家庭・地域の教育力の向上に関する特別委員会(第3回) 議事録

1.日時

平成17年10月4日(火曜日) 14時~16時

2.場所

コンファレンススクエア サクセス(1階)

3.議題

  1. 地域の教育力の向上について ‐関係委員(大宮委員、土江委員、藤原委員、明石委員)からのプレゼンテーション‐
  2. その他

4.出席者

委員

 大日向委員長、大宮委員長代理、見城委員、佐藤委員、松下副分科会長、明石委員、興梠委員、土江委員、山岸委員、赤坂委員、笹井委員、杉山委員、中橋委員、藤野委員、藤原委員、山極委員

文部科学省

田中生涯学習政策局長、樋口政策評価審議官、中田大臣官房審議官、久保生涯学習総括官、大槻政策課長、吉田調査企画課長、桒原生涯学習推進課長、三浦社会教育課長、清水男女共同参画学習課長、小川参事官、佐藤生涯学習企画官、山本地域づくり支援室長、大山地域学習活動推進室長、早川家庭教育支援室長、萬谷民間教育事業振興室長 その他関係官

5.議事録

(1)大宮委員から「地域づくりは人づくり」をテーマにプレゼンテーションが行われた。

○ 大宮委員
 私の大学では地域政策学部を平成8年度に日本で初めてつくり、平成12年に修士課程、平成14年に地域づくり学科をつくり、来年度、地域振興・地域づくり全体を考える観光政策の学科をつくろうとしています。学部、大学院が一体となった地域再生に関係する人材養成を目標にしています。
 今、教育、研究、地域貢献という3本柱の中でどういう特徴を出すかを全国の国公私立の大学が模索しています。やっていない大学は、そのうち要らなくなると思います。
 例えば私どものところでは、研究では学会や大学院を立ち上げたり、教育ではGP、グッドプラクティスという、特色ある教育への補助金を獲得しにいったり、地域貢献では地域政策研究センターをつくったり、学生のまちづくりの「活性剤本舗」という空き店舗を利用した活動をしたり、地域と大学の「交流館」ということで先生方と学生と市民が一体化できる場所をつくったり、若者就職支援センターで学生や市民や教員が一体となった活動をしております。
 地域政策学科では、都市、農村、地域産業、国際、地域行政という地域問題を考える。多分、七、八十科目ぐらいあると思います。こちらは地域づくりで、地域開発、地域環境、地域福祉、地域文化、コミュニティー振興、これも六、七十科目は並んでいます。観光学科の新設を考えていますが、今観光政策に求められているのは、長期滞在志向への転換、顧客志向への転換、地域資源の活用、面として地域をどうするのかという勝負になってますので、そこを正面から捉えたいと考えています。
 今日話をするのは、「地域貢献と教育」というところの我々の取組で、特色ある教育支援プログラムとして平成15~17年に採択されているのですが、いろんなことをやっています。体験実習とか、地域連携講座とか、学生の社会活動参加、大学の中だけで学ぶ時代はもう終わっていて、理論と実践が常に融合した一体化した教育・研究環境をつくらないといい成果が出ないと我々は感じていまして、地域課題解決、生涯学習支援を大学もしっかりやる。それには、教員も社会に出て社会的な役割を果たして初めて様々な重要な仕事が地域社会から来るということで、4つの柱を持って取り組んでおります。
 インターンシップなども3年生全員で、1週間という短い期間ですが、7年目を迎えています。地域連携講座では、首長や地域リーダーを呼んで実践をそのまま学生にぶつける。野村證券とか日本政策投資銀行の窓口講座、寄附講座などもやっています。
 これは今年の「現代の地域づくり」の講座です。私が手伝いをした人にはみんな無理に講師を頼んでおります。こういう生の声をやっぱり学生に届けたい。そういう講座があっていいじゃないかと思って毎年工夫しております。
 学内で理論研究をしっかりやって、学外とも常に行き来する教育・研究システムをつくらないと、いい研究も教育も存在価値を示せないということで、卒論の論文集の要旨を出したりいろいろなことをやっています。先生がみんな外に出て走り回っています。
 私の授業で主なものを紹介しますけども、DNA、デザイン・ネットワークス・アソシエーションという、私のゼミを中心にして、5、6大学のNPOをつくっています。現在の会員、実質的には70名ぐらいいます。CAN WORK(キャンワーク)授業というのを大分前からやってきていまして、県の労働政策課と関連して、群馬県ゆかりの人に取材に行って、原稿を書いて、ウェブ上で県民に伝えるという授業です。150人ぐらいを取材しております。やはり一かどの人物というのは、若い人のためだったら結構会ってくれるんですね。この取材を集大成して、毎年1月23日前後にシンポジウムを開いています。全部学生の自主企画で、テーマ、やり方、分科会、全体会、予算・決算、全て学生がやっています。
 あとは大きな仕事として、ジョブカフェ事業をやっています。ニート・フリーター対策です。これも学生が毎日窓口アテンダントをやって、各種のイベントを企画、実施、運営、参加しております。自らも学び、支援する。学生が集まりやすいドロップインセンターをつくっております。フリーペーパー「GOOD JOB(グッドジョブ)」という結構中身のある情報誌を、学生が取材して作っております。
 この写真は、就農希望者を募って、15、6人くらい有機農法のところに就農体験をしております。一般的にジョブカフェといっても、いろんな企画をして、いろんなことを学んでいます。
 もう一つラジコム事業といって、学生が毎週30分間の番組をつくって放送している。7年目を迎えていますが、ラジオ放送をコミュニティーメディアを使ってやっております。3大学連携事業です。タイムスケジュールを自分たちでつくって、取材して、原稿を書いて、読み合わせをして、収録するという形です。ラジオゼミナール、これは先生方が毎週15分、7年間無料で市民に向けて放送しております。
 これは、学生による空き店舗を利用した中心市街地活性化事業で、平成11年度からの全国で初めてぐらいの実験で、5年間走り回って今どうするかを再検討中です。大学と地域の交流館という大きな施設を持って、ゼミ公開シンポジウムやゼミ公開ワークショップなどの企画をしております。
 栃木県上田市から、3年間、前期・後期で1回から8回までの講義をやってくれということで、我々の先生方が丸ごと関わって始めました。従来は1人の先生を一本釣りしていたのですが、学部が全部責任を持つ形が最近増えてきました。
 これが倉渕村という就農体験をやっている所ですが、村全体の活性化をやってくれということで、学部と村の人が連携をして、林業、農業、観光、大学全体との交流というテーマで、100万円ぐらいの予算ですが、もう何人行ったでしょうか、私も学生を連れて3泊4日ぐらいで出かけています。
 そういう意味では、地域力とか自治力の再生をどうするのか、地域のことは地域の住民がつくるという住民自治・団体自治の動きをどのようにしてサポートするのか、それが大学人としての課題だと思っております。
 今、非常に閉鎖的で、身勝手で、自己中心的で、他者との協調性を生み出さないような社会構造になっています。私がこれを仕掛けたのも、学生が社会に関わる場と機会を提供しよう、大人がそういう機会をたくさん提供することが今重要なときなのではないかと考えております。
 昨年度掛川市で文科省のお手伝いをしながら、「地域再生とコミュニティー」ということで、生活力、社会力、行政経営力を総合的に伸ばしながら地域力を伸ばすということも、お手元に資料がありますので、ご参照いただければと思います。
 あと高崎市で去年やったのが、32小学校区をもとにしたコミュニティー自治会。顔の見える範囲での人間関係の形成をやらないと教育力も地域力も伸びないという試みを、去年1年かけてやりました。顔の見える範囲での人間関係、地域のあり方をまじめにやらないと大変なことになるという問題意識を持っています。
 そのためには地域住民がみんな関わって、それぞれの役割を担わないとだめなのではないかということで、実践的な教育プログラムを開発し、創出し、地域づくりに当たることが重要ではないかと思います。

(2)土江委員から「人・もの・こととの出会い」をテーマにプレゼンテーションが行われた。

○ 土江委員
 今、島根県では86カ所の子どもの居場所づくりを進めておりますけども、そのうち40カ所を雲南市で取り組んでおります。まだ4カ月ですけれどもこの状況と、子どもの居場所づくりに期待するものについて、お話をしたいと思っております。
 私は、教育行政を進めるに当たりまして、「人・もの・こととの出会い」をどれだけ準備できるか、そうした教育条件をいかに整備するかを大きな課題としております。特に、学校だけではなく、家庭教育を原点にしながら、地域でどのように教育できるかを、今大きなテーマとして持っているところです。
 雲南市の状況ですけれども、人口が4万6,000人で、小・中学校あわせて32校ございます。公民館等生涯学習施設が29施設ということで、児童・生徒数が約3,750人、幼児が大体660人、高齢化率が28.3パーセントぐらいの中山間地域です。
 今なぜ居場所づくりなのかですけれども、教育を取り巻く子ども・大人に対する一般的な課題と、そして雲南市が持つ教育課題、特に不登校が多いこと、生活習慣の乱れ、乳幼児期からの食生活の問題がございまして、子どもの居場所づくりで地域の教育力を高めながら、最終的には家庭教育の向上を目指そうということで取り組んでおります。
 今年度、8つの重点プロジェクトを立ち上げました。その中で子どもの居場所づくりを位置付けています。大学との連携のもとに、現場の先生方、広範囲な市民の代表、良識ある様々な知識人も含めた中でお願いをしているところです。広く県の機関、警察、消防署、福祉事務所、大学等のネットワークの中で推進していく形をとっております。
 子どもの居場所づくりを総合的な学習の時間と並んで、教育改革の大きな2つの目玉の一つと位置付けております。総合的な学習の時間の成果としては、学校が地域に目を向けるようになった、教師自身の意識改革が図られている、そうしたことから開かれた学校づくり、学校の教育力の向上が図られている。一方、子どもの居場所づくりは、地域・家庭が学校に目を向ける、保護者・地域の住民が子どもを介して意識改革をしていく、そして開かれた地域づくりにつながる。
 子どもの生きる力をはぐくむためには、家庭、学校、地域、行政がそれぞれ教育力をつけなければならないし、その機能を発揮しないといけないと考えておりまして、そのためには学社連携・融合を深めていくことが不可欠という観点に立って子どもの居場所づくりを進めておりますし、地域、家庭の教育力へつながっていけばと捉えております。
 居場所づくりの事業の捉え方ですけれども、単なる放課後の安全な場所を確保するための装置ではなく、子どもたちが安全に楽しく過ごせる仕掛けづくりということです。これまでにも地域で公民館を通して様々な活動がなされていますが、この事業で財源的な措置をしたということでは、単なる公民館活動に終わってしまうので、そうではなく、また放課後児童クラブや単なる預かりではないという視点が大事と思っています。
 そこで、事業の開始に当たって、学校と家庭と地域にそれぞれお願いしました。まず学校には、校長に予算を持たせ、自由な裁量権を与える。そして、校長が、どんな課題があって、どんな子どもたちをどう育てていきたいのか、そのために地域や家庭に何を支援していただきたいのか明確なビジョンを打ち出す。家庭においては、ただお任せではなく、土曜日、日曜日はスタッフとして参加して、我が子の姿も見る。地域においては、お互いに顔見知りになって日常的に声をかけ、いいこと悪いことをはっきり指導していくような地域づくりをぜひお願いしたいということです。
 今、居場所は小中学校32校全てで、そして、不登校の子どもたちの居場所が合併前の6町村のうち5町村で立ち上がっています。立ち上げまでには小・中、公民館、あるいはPTAの役員会等々に私どもが出かけてしっかりとした方針を述べ、そうした中から、校区型、不登校対応は広域型といった形でそれぞれスタートしたところです。
 それから、学校組織に地域連携部を設置することを義務づけております。居場所等について情報収集、発信していく地域連携部を教員組織の中に義務づけるということです。
 先ほど申しましたように、まだ4カ月です。十分まだ取組をしておりませんけれども、それぞれスタッフの確保とか、活動内容等、熱心に、それぞれの箇所で実行委員会をつくって立ち上がったところでございます。
 自由な遊びも重要視していますけれども、時には、やはり目的を持ったプログラムを行っておりまして、この写真は、全てプログラムにのっとって活動している様子です。
 参加している子ども自身の様子を家庭や大人の皆さんからアンケートした結果ですけども、子どもがたくましくなってきたとか、あいさつが今まで以上にできるようになったとか、子どもの安定感が見られるようになったとか、この事業の目的であります異年齢の交流とかも、現在のところ順調に進んでいる状況です。
 地域がどのように変わってきたのかですけれども、大人自身の楽しみの場となっている、地域の子どもを見守ろうとする姿勢が生まれてきた、子どものことを考え本気で語り合う場ができた、子どもに対する関心が高まった、遊び場や遊ぶ友だちがいない地域の子どもたちの受け皿づくりができている、こうした感想が寄せられております。
 過疎地・山間地域だと家へ帰っても遊ぶ友だちもいない、施設も非常に少ないという状況なので、どうしても子どもたちの生活はメディア漬けになるわけですが、これは実施前の2月と実施後にノーテレビDAYを設けた試みですけれども、非常にメディアとの接触時間が少なくなって、逆に、外遊びとか家族のふれあい等々が増えてきたという成果が上がっております。
 今後の課題ですけれども、スタッフの確保、スタッフの研修、セキュリティーの問題等々ございますが、地域の皆さんの関心事は組織づくりとか、今後この事業が終わったときの予算確保がどうなるかということも寄せられているところです。
 居場所づくりには、地域が家庭を包含して、地域の中で家庭教育の向上を図ろうというねらいを持っております。今、家庭教育に関する研修に出てほしい人がなかなか参加しない現状がありますけれども、子どもを一つの媒体として、子どもについて語りながら、地域の中でコミュニケーションを図っていくことが一番大切かと思います。
 そうした子どもの育ちの中で、お互いの信頼関係とか感謝の気持ちが芽生えたり、保護者の意識改革につながっていく。一方、地域の皆さんにとっては、子どもの変化とか保護者の変化、自信とか、喜び、充実感、生きがいなどが地域の意識改革になるということも感じております。
 「生涯学習の推進」がこの事業の最終的なねらいと考えているわけですが、生涯学習社会を生きる子どもたちは、やはり生きる力、学ぶ意欲が必要で、そのためには、家庭、学校、地域社会、行政がしっかりと教育力をつけないといけない。また、それをつけること自体が、教員、保護者、地域の大人、そして行政に関わる者の生涯学習であるとも考えております。
 この居場所によって、子どもが基本的な生活習慣、規範意識、学習意欲、こうした学びの基礎を学ぶ。そして、これは総合的な学習の時間の基礎になるとも考えておりまして、こうした2つの学びによって大きな相乗効果が期待できるとも考えております。
 それから、学校に地域連携部、地域に居場所づくり実行委員会、これらを窓口としてさらに学社融合を深めていく。その強いリーダーシップのために地域教育コーディネーターが現在島根県に24名、雲南市に3名いますが、さらに、今一番の課題としては学校教育コーディネーター、仮称ですけれども、ぜひとも必要かと考えております。
 「今後の「子どもの居場所づくり」へ望むこと」ということで、一つは、幼児の参加をぜひ取り組んでいけたらと思いますし、ぜひお願いしたいことでもございます。それから、生涯教育教諭。今まで私も十数年、学社連携・融合に取り組んできましたけれども、一向に進まない。県からのコーディネーターは派遣されていますが、行政サイドなのでどうしてもまだ学校に浸透していないし、学校の先生方の生涯学習に対する意識がまだ低い中では、やはり学校の中にこうした先生がいることによって随分意識が高まる、また栄養教諭との連携によって相乗効果が期待できると考えています。
 そして最後に、居場所づくりの拠点として今7つの中学校がありますけれども、この拠点校に教育行政のバリバリの職員をぜひ配置したい。やはり行政と学校教育が一体となる、そして、支援しているということを形で示せばさらに学社連携も進みますし、教員の地域への帰属意識の向上にもつながるのではないか、今コミュニティースクールが叫ばれていますけども、学校の意識改革にもつながっていくということで、これはできるかどうかわかりませんが、ぜひとも市長と相談しようと思っております。

(3)藤原委員から「よのなか科と地域本部の機能」をテーマにプレゼンテーションが行われた。

○ 藤原委員
 中学校を拠点にしていかに地域社会を再生・再構築するかという可能性について、私が実証的にやっていることを、これからプレゼンしてみたいと思います。
 その前に、初回にも述べましたけれども、私、5年前に教育の世界に入って非常に驚いたことがあります。それは、教育の世界では地域という言葉が非常に安易に使われているという事実です。私の観察によりますと、私の住んでいる杉並区永福町を含めて、地域社会というのはほとんど壊滅していますし、そこにはAさんBさんという人はいますけども、地域というものがわずかに成立しているところがあるとすれば、多分、商店街の非常に強いところではないかと思います。これは東京だけではなく、地方都市は同じ状況です。したがって、ないものを地域と呼んで、それに対して何かをしようとするというのは、あたかも、いない人に資生堂がシャンプーを出したり、サントリーがお酒を出したり、トヨタが車を発売するようなもので、売れるわけはないと思うんです。このことをもう少しこの委員会の土台のところに持ってこないと、ものすごく間違ったところに議論が持っていかれてしまうことを一言注意しておきたいと思っております。
 私の学校は、和田という杉並区の東の外れですが、ここでももちろん町会はあって町会長はおります。七十数歳です。そういう状態なんです。ぜひその認識を深めていただいて、私の話を聞いていただきたいと思います。
 私がやっております方法は、したがって、学校を開いて外の地域に何か期待しても、エネルギーが学校に入ってくることはないという前提から入っています。どうしても学校の中に地域社会を構成し、子どもたちを豊かな、斜めの関係と私は呼んでいますけども、おじさん、おばさん、お兄さん、お姉さんと触れ合わせたい。そのために地域本部というものを学校の中につくって、そこに100人のボランティアをネットワークして、機動的に動かしていく。学校の中に地域社会を構成しているわけです。
 学校の中にいろんな人を引き込むには魅力が必要です。面白くなければ人は集いません。そこで私がやっておりますのは、校長が直接教壇に立つ「よのなか科」という教科です。これは一言で言いますと、成熟社会を生きる大人には絶対必要な技術なのですが、残念ながら学校教育では教えられていない、そういうものです。
 学校教育では大体9割方、正解もしくは正解の出し方を教えますが、成熟社会では9割方の問題には唯一の正解はありません。では、唯一の正解のないものに対してどのようにアプローチしていけば、他人の利害と自分の利害を突き合わせて、あるルールの中で、参加している全員が納得する「納得解」が見つけられるのかという技術を、大体週に1度、年間で25回から35回、3年生の総合的な学習の時間でやっております。
 それを全て公開授業にして地域に開放しましたので、保護者、小学校6年生の保護者、地域に住んでいる人、教育に関心の深い関係者、近くに住んでいる学生で教師になりたい人たちが寄ってくるようになりました。今、50人の生徒に対して同じぐらいの大人が入って、100人で学んでいます。
 「よのなか科」というイメージをつかんでいただくために、今日は軽い資料を用意しました。地図があると思います。これが、「よのなか科」の第1回に必ずやる授業で、ハンバーガー屋さんの店長になってみようという授業です。
 この地図で、例えばどこに出店すると儲かる店になるかというようなことを討議していくのです。で、自分たちで考える、グループディスカッションをする、それをプレゼンする、大人がいる場合は大人にもグループをつくらせてプレゼンさせる。子どもたちと大人とで明らかな差はつきません。誰でも迷ってしまうような問題を地域の大人と一緒に考えるということです。
 その横に、10月以降の「よのなか科」の予定を書いてあります。明日から3回は少年法を学ぶ。明日はバルガー事件を題材に、殺人事件を犯した10歳の少年をどう裁くかを学びます。その後、少年法の模擬法廷を2回、弁護士をゲストに呼んでやりますけれども、こういうことをやらないで、なぜ4年後から裁判員制度がスタートできるのか、私は非常に不思議です。学校で教えませんし、地域の方々も、大人も教えられていません。ですから学びたいんです。こういうことをやると大人たちが喜んで来るんです。自分が習っていなかった成熟社会を生きるのに必ず必要な知識、技術を与えてくれた。じゃあ恩返ししようとなって、地域本部へのネットワークが始まるわけです。
 裏側をめくっていただきますと、左側はどこの学校でもある職員室の組織です。しかし和田中学校では、右にあるような地域本部という裏の組織がございます。事務局長の伊藤明子さんは元PTA会長で、お子さんが和田中を卒業したタイミングで私がつかまえました。この事務局で諸活動、通常は教員が兼務しながら必死にやる業務なんですが、それを100人のボランティアを機動的にネットワークしてやっております。
 一番盛んなのが土曜日学校で、うちでは「土曜寺子屋」と言っておりますが、年間35日の土曜日のうち30日開校しております。ここに学生のボランティアが来ています。
 その人たちに、1日何時間働いても2,200円という区の予算をさらに私は1,100円として細かく分けまして、近くの人は交通費程度という名目で1,100円というように細かく運用しております。
 こういうネットワークができますと、例えば夏休みに図書室を3週間開けて、子どもたちに勉強させることもできるようになります。そこで英語の教室、数学の教室をできるようになります。それから図書室を大きく改造して、カーペットを敷いて、千冊ぐらいのコミックもあるコーナーにしまして、子どもたちの居場所をつくっております。図書室が非常に活性化したことで、和田中では保健室の利用が半減しました。居場所が増えると、子どもたちの総合的なストレスレベルが下がるんですね。この予算は、文科省の居場所づくり事業の予算を使わせていただいております。
 さらには、先生たちが非常に不得意なコンピューターを貸し出すというような動きや、あるいは5千坪もある敷地、今大体、学校では用務主事は1人になっていますが、1人では管理できませんので、近くのおじいちゃん、おばあちゃんが、例えば毎週水曜・土曜に芝刈りして、その後に体操して帰る。その体操は8時から8時半までにしていただいているので、子どもたちが登校すると、あいさつ運動が自然に始まるわけです。
 こんな形で学校の中に地域社会を再構成して、ルールとその運用とか、正解が一つでないときにどのように知恵を寄せたら納得解が出てくるかを自然に学ばせようとしているのが和田中の姿です。「なぜそんなことを学校の中で」「そんなことは自然に放っておけば大人になれる」と皆さん思うかもしれません。残念ながら、地域社会が崩壊している現在では、とても社会性ははぐくまれないんです。学校の中にそうした斜めの関係をつくっていかないと、いわゆる子どもが大人になるための通過儀礼が学ばれずに20歳ぐらいまでいってしまいます。皆さんは、おそらく自然に育って自然に大人になったんです。なぜなら地域社会があったからだと思います。今の子は、自然にしていたら大人になれないんです。地域社会が通過儀礼をしてくれないからです。
 以上で前半のプレゼンを終わりまして、和田中の様子を少しビデオで見ていただいて、それで私のプレゼンを閉じたいと思います。

(ビデオ上映)

 これは付加価値というものを学ばせる授業です。「よのなか科」の、5、6回目で出てくる授業です。付加価値をゴムから学ばせる授業。これは風船でものすごい付加価値を生んでいるベンチャー企業の社長さんです。ゲストで呼びました。皆さんが地域に住む大人だったらこの授業を受けたいかどうかという視点で見てください。お金を払って受けたいかどうかですね。大人がまざり込んでいるのがわかると思います。「おおーっ」と言っていますね。これが教育的瞬間です。絶対忘れない、この瞬間のことは。
 「土曜寺子屋」の様子が映ります。学生ボランティアたちが、朝のミーティングをしています。大体7人から12人ぐらいです。3、40人来る子どもたちの面倒を見ます。地域本部の構成メンバーは、少し従来の地域とは違ってきます。付近に住んでいる学生だったり、この方はPTAのOGです。それから、普段はPTA活動に来られないお父さん。これは行政マンです。授業をやっているのではなくて、自分たちが宿題を持ってきたりする。塾の宿題でも学校の宿題でもいいんです。

(ビデオ上映終了)

 というようなわけで、地域本部を学校内に置きまして、その構成員は従来型の地域とは少し違う。PTAのOG、OB、特にOGです。お父さんはPTAの会議には出ませんが、例えば「コンピューターを手伝ってほしい」「芝刈りしませんか」と言えば出てきます。
 そんなことをやりながら、何々ができるAさん、何々ができるBさん、こういうことができるCさんというのを、どうやってネットワークするかを日々考えているわけです。

(4)明石委員から「地域の教育力向上のための課題と方向性」をテーマにプレゼンテーションが行われた。

○ 明石委員
 持ち時間の10分で私の発表をさせていただきます。あと3分をいただきまして、3名の先生方の発表に対するコメントをさせていただきます。
 大きく3つの固まりがありまして、1番目が、子どもを取り巻く社会・地域の変化で、シングルマザー、シングルファーザーが増えてきています。平成12年度の国勢調査で100万世帯あったのが、多分今年の国勢調査では130万になるでしょう。平均年収が約220万円の家庭が多いんです。そうすると、体験不足のお子さんが出てまいります。親の経済的な違いから、学力だけでなくて体験量が変わってくることをまず押さえたい。また、共稼ぎ家庭が7割を超えている。いわゆる留守家庭の子どもが増えつつあるということを押さえたい。
 2番目が、子ども社会から見ると放課後の世界が消えてきました。子どもたち独自の価値規範、文化規範、子ども文化が消えてしまったという非常にゆゆしき問題で、子どもの居場所が家庭内の自分のコーナー、部屋になりつつあります。その結果、生きる力の基礎・基本となる食べっぷり、遊びっぷり、つき合いっぷりが低下しているのが子どもの問題点です。
 3番目が、子どもから見ると、第3の大人が消えたんです。第1の大人というのはお父さん、お母さん、第2の大人というのが学校の先生か少年野球の監督、第3の大人というのが、地域のおじさん、おばさんです。例外がありますけども、第1、第2の大人というのは、子どもを非常に温かく支援します。第3の大人というのは、半分ぐらいが子どもを助け、半分ぐらいは子どもを、ある意味ではきつく言うんです。これが、私が言う世間です。この第3の大人がいたから世間ができたんです。残念ながら、ここ30年間、そういう世間、地域が消えてしまったということを押さえたい。
 では、具体的にどういうことを地域でやっているかと申しますと、通学合宿、小学4~6年生あたりが、1週間程度、集団宿泊しながら、衣・食・住のことを自分たちでやって学校に通う。全国で約300近くやっている。これが一つの可能性。
 2番目が、雑居福祉村「子育て長屋船橋」。NPO法人ニュースタートが船橋の施設を借りながら、1階が子どもで、2階がおじいちゃん、おばあちゃんで、3階が駄菓子屋とか、ある空間にいろんな方が住んで「ゆるやかな大家族」をつくっていく。長屋が一つの小さなコミュニティーになりつつあるのが雑居福祉村の構想かと思います。
 3番目が、木更津でやっている学校支援ボランティア。小・中学校31校で、地域の方がボランティアを始めるんですけども、8年前は200名だったのが、今2,000名に増えました。学校支援ボランティア担当教員を校務分掌で設けると動くんです。学校組織にうまく組み入れて成功している例かと思います。
 4番目が、今日、私、トランプを持ってまいりましたが、子どもたちの素朴な疑問・質問に答えていこうという市民運動、国民運動を起こしてたいと思っています。私を含めた「団塊の世代」は、ほとんど子どもの質問にまじめに答えていない。何とかなると思ったんです。確かに30年前は家庭が駄目でも、地域や親戚のおじさん、おばさんが答えてくれたんですが、この30年間、非常におかしな社会になりつつある。こういう素朴な疑問には正解がありませんけれども、正直に答える、正対するということが子どもにわかれば、だんだん子どもは成長していく。おかげさまで評判よくて、今年はタイとドイツを調査に入れました。ゆくゆくはアフリカ、アラブ、ブラジルのラテン系ではどう答えているか参考にしながら運動がつくれないかと思っております。
 5番目が、居場所づくり。雲南市の非常にいい事例がありましたけども、何とか放課後の世界を豊かにしていきたい。
 それなら具体的に今後何をすればいいかというと、やはり子どもの体験量の格差をいかに是正させる施策を打ち出すか。これはある意味では社会改革です。今これだけ格差が広がってくると、是正するための施策、居場所づくりの恒常化・常設化とかを文部科学省あたりから出して行かざるを得ないでしょう。私としては、公立中学校は月曜日から金曜日までは全寮制で、土・日は家庭保育。やはり月から金までの生活リズムをつくってあげないと、中学生の生活なんて本当にバラバラになってきております。
 2番目が、先ほどの国民運動。例えば、トランプづくりとか、早寝運動。これは一番難しくて、地域社会がないとできません。これを生徒会・児童会でディスカッションしてもらって、どこまでできるかできないかをやる。早く寝れば早く起きますから、それで朝御飯をみっちり食べるんです。そういう運動はできないかと思っています。
 4番目が、第3の大人づくり。低学年では交換ホームステイ。気の合ったお父さん、お母さんが1週間子どもを交換するんですから、お金はかかりません。学校支援ボランティアとか雑居福祉村だって、意図的に第3の大人と触れ合う場所を提供していくということです。
 今日言いたいのは、5番目です。子どもの成長に見合う地域の教育力の向上の施策をそろそろ考えようということです。幼児や小学校低学年は、交換ホームステイでおじさん、おばさんを知ってほしい。3年生から6学年は、「通学合宿」で遊びと仲間づくりを知ってほしい。中学生は全寮制で生活リズムを確立していくという、何かそういうコンセプトが欲しい。高校生は、職場のインターンシップとボランティア活動の参加とか、成長過程に見合った施策を出して行かざるを得ないと思っております。
 私の発表の前に非常にいい発表を聞かせていただきましたが、それらを3つのキーワードにまとめさせていただきました。
 1つは、高崎経済大学と雲南市で大学と地域のパートナーシップの話がありましたが、法人化してやっと初めて大学が地域貢献を本気でやり始めました。今日の高崎経済大学の発表をお聞きして、やっているなと思ったのは、学生でなくて先生方。大学人は口では参加しますけどもなかなか参加しない。だから、大学と地域のパートナーシップを本気でやっているというのが1点。
 2点目は、学校の中に世間や地域を取り込んできている。雲南市も杉並区もそうですけども、学校を一つの文化の拠点校にできる。学校の先生は要らないんです。先生は全体像が見えていて、中身は地域のボランティアがやっている。だから、校務分掌上の先生が1名だけ全体を理解しておればいいんです。これは非常に面白いなと思いました。
 3つ目がソフトの開発。やはりソフトが駄目な場合は子どもは去っていきます。居場所づくりをやったらわかりますけども、小学校1、2年生まではよく来ます。問題は3年生の後期から。塾とテレビと漫画とテレビゲームに負けないソフト開発をしないと、放課後の世界は絵に描いた餅です。そのためにはスタッフの育成です。横浜市は居場所づくりで8週間かけてスタッフの育成をやってます。普通は3泊4日です。本気でやる場合は、スタッフの育成を4週間、8週間ぐらいの期間でやらないとうまくいきません。

(5)4名の委員のプレゼンテーションを受けて、意見交換が行われた。

○ 笹井委員
 お話を聞いていまして、「地域」というキーワードが出てくるわけですが、地域という概念ほど建前論化しているものはないんじゃないかと思って聞いていたんです。それで、教育とか、文化とか、生涯学習とか、いわゆる教育行政がアプローチする際に、「地域がつくられる」というのはどういう結果を招くのかというのかということを、4人のそれぞれのお立場からお答えいただければありがたいと思いました。

○ 明石委員
 地域とはどういうイメージかと申しますと、古い世代は、半鐘が聞こえる範囲が地域なんです。お葬式と火事を共同体で支えるのが地域です。農村社会では、戸数で言いますと200戸から250戸。都市部で言いますと、やはり小学校区あたり。お互いに名前を知っている、知られている。これが地域。
 一番困っているのは、「学級の中で名前と顔が一致しない人がいますか、いませんか」と聞きますと、「名前と顔が一致しない方がいる」という人が、15パーセントいるんです。「身内」と「世間」と「赤の他人」と分けたときに、赤の他人化が学級の中でも一部に始まってきているんです。ですから、世間を「地域」と言って、名前と顔が一致している人をつくっていくのが「地域づくり」だというのが私の見解です。

○ 大宮委員長代理
 地域をどう捉えるかというのは、地域政策学部をつくったときに、全員の先生がものすごく議論をしました。そのときの結論としては、地域とはどういう捉え方もできる。歩いてすぐ関われるような地縁の部分を地域と呼んでもいいし、町村や市ぐらいのも一つの地域として捉える。ただ、一般的に「地域社会」と言った場合は、小学校ぐらいを母体にしたものを「地域社会」と言えるだろう。
 この地域社会が崩壊しつつあるということは間違いないと思います。ただ、地域によっては非常に濃密に残っていて、それが現実の生活と合わなくなって、もう伝承し切れないような濃密な人間関係が残っているところもある。新しい時代に合った形で人間関係をつくり直すことが地域社会の再構築の課題だと思っております。
 もう一つ先に行くと、地方分権というのは、やっぱり住んでいる人たちが課題を自分たちで解決するという住民自治が実現して初めて可能になるので、その転換が課題ですが、これがなかなか難しいというのも常に感じております。

○ 土江委員
 地域の概念とは、やはり私も小学校区域、顔の見える範囲内、声の届く人間関係的なものという概念を持っていますけれども、地方でもまだまだその地域のよさは残っておるし、そうしたものをどうこれから地域づくりに反映していくのか、そのための人づくりというようなものを非常にイメージするわけで、人間関係、コミュニケーションというようなものが地域には不可欠ではなかろうかとも考えております。

○ 藤原委員
 私は今の質問を、どういうときにバーチャルである地域がリアリティーを持つかという質問だと受け止めましたが、社会的な実態、政治的な実態、経済的な実態があると思います。社会的には、大震災が起こったときにそこに集まる人、実は杉並区では今年から小学校だけでなくて中学校も震災救援所立ち上げの場所になったものですから、小・中あわせて67校が全て震災救援所を立ち上げるんです。このときに避難してくる人という実態があると思います。したがって、地域本部の事務局が、本来町会がやるべき災害の救援所の立ち上げの連絡係を引き受けました。そのことで、ネットワークの核ということを意識しているわけです。
 2つ目は、政治的な実態というのが本当はあるんです。昔は、PTAを舞台に区議会に打って出るというのがあったわけで、今そこまで露骨なことは行われないですが、そういうことをうまく使う議員さんは、中学を舞台に、私とは全然違う方法でスポーツ文化クラブを立ち上げて、独自に学校の敷地の中にクラブハウスを建てるぐらいのことをやっている方がいます。ただ、学校の経営とは全然別々になっています。
  3つ目は、学校に貢献することは経済的に割が合うということです。和田中は、私が来た年の前は44人しか新入生がいなくて、ほとんど統廃合の対象校だったんですが、今年の新入生は倍の88人、来年さらに倍になりそうです。これがどういうことになるかといいますと、実際に住民移動が起こるんです。するとアパートの家賃が上がります、あるいは下げ止まります。その学校の評判がいいと地価を上げるんです。つまり地域の方々は学校に協力して、芝刈りしたり、授業を豊かにすることでその学校の価値を上げ、そのことが地域の価値を上げるんです。実際に計測したことはありませんが、経済的にも実態があると思います。本当は誰か研究者に研究してもらいたいんですけども。

○ 杉山委員
 少子高齢化とよく言われるようになってきて、私も年金制度や子どもの問題を考えざるを得ない機会があります。肝心なのは、どうしても高齢者に国のお金が行ってしまっていて、子どもになかなかお金がかけられない現状がある。結局、今の私たち親世代とか、これから将来を担う子どもたち世代の負担がどんどん増えていくのではないかという非常な不安感、危機感を感じているわけです。
 その中で、国や行政のお金を子どもにできるだけかけてほしいと声を上げているんですけれども、そういったときに、例えば子どもの居場所づくりの事業にしても来年で多分終わると思うんですけれども、現場で実際におやりになっている中で、できるだけ財源を注ぎたいところはどういうところなのか。地域の教育力をアップするためにはここなんだというポイントがありましたら、ぜひ教えていただければと思います。

○ 土江委員
 居場所づくりの関係ですけれども、私どももこれを立ち上げるときに、2年後にそれだけの予算が確保できるかということで、特に議会とか市民懇談会では常にそういう質問が必ず出るんです。私いつも思うんですけど、この十数年間やってきて、補助金がなくなって、それで断ち切れたことは今まで1回もないんです。
 ですから、居場所づくりはここ2年間の実績づくりが勝負で、ここでしっかりとした、全市民が納得いくような事業に転換していく。そして、子どもも大人も家庭も、2年間で何らかの変化が現れたなと思えば、もし国の補助金が切れても、市単独でやるとか、それだけの強いものをやっぱり持ちたいと思います。
 今一番の成果は、本当に誰もが「居場所、居場所」と言い出したんです。ある高齢者学級では、普通30人ぐらいしか出られないんですけども、「居場所について説明する」と言ったら150人ぐらい参加があったんです。それだけでもまず所期の目的は果たせるということで、やはり実績をしっかりつくることが大切かと思います。

○ 明石委員
 群馬県の太田市が、この4月から7月までに人口が800名増えているんです。まだ分析しておりませんけども、やはり「小学校で英語をやる」と言い出すと、いろんな方が住民移動を起こしつつあるというのが1点。
 2点目は、千葉の幕張メッセのところに新しい町をつくって、打瀬小学校、中学校というオープンスクールをつくりました。そこのマンションの値段と千葉市の中央区のマンション、広さは一緒ですが、打瀬のほうが500万円高いんです。これからの35歳前後の若い層は、教育環境と住環境をメインにしたまちづくりをイメージしつつあって、千葉市の中心よりも、少し郊外の洒落た雰囲気の方に移動していく層になりつつあるということは、やはり念頭に置かなきゃいけない。
 年収350万円以下の家庭と年収800万円以上の家庭に、両極端にシフトをし始めた。公立中学校が全寮制であれば、15歳までは食生活に差がつきにくい構造ができるんです。そういう意味では、行政が学校システムの中に二重構造ができるのを防ぐ努力が必要かと思います。
 居場所づくりは来年で補助金が切られます。文科省にお願いしたいのは、子どもゆめ基金を当初の200億円構想ぐらいに持っていって、あの中でいろんなコンテストやプレゼンをやって配分していく方向にしないと。結局、補助金が切られると全体の半分以上は衰退していくので、「ゆめ基金がありますよ」「そこに手を挙げてください」とやっていただけるといいかと思います。

○ 大宮委員長代理
 個人化し、個別化し、本当にシングルマザーも増えています。学童保育などで非常に有効なのは、片親家庭を集団で3、40人集めて、放課後、お互いに集団体験をするというようなことを、機能として予定外に果たしていて、そういう集団体験、集団の教育力をもう一度見直したほうがいいと思います。
 親がまじめに育てれば人間的にいい人材が育つんじゃなくて、多様な大人と多様な異年齢の子どもたちとの相互刺激が様々な能力を開発する、それが地域社会の教育力だと思うのですが、そういう部分をもう一度真剣に考えなくてはならないと感じています。
 そうしますと、多様な人が集まる仕組みを、学校の中につくったり、大学が主導して地域社会の中につくったり、あるいは居場所という形で文科省の一つの方向性の中で教育委員会と大学が連携してつくったり、いろんな仕組みでつくっていくといい。
 補助金の問題で言えば、私の取組にはほとんど補助金はもらわないで、学生が多様な人と出会うことによって急速に人間性を開花するものですから、面白くてやっていて、後で使うのが面倒臭いぐらい補助金が来る。人間が育ち合うようなソフトをつくっていけば、補助金が来るときもあるし、来なくても十分やれると感じています。

○ 藤原委員
 和田中の地域本部は1年で一体幾ら使ったかというと、居場所事業のお金と杉並区の学校サポーター制等を組み合わせて大体500万円です。まず毎日3時から5時まで図書室を開けて、そこに司書がわりのPTAのOGが2人来る。それからコンピューター200台を希望者に貸し出しています。土曜日は35週のうち30日、夏休み3週間、冬休み1週間開ける。また緑化、芝刈り等々、それから吹奏楽、剣道、テニス等々にコーチを派遣しています。それら全てが500万円ぐらいでできます。
 杉並区だと23校あるので約1億円になります。1校の総運営費が、和田中の場合は2億円、1つの中学校で大体2億円から3億円です。これから時間をかけて中学校を統廃合していく中で、2億円というのは先生たちの人件費も入りますけども、捻出できる額だと思うんです。学校にきちっと配当して、1,100円でいい人、2,200円の人、5,000円の人と非常に細かいマネジメントをすれば、僕はそれぐらいで運用できると思います。それぐらいで、これだけ豊かなことができるということです。和田中はモデル校でも特区でもないんです。普通に法律を守りながら、これぐらいのことはできる。
 もう一つ大事なのは、やはり校長のマネジメント力です。あの「よのなか科」の30回のカリキュラムは全部ワークシートができているんです。これを本にまとめて、しかもワークシートも縮小して付けて、コピーしていいことにしてあるんです。ところが、真似がほとんど起こりません。杉並区内でも23校のうち2校だけです。なぜかというと、真似しなくても給料は下がらないからなんです。
 そういう意味で、1自治体に1人、公立の小中学校の10パーセント、3千校に民間人校長を導入した方がいいんじゃないか。といっても56歳ぐらいで疲れて出てきて4年間無事に真っ当にというのでは駄目で、もっと若い元気な人です。そういう人たちをリクルートするには、今の校長の年収ではきっと無理でしょうから、校長をもう少しきちっと処遇したほうがいいと思います。そうでないと、今の教師上がりの校長先生には、地域の大人の能力をかぎ分けて、それを組み合わせて使うというマネジメントはなかなかできにくいと思います。営業所長だったり、支店長だったり、工場長などを経験している人が地域対策をやっていますから、そういう大人であれば十分できると思います。

○ 大日向委員長
 藤原委員は、「もう地域はないんだ」ということで、学校の中に地域をつくられてもう5年たった。そこで育っている子どもたちは、大震災が起きたときに集まれるような、そういう地域づくりに出ていって活躍する見込みがあるんでしょうけれども、卒業生たちが学校の中のバーチャルな地域から出ていって、どのように地域をつくっていくことを目標としてやっていらっしゃるんでしょうか。

○ 藤原委員
 そこまで立派なことはしていないと思いますけれども、僕は、学校が好きだというのは愛国心の要だと思っていまして、国を好きになるには、まず学校を好きにならなきゃ駄目だと思っているんです。そこの基本はクリアしていると思います。
 それから、震災救援所の立ち上げ訓練というのがあったんですが、うちだけ2回、7月、9月とやったんです。2回目は生徒を参加させまして、ほかの学校は、みんな避難させろと言ったんですが、僕は中学生は救助する方だろうということで、すぐに地域の病院に駆けつけて訓練を行ったりしています。そういうことの積み重ねだと思います。ただ、実際に起こったときにそれだけ立派な行動ができるかは保障できません。信じてやっているだけです。教育というのはそういうものだと思います。

○ 佐藤委員
 本当にここに来てほしい子はなかなか来なくて、どうやって来させるかという問題は、大人の居場所でも子どもの居場所でもあると思います。そのときに、学校とかみんなが来るような所に居場所をつくるのがいいのか、それとも外の場所に特別につくる方がいいのかは、これから議論しないといけないと思います。
 また、そこに参加する大人が、どのようにそこで活性化されるかが大きなテーマで、子どもが自分の言うことを聞いてくれたり、元気になるということで参加するというようなことは今までもあったと思うんですけど、これからの人たちはそういう次元では満足しないんじゃないかと思っています。その活動をやることが自分にとって意味があるという状況にどうつなげていくかがすごく大きなテーマで、そこがないと長続きしないと思います。
 卒業したOBがわざわざそこに残ってやるという、その人にとってのメリットや意味は何かというのも、これは藤原委員さんに教えていただきたいと思います。
 「よのなか科」はカリキュラムもできていて、もっとみんながやっているんだろうと実は思っていたのですが、そうではないのですね。校長でなくても、教師の立場でできないのだろうかというのも少し気になりました。
 もう一つ、「ドテラ」というのが、いわゆる総合学習的なことでなく、勉強をやっているのが面白いと感じました。学校の中で一番大事な勉強がこういう活動の中で案外抜け落ちているんじゃないかということも感じていたのですが、そういうこともきっちり組み込んでいるのは素晴しい。教育とは別の次元で居場所を考えるんじゃなくて、もう少し教育そのものと近づけて考えられる余地があるのではないかと感じました。

○ 明石委員
 学校というのは非常に資産価値があるけれども、クローズになりがちです。地域で一番いいのは公民館ですけども、今ほとんどお母さんとおじいちゃん、おばあちゃんに占拠されていて困っているんです。それで、千葉市あたりは発想を変えて、月から金までは大人が使っていいですよ、土曜日曜は子どもに開放しましょう、その代わり、土日は学校を公民館にしましょうと、こういう発想を今後やっていかないといけない。
 子どもたちが公民館で地域を体験するというバーチャルも大事だけども、やはり自分の地域で遊んで歩き回ってみると、「ああ、地域というのは面白いな」という発見がありますよね。そういう意味で、非常に藤原委員のところも面白いし、ソフト開発がいい。その地域本部をPTAの元会長さんがやっているのがいいんです。これが500万円でできるんだから、こんな安いものはありません。
 なぜ教師たちが真似しないかというと、メンツがあるんですよね。それで、例えば横浜の中田市長が34歳の校長さんを抜擢し、千葉大も今年からスクールリーダー養成大学院をつくりました。私の目標は、29歳の校長さんを抜てきしたいんです。教員でも社会人でもいい、20代の柔軟な発想を持った方を抜てきする。新しい発想で学校づくり、まちづくりをやっていくのを支援していただけるといいと思っております。

○ 大宮委員長代理
 高崎市は32小学校区があって、全部公民館が1つずつあるので、一昨年ぐらいから32公民館を一つの拠点にして地域社会を再生できないかと様々な試みをやっています。大人が今個人化する社会で、子どもが小学校に通って初めて地域に目を向ける。大人同士がコミュニケーションをとらないと子ども同士が話し合わないということが現実に起きてきますので、大人が地域社会への関心を持つことが大切です。高崎は町内会組織がかなりしっかりしていて、防犯パトロールをずっとやって犯罪率などが大分低下しています。いろいろ問題を含みながらも、小学校区を一つの拠点にして、地域に愛着を持つ様々な活動をやり始めています。
 そういうエリアを拠点化する活動をしっかりやりながらも、エリアと関係なしに自由なテーマで活力を持って活動するNPOがどんどん噴出しないと、どうやらうまくいかない。エリアをテーマとした活動と、自由なテーマでエリアを無関係に、柔軟に縦横無尽に動くものがそこの地域に生まれると面白いと考えています。

○ 山極委員
 学校の中に地域本部を設けるというヒントをいただいたので、地域の教育力の向上について、企業は何ができるかを考えてみました。企業には人も大勢いますし、モノ・情報・施設があり、次世代育成支援行動計画(その中の次世代育成のための社会貢献)を策定していますので、それらを活用することで貢献できるかなと思います。
 この8月末、当社では、次世代育成のアクションプランの一つ“社員の子どもたちを会社に招く日”を本社及び研究所で実施したところ、子どもたちから「お母さんの仕事はステキだね。私も大きくなったらお母さんのようになりたい」「お父さんの職場を見学してお仕事が大変だと思いました」等というように、就業意識や仕事に対する興味や憧れをはぐくむことにつながりました。企業に対しドアを叩いていただければ、きっと協力してくれると思います。

○ 山岸委員
 皆さんそれぞれすごくバイタリティーのあるアイデアに満ちた内容で、そういうことがこれからの社会を切り開くのだと確信するのですけども、それらをもっと全国に蔓延させ、大人全体の力をアップしていくのが、まさにNPOの力だと思うんです。藤原委員のも大宮委員のも非常にすばらしい形でやっているのですが、それをどのようにして一般化していくかがこれからの生命線じゃないかと思うんです。
 私たちが今一番やっているのは、産・官・学・民の地域プラットホームをつくるということで、今、首都圏だけで約10カ所、40大学が参加しています。NPOと大学が連携しながらつくっていくということで、NPOの方から仕掛けているのですが、もう少しバランスよく平均的にできる方法を今編み出そうとしていて、今日の意見は大変参考になりまして、また力を得た思いで聞かせていただきました。

○ 松下副分科会長
 3つの小さな例をご報告したいと思います。
 今、長期に少年自然の家に滞在しながらいろんな体験をする事業を方々で試みておりますけれども、その中の一つに、学校の先生が指導者の中に加わって、午前中は個人プロジェクトと称して夏休みの宿題をやる、午後は自分たちで選んだプロジェクトにグループで活動するというようなことを2週間ぐらい続けているところがあるんですけども、そこはとても参加者が多いんです。というのは、保護者が「学校の勉強も進む」という理解でどんどん送り出してくれる。
 今、学力の低下ということが起こってきますと、教科の学習をさておいて他の活動をするのはと言う親御さんも多いので、学校の勉強も保証されているということが成功しているのかなと思っております。だから、居場所も保護者の理解を得て発展するためには、学んで得ていくものが多いことが理解される必要があると思います。
  2番目は、中学校全寮制ということが提案されましたけれども、既に私立の学校で、地方から出てきている人のための寮なんですけれども、ある期間は全員が寮に住むということをやっていたところがあって、そこでは、自分たちで炊事や買い物をして、生活を全部自分たちでしているんです。これは大きな総合的な学習じゃないかと思うんですけど、社会に直接触れるという経験も含めてすばらしいと思っています。
 最後に、「子どもの居場所」が3年間の後どうするかなんですけども、ハードの面とかは3年の中に計画的に組み込んで補助金を使ってできるようにする。その後は、自治体が大事だと思えば、いろいろな方々の援助金で賄っていけるかと思うんですが、子どもたち自身がプログラムを遂行していくときに、自分たちのやりたいことをやるのにはお金が要る、それはどうして得ようかという計画的な教育活動も必要かと思います。
 アメリカのある団体で毎年クリスマスにクッキーセールといって、団体の子どもが売り歩くんです。どれだけ売れたかによって、次の年に自分たちがやりたいことがどれだけできるかにつなげていくんです。ですから売るのも、今年私はこのぐらい売れるという予想を立てて、それを全部集めてクッキー会社が作るというシステムなのですけれども、そういった要素を教育活動に結びつけたらいいんじゃないかと思っております。

○ 大日向委員長
 今後の審議の進め方につきまして、お諮りしたいと思います。
 これまでは委員の中からプレゼンをしていただきました。そして、次回と次々回は、外部の有識者の方々に、家庭、地域の教育力ということでお話をいただきたいと思います。したがいまして、全部で5回は、私たち委員が、家庭、地域の教育力のいろんな取組に関する情報を共有する会とさせていただきたいと予定しております。
 その後、これまで出された様々な取組をもとにして活発なご議論をいただきたいと思うのですが、そのときに、限られた時間で集中的に議論したいと思いますので、ぜひとも委員の皆様に、議論すべき論点をご提出いただけないかと思います。これは、全5回のヒアリングが終わるときに改めてお願いをさせていただく予定でございますが、もしご異論がなければ、それぞれの皆様が、この特別委員会で審議すべき点をお考えいただければと思います。5回が終わる前に既にお考えがありましたら、その前にもお出しいただければ大変ありがたいと思います。
 そのような方向で、ご負担をおかけすることもあろうかと思いますが、ご了解いただけますでしょうか。ありがとうございます。

○ 見城委員 義務教育特別部会で、財政をどうするかという問題が非常に緊迫しておりまして、一言だけ。
 先ほどから500万円の話が出ていますが、ああいうものが打ち切られたらどうなるか、首長さんが変わったらどうなるのかという問題もありまして、一般財源化して、県や市が配分するようになったら本当に夢が実現するのか、逆に首長さんの考え一つで変わっていくのかというような問題を、義務教育特別部会ではなかなか一つにまとめられないまま討議しています。ですから、こういったすばらしい、実際に実行していらっしゃる先生方の短い言葉でも結構なんですが、鳥居部会長に一言でも入れていただければと思います。
 首長さんたちは、「一般財源化したら全て夢がかなうんだ」と仰いますし、他の教育の専門家の方たちは、財源が国で保障されなければ夢も実現できないということで平行線でしたので、そういうことを一言でも入れていただければと思います。

○ 大日向委員長
 大変大事な問題だと思います。この点に関しては本委員会の中でも、もしかしたら論点として委員の皆様からも出されるかもしれませんので、そのときには、時間をかけて慎重にご討議をお願いしたいと思います。

(6)事務局より、今後の日程について説明が行われ、閉会となった。

-了-

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