社会教育関係団体,NPO
  子育て支援の取組を主体的に推進していくことが必要であり,このための行政側の環境づくりが望まれる。
  5 企業
  職業を持っている人,特に男性が家庭教育に参加しやすくするためにも,働き方の問題を含めた企業の在り方,あるいは企業の社会貢献の在り方を見直すとともに,企業内での家庭教育講座の開催や,子どもの職場参観授業などの実施など,企業において家庭教育の重要性を考える取組を充実することが必要。
  6 その他
  学習機会に参加する人と参加しない人の格差が大きくなっていることが指摘されており,この問題への対応も課題であるが,この問題については,行政による対応には限界があり,市町村等がNPOや地域住民の協力を求めていくことが必要ではないかという意見もあるが,今後検討を進めていくことが必要。

3.地域の教育力の向上
(1)基本的考え方

   子どもが「生きる力」をはぐくむためには,学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ,家庭や地域社会における教育力を充実させ,社会全体で子どもを育てていくことが重要である。このため,異年齢の子どもや異世代の地域の人々とのかかわりの中で,様々な体験の機会を提供し,子どもの自主性・創造性・社会性を涵養するとともに,触れる・体験するといった感覚を通して情操を養うことが重要であり,地域で子どもを育てる環境の整備を充実することが求められる。

(2)指摘された事項
    1 学校
  生涯学習を推進していく上で,学校を地域のコミュニティの拠点として活用していく発想が必要。このため,子どもの安全確保に配慮した上で,学校施設の放課後や週末の開放を拡充することや,地域の人材や資源の活用の方法を工夫するなど,地域社会との連携を深めることにより,子どもの社会性等を養うことが必要。
  地域の身近な施設である公民館や図書館,博物館をはじめとした社会教育施設などとの連携を強化し,学校の教育活動と地域の活動の効果的な連携を図ることが必要。特に,青少年教育施設との連携を強化し,奉仕活動,体験活動等の充実を図ることも重要。
  連携に当たっては,単に施設や教材の提供にとどまらず,地域のボランティア団体や青少年関係団体,保護者等の地域の人材と協力し合うこと,教育事業のプログラムの企画に当たっての支援など,幅広い連携の在り方を検討することが必要。
  例えば,個人・団体・企業等(「学校協力員(団体・企業)(仮称)」)が地域の学校に参加・協力・支援できる内容(特技・資格・趣味,工場見学・体験学習等)を学校や教育委員会等に登録してシステム化し,学校・教育委員会等の要請に応じて学校の運営に参加・協力・支援することは,地域住民の生涯学習の場にもなり,有効であると考える。
  学校のバリアフリー化を進めるなど,地域住民が集いやすい施設にしていくことも重要。
  2 公民館や青少年教育施設等の社会教育施設,青少年団体
  青少年の体験活動等の充実を図ることが重要であり,成人が体験活動等の指導者になるための学習機会の拡充も必要。
  文部科学省が都道府県や市町村において整備を推進している「体験活動ボランティア活動支援センター」との連携を図ることも重要であり,学習した成果の社会への還元という役割を強化することが必要。
  3 図書館
  子どもの「調べ学習」のためのサービスなど子ども向けのサービスの充実のほか,ボランティア等としての資質向上のためのサービスの充実も望まれる。このため,地域の図書館間の連携はもちろんであるが,学校図書館との連携を強化することが重要。
  4 博物館
  豊富な資源を通して,見る,触るという感覚や情操を養う場として,参加・体験型の展示の工夫を充実するとともに,子どもへの対応をより一層強化し,地域への学習資源の提供を充実することが求められる。
  5 社会教育関係団体,NPO
  地域の大人として子どもをはぐくむ活動に参加すること等を支援する取組を推進していくことが必要であり,このための行政側の環境づくりが望まれる。
  6 企業等
  市民社会の一員として,社員のボランティア活動等を促進することにより,地域社会への貢献を充実することが求められる。
  企業が所有する教育施設,スポーツ施設,文化施設等については,今後,国民共有の資産として認識することにより,地域全体で活用するようにすることが重要。
  7 その他
  国や地方公共団体が,企業や関係団体等と連携しながら,学校等を活用して,地域の大人を安全管理員・活動アドバイザーとして配置し,子どもたちの放課後や週末におけるスポーツや文化活動などの様々な体験活動や地域住民との交流活動等を支援するための「子どもの居場所づくり」の取組を推進していくことが重要。
  総合型地域スポーツクラブは,身近な地域において,子どもから高齢者まで,誰もが多様なスポーツに親しむことができる地域住民を中心として運営されるスポーツクラブとして,生涯スポーツ社会の実現に寄与するとともに,健康の保持・増進,体力の向上や,家族のふれあいや世代間交流による青少年の健全育成,子どもの居場所づくりなど,地域教育力の向上に大きく貢献するものであり,その育成を推進することが必要。また,企業施設等既存のスポーツ施設の活用やスポーツ指導者の養成・確保,学校の運動部活動との連携などを通じ,地域におけるスポーツ環境の整備に取り組んでいくことが重要。

4.健康対策等高齢者への対応
(1)基本的考え方

   生活の質を向上するに当たり,生涯にわたり,健康であることが重要である。このため,生涯学習は知の側面と同時に,体の側面も重要になっている。生涯学習を振興するに当たっては,高齢者が生涯学習を楽しみ,活力ある人生を送ることが,市町村の医療や保健,介護の経費増大の緩和につながるという視点が必要である。また,退職した後の団塊の世代の人々を地域に迎えるに当たって,元気な高齢者づくりを推進していくことが必要である。このため,様々な生活の場や企業の中で気軽に体を動かすことから始め,地域全体が健やかな意思と健康な体を持つための取組が求められる。
   さらに,高齢化する地域社会を活性化していくために,高齢者の活動が単なる生きがいづくりではなく,能力開発なども含めることにより,高齢者の学習と学習成果の活用を充実していくことが必要である。

(2)指摘された事項
    1 公民館等
  元気な高齢者づくりを推進していくためには,高齢者の健康対策を充実することが必要。
  健康な高齢者がより積極的に地域社会に参画し,能力や意欲を生かしていくことが必要であり,高齢者の活動が多少なりとも生きる糧に結びつくようにするため,高齢者の新たな能力開発のための学習プログラムをつくることが求められる。さらに,高齢化する地域社会をどう活性化していくかを高齢者の学習と学習成果の活用を含めて考えることが必要。
  現代の若者が伝統的な生活文化,伝統文化を継承する機会に恵まれていない現状を踏まえ,高齢者がすでに身につけている生活文化や伝統文化などの知識や技術を継承するための指導の仕方などを学び,よい伝達者になるための学習が必要。このため,高齢者の知識や経験の継承のための学習プログラムを考えていくことが必要。
  例えば,ボランティアをその地域の中での相互の助け合いを重視した「地域通貨」などで利用するシステムが様々な地域で実践されているが,こうした取組を広めていけば,より活性化するのではないかと考える。
  2 図書館
  高齢者の読書活動を促進するとともに,高齢者や病院の入院患者などのための移動図書館や,一人暮らしの人のための配本サービスなど,幅広いサービスを充実することが期待される。
  3 博物館
  豊富な資源の活用を図り,高齢者の積極的な社会参画を図ることなどが望まれる。
  4 その他
  高齢者の健康の保持・増進については,高齢者も含めた国民の誰もが,いつでも,どこでも,それぞれの体力や興味・関心に応じてスポーツに親しむことのできる生涯スポーツ社会の実現に向け,総合型地域スポーツクラブの育成など,地域におけるスポーツ環境の整備に取り組んでいくことが必要。

5.地域課題の解決
(1)基本的考え方

   それぞれの地域において,まちづくりや文化,自然環境の保全,地域に根ざした経済活動の活性化の促進,介護・福祉,男女共同参画等の現代の切実な地域課題について,適切に対応していくことにより,個性豊かな活力ある地域社会を築いていく必要がある。

(2)指摘された事項
    1 市町村,公民館等
  公共性の高い学習課題など,地域課題の解決のための学習機会の充実を図ることが必要であり,まちづくりなど地域コミュニティ全体に資するサービスの提供を充実させることが必要。
  地域課題の解決のためには,個性と活力ある地域づくりを担う人材を育成・確保していくことが求められている。このためには,より多くの地域住民が参加・参画できるような仕組みが必要であり,市町村は社会教育関係団体やNPO,ボランティア,民間企業等との連携を強化し,地域住民との連携・協力によるネットワークの形成を促進することが重要。
  2 図書館
  まちづくりなどの地域の社会的ニーズに応える幅広いサービスの充実が必要。
  資料の目録情報を提供するだけでなく,地域の課題に応じて独自のコンテンツを作成し,資料の付加価値を高めて発信することが期待される。
  3 学校
  子どもの安全確保に配慮した上で,設置する学校施設の放課後や週末の開放を促進し,地域住民の学習の場としての活用を充実していくことが必要。
  4 大学等
  自らの知的資源によって社会に貢献していくという姿勢を明確に示し,研究面,社会人等の学習の両面での拠点としての地域課題の解決への支援等,地域への貢献の充実が必要。
  5 社会教育関係団体,NPO等
  地域課題の解決のために社会参加・地域貢献の取組を主体的に推進していくことが必要であり,このための行政側の環境づくりが望まれる。
  6 その他
  人づくりを通じた地域づくりのための新たな施策の企画・立案,市町村等への情報の提供,市町村等からの地域づくりのための相談への対応や要望等の把握,専門家の派遣,大学等の関係機関との仲介支援,地域の特色ある事業の全国への紹介等,教育関連の総合的な支援体制を整備するために,平成16年1月に文部科学省に設置された「地域づくり支援室」の取り組みを充実していくことが重要。



ページの先頭へ