国民の学習活動の促進に関する特別委員会(第6回) 議事録

1.日時

平成18年1月31日(火曜日) 14時~16時

2.場所

グランドアーク半蔵門 「光」

3.議題

  1. 国民の学習活動の促進に関する方策について
  2. その他

4.出席者

委員

 山本委員長、菊川委員長代理、茂木分科会長、江上委員、加藤委員、工藤委員、小杉委員、坂元委員、柵委員、佐藤委員、田中委員、中込委員、水嶋委員

文部科学省

 樋口政策評価審議官、中田大臣官房審議官、吉田調査企画課長、三浦社会教育課長、清水男女共同参画学習課長、小川参事官、佐藤生涯学習企画官、その他関係官

5.議事録

(1)始めに、柵委員より、「ネットで育てる地域の学び」についてプレゼンテーションが行われた。

【柵委員】
 よろしくお願いいたします。富山インターネット市民塾の事務局長をしております柵でございます。
 私たちの地域で起こっていること、あるいはふだん肌で感じていることを、例を挙げていろいろお話をしてみたいと思います。
 まず市民塾のねらいと仕組みについて、これは、手を伸ばせばいつでも参加できる、教育により多くの社会人が参加するというようにしていきたいということが1つ目です。
 2つ目は、市民の知識発信の場、あるいは経験する場にしたいということです。これは知識の水平伝播モデルということをずっとイメージしておりまして、これまでのように、例えば公的機関が講座を開き、それを市民が受けるという、どちらかというと縦の流れではなくて、市民から市民へと横に伝わっていくモデルをイメージしてきております。
 3つ目が、地域でつくり、地域で育てる教育の場。これには、やはり官民学の共同運営ということが不可欠だと思っております。
 具体的なイメージはこんな具合になってまして、市民講師の人がネット上にいろいろな講座、例えば、親子塾、ふるさと塾、語学、ビジネス、ライフアップ、いろいろな分野があると思いますが、自分でテーマと内容と受講料、定員を決めて開講するのです。ですから、場合によっては、ちっとも集まらない講座もあります。それから、思いがけない方の参加があったり、いろいろケースがあります。それはやはり市民の方は最初から講師になりきっているわけではなくて、いろいろなことを学びながら、少しずつレベルアップするというスタイルが多く見られます。
 一方で、自己責任ということもここでは必然的にかかってくる仕組みになっています。集まってくる参加者に対してきちっと自分の開く講座を進行していくこと、それから内容や何人集まるかということについても、自分で責任を持っていくという考え方をとっています。ただ、それは任せっぱなしということではなくて、県、市町村、大学、企業、こういった団体でつくる推進協議会がきちんと見守っていくスタイルになっています。
 それから、ITを最初から使える方ばかりではなくて、ITサポーターが応援をする。インターネットだけでは伝わらないことがいっぱいあります。ネットの学習とスクーリング、現地体験、あるいは地域活動との組み合わせということも多く見られます。
 そして私たちの一番のポイントは、講師を応援する仕組みです。普通、講師と受講者の間に入るのがeラーニングですが、逆に講師の後ろからサポートしていく。講師が受講者と向き合って進めていくというところが大きく違う点だと思います。
 いろいろな市民塾の例をご紹介したいと思います。まず市民講師による講座ですが、いろんな種類のものがあります。それぞれ例えば個人で主催をする、あるいは大学で主催をする、それから、NPOの団体として主催をする等、いろんなケースがありますが、内容と主催者、定員、受講料を決め、そして募集をするということになっています。
 ちょうどシニアの方で、セミの観察、そしてITを少し取り入れた講座を開いていらした方の例を御紹介します。リタイヤされて、パソコン教室でITを学び始めたという方の例です。最初はただ目的もなくパソコンの使い方を学んでいたわけですけれども、受講しているうちに、その講師も市民が開く講座に参加をしていたのがきっかけで、自分も何かできることがあるかなということを考えて、こういうチャレンジをされています。非常にシンプルな講座で、従来、地域の公民館等でもよく見られるような活動かもしれませんが、ちょっとだけITを組み合わせて、例えば事前にインターネットで少しだけ学んだうえで集まっていただく。そうすると、子供たちが地面から出てくるセミを早く見つけて、土の中に長いこといたということを知っている子供たちがセミに声をかけるのです。頑張れと言って見守るという光景が見られたりします。このように、いろんな地域の子供たちへの教育活動に参加しているという方の例です。
 富山の県内で、いろんな地域から講座を開いていただいています。例えばこのスクールに入っている「石仏とふれ合う里」は、この地域に住んでいらっしゃる食料品店、肉屋さんが開いています。配達をしている道すがらの角にある石仏を何十年と自分で調べて蓄積されて、これを講座にされています。非常に驚くのですけれども、カナダの人が興味を示されて、この講座にアクセスして見られたりしていて、インターネットというのは非常におもしろいところがあるかと思います。
 それから、産業にちなんだ、町が直接主催をしている講座もあります。
 「佐々成政を行く」という講座は、地域に住んでいらっしゃる方を講師にしているのですけれども、1人ではできないので4人ボランティアの方が参加されて一緒に進められていました。
 これはやはり市民塾に集まってきた方の1人ですが、「とやまの手仕事」ということで、富山県内の96人の手に職を持って仕事をされている方をずっと訪ねて、イラストを1枚1枚書いています。手先をじっと見て感じたこと、背中を見て感じたこと、この仕事についての感想とか思いを語っていただいたこと、自分が感じたことをこのイラストの中に書き入れているのですが、ものすごく仕事観と申しますか、人生観みたいなことが出ているのです。昨今、ニート問題が非常にいろいろと言われていますけれども、いろんなケースがあって、まっすぐに進めないケースもあるので、そういうことも経て、こういう仕事を黙々とやっていらっしゃる方を1人1人紹介している方です。この方自身も20代で、まだ若い人ですけれども、こうやって人と会って、1人1人の人生の話を聞いて、学んでいるということの例です。これも市民塾の中で少しずつ今ご紹介しているところです。
 これに刺激を受けて、イラストではなくて、実際にその方を訪ねていって、その方のお仕事、人生観を1つの番組にしようという動きが昨年の秋から起こっています。住民ディレクターという活動で、熊本の岸本さんという方が提唱されているのですが、テレビ局ではなくて、住民の目線で番組づくりをするというものです。カメラがぶれてみたりと、テクニカルな面では多少問題はありますが、住民の目線で番組をつくっています。自分で企画、取材、編集をし、仕上げるというそのプロセスの中に、ある意味での学びがいっぱいあるのです。とうとう昨年、地元の民放でこれが放送されまして、その反響で自分もやってみたいという方もあらわれたりしています。
 こういういろんな市民講師の活動とあわせて昨年からチャレンジしているのが、このビジネス塾という仕組みです。企業の人材育成、社員教育にeラーニングを使うという仕組みとしては、教材をつくり、遠隔地からの学習を進めているところが既に全国的にたくさんありますけれども、私たちの場合は、少し変えて、まず企業や地域の大学、経営者、専門家といった方に、地域人材としてまず一度講義をしてもらうという仕組みをとっています。企業の中には非常にすばらしい人材がたくさんいると思うのですけれども、企業の中にクローズされていることが多いと思うのです。これをぜひ地域の中に生かしていただきたい。そして、優秀な人材が企業から出て、いろんな地域にいらっしゃる経営者と交わる中で、自らも大いに刺激を受けて、意識改革をして学んでいくということもねらっています。
 それからもう1つは、経営資金を地域の中で自律的に回していけないかということで、企業から年会費、入会金を出して頂くことを考えています。まずこの入会金で教材をつくり、年会費で運営をし、受講料は講師にお渡しをしていくという仕組みで回していこうと考えています。ただ、正直いって非常に苦戦しています。企業の人材が他の企業の方に教えるということを、そう簡単に経営者の方がわかったという形にはなかなかならなくて、本当に今お願いしてきて、ようやく40数名の方に出てきていただきました。それだけでも1つの財産だと私たちは思っています。ようやく講座コースも50近くできてまして、これから大いに活用していただこうとしているところです。
 これまでの発表の中で、特に企業の共同研修センターの話は加藤委員のほうからもありましたし、そういうことも私どもはほんとうに必要だなと日ごろ考えておりまして、こういった仕組みで取り組みを始めているところです。
 ニートといった現代的な課題の解決に向けてとか、防災についての取り組み、まちづくり、地域活性化ということについての取り組み、それから、特にこれからはシニアの方の社会参加ということについての取り組み等、いろいろ取り組んでいきたいと思っているところです。
 富山で6年前にこういう活動を進めてきましたが、同じような活動が、ここ2年ぐらいの間に、あっという間にいろんな地域に広がっています。そして、どの地域も行政と企業と大学が一緒に活動を立ち上げて運営しているところに特徴があると思います。例えば徳島の場合ですと、大学の地域活動が認められて、これを知事あるいは地域の企業、徳島ですと、例えばジャストシステムといった地元の企業がありますが、そういうところも入ってきて、運営しています。
 それから、「おおがた学校」というのは、高知県の西のほうにある、県立大方高校で学ぶ高校生と地域の住民とが一緒に学んでいこうという考え方で立ち上げているところです。
 このグラフに見られますように、40代男性の参加が一番多いという結果になっています。これは私たちも予想はしておりましたけれども、やはり非常に象徴的なデータだったと思います。実はこの世代の参加が一番集まりにくい。特に企業に勤めていらっしゃる方が、なかなか学習機会が少ないということは本当によく言われてきたことです。しかし、そういう方が、決して学習意欲がないわけではなくて、方法さえあれば、こういうふうにして集まってくるということが、まさにデータとして実証されたのではないかと思います。
 最近の傾向ですが、60代以上のシニア世代の参加数の伸びも非常に大きくて、ここ2、3年の中で2.7倍の伸びが見られるくらいです。
 これもインターネットの特徴だと思うのですが、大体富山で年間10万人くらいの延べの利用者がいまして、そのうち大体4割が実は富山県外の方です。つまり、いろんな地域から富山の学びに参加しているということが言えますし、必然的にそこで富山の方と例えば広島の方や名古屋の方とのつながりが出来るということが度々見られます。例えば、佐々成政の講座を開いたときに、わざわざ広島から、成政のお母さんのおふくさんという方の末裔の方がスクーリングで富山にいらっしゃって、そこでまたみんなで学び合うということが起こったりしています。
 先ほどの肉屋さんの話とかも、たくさんいろんな例があるのですが、地域の人が知識財として顕在化していき、今までの経験等の暗黙知から形式知に変わっていくということ、それからシニアの知の社会還元ということが実際に起こっていると思います。
 それと、何よりこの中で一番元気になっているのは講師の人です。それは、まさに教えることは最高の学習ということ、講座を開くためにいろんな学びを積極的にやっている。図書館に行ったり、大学に行ったりして、いろんな形で自分の講座の資料をつくる。この活動の中身が私は非常に濃いものがあって、ある意味では生涯学習の活動の1つの姿ではないかと思っています。そういう活動をしながら、あるときは市民講師になったり、あるときは他の講座の学習者になったり、サポーターになったり、1人の人がいろんな立場に変わっていきながら、お互いの立場をカバーしていくというコミュニティー型の学習がいくつも立ち上がってきています。やはり組織を離れて個人で講師の方や受講者の方とつき合っていくというのが、組織のつき合いではできないような非常に濃い深いつながりを生んでいると見られます。
 ICTの力ということをご説明しておきたいと思うのですが、3つの観点があって、道具としてということ、これはeラーニングということですが、それからメディアとしてということ、それから場としてというこの3つの観点で少しご説明したいと思います。まず道具としてということですが、市民塾で見られるのは、スキル教育と申しますか、いわゆるeラーニングで知識を得るという知識学習だけではなくて、参加のきっかけになったり、新しい人とのつながりを生んだりなど、プロセスとしてのコンテンツを意味します。よく市民塾のコンテンツを見て、これじゃあeラーニングとは言えないのではないかとおっしゃる方もいらっしゃるのですけれども、私たちはプロセスとしてのものを見ていただきながら、実は一番見ていただきたいのは、講師の学習の姿なのです。先ほども言いましたように、自分で講師をやると決めた方は本当にすばらしい顔をしていますので、その学習活動の姿を見ていただきたいと私たちは言うのです。2つ目のメディアとしてということですが、冒頭のねらいでも言いましたように、知の水平伝播に適したメディアとしてインターネットは最適といえます。それから、インターネットはマスメディア的な使い方もできますし、特定の人、例えば1つの講座にいろんな地域を問わず集まってきて、人数が少なくても、その中で中身の濃い学習を進めていくワン・トゥー・ワンのような形のメディアとしても使えることがわかってきました。
 それから、場としてということですが、これは一度に50人とか100人とかという形で集まってやる集合学習とは全く違う学び方が見られると思います。どういうことかというと、例えば5人とか10人とか、ごく少数の人がそれぞれのテーマに応じて、「小さな知の森」と私は言っているのですけれども、これがたくさんできるという形が見られます。それともちろん、施設にとらわれない、産学官が一緒に参加するという形にも役立っていると思います。
 次に、江戸時代の富山に学ぶということをご説明していきます。江戸時代の富山には3大ネットワーク、富山の薬売り、北前船、立山信仰、この3つがありました。富山の薬売りは、なじみのある方もいらっしゃるかと思うのですけれども、いろんな地域へ出かけていって、交易をしたり薬を売ったりしてきたわけです。この産業を支えた1つは、画期的なビジネスモデル、専用行李とかもあると思いますが、売薬さんに対する人材育成というのは今でも非常に学ぶべきところが多いと思います。
 具体的に言うと、家々へ行って信用していただけるように、ミニ講座を開いていたと言われているのです。農業のこと、子育てのこと、健康のこと。例えば種もみを持って行って、そこでこれを植えてみてください。こんな植え方をしてください。1年後に育ったらまた聞かせてください。1年後にやっと信用していただけるようなこともしたりしていたと言われています。そして、そういうふうにミニ講座を開くために、富山を出る前に、一生懸命に教養を身につけて、人格を磨いて出かけていったと言われています。その仕組みが、富山の中に教育システムとしてずっと根づいてきていると思いますが、これはインターネット市民塾の中でも大いに通じるところがあるのではないかと思っています。そういう教育や産業を行政もバックアップしていたということですが、このバックアップの主なねらいは、例えば他の地域へ行って薬を売るということをきちんと保障してあげる。それから、売薬さんの試験をして、教育を受けた方でないと免許が取れないと言われていました。
 売薬さん自身も、もちろん読み書きそろばんという基礎学力だけではなくて、教養を身につけ、人格形成をしていかないと、出かけていった先で信用されないということがあったわけです。そういう意味では、いろんな地域へ出かけていく人を育てるための教育が非常に栄えていたのではないかと。それから、1つの地域の中でやっていては、これほどの仕組みができなかったのではないかと言われています。
 地域の中の薬産業のネットワークと地域の寺子屋、私塾ですとか郷学、こういった教育のネットワーク、それから各地へ出かけていって得るもの、そこへ出かけていくために学ぶこと、こういうつながりが、この時代には情報通信ネットワークはなかったと思いますが、まさに知の還流と申しますか、情報化が進んでいたのではないかと思います。
 ちなみに、昨年、博物館で展示されたものの中に、この売薬さんが仙台に通信教育の教材を運んでいたという例が出てきています。和算を運んでいたという話が昨年発表されていました。
 ここで、課題と具体的な取り組み方を少しご提案してみたいと思います。最初に、生涯学習のとらえ方という意味では、例えば社会教育施設でやる学習、企業の中でやる学習、こういった場所によっては、例えば企業の中でやる学習は生涯学習とは見られていないというように、場所によるとらえ方の区別があると感じています。
 それから、例えば教養に対する生涯学習という見方と、あるいは職業能力の見方など、いろんなことがあると思いますが、この分野によっても、これは生涯学習じゃない、これは生涯学習の分野だというふうに見ている。そういうのが実は地域の中ではいろんな形であらわれていると思います。これは地域行政、都道府県行政の中でもこういったことがふだんから普通に見られると思います。
 現代的課題への対応、これは皆さんの中でも議論されているとおりだと思いますが、物質的な繁栄を遂げても心がすさむ時代だと言われていますし、社会参加をしない人々が多くなりました。それから、知識財の宝庫であるシニアに、どういうふうに活躍の場をつくっていくかということも課題ではないかと思います。
 こういうことを、実際に進めていく側としては、生涯学習推進のコストについて、非常に今厳しい見方をされています。地域の中では、例えば学校教育課と社会教育課の2つを1つにして教育課にしてみたり、非常にびっくりするような組織統合、コストの低減といったことがどんどん行われていて、地域の生涯学習センターの中でも、例えば今年度やられていた講座事業のうちの7割をカットしてしまったなどというとんでもないことも実際起こっているわけです。このコストについて、どうとらえていくかということも大きな課題ではないかと思います。
 それから、よく言われるのは、そういった成果をどうあらわしていくのかということです。地域の中では財政当局との折衝の中で、いつもこの点を問われて、なかなか答えに窮しているということを本当によく聞きます。
 こういった市民塾は各地で広がっているわけですが、こういう地域のリーダーは一体だれがやっていくのか。例えば大学の先生がやっている例もありますし、民間の方がやっている例もある。いろんな例があるわけですけれども、こういうリーダーを何とか育てると申しますか、活動を保障していくということも非常に大事なことだと思います。
 それから、水平伝播型の制度設計、こういう知識が横に伝わっていく制度設計ということを、そろそろ考えていってもいいのではないかと思っています。民間企業の例で示してみたいのですが、これはバックマン・ラボラトリーズというアメリカの会社の例です。知識の交換が新しい知識を生む、すなわち、企業価値というのは、知識を持っている人がたくさんいるということではなくて、いかにその知識を他の人にトランスファーしていくか、企業の中で知識が移動していくかということが、強い企業の価値観、基準だ、と言われています。
 同じ事を地域というか社会の中でも私は感じるわけですけれども、お互いに気軽に知識の交換をする、そういう文化をつくることが、まさに生涯学習社会のイメージではないかと思っています。
 こういった取り組み、水平伝播への条件として幾つか挙げてみたいと思います。これから必要なこととして、ここに「イ・ト・コ」と書いてますが、イ・ト・コの「イ」は「インセンティブ」という意味です。これは動機づけ、それから、物心両面あると思うのですが、参加する、あるいは自発的にやっていくインセンティブをどう目に見える形にしていくかというのが、非常に大事なことだと思います。
 それから、「トラスト」、これは信頼関係ということですが、教育は特に教える側と学ぶ側との信頼がないと成り立たないことだと思います。これを当人同士ではなくて、例えば公的機関がその内容ですとか、お互いの関係を保障する、そういうことを何らかの形で関与していく必要があるのではないかと思います。富山の市民塾に、県行政が入っていただいているのは、やはりそういう必要性があるからだと思っています。
 最後に「コネクター」ということですが、いろいろ知識財のコーディネートをすることもありますが、特に行政と大学、民間のいろんな地域の皆さんを連携させる仕掛け人の人たちが、実は少しずつ芽生え始めています。こういう人をぜひ応援していく仕組みをつくっていただきたいと思っています。
 最後に少しだけ具体的な例を示してみたいと思いますが、1つはパスポート制度を、ぜひ本格的に進めていったらいいと思います。これは、教育への参加記録、学習だけではなくて、地域活動、講師としての活動もきちんととらえていって、これを認めて、教育グリーン券みたいな形で活用していくということが考えられると思います。
 2つ目は、企業の教育への参加を促進するということですが、教育人材として活動する、企業の教育力を地域に提供するということをきちっと認めてあげるということ。表彰も1つの方法でしょうし、税制優遇という形でも考えられるのではないかと思います。
 民間企業、あるいは大学等が、多様な形で学習の機会をつくっていくのは、非常に望ましいことですが、そこに行政の関与が全く要らないかというと、そうではなくて、例えば著作権の問題、内容の高度化、人材の育成、あるいはプラットフォームの公共性ということに対して、きちんと保障するという形でかかわっていく必要があると思います。

(2)事務局から、資料2-1「生涯学習の世論調査の職業属性別再集計について」、資料3「学習活動の促進に関する実態調査」、資料4「学習活動やスポーツ、文化活動に係るニーズと社会教育施設に関する調査」、資料5「特別委員会における主な指摘事項について」説明が行われた。

(3)委員による自由討議が行われた。以下、その内容。

【田中委員】
 2点ございます。まず、柵委員のプレゼンテーションについてですが、これからインターネット市民塾のようなシステムが非常に期待される面があると思います。ご指摘されましたように、これからはコストと成果との兼ね合いの問題があると思います。現状におけるインターネット市民塾のコストといいますか、収入が受講料プラス、あとどういうところからあるのかということと、もう1つは、支出として、どういう点に幾らぐらいかかるのか、金銭で換算できる部分だけで結構ですので、教えていただければと思います。それが1点です。
 もう1点は意見ですが、前回の資料3に「ニートに関する実態調査について」というのがありまして、この中にニートになる人の特徴というのが、よくまとめられているのです。それを見ると、学力がすぐれているとか、感受性がすぐれていて、人の心を理解する、まじめ、性格は優しい云々という、いわゆる人としゃあしゃあとやっていけないということです。要は、個人の学歴なり能力なりを向上させることで、産業を活性化させるというヒューマンキャピタルの考え方で、ずっと学校教育は来ていたと思うのです。その結果が、もしかしたら、こういうニートの特徴をつくってきたのかもしれない。
 こういうことを考えると、ただ対症療法的に職業教育とか、職業に関する関心云々ということではなくて、そのベースになるような人とやっていく力というのがあれば、もっとニートは減るかもしれない。要するに職業に対する関心というよりも、社会の場、競争の場で人とバンバンやっていけるような人間としての基礎の力のほうが、直接職業に対して関心を向ける云々よりも重要なのかもしれないという気がしましたので、意見させていただきました。
 ちょうど今、ヒューマンキャピタルからソーシャルキャピタルへ、という言葉も言われていますけれども、ソーシャルキャピタルというのは、日本語では、社会関係資本ですね。人と人との社会的な関係が資本なんだということで、コミュニティーづくりとか企業経営とか、そういうソーシャルキャピタルという考え方から、学校教育や地域の教育、家庭教育を見直していって、子供たちの段階から、人と人とつながってやっていける力をどう育成するか、それがもしかしたらニートの解消に役立つかもしれないという気がしましたので、ちょっと言わせていただきました。

【柵委員】
 まず収支の話ですが、収入の主なものは、地域の企業や大学の年会費から成り立っています。その他に、若干、地域の中で委託を受けてやっている部分もありますが、多くはやはり企業や大学の参加で支えられているというのが富山の構造です。
 費用については、これはインターネットでのeラーニングシステムを運営するサーバー等の設備費、人件費の2つが主な経費になります。この中でも人件費は、かなりボランタリーな参加に支えられています。ちなみに私は、そういう意味では特別なものをいただかないままでずっと活動しています。正直言って、そういう非常に脆弱な収支構造の中でやっていますが、例えばサーバーシステムを皆さんで共有するとか何とか効率化の工夫をしてやっているという状況であります。

【小杉委員】
 私も効率化のために、質問と意見と両方言わせていただきます。まず質問は、文科省に対してですけれども、学習活動やスポーツ、文化等に係る調査の中で、産業界における社員の生涯学習活動に関する評価を聞いているということは、これは生涯学習の定義としては、スポーツ、文化に偏った生涯学習という形で企業に聞いているということなのでしょうか。ここでの生涯学習はどういう形で聞いたかということが1点です。
 それから、柵委員に質問させていただきたいのは、eラーニングといいますか、インターネットを介することのメリット、デメリット、評価ですね、その辺をどう考えてらっしゃるかということです。
 それと関連して意見ですけれども、今回の調査でもインターネットのモニター調査がかなり活用されています。インターネットのモニター調査というのは、やっぱり限定性があると私は思っておりまして、それをちゃんと理解する必要があるのではないか。例えば、生涯学習のニーズの中で、これからインターネットをやりたいというのが出てくるぐらい、まだそれほどほとんどの人がインターネットを利用できる環境にあるというわけではない。そういうことを前提にして考えたとき、今後の方向として、eラーニングをうまく使うとか、そのことはとても大事な方向だと思うのですが、現在の状況を把握するのに、それにあまり偏り過ぎると、そのインフラを持たない人たちに対してどうアプローチするかという点で問題が出てくるのではないかと思います。
 ニート対策とかフリーター対策にICTが有効だといいますけれども、一方で、実はフリーターのICTの技術は、調査をいたしますと、他の人より落ちています。実際にそのインフラに対してアプローチできない人たちが非常に多いですし、その能力がないために就業がうまくいかないという面もありますので、インターネットモニターという特別な対象だけの結果については、ある程度バランスを持って考えなきゃいけないのではないかということが意見です。

【三浦社会教育課長】
 学習活動やスポーツ、文化活動に係るニーズと社会教育施設に関する調査についてのご質問ですが、生涯学習については、特に職業能力等と限定しないで、広く、本人の趣味・教養から含めた概念でお聞きいたしました。

【柵委員】
 メリット、デメリットの話ですけれども、メリットのほうは、先ほどグラフでも示したとおり、働き盛りの方でも非常に多く参加が集まるということが現実的に出てまして、これまでの生涯学習施設で行う講座等では、まず参加がない世代がたくさん集まってくるということがメリットではないかと思います。インターネットで講座を開いたりするということは、実は社会参加の1つの形なのです。しかも双方向で自ら学べるということがあると思います。
 デメリットのほうですが、インターネットに参加できない人はどうするのかという点がもちろんデメリットになると思います。インターネットの中で、ある種特殊な考え方の方が集まってしまって、少し思わしくないことになるというデメリットも、やはり私たちも危惧しているわけですけれども、今やっている中では、例えばネットと実際のスクーリング、現地でのフェイス・トゥー・フェイスを組み合わせている例が多いです。そういう顔が見える環境の中で、ネットワーク活動を進めていくと、比較的中和されるということと、例えばモニターを入れたり、公的機関の方の確認を入れたりというような牽制的なことを入れたりして、デメリットを少しでも防ごうという動き方をしています。

【坂元委員】
 まず柵委員のご発表につきまして、コメントと質問です。大変に貴重な話をありがとうございました。
 ご紹介いただいた取り組みですが、地域に根ざした生涯学習活動におきまして、ITを活用して、苦労もしておられるということですけれども、成果を上げておられて、大変に貴重な取り組みだと思います。柵委員もご指摘されておられましたけれども、インターネットというのが、デメリットもありますでしょうけれども、生涯学習においてITの利用が有効であることは、従来から指摘されて、期待されているわけでございます。1つには、いつでもどこでも学習できるということで、とくに生涯学習の場合は、学習者が仕事を持っているとか、いろいろしなければならないことが別にあって、なかなか学習活動に参加しにくいという事情がありますが、それを緩和することができるというメリットは大きいと考えられます。
 それからまた、生涯学習においては、学習者と指導者、学習者と学習者、こういった人たちを適切に出会わせるということが大変重要になると思うわけですが、ネットというのはそういった点での有用性も大きいと考えられます。
 特にこれまでこの会議でも指摘されてまいりましたけれども、これまでは個人の需要やニーズに基づいて生涯学習を考えていくということであったのが、今後はそれだけではなくて、社会の需要に応じた生涯学習の体制を考えていくべき側面があると考えられます。そうしますと、もともとニーズを持っていなかった個人のニーズを掘り起こし、生涯学習活動に参加していただくことが重要になり、そうなりますと、やはり、いつでもどこでもと、生涯学習活動に参加するハードルを低くするITの利用の意味というのは、より大きくなってきていると考えられるわけでございます。
 そうしたことからいたしまして、柵先生の団体のご活動というのは、ITを用いた取り組みの1つの成功例と言っていいと思いますし、学ぶべき貴重なお取り組みだと思うわけでございます。
 そこで、質問ですけれども、こうして柵先生のご活動が成果を上げてこられたということについて、例えばどのような工夫やアイデア、観点があったのか。そういう成果に結びついてきたものとして、もしお心当たりのものがあれば、お教えいただければ参考になるかもしれないと思い、ご質問させていただきます。
 それから続けて、資料3のほうでご説明をいただいた実態調査についてなのですが、さきほどネット調査の話が出ましたけれども、今、個人情報の問題などの絡みで、なかなか郵送調査などの実施には制約が強まっており、ネット調査を活用していくことがかなり重視されてきていると思います。しかし、もともとネット調査というのはネット調査会社の持っているモニターに対して調査をするわけでして、それが一定の特性を持っているという限界もございます。
 それはそれでやむを得ない面があるのかもしれませんが、さらに回収率が低いと、バイアスがますます大きくなって来るという問題があります。回収率が低い場合、時間があって回答できる層のデータを偏って集めてしまっているということになり、実は回収率というのは回収数よりも重要でさえありうると考えられるわけでございます。今回の調査では、1,000名というのを目標として、回答者が1,000名になるまで質問項目をモニターに次々と配付していくやり方だと思うのですけれども、そうしますと、回収率は高まらなくても、とにかく1,000名以上集まったということで調査が終了するということになります。しかし、質問項目の配付するモニターを拡大していくのではなく、むしろ一定のモニターに督促などを行うことによって、回収率を高めていくということのほうが、偏りが少なく正確なデータが得られると考えられます。ネット調査会社のモニターということで偏りはありますが、それでもできるだけ偏りを少なくするために、回収率を高めるような形での調査をしていくほうがより適切であろうかというふうに思います。特に国の調査ですと、影響力が大きいということがありますので、そのあたりを注意する意味は大きくなるのではないかと思うわけでございます。
 それから、大学に対して期待が大きいけれども、なかなか成果が上がっていないという結果になっているという話で、私も大学の人間といたしまして、これはしっかりと受けとめないといけないだろうなと思っております。大学の経営者のほうは社会貢献活動として生涯学習活動をやっていくということが、やはり大学のプレゼンスを高めるので、熱心にやりたいということがあるのだろうと思うのですけれども、現場の教員のほうが、社会貢献活動で評価をされるというシステムがあまり十分ではないということがありますので、あまり気が進まないでやるというようなことがあるように思われます。大学の取り組みによって学習機会が増えたとしても、学習者と直接に接する教員自身のやる気がなければ、やはりそれは学習者としてもなかなか満足できるものにはならないということになるのだと思うのです。
 ですから、そういう生涯学習活動に大学の教員がかかわっていくことが、それ相応に報われるシステムというのが、大学による生涯学習活動を進めていくのに重要ではないかと思っている次第でございます。

【柵委員】
 工夫やアイデアの話ですが、まずeラーニングは、私は2つの種類に分かれると思うのですが、1つは個人がスキルを上げる、知識を習得するためのeラーニングの形態。もう1つは私たちが進めているコミュニティー型と申しますか、そういう形の2つがあると思います。最初のほうのスキルを上げる形のeラーニングは、いわゆる教材から学ぶというスタイルが大体中心だと思います。これはいろいろデータを見ても、教材の開発費に比べて、その回収が非常に難しいというのが実態で、eラーニングの産業育成という面では非常に苦戦しているということは、ずっと言われてきていると思います。非常にコストのかかる仕組みだと思うのです。
 もう1つ私たちがやっているのは、あまりコストをかけないでやるという方法だと思いますし、コミュニティー型ということですから、市民が講座を開く。しかもそのときに、例えば教材にたくさんお金をかけてやるというスタイルではなくて、いわゆる参考資料、レジュメをネット上に置いて、コミュニケーションをとりながら学び合う、あるいは顔と顔を合わせて学び合うというスタイルをやったりしています。そういう点がコストを抑えていく工夫としてあります。
 それともう1つ、受講者が講師になっていくという、いわゆる自己増殖的な学習者、コンテンツ、講師を地域の中でどんどん増やしていく動き方をしているのです。そうすると、例えば、いわゆる提供者が一方的に100のコストを投下して、それを回収するのが10とか15だという世界ではなくて、私たちが10ほどのパワーを投入して、地域の中でそれが15とか20とかというふうに少しずつ増えていくというスタイルでやっている。これがコストなり、増えていく意味での1つだと思います。
 それからもう1つ、運営をしていく上での工夫として、最低限、行政の理解、組織に所属しているとすれば組織の理解が必要なのです。ちなみに行政、富山県の場合ですと、県の生涯学習センターでやっている事業の一部をインターネット化するという形でこの事業をスタートさせています。また、企業の場合であっても、ただボランティアということではなくて、その技術を地域に生かすというような、ある意味でのインセンティブにも訴えながらやっていくと。
 しかし、そこは繰り返すようですけれども、ほんとうに紙一重の世界でそういった活動が成り立っているということが正直、多いのではないかと思います。

【水嶋委員】
 先に柵先生に質問をさせていただきます。インターネットを利用した社会参画で講師の方が元気になるとおっしゃられましたが、年配者やおばあちゃんの知恵のようなノウハウはあるけれども、それをインターネットにコンテンツとして配信できないような人に対しては、だれかがサポーターになって、そういうコンテンツをつくってあげるような人というのはいらっしゃるのでしょうか。

【柵委員】
 具体的に言うと、さっきスライドでお見せした「佐々成政を行く」という講座の場合、講師の方は今79歳、大分高齢でいらっしゃって、ワープロも使わない方なのですけれども、その方に4人のボランティアの方がついて、例えば聞き書きのような形にしたり、あるいは資料を受け取って、ITサポーターという形でウェブ上に上げるという形でやっている例が幾つか見られます。

【水嶋委員】
 私は社会参加したくてもできない人をサポートするような人がいることが大事だと感じました。それからもう1つは、スクーリングの重要性が大きいと思うのですが、顔の見える環境が1つのきっかけで、世代間の交流になればいいのではないかと思った次第です。
 ただ、ニートの話とも関係しますが、出会いの大切さという意味では、やはり社会全体があいさつできるような、コミュニケーションできるような社会でないといけないと思うのです。最近私が非常にショックを受けたのは、あいさつできない子供たちではなくて、あいさつさせない親がいるという話です。「おはよう」とだれかが声をかけると、誘拐犯だから逃げてきなさいというような社会になってますので、これは家庭教育の方とも関係があると思いますけれども、このインターネットを介した出会いは大事だと思いますし、それなりの社会体制が必要ではないかと思った次第です。

【菊川委員長代理】
 2点質問です。行政との関係、生涯学習、社会教育行政との関係をもう少し具体的に教えていただきたいというのが1点です。次に、私どもも、今年、文科省の委託を受けて、家庭教育のIT相談を始めて3カ月ぐらいになりますが、携帯が若いお母さんにはとても有効なような感じを持っているので、携帯を使った何かをやっているかどうか、というのが2点目です。
 それから、意見ですけれども、民間の方のそういう活動が非常にすぐれていてモデル的であればあるほど、私どもの立場としては、市町村あるいは県も含めて、行政職員、行政関係の立ちおくれというものを非常に懸念しております。自主的な活動がどんどん盛んになっていく一方で、旧態依然の講座事業を同じようにやっている実態があるわけです。生涯学習、社会教育行政をめぐる大きな動きの中で、今までの戦後の社会教育の遺産が、がさっとなくなっていく原因をつくるのではないかという恐れを持っておりましす。

【柵委員】
 行政との関係ですが、先ほど図に示しましたとおり、一番最初の社会実験をするときから、行政の方に参加していただいています。
 やはり教育の場というのは、ある意味ではきちんと保障されている場でないと、信頼関係が成り立たないと思うのです。そういう意味で、行政の持っている公共的な観点、それから教育というものに対する進め方ということで、ぜひ参加してくださいということで入ってきていただいているのと、例えば生涯学習センター等の事業の中には、こういうネットを活用することによって随分効果が上がるものが幾つもあるのです。それは事業を絞るという意味ではなくて、ネットのほうに移行していくという考え方、併用していくという考え方ですね。
 それから、家庭教育と携帯電話ですね。富山県でも実際活用しているのですが、例えば安全・安心に関する教育の一部を携帯電話を使ってやっている例があります。実際アクセスを見ていると、携帯電話からのアクセスが非常に増えているのはデータでも出ています。

【菊川委員長代理】
 行政から補助金をもらっているとか、最初のときにモデル事業で補助金が出たとか、そういうことはございませんか。

【柵委員】
 一番最初の立ち上げのときには、初期支援ということでいただいていますが、それは企業から出していただいた経費、費用に対する、例えば一定割合化という形でいただいている。それが、最初は企業から3年間ほど持ち出しをして、2年目から行政の支援をいただいて、3年目で終わるという形だったと思います。

【江上委員】
 ただ、今インターネット上で学ぶとか情報を交換する、知識を共有する仕組みというのは、かなりいろいろな方法論が出てきております。ソーシャルネットワークのミキシーとかいろいろありますし、eラーニングもかなりいろいろな機関が既にやっております。そういう意味では、eラーニングを生涯学習で拡大していくに当たっては、やはり継続性と質の担保と質の保証ということが非常に重要になってくると思います。
 今、お話を伺っていると、年間40数本ぐらいの講座ですけれども、この規模の段階ですと、ボランティアとか善意とか、あるいは団体会員の企業の顔ぶれ、あるいは行政の支援の顔ぶれを見ても、これで何とかやっておられると思うのですけれども、やはりきちっと、例えば一般のこういうeラーニングの教育であれば、教師の審査とかカリキュラムの審査とか、トラブルが起きたときにはどのようにするのかとかですね、これを悪用して、宣伝とか宗教とか詐欺行為に使おうとか、いろいろな問題が発生しますから、その辺のスタッフとか制度的な仕組みというのが非常に重要になってくるわけです。そういった問題も含めて、やはり今後は考えていく必要があるだろうと私は思うのです。
 ですから、今、立ち上がり時期で、とてもいい状況だと思うのですけれども、その部分のシステムの今後の強化というのは、どういうふうにお考えなのかなというのが教えていただきたい点です。

【柵委員】
 ご心配されていることは私たちも全く同感でして、これは心配し過ぎるということがないくらいのことです。いろいろ工夫をしているところですが、一番効果があるのは透明性という形、とにかくオープンにするということ。今、だれが講師でだれが受講者かということを、とにかくオープンにしていくということ。いつの間にか知らない人が講座を開いているとか、受講者がいつの間にか増えているとか、こういうことでは教育は成り立たないと思うのです。そういうことで、必ず身分を明かしていただくということが大前提です。
 それから、講座を開く方は、とにかくネットですから、日本全国どこからでもそういう講座を開けるのですが、必ず面接をして、お会いして、いろいろなお話を伺って、私たちだけで判断できない場合は、行政の方にも一緒に聞いていただいて、富山の場合は県民カレッジの方に一緒に入っていただいてやるとか、そんな工夫をいろいろしているという段階です。
 おそらく、運営体制の確立という意味では、もっともっと強化、盤石にしていかなければいけないということは私たちも感じているところです。

【佐藤委員】
 柵委員のお話をいろいろ伺って、1つの学習の新しいタイプだと思いました。インターネット上のワークショップのような、双方で学習し合う新しい仕組みなのではないかと思うのです。
 今までは、知識を与える、伝えるという形でやってきたわけですけれども、教える側が学習していくというのもあるでしょうし、交代するというのもあるでしょうし、ある意味では、こういう形がお互いが成長し合う、今までとは違うタイプの生涯学習の1つの形になっていくのではないかと思いました。これが1つのチャンスかと思います。
 今日のまとめのところと、クロス集計を見ていて思ったのは、やはり時間がないから学習していないのではなくて、モチベーションのところで火がついてないということが非常に大きな問題だと思うのです。そこをどうするかというのは、例えば営業時間を増やすとか、そういうことではないわけです。そもそも学ぶきっかけが与えられてない人たちに、どういうアクセスポイントをつくっていくかという意味でも、今までとは違う議論がここでは必要になってくるのではないかというのを感じました。
 1つは、子供同士と親、多分この無職者というのは奥様とか専業主婦というのが多いと思うのですけれども、この方たちが社会に目を開いて、学習意欲を持っていただくことはすごく大事なので、そういう子供たちを通して学習するという機会をつくっていくことだってできると思うのです。子供の宿題は、別に親と一緒にやってはいけないわけでもないので、例えば横浜トリエンナーレ美術展がありましたけど、横浜市では子供さんにチケットを配って親と一緒に行ったというような話とか、いくらでも子供を通してこういうアクセスポイントをつくっていくというやり方も、文科省ならではできるということだと思います。
 さきほど、団塊の世代がボランティアとか地域参加という話がいろいろ出てましたが、実は地域の中で、今まで女性が大体やっていたところに男性が随分出ているという話があります。ただ、そこには弊害もありまして、会社の論理で地域を動かしてしまおうということを、よく若い人から聞きます。それが若い世代の間で問題になっているというのを聞きますので、こういうところにも実はワークショップみたいな形式が大事なのではないかと思います。それぞれ能力がある人たちが、参加しながら学んでいく仕組み、多分地域はこうだから、こうしなさいと言っても無理なので、時間をかけてお互い学び合っていく仕組みというようなものを、いかに入れていくかということは、すごく大事になってくるのではないかと思いました。

【加藤委員】
 柵委員から伺った話は、新しい学習の姿で、大変感動しましたけれども、問題は、こういうところになかなか入っていけない層があるということだろうと思います。例えば、今NHKがこれからの公共放送のあり方ということでいろいろと検討して、先日も報告がなされたわけですが、デジタルになっていくことで、メディアとして非常に可能性としては広がっていくであろうということが想像できるのですけれども、そういうものとうまく組み合わせて、地域の中でアクセスをどんな人でも簡単にできるというようなことを、入り口として何かそういう発想がないといけないのではないかと思いました。
 それと、生涯学習、学習活動の促進をしていかなければいけないという文科省としての認識ですけれども、大切なことは、今、文部科学省としては、どういう認識にあるかということ、そして、ものすごく発信力が問われると思うのです。柵委員のやっておられることも含めて、すばらしいことが非常にたくさんある。しかしそれが、まだまだ国民の共有の財産として生かされていない面がある。国がかかわってやっていくわけですから、それはほんとうに成果が問われるわけだと思うので、かなり初期段階から、かなり必要なところに絞り込んで資源を投入していくということでなければいけないだろうと思います。
 その切り口としては、ニートという切り口が1つはありますが、同時に一方で、教育課程部会が、まとめに入っています。この中では、学校教育、義務教育の今後のあり方の方向性は、相当コンセンサスができてきたと思うのです。
 しかしそれは、学校でやれることには限りがあるという大前提をみんなが認め合って、あとは地域と家庭で何をしてもらうのか。ここで大いに発信力が問われるわけでして、そこのところにこの特別委員会は焦点、スポットを当てて、しっかりと発信をし、そこで何ができるのかということを検討していく必要があると思います。それから、今後のことを考えると、もう1つ必要な視点としては、入り口でそういうふうにして、学びの場に入ってきたとしても、どういうふうにしてそれが役立つのかということです。先ほども調査結果にありましたような、自分の人生を豊かにするため、ということでももちろん十分ですけれども、地域を運営していくとき、どうやって低コストで行政組織あるいは地方自治を動かしていくのかという観点が問われていると思いますので、そことの関連、全体イメージを描いた上で、今回議論していきましょう、というような持ちかけをしていただければ、ここでの議論が非常に有効になってくるのではないかと思います。

【中込委員】
 教育への参加記録のパスポート制度というのは、どのようにお考えなのか、また、これを地方自治体として考えるのか、あるいは国の施策としてとらえたほうがいいのか、ご意見をお伺いしたいということです。つまり勉強します、勉強しました、参加しました、だから何なのといった場合に、何にもないのです。学習に参加したらスタンプを押してくれたよ、と。押されたスタンプが生まれたときから随分たまったよというのが何か勉強する者にとっての励みであるのかというと、何かどこか欠けている。
 先ほどからニートの問題も出ましたけれども、ニートというのは基本的には人と向かい合うのが下手な人ではないかと思います。インターネットは、ある意味、手段としては有効かもしれないけれども、その手段を悪用することは絶対許されないわけです。インターネットの利用の割合は必要最小限にとどめて、生涯学習って何って聞いた場合、おじいちゃんのお話でもいい、何でもいい、そういった人と人のふれ合いから、いろいろな勉強をしていくわけなのです。
 ですから、パスポート制度については、ぜひ柵委員に大運動していただいて、国でもこういう政策をとっていただきたいなという気持ちでお話し申し上げたのですが、ただ、やはりこっちが話して相手が反応する、これが1つの教育なのです。一方通行でわーっとやっているのは単なる講演です。その辺の認識をもうちょっと持ちたい。面と向かって、人と人との対面授業というものが相手の心が入りますから、とても大事なのです。心のない授業というのは単なる講演を聞いているだけで、それで終わりです。聞いている者の反応を確かめながら我々のほうは授業をする。ネットも大事ですが、こういう点についても考えていただきたいということです。

【柵委員】
 パスポート制度は、これまでも自治体で幾つか取り組み例があります。さらにそれに加えて進めていきたいのは、教えていくことの記録、経験をパスポートの上に積み重ねていったらどうかということです。つまり自分が何ができるのか。例えば人から学んだこととか、今までの経験ですとかノウハウを生かして、他者にどういうことができるかということを、パスポートの中できちっと顕在化させていくということが必要だと思います。抽象的な言葉ですけれども、知識財ということだと思うのです。人にはいろいろ、特に社会人はいろいろなノウハウとか知識を持ってらっしゃる。それが顕在化していって、地域の中でお互いそれが組み合わさって、教えたり教えられたりしながら生かされていくということを顕在化させる1つのツールとしてのパスポートが1つあると思います。
 ニートの問題とインターネットの話については、委員の皆さん、多分いろいろなご意見があるだろうと思いますが、インターネットというのは、1つのきっかけづくりです。実際は相談窓口や、いろいろな関係の団体等に行きながら、個別に問題解決していくということは必要だろうと思います。
 市民塾の講座のことを、現代版の寺子屋システムだと言ってらっしゃる方がいます。人との関係によって教育は成り立つということ、先生から学ぶことは単に知識だけではなくて、人格的なことも含めて学び合えるような、そんなことをできれば目指していきたいと思っています。

【江上委員】
 先ほど加藤委員がご発言なさったことに関連して、私も今後の議論の展開について申し上げたいと思います。
 過去の生涯学習審議会の蓄積や今回の議論、いろいろな調査結果からも、問題の所在はかなり出てきているのではないかと思います。教育観とか生涯学習観を語り合ったら、これも100人100様ございますので、今議論しなければいけないのは、政策論だと思うのです。ですから、これからの生涯学習政策というものを、どういうスタンスで、どこを切り取ってやっていくのか。あまねく全てにというようなことについては、もう卒業したのではないか。例えば厚労省の職業能力開発計画は、今、第8次の議論をしておりますが、従来の労働行政における能力開発は、企業経由で補助金なりいろいろな振興をやってきた。しかし、これからはやはり個人を対象に振興を図っていくような政策に大きく軸足を転換しつつあるわけです。
 そういう意味で言えば、これからの生涯政策というのは、官や行政が全部提供するのではなくて、国民の力を引き出すための政策づくりをどうするのか、そういうふうなコンセプトを立てるとすれば、方法論としては何があるのか、というようなそういう仮説でもいいので思い切った下敷きを事務局で書いて頂いてご提案いただくと、大変効率的に議論が進化するのではないかと思います。

【佐藤生涯学習企画官】
 先ほど小杉委員から、インターネット調査のことについてご指摘がございました。一定のバイアスがかかっているのではないかというご指摘は、よく頂戴をいたします。一般的にはスピードやコストの面からインターネット調査はよく利用されるのですが、結果が国勢調査の分布とほぼ同じようになっているということで、一般的には信用性があるものとして利用されているようでございます。今回はあえてやっておりませんけれども、あらかじめ逆のバイアスをかけて調査するという方法もありまして、例えば回答率を見ますと、30代の女性が非常に多く回答しておりますので、逆にあらかじめ30代女性に配るアンケートの数を減らして配るとか、そういったバイアスをかけて調査するという方法もあるようでございますが、今回は用いておりません。
 今後もインターネットの調査は活用されると思いますが、これだけに頼るということではございませんので、施策の目的に照らして、利用の適否もよく考えながら利用していきたいと思っております。

【山本委員長】
 今日はどうもありがとうございました。これで閉会にいたします。

──了──

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