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III.調査対象国ごとの要約
   
6. 韓国
 
韓国では、自願奉仕と呼ばれる社会奉仕活動が、小中高等学校および大学等高等教育機関で、活発に行われている。これは、1996年からナショナル・カリキュラムのなかに、自願奉仕が採り入れられており、学生の活動結果が内申書の点数に反映されているためである。
自願奉仕に参加している学生は、社会に貢献する意識を育てており、過半数が奉仕活動の必要性を認めている。
青少年および成人が自願奉仕を行いたい場合には、全国に204ヵ所配置されている自願奉仕センター等を利用して、活動を行っている。
     
  (1) 社会奉仕活動に関する考え方
       韓国では、社会奉仕活動にあたる言葉として「自願奉仕」があてはまる。「第7次学校教育計画」における「特別活動領域」のなかで必修化された社会奉仕活動も、「自願奉仕」と呼ばれている。また、「自願奉仕」は、韓国の伝統的な奉仕活動に対して、欧米流のボランティアの訳語として用いられている。
   
<自願奉仕とは>
「自願奉仕」は、ラテン語「ボランタス(voluntas)」の漢字表記で、「他人に仕え奉ることを、自ら願って行う活動」の意味。韓国青少年自願奉仕センター出版の、高校生向けハンドブックでは「自願奉仕とは、個人や団体が、一定の計画のもと、強制されない状況下、自分の意思に則り、無報酬で他人や地域社会に寄与する持続的な福祉活動」と定義している。
「高等学生奉仕活動はこのように行いましょう」韓国青少年自願奉仕センター(1996年)
       「自願奉仕」は、韓国でも社会問題化している「受験地獄」「いじめ」「不良行動」「飲酒・喫煙」「暴走族」などを解決する手段として社会奉仕の学校教育への必修化が議論になり、1995年の1年間で集中的な議論を経て、必修化された。
   議論の過程で「例え子どもといえども、社会奉仕は自発的なものであり、教育課程に組み込んで半強制的に体験させるものではない」との意見もあったが、「大人の社会奉仕は自発的に行われるべきである。しかし、成長過程にある生徒には、社会奉仕をはじめとする様々な体験の機会を大人が与えることが重要であり、むしろ大人が体験の機会を制限することは、生徒の成長を阻害することになる」「教育的配慮に基づき、社会奉仕活動を計画的に指導することは、教科指導と同じと考えられる。社会奉仕活動を自発的という名の下に無計画に行うよりも、学校教育などで計画的、教育的に体験させることが生徒の成長には効果的である」との意見に集約され[57]、実行に移されている。
     
  (2) 社会奉仕活動に関する法律
       学校教育における社会奉仕活動については、1995年に大統領令により「教育改革委員会」が設置され、そこでの議論をもとに「新教育改革法」が制定された。この法律に基づいて「第7次学校教育計画」が作成され、1996年から順次実施されている。この計画の柱は、従来の教科教育中心、受験中心の学校教育から、「実践中心の人性教育」への転換を図ったことであり、その一環としてナショナル・カリキュラムの自願奉仕が採り入れられている。また、入試改革として筆記による入学試験偏重から内申書重視に変更されつつある[58]。
     
    <自願奉仕センター>
       主に福祉分野におけるボランティア活動を行う市民団体などを支援する機関として、自願奉仕センターがある。このセンターは、全国に204ヵ所が設置されており、ボランティア活動を支援している。従来は担当する保健福祉部が所管して支援を行っていたが、「自願奉仕は地域づくり[59]」との理念のもと、1995年からは行政自治部の所管に変更となった。
   現在、全国に98万人のボランティア登録し、福祉活動に留まらず、文化活動、環境保全、地域活動等のボランティア活動を行っている。
   対象は青少年に限定せず、地域全ての人々にボランティアへの参加を促す機能を有したマッチングセンターである。しかし、中学、高等学校における社会奉仕の必修化に伴って、地域における青少年向けの社会奉仕活動の支援、指導やマッチングに特化した機能を整備する必要が生じ、1996年に10大都市に青少年自願奉仕センターを設置し、その後1997年には全16市道に青少年自願奉仕センターが設置された。それらをとりまとめる仕組みとして、韓国青少年開発院のなかに韓国青少年自願奉仕センターを開設し、社会奉仕活動のプログラムづくり、および各地の情報収集を行っている。
     
  (3) 制度による施策・事業
     
  1) 小中高校生を対象とした活動プログラム
     
    自願奉仕の概要
       学校教育では、教科外学習領域として、1996年から「特別活動」のなかに自願奉仕が位置づけられている。社会奉仕活動の活動時間、活動回数を各学年別に記録し、学生生活記録簿(内申書)に記述することで、上級学校への進学時の重要な資料として機能している。
     
  図表 7活動領域の例示
 
領域 内容
人手不足の施設などでの手伝い 福祉施設、公共施設、農漁村、学校内などの人手不足の施設等での手伝い
慰問活動 老人ホーム、孤児院、障害者施設、軍施設などへの慰問
キャンペーン 交通安全、環境保全などのキャンペーン参加
慈善・救護活動 献血、災害地支援、難民救護活動など
環境・施設保全 自然保護、文化財保護活動
指導 同級生や下級生の指導、交通安全指導
地域社会開発 地域社会実態調査、地域社会イベントの支援など
  資料:教育人的資源部「学生奉仕活動指導資料」
   
  図表 8教育課程に定められた社会奉仕の時間数
 
  教育課程の最低時間 勧奨時間
小学校(1〜4年) 年5〜7時間以上 年7時間以上
小学校(5〜6年)   年10時間以上
中学校 年10時間以上 年18時間以上
高等学校   年20時間以上
  資料:同上
   
  図表 9奉仕活動の学生生活記録簿(内申書)への点数反映方法
 
中学1年 中学2・3年 高校
年間基準時間 18時間 15時間 大学によって自由に点数化可能
反映方法 18時間以上:8点 15時間以上:8点
15〜18時間未満:7点 10〜15時間未満:7点
15時間未満:6点 10時間未満:6点
  資料:同上
     
    生徒や教員の自願奉仕に関する意識
       韓国青少年開発院が2000年に実施した全国の中学生、高校生および教員へのアンケートに[60]よると、生徒の6割は、自願奉仕活動を、自分自身のためよりも社会に貢献する自己犠牲であると認識している。
   活動の内容では、先の活動領域の7つの例示のなかで、「施設等の手伝い」が最も多い。生徒の6割が活動は有益であったと答えている。
   また、自願奉仕活動の必要性については、生徒の7割が必要であると答えており、教員では約5割が必要と答えている。自願奉仕活動は、内申書に反映されるしくみになっているが、内申書に反映されなくとも生徒の半数以上は参加すると回答している。
   今後のあり方については、生徒は奉仕活動の重要性を認識しているものの、内申書への点数化等に対しては反対の意向を示している。一方、教師は奉仕活動の学校教育への位置づけそのものを疑問視している。ただし、大学受験の加熱している高校の教師では、進学時への成績反映を高めるべきとの意見もある。
   
<自願奉仕事例:ソンギル中学校:重複障害者施設における介助>
対象学年:3年生160人、父兄指導団32名、教師8人
活動頻度:年1回、月2回、土曜日の午後(3時間)
1997年に開始したこの活動では、重複障害者を収容する施設で障害者に接することにより、障害者理解を深め、両親に感謝、奉仕活動を通じて自己の存在意味を考えることを目的としている。
活動前に教育材料(「障害者への慰問活動を行う前に」)を配布し、担任教師が指導を行う。活動当日は、教師と父兄数名を伴い施設に赴く。
活動内容は、入浴介助、企業に販売するショッピング・バッグ制作の補助、職業訓練介助などである。
奉仕活動後、「何不自由ない自分の体に気付き、両親に感謝するようになった」、「不自由な人に施すというよりも、一緒に生きる共同体をつくるために、互いに分け合う気持ちになった」という学生がいた。また、奉仕に行くとき、自主的に生活必需品や果物等を持ち込む学生もいた。
奉仕先が遠い(往復2時間以上)。近隣地域での小規模な奉仕活動場所を模索中である。
  (「2001学年度ソウル学生奉仕活動42回師範学校:優秀事例発表会」2001年7月11日)
     
   
<自願奉仕事例:ソヨン中学校:近隣の老人福祉館を慰問し、カーネーションを手渡す>
  対象学年:1年生(16人)
実施日:カーネーション作成4月30日・5月4日、訪問5月8日
「父母の日」(5月8日)に老人福祉館を訪ね、身寄りのない高齢者に手作りのカーネーションを手渡す。学生、教師、父兄指導団による協力により、高齢者を敬い労わる機会を設け、「父母の日」の意義を理解するとともに、学生の人性(人間の先天的な性質)の向上を図る。
「家庭の月」である5月に、近隣の老人福祉施設を慰問し高齢者の話し相手になることにより、小さな誠意で明るい社会づくりを体験する。また、家庭通信で活動内容を広め、家庭の協力のもと情緒教育を行う。
カーネーション材料費(各クラス約150円)は、学生の父兄が負担する。
  (「2001学年度ソウル学生奉仕活動42回師範学校:優秀事例発表会」2001年7月11日)
     
    受入団体に関する情報
       生徒の過半数が夏休みに自主的に情報を収集して受入団体を探して、活動を行っている。受入団体の情報は、友人等からの口コミや学校からの情報が中心となっている[61]。
   
<受入機関の情報をスムーズに流すために整備されつつあるしくみ>
各市道の教育庁、および市郡の教育庁に「学生奉仕活動情報案内センター」を設置し、受入機関の情報をインターネットなどを介して生徒に提供する。センターに相談員を配置し、受入機関との仲介に関する相談に応じる体制を整備する。
各地域の自願奉仕センターや青少年自願奉仕センターを介して受入可能機関を紹介する
各学校に「学父母奉仕活動支援団」を設置し、学父母のネットワークを介して受入れ可能機関を開拓する。
各市道の教育庁単位に教員の勉強会として「奉仕活動強化研究会」を設置し、教員間での情報交換を密にする。
     
    今後の課題
       韓国青少年開発院のアンケート回答者2,594人のなかで103人が奉仕活動中に事故に遭遇している。事故の内容には以下のようなものがあり、今後の課題となっている。
   
<活動中の主な事故>
施設での手伝い
  子どもの世話をしていて、子どもを転ばせて怪我をさせた、障害児の顔に傷を負わせた
  障害児から傷を負わされた
  市役所で書類を紛失した
環境保護施設
  ごみ拾いや草むしりのときに、切り傷を負ったた
  動物に餌を与えていて、かまれたりして傷を負っ
慈善救護
  障害者へ食事を提供しているときに、果物の種を障害者の喉に詰まらせたなど
       生徒自身の事故については、事前学校に届けている活動は「学校安全保障協会」による保険が適用されるが、生徒が第三者に与えた損害に対する保険はなく、本人負担となっている。成人を含めた奉仕活動保険の行政支援が求められている[62]。
     
  2) 18歳以上の若者を対象とした活動プログラム
       ボランティア活動が大学の卒業単位認定され、選択科目として採用する大学が増加している。韓国大学社会奉仕協会が1996年に設立され、大学における奉仕活動の推進に向けて受入機関の開拓などを行っている。
   
<社団法人韓国大学社会奉仕協議会の概要>
1996年設立、会員校193校(2000年現在)、専門大学158校(同)[63]
目的:ボランティア活動の推進・情報交換、市民活動につながる役割を果たす
しくみ:選出された100〜150団体が、三星(サムソン)によるボランティア団体への助成金(各々100万ウォン:約10万円)を活動資金として取得する。活動後に報告書を提出(1997年より毎年)。
協議会の提供するプログラム
講習:教職員のためのワークショップを年1回開催している。目的は、質のある教育と大学間の情報交流を促進すること。
大学生海外奉仕団:文化交流を通じた国際的親善と相互理解を増進することが目的(内容:教育、医療奉仕活動、その他)。
高齢者のための大学生奉仕活動
奉仕活動指導者(大学生)の育成:小・中・高等学校の児童・生徒が奉仕活動をするための指導者を育成している。
     
   
<韓東大学の例>
韓東大学には福祉学科がない。そのため、全学部全学科において社会奉仕活動が必修科目となっている。理論0.5単位(週1−2時間)15時間、実践1単位30時間。
韓東大学以外にも、多くの大学が社会奉仕活動を必修または選択科目と位置づけられている。奉仕領域は、社会福祉施設奉仕、学習奉仕(教育指導)、障害者の手伝い、環境問題、情報化運動、高齢者のための奉仕、地域教会、対外国人奉仕(ハングル語教室、旅行、文化交流等)、大学による海外奉仕団派遣等と、多岐にわたっている。

 

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