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1   これまでの生涯学習振興施策の経緯と課題

   生涯学習社会の実現は,「個性重視の原則」,「国際化,情報化などの変化への対応」と並ぶ教育改革の3つの基本理念の一つとして,臨時教育審議会(昭和59年〜62年)の4次にわたる答申の中で提言されたものである。
   生涯学習に係る体制の整備については,昭和63年に,文部省(当時)に生涯学習を担う局が置かれるとともに,平成2年に,「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」(以下「生涯学習振興法」という。)が制定されたこと等により,文部省(当時)に生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項を調査審議する生涯学習審議会(以下「生涯審」という。平成13年1月の中央省庁再編により,中央教育審議会生涯学習分科会に再編。)が設置された。また,すべての都道府県に生涯学習担当部局が,37都道府県において生涯学習審議会が設置されるとともに,全国生涯学習市町村協議会が発足(平成11年)し,216市町村が加盟するなど,都道府県及び市町村における生涯学習振興のための体制の整備等は進展したところである。
   また,重点を置いて取り組むべき課題としては,平成4年の生涯審答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」において,1社会人を対象としたリカレント教育の推進,2ボランティア活動の支援・推進,3青少年の学校外活動の充実,4現代的課題に関する学習機会の充実が指摘されたことなども踏まえ,それぞれについての充実・振興方策が提言された。
   さらに,上記の答申やその後の生涯審答申等を踏まえ,国,都道府県,市町村及び大学等,社会教育施設,民間教育事業者,社会教育関係団体,NPOなどの関係機関等では,1社会・経済の変化に対応するための新しい知識や技術の習得のための学習基盤の整備,2社会の成熟化に伴う心の豊かさや生きがいのための学習需要のための学習基盤の整備,3学歴社会の弊害の是正という観点で,
   「人々が,生涯のいつでも,自由に学習機会を選択して学ぶことができ,その成果が適切に評価される」ような「生涯学習社会」の構築を目指し,生涯学習の振興に努力してきたところである。

   しかしながら,生涯学習が,学校教育,社会教育,家庭教育などあらゆる教育活動の中で行われる学習を包含するものであり,スポーツ活動,文化活動,趣味・レクリエーション活動,ボランティア活動などの中でも行われるものであることが,都道府県及び市町村の行政関係者や国民に依然として浸透しておらず,「生涯学習」と「社会教育」との混同が見られるほか,現在,以下のような課題が指摘されている。

1学習機会の提供
1 公民館
公民館に開設された講座は,数は増加傾向にあるが,その内容は,依然として,趣味・稽古事に関する講座が多くを占め(37%,平成13年度間),利用者が特定の住民に限定されている傾向にある。特に,都市部においては,一般の住民が利用しにくい状況になっている。
2 図書館
設置状況やサービスの質に関して,市町村間で大きな格差が存在(未設置市町村:1,658市町村(51%)(平成11年))。
ビジネス支援や子どもの読書活動といった,近年重要になっている課題への対応が必ずしも十分とは言えない。
司書のレファレンス機能の向上や情報化への対応が十分でない。
3 博物館
参加・体験型の博物館は増えてきてはいるものの,必ずしも十分とは言えない。
地域に密着した学習拠点であることについての認識が必ずしも十分とは言えない。
展示の工夫や学芸員等の企画する力の向上,子どもへのサービスが課題。
4 大学
欧米と比べて,社会人の受け入れが少なく,社会人が履修しにくいのではないか。
 
高等教育在学者に占める成人学生(25歳以上)の割合
米…39.0%(2000年),英…47.1%(2001年),独…53.1%(2000年)


日本の大学院における社会人の割合…15.3%(平成15年)
日本の大学学部における入学者に占める高校卒業後4年以上経過した学生の割合…1.1%(平成15年)
公開講座等は増加しているが,内容が学習者のニーズに必ずしも合っていなかったり,PRが不足していたりしているのではないか。
5 ITの活用
時間的・空間的な制約を受けることなく学習できる体制を整備する上で,ITの活用を図ることが重要であるが,公民館,図書館,博物館等の社会教育施設では,こうした情報化が遅れている。

2関係機関等の間の連携
多様化する学習活動や学習ニーズにこたえるためには,関係機関等の間の連携を進めていくことが必要であるが,これらの関係機関等の間においては,相互の連携・協力体制が不十分。
1 学校
公民館,図書館,博物館等の社会教育施設や,児童館などの地域の施設や人材等との連携が不十分。「学社連携」が強調されて久しいが,未だ十分とは言えず,特に,学校教育関係者の理解が不足しているのではないか。
2 民間教育事業者
カルチャーセンター等の受講者数が増加し,その役割の重要性が高まっているが,行政側との連携・協力は必ずしも進んでいない。
3 社会教育関係団体,NPO,ボランティア
生涯学習分野では,従来から,各地に様々な社会教育関係団体や青少年団体等が活躍してきたところであるが,行政や関係機関側のこれらの団体との連携・協力体制が十分であるとは言えない。
近年は,平成10年の特定非営利活動促進法の施行等も契機となって,新たなNPO団体やボランティアが増加しており,地域によっては,講座の企画をしたり,講師になるなど,行政との連携も進展しているが,都道府県,市町村,公民館のNPO・ボランティアとの連携の進み方には差がある。
 
(都道府県教育委員会)
       民間教育事業者と連携(約47%),NPOなどの市民団体・グループと連携(約47%)
(市町村教育委員会)
       民間教育事業者と連携(約15%),NPOなどの市民団体・グループと連携(約28%)
(平成14年)

3学習成果の評価・活用
都道府県,市町村において,地域住民の学習修了後に修了証を授与するなどの学習成果の評価への取組は進んできていると考えられるが,学習したことを,単に学習者個人の生きがいづくりだけではなく,その成果を地域に還元し地域の振興に貢献できるような方策を考えていくことが必要である。しかしながら,現状においては,生涯学習の支援が個人の学習意欲にこたえる面は重視されてはきたものの,学習成果を還元するための人材を活用する「人財バンク」などの仕組みや受け入れ先が十分でなく,社会還元が十分に行われていないことが多い。
市町村や生涯学習に関係する機関との幅広い連携を図ることを目的として設けられている県民カレッジ等においては,学習成果の評価に際して,大学やカルチャーセンター等との連携を図っている例は多いとは言えない(県民カレッジ等と大学との連携は28道府県,カルチャーセンターとの連携は12道府県,職業訓練施設との連携は1県(平成15年))。




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