【資料1】公立社会教育施設の所管の在り方等に関するワーキンググループにおける論点整理(案)

公立社会教育施設の所管の在り方等に関するワーキンググループにおける論点整理(案)


○社会情勢の変化の中、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設には、近年、地域活性化・まちづくりの拠点、地域の防災拠点などの新たな役割が期待され、地域の課題解決に向けた学習と活動の拠点としての機能を強化することが一層求められるようになっている。

○現在、公立社会教育施設については、教育委員会の所管とすることが関連法令において定められているが、地方公共団体からの提案を踏まえ、「平成29年の地方からの提案等に関する対応方針」(平成29年12月26日閣議決定)において、公立博物館について、「まちづくり行政、観光行政等の他の行政分野との一体的な取組をより一層推進するため、地方公共団体の判断で条例により地方公共団体の長が所管することを可能とすることについて検討し、平成30年中に結論を得る。その結果に基づいて必要な措置を構ずる。」こととされた。

○これらを踏まえ、公立博物館をはじめとする公立社会教育施設について、地方公共団体の判断で条例により地方公共団体の長が所管することを可能とすること等に関して、専門的な見地から検討を行うため、平成30年2月9日、中央教育審議会生涯学習分科会の下に「公立社会教育施設の所管の在り方等に関するワーキンググループ(以下「本WG」という。)が設置された。

○本WGでは、平成30年2月から○月までの間、○回の会議を開催し、17の関係機関から表明された意見も踏まえつつ、以下のとおり論点整理を行ったところであり、今般これを中央教育審議会生涯学習分科会に報告するものである。


1.社会教育を教育委員会で所管していることについて
○戦後、地方における社会教育に関する業務は、政治的中立性や継続性・安定性の確保等の観点から、教育委員会の所管とされ、今日まで70 年近くの歴史を刻んできた。この間、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設の充実と社会教育主事をはじめとする社会教育行政の推進体制の整備が図られ、社会教育は、学校教育以外の場における学習の機会を提供し、国民が自己の充実と生活の向上を図り、豊かな人生を送る上で大きく貢献するとともに、地域における「人づくり」を通じて社会の発展に寄与してきた。

○今後、人生100年時代の到来やSociety5.0に代表されるような社会の大きな変化が予想される中で、個人の人生の充実のためにも、社会の持続的な発展のためにも、誰もが生涯にわたり必要な学習を行い、その成果を個人の生活や地域での活動、職業等に生かすことのできる「生涯学習社会」の実現が一層強く求められている。

○そのためには、行政としても、国・地方を問わず、学校教育・社会教育の振興を通じた生涯学習社会の構築の取組をこれまで以上に強力に展開する必要がある。その際、新学習指導要領において、子供たちが未来社会を切り拓くために必要な資質・能力とは何かを学校と社会が共有し相互に連携する「社会に開かれた教育課程」の実現を目指していることや、平成29年の社会教育法改正により「地域学校協働活動」が新たに規定され、学校と地域の一層の連携が求められていること、さらには、社会人の学び直しによる生涯を通じた能力の開発や、地域で心豊かに活動するための学び、多様な人々と共に生きる社会を作るための学びの充実等が求められていることを踏まえれば、学校教育と社会教育との連携・融合を図りながら、横断的・総合的な視点で教育行政を展開していくことが一層重要と考えられる。

○このような観点から、社会教育に関する事務については、今後とも教育委員会が所管することを基本とすべきと考える。教育基本法第17条に規定される教育振興基本計画の策定等を通じ、国・地方双方において、学校教育・社会教育を通じた総合的な教育政策に今後一層注力することが求められる。あわせて、地方公共団体の長の所管する他の行政分野との横断的な連携を効果的に図るため、総合教育会議の積極的活用を含めた取組についても推進する必要がある。


2.今後の社会教育施設に求められる役割
○社会教育施設は、平成27年10月現在、全国に公民館が14,171施設、図書館が3,331施設、博物館(博物館相当施設、博物館類似施設を含む)が5,690施設、青少年教育施設が941施設、女性教育施設が367施設が存在し、地域住民に身近な施設として、大きな強みを持っている。歴史的にも、人が育ち、人がつながる拠点として、学習手法や学習領域等における豊富な蓄積と、貴重な教育財産を有し、地域における社会教育の拠点として機能してきた。

○また、施設の管理に関しては、施設の設置の目的を効果的に達成するための措置として、指定管理者制度が導入され、株式会社など民間事業者にも館長業務を含め全面的に管理を行わせることができることとなっており、各地方公共団体においてはこうした制度や新しい情報手段なども活用した柔軟な取組も行われるようになっている。

○一方で、社会教育施設の現状には厳しい意見もあり、少子化による人口減少、高齢化が急激な進展、地域経済の縮小等の社会情勢の急激な変化が進む中で、社会教育施設が真に地域の学習と活動の拠点として機能するためには、それぞれの施設が今後果たすべき役割を明確にするとともに、求められる役割を果たすために必要な具体的方策について制度面も含めて検討し、着実に実現していく必要がある。

○その際、近年、社会における人と人とのつながりの重要性が見直されるとともに、新たなテクノロジーも積極的に活用しながら、情報やモノ等を共同で活用しつつ、小さな単位で地域の課題解決に積極的に取り組もうとする活動などが注目されるようになっていることも踏まえ、こうした住民による主体的な課題解決の活動に社会教育施設がどのように貢献していけるかなどの視点からも検討を行うことが重要と考える。

○さらに、いずれの社会教育施設についても、バリアフリー化を進めるとともに、多様な人々のニーズに応え、あらゆる地域住民の社会的包摂に寄与するとの視点に立ち、運営の充実を図ることが求められる。


(1)公民館
○公民館は、社会教育法に規定される目的を達成するため、地域の学習拠点として、地域住民の学習ニーズに対応した講座、講演会、展示会等を実施してきた。
(参考)社会教育法(昭和24年法律第207号)
   第20条公民館は、市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もって住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

○一方で、公民館については、主催事業が減少し、実態として利用者が固定化しているところも見受けられるなどの指摘もあり、より効果的な事業展開に向けた職員と住民との間での対等な議論の活性化や、首長部局が所管するコミュニティセンター、NPO、民間企業等の多様なネットワークを構築できる中核的な人材の養成等が急務となっている。

○地域コミュニティの衰退が社会全体の課題となる中、今後は、特に、地域課題を解決するために必要な学習を住民に提供する役割や、学習の成果を地域課題の解決のための実際の活動につなげていく役割、地域コミュニティの維持と持続的な発展を推進するセンター的役割、地域の防災拠点としての役割、地域学校協働活動の拠点としての役割などを強化することが求められる。また、中山間地域における「小さな拠点」の中核となる施設としての役割も期待される。

○公民館は、昭和21年に「公民館の設置運営について」(文部次官通牒)で設置が奨励されることとなったが、その当時、公民館の機能としては、社会教育機関であるとともに、社会娯楽機関、町村自治振興の機関、産業振興の機関、新しい時代に処すべき青年の養成に最も関心を持つ機関としても期待されていたところであり、上記のような方向はその当初の設置の趣旨とも合致するものである。

○これまで公民館が培ってきた地域との関係を生かしながら、地域の実態に応じた、学習と活動を結び付ける機能を有する新しい地域の拠点施設を目指していくことが望まれる。


(2)図書館
○図書館は、図書館法に規定される目的を達成するため、図書等の貸出、読書会、レファレンスサービス等を実施してきた。
(参考)図書館法(昭和25年法律第118号)
   第2条図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設

○今後は、障害の有無に関わらず全ての住民に読書の機会を提供する役割を強化するとともに、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた学校との連携の強化や、商工労働部局や健康福祉部局等とも連携した地域課題の解決や地域の先駆的・主体的な取組の支援に資するレファレンス機能の充実など、地域住民のニーズに対応できる情報拠点としての役割の強化が求められる。さらには、まちづくりの中核となる地域住民の交流の拠点としての機能の強化等も期待される。

○今後の図書館には、知識基盤社会における知識・情報の拠点として、市民生活のあらゆる分野に係る関係機関との連携のもと、利用者及び住民の要望や社会の要請に応える地域の情報拠点として運営の充実を図ることが望まれる。


(3)博物館
○博物館は、博物館法に規定される目的を達成するため、様々な学術資料・芸術作品等を収集・保管し、それらについての調査研究を行い、資料や調査研究の成果を用いた展示・教育事業を行ってきた。博物館の対象とする分野は極めて多様であり、個々の博物館の名称についても美術館、歴史館、科学館、動物園、水族館等様々であることがその特徴の一つである。
(参考)博物館法(昭和26年法律第285号)
(定義)
   第2条 (略)「博物館」とは、歴史、芸術、民族、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関
(博物館に相当する施設)
   第29条博物館の事業に類する事業を行う施設で、国又は独立行政法人が設置する施設にあつては文部科学大臣が、その他の施設にあつては当該施設の所在する都道府県の教育委員会(当該施設(都道府県が設置するものを除く。)が指定都市の区域内に所在する場合にあつては、当該指定都市の教育委員会)が、文部科学省令で定めるところにより、博物館に相当する施設として指定したものについては、第二十七条第二項の規定を準用する。

○今後は、上記のような博物館本来の役割に加えて、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて、地域の学校における学習内容に即した展示・教育事業の実施や、教員の授業支援に繋がるような教材やプログラムの提供等を強化することや、地域住民はもとより、国内・国外の多くの人々が知的好奇心を満たしつつ広く交流することのできる場としての役割を強化することが期待される。

○また、各種の講演会、研究会等の開催を通じて、各分野におけるボランティアの養成や、友の会等のネットワークづくりを展開することや、住民参加のワークショップ等を通じて、博物館の事業やその地域の在り方等についてともに議論し、博物館の事業の改善や住民の主体的な活動につなげていくことも一層重要である。

○特に、近年の訪日外国人旅行者数の増加等により、博物館は新たに経済活性化に資する資源としての観点からも期待が高まっている。その際、博物館は単なる観光資源ではなく、旅行者に日本や地域について理解を深めてもらい、親近感を醸成してもらう場や、旅行者と住民とが交流する場であるという視点が重要である。また、住民が自らの地域について学び、誇りを持つこと(シビックプライド)が重要であるとの指摘もあり、その点においても博物館は重要な役割を果たすと考えられる。なお、各博物館の目的や性格に照らした場合、経済活性化に資する事業を展開することが難しい博物館があることにも十分に留意する必要がある。


(4)青少年教育施設
○青少年教育施設は、青少年を対象に研修事業や体験活動プログラムの提供を行うとともに、青少年団体等の利用に供するために設置される社会教育施設である。体験活動の機会と場を提供する中心的な役割を担っている。また、職員等の指導による自然体験活動のみならず、集団で食事や入浴をするなどの団体宿泊訓練を通じて協調性を養ったり、規則正しい生活体験の機会を提供する場でもあり、青少年の成長に大きな影響を与えている。

○今後は、上記の役割に加えて、次代を担う青少年の健全育成を総合的に推進し、さらには、青少年が地域の担い手となることを支援する拠点としての役割を担うことも期待される。例えば、これまでの取組に加え、様々な悩みを抱える若者を対象とした相談、引きこもりや非行少年の自立支援、地域における防災拠点等の役割を青少年教育施設が担うことも考えられる。

○青少年教育施設において、上記のような取組を地域住民のニーズに沿った形で分野横断的に推進することにより、青少年の健全育成に係る各種取組が一層効果的に進むものと考えられる。


(5)女性教育施設
○女性教育施設は、女性や女性教育指導者を対象に各種の研修・情報提供等を行うとともに、その施設を女性や関係団体等の利用に供するために設置される社会教育施設であり、女性教育の振興に大きく貢献している。また、実際には「男女共同参画センター」や「女性プラザ」等として、社会教育にとどまらず幅広い活動を行っているものも多く、女性向けのキャリア形成支援やリーダー育成等に係る講座を展開するとともに、女性に関する各種相談窓口を設置するなど、男女共同参画の推進にも大きく貢献している。

○少子高齢化や生産年齢人口の減少、地域コミュニティの衰退等の社会の変化の中で、労働市場や地域社会において、女性の一層の社会参画が期待されており、例えば、出産・育児等により離職した女性の就業支援や地域活動への参画を支援するための多様な学習機会の確保や情報提供等が求められている。

○地域において女性の社会参画を支援し、将来の地域づくりへ貢献していく観点からも、今後、女性教育施設には、地域の多様な課題を踏まえながら教育委員会、首長部局(まちづくり部局、労働部局、福祉部局等)、学校、関係機関・施設等との連携・協働により総合的に取組を進めることが期待される。


3.公立社会教育施設の所管に関する特例を設けることについて
○「1.」で述べたとおり、総合的な教育行政推進の観点から、社会教育に関する事務については、今後も教育委員会が担当することを基本とすべきと考えるが、一方で、「2.」で述べたような社会教育施設の役割に対する期待が高まる中、地方公共団体からは、地方公共団体の判断により、地方公共団体の長が公立社会教育施設を所管することができる仕組みを導入すべきとの意見が提出されており、政府としての検討が求められている。

(1)特例を設けることについて
(他行政分野との一体的運営による質の高い行政実現の可能性)
○公立社会教育施設の所管に関する特例を設け、地方公共団体の判断により公立社会教育施設の所管を地方公共団体の長とすることができることとする場合のメリットとしては、当該施設を活用して、当該施設における社会教育に関する事業等と、まちづくりや観光等の他の行政分野の事業等とを一体的に推進することで、より充実した住民サービス等を実現し、地方行政全体としてより大きな成果を上げることが可能になることが挙げられる。

○また、社会教育は、福祉、労働、産業、観光、まちづくり、青少年健全育成等の地方公共団体の長が所管する行政分野とも大きなかかわりをもつものである。公立社会教育施設を地方公共団体の長が所管することとなる場合、長の所管する他の行政分野における人的・物的資源や専門知識、ノウハウ、ネットワーク等を公立社会教育施設において効果的に活用することで、当該施設の運営のみならず、社会教育行政全体の活性化にとってもプラスの効果が生まれる可能性がある。

○公立社会教育施設を地方公共団体の長が所管することを可能とする場合、例えば、公民館については、地域コミュニティの維持や中山間地域における「小さな拠点」に必要な施設としての観点からもその意義が改めて見直されている中、様々な行政分野が交わる地域づくりの拠点としての機能強化や運営の活性化につながることが考えられる。また、首長部局の所管施設として地域住民をつなぐ拠点となっているコミュニティセンターや交流センターといった施設との連携が進むことにより、社会教育を支える拠点が強化されることも期待される。

○図書館については、他の行政分野の施設との運営上の連携を強化することで、住民交流の拠点、まちづくりの拠点、さらには様々な分野の情報拠点等としての機能をより効果的に発揮しやすくなることが期待される。

○博物館については、観光などの振興にも大きな役割が期待されているところ、関連する行政分野とのより密接な連携が運営の充実や地域振興につながることが考えられる。また、地方公共団体の長が所管する博物館相当施設等が新たに博物館登録制度の対象となることで、首長部局における当該施設の充実に向けた気運の高まりや、教育委員会側においては登録博物館が増えることによる社会教育の一層の充実も期待される。

○このほか、青少年教育施設や女性教育施設についても、例えば、引きこもり、非行少年の自立支援、女性の社会参画支援等について、教育行政の枠組みを超えてより効果的な取組が実施しやすくなることが考えられる。


(複合施設のより効率的な運営実現の可能性)
○地方公共団体の判断により公立社会教育施設の所管を地方公共団体の長とすることができることとする場合のメリットとして、様々な分野の施設が複合した形で設置されている場合に、その所管を一元化することで、当該複合施設の運営がより効率的に行える点も挙げられる。

○現状において、公立社会教育施設の複合化の状況は、図書館については65.0%、公民館は31.6%、博物館は19.2%となっている。その割合は年々高まるとともに、例えば図書館と医療・福祉施設の複合化など人口の高齢化を見据えた新たな取組も進められる状況となっている。


(2)政治的中立性の確保の在り方について
○公立社会教育施設の所管を地方公共団体の長とすることができることとすることについては、上記のような意義がある一方で、とりわけ政治的中立性の確保について十分な検討が必要となる。

(政治的中立性の確保)
○教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われるものであり、その実施に当たっては、学校教育及び社会教育ともに政治的中立性の確保が重要である。

○特に、学校教育は、児童生徒の発達段階に応じた体系的な教育を行うことにより、社会を生きる上での基礎的な素養を身に付けさせるものであり、教育基本法、義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法及び教育公務員特例法において、政治的中立性の確保に特に配慮する規定が置かれている。

○これに対して、社会教育については、その事業への参加は、参加者の任意でなされるものであり強制性が伴うものではなく、参加者が成人である場合には本人、青少年である場合にはその保護者が判断するものであることなど、学校教育とは異なる側面も多い。このため、社会教育における政治的中立性の確保については、学校教育と完全に同一の措置を講ずる必要があるとまでは考えられず、教育委員会による一定の関与や第三者機関の設置等の担保措置を講ずることにより、これを確保することも可能と考えられる。したがって、社会教育に係る事業を展開する社会教育施設の所管についても、一定の担保措置を講ずることにより、政治的中立性を確保することは可能と考えられる。

○本WG のヒアリングにおいても、公立社会教育施設の所管について、政治的中立性の確保や学校教育との連携等についての一定の担保措置を講じることを条件に、地方公共団体の長が担当する特例を認めることを肯定する意見が多く述べられた。

○なお、平成25年答申において、首長が任免を行う教育長を地方教育行政の責任者とすることについて検討が行われた際、教育行政の政治的中立性、継続性・安定性を確保するため、教育長による事務執行に合議制の教育委員会が必要な歯止めをかけられるような制度的措置を講じることが議論された。その中では、教職員や事務局職員の人事、教育内容等、教科書その他の教材の取扱いなどの特に重要な個別の事務については、教育委員会の議に基づいて、教育長が基本方針を策定することとする(議に「基づいて」とは、法的拘束力があるものと解されている。)とされた一方、社会教育に関する事務を含めたその他基本的な事項については、教育委員会の議を経ることとする(議を「経る」とは、従う義務まではないが、強い拘束性があるものと解されている。)とされ、特に重要な個別の事務とは明確に区別した扱いがなされていた。


(政治的中立性の確保のための担保措置)
○地方公共団体の長が公立社会教育施設を所管することとなる場合の政治的中立性の確保のための担保措置については、例えば以下のような新たな仕組みを導入することが考えられる。なお、具体的な在り方については、さらに詳細に検討する必要がある。
・地方公共団体の長が公立社会教育施設を所管することについての条例を定める際には、スポーツ・文化に関する所管についての場合と同様に、教育委員会の意見を聴くことを義務付ける。
・地方公共団体の長が公立社会教育施設に関する事務について規則を制定する際には、あらかじめ教育委員会の意見を聴くことを義務付ける。
・毎年度の公立社会教育施設の事業実施に当たり、社会教育委員の会議等を活用した第三者機関を設置して意見を聴くことを制度上明確に位置付ける。また、社会教育委員の会議について、委員の委嘱に係る参酌基準において、公民館、図書館、博物館等の社会教育施設について見識を有する者についても明記する。当該第三者機関の会議については公開で行い、議事録を作成し公表することとする。

○あわせて、当該公立社会教育施設について、運営状況の評価や情報発信を一層推進するとともに、各施設に設置された審議会や協議会等を積極的に活用することなども重要と考える。

○上記のような担保措置を講ずることにより、政治的中立性の確保のみならず、継続性・安定性の確保、地域住民の意向の反映、学校教育との連携に関しても、その確保が可能となるものと考えられる。


(3)本WGとしての考え方
○以上の検討を踏まえ、本WGとしては、社会教育に関する事務については今後とも教育委員会が所管することを基本とすべきであるが、公立社会教育施設の所管については、当該地方の実情等を踏まえ、地方公共団体の長が所管することが当該地方にとってより効果的と判断される場合には、地方公共団体の判断により地方公共団体の長が公立社会教育施設を所管することができることとする特例を設けることについて、「3.(2)」で述べたような政治的中立性の確保に関する制度的担保が行われることを条件に、可とすべきと考える。

○その場合に地方公共団体の長が担当することとなる事務には、公立社会教育施設の設置とその運営に関する事務(例:規則の策定、各種事業の実施、職員の任命、審議会等の設置・委員の委嘱、運営状況の評価・情報提供等)が含まれることになるものと考えられる。


(4)地方公共団体において特例措置を活用する場合に留意が求められる点
(教育行政としての一体性の確保)
○「1.」で述べたように、今後、行政としては、国・地方を問わず、生涯学習社会の実現に向けた取組をこれまで以上に強力に展開することが求められる。その中で、教育委員会には、教育基本法に基づく地方公共団体における教育振興基本計画の策定等を通じて、域内における社会教育の一層の振興を図ることが求められる。

○公立社会教育施設における業務は、地方の社会教育行政の重要な柱となるものであり、地方公共団体の判断により地方公共団体の長がこれを所管することとなる場合においても、公立社会教育施設に関すること以外の社会教育に関する業務との一体性を保ち、さらには学校教育とも強固に連携しながら進めることが重要である。このため、公立社会教育施設の所管に関する特例を活用する場合においても、教育委員会には、総合教育会議等を積極的に活用しながら、首長部局やNPO法人等の多様な主体との連携・調整を行い、社会教育の振興の牽引役としての積極的な役割を果たしていくことが求められる。さらに地方公共団体の長の策定する、当該地方公共団体の地域活性化プランや観光振興計画等においては、公立社会教育施設に関する事項はもとより、広く社会教育、学校教育との連携等についても留意した記載を行うなど、相互の連携に基づく総合的な行政が進められることが重要と考える。

○公立社会教育施設の所管に関する特例を活用する場合において、都道府県教育委員会においては、専門的な知見を活かし、広域的観点から域内の社会教育行政の総合的な推進を図るため、博物館に関しては、登録事務や学芸員の資質向上事務、私立博物館に対する指導・助言等、公民館に関しては、公民館主事等の資質向上事務や私立公民館への指導助言等、図書館に関しては、司書等の資質向上事務や私立図書館への指導助言等を行うものであり、さらには、都道府県域内全体を俯瞰した上での学校教育との調整役としての役割も担うことが期待される。

○また、市町村教育委員会においては、社会教育と学校教育との連携を推進していくという役割が一層重視されるようになっていることも踏まえ、社会教育主事も活用し、地域学校協働活動の推進や社会教育関係団体との連携等について積極的な役割を果たしていくことが求められる。

○加えて、公立社会教育施設を首長部局で所管する場合にも、当該施設に関し、社会教育主事が専門的技術的な助言と指導を積極的に行うことや、教育委員会との連携の下、社会教育施設の職員に対する研修を充実させることなども重要と考えられる。

○なお、平成30年2月に行われた社会教育主事講習等規程の改正により、社会教育主事講習の修了証書を授与された者又は社会教育主事養成課程の修了者は、社会教育士と称し、教育委員会のみならず、首長部局、NPO、企業等幅広い分野で活躍することが期待されている。今後、地方公共団体において公立社会教育施設の所管に関する特例を活用しようとする場合には、その職員等として社会教育士を積極的に活用するなど、社会教育に専門的な知見のある人材の積極的な登用に意を用いていただきたい。


(地方自治法に定める事務委任・補助執行の活用の検討)
○地方公共団体においては、地方自治法第180条の7の規定による事務委任・補助執行により、首長部局が公立社会教育施設に関する事務を行う事例も増えている。事務委任・補助執行を行っている地方公共団体からは、権限と責任の所在の曖昧さや執行上の手続きの煩雑さを指摘する声がある一方、公立社会教育施設の運営を首長所管の他の行政分野と一体的に行うことができる等の点については評価されている。

○各地方公共団体において公立社会教育施設の所管に関する特例の活用を検討するに当たっては、事務委任・補助執行のような既存の制度の活用についても併せて十分に検討の上、より適切な方法を選択することが望まれる。


4.社会教育の一層の振興について
○今回の公立社会教育施設の所管に関する特例の導入により、首長部局に所管が移った場合であっても、それぞれの施設が、社会教育法、図書館法、博物館法等に基づく社会教育施設であることに変わりはなく、各社会教育施設には、それぞれの法律に定める目的に即し、各種の基準等を遵守して、社会教育の振興に努めることが求められる。教育委員会においては、首長部局と密接に連携を図りながら、当該地方公共団体における社会教育の振興に努めることが求められる。

○今回の特例の導入によって、今後は首長部局も社会教育振興の一翼を担うこととなることから、国においては公立社会教育施設を担当する首長部局とも十分な意思疎通を図りながら、連携関係を構築していくことが求められる。また、都道府県教育委員会においても、市町村の首長部局に対して、同様の対応が求められる。

○今回の公立社会教育施設の所管に関する特例は、社会情勢の変化の中、公立社会教育施設が求められる役割をよりよく果たすことができるよう、地域の実情等を踏まえ、教育分野以外の分野の専門的知見、経験や人脈、情報発信に係る資源を有する首長部局が、社会教育の振興の新たな担い手として加わることを可能にするものである。すなわち、地域における社会教育の振興がこれまで以上に図られるようになることを期待して導入しようとするものであり、このことを国、地方公共団体、関係団体等の全ての関係者は十分に認識しておかなければならない。また、特例を活用する地方公共団体においては、このことを契機に、地域における組織体制の強化を図るとともに、社会教育の在り方についての地域住民の関心を高め、一層の参加を進めるための環境整備を図っていくことが望まれる。

○なお、本WG では、博物館について、委員や関係機関から、今後の博物館に求められる役割を踏まえ、博物館登録制度の在り方を含めた博物館法の総合的な見直しについての検討を進めるべきとの意見があった。平成31年秋にはICOM(国際博物館会議)京都大会2019が開催される予定となるなど、博物館の振興に向けての機運は高まってきている。平成29年の日本博物館協会「博物館登録制度の在り方に関する調査研究」報告書においても「ICOM京都大会の開催こそ、国際的視野に立って我が国の博物館制度を見直す絶好のチャンス」との指摘もあることから、今後、専門家や関係機関とも十分に意思疎通を図りつつ、現場の状況を十分に把握した上で、博物館の一層の振興に向けて、より専門的な検討が行われることを期待したい。


(参考)本WGおけるヒアリング実施団体・機関
3月5日
   公益財団法人日本博物館協会
   全国科学博物館協会
   公益社団法人日本動物園水族館協会
   鹿児島県霧島アートの森

3月26日
   東北歴史博物館
   三重県・三重県教育委員会
   全国都道府県教育長協議会
   北海道(全国知事会推薦)
   全国町村教育長会
   岡山県鏡野町(全国町村会推薦)
   全国都市教育長協議会
   福島県いわき市(全国市長会推薦)

4月16日
   公益社団法人日本図書館協議会
   公益社団法人全国公民館連合会
   郡山市教育委員会
   枚方市
   荒川区

お問合せ先

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