III.調査対象国ごとの要約 |
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4. |
フランス |
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フランスにおいて社会奉仕活動に近い言葉は国民役務である。かつては国民役務=兵役義務であったが、徴兵制が廃止された現在は国民役務=ヴォロンタリア・シヴィルと呼ばれる任意参加の文民役務である。 |
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フランスには、アソシアシオンと呼ばれる、趣味やレジャーを一緒に行う同好会的な色彩の強い非営利団体がある。数十万団体が存在するとも言われているアソシアシオンの一部で、ボランティア活動が行われている。また、欧州連合のヨーロピアン・ボランタリー・サービス等のプログラムを利用してボランティア活動に参加する若者もいる。 |
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教育において市民性の形成は重要な要素であるが、その教育方法は知育が中心であるため、生徒が学校で社会奉仕活動の体験学習をする機会はほとんどない。放課後に、アソシアシオンと学校が連携してスポーツ、教育、芸術、レジャー等の課外活動を行っている。 |
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(1) |
社会奉仕活動に関する考え方 |
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フランスで社会奉仕活動に最も類似する言葉として「国民役務(セルヴィス・ナショナル service national)」がある。これは国民役務法典(Code
du service national)に定義されてきた兵役義務であり、成年男子に課されたものであった。しかし1997年に徴兵制が廃止された現在、「ヴォロンタリア・シヴィルvolontariat
civil(市民の有志、の意)」[39]がこれを代替しているが、義務ではなく、見聞を広めるなどの自己実現的な要素を押し出すなど、「奉仕」的な色合いは薄れているように感じられる[40]。ヴォロンタリア・シヴィルは男女ともに参加することができ、活動内容は国防・警察、自然保護、社会連帯などのかつての文民役務に相当する内容となっている。 |
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<アソシアシオン活動> |
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日本でいうボランティアに類似する活動を行っている非営利団体は「アソシアシオンassociation (社団、などと訳される)」と呼ばれ、数十万ともいわれる団体が存在する。アソシアシオンは活動によっては税制の優遇を受けられるものもあるが、組織的に運営されているものから、団体設立を申請しただけで活動をほとんど行っていないものまである。「社団」という訳語から連想されるイメージとは異なり、ゆるやかで流動的な組織のため、全体像を把握するのは難しい。 |
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アソシアシオンによる活動は日本語でいう「ボランティア」にとどまらない。Conseil de la vie associative(CNVA,アソシアシオン活動全国評議会、の意)によると、教育・訓練、健康・高齢者・家族・社会の活動、商業・経済活動・雇用・消費、住宅・生活・環境、漁・釣り、文化・観光・国際交流、若者・レジャー、スポーツ、多様な社会活動の9分野に分けられるが、最も多いのがスポーツ・文化・レジャーなどの活動を行う団体であり、いわゆる「同好会」に近い性格をもっている。 |
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アソシアシオン活動の参加者はベネヴォラb n volatと呼ばれることが多く、ベネヴォルb n vole(よい意志、の意)をもつ人が自発的に自分の就業時間外(自由期間・特別休暇・バカンス・または退職後)に活動することを指す。青少年・スポーツ省、全国ボランティアセンターなどではアソシアシオン活動における「自発性」「無償性」「組織で活動すること」などを重視している。日本の「ボランティア」では第三者への働きかけが重視されるのに対してアソシアシオン活動は自己実現的な要素が強いという違いがある。 |
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(2) |
社会奉仕活動に関する法律 |
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国民役務について定めた法律は国民役務法典に収められている。ヴォロンタリア・シヴィルの活動内容を具体的に定めたものが2000年3月14日の法律2000-242であり、同法典のL122-1以降に収録されている。ヴォロンタリア・シヴィルは、以前の兵役義務とは異なり、自主的に参加できる任意の活動であり、男女ともがその対象である。活動分野は、防衛・安全保障・人間および環境の保護、国内外の技術支援、科学・経済・行政・社会衛生・文化教育面での協力などである。 |
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(3) |
制度による施策・事業 |
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1) |
小中高校生を対象とした活動プログラム |
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市民性の形成はフランスの教育における重要な任務である。小中高校における公民(civique)の授業はその方法のひとつであるが、教育方法としては知育が中心であり、米・英のような体験型というよりも、授業の中で学ぶものが中心である。また、学校の生徒会活動を通じて、自らの代表を選出して、校則の改定や学校の環境の改善等を行っていくという民主主義のしくみ等を学ぶ機会もあるが、これは学校を一つのコミュニティとして考え、そこに属する当事者が自ら課題を解決していく方法を学ぶという色彩が強い。
放課後の活動については、学校が主体となって提供するのではなく、学校が地域のアソシアシオンと契約を結び、知育を中心に行う機関である学校では提供に限界がある芸術・スポーツなどの活動を提供することが行われている[41]。活動は放課後など学校の管轄外の自由時間に実施されるが、学校もある程度の監督を行っている。
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<開かれた学校 L’ cole
ouverte> |
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1991年の夏に国民教育省と連帯・社会関連省の協力のもと始められた。これは学校の休暇や水曜日・土曜日など学校が休みの日に、中学校(コレージュ)・高校(リセ)の学校施設を利用して、子どもや青少年向けのスポーツ、教育、芸術、レジャーなどの活動を提供するものであり、アソシアシオンとの協力のもと展開されてきた。 |
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活動実績 |
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2000年に「開かれた学校」に参加していた学校数は約500ヵ所に上り、前年よりも20.4%増えている。これまでに「開かれた学校」に参加したことのある生徒は約65,000人であり、参加者の年齢は平均で13歳、年齢の幅は5歳から22歳までと幅広い。活動の提供者(指導者)の数はこれまでに10,839人に上り、このうち4,474人が国民教育省の公務員である。 |
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活動内容 |
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教育関係の活動が20〜40%、文化関係の活動が20〜36%、レジャー関連の活動が13〜30%、スポーツ関連の活動が13〜30%程度である。 |
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協力団体 |
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教育優先地区(ZEP, zone d' ducation
prioritaire[42])のコーディネイター、社会文化センター、住区センター、スポーツクラブ連合、国家警察、国や地域の劇場や美術館、企業、家族手当金庫、地方議会、アソシアシオンなどの協力を得て実施されている。 |
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募集・広報宣伝活動 |
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学校から生徒・生徒の親への手紙や連絡手帳、印刷物や配布物、教師や生徒代表からの情報、地域の学校へのニューズレターなどを通じて行っている。 |
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2) |
18歳以上の若者を対象とした活動プログラム |
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1) |
ヴォロンタリア・シヴィル |
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現在は兵役義務からヴォロンタリア・シヴィルへ移行する過渡期である。法律では2001年以降に始まることになっているが、現在のところ開始しておらず、具体的な活動は未定である。 |
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目的 |
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国民役務の兵役義務が廃止され、この代替として創設された。 |
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活動対象者と参加方法 |
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18歳〜28歳の男女が活動の対象者であるが、義務ではない。一定年齢になると召集される国防準備召集会議で説明されるほか、ヴォロンタリア・シヴィル情報センター(CIVI,
Centre d'information sur le volontariat civil) や関連省庁・団体で情報を手に入れることができる。 |
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活動内容 |
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活動内容は危険防止、安全保障、防衛、環境保護、社会結束・連帯、海外協力、人道的援助などであり、以前の国民役務の中の文民役務に相当する。 |
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活動期間 |
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活動期間は6ヵ月〜24ヵ月であり、24ヵ月を限度として1回に限り更新が可能である。 |
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実施主体・管轄省庁 |
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ヴォロンタリア・シヴィルをコーディネイトする「ヴォロンタリア・シヴィル情報センター」は、外務省、経済再生産業省、対外貿易推進官房などの協力のもと設置されている。詳細は未定だが、個別のプログラムの受入団体によって管轄省庁が異なる方向で検討されている。 |
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参加者への報酬、活動評価 |
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受入先のアソシアシオンや企業が負担して月額3500フラン(約6万円)を支払う方向である。 |
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2) |
欧州連合によるプログラム |
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欧州連合のヨーロッピアン・ボランタリー・サービス等の制度を活用して、海外でのボランティア活動に参加しているケースも少なくない。
ヨーロピアン・ボランタリー・サービスの参加者は18〜25歳であり、活動期間は3ヵ月〜12ヵ月である。内容は、欧州連合各国あるいはプログラムに参加しているその他の国に滞在して、社会福祉施設等に就業するなどのボランティア活動であり、相互理解を深めることを目的としている。プログラム数ではドイツ、スペインに次ぐ第3位で約1,300のプログラムがある。参加人数ではドイツに次いで第2位で、約1,000人に上る。
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民間主導による社会奉仕活動 |
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民間主導の社会奉仕活動は、非営利組織であるアソシアシオンが実施している[43]。1997年に設立されたアソシアシオンは6万団体に上るが、活動内容は「文化・観光・国際交流」「スポーツ」などの楽しみの活動から、「商業・雇用」「教育」「健康・家族・社会」などまで幅広い。 |
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<「ユニ・シテ」 Unis Cit
による活動の例> |
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Unis Cit は1995年につくられたアソシアシオンで、17歳〜25歳の若者を対象にして9ヵ月間のボランティア活動プログラムを提供している。活動内容は市民意識を高めるようなプログラムが多く、参加する若者は自分自身の将来について考える機会にもなるという[44]。 |
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活動地域はパリまたはリヨンで、パリでは1995年から、リヨンでは1999年からプログラムが提供されており、これまで200人以上の若者が参加している。参加者には月額約2000フランの報酬と交通費が支払われる。 |
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活動内容は、低所得者、問題のある生徒、高齢者などの支援や自然環境保護、町おこしなど連帯solidarit に関するものが中心である。 |
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活動資金の半分は公的資金から、半分は協賛している民間企業(フランスガス公社、カルフール、ソシエテジェネラル、アクサなど)から拠出されている。 |
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