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2.奉仕活動・体験活動をどのように推進していくのか

  1.奉仕活動・体験活動に関する現状

    我が国の国民は,奉仕活動,ボランティア活動に興味・関心は持つものの,それらの活動の経験は総じて少なく,情報不足,技術力・知識不足,相談体制の未整備,時間的制約などの理由から,参加することを思いとどまっている人がかなり多いということが伺える。また,子どもについては,現在,活動に参加している割合は低くなっているが,一方で,ふだん地域の人たちとふれあいのある子どもほど,ボランティア活動等の地域活動に関心を持っているという傾向がある。
  これらを踏まえ,興味・関心を持っている人に「もう一歩を踏み出すきっかけ」や「もう一歩を踏み出す後押し」となるような仕組みづくりを行うとともに,大人が率先して活動に取り組み,子どもたちが活動に参加しやすいような環境を作ることが必要である。

(1) 国民の活動,意識の現状
  全国で活動するボランティアは700万人を超えており,環境保護や社会福祉,国際交流等幅広い分野にわたっている。
  平成10年の特定非営利活動法人(NPO)法の制定により,NPO法人の活動を支援する基本的枠組みができ,NPO法に基づき法人格を取得した団体が5,826団体(平成14年1月)になる等,非営利の活動が多様な場面で継続的に行われる機会が増大している。
  ただ,アメリカやイギリスに比較すると我が国のボランティア活動参加率は低く,特に30代前半の若い世代で低いという特徴がある。(「国民生活白書」平成12年度)
  一方,ボランティア活動に対する意識については,「国民生活選考度調査」(平成12年)によれば,国民の4人に3人は社会の役に立ちたいと考え,実際にボランティア活動への参加意識を持つ人は3人に2人の割合となっており,ボランティア活動に対する関心は非常に高い。しかし,現在活動を行っている人(又は過去に活動を行ったことがある人)は,3人に1人に過ぎない状況にある。活動の妨げの原因としては「ボランティア団体に関する情報がないこと」を挙げる人が約4割を占め,国や地方公共団体に望むこととして,情報提供や相談体制の整備を挙げる人が多い。
   
(2) 青少年の活動,意識の現状
  子どもの地域社会との関わりについては,小学校,中学校,高等学校と学年があがるにつれ少なくなる傾向にあり,ボランティア活動についても,小学校,中学校,高等学校と進むにつれ少なくなる傾向にある。学校における体験活動についても,小学校,中学校,高等学校と進むにつれ少なくなる傾向にある。(「地域の教育力の充実に向けた実態・意識調査(平成13年9月・10月調査)」(子どもの体験活動研究会)「学校における体験活動の実施状況(平成12年度)(文部科学省調べ)」)
  青少年のボランティア活動に対するイメージとしては,「やりがいがある」「勉強になる」といった項目については肯定的に回答するものが多くいる一方,「遊びより面白い」「かっこいい」といった項目については否定的に回答するものが多い。(「青少年のボランティア活動に関する調査」総務省(平成6年))
  また,「学生のボランティア活動に関する調査報告書」内外学生センター(平成10年)では,大学生がボランティア活動を始めるにあたっての障害要因について「大学の時間が忙しい」「情報不足」「活動のための技術や知識がない」などが挙げられ,支援策として「情報提供」「研修会等の実施」「単位認定」等が挙げられている。   


団体所属ボランティアと個人ボランティアの人数推移

(備考) 「ボランティア活動年報2000年」(社会福祉法人全国社会福祉協議会全国ボランティア活動振興センター)により作成

 


地域の教育力の充実に向けた実態・意識調査報告書

(備考) 「地域の教育力の充実に向けた実態・意識調査報告書(平成13年9月・10月調査)」(子どもの体験活動研究会)により作成


  2.初等中等教育段階の青少年の学校内外における奉仕活動・体験活動の推進

〜多様な体験を重ね,豊かな人間形成と将来の社会参加の基盤作りを〜

  初等中等教育段階のすべての青少年に対し多様な奉仕活動・体験活動の機会が与えられるように,学校内外を通じて質量共に充実した活動の機会を拡充していく必要があり,小・中・高等学校,専修学校高等課程など,初等中等教育段階の時期における発達段階に応じたふさわしい活動を行うことが重要である。
  学校においては,1活動のコーディネートの窓口を明らかにするとともに,すべての教職員が協力して取り組むための校内推進体制の整備,2地域の協力を得るための学校サポート(学校協力)委員会(仮称)を設けるなど体制作りに努める必要がある。また,実施に際しては,発達段階に応じた活動の実施,興味関心を引き出し自発性を高める工夫や,自発的なボランティア活動等の高校における単位認定など,活動の適切な評価などに配慮して取り組む必要がある。また,教育委員会においては,各学校における取組がスムーズに行われるよう,学校での具体の活動の実施のために必要な支援措置を講じるなど様々な措置を行う必要がある。
  教育委員会においては,地域の関係団体や関係行政機関等と連携しつつ,支援センターなどの推進体制を整備し,学校の教育活動と地域の活動の効果的な連携に留意しながら,1教材・プログラムの開発,指導者の養成・確保とともに,2ボランティア活動等を積極的に評価する高校入試の工夫や「ヤングボランティアパスポート(仮称)」の作成,活用などによる地域における活動の促進等に努める必要がある。また,企業においても,社会を担う主要な構成者として,学校や地域における様々な体験活動に対する施設の開放や,社員の指導者としての派遣,青少年の受入れなど,青少年の奉仕活動・体験活動に対する積極的協力を求めたい。
  国においては,こうした学校や地域における取組を支援するため,推進体制の整備や教職員研修等に対する支援,参考となるプログラムの開発や事例集の作成等を行うとともに,すべての青少年が発達段階に応じて,奉仕活動・体験活動を着実に経験できるようにするため,1奉仕活動・体験活動の実施状況の全国調査,2学校や地域を通じた活動の目標の検討,3ボランティア活動等と関連付けた大学入試の推進が求められる。

  平成13年7月の学校教育法及び社会教育法の改正により学校内外を通じた体験活動の促進が求められることとなった。学校においては,平成14年度から実施される新学習指導要領において,「生きる力」の育成を目指す観点から体験活動を重視するとともに,新たに「総合的な学習の時間」の創設等を行ったところであり,体験活動を教育活動に適切に位置付け,その充実を図ることが求められている。
  また,平成14年度から学校週5日制が完全実施されることを受け,家庭や地域における多様な体験活動の振興や奨励を一層推進する必要がある。
  高校までの青少年の時期においては,豊かな人間性や社会性を培うため,学校教育や地域において,社会奉仕体験活動,自然体験活動,職業体験活動など,質量共に充実した多様な体験活動を提供していくことが求められる。子どもたちの豊かな直接体験は,人や社会,自然などへの興味や関心を高め,思考や理解の基盤となるとともに,問題解決的に活動に取り組むことで各教科等で学んだ知識・技能等が生活と結び付き,総合的に働くようになることが期待される。また,様々な対象と直接かかわることは,机の上だけの学習と異なり,大きな成就感や充実感などが得られるとともに,他者との関係の在り方を学び,生き方の探求などにつながり,豊かな心の育成や望ましい人間形成に資するものと考える。
  青少年の時期においては,子どもたちの成長が著しいことから,それぞれの発達段階にふさわしいねらいや内容を創意工夫し,多様な体験活動を行うことが重要である。小学校の時期においては,具体的な活動を通した思考から徐々に物事を対象化して認識できるようになり,例えば,身近な対象にかかわる体験から,教科等の学習も生かして社会や自然などに広く目を向け,かかわる体験に発展させていくことが考えられる。中学校の時期においては,自己の内面に気付いていくという特徴が見られ,例えば,自分の思いを生かしながら大人の社会にかかわったり,友達と共に活動し感動を味わったりする体験が考えられる。また,高校生の時期においては,自己を確立し,成人となる基礎を培う段階に当たることから,例えば,社会奉仕や職業など社会にかかわる体験は,自己の在り方や生き方を考え,将来の進路を主体的に選択する能力や態度を身に付けるとともに,社会についての認識を深める上で重要な要素と考えられる。
  なお,いうまでもなく,すべての教育の出発点は家庭教育にある。家庭は基本的な生活習慣や倫理観,自制心,他人に対する思いやり,自立心などを育成する上で重要な役割を果たしている。家庭において,子どもに毎日決まった手伝いをさせるなど家庭での役割を与える,親子で地域の様々な活動に参加する等,社会を支える一員としての自覚を育む基盤づくりをしていくことが重要である。

(1) 学校における体験活動の充実のための取組
  学校においては,地域における活動との連携と適切な役割分担を図りながら,奉仕活動・体験活動を学校の教育計画に適切に位置付けて実施する必要がある。その際,学校において次のことに配慮することが重要である。
1 学校としての体制作り
  各学校においては,奉仕活動・体験活動のコーディネートの窓口となる担当を明らかにし校長の指導の下に全教職員が協力して校内推進体制を整備する必要がある。また,地域の人々の協力を得るとともに関係団体等との継続的な連携関係を構築し学校の活動に幅広い支援が得られるように,保護者,地域の関係者等による学校サポート(学校協力)委員会(仮称)を設けるなど推進体制を整備することが求められる。更には,地域のボランティア活動団体等の人材の協力を得て,学校における活動の推進のための助言者として,具体の活動の企画や校内研修などに対する支援を受けることも考えられる。
2 教職員の意識・能力の向上
  学校の体制作りとあわせて,教職員一人一人が奉仕活動・体験活動の意義や理念を正しく理解し,これらの活動に係る指導の力量を高めていくことが不可欠である。奉仕活動等の経験のない教職員も多い現状を踏まえ,教職員一人一人が自信を持って指導に当たることができるように,校内の研修はもとより,後述のような教育委員会等が実施する研修や,ボランティア団体等の外部機関が実施する研修等に積極的に参加することが求められる。
3 活動実施上の配慮
  体験活動を学校の教育活動として実施する場合,以下の点への配慮が求められる。
教育活動全体を通じた体験活動の充実
  発達段階に応じた適切な活動の機会の提供が行われるよう,自校の教育目標や地域の実情を踏まえ,学校として活動のねらいを明確にし,現状の教育活動全体を見直し,(a)学校行事等の特別活動,総合的な学習の時間をはじめ教科等の学習指導,及び部活動等の課外活動など教育活動において適切な位置付けを行うこと,(b)小・中・高等学校等のそれぞれの取組に継続性を持たせ,発達段階に即して活動の内容や期間等を工夫すること,(c)各教科等における学習指導との関連を図ることなどが求められる。特に教科担任制を採る中学校・高等学校においては,教科担任の教員の間の緊密な連携協力が求められる。
  また,長期休業日は,まとまった体験活動を行いやすい。学校も,児童生徒が任意で参加する活動などを計画,実施したり,地域における社会福祉協議会,NPO関係団体,青少年団体などの関係団体等による取組に協力したり,様々な活動の場や機会についての情報の提供を行うなどして,子どもたちの体験活動の充実に努めることが大切である。
興味・関心を引き出し,自発性を高める工夫
  子どもの興味・関心を引き出し,自発性を育てる工夫として,例えば,(a)発達段階や活動の内容に応じ,活動の企画段階から子どもを参加させたり,(b)子どもが選択できるよう多様な活動の場を用意することも考えられる。
事前指導・事後指導
  活動前に,体験活動を行うねらいや意義を子どもに十分理解させ,子どもたちがこれから取り組む活動についてあらかじめ調べたり,準備をしたりすることを通じ,意欲を持って活動できるようにするとともに,活動後は,感じたり気付いたことを振り返り,まとめたり発表したりするなど,適切な事前指導・事後指導が大切である。
活動の円滑な実施のための配慮
  活動を効果的かつ安全に行うために必要な知識・技能やマナー等の習得のための事前指導が必要である。また,活動内容によってはあらかじめ実地調査による点検等を行う必要がある。
  さらに,活動によっては,例えば,受入人数の適正化や受入先との綿密な連絡調整など企画段階での配慮,活動を実施する際の留意点などについての十分な調整,参加者への周知・活動を支援するボランティア等の参加など受入先等への十分な配慮が必要である。また,例えば,学校において受入先を公表すること,感謝状や受入先であることを示す証(あかし)を贈呈するなど活動の場を提供した受入先が社会的にも評価されるような取組も重要である。
活動の適切な評価
  体験活動の評価については,点数化した評価ではなく,子どものプラスの面を積極的に評価し,どのような資質や能力が育っているのかという観点を重視して適切に行う必要がある。その際,子どもの感想・意見,保護者の感想・意見,受入先の感想・意見等を把握するなど適切な評価を行うための工夫をするとともに,その結果を次年度以降のプログラムの内容や活動の在り方に反映させていくことが求められる。また,高等学校においては,生徒の地域での自主的なボランティア活動等について,後述の「ヤングボランティアパスポート(仮称)」等の活用などにより,これらの活動を単位認定するなど積極的に評価することが考えられる。
事故発生時の備え
緊急時対応マニュアルを作成するとともに,必要に応じた地域の警察・消防等への事前の連絡,緊急時の連絡先リストの作成などの準備,保険の利用を行うことが必要である。なお,指導者等を含め損害事故や賠償事故を安価な保険料でカバーする保険の開発が望まれる。
4 教育委員会の役割
学校での取組の推進・支援
  都道府県,市町村の教育委員会においては,学校における取組が着実に実施されるように,後述の協議会・支援センター等を通じて,関係団体等と連携しつつ,基本的な活動方針等の策定や,児童生徒の発達段階に応じた適切な活動プログラムの開発や教職員向け手引書の作成を行うほか,学校での具体の活動の実施のために必要な支援措置を講じ,学校の取組を推進し,支援することが求められる。
教職員の意識・能力の向上
  教育委員会においては,教職員の資質能力の向上のため,地域のボランティア推進団体等の協力も得ながら,次のような取組を行うことが考えられる。
  教職員の初任者研修を始め各種研修においてボランティア講座や体験活動等の機会を設ける(初任者研修においては,奉仕体験活動,自然体験活動に関する指導力の向上を重視する)。
  活動の企画や指導などの中心となる教職員を養成するために,地域のボランティア推進団体等が実施するコーディネーターや指導者の養成講座等への参加を研修に位置付ける,ボランティアセンター,NPO等での長期社会体験研修を実施する。
また,以下のような取組を行うことが考えられる。
  夏休み等の長期休業期間など,授業がない期間を利用して,教職員に奉仕活動・体験活動等も含めた研修の実施や機会の提供を図る。
児童生徒の受入れ先となる施設や団体等で教職員の研修を行う等により,学校と受入施設や団体等との連携を深めるとともに,受入先の施設や団体等の実情を学ぶことにより,教職員のコーディネート能力を高める。
  また,教育委員会においては,1教員養成大学等と連携し教員を志望する学生を教育支援ボランティアとして活用すること,2教員採用選考においてボランティア活動等の経験を一層重視するための工夫(例:ボランティア活動等の有無を記載する欄を充実させる。),も求められる。

【学校における多様な体験活動の例】
○ボランティア活動など社会奉仕にかかわる体験活動 ・学校の周辺や駅前,公園,河川や海岸等の清掃,空き缶回収
・花いっぱい運動へ参加しての地域での花作りや環境美化
・老人ホーム等福祉施設を訪問し話相手や手伝い,清掃,交流
・幼児への本の読み聞かせや簡単な点訳
・得意な技術や学習を生かして,車椅子,お年寄り宅の電気製品,子どものおもちゃ,公園のベンチ等の簡単な修理・整備  など
○自然にかかわる体験活動 ・学校を離れ豊かな自然の中や農山漁村での自然とのふれあいや農山漁村体験,登山,郷土食作り
・学校林等での野鳥の保護活動
・身近な公園や川等の自然を生かした探求活動,フィールドワーク
・地域の特色を生かしウミガメの産卵地の保護,生態観察,放流  など
○勤労生産にかかわる体験活動 ・地域の農家の指導を得ながら米作りや野菜作り
・鶏,やぎ,羊,豚などの家畜や魚の飼育
・地域産業を生かした漁労や加工品製造の体験
・森林での植林,下草刈り,枝打ち,伐採,椎茸(しいたけ)栽培,炭焼き  など
○職場や就業にかかわる体験活動 ・生徒の希望を生かして地域の事業所や商店などでの職場体験
・将来の進路について学ぶインターンシップ  など
○文化や芸術にかかわる体験活動 ・身近な地域に伝わる和紙作り,染物,竹細工,焼き物等に触れる活動
・踊り,太鼓,浄瑠璃(じょうるり)など伝統文化や芸能を地域の人等から学び伝える  活動,地域の祭りへの参加  など
○交流にかかわる体験 ・老人会や一人暮らしのお年寄りを招いてのレクリエーション等の交流会
・幼稚園・保育所を訪ねたり幼児を招いたりしての幼児との遊び,ふれ  あい
・小・中・高等学校と盲・聾・養護学校との共同行事等を通じた交流
・学習を生かした地域の人との学び合いの交流
  (生徒から:パソコン,野菜栽培等⇔地域の人々から:わらじ作り,  郷土料理等)
・地域に在住する外国の人々を招いて生活や文化を紹介し合うなどの交流
・農山漁村部の学校と都市部の学校など特色が異なる学校の相互訪問交流  など

(2) 青少年の学校及び地域における奉仕活動・体験活動の促進のための取組
  学校及び地域を通じて,初等中等教育段階の児童生徒に対して,奉仕活動・体験活動を推進するためには,学校・地域・家庭が連携してこれらの活動をサポートすることができるような仕組み作りをすることが必要である。個別の教職員や地域の有志の属人的な努力や善意だけにその推進を依存していては,活動を長期にわたって存続させることができず,その効果も減殺されてしまう。
  このため,これらの活動の推進を図るために,以下のような体制等を整備していく必要がある。
1 学校及び地域の連携の在り方
  学校の教育活動と地域の活動のそれぞれの特性を生かすとともに,相互の有機的な連携が求められる。
  このため,特に市町村レベルにおいては,教育委員会が中心となり,あるいは主唱して,地域のボランティア推進団体や,福祉,農林水産,商工などの関連行政部局が密接に連携し,後述の支援センターなどの推進体制を整備することが重要である。
     また,地域での活動と学校での教育活動が日常的に密接な関係を持つ必要があり,1学校サポート(学校協力)委員会などの学校の推進体制への地域の関係団体の参加や,2地域で行われる奉仕活動・体験活動について,学校を通じて児童生徒やその保護者に情報提供を行うなど,日常的な連携協力関係を保つ工夫が必要である。
2 地域における活動の促進
  教育委員会,社会福祉協議会,NPO関係団体,スポーツ団体,青少年団体等地域の関係機関・団体が連携し,地域での多様な幅広い奉仕活動・体験活動の機会を拡充し,青少年の活動への参加を促していく必要がある。その際,例えば,a)高校生と小・中学生など地域の異年齢の青少年が協力して自ら活動を企画し実施する,b)親子が共に活動に参加する,c)従来,地域社会とのかかわりが薄い傾向にあった中高年が協力して活動を企画し実施する,d)小・中学生の活動への参加のきっかけや励みの証を作る(例:ボランティア活動等を記録するシール等),など地域ぐるみで活動を活発にしていく工夫が求められる。このため,後述のように,学校の余裕教室等を活用し,地域住民が関係機関・団体等の協力を得て活動を行う拠点(地域プラットフォーム)を整備するなどの取組が期待される。  
  また,企業においても,社会を担う主要な構成員として,学校や地域における様々な体験活動に対する施設の開放や,社員の指導者としての派遣,青少年の受入れなど,青少年の体験活動に対する積極的協力を求めたい。
  地域での自発的なボランティア活動は,特に中・高生にとって,人間としての幅を広げ,大人となる基礎を培う意味で教育的意義が大きいが,現状では十分に行われているとは言い難い。このため,例えば,(a)高校入試においてボランティア活動等を積極的に評価する選抜方法等を工夫する(例:調査書に活動の有無を記載する欄を充実させる。推薦入試において活動経験についてレポートを提出させる等),(b)高校生等が行う学校や地域におけるボランティア活動などの実績を記録する「ヤングボランティアパスポート(仮称)」を都道府県や市町村単位で作成し活用する,などの方策について検討する必要がある。
  特に「ヤングボランティアパスポート(仮称)」については,青少年の日常の活動の証としたり,高等学校における単位認定や,就職や入試への活用,文化施設,スポーツ施設等公共施設の割引や表彰を行うなど,いろいろな形での奨励策を検討することが考えられる。国においても,「ヤングボランティアパスポート(仮称)」の全国的な普及・活用が促進されるように,例えば1全国的なボランティア推進団体,関係行政機関・団体等が連携協力しパスポートの標準的なモデルを作成する,2入試や就職等で適切に活用されるよう大学や企業等に対し働き掛けるとともに,国等の行政機関においても,採用等に活用する,3青少年が文化施設,スポーツ施設を利用する場合の割引などを関係機関・団体等に呼び掛けを行うなどの取組を検討する。

学校及び地域における連携イメージ
※奉仕活動・体験活動を推進する仕組みの全体のイメージについてはこちらを参照。


(3) 国等において取り組むべき方策
  国等においては,以上のような学校や地域における取組を支援するため,関係省庁とも連携しつつ,(a)地域における推進体制の整備及び様々な場や施設・団体等における活動の受入れの促進,(b)奉仕活動・体験活動に関する教職員研修の充実,(c)青少年を対象とした学校や地域における発達段階を踏まえた魅力ある活動プログラムや活動に携わる指導者養成プログラムの開発・支援や,他のモデルとなる先駆的な実践の促進と学校や地域の参考となる事例集の作成,教職員向け手引書の作成,(d)教員志望学生による教育支援ボランティアの全国的普及,(e)子どもゆめ基金(注1)等を通じた体験活動を行う団体等に対する助成の取組を推進するとともに,青少年が小・中・高等学校それぞれの段階において,その発達段階に応じた活動の機会を得ることができるようにするために,次のような取組の検討が求められる。
1 奉仕活動・体験活動の実施状況の全国調査
  現状においては,青少年の奉仕活動・体験活動が必ずしも十分行われていない状況にかんがみ,学校内外を通じた青少年の活動の全国的な実施状況調査を実施し,その結果を分析・公表し,各学校及び地域での取組を促す。
2 学校内外を通じた活動の目標の検討
  活動の実施状況や支援体制の整備の進展状況等を見極めた上で,今後,青少年が高等学校卒業段階までに学校や地域を通じて行うことが期待される活動の目標を検討する。
3 ボランティア活動等と関連付けた大学入試の推進
  高等学校段階までの青少年の学校内外の生活において,大学入学者選抜の在り方が与える影響が大きい。大学にとっても,高等学校段階までに多様な体験活動を行った生徒は,大学入学後の学ぶ姿勢や意欲が高く大学教育の活性化にも資するものと考えられる。このため,大学においては,受入方針において,ボランティア活動等を積極的に行う学生を評価することを明確にし,例えば,論文試験にボランティア活動の実践を含め高等学校時代の活動を前提とした出題も含める,先述のヤングボランティアパスポート(仮称)を活用する等,高等学校段階までの活動経験と関連付けた大学入学者選抜の取組が期待される。

3.18歳以降の個人が行う奉仕活動等の奨励・支援
〜奉仕活動を日常生活の一部として気軽に行う〜


  2の1で見たように,我が国では,多くの人が奉仕活動等について興味を抱いてはいるが,一歩を踏み出せないという状況にある。大学等の学生も含め,18歳以降の個人が日常的に奉仕活動等に取り組むことができるように,以下のような奨励・支援の方策を検討することが求められる。

(1)学生に対する奨励・支援等
  大学,短期大学,高等専門学校,専門学校などにおいては,学生が行うボランティア活動等を積極的に奨励するため,正規の教育活動として,ボランティア講座やサービスラーニング科目,NPOに関する専門科目等の開設やインターンシップを含め学生の自主的なボランティア活動等の単位認定等を積極的に進めることが適当である。
  また,学生の自主的な活動を奨励・支援するため,大学ボランティアセンターの開設など学内のサポート体制の充実,セメスター制度や,ボランティア休学制度など活動を行いやすい環境の整備,学内におけるボランティア活動等の機会の提供などに取り組むことが望ましい。
  こうした大学等や学生の取組を支援するため,国においてボランティア教育や活動を積極的に推進する大学等に対する支援措置を講じることが適当である。さらに,公務員や民間企業の採用に当たって,学生のボランティア活動等を通じて得られた経験,能力等を一層重視することが期待される。
  1) 大学等による奨励・支援
  1 教育活動としての取組
  ア) 大学,短期大学,高等専門学校,専門学校(以下「大学等」という。)などにおいて,地元自治体,地域の社会福祉協議会,国際協力団体,NPO,スポーツ団体,青少年団体等関係団体と連携協力し,ボランティア講座やサービスラーニング科目(注2),NPOに関する科目等を開設することが望ましい。また,複数の大学等で協力し,こうした科目に関するモデルカリキュラムや教材等を共同開発することも適当である
  イ) インターンシップを含め学生の自主的な活動について,大学等において,教育効果などを勘案しつつ,大学等の単位として積極的に認定することが求められる。なお,専門学校においては,既にボランティア活動やインターンシップを授業科目の履修としてみなすことができるようになっており,今後,この制度をより一層活用することが期待される。
  ウ) こうした取組に当たっては,特定教員のみならず全学的に教職員の啓発を図り大学全体で進めることが求められる。
  2 学生の自主的活動に対する奨励・支援策
    大学等においては,学生の自主的な活動に対する奨励・支援策として以下のような取組を検討することが望ましい。
  ア) 学生に対する学内のボランティア活動等の機会の提供
    大学そのものが最大の活動の場となり得る要素を備えている。例えば,学内の環境整備,学内のコンピュータやネットワークに関する技術的サポートの支援,図書館,学内のスポーツ施設の地域住民への開放などでの業務支援,留学生や障害を持った学生に対する支援などにおいて,ボランティア活動等の機会を積極的に学生に提供する。
  イ) 学生に対するサポート体制の充実
    地域のボランティアセンター,学生関係団体等とも連携しつつ,大学内において,以下のようなサポート体制を整備する。
  a) 学生部等に情報提供,相談窓口の開設
  b) 大学等のボランティアセンターの開設(専任スタッフ,学生ボランティアの配置(センターにおいては,(a)学生のボランティア活動等に関する情報収集・提供,(b)学生向けプログラムの開発,場の開拓,(c)ボランティア養成講座等の開催等の事業を行うことが想定される)
  ウ) 学生が活動を行いやすい環境の整備
    セメスター制度(注3),ボランティア休学制度(休学期間中の授業料の不徴収,在籍年数制限からの除外等)の実施,9月入学の促進,いわゆるギャップイヤー(注4)など学生が長期的な活動を行いやすい環境を整備する。
  エ) ボランティア活動等に関する啓発
    地域のボランティア推進団体等との連携協力によるボランティア活動等に関するガイドブックの作成,ボランティアセミナー等の開催,入学時における学生に対するオリエンテーションなどの啓発を行う。

2) 国等による奨励・支援
    上記のような大学等及び学生の取組を奨励・支援するため,例えば,以下のような取組が検討されることが望ましい。
  1 大学等に対する国等の奨励・支援
  ボランティア教育や活動を積極的に推進する大学等に対する支援を行う(例:ボランティア関係カリキュラムやサービス・ラーニング科目の開発に対する支援等)とともに,学生関係団体による学生ボランティアに関するガイドブックの作成・配布を支援する。
  さらに,今後,大学等の評価において,ボランティア等に係る教育の取組や学生の自主的ボランティア活動等への支援等を評価指標の一つとして適切に位置付けることも検討することが期待される。
  2 就職の際に評価
  関係府省と経済団体等が連携協力し,公務員や民間企業の採用に当たって学生のボランティア活動等を通じて得られた経験,能力等を一層重視することを明確にする。
  関係府省と経済団体等が連携し,企業等に対し,学生に求める履歴書等にボランティア活動歴の有無を記載する欄を設けるよう呼び掛けを行うとともに,国等の行政機関においては,履歴書等にボランティア活動歴の有無を記載する欄を設けることを検討する。

(2)企業,社会人に対する奨励・支援
  国,地方公共団体,企業や労働組合などにおいては,気軽に参加できる職場環境作り,柔軟な勤務形態の導入など社会人が参加しやすい環境の整備や,地域での諸活動への参加を含め勤労者が行う幅広いボランティア活動等を奨励するための支援が期待される。
  国においても,こうした取組を支援するため,取組の事例紹介など情報提供を積極的に行うとともに,社会人に適した活動の機会の充実を図ることが適当である。また公務員や教員の活動を奨励するため,研修の一環として活動を位置付けることや,公務員や教員の経験を生かした活動のプログラムの開発等を検討することが望ましい。
  社会人の幅広いボランティア活動等を奨励・支援するため,国,地方公共団体,企業等においては,職員や社員が気軽に参加できる職場環境作り,柔軟な勤務形態の導入など社会人が参加しやすい環境の整備が期待される。
  また,企業や労働組合などにおいては,社会の主要な構成者としての役割や社会的責任を踏まえ,自らがボランティア活動等に対する支援を行うことや,社員が活動を行うことに対する積極的な支援を期待したい。

  1) 企業の社会的役割
    企業等においては社会の主要な構成者としての役割や社会的責任を踏まえ,市民社会の一員として,企業自身がボランティア活動やNPO活動に対し継続的に助成や支援を行うことを通じ,社会に貢献することが期待される。また,青少年に社会体験やインターンシップなどの就業体験の場を積極的に提供することを通じ,一定の教育機能を果たすことも求められている。

2) 社員が気軽に活動に参加できる職場環境の整備等
    企業等においては,長期間にわたる活動の実施に適したボランティア休暇制度の導入のみならず,地域での諸活動への親子や家族での参加を含め活動を幅広くとらえるとともに,(a)気軽に参加できる職場環境作り(定時退社の奨励,有給休暇の取得促進,サービス残業の解消など),(b)柔軟な勤務形態(短時間の継続的な活動の実施に適したフレックスタイム制など)の導入に積極的に取り組むことが期待される。
  ◇企業等のボランティア活動等に対する奨励・支援
    さらに,企業や労働組合などが社員のボランティア活動や地域の活動を支援するため,次のような取組を行うことが期待される。
  ボランティア推進団体等との協力による社員向けボランティアセミナー等の開催
  社員が属している活動団体への助成,社員が活動支援のために団体に寄附する際に企業等が一定の上乗せをするなどの支援の拡大
  地域社会の一員としての企業や労働組合等の社会貢献活動の推進(例:地域の清掃活  動,寄附,献血等の呼び掛け等)
  地域や学校での青少年の体験活動等への協力(例:施設の開放,社員を指導者として派遣,青少年の受入れ等)
  ◇国等の奨励・支援
    こうした企業等の取組や社会人のボランティア活動を奨励・支援するために,国等においては,以下のような取組の一層の充実が望ましい。
  ボランティア推進団体,経営者団体,NPO等の連携による社会人に適したボランティア活動等の機会の提供
  社員のボランティア活動等を支援する企業等の支援方策やその導入に当たっての取組などの事例紹介などの情報提供  等

3) 公務員・教職員のボランテイア活動等の奨励
    ボランティア活動は公務員や教職員にとっては,行政や学校現場を離れて,新たな社会とのかかわりを持つ場となる。特に教職員にとってはボランティア活動等の経験を教育指導に生かすことができるとともに,一方で,文化・運動部活動等で培った指導技術を地域における活動に活用するなど,日常業務で得た経験を社会に還元することもできるなどの意義がある。
  公務員や教職員が自発的にボランティア活動を行うことができる機会を整備するため,特に以下のような取組を検討することが望ましい。
  ア) 公務員
  公務員の自主的な奉仕活動を支援
  ・ボランティアに関するセミナーの開催,事例集の作成等による啓発の充実
  ・現行のボランティア休暇制度(国家公務員)の一層の活用・促進に努める。
  公務員の研修の一環としての体験研修
  ・一定期間介護等を実地に体験することを研修カリキュラムに位置付ける
  イ) 教職員
  初任者研修等教員の研修のプログラムとしてボランティア活動等を積極的に導入
  教職員生涯福祉関係団体等によるボランティア活動等に係る啓発の一層の充実
  さらに,関係行政機関が,ボランティア推進団体等と連携協力し,公務員や教職員の専門性を生かした活動のプログラムの開発についても検討することが適当である。

(3)個人が参加できる多彩なプログラム等の開発・支援
  奉仕活動・体験活動は,基本的には個人が自らプログラムを立て,自主的に活動を行うことが望まれるが,奉仕活動・体験活動を気軽に行うことができるようにするためには,様々な魅力的な活動の受け皿やプログラムを用意することが必要である。そこで,そのような取組の一例として,(a)青年,勤労者向けの長期の社会参加プログラム,(b)公共施設等におけるボランティアの受入れの促進,(c)ボランティアパスポートなどボランティア活動等の実績に応じて,活動を行う個人一般や団体に対する支援を行う仕組み作り(d)国際ボランティアの裾(すそ)野の拡大などを提案したい。
  1) 青年・社会人向け長期参加プログラム
    奉仕活動等を長期間にわたって行うことは,青年にとっては知識・技術を習得し将来の人生設計に役立てることができ,また,社会人にとっても視野を広げ新たな人間関係を構築し,転職を含め新たな人生を切り開く契機となるものである。また活動を行う施設等においても,こうした活動に参加する青年や社会人を人材として期待できる。諸外国においても,こうしたプログラムが実施されている例もある。
  関係府省,ボランティア推進団体等が協力して,例えば,以下のような国内外の長期の社会参加プログラムを創設することを提案したい。また,こうしたプログラムの経験者について,官公庁,企業等の採用において積極的な評価が行われることが期待される。
◇青年,社会人向け長期参加プログラム
   対象:18歳以上
  活動場所:社会福祉施設,社会教育施設,学校,青少年教育施設,子どもの遊び場,NPO,ボランティアセンター等のボランティア推進機関,官公庁,環境保全,国際協力のフィールド等
  活動期間:1年〜2年
  支援措置:大学,職業訓練施設等と提携し資格等の取得も含めた学習プログラムを適宜取り入れる(企業等の協力も得ながら,一定の実費等の支給も検討)。

  2) 身近に参加できる魅力あるプログラムの開発
    活動を行う主体や,活動分野などそれぞれの特性を踏まえつつ,参加者の能力や経験,興味や関心に応じて身近に参加できるように多彩な活動の機会が用意される必要がある。
  活動プログラムの開発に当たっては,例えば若者を引き付けることができるようにゲーム性やエンターテイメント性を持たせたプログラムや,親子で参加できる活動,中高年齢者が技能や経験を生かしてできる活動など,活動に参加する者の特性に応じた配慮が必要である。また,プログラムのアイデアを公募したり,各分野で活動する多彩な人材の参加協力によるプログラムなどの工夫も求められる。特に,今後,本格的に高齢化社会を迎える我が国において,高齢者が社会とのかかわりを維持し,活力を持ちながら生きることができるように,社会参加の場として高齢者のボランティア活動の機会を拡充していくことが必要である。
  さらに,地域においては,環境保全,国際理解,高齢化社会への対応など現代的課題の学習機会が充実されてきており,また,IT普及国民運動の一環としての全国民を対象としてのIT講習が実施されたところである。こうした学習の成果等を活用した活動の機会の提供やプログラム開発についても検討することが適当である。
 1 公共施設等におけるボランティアの受入れの促進
    近年,社会人,主婦,退職者等が,知識や経験,技術を生かして,地域の学校,社会教育施設,青少年教育施設,文化施設,スポーツ施設・病院などの公共施設においてボランティア活動を行う例が増えている。例えば,学校での教科や部活動の指導,地域でのスポーツや文化活動の指導,公民館,図書館等社会教育施設でのボランティア,博物館・美術館等でのガイドボランティア,スポーツ競技大会での組織運営・通訳など幅広い活動が行われている。こうした活動は個人の能力や経験,学習成果を生かし日常的に取り組めるものであり,活動の裾(すそ)野を広げる上で意義が深い。また,地域に開かれた施設としての事業や運営の改善充実や活性化に資する面も大きい。
  このため,公共施設等においては,ボランティアの受け入れ・活用を組み込んだ事業の運営,施設の担当者の指定,ボランティア及び職員双方への研修など受入れに必要な環境整備を行うことを求めたい。
  さらに,特別非常勤講師制度,スポーツや文化の指導者派遣制度など学校教育への社会人の活用のための施策の一層の充実を図る必要がある。
2 個人一般に対する奨励・支援
    個人が,生涯にわたってボランティア活動を行うことを社会的に奨励し,こうした活動が持続的に行われる仕組みを検討していく必要がある。こうした観点から,試行的な取組として以下の取組を提起したい。
○ボランティアパスポート(仮称)

  市町村など地域単位で,地方自治体ないしボランティア推進団体等が,ボランティア活動等の実績等を記録・証明するボランティアパスポートを発行し,希望する住民に交付する。
  住民がボランティア活動等を行った場合に,これをポイントとして付加し,活動実績に応じて,公共施設の利用割引などの優遇措置,協賛団体等からの様々なサービス,利用する住民の様々な助け合いなどを受けることができるようにすること等が考えられる。
  国の機関・団体等に広く協力を呼び掛け,例えば,博物館・美術館の割引など特典や優遇措置を広げていくことも検討に値する。
  地域通貨など既に取組を実施している地域や団体等の協力を得て,こうした取組を試行的に実施し,持続可能な取組として広域的に広げていく方策について検討する。

 3 ボランティア団体・NPO等への援助
  NPOやボランティア団体の活動の財源は,基本的には寄附や会費による収入が中心となっている。安定的な資金の確保のためには,ボランティア活動に対する個人や法人のNPO等への寄附を促す税制上の優遇措置等の一層の充実について検討が進められる必要がある。また,個人の寄附を広く募る方策として,例えば,ボランティア推進団体等において以下のような仕組みについて検討することも考えられる。

幅広く民間企業の協力を得て商品にポイントを付加し,売上げに伴うポイント数に応じて企業から団体に寄附するもの
カード会社,航空会社等の協力を得て,クレジットカードやマイレージカードのポイントをボランティア活動の財源として寄附できるようにするもの

  3) 国際ボランティアの裾(すそ)野の拡大
  学生や退職者などを中心に開発途上国での援助活動や技術協力など国際ボランティア活動に対する関心が高まっている。また,国内においても,異文化交流の手伝い,ホームステイやバザーの開催等による留学生の支援など様々な形で活動が行われている。このような活動は,参加者個人にとって国際的な視野を広げ,多様な価値観の中で生きる寛容の精神を養うとともに,草の根レベルでの国際貢献を推進する上で意義が大きい。
  今後,国際的なボランティアの裾(すそ)野を拡大していくために,国の関係行政機関,国際協力事業団,学校関係者,NGOなど関係団体等が連携協力し,次のような方策について検討することが望ましい
 
1 大学等における国際ボランティアの養成及び大学関係者の積極的参加のための取組の充実
  大学関係団体,青年海外協力隊,NGO等が連携協力し,例えば,(a)大学等における国際ボランティア経験者の積極的活用(例:大学等の要請に応じ国際ボランティア経験者を担当教官やコーディネーター等として国際ボランティア講座や大学ボランティアセンター等へ派遣する「国際ボランティア養成人材バンク(仮称)」の設立等),(b)受入国のニーズの把握,語学や専門性の向上のための大学での指導体制,学生の参加の便宜等を勘案した国際ボランティアの養成のためのプログラムの開発,(c)教育援助や環境保全など専門性を生かし青年海外協力隊の活動等を支援する事業,(d)大学教員等がその専門性を生かし,NGO等の国際ボランティアに積極的に参加できるような環境作りなどの取組を図る。
2 国際ボランティアに対する協力
  シニアを含め,海外ボランティアの一層の拡充を図るため,国際協力事業団やNGOなどの団体が地域で行う海外ボランティアのシニア海外ボランティアの募集や説明会の開催等に協力するなど,連携協力を図る。
3 学校教育における裾(すそ)野の拡充
  青年海外協力隊やシニア海外ボランティア等,教職員の国際ボランティアへの参加を一層拡充するため,派遣元である地方自治体の主体性を高め,より長期的な計画をもって派遣を可能とする更なる工夫や,より生産的で効果のある派遣方法など現行制度の一層の改善を図る。また,児童生徒の国際理解教育や進路指導に国際ボランティア経験者等を社会人講師として活用する取組の充実を図る。


4.国民の奉仕活動・体験活動を支援する社会的仕組みの整備

  奉仕活動・体験活動を支援していくためには,行政,個人,ボランティア団体,企業,学校などが共に協力して,推進体制をつくっていく必要がある。
  そのため,国,都道府県,市区町村のそれぞれのレベルで,関係者による連携協力関係を構築するための協議の場(協議会)や,活動に関する情報提供,相談・仲介などを通じて個人,学校,関係団体等が行う奉仕活動・体験活動を支援する拠点(センター)を設ける必要がある。
  また,こうした推進体制が有効に機能していくためには,a)だれもがいつでも容易に必要な情報を得ることができる国及び地方を通じた情報システムの構築,b)地域におけるボランティア団体,受入施設,送出施設など関係機関・団体等が日常的に連絡・交流する市区町村のセンター等を中心とした地域ネットワークの形成,c)センター等において活動が円滑に実施されるために必要な連絡調整等を担うコーディネーターの養成・確保が求められる。
  奉仕活動・体験活動に関する現状及び課題を踏まえ,個人,学校,関係団体等の活動をサポートできるような以下のような仕組みを作ることが有効である。

(1)奉仕活動・体験活動を支援する仕組みづくり
  1) 協議会・センターの設置
    特に学校内外での青少年の奉仕活動・体験活動の円滑な実施のためには,国,都道府県,市区町村のそれぞれのレベルで,関係行政機関,ボランティア推進団体,学校をはじめ関係者による連携協力関係を構築するための協議の場(協議会)を設けるとともに,コーディネーターを配置し,活動に関する情報提供,相談・仲介などを通じて,奉仕活動・体験活動を支援する拠点(センター)を設けることが必要である。このようなセンターは,一般の社会人や学生等の活動のセンターとしても機能し得ると考えられる。
  また,協議会やセンターの設置・運営,さらには各種施策等の展開に当たっては,国レベルにおける関係府省や全国規模の関係団体等による連携はもとより,地方においても,教育委員会と首長部局,さらには行政と学校,社会教育施設,社会福祉協議会等の関係団体,地域の経済団体,地域の代表者など活動にかかわる様々な関係機関・団体等の密接な連携が必要である。
  なお,協議会については,関係する行政部局が多く,広く関係団体等の協力を得ることが必要であるため,ネットワーク作りなど行政が一定の役割を果たすことが適当である。
  一方,センターについては,既に蓄積されたノウハウ等を活用するとともに,機動的かつ柔軟な運営を確保するため,教育委員会など行政がその機能を担うほか,状況に応じてボランティア推進団体等にゆだねることも有効である。特に市区町村のセンターについては,幅広い関係団体等との協力関係が構築できる場合には,教育委員会のほか,社会福祉協議会ボランティアセンターその他既にコーディネート等を活発に行っている団体等にゆだねるなど地域の実情を勘案した柔軟な対応が適当であると考えられる。

奉仕活動・体験活動を支援する仕組み(イメージ)

  2) 国及び地方を通じた情報システムの構築
    だれもがいつでも容易に必要な情報を得ることができるシステムが求められる。
  特に市区町村,都道府県レベルでは,前述のセンターを中心に,既存のボランティア活動や体験活動に関する情報データベース等を活用しつつ,地域内の活動の場や指導者,活動団体や活動プログラム等に関する情報を整理し,活動を始めようとする個人,学校関係者,ボランティア活動関係者等様々な個人や団体の求めに応じて必要な情報を提供するシステムを構築する必要がある。
  国レベルにおいても,関係府省,ボランティアや体験活動にかかわる関係機関・団体等が連携協力し,全国的なボランティアや体験活動に関する情報等を利用しやすい体系に整理し,上記の地方のセンターの情報とともにリンクするなど関連するすべての情報が総覧できる情報システムの構築が必要である。その際,利用者が居住する地域以外の情報も容易に入手できるように配慮することが大切である。
  なお,情報システムの整備に当たっては,可能な限り広く収集し掲載することが適当であるが,例えば,特定の団体の誹謗中傷,政治や宗教への利用など不適切な活動の可能性があると判断される場合には管理者で削除するなどのルールを決めておくことが適当である。また,指導者等の人材等についての情報の登録に当たって,センターのコーディネーターなどが適切な判断を行うことが適当である。
  さらに,将来的には,国及び地方を通じて,各種情報をデータベース化し,活動分野,年齢,親子など参加形態,地域等により参加し得る活動が検索できるシステムや,生涯学習の視点を踏まえた活動手法や活動事例などの情報提供,希望団体自体による情報提供のために開放できるスペースの提供などの工夫が求められる。

(2)地域ネットワークの形成
  奉仕活動・体験活動を日常的な活動として,着実に実施していくためには,市区町村のセンターのほか,地域の実情に応じて,社会福祉協議会,自治会,民生委員,青年会議所,商店会等地域の団体が連携協力して,小学校区単位で公民館や余裕教室,地区センター等を活用し,地域住民が日常的に活動に取り組むために集うことができる身近な地域拠点(地域プラットフォーム)を整備することも有効であると考えられる。ここでは,市区町村のセンターを補完して,身近なエリアにおける活動の場の開拓や地域住民の活動への参加を促すことが想定される。
  一方,地域住民の生活圏域に応じた広域的な活動のニーズにこたえるため,例えば,市区町村単位などで,県内のボランティア推進団体,大学,NPO等が連携協力して,広域的な拠点(広域プラットフォーム)を整備していくことも検討に値する。
地域ネットワークのイメージ
※奉仕活動・体験活動を推進する仕組みの全体のイメージについてはこちらを参照。


(3)コーディネーターの養成・確保
  1 コーディネーターに期待される役割
    ボランティア活動や体験活動を効果的に推進していくためには,行政機関とNPO,ボランティア団体その他関係団体などが連携・協力しやすい仕組みを作ることが重要である。また,活動を行おうとする個人にとっても,行政機関の窓口が明確であれば,情報提供や相談対応を求めることができ,活動に気軽に参加しやすくなる。そこで,各行政機関等に,これらの活動を担当する部局を設置(「ボランティア課」等),又は明確化し,それらの推進に取り組むとともに,国民にアピールするなどの取組も求められる。
  2 養成・確保
  コーディネーターには,ボランティア活動や体験活動,企画・広報,面接技法等に関する専門的知見とともに,関係機関との人的ネットワークやその背景にある豊かな人間性など幅広い素養・経験等が求められる。さらには,活動の適正さを確保するため,活動に関する情報や団体や人物に対する確かな目利きといった能力も必要である。このため,関係する行政部局や団体等の協力を得つつ,都道府県と市町村が共同して人材の積極的な発掘,計画的な養成が必要である。
  コーディネーターの養成については,社会福祉協議会,ボランティア推進団体,教育委員会,スポーツ団体,青少年団体をはじめ,関係機関・団体等が連携協力して,養成講座の体系化を図り,養成講座を共同で開設することや,さらには関係機関・団体が協力して養成のための各種のモデルプログラムの開発等を行うことも検討する必要がある。また,受講者の経験や知識のレベルに応じた必要事項の補完や,担当する分野の特性に応じた多様なプログラムを用意する必要があることから,基本的には一定人数をまとめ得る都道府県単位で養成講座を行うことが効果的と考えられる。

(4)行政機関におけるボランティア活動や体験活動を担当する部局の設置・明確化等
  ボランティア活動や体験活動を効果的に推進していくためには,行政機関とNPO,ボランティア団体その他関係団体などが連携・協力しやすい仕組みを作ることが重要である。また,活動を行おうとする個人にとっても,行政機関の窓口が明確であれば,情報提供や相談対応を求めることができ,活動に気軽に参加しやすくなる。そこで,各行政機関等に、これらの活動を担当する部局を設置(「ボランティア課」等),又は明確化し,それらの推進に取り組むとともに,国民にアピールするなどの取組も求められる。


5.社会的気運の醸成
〜皆が参加したくなる雰囲気作りを〜


  国民一人一人が奉仕活動・体験活動の意義を理解し,身近なものとしてとらえ、日常生活の一部として継続して取り組んでいくためには,社会全体でこれらの活動を推進していく気運を醸成していくことが不可欠である。このため,奉仕活動・体験活動に関する年次報告など奉仕活動・体験活動に関する積極的な広報・啓発,ボランティア活動推進月間など活動に気軽に参加できる雰囲気作り,活動を継続して取り組む者に対する顕彰の工夫などに取り組む必要がある。
  また,奉仕活動・体験活動の推進の上で果たすべき役割が大きい企業等の取組を促す方策として,積極的に取り組む企業の社会的奨励や関係府省と経済団体等との協議の場の設置などについても検討する必要がある。
(1)奉仕活動・体験活動に対する社会的気運の醸成
  1 奉仕活動・体験活動の魅力をアピールする取組の実施
奉仕活動等に対する社会的気運を醸成するため,関係機関等が連携協力し,例えば,以  下の取組について検討することが適当である。
  「ボランティア活動推進月間」などを設けて,関係府省,民間団体等が協力して奉仕活動等に対する国民的な啓発運動を実施
  奉仕活動・体験活動の全国的な概況をまとめた年次報告書等の作成
  国民の関心を引き付ける広報・啓発の実施
  奉仕活動等を自ら実践している各界の著名人が集まり,その意義を国民に対し働き掛ける活動等の実施
  テレビ等の媒体を通じ活動への参加が若者にふさわしいライフスタイルとしての印象を与えるような工夫
  地域の未経験者の参加者を促す工夫
  例えば,地域でのボランティア活動経験者に「語りべ」となってもらい,地域で友人や仲間に参加の喜びや感動を伝えて一緒に活動に参加する
  地域における行事などの身近な活動に家族一緒に参加するように呼び掛けを行う
  2 活動の顕彰
    奉仕活動・体験活動に継続的に取り組む者を幅広く社会的に認知し,その取組を顕彰していくことも重要である。ボランティア活動等に関する表彰・顕彰については,既に国や地方公共団体,企業や民間団体等により様々なものがあるが,例えば,以下のような点について検討することが望ましい。
  活動に携わるあらゆる人や団体が対象となる工夫
  例えば,青少年の奉仕活動等に対する顕彰など既存の表彰・顕彰の対象となりにくい者に対する新たな制度の創設,既存の表彰・顕彰の実施の工夫による対象者の拡大
  国民の関心を集める顕彰の工夫
  積極的に活動を行っている個人や団体などが社会から脚光を浴びるような環境を作り,関係者の意欲を鼓舞し,国民にその功績を広める顕彰の工夫(例:前述の推進月間に合わせて顕彰を実施(「ボランティア大賞」の創設等),顕彰と合わせてイベントの開催等)

(2)企業等の取組を促す方策
  奉仕活動・体験活動を社会的に定着させるためには,(a)青少年の体験活動への協力,(b)ボランティア団体等への支援,(c)社員のボランティア活動等への支援など企業等の取組が果たす役割が大きい。このため,以下のような方策についても検討する必要がある。
  1 積極的に取り組む企業の社会的奨励
  奉仕活動・体験活動を積極的に支援する企業を,例えば,「ボランティア活動支援企業(仮称)」のような形で広く公表する方策の検討
  2 関係府省と経済団体等との連携
  奉仕活動・体験活動の推進に関する官民を通じた共通認識の醸成,推進のための具体的な方策を検討するための関係府省と経済団体等による協議の場を設置

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