戻る

III.調査対象国ごとの要約
   
5. スウェーデン
 
スウェーデンでは、社会奉仕活動に該当する言葉はない。英語のコミュニティ・サービスにあたる言葉は、刑罰の一種である無報酬の労働をさす。
これまで、スウェーデンでは行政サービスが整備されているためボランティア活動は盛んではないと言われてきたが、実際には、組織運営に参加するボランティア活動が盛んであり、また、近年ではEU加盟の影響や労働によって社会貢献することが難しい高齢者層の増大を背景として、ボランティア活動の振興の必要性が注目されてきている。
スウェーデンの学校では職業を体験するプログラムが実施されており、労働を通じて社会貢献することが重要視されている国の特徴が表れている。また、子ども達は、対人サービス等の直接的なボランティア活動を行うよりは、募金活動等を行って、他者のための活動を行っている組織に寄附を行うことが多い。
     
  (1) 社会奉仕活動に関する考え方
       スウェーデンには、直接「社会奉仕活動」に該当する言葉はない。英語のコミュニティ・サービスにあたる”Samhllstjnst”は、刑罰の一種で、最低40時間最高240時間、無報酬の仕事を行うことを指す[45]。
   
<ボランティア活動との区別>
【ボランティア活動を表す言葉】
  ボランティア活動に該当するスウェーデン語は”Frivilligt arbete”(自発的労働・活動)である。ただし、あまり広く使われている言葉ではなく、スポーツクラブ、教会、政治活動、労働組合まで含む広い意味合いに解釈できる。また、”Volontr”は海外援助、エイズ予防、麻薬患者のケアなどで部分的に使われる。
【スウェーデンのボランティア活動[46]】
スウェーデンはボランティア活動が盛んではないと評されることがある。一方で、スウェーデン社会省(Socialdepartementet)が実施した市民活動調査[47]によると、スウェーデン人(16〜74歳)の48%が「最近1年間で少なくとも1度はボランティア活動をしたことがある」と答えている。
実はこのうち、「役員会への参加」を活動内容に上げている人が65%に上る。同調査は、こうした組織の運営などに参加する形態を「間接ボランティア」と定義し、対人サービスなどのサービスを直接提供する「直接ボランティア」と区別している。つまり、スウェーデンでは直接ボランティアは盛んではないが、間接ボランティアは盛んであると言える。
直接ボランティアが盛んでない理由は、スウェーデンでは公的サービスが充実しているため、直接ボランティアの活動の余地が少ない点が指摘できる。特に市民の日常生活に必要となる福祉サービス全般は公的に保証されているため[48]、大規模なボランティア活動が社会的に求められる余地は小さい。現在は市[49]が実施しているホームヘルプサービスの起源が1950年代の赤十字のボランティア活動であるように、ボランティア活動として始まった事業が公的な事業になっていったという歴史もある[50]。
一方、スウェーデンは「組織の国」と評されるほど、各種の団体や組織づくりが盛んであり、こうした団体の運営に関して、間接ボランティアとして参加する場合は多いのである。そのため、ボランティア活動は、自分のため、あるいは自分の所属するグループのため、仲間のため、という意識が強く、一種の余暇活動と捉える傾向が強い。他人や社会のための奉仕、という認識は薄い。
なお、EU加盟などの影響で近年、直接ボランティアに関する議論が高まっている。スウェーデンでは伝統的に労働の意義が重視されてきたが、高齢者等の労働によって社会に貢献することが難しい層の増大により、労働以外の社会奉仕の必要性が高まっており、これがスウェーデンでボランティア活動が注目されつつある背景になっていると考えられる。
     
  (2) 社会奉仕活動に関する法律
    社会奉仕活動、ボランティア活動全般に関する法律はない。
     
  (3) 制度による施策・事業
     
  1) 小中高校生を対象とした活動プログラム
       社会奉仕活動やボランティア活動に関するプログラムは学校では実施されていない。類似する活動に、職業や労働を体験するプログラムであるPRAO(労働生活実習)[51]がある。
   
<活動の概要>
PRAOは8年生と9年生時にそれぞれ1〜2週間程度実施される。
活動前の準備として、まず社会科において労働組合の役割や労働環境、どのような会社があるかについて勉強する。また体験中の日記をつけることや、労働や賃金に関する宿題が、「スウェーデン語」や「社会」の教科担当の教師から課せられる場合もある。
体験する職場については、各校の進路指導カウンセラーや職業指導カウンセラー[52]が、生徒本人がどんなことに興味があるか相談しながら決める。これらのカウンセラーは地域の様々な職場とコンタクトを持っている場合が多い[53]。
受入企業側はそれぞれ担当者を決め、その担当者が生徒に対する評価を行い、学校に報告する。また、教師が体験中の生徒を訪問して、クラスで報告することもある。こうすることで、クラス中の生徒がいろいろな職業を知ることができる。
生徒が職場にいく交通費は学校の負担となる。
       PRAOに参加することによって、生徒は、働くことがどういうことかを理解し、視野を広げることができるようになる。そのため、将来の職業選択の参考になるだけでなく、学校での勉強が将来の職業にとって必要であることがわかり、勉強の意義が明確になると言われている。スウェーデンでは、労働し納税することによって社会貢献するが重要視されており、この国民性が表れているといえよう。
     
  2) 18歳以上の若者を対象とした活動プログラム
       政府が実施する活動プログラムはないが、欧州連合のヨーロピアン・ボランタリー・サービス等の活動プログラム[54]を利用して海外でボランティア活動を行う若者が増えている。
   欧州連合の活動プログラムの実施において、スウェーデンの送り込み団体は市が最も多いことが特徴的である。他に、キリスト教の教会、市が所管する青少年のための余暇センター、文化団体などがある。スウェーデンが送り込んでいる活動としては、老人ホーム、子供の世話、障害者ケア、ホームレスの手伝い、川の清掃、熊の保護、受入国における青少年に対する広報活動、青少年支援の準備の手伝い、フェア・トレード[55]団体などがある。
     
  (4) 民間主導による社会奉仕活動
       スウェーデンでは、青少年が対人サービス等の直接的なボランティア活動を行うよりは、働いたり募金活動を行ったりして資金を調達し、それを他者のための活動を行っている組織に寄附するという活動が主に行われている。このような活動の主体となるのは、生徒の労働組合として機能している生徒会やその連合組織である生徒会連合会である場合が多い。
   
<オペレーション・デイ・ワーク(Operation Dagsverke)>
   生徒が働いて集めた募金を途上国の子供達のために寄付をする活動で、生徒会連合会が主催している。
活動目的
「生徒が生徒を助ける」が基本目的で、途上国の教育分野に関するプロジェクトに寄付行為を行う。
寄付の相手先は、途上国においてプロジェクトを実施しているスウェーデン国内の援助団体である。毎年、援助団体からの申請を受けて、生徒会連合会の総会で援助先を決定する(毎年異なるプロジェクトを選定する)。
選定条件は、教育分野であること、青少年が対象であること、地域に根ざしていること、十分に計画されていることの4点である。近年の寄付対象プロジェクトは主に学校建設である。
参加者
対象年齢は12〜19歳である。2001年の活動参加校は222校で、これは全ての中学・高校の約10%に相当する。生徒数では約8,000人であった。
生徒も生徒会役員も、自由意思で当活動に参加する。連合非加盟で当活動にだけ参加する学校もあれば、連合加盟ではあるが当活動には参加しない学校もある。学校によって、生徒会員が参加するところも、クラス単位で参加するところもある。
活動内容
参加する生徒は、活動日(後述の通り、1年に1日)に、働くか募金活動をするかのいずれかの方法でお金を集める。家庭の経済状態にかかわらず、すべての子どもたちが同じ条件で参加するという理念のため、働いてお金を集めるのが原則となっている。
お金の集め方は「会社」「家計」「募金箱」「その他」に分類される。「会社」は、地域の店舗などで働くことで、お金をもらうことである。「家計」は家庭の中で窓掃除などの手伝いをすることで、家族からお金をもらうことである。「募金箱」は、街角でパフォーマンスをして募金を募ったり、グループで劇団をつくり、劇を上演する際に入場料を取ったりすることで、お金を集めることである。このようにお金の集め方は多岐に渡る。
活動内容と集めた金額は所定の用紙に記入して申告する。各生徒が集めたお金は学校単位で集めて、生徒会連合会に送る。2000年の募金額は470万クローナ(約5,200万円)で、2001年はこれを上回ると見られる。
事前の活動
活動前には、生徒会連合会が募金先の国についての広報資料(パンフレット、ビデオ等)を作成して学校に送る。こうした経費は150万クローナ(約1,700万円)にのぼるが、SIDA(スウェーデン開発庁)からの広報のための補助金や、継続プロジェクトの残金の利子を充てることで賄っている。
学校では広報資料等を使って、授業の中で募金先の途上国についての学習を行う。また、給食としてその国の料理を出したり、その国のダンスを勉強したりするなど、多角的な学習を行っている学校もある。事前の学習をするほど、生徒も積極的になる。
実施主体
当活動の実施主体は生徒会連合会である。援助先(援助団体)を決めるのも、活動の広報を行うのも、集まった募金を管理するのも生徒会連合会である。また、援助団体への募金の支払いは6〜7回に分けて行い、毎回、プロジェクトの進渉状況について団体に報告を求めている。
一方、各校での活動は各生徒会が中心になって行う。実施日について校長と相談して決めるのも、各生徒の募金を集めて連合会に送金するのも各生徒会である。また、生徒会は当活動に限らず、途上国で天災などがあれば、募金活動をよく実施している。
活動を支援する仕組み
募金額等を申告するための用紙は上下半分に分かれている。上半分には氏名、学校名、金額、活動内容とその種類(会社、家計、募金箱、その他から選択)を記入し、お金を払った人(雇用主)のサインをもらい、生徒会への報告書類とする。一方、下半分は生徒側がサインして、雇用主に渡す。当活動への支払は贈与に当たるため、税や社会保険料を支払う必要がないので、その証明として税務署への提出に使われる。
また、集めたお金は郵便為替で各校から生徒会連合会に送られる。この際、90番で始まる郵便為替が使用される。これはスウェーデンにおいて公式に認められた募金活動にのみ使われる番号であり、信用の高さを示している。
     
   
<5月の花(Majblomma)>
   子供達が「5月の花」と呼ばれる、花の形をした紙製ピンバッジを売って、お金を集め、それを子供のための各種プロジェクトに寄付するという運動で、「赤い羽」運動の原型とも言えるものである。
参加者
「花」を売るのは9〜12歳の子供たちである。活動は基本的にクラス単位、学校単位で行う。
参加者は約19万人(2001年)である。この世代の子供は全部で約30万人であり、高い参加率を誇る。
活動概要
「花」の販売
  毎年5月の2週間、花の形をあしらった紙ピンバッジやステッカーを子供達が安い価格で地域委員会(後述)から買い取り、それを売って募金を集めたお金を地域委員会に寄付する。
  1907年以来、5億1,000万本の5月の花が売られ、2000年には3,200万クローナ(約3億5千万円)を集めている[56]。
学校教育における活用
学校教育においては、お金の計算方法や、他の人にどう話しかけて売ればいいかなどの教育に、「5月の花」活動が使われている。またそうした事例を紹介するパンフレットも作成している。
花をいくつ買って、いくつ売って、いくつ返したかを報告する書類は、子供達自身が作成する。
実施主体
全国に900の地域委員会があり、それを中央組織「5月の花連合会」が統括している。
1985年からシルビア王妃が後援者となっている。王妃は子供の問題にも多く携わっており、組織に対する信頼性を高めている。
連合会は5名の有給スタッフ(フルタイム)で運営されている。地域委員会には有給スタッフはおらず、約15,000名のボランティアにより運営されている。
寄付の対象
募金で集められた金額の使途は下記の通りである。
  40%が地域委員会を通じて、地域のプロジェクトに使われる。
  10%は子供が所属している学校のものになる。これも寄付にまわす学校もある。
  10%は子供自身のものになる。クラスの旅行費用に寄付する場合もある。
  20%は連合会のプロジェクトや広報活動に使われる。
  20%は連合会の事務費、運営費に使われる。
  子供や学校の裁量で使える分とあわせ、募金の60%は地域で使われることになる。
地域のプロジェクトは、基本的には学校におけるプロジェクトが対象で、特別なストレスを持った子供や、病気がちの子供のためなどに使われる。また、子供のための環境整備にも使われる。例えば、自転車置場設置、障害ある子供が読み書きする道具の設置、校庭の器具設置、いじめに対するプロジェクト、夏服しか持ってない子供に冬服を買い与えることなどである。
  地域のプロジェクトは、学校等が地域委員会に申請する。地域委員会は協議の上、補助金を出すか否かを決定する。プロジェクトの選定基準のポイントは、よく考慮されたプロジェクトかどうか、学校自身で実行できるプロジェクトであるかどうかの2つである。
  地域の実情は地域委員会が一番知っているので、連合会は地域のプロジェクト選定に関与しない。また、使途の決定は、先生や職員だけで決めず、生徒会で議論するなど生徒も影響力を行使できるようにしている。
施設運営
  連合会は「子供の園」(GALTAR)と呼ばれる施設を所有・運営しており、その経費にも寄付が使われる。「子供の園」が対象としているのは、社会的に問題のある家庭(親が中毒患者など)の子供と、ぜん息やアレルギーを持つ子供である。
活動結果の評価
集めた金額が上位5人の子供は、その親や教師と共にストックホルムに招待され、王妃に会い、表彰される機会を得る。ここで補助対象となったプロジェクトも紹介され、研究者が子供達にお礼を言う場にもなっている。
ただし、子供個人がたくさん売るのはよくないという考えから、表彰は、個人単位でなくクラス単位に変えることが検討されている。
参加者への報酬
子供達は、集めた額の10%を自分の小遣いとしてもらうことができる。

 

ページの先頭へ