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資料2




若者自立・挑戦プラン


  平成15年6月10日
若者自立・挑戦戦略会議
文部科学大臣 遠山敦子
厚生労働大臣 坂口   力
経済産業大臣 平沼赳夫
経済財政政策担当大臣    竹中平蔵



1.     認識

(1) 深刻な現状と国家的課題

今、若者は、チャンスに恵まれていない。高い失業率、増加する無業者、フリーター、高い離職率など、自らの可能性を高め、それを活かす場がない。
このような状況が続けば、若者の職業能力の蓄積がなされず、中長期的な競争力・生産性の低下といった経済基盤の崩壊はもとより、不安定就労の増大や生活基盤の欠如による所得格差の拡大、社会保障システムの脆弱化、ひいては社会不安の増大、少子化の一層の進行等深刻な社会問題を惹起しかねない。(参考1)(PDF:17.1KB)
わが国にとって人材こそ国家の基礎であり、政府、地方自治体、教育界、産業界等が一体となった国民運動的な取り組みとして、若年者を中心とする「人材」に焦点を当てた根本的対策を早急に講じていく必要がある。
このため、新たな枠組みとして、ここに「若者自立・挑戦プラン」を策定し、教育・雇用・産業政策の連携を強化するとともに、人材対策への政策資源の重点投入とその効率的な活用、成果の最大化を図りながら、官民一体となって総合的な人材対策を強化する。

(2) 問題の原因

若年者問題の主な原因としては、第一に、需要不足等による求人の大幅な減少と、求人のパート・アルバイト化及び高度化の二極分化により需給のミスマッチが拡大していること、第二に、将来の目標が立てられない、目標実現のための実行力が不足する若年者が増加していること、第三に、社会や労働市場の複雑化に伴う職業探索期間の長期化、実態としての就業に至る経路の複線化、求められる職業能力の質的変化等の構造的変化に、従来の教育・人材育成・雇用のシステムが十分対応できていないことなどが挙げられる。

2.    目指すべき方向

(1) 目指すべき社会

「若者が自らの可能性を高め、挑戦し、活躍できる夢のある社会」の実現を目指すべきである。
また、「生涯にわたり、自立的な能力向上・発揮ができ、やり直しがきく社会」の実現を目指すべきである。

(2) 目指すべき企業像

若者に雇用・就業の場を提供する企業、長期的な視点から人を大切にし、人材育成、キャリア支援を図る企業が求められる。

(3) 目指すべき人材像

「真に自立し、社会に貢献する人材」が求められる。
また、「確かな基礎能力、実践力を有し、大いに挑戦し創造する人材」が必要である。

3.    政策の基本的考え方

(1) 若年失業の流れの転換

若者が可能性を高め、活躍できる社会を構築するためには、就業機会創出や人材育成のための政策を重点的に実施し、若年失業やフリーター等の増大の流れを大きく転換する必要がある。

(2) 構造変化に対応したシステム改革

若年者問題の原因を、若年者自身のみに帰することなく、教育、人材育成、雇用などの社会システムの不適合の問題として捉えて対応する必要がある。
まず、職業探索期間の長期化や就業に至る経路の複線化に対応して、これまでの卒業即雇用という仕組みだけでなく、各個人の能力、適性に応じ、試行錯誤を経つつも、職業的自立を可能とする仕組みが必要である。
また、技術革新の進展などの中で職務が高度化し、専門的知識・技能の他、問題発見・解決能力等のような変化に柔軟に対応できる能力が一層重要になっている。
こうした構造的変化の下で、若年者問題の抜本的解決のためには、教育、人材育成、雇用の各システム全般の改革が必要であり、これを各府省の連携と産業界、教育界、地域社会・行政などの協力により進めることが不可欠である。

(3) 就業機会創出・人材育成の好循環と政策資源の重点投入

若者が大いに活躍できる場が必要であり、創業・起業活性化等の新たな市場、就業機会創出のための政策に総力を挙げて取り組む必要がある。
また、人材の質を高めることは、能力のミスマッチを解消し、新規就業の増大につながるとともに、新たなビジネスや労働需要を生み出す源泉となることから、人材育成のための政策を強化する必要がある。
これらの政策を強力に推進し、「就業機会創出・人材育成の好循環」を創ることが不可欠である。
このため、若年者を中心とする人材育成や創業・起業活性化等による就業機会創出について、政策資源を重点投入する必要がある。

4.    産業界等の主体的な取り組み

若年者問題の解決のためには、産業界がその社会的使命を認識し、企業が従来以上に主体的に取り組むことが不可欠である。
今般、産業界から、若年者の雇用促進・人材育成を強力に進める決意や、政府の施策への積極的協力の意思が表明された。(参考2)(PDF:17.1KB)
これを高く評価し、政府としては産業界に対して、厳しい経済環境の中でも、若者に雇用や実習の場を提供し、その育成を図るよう強く求めるものである。
具体的には、通年採用の普及、求人開拓、インターンシップやトライアル雇用の受入れ、日本版デュアルシステムの推進、若年者に求める人材要件の明確化等について企業の協力を求めていく。
一方、政府としても、こうした産業界や企業の取り組みを進めるために必要な情報提供、助言・指導、関係者間の調整等を図る。
また、教育界においても、勤労観・職業観の醸成の重要性を一層認識し、産業界、地域社会等と協力して取り組む必要がある。
こうした関係各界の連携と政府の対策が一体となって、就業機会創出・人材育成の十分な成果を生み出すよう最大限取り組む。

5.    本プランの目標

本プランにおいては、フリーターが約200万人、若年失業者・無業者が約100万人と増加している現状を踏まえ、当面3年間で、人材対策の強化を通じ、若年者の働く意欲を喚起しつつ、全てのやる気のある若年者の職業的自立を促進し、もって若年失業者等の増加傾向を転換させることを目指す。

6.    政策の推進に当たって

(1) 政策の連携強化、総合的な推進

政策の実施に当たっては、関係府省の緊密な連携・協力の下、政策の連携強化と総合的な推進を図る。

(2) 地域の自主性と多様性を尊重した対応

地域の自主性と多様性を尊重しながら、地域による若年者対策への主体的な取り組みを推進する。

(3) 民間の活用

民間を活用することが適当なものは民間に委ね、その活用に当たっては、適切な質を確保しつつ、成果・実績に基づいた評価とそれに応じた適切なインセンティブによって、個人・企業・社会のニーズに合ったサービスが提供されるようにする。

(4) 明確な目標設定と施策の的確な評価

各施策については、その達成目標を明確にした上で、施策の実績・効果を的確に評価しつつ、効果的な展開を図る。

7.    具体的な政策の展開

(1) 具体的政策

   具体的な政策については、既存施策の効果を評価し、必要な見直しを行った上で、構造変化に対応した若年者のための新たな教育・人材育成・雇用・創業施策の展開を図る。

1 教育段階から職場定着に至るキャリア形成及び就職支援

次に掲げる取組を、教育施策と雇用・能力開発施策の連携により推進し、若年者の職業的自立、職場定着を進める。

〈キャリア教育、職業体験等の推進〉
a. 勤労観・職業観の醸成を図るため、学校の教育活動全体を通じ、子どもの発達段階を踏まえた組織的・系統的なキャリア教育(新キャリア教育プラン)を推進する。このため、学習プログラムの開発や教員研修の充実などを図り、各学校の取組を促進する。
b. 「総合的な学習の時間」等を活用しつつ、学校、企業等の地域の関係者の連携・協力の下に、職業に関する体験学習のための多様なプログラムを推進することなどにより、小学校段階からの各種仕事との触れ合いの機会を充実する。
c. インターンシップについて、単位認定の促進、期間の多様化などにより内容を充実し、実施の拡大を図る。また、各省が連携して、国、地方の各レベルで関係者による連絡・推進協議会を設置するなど推進体制を強化する。
d. 社会や企業の最新情報を活かした進路相談などを効果的に実施するため、地域の多様な人材を様々な教育活動の場で積極的に活用する。

〈日本版デュアルシステムの導入、基礎から実践にわたる能力向上機会の提供〉
a. 若年者向けの実践的な教育・職業能力開発の仕組みとして、新たに、企業実習と教育・職業訓練の組合せ実施により若者を一人前の職業人に育てる「実務・教育連結型人材育成システム(日本版デュアルシステム)」を導入する。
b. 就業に関わる基礎的な能力を付与する機会、企業等のニーズを踏まえた実践的な職業能力開発の機会を提供するとともに、フリーター等に対する多様な実務的教育の機会(フリーター再教育プラン)を提供することにより、その能力向上を通じた職業的自立を支援する。

〈専門人材の養成、配置等を通じた就業支援、キャリア形成支援体制の整備〉
a. 就職未内定生徒、未就職卒業者等が、ジョブサポーターにより、就職活動から職場定着までの一貫したマンツーマンのきめ細かな就職支援を受けられる体制を整備する。
b. 新たに、若年者の適性と能力に応じた相談、情報提供等の支援を行い、職業的自立へ導く専門的なキャリア・コンサルティングを行う人材の能力要件を明確化し、その養成を早急に進める。
また、こうした専門人材の学校での積極的活用や、ハローワーク等への配置により、若年者の職業的自立に向けた支援機能の充実を図る。

2 若年労働市場の整備

「学卒即本格雇用」以外に「学卒後就職探索期間を経て本格雇用」という就業経路の複線化に対応した就職システムの整備を進める。具体的には、複数応募制、通年採用の普及、トライアル雇用の積極的活用、キャリア探索−形成に係る総合的な情報提供等を推進する。
能力を軸としたマッチングを可能とするため、企業が若年者に求める人材要件を明確にし、集約して学校や学生に提示する仕組みを関係者の協力のもとにつくりあげることにより、能力を軸とした若年労働市場の基盤を整備する。
学卒、若年者向けにスキル標準の策定を含む実践的な職業能力を評価・公証する仕組みを新たにつくり、若年者のキャリア目標づくりや企業側の採用の目安としての活用を進める。

3 若年者の能力の向上/就業選択肢の拡大

奨学金の充実や、教育訓練給付制度における政策効果の高い指定講座への重点化等、やる気のある若者に対する教育・訓練機会を提供する。
社会経済の複雑化・高度化に対応し、社会を牽引できるような高度な専門能力等を持つ人材を養成する(キャリア高度化プラン)。
a. 大学、大学院、専修学校等において、産学官連携によるキャリアアップのための先導的な短期教育プログラムの開発、推進を図る。
b. わが国の経済社会を牽引する高度な専門能力を持つ人材を養成するため、専門職大学院の設置促進などによる高度専門職業人養成の強化を図る。
c. 大学院における世界的な水準の人材育成の支援や、新しい教育プログラムの提供や学部教育と大学院教育との連携などの大学教育の工夫改善に資する取組等についての充実強化を図る。

4 若者が挑戦し、活躍できる新たな市場・就業機会の創出

平成18年までの新規開業数の倍増を目標に、特に若年者による創業への挑戦を促すため、新たな支援体系を構築し、重点的・集中的な対策を講じる(「若年者創業チャレンジプラン」の推進)。
具体的には、(1)挑戦者を真に応援する民間やNPOを最大限活用した「創業コミュニティの形成」、(2)「産業再生・創業促進型人材の重点的育成」、(3)「創業促進のための制度基盤整備」を柱とし、以下の施策を中心に大胆な政策展開を行う。

〈創業コミュニティの形成〉
a. 若年者など30万人以上を対象とした起業予備軍総合支援サービス「起ちあがれニッポン   DREAMGATE」について、学生への集中啓発等、若者を意識した新たなサービスを展開する。
b. 民間やNPOによるベンチャー企業向けの実践型インターンシップ等を実施し、創業に挑戦する人材を大量発掘・養成する。
c. 大学発ベンチャーについて、1000社創出の加速化や、統合技術による事業化など総合的な市場化支援を行う。
d. 産業クラスター計画を強化する。販路開拓支援の拡充、資金調達力強化等により、3年間で1万件の新事業創出を図る。
また、知的クラスター創成事業を推進するとともに、産業クラスター計画との連携を強化し、新技術の事業化を促進する。

〈産業再生・創業促進型人材の重点的育成〉
a. 実効的な教育内容と高い創業・就業実績を持つ民間事業者が行う実践的な創業教育を支援する。
b. 経営、ベンチャー、事業再生等の高度人材に関するスキル標準の策定、企業や大学、自治体の連携によるIT人材の育成、スピンオフ型ベンチャー人材の育成など、市場が求める産業再生・創業促進型人材の育成を強化する。
c. 技術と経営に精通した高度人材(MOT人材)の育成を強化し、5年間で1万人のMOT人材の輩出を図る。
また、先端技術と知的財産の知識を併せ持った人材(知的財産専門人材)の育成、継続的な研修等を強化する。
d. 小中高校生に対する体験・参加型の起業家教育を充実し、未来の起業家の育成を強化する。
e. 若手経営者の育成のため、創業塾を拡充する。

〈創業促進のための制度基盤の整備〉
a. 最低資本金制度の撤廃や、簡易で柔軟な事業組織制度として、有限責任会社(LLC)や有限責任組合(LPS)を導入する。

新産業創出のための独創的研究開発、実用化研究及びその支援を行う施設を整備する。
幅広い健康サービス産業のネットワーク化による地域における総合的なヘルスケアサービスの創出を図る。
市民ベンチャーの創出支援やアドバイザーの育成などコミュニティビジネスの活性化等による就業創出を図る。
潜在需要を喚起する規制改革の加速等により、新たなビジネス市場を拡大する。

(2) 地域における若年者対策推進のための新たな仕組みの整備
(若年者のためのワンストップサービスセンター)
通称:Job   Cafe(ジョブカフェ)


若者の生の声を聞き、きめ細やかな効果のある政策を展開するための新たな仕組みとして、地域の主体的な取り組みによる若年者のためのワンストップセンターの整備を推進する。

【センターのイメージ】
地方自治体と地域の企業、学校等の幅広い連携・協力の下、地域による主体的な取り組みとして、その実情に応じ、若年者に対する職業や能力開発、創業支援に関する情報提供、インターンシップ等職場体験機会の確保、キャリアコンサルティング、就職支援サービス等を行う仕組み(センター)を設ける。
センターでは、民間活力の活用に留意しつつ、ワンストップでサービスを提供する。
民間委託などによる民間活用に当たっては、そのノウハウを十分に活かし、サービスの質を高めるため、事業成果・実績に基づいた評価などに留意して行う。

センターの名称や具体的な業務等については、取組を行う地域において利用者である若者の声も聞きながら検討・決定する。

8.    プランのフォローアップ

     ○ 本プランを踏まえた政策の推進に当たっては、引き続き関係閣僚の間で密接に連携して取り組み、プランの実効ある実現を図る。


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