中央教育審議会教育振興基本計画部会(第6回) 議事録

1.日時

令和4年8月23日(火曜日)13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省会議室 ※WEB会議

3.議題

  1. グローバルについて
  2. スポーツ・文化芸術・体験活動について
  3. 総論について

4.出席者

委員

今村委員、内田委員、清原委員、小林委員、清水(敬)委員、清水(信)委員、永田委員、村田委員、安孫子委員、岩本委員、大森委員、大日方委員、河野委員、黒木委員、黒沢委員、杉村委員、関委員、徳永委員、牧野委員、松浦委員、三好委員、元紺谷委員、吉見委員、渡邉部会長
 

文部科学省

藤原 総合教育政策局長、里見 大臣官房審議官、佐藤 総合教育政策局政策課長 等

5.議事録

【渡邉部会長】  それでは,定刻となりましたので,ただいまから第6回中央教育審議会教育振興基本計画部会を開催させていただきます。本日も大変御多忙の中,御出席いただきまして,ありがとうございます。新型コロナ感染症拡大を防止する観点から,本日もウェブ会議での開催とさせていただきました。
 本日は,事前にお知らせしたとおり,1点目はグローバル,2点目はスポーツ・文化芸術・体験活動という,2つのテーマを設定して御議論いただきたいと考えております。今回のテーマも教育段階を横断するものでありますし,諮問文にもあるように,コロナ禍の影響を受けて,「デジタル」と「リアル」の最適な組合せを考えることが必要とされているテーマでありますので,そうした視点も入れさせていただいております。
 その後,前回に引き続き総論全般についての議論も予定しておりますので,よろしくお願いします。
 それでは,まず本日の会議開催方式と資料について,事務局から御説明をお願いします。
【川村教育企画調整官】  川村でございます。本日もウェブ会議での開催とさせていただき,傍聴につきましてはYouTubeにて配信しておりますので,御承知おきください。
 本日は,まず事務局からの資料説明の後,「グローバル」につきまして杉村委員と河野委員より,「スポーツ・文化芸術・体験活動」について大日方委員,三好委員,吉田都委員より,それぞれ話題提供を頂きます。なお,吉田委員は書面による話題提供となります。
 先生方からお話しいただきました後,今回もグループを2つに分けましての意見交換とさせていただきます。大変恐縮でございますが,「スポーツ・文化芸術・体験活動」グループの先生方におかれましては,先生方の発表が終わった後に,チャット欄にURLをお送りしますので,そちらから別のZoomアカウントに移っていただくようお願いいたします。
 「グローバル」のグループにつきましては,村田委員に司会をお願いさせていただいております。「スポーツ・文化芸術・体験活動」につきましては,牧野委員に司会をお願いさせていただいております。村田委員,牧野委員,どうぞよろしくお願いいたします。
 テーマ別の意見交換中はYouTubeを2本配信いたしますので,傍聴されている方におかれましては,それぞれURLより配信を視聴いただければと思います。
 テーマ別の意見交換終了後,また全体で集まった後,総論,基本的な考え方に関する議論を行っていきたいと考えております。
 御議論・質疑の時間におきましては,通常と同様,「挙手」ボタンを押していただければと思います。部会長又は司会の御指名により順次御発言をお願いいたします。御発言時以外はマイクをオフにしていただくようお願いいたします。
 本日の資料は,資料1,そして,話題提供いただく各委員からの御発表資料として2から6,総論全般に関する資料として7,8の8つでございます。
 最後に,本日は全体30名の委員の皆様のうち,24名にご参加いただいております。お忙しいところ,ありがとうございます。
 以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【渡邉部会長】  ありがとうございました。
 それでは,早速,議事に入らせていただきます。冒頭に,本日のテーマに関連した資料1を御覧いただきたいと思います。まずは,事務局から,この資料についての御説明をお願いします。
【川村教育企画調整官】  それでは,画面を共有して御説明をさせていただきます。
 こちら,今回のテーマに関する資料として,目次のみ御紹介させていただきますけれども,次期教育振興基本計画の今回の「グローバル」,「スポーツ・文化芸術・体験」に係る諮問文の抜粋,高等教育を軸としたグローバル政策の方向性に関する資料,国際交流・留学等について,高等教育段階,初等中等教育段階,それぞれでの施策,プラン等に関する資料,外国語教育に関する資料,ESDに関する資料,以上をグローバル関係の資料として御用意しております。それから,スポーツ,文化芸術,体験活動につきましても,現状の施策,計画等につきまして資料を御用意しております。
 事前に御説明,御送付申し上げているものでございますので,説明は省略させていただきます。
 以上でございます。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 それでは,1つ目のテーマに入らせていただきます。冒頭に,杉村委員から,「変容する国際関係と日本の教育」について資料を御用意いただいていますので,グローバル政策についての話題提供として,是非よろしくお願いします。
 
【杉村委員】  御紹介ありがとうございます。それでは,よろしくお願いいたします。上智大学の杉村でございます。本日は,発表の機会をありがとうございます。本日頂戴したテーマ「グローバル」について,国際教育学,比較教育学を日頃専門にしております立場から,私見を述べさせていただきたく思います。
 初めに,この「グローバル」な視点を考えるということでございますけれども,一般的には,海外の教育との比較や,あるいは,外国語教育,留学といったことが話題になります。しかしながら,スライドの2つ目にありますとおり,国際関係の在り方と教育の関係性,あるいは,今日では国境を越えるトランスナショナル教育といった枠組みも含めて考える必要があることを,最初に確認したいと思います。
 次の図にありますとおり,日本を含む国際社会においては,第二次世界大戦後にユネスコ憲章が示した「人の心の中に平和の砦(とりで)を築く」という精神に基づき,「地球市民の教育」,国際理解教育がうたわれました。1974年には,国際理解教育,国際協力及び国際平和を希求する勧告が出されました。その後,90年代に入ってまいりますと,人間の尊厳と平和,個人の安心・安全な暮らしを考える人間の安全保障を実現するために,国際教育協力や教育開発が展開されてきました。
 しかしながら,ヒト・モノ・資金・情報の国際移動というグローバル化が進んでからは,多文化共生や多様性をめぐる平等と公正の課題,インクルーシブの課題,さらに,国境の枠を超えた展開と国際連携が加速しまして,現在では,持続可能な未来社会構築のための教育が課題となっています。
 例えば,本部会でも既に「誰一人取り残さないインクルーシブ」の回で御議論がありましたとおり,日本社会の多様化は,外国籍,あるいは,外国につながる人々の教育をめぐる課題を提起しています。そこでは,日頃よく取り上げられる英語にとどまらず,多様な言語文化の背景を持つ人々が中心になっています。
 また,留学生の受入れも,人の移動が大きく影響しています。図は,1989年から2021年までの外国人留学生の推移ですが,1983年に始まりました留学生10万人受入れ計画が2003年に達成され,その後の30万人計画が2019年に達成された背景には,日本の施策だけではなく,海外,特に中国を中心とするアジアで起きた高等教育の大衆化,進学への希求と私費留学生の急増があります。
 日本人留学生の送り出しについて見ますと,2009年度からの増加の背景には,2009年に開始された大学の国際化拠点事業(グローバル30)や,その後,2014年からのスーパーグローバル大学創成支援事業があります。また,2011年から毎年,様々な国や地域をテーマに行われてきた大学の世界展開力強化事業があります。さらに,つい先日,事業の継続が決まって発表されましたトビタテグローバル,「トビタテ!留学JAPAN」に見ますとおり,今後は高校生の留学などにも力を入れていくということが出されています。こうした日本人留学生増加については,こうした日本人の留学の多くが留学期間1か月未満の短期留学が中心になっているという特徴があります。
 こうしたグローバルに関係する事項を網羅的に挙げてみたのが次の図です。すなわち,国際理解教育や国際教育協力のような課題に加え,今日では移動や越境が加速されたことにより,多文化共生教育についての課題が多く出ているほか,国境を越える多様な教育が登場しています。多文化共生においては,外国につながる人々が多く学ぶようになっている夜間中学,あるいは,公立学校での母語教育,日本語教育の問題,障がいを持つ人々の教育等々,マイノリティの人々を対象としたインクルーシブ教育は喫緊の課題です。また,国際教育協力においても,途上国支援に加え,移民や難民,避難民の受入れに関する課題も登場し,以前からある外国語教育,あるいは,海外帰国子女教育,国際理解教育の枠を超えた課題が山積しています。さらに,国境を越える教育の登場により,留学生をめぐる人材獲得競争,あるいは,カリキュラムや国際バカロレア等の資格や学位認証問題等も生じています。国際教育協力においても,日本型教育の海外展開(Edu-Port Japan)といった試みも始まっています。
 そして,こうした様々な多様なグローバルの動きを包摂するように,今注目されているのが,持続可能な開発のための教育(ESD)です。ESDは,スライドにありますとおり,SDGs(持続可能な開発目標)ゴール4の教育の中の,ターゲット4.7に,その重要性が掲げられています。
 ESDのポイントは,持続可能な社会の創り手を育てるということであり,地球規模課題の解決を自分事として,日常のいろいろな社会での活動の中で捉えて行動するために,知識や技能だけではなく,価値観や実行力,判断力,表現力を身につけることにあります。同時に,ESDでは,国際理解,環境や文化多様性,防災,平和等の問題を分野横断的に捉え,SDGの目標の実現に寄与することが挙げられます。いわゆるThink locally, Act globallyと言われる分野です。
 こうしたESDですが,これは2002年に日本の提案に基づいて開始された2005年からの「国連ESDの10年」により,世界的に展開されてきました。スライドの右側にありますとおり,ESDの拠点としての日本国内のユネスコスクールは,この間に,開始当初の僅か16校から,今日では世界で一番多くの1,100校を超えるまでに成長しております。
 また,2015年には,SDGsが開始された年でございますけれども,グローバル・アクション・プログラム(GAPプログラム)が国際的に定められ,2019年まで展開されたほか,2020年からはSDGsの目標年である2030年に向けての「ESD for 2030」が取り組まれています。
 日本では,これを受けて,第2期ESD国内実施計画が検討され,オールジャパンにより5つの優先行動分野,すなわち,政策の推進,学習環境の変革,教育者の能力構築,ユース(若者たち)のエンパワーメントと参加の奨励,更に地域レベルでの活動促進を挙げて,多様なステークホルダーが活動するとともに,こうした活動を共有して,国内外に発信することが目指されています。
 中でも,現行の学習指導要領において,その前文や総則にESDの観点が盛り込まれ,今日では全ての学校,教育機関で推奨されていることは,世界的に見ても非常に大きな特徴です。
 また,第3期教育振興基本計画でも,ESDは,初等中等及び高等教育の観点に盛り込まれており,知識・技能に加え,思考力,判断力,表現力,さらに,学びに向かう力など,いわゆる人間性が重視されています。
 その結果,日本では,様々な学校で,先生方の御努力により,いろいろな実践が展開されています。こうした実践について,ユネスコアジア文化センターが2019年度に実施した調査によれば,実際にSDGsと結びつけた形で展開され,かつ,知識や技能以上に考え方や態度を育てる学びにつながっているという報告も出されています。
 前回までのこの部会の会議で,「未来が求める教育の在り方」を是非考えようということが取り上げられたかと思いますが,以上のことをまとめますと,ESDによるいわゆるコンピテンシーベースの教育を通じ,人間の尊厳を重視し,個人の権利や責任を認識した上で,現実の社会と向き合うこと。課題解決に向けて取り組み,異文化間の差異や多様な文化的背景を持つ他者を理解し,かつ協働できることが目指されるべきであると考えますし,その際に,分野横断的で学際/学融合的な学びや,地域,産学官連携,キャリア教育等を通じ,教育未来創造会議の提言でも触れられている人材の育成を図ることが求められます。
 さらに,国際化,グローバル化の進展と国際移動が国境を越えて展開されていくクロスボーダー,あるいは,トランスナショナル教育の動きが加速していることも大事な点です。そこでは,国際共同プログラムや海外の大学分校のように,教育機関そのものが移動していく例も見られます。特に,コロナ禍以降,大きく注目されるようになったオンラインやバーチャル教育ですが,それらは,実はコロナ禍の前からも始まっていて,国際オンライン協働学習(Collaborative Online International Learning: COIL」をはじめとした取組が活発化しています。
 一方で,こうした動きは,教育のネットワークを促すとともに,国際通用性や平準化,あるいはグローバル・ガバナンスにどう対応するかといった課題も提起し,各国の教育政策との関連が問われています。
 以上述べたことをまとめますと,ESDをはじめとするグローバルの動きは,多様化する社会と人間の尊厳・平和を守るための教育と総括することができ,それらは,社会的に不遇な立場に置かれたマイノリティに教育機会を保障するための教育であるとともに,人々のエンパワーメントをどのように進めるかが課題になります。ただし,そこには人間の尊厳を尊重する一方で,平等と公正をめぐる問題をどう考えるかという,多文化共生のジレンマがあります。また,教育の質保証,学修成果の評価や可視化,国際平準化の動きと各国の教育枠組みとの関連性,さらには,国を超える教育枠組みやガバナンス,連帯と協働の必要性,そして,今日,特に高等教育レベルで,経済安全保障の問題なども出てきていることは大事な課題となっています。
 課題は山積していますけれども,こうした持続可能な未来社会構築に向けた教育をどのように考えていくべきか。西暦2050年までのビジョンをまとめたユネスコの「教育の未来」国際委員会の提言に見るように,教育は公共財として,あらゆる場所の,全ての人々のために,グローバルな連帯や協力を礎にしっかりと展開されるべきであると考えます。
 日本の教育課題が国際関係と密接に結びついていることをいま一度確認し,あわせて,これまで日本の教育が蓄積してきた豊かな教育実践を国内外の人々に発信し,その成果を共有し合いながら,持続可能な未来社会に向け,人間の尊厳や平和を重視した,そして,人間の安全保障を守るための教育を希求していくことが大切であると考えます。
 本日は御清聴ありがとうございました。以上,私からの提案とさせていただきます。ありがとうございました。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 グローバル化全般について広範な視点で御説明いただき,全体感が非常によく分かりました。ありがとうございました。
 では,続きまして,河野委員から「グローバル人材育成と今後の可能性」という資料を御用意いただいていますので,こちらについて御説明いただければと思います。
 それでは,河野委員,お願いいたします。
【河野委員】  よろしくお願いいたします。AFS日本協会の河野です。このたびは,貴重な機会をありがとうございます。「グローバル人材育成と今後の可能性」と題しまして,話題提供をさせていただきたいと思います。
 本日は,時間の関係で全て御用意したスライドを御説明できませんけれども,グローバル人材育成については,これまで経済中心の議論が多かったのではないかと考えます。今後,グローバル市民育成という側面をより考える必要があるのではないかということを前置きとしてお伝えさせていただいて,今,グローバル市民教育ということに力を入れておりますAFSの事例を御紹介させていただければと思います。
 AFSの活動は100年以上続いておりますけれども,交換留学制度が発足してからは,75年ほどになります。そして,ここ数年はデジタル技術の活用が進みまして,コロナ禍の留学事業への影響とあいまって,改めて活動の意義を見直して,グローバル市民育成により力を入れようと,そういうような機運が高まっております。
 活動の舞台は,ローカルコミュニティになります。これはA国のある出身地域の高校生が,B国のある地域への留学をした場合のサポート体制図なのですけれども,B国へ留学した生徒,これは言葉も文化も異なるB国の地域の人々に支えられて,本国とは切り離された環境の中で過ごします。この仕組みを成り立たせているのが,活動を担うボランティアという存在です。現在,世界に5万人,日本には1,600人ほど,こうした活動に関わるボランティアがいます。黄色い枠で囲った部分,これがボランティアの運営によって支えられている部分になります。
 AFSにおいては,生徒を取り巻く関係者全員が学びの参加者であると位置づけ,特に学びの「伴走者」となるボランティアへの研修に力を注(そそ)いでいます。関係者全員が研修,体験,リフレクション,この3つの学びのサイクルを回します。
 このような活動を支えるバックボーンとして,80年代につくられたAFSの教育目標がございます。これは4領域16の目標があり,学習者がグローバル市民になるために必要な知識,スキル,態度を身につけられるように支援してまいりました。
 これが16の身につけるべき項目です。これらをどうやって留学体験を通じて得ていくのかが,次にお見せする表になります。
 これは16項目を留学前から留学後のいつの時期に学ぶのかを一覧にしたものです。御覧いただくと分かりますとおり,1つの項目が時期をまたいで何回にもわたり出てくる場合もあれば,ある時期に集中的にやって,その他の時期には出てこないというような場合もあります。留学前に理論全般を理解して,到着時には詰め込まず,カルチャーショックを受ける留学前半期に自己肯定感を持てるような個人の価値観とスキルというテーマに集中します。そして,時が進むにつれて,対人関係,そして,異文化への感受性を伸ばして,体験後に全体を振り返りグローバルな意識を植え付けるというようなカリキュラムです。
 このように,時期によって学ぶべき項目を変えているのは,生徒の適応がこのようにカーブを描くからなのです。生徒の学びという観点から教育目標を御説明いたしましたけれども,この体験を支える周囲の人たち,これも生徒の学びとともに変化をし,成長していきます。この右側に書かれている脳みそのようなモデル,このモデルにおけるような変化,これが程度の差こそあれ,受け入れる周囲の人たちにも見ることができます。
 このような十代の異文化体験の教育的な効果は様々な形で実証されております。御関心のある方は,リンクの資料を是非御覧ください。
 日本のグローバル化を考えるという観点からは,海外の高校生を日本へ受け入れる場合の効果というのも見逃せません。これは過去4年間に日本の高校に留学したことのあるアジアの高校生たちに,帰国後,日本の留学で伸びたと感じるスキルは何かと質問したものですが,1番が「違いを尊重する」ということ,それから,2番目に「寛容さ」が挙げられました。日本の日常生活で周囲との関係に苦慮しながら,日本で生きる術を学んだということだと思います。
 日本でも3か月以上の高校留学生の受入れはまだ非常に少なく,年間2,000人程度にとどまっています。これは海外への留学数の半分以下ということになります。この年代の留学は,実は日本のグローバル化の鍵を握ると考えているのですが,その理由を感覚として御理解いただくためには,是非,こちらのYouTubeの動画を後ほど御覧ください。
 在校生や教員への影響も非常に大きいということです。受入れを機会に,校内に変化が生まれたというような肯定的な意見が多数聞かれます。例えば,「トビタテ!留学JAPANへの参加者が増えました」といったような高校からのコメントもありました。派遣と受入れというのは相乗効果があるのではないかと思います。留学生1人がクラスルームにいることで,在校生がそれに大いに刺激を受けるということがあります。
 そして,高校時代に日本留学をした生徒は必ず日本に戻ってきます。大学留学生の日本企業への就職率が低いということが話題になっていますが,もし彼らの多くが高校時代に日本留学を体験していたとしたら,この就職率というのはもっと高くなるのではないかと思われます。
 もう一つ,コロナ禍以降の動きとして,デジタル教育の可能性について御紹介したいと思います。
 国際間の移動が難しくなりまして,その間,デジタル技術の力を借りて,以前よりも多くの若者に異文化学習の機会を届けることが可能になりました。デジタル教育は,留学体験に完全に取って代わることは残念ながらできませんでした。ただ,グローバルコンピテンシーの向上に役立つということが,研究成果から分かってまいりました。留学体験そのものをより充実させる,そういうような効果もあるということが分かってまいりました。また,SDGsとか,21世紀型スキルといった世界共通のカリキュラムへの,グローバルでの対応も可能にしてくれています。
 これはオンライン学習の内容の一例です。AFSでは,デジタルとリアル,この組合せによる高校留学プログラムを実施しています。出発前から帰国後を通じて,全ての生徒がローカルでのリアル体験,そして,グローバル環境でのオンライン研修,これを交互に繰り返すことによって,異文化への理解を深めます。それによって,生徒たちは,A国からB国へ行くことによって,その国でしか出会うことができなかった仲間だけではなくて,同じ時期に様々な国へ留学する仲間とともに学ぶ,そういうような環境を整備することが可能になりました。
 留学前から留学後までを横軸に並べると,このような感じになります。
 最後に,グローバル人材育成に関する私見を述べさせていただきたいと思います。
 VUCAの時代を生き抜くグローバル人材育成,グローバル市民教育として力を入れていくべきではないかと思います。多様な価値観と共存しながら,自ら考え行動を起こせる責任ある市民,個人を,いかに多く日本の教育から生み出すことができるのか,また,それを可能にする学校を含めた地域社会全体の学び,共同エージェンシー,この醸成をどう図れるかということが,非常に重要なテーマではないかと考えます。
 そのために,グローバルな越境留学(あえてここで越境と書かせていただきました。国内でも,これは同じパターンで実行できると考えます),これを推進していく一方で,その効果をより高めるであろう高校生留学の受入れ促進,そして,地域社会と一体化したグローバル市民教育の推進,デジタルを駆使した教育の充実化,これを是非次期基本計画では御検討いただきたいと思っております。
 そのためには幾つか課題があります。単位認定,互換の柔軟性,これは,制度上は設けられていますが,十分に浸透するような機運の醸成がより望まれるのではないかと思います。それから,教員等の異文化理解教育の推進,そして,NPOまでを含めた地域における連携,教育DXのさらなる推進に具体的な指標を持って取組を進めることが必要だと考えております。
 ありがとうございました。私からは以上でございます。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 AFSの具体的な実践活動を通じて,非常に分かりやすい御説明を頂いたと思います。本当にありがとうございました。
 それでは,続いて2つ目のテーマに移らせていただきます。「スポーツ・文化芸術・体験活動」について,最初に,大日方委員から話題提供をお願いしたいと思います。「スポーツと教育」という資料を御準備いただいていますので,よろしくお願いいたします。
【大日方委員】  大日方です。よろしくお願いします。私からは,第3期のスポーツ基本計画から見えることというテーマから,幾つかのキーワードが挙げられるのではないかという視点でお話させていただきます。また,パラリンピック選手,あるいは競技団体役員として参加してきている経験,そして,渋谷区の教育委員も務めさせていただいている経験から,お役に立ちそうな好事例を3つほど紹介いたします。
 まず,第3期のスポーツ基本計画ですけれども,ポイントとしては,1つは,新型コロナウイルスの感染の影響により,非常にスポーツ活動,体育も含めて制限されたということ。そして,非常に大きなインパクトがあったオリンピック・パラリンピックの1年間延期の後の無観客での開催という社会の状況が踏まえられました。
 また,一方で,人口減少であるとか,地域間格差,それから,ライフスタイルの変化が進行している状況の中で,スポーツ基本計画部会でかなり議論されたことは,そもそもスポーツというものは一体どういう価値を持つのだろうか。我々はそのことをしっかりと伝えることができてこなかったのではないか。そういった反省も大きく聞かれた言葉でありました。
 そういった議論の中から出てきたのは,スポーツは「楽しさ」「喜び」「自発性」,そうした原点に基づき行われるものであるということをしっかりと伝えていく必要があるだろうという点でした。
 これらの中で,特に教育という観点から考えられると,資料下の方になりますけれども,3つの部分に着目したいと思います。
 まず1つは,第3期の計画の中の,3つの視点ということです。既存の仕組みにとらわれない,柔軟に見直しをする,こういったことを,むしろルールも考えてつくり出してというようなことをやっていく必要があるという点。
 2つ目が,誰もがスポーツを通じて共生社会というものを考えるきっかけになるという,そういった視点。
そして,取組に差が生じないこと。
 3つ目が,スポーツを途中で諦めてしまう,本人が望むのに期待できない,そういったことがないようにという視点が特に注目されると考えております。
 少し飛ばしますが,新たなスポーツ機会の創出ということについても,考えていかなければいけないということです。変革を起こすコンピテンシーは,体育・スポーツでも養うことができると考えます。特に,実際にやってみる,改善する,ルールをつくってみて,どうすればよいのか,それがうまくいくのか,いかないのかを考えてみる,PDCAサイクルを,体育の授業等でやってみることもできるのではないかなと考えております。
 また,これは私見になってしまいますが,体育の評価基準そのものも,見直すべき時期というのは来ているのではないかと思います。例えば,いかに速く走れること,ボールを遠くへ飛ばせること,素早く動けることということを他の人たちと比較され評価されることが,スポーツを楽しむことにつながるのか,それから,長い人生の中でスポーツとの関係を自分自身で考えて実践していくということにつながるのかという視点で考えております。
 パラリンピックの選手の中には,生まれつきの障害があったり,幼い頃に障害を持つと子供は,学校の体育の授業に参加できなかった人も多くいます。また,私自身も経験したことですが,授業に参加はしたけれども,成績評価が低くて,進学先への影響がでたり,スポーツへの苦手意識が生まれたり,それらから,自己肯定感をなかなか持ちにくい,などが起こっているのも残念ながら見聞きする状況があります。日本でこういった状況を是非変えていきたいと考えております。
 少し飛ばしながらお話をさせていただきます。
 誰もがアクセスできることということにおいては,やはりユニバーサルデザインの推進が必要です。それから,本人の希望によらないスポーツ機会の喪失ということも考える必要があります。部活動で進学したりスポーツ選手として進学したが,けがをしてスポーツを辞めたり,競技成績不振になって部活動を辞めると,学校へ行くことも嫌になってしまった,あるいは,退学せざるを得ない状況に自らなっていく,あるいは,周りがしてしまう,こういったことをつくらないということが大切です。
 それから,今後5年間に計画的に取り組む12の施策に関連して,特に教育に関しては,多様な主体におけるスポーツ機会の充実が,いろいろなところで書かれているところでもあります。
 特に,またここで私が申し上げたいのは,体育授業への参加,希望する障害のある子供たちの見学をゼロにしたい,という取り組みの必要性については,少し強く申し上げたい側面もございます。
 障害のある児童が体育を見学せざるを得ない状況を放置しているというのは,むしろ障害のない子供たちに対しても誤ったメッセージというものを発信してしまう危険がある。すなわち,障害があればできないことがあっても仕方がない,体育に参加できない,あるいは,見学していることは当たり前だというアンコンシャスバイアスをむしろ助長させる,そういったリスクがあることについて,教育の現場にいる人は考えていただきたい。
 多様な主体におけるスポーツ機会の創出というところでは,正直なところ,なかなか課題が多いと考えます。スポーツをする時間を持ちたいと思う中学生が減っているということ,スポーツが嫌いな中学生が増加してしまっていること,体力水準が落ちてしまっていること,それから,運動時間の二極化が進んでいること。これらは体育,あるいは,スポーツ,運動部活動といったような,教育においてスポーツの機会をつくるという点において,大きな影響というものを残念ながら持っていると思います。
 体育における個別最適な学習とは何なのかを考えたり,また,人とは比べず,過去の自分と比べるなどの取り組みもやっていく。あるいは,スポーツのルールを不断に変えていく,そういったことを体育の授業を通じて実践することはできると思っています。
 障害のある児童生徒の参加状況についても,資料のとおり,実態はこういう状況で,半分ぐらいの生徒は,毎回は参加できていません。
 そして,残りの時間,少し駆け足になりますが,3つ,事例を紹介させていただきます。
 1つは,障害のある生徒が,運動部活動に一緒に参加したことがきっかけでパラリンピックを目指すようになった渋谷区の事例になります。車いすの生徒が部活動で初めてバドミントンをやり始め,1年半で,2024年のパリ・パラリンピックの有力な候補選手に成長できています。いろいろな方々がサポートしたということ,運にも恵まれたということが背景にあります。
 これをできた背景は,彼女が体育の授業とかスポーツ行事に地域の小学校時代から参加していた経験がベースにあります。この生徒さんにとっては非常に重要なスポーツの機会であると同時に,周囲の人たち,子供たちにとっても,創意工夫をすればやはり同じようにできるのだという,そういう共生社会ということについて考える好事例になったと考えます。
 2つ目の事例は,スポーツがデジタルの活用という点でも,工夫次第でできることというのはいろいろあるということ。パラリンピック競技でボッチャという,かなり重度の障害のある選手たちの取り組み事例です。東京大会では大活躍をされましたけれども,その競技団体がオンラインを使って工夫をして,いろいろな既存の枠組みにとらわれずに,スポーツのやり方も工夫した。そして,全国大会もオンラインでやれる方法を編み出した。そんな好事例というのも,参考になるのではないかなと思います。
 また,最後の紹介は,渋谷区の部活動改革プロジェクトを,少しだけ御紹介をさせていただきます。渋谷区は,身体を動かしたくなる街づくりということで,スポーツに非常に力を入れてやっております。特にパラリンピック,共生社会ということを,スポーツを通じて考えようということでやっておりますけれども,資料は後ほど皆様で見ていただければと思います。
 1つの取組として,主にこれまでの部活動ではあまりやっていないスポーツや文化活動を,様々な学校から参加できる新しい部活動として設置しています。これらの活動には,事業者の方,企業の方,競技団体の方,あるいは,大学などと協力をしながら一緒につくっていく,そのような取組が行われております。課題もたくさんありますけれども,地域で部活動,スポーツと,教育を一緒に考えていく,そういったきっかけがここから見えてくるのではないかなと思います。
 雑駁(ざっぱく)になりましたけれども,説明は以上とさせていただきます。ありがとうございました。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 第3期のスポーツ基本計画から見えることや,東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとしての視点からのスポーツの価値について,事例も含めて,大変分かりやすく御説明いただきました。ありがとうございます。
 それでは,続きまして,三好委員から,福山市で現在取り組まれている活動も含めた資料を頂いておりますので,そちらの御説明をお願いしたいと思います。
 三好委員,よろしくお願いいたします。
【三好委員】  よろしくお願いします。福山市の三好です。
 本市では,日々の授業を中心とした全教育活動の中で,「21世紀型スキル&倫理観」を育み,行動化できる確かな学びをつくることを福山100NEN教育としてスタートし,7年目を迎えております。様々な子供たちがいる公立学校において,「学びが面白い!」と実感できる日々の教育活動を目指し,取り組んでいるところです。本日は,本市が公立学校の役割と責任として追及する学びの考え方や取組についてお話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
 これは国・県の動向と併せて整理している,福山100NEN教育の年表です。中心にある「学びが面白い!」に向け,青色「主体的・対話的で深い学び」,黄色「学びをつくる教職員研修」,緑色「多様な学びの場の充実」,赤色「元気・笑顔で学び続ける教職員」の4つの柱で取り組んでいます。
 毎年整理し,各学校に示し,つながりや目的を意識するために活用しています。100年教育スタートの2016年前後の数値から見る知・徳・体の状況です。学力調査の正答率,暴力行為や不登校の状況,体力などの数値は,おおむね全国水準に近づき,また,超えるなど,数値での結果が現れてきていました。
 授業への意識も,肯定的な回答が8割を超えていました。一方,実際に授業中の子供たちの姿を見ると,話合いや発表はしているけれども,元気がない,本当に分かっているのだろうかと感じることが多くありました。くしくも2016年12月,中教審答申で,主体的・対話的で深い学びへの転換が示され,改めて学ぶとはどういうことかを明らかにする必要があると考えました。
 本県本市に様々な形で指導・助言を頂いている慶應大学の今井むつみ教授は,認知科学の視点から,学ぶことは生きた知識を得ることであると述べています。子供たちが知識を獲得する過程を明らかにするために,2017年,小学校学びづくりフロンティア校事業をスタートさせました。2年間,指導主事がほぼ毎日2つの小学校1年生の国語・算数科の授業を参観し,児童の姿を動画に撮り,つぶやきや対話,行動などを文字に起こしていきました。それらを整理・分析していく中で,答えが合っていても理解しているとは限らないこと,子供一人一人が理解する過程やスピードが異なること,疑問・問いは教科を超えて,学年を超えていくことなどが,数値やエピソードから実感しました。一人一人の学ぶ過程が異なることを前提に,子供たちがどう学ぶかという視点から日々の授業を見直していくことが,学ぶ意欲を高め,自律的な学びを促すことがわかりました。本市が掲げる「学びが面白い!」とは,こうした「内発的動機付け」に基づき学ぶ姿であり,全ての施策をここに集中させています。
 一斉・画一を求めてきたこれまでの学校の価値観を問い直すことなしに,学びが面白い,主体的・対話的で深い学びの実現はないと考え,様々な言葉で考え方,価値を示して伝えてきています。こうした考え方の下での具体的な取組を,先ほど紹介しました4つの柱から,主体的・対話的で深い学び,多様な学びの場の充実についてお話しします。
 小学校学びづくりパイロット校は,フロンティア校事業で明らかになった,子供たちは教科や学年の枠を超えて,思考を広げ深めていくことを踏まえ,教科横断,異学年で学ぶ教育課程を編成・実施し,学ぶ過程を評価する工夫にも取り組んできました。
 中学校探求学習プログラムは,企業が開発したプログラムを活用しています。実在する企業からミッションを受け,現地調査をしながら商品を企画し,企業にプレゼンします。事業としては,昨年度で終了しましたが,自前での取組が始まっています。全ての学校・校区で設定しているSDGsから探究学習に取り組んでいます。副読本とともに,市教委ホームページに掲載しています。
 学力の伸びを把握する調査は,評価を他者との比較から,自己の伸び,学力の過程へと転換するものです。埼玉県教委が企業と開発した調査で,前年度からの学力の伸びや非認知能力や学習方略などの変移を見ることができます。子供たちは自分自身の伸びを自覚し,教職員は1年間の取組を自己評価しています。
 1人1台学習端末は,「デジタル・シティズンシップ」の考え方の下,教師主導ではなく,子供たちがまずは使うことを目的にスタートしました。文部科学省のEdTech,デジタル教科書の実証事業にも,全ての学校が希望し参加しています。
 昨年3月には,1年間活用して各学校の課題などを整理したガイドブックを作成しました。その中で,改めて大切にしたい「リアル」を示しています。このガイドブックを基に,各学校が再整理した学習端末活用のルールは,市教委ホームページに掲載しています。
 こうした取組から,学習端末の活用状況は,全国と比べて高い結果になっています。しかし,「学びが面白い!」につながっているかどうかというと,まだまだです。効果的な活用を研究,工夫していく必要があります。
 特別支援教育では,「放課デイサービス」,LITALICO,「子ども発達支援センター」など,民間企業と連携しながら,個に応じた状況分析に基づく支援の充実に取り組んでいます。
 幼保小連携では,就学前と小学校を,今年度改めて私立の幼稚園,保育所等も一緒になった連携体制をつくり,連携協議を進めています。
 多様な学びの場の充実では,2017年度から,生徒指導規程を児童生徒が主体となって「考え・作り・守る」ものへと見直しを進めています。
 民間フリースクール,放課後デイサービス等との連携は,2016年度から進めています。
 2019年には,学校,教室に適応できるように指導する教室,適応指導教室の名称を,集団で学ぶことが苦手でも一人一人に応じた学びができる場として,フリースクール「かがやき」に変更しました。市の中央,東部,西部の3か所で運営しています。
 また,学校内にも,教室に入れなくても居場所となり,学び場となる部屋として,「きらりルーム」を2小学校,6中学校に設置しました。今では,各学校が工夫して同様の部屋を設置し,小学校21校,中学校・義務教育学校,24校に広がっています。
 学校図書館は,児童文学評論家の赤木かん子さんの監修の下,社会科学,自然科学の本を充実させ,ソファやじゅうたんを設置するなど,児童生徒の興味や想像,知的好奇心を広げることができる居心地のいい空間へとつくり変えていっているところです。
 放課後チャレンジ教室は,学力補充,学習意欲の向上,学習習慣の定着を図ることを目的に,地域や学生ボランティアの支援を得て,週1回,小学校の空き教室や公民館などを利用して行っています。
 毎年,小学校4年生を市立美術館へ,小学校5年生を音楽祭に招待し,対話型の鑑賞や,本物の芸術文化にリアルに触れる,五感に触れる機会を設け,大切にしています。また,公益財団法人からN響コンサートに毎年招待をしていただいています。
 今年度,学校再編により,新たな学校4校を開校しました。2中学校5小学校を再編した義務教育学校「想青学園」,2中学校を再編した「新市中央中学校」,異年齢集団で学ぶ)イエナプラン教育校「常石ともに学園」,不登校など教育上の配慮の必要な子供たちを対象にした小中施設一体型特認校「広瀬学園」です。(聴取不能)空間スペースや,黒板を設置せず,どの教室にも,どの壁にもプロジェクターで映すことができる教室,廊下やエントランスなどの開放的な空間を工夫しています。
 再編校以外にも,改築等に併せて学びをつなぎ広げる環境整備を進めています。ハード面においてもソフト面においても,一人一人の学ぶ過程が異なることを大切にして取組を進めています。「学びが面白い!」を中心に,リアルとデジタルのバランスを取りながら,全ての子供たちが自分の力を最大限に発揮する,学び続ける力で未来を切り拓(ひら)いていく,生まれた場所がどこであっても様々な子供たちがいる公立学校だからこそ果たさなければならない役割だと考えています。
 御清聴ありがとうございました。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 福山100NEN教育をベースにして,認知科学も取り入れながら,リアルとデジタルを使った様々な工夫例や幼保小の連携,民間フリースクール,イエナプランに相当する教育といった大変多岐にわたる活動の内容がよく分かりました。ありがとうございました。
 それでは,最後になりますが,本日都合により御欠席となりました吉田都委員から文化芸術に関する書面の提出を頂いております。本日は,吉田委員に代わりまして,事務局から内容について御紹介いただきます。
 それでは,事務局からお願いいたします。
【川村教育企画調整官】  それでは,川村から御紹介をさせていただきます。
 まず,吉田委員から,「御説明に当たりまして,私がこれまで経験したことを通じて,日本の教育に関して感じることを,失礼ながら書面をもってお伝えしたく存じます。日本の教育に関する説明につきましては,専門的知見を有する先生方に申し上げるのは,正に釈迦(しゃか)に説法となってしまいますが,お伝えしたいことを明確化するために述べさせていただくことをあらかじめ御了承いただければと思います」というコメントを頂いております。
 それでは,資料を共有させていただきます。お手元の資料と同じでございますので,そちらを御覧いただければと思います。
 イギリスでの経験を通じて感じたこと。
 若い頃イギリスで日本の世界における振る舞いについて詰め寄られたことがありました。指摘されたのは近現代史に当たる時期に関するもの。当の日本人であるにもかかわらず,事実をきちんと理解していなかったことに恥じ入りました。対してイギリス人は自国の歴史や文化を正しく認識し,語ることができていたように思います。
 この経験は私だけでなく,多くの日本人留学経験者にあることと思います。それは長く行われてきた,受験に臨むための暗記中心の教育が一因ではないかと思うのです。確かに受験突破も重要ですが,自国の歴史や文化といった教養を学生のうちにしっかり身につけさせるという目標でも教育を行っていただけたら,海外に出て恥をかく日本人が減少するとともに,日本を知る機会を得る海外の人々も増えるのではないでしょうか。
 イギリスの学校では,どのような場面においても必ず生徒に感想を求めます。その感想に模範解答はなく,個人個人で異なるのが当然。教師は生徒の発言をポジティブに受け止めます。そうなると,何に関しても自分の意見を持ち,意見交換することが当たり前になっていきます。
 対して日本は基本的に受け身型の授業であり,数少ない発言機会も教師が求めている解答と異なる発言をした場合,発言が否定され,恥ずかしい思いをします。生徒はそれを回避すべく,教育者が求める正解が何であるのかを模索し,できることなら皆の前で積極的に発言することを避けるようになっていきます。
 このような教育に慣れてしまうと,咄嗟(とっさ)に意見が求められても返すことができなくなっていくでしょう。海外では自分の意見を持たない人間の評価は著しく下がります。ですから,何事にも自分の考えを持ち,自己肯定感ある人間を育てることを目指してほしいところです。
 多くの日本からの留学は長くても1年という期間で行われますが,留学の効果は長期に滞在することで上がります。私も長くイギリスに身を置き,生活者となったことで得られたものが大きかったと身に沁(し)みて思います。また,数年間にわたり海外に滞在した多くの帰国子女が,留学経験者に比べて現地の生活感,文化を大いに吸収していることでも御理解いただけると思います。
 留学の,長期化の実現のためにはまず,長期滞在することを躊躇(ちゅうちょ)しないような制度設計が必要と考えます。日本では高校3年生の18歳で大学受験するのが当然と考えられており,これを妨げてしまう留学に躊躇(ちゅうちょ)するケースが少なからず存在しています。このハードルが下がれば長期に海外に出ていく学生の増加につながるのではないでしょうか。
 次に,帰国後のフォローアップ体制の構築です。すなわち,留学中に得たものを日本で生かすことができるような仕組みづくりです。これがないと,これからの日本に必要とされる優秀な人材の国外への流出を招きかねません。
 日本で活動して感じたこと。
 私が舞踊芸術監督を務めている新国立劇場では,学校単位で公演を鑑賞する機会を設けておりますが,その入場料は生徒の保護者の負担によるものです。つまり,負担能力がある御家庭のお子さんのみ芸術に触れる機会が与えられているのです。
 日本は芸術を過剰なまでに「高尚なもの」とし,敷居を高くしてしまっているがために,皆が気軽に触れることができないものになっております。子供のうちからこのような状況ですと,今後も芸術の裾野の広がりは期待できません。本来,芸術は人間の心の豊かさや生きる力を生み出すために,誰にとっても必要不可欠なものであるべきです。日本の文化を発展させる目的で設立された新国立劇場としては,全ての子供たちに先入観なく本物の芸術に触れてもらい,大いに刺激を受けていただく場を提供していきたいのです。
 これまで,数多くの日本人ダンサーを指導してきて感じることは,決められたこと,教わったことはきちんとこなすことができるのですが,その上で求められる創造性に関しては外国人ダンサーより著しく劣っているということです。
 恐らく披露した自分の思いに対して指導者から間違いを指摘され,恥ずかしい思いをする懸念より,一歩踏み出す勇気が持てないことが大きな要因だと思います。これも日本の教育の影響を受けている部分であり,歯がゆさを覚えます。
 日本はこれまで海外から良いものを取り入れながら文化を発展させてきましたが,器用に模倣しているだけで,根幹まで理解しているのか疑問に感じるときがあります。バレエもその一例で,発生した歴史や背景など,バレエの本質を理解しないまま表面上の解釈のみに頼り,間違った方法で教えているバレエ教室が一定数存在しています。また,日本での公演においては,必要となる専門的人材が十分に育っていないため,海外に求めなければ質の良いものが望めないという現状もそれを反映しております。
 何事も根幹を理解しないと応用が利かなくなり,新たに何かを生み出すことができないため,それ以上の発展が望めなくなります。日本の文化の発展という観点から,深く知り,考える教育を目指していただきたいと思います。
 以上でございます。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 それでは,一通り皆様から話題提供いただきましたので,ここからテーマ毎(ごと)に2つのグループに分かれて意見交換をさせていただきます。まず,意見交換の運営要領について,事務局から説明をお願いいたします。
【川村教育企画調整官】  それでは,事前に御希望をお伺いしておりましたとおり,「グローバル」グループの先生方はこのZoomにお残りいただきまして,「スポーツ・文化芸術・体験活動」グループの先生方は,大変お手数ですが,一度,今チャット欄にURLをお送りしましたので,そちらから入っていただきますようお願いいたします。
 現在2時ちょうどでございますので,45分程度御議論いただきまして,14時45分にお戻りいただければと思います。
 それでは,どうぞよろしくお願いいたします。
(スポーツ・文化芸術・体験活動グループの委員が移動)
 
【村田委員】  それでは,「グローバル」グループの意見の交換をさせていただきたいと思います。今日御発表になった方お二人について,まず御質問ある方から挙手をと思います。よろしくお願いいたします。いかがでしょうか。
 どうぞ,吉見委員,よろしくお願いいたします。
【吉見委員】  ありがとうございます。それでは,今日の杉村委員と河野委員の御発表に関することで,1つ御質問をさせていただきます。
 私の知る限り,ユネスコのグローバル教育は2つの大きな柱を持っていると認識しております。1つが,今日杉村委員からお話のあったESD(Education for Sustainable Development)。これが1つの柱で,もう一つの柱が,GCE,あるいは,GCEDとも言われていますけれども,Global Citizenship Educationという柱です。この2つの柱があるわけです。
 日本は,このESDには大変熱心で,ユネスコスクールや,今日杉村先生がお話しになったとおり,積極的に取り組んでいるわけですけれども。しかし,もう一方のGCEDは,日本の取組はどうなっているのかについて,少し私は懸念を持っています。実は,これは若干政治的な文脈があって,ESDの方は,小泉政権のとき,小泉総理が大変熱心に打ち上げて日本が先導してきた。ところが,GCEの方は,パン・ギムンさんが国連の事務総長のとき,彼がとても熱心だった。ですから,GCEは韓国政府が大変熱心なのですね。そういう日韓で,ESDとGCEに枝分かれしているようなところがあるわけです。
 しかしながら,本来のグローバル教育の使命を考えてみたときに,この2つは車の両輪だと私は思うのですね。ESDの方が若干理系寄りで,GCEの方が若干文系寄りだと思うのですけれども,どうも現状では,ESDとGCEが表裏で動くようになっていなくて,日本と韓国で分かれているように見える。ここは日韓でもっとちゃんと連携して,両方の柱を同じくらいの比重で立てていくことが,やはり私はやるべきだと思っているのです。しかし現状は,なかなかそうなっていない印象を受けています。
 それで,質問は,このESDとGCEの枝分かれですが,どうしてこういう状態が続いているのかということが杉村委員への質問です。それから,河野委員が今日お話しされたのは正にGCEといいますか,Global Citizenship Educationの具体的な事例です。そうすると,AFSの方の御活動では,今,お話ししましたような日本政府の取組,特にユネスコによるGCEの取り組みとの関係,あるいは,国連の仕組みとの関係を,どういうふうに理解され,使われようとしているのかをお聞かせいただきたいと思います。
 以上でございます。
【村田委員】  お二人からお答えをよろしくお願いいたします。
【杉村委員】  それでは,僭越(せんえつ)でございますが,杉村から先に質問に答えさせていただきます。
 吉見先生,本当に大事な点をありがとうございました。先生の御指摘のとおりで,必ずユネスコの文書には,このESDとGlobal Citizenship Education (GCED)が並んで出てまいります。ESDとGCEDの2つの違いですが,これには諸説がありますけれども,先生おっしゃったことに私は賛成です。つまり,車の両輪として考えるべきであるという点です。
 まず両者の違いですが,ESDというのが,より広く,今日御説明したようなコンピテンシーをベースにした,しかも,分野横断型な,自分事としていろいろな地球規模の課題を自分の日常の中で捉え直すと考えたときに,Global Citizenship Educationは,個人としてのコンピテンシーをどう伸ばしていくかということになると考えます。今日の話の中でいくと,ESDの広い大きなビジョンの下,コンピテンシーベースの点を特に強調しているのがGlobal Citizenship Educationではないかというのが,私自身がユネスコでの議論に参加したり,あるいは,いろいろな文書を拝見して考えていることです。
 しかしながら,これはどちらが大事かという問題では全くないと思います。今日の発表では時間がなくて触れなかったのですけれども,実はつい最近,1974年のユネスコ勧告の改定作業のインターナショナルエキスパートグループに入れていただいて,そこでの議論に本年の5~6月,参加させていただいておりました。そこではこの2つをいつも並べるかたちで議論が続いていたのが印象的でした。先ほど御紹介したSDGsのターゲット4.7にも,ESDとGCEDの2つ並んで書かれています。
これら2つの背景には,日本や韓国のそれぞれの意見というものもあると思いますが,一方,協力の動きも出てきています。その1つの例を御紹介します。韓国にあるユネスコのカテゴリー2センターであるアジア太平洋国際理解センター(APCEIU)は,韓国にある国際機関で,しばしばGlobal Citizenship Educationをとりあげています。今年の夏,このAPCEIUでは,日本の国際理解教育学会の先生方と協力して,韓国と日本の教員の一緒の合同研修を実施しておられました。ここには,GCEDとESDを一緒にした形で取り組んでいこうという動きが出てきています。ただ,両者の区別はまだあやふやなままだということもおっしゃるとおりかと思いますので,できれば,この後,河野先生がお話しくださると思いますが,Global Citizenということをどのように考えるかということを検討しながら,両者を共に取り上げていくことができればよいのではないかと思います。
 特に今日のように,日本の国籍を持たない人々も教育の対象となってきている状況では,国際理解教育において,国を中心にしただけでは課題を解決できなくなってきているのも事実だと思います。そのときに正にGlobal Citizenという概念がより響いてくるのではないかと考えます。
 すみません。十分なお答えになっておらず,少し言い訳がましい説明になりましたけれども,大事な御指摘をありがとうございました。
【村田委員】  それでは,河野先生,よろしくお願いいたします。
【河野委員】  杉村先生,大変勉強になりました。同じ分野ではありますが,私は現場の中でこれらの体験をしております。
 AFSという団体がGCEに偏った活動をしているのは,(AFSが)日本の教育から生まれたものではなくて,国際的なネットワークの中で,OECDの流れなどを汲(く)んできたからかもしれません。
 御紹介した教育目標にはこのGCEの要素がすごくたくさん含まれています。あくまでもシチズンであるということを強調して,個人の教育だけではなくて,地域社会の中で,地域と一緒に学ぶということに重きをおいています。日本の中では確かに珍しく,理解されにくいですね。地域で活動するボランティアの人たちも,地域の中でどういうこと? ということをよく質問を受けるようです。 
【村田委員】  ありがとうございました。
 それでは,清原委員,よろしくお願いいたします。
【清原副部会長】  ありがとうございます。清原です。
 杉村委員,河野委員におかれましては,本当に幅広い視点で,実践に基づいて分かりやすくお話をしていただきましてどうもありがとうございました。
 実は,私も吉見委員と同じ問題意識を持って質問させていただこうと思っておりまして,今の御質問への御回答でかなり明らかにはなったのですが,少し視点を変えて,まず杉村委員に伺います。「持続可能な社会の創り手をつくる」ということで,学習指導要領にも明記されている「ESD」の取組の中で,今,河野委員が問題提起されている「グローバル市民(Global Citizen)」としての感覚といいましょうか,あるいは,意識というのでしょうか,そういうものも一定程度関心を持ったり,身につけたりすることができているのではないかなとも想像しておりまして,実践の事例を御紹介いただいている中で,主体的に地域の創り手として,未来に向けた課題を解決しようとする子供たちが,国際的な視野の中での市民感覚といいましょうか,人権意識といいましょうか,杉村委員が指摘されている平和への思い,そういうものを育むような効果が感じられていらっしゃるかどうかを1つ確認させていただきたいと思います。それが1点目です。
 そして,河野委員に伺いたいのですけれども,本当に多くのボランティアの皆様が,輩出する地域においても,あるいは,受け入れる地域においても,これだけの取組を行われているということで,そうした人材育成というのは,大変きちんとしたカリキュラムに基づいてされていると思うのですが,実際に「国際理解教育」を経験した高校生が,本当に他国に対する広い気持ち,そして,何よりも寛容性でありますとか,違いを受け入れるというような気持ちを抱く効果があると伺いましたが,ボランティアの皆様の意識というのは,どのようにこの実践を通して変わっていらっしゃるのか。そして,実際に「国際理解教育」に参加された高校生や大学生の中から,ボランティアとして今度はこの「国際理解教育」に関わるというような好循環が生まれていらっしゃるのかどうか。そのような「人」に焦点を当ててお気づきの点がありましたら,更に補足していただけると有り難いです。
 以上です。よろしくお願いいたします。
【村田委員】  杉村委員,お願いします。
【杉村委員】  ありがとうございます。杉村から,まず発言させていただきます。
 清原先生,本当にありがとうございます。おっしゃるとおりで,ESDの中でGlobal Citizenということがどのくらい意識されているかということですが,言葉として用いている例,あるいは,用いていない例がそれぞれあると思いますけれども,私自身は,2つの点で,Global Citizenshipに関係する要素は,しっかりと考えられた上で,様々な実践が取り組まれているのではないかと思います。
 1つは,先ほど御紹介したコンピテンシーベースの教育実践という点です。そこではコミュニケーション力や表現力,価値観,批判的思考力などの習得の重要性が指摘され,知識をただ身につけるだけではないとうことが重視されています。また異文化の,あるいは,多様な文化の違いを理解するといった点は,正にGlobal Citizenに求められている要素だと思います。
 河野先生の本日の御発表は現場の実践に基づいた御発表で,留学によってどのような力が身につくのか,また特定の時期に身に付いたというデータを見せていただき大変勉強になりました。正にそこで御指摘くださっていることは,ESDがコンピテンシーベースの教育として求めていることにほかなりません。もう少し申し上げると,今日,日本の現行の学習指導要領が,持続可能な社会の創り手を育てると言っていることとも重なるように思います。その点で,GCEという言葉では表現されていなくても,未来の担い手という意味では,そうしたコンピテンシーを持った学生が育っていくというのは非常に大事なことであると思います。
 2点目は内容面についてです。ESDでは,日本だけではなくて,世界中,取り組みやすさや喫緊の課題であるという点から,環境問題に非常に特化した実践が多く見られるのが事実です。ですけれども,この点も今日のスライドで御紹介しましたとおり,環境問題や生物多様性といったことだけではなくて,先ほど清原先生もおっしゃいましたとおり,正に平和であるとか,多文化共生であるとか,それから,防災であるといった視点が含まれています。特に日本は防災教育あたりも非常に強い,良い取り組みがあります。あるいは,地域コミュニティを巻き込んだ地域の町おこしや活性化,そうした点からも,ESDというのはいろいろな幅を持って取り組んでいくことができます。もっとも,そのようなことを言うと,いろいろなものが入ってきてしまって,どれもESDのようにも聞こえてしまうのですけれども。
 ただ,そのようにして,とにかく自分たちの周りのことを,それがどこかで世界とつながっているという意識を学習者に考えてもらうことは大変重要です。例えば,今日もスライドに書かせていただいた通り,福島県只見町の只見中学校の例は,山の中にある学校ながら,そこから海洋ごみの問題を考える取り組みを行っています。海岸に修学旅行で行って,そこでごみ拾いをして,流れ着いたごみがいろいろな国から来ているのを見て,自分たちが昨日捨てたペットボトルが環境にどのような影響を出しているかということを考え,それを新聞エコバッグにつなげる,といった様々な活動を展開しておられます。本当にすばらしい取り組みですけれども,例えば,そうしたときに,日本人としてということはもちろん大切ですが,日本人という枠組みを超えて,むしろ自分たちのやることが世界の明日起きている問題ともどこかでつながるという意識を育てることが大変大事なのではないかと思います。
 実は,先ほどの吉見先生の問いに戻るのですが,ユネスコがGlobal Citizenにずっと重視を置いてきたのは,戦後直後,世界大戦後に最初にユネスコが唱(とな)えたのが,地球市民の教育や,世界市民の教育でした。それを継承して,ユネスコ型の国際理解教育というのがあったと思います。一方,日本は,70年代ぐらいから,それももちろん考慮しつつ,日本型の国際理解を唱(とな)えるようになりました。これは日本が国際社会にいろいろなかたちで,貿易や通商,外交関係の展開により進出していくときに,日本人をいかに国際人にするかという議論が重要となり,その辺りからユネスコ型とは少し違った国際理解教育の重要性が議論されるようになりました。それが今日において,ESDとGCEDが一緒になることとなり,今申し上げました通り,日本や日本人としての役割ももちろん大事にする一方で,同時に,それだけではなく学習者に,自分たちの身の回りのことと地球規模課題を結び付け,自分事としてとらえることで,Global Citizenとしての役割や考え方を考えさせようとしているのではないかと,私は個人的には考えております。
 すみません。十分な説明となっているかどうかわかりませんが,以上でございます。
【清原副部会長】  ありがとうございます。
【村田委員】  ありがとうございました。
 それでは,小林委員,どうぞ。
【小林委員】  非常に分かりやすい御説明,杉村先生のアカデミックな観点から,そして,河野さんからの現場に即した御説明で,どのようにものが進んでいるのかというのがよく分かりました。
 それで,私からの質問は,国際理解についてです。留学が有効であるというような御発言があったと思うのですけれども一方で,今,日本の各コミュニティには,日本人ではない,日本語を母国語としない方たちがたくさん入ってきていて,この委員会でも,そういった日本の国籍を持たない御両親から生まれた子供たちをどう社会に溶け込ませていくかということについて非常に大きな課題として持っていると理解しています。では,Global Citizenを考えたときに,留学をしなくても,自分たちの身近にいろいろな国の人たち,違う文化を持った人たちがいるという環境があるわけですよね。そうした環境をGlobal Citizenの育成に実際に現場で使われているのかどうか。あるいは,そういった外国人の多い地域のコミュニティの学校においては,先ほど杉村先生のスライドにございましたけれども,多様な価値観と共存をするというような視点で,そのコミュニティの意識が高まってきているのかどうかというようなことについて,具体的な事例等御存じであれば,教えていただきたいと思います。
 また,教育の現場で,そういった地域の特性を生かしたGlobal Citizenの教育を行う取組というのは,特にしているのかどうかという点について,お教えいただきたいと思います。
【杉村委員】  では,まず私からでよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 本当にこれも大事な御質問を頂きました。ありがとうございます。留学の大事さは言うまでもないのですが,一方で,日本おける「内なる国際化」ですよね。これは80年代頃から議論され始め,日本の社会の多様化が進む中で,特に90年代以降,日系人の海外から日本に来られるブラジルやペルーの国籍を持つ人たちの増加に伴って,こうした問題が更に注目されてきたかと思います。
 日本にいる海外につながる方々の中には,本当にたくさんの国籍の方がいらっしゃいますけれども,典型例として有名な小学校の実践で御紹介しますと,今,別の小学校と統合されてしまったので,名前が変わってしまっていますが,横浜市の「いちょう小学校」では,地域にある県営団地にたくさんの海外から来た方が移り住んで,多様性を持った地域社会の中で実践を展開しておられました。毎朝,校長先生が10か国語の挨拶をされるという点でも有名になられた学校です。子どもたちは,日本の公立小学校にいながら,毎日いろいろな国籍のお友達と,あるいは,日本語ができないお子さんと机を並べることで,考え方や価値観を学んでいくということになります。そうした環境を,日本の教育にうまく生かしていく取り組み例は,今日,外国籍の人が多住している地域では,たくさん出てきていると思います。
 ただ一方で,日本の場合には,それが47都道府県のあいだで偏りがあり,集住県と,それから,本当に1つの学校に1人ぽつんとそうした外国につながる生徒さんがいるというところ,中には,地域にはそうした方はほとんどいないという地域が大きく分かれてしまっているので,例えば,多文化共生という課題についても,すごく響く学校と響かない学校というのがあるのではないかと思います。
 先ほどの河野先生の御発表にも,AFS参加し,留学を経験した生徒さんが1人いることで,学校の中の国際的な意識がぐっと高まった例もあるということがございましたが,そうしたバランスをどう取るかというのが非常に重要な点なのではないかなと考えます。
 それからもう一つ,今,正に小林先生おっしゃったとおり,こうした多文化が進む社会環境について考えるべきではないかということは,これは日本の歴史を考えて取り組むことにもつながると思います。日本における外国につながる方々の中には,いわゆる在日の華僑(かきょう)や華人などの中国系や韓国・朝鮮系の人たちがおられます。数的にはこうした人たちが多く,それぞれの歴史的な経緯を持って多文化社会を形成してきたという点で,そうした方たちが学びの場としている外国人学校をどう扱っていくかというのも,今後,日本社会の多文化共生を考える上での課題となると考えます。そうした学校は設立の経緯は全く異なるとともに,今日,多様化している例がみられ,インターナショナルスクールだけが国際教育ではないことを如実に物語っています。例えば,中華学校に行きますと,本来は,中国語で教育を行う学校ですが,日本語の勉強に加え,今日では国際化への対応から,そこに英語を入れて,三言語を用いたインターナショナルスクールのようになっています。するとそこに,全く海外にはつながらない日本人の方たちが,お子さんに三言語教育を受けさせることを希望し,中華学校に子どもさんを入学させる親御さんが増えています。中には入学に当たりウエイティングリストがかかっている実態もあるとお伺いしております。
 このように,本当にいろいろな多様な教育が今日本の中にあることを受け,それを是非今一度よく見直して,いい意味での教育の多様性とグローバルを考えていく必要があるのではないかと思います。ありがとうございます。
【村田委員】  ありがとうございました。
 河野委員,よろしくお願いいたします。
【河野委員】  先ほど清原委員の方から御質問いただいていたことにお答えをしそびれておりましたけれども,そこから御説明いたします。ボランティアという無償の活動がGlobal Citizenに非常に貢献している。どうやって意識の変化が生またのか,という御質問を頂いておりました。ICLと我々は呼んでいますけれども,異文化理解教育,つまりGlobal Citizenship教育をボランティアに対して行っています。それにより,ボランティアの人たちの留学生を受け入れるときの物の見方が大きく変わりました。日本にいるボランティアが海外の留学生の面倒を見るので,そこにはどうしても日本人としての背景があるため,留学生がホストファミリーとトラブルを起こしたときには,日本的な視点でどうしても物事を今までは見がちでした。そして,そのような留学生たちに対して,この子はいけない,この子を指導しなきゃというような気持ちで長年接していたように思います。それが,このGlobal Citizenship教育の推進によって変わりました。御紹介をしたスライドの中に,DIVEというモデルがあります。実際にボランティアのトレーニングで,何をあなたは見たか,それがあなたにはどう見えたか,それは正しいか,そして,振り返って考えます。ボランティアは日々このようなトレーニングをして,何を見て,どう見えたか,そこでジャッジをしない,判断を保留するということを学んでいます。世の中の誤解と偏見というのは大抵そこで起きるため,判断を保留して見方が正しいかを考えます。これを繰り返していくうちに,トレーニングを積んだボランティアは,どんどん見方が広がって,ホストファミリーとの間に入って,異文化体験の伴走者になっていってくれています。
 それから,地域に関する問題意識としては,例えば,自治体の中にも国際交流協会がたくさんある地域と一切そういうものがない地域と様々です。以前少し調べましたところ,外国人労働者の人たち,特定技能労働者の人たちの多くが,実は国際交流協会などが存在しない地域に多く滞在しているようです。ベトナムから来た留学生が,日本の田舎で自国からの労働者に多く出会って彼らの問題を知り,自国に対する問題意識を高めて帰るといったケースもありました。
【清原副部会長】  ありがとうございます。
【小林委員】  ありがとうございました。
【村田委員】  ありがとうございました。
 それでは,岩本委員,よろしくお願いいたします。
【岩本委員】  よろしくお願いします。私,質問というか,少しつながるところの意見になるのですけれども,よろしいでしょうか。
 私,杉村先生の御発表の中にあった日本型教育の海外展開の事業をやらせていただいて,私,あれで少しよりグローバルな視点で日本の教育を見る機会を頂いて,そこで気がついた点,3点ほど論点として提示させていただけたらと思っています。
 1点目は,今後,グローバル化に向けては,外国人材の受入れや活用という観点です。私,海外展開の中で,ブータンだとか,そういったところでやったときに,非常に意欲や能力の高い教員が現地にもたくさんいらっしゃる。英語で普通に算数だとか,そういったものを教えている先生たち,そういった国においてやる中で,やはり日本に学びに来たいという先生たちはたくさんいました。今もいます。
 私,ALTとかも大事だと思うのですけれども,こういう意欲や能力がある,そういった国の先生,英語でいろいろ教えられる先生たちが,日本に来て,ティームティーチングのような形でも参加しながら,学んで帰っていくというようなことも含めて,なかなか教育分野って,外国の人材の受入れとか活用ってやってきていないと思うのですけれども。まずは,外国語教育の部分からも,そういった方たちを受け入れて,活用していくというような視点も,今後検討があってもいいのではないかというのが1点目です。
 2点目は,日本語教育に関してです。私,そういった活動をする中で,日本に興味を持って,日本語学習していた子が,日本の高校に留学してきて,その後,日本の大学にというようなことなんかも見てきました。見てみると,今,海外で日本語学習する人たちというのは増えてきていて,400万人ぐらいですか。今,世界に日本語学習者がいると。
 今,国内でも,先ほど話がありましたけれど,国内でも日本語の学習が必要な方たちがいるというときに,語学の教育というのは,オンライン化だとかデジタル化と相性がいい。デジタル教科書も英語からとかという話がありますけれども。今後のグローバル化を考えたときに,日本語教育のデジタル化やオンライン化の推進というのを,このタイミングで検討して,それは国内の人たちもそうですし,国外での方たちもそうですけれども,ここら辺は今まであまり論点で挙がってきていないと思うのですけれども,検討があってもいいのではないかというのが2点目です。
 3点目は,在外教育施設,いわゆる日本人学校だとかのポテンシャルというか,それも感じたところです。今後,そうやって外から受け入れていくだとか,外に出ていくという意味においても,世界に100校近くある在外教育施設の活用というのも,今後考えてもいいのではないか。
 その中で1つ大きな課題になっているのが,日本人学校で言うと,高等部がない,高校段階がないというところで,日本人学校では,唯一,上海だけしかないと。ですので,中学卒業段階で日本に戻るのかとか,なかなかそのまま続ける選択肢がないというのが課題である中で,今,高校段階では通信制課程の活用だとかというのもできて,オンラインでの学習もできるようになってきていますので,海外の日本人学校のところでも,高等部的な部分というのは,通信制だとか,オンラインも活用すれば,十分もう可能な,今までだったら人数が少なくて,そこまで教員配置はできなかったところが,キャンパス校とか,スクーリング的なものなんかも組み合わせればできるようになっていますので,今後,在外教育施設の活用だとか,その中での高等部の問題も,このオンライン・デジタル化の中で考えていくべき論点の一つではないかというところです。
 というので,私,最初に言いました日本型教育の海外展開も,日本の教育人材のグローバル化とか,その学びにおいても価値があると思いますので,引き続き展開していった方がいいのかなと,最後に述べさせていただきます。
 以上,3点でした。
【村田委員】  ありがとうございました。
 それでは,よろしくお願いいたします。まず,杉村委員からお願いいたします。
【杉村委員】  本日は皆様より本当に貴重な御意見いただき,私も手元でたくさんメモを取らせていただきました。ありがとうございます。
 岩本委員の御発言にコメントさせていただきますと,日本型教育の海外展開については,日本が国際協力においてとってきた要請主義に基づく取り組みであるという点が重要だと考えます。現地の需要やニーズに基づいて,一緒に考えていくというスタンスが大変大事なのではないかという点です。
 また,3つ目に挙げてくださったオンラインを活用した日本語教育,特に在外の日本人学校,これの活用という点も,確かにおっしゃるとおり大変重要だと考えます。逆に,日本人学校から帰国された生徒さんたちは,いろいろな豊かな経験を積んで帰ってこられます。ただ,日本人学校も,アジア地域については日本人学校が多いのですけれど,例えば北米地域には少なく,多くの方が現地校に通いながら,土日の補習校に行っていらっしゃると伺っており,こうした点も,日本の国際教育の特徴として,今後の教育実践にどのように活用し展開していくのがよいかという点があると思います。
 気が付いた点をコメントさせていただきました。ありがとうございました。
【村田委員】  ありがとうございました。
 河野委員,よろしくお願いいたします。
【河野委員】  私は,特にこの分野に関しては,日本語教育ということに関しては知見がございませんので,杉村先生の御意見にエコーさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
【村田委員】  ありがとうございました。
 それでは,内田委員,よろしくお願いいたします。
【内田委員】  今日は本当にすばらしい御発表ありがとうございました。それぞれ,杉村先生,河野先生の御発表から,非常に包括的に私の中でも考えが整理されたかなと思っています。
 コメントという形で意見を表明させていただきたいと思うのですけれども。これまでのこの部会での議論の中で幾つか出てきたキーワードというのが,ウェルビーイング,誰一人取り残さない,それから,デジタルの話,あと,地域の話というのがそれぞれ出てきていたかなと思います。
 そういった観点とどのようにつなげて今日の話を連携させていくのかなと考えたときに,例えば,誰一人取り残さないという観点から言えば,グローバルの教育を受ける機会であるとか,そもそもそういうことに関心を持つ機会に,個人間や地域の格差があると感じている反面,ますそういうところに力を入れている学校であるとか,地域のコミュニティに所属している子供たちというのは,いろいろな形で国際的なことに触れ合う機会もあったりすると思うのですね。
 逆に,国際的に活動してみたいとか,国際市民としてやっていきたいという思いを持つに至るような機会があまり身近にはないケースもあるかと思います。,先ほどの吉田委員からの書面と同じように,国際教育を受けることというのが,ワンステップ上の高尚なものとして捉えられていて,そこにたどり着ける機会を広く提供できているかというと,現状としては,そうではないのではないと感じています。
 一部の人だけに開かれたものではなくて,皆にとってこれは重要なこととして,国としても支援をしていく。誰でもいろいろな国の人とつながれるのだというような,そういうルートをきちんとつくることができないかと思います。
 それは国際市民として活躍できるというような先進的なことだけではなくても,一人一人のアイデンティティの問題であるとか,日常の中で国際的な視点を持つこと,多様性について考えることの積み重ねではないかと思います。
 もう一つは,デジタルの活用です。デジタルの活用により,より身近に,どんな人にでも国際的な交流にアクセスが可能であるというようなことをうまく橋渡しできる。そういうルートをきちんとこれから教育の分野でもバックアップしていけないと思いました。
 大学教育の中でも,留学生を受け入れています。そういう留学生たちは,日本で一定程度勉強したということが持つ国際的な価値を非常に気にかけています。そうしたニーズに応えることができるようなものを日本の教育が提供できているのか,ということの検討も含めて,留学生のその後のキャリアパスというものをトラックしていくことも大切なのではないかなということを思いました。
【村田委員】  ありがとうございました。
 お二人の委員,今日御発表の委員からございますか。
【河野委員】  全くそのとおりでございまして,今,内田委員が御発言されたことも,非常に深く共感をいたします。
 海外留学ばかりをグローバル教育と見る傾向にあると思いますけれども,やはり我々のコミュニティの中にもっと身近にそれが感じられるような環境づくり,これをしていきませんと,言葉が全く分からないおじいちゃん,おばあちゃんでも,自分の家の中に海外から来た子供が1人いるというだけで,世界が広がるというようなことがあります。そういうコミュニティ単位で,高校生の留学の受入れ(まだ海外留学の半数以下なのです)にもう少し力を入れていくことで,日本自体の物の見方というのが変わっていくのではないかと思いますし,留学が,バーが高いと考えるということから,一歩進んだ教育になるのではないかなと考えております。
【村田委員】  ありがとうございました。
 次,徳永委員,大森委員,松浦委員,手が挙がっているのですが,あと4分ばかりしかございませんので,手短にお願いいたします。それでは,まず徳永委員からお願いいたします。
【徳永委員】  時間がないと思いますので,手短に話をしたいと思います。
 杉村委員と河野委員,ありがとうございました。大変整理ができました。これまで多文化化や内なる国際化と,グローバル化というのが別々に論じられているような気がしていましたので,杉村委員がそこをつなげてくださったのがとても重要な視点で,この視点が今回の計画にも生かされると良いと思いながら聞いておりました。
 あと,国の枠組みを超える教育の模索という点も,現在の計画は国内の教育に強く視点が当たっているところがあるので,もう少しグローバルな視点とか,国際比較の視点みたいなところも意識してつくる必要があるというのを改めて思いました。
 あと,もう1点,先ほど小林委員から質問があった,地域にいる外国人住民とか外国につながる子供たちとか留学生を生かせないのかというのは,本当に私自身もこれまで研究や実践をやっていく中で思っていました。学校の中での市民性教育というところで,外国人住民に授業に関わってもらったりとか,一緒に参画できるような学校づくりに取り組んでいるところもありますので,やはり両輪で,ですよね。日本人の学生を海外に送り出したりとか,留学生を受け入れるだけではなくて,外国人住民など地域にいる多様な人材とともにつくっていき,その資源を生かしていくという視点は,私も今回とても重要だと思って聞いておりました。
 以上です。ありがとうございました。
【村田委員】  ありがとうございました。
 では,大森委員,よろしくお願いします。
【大森委員】  私も短く。
 1つは,先ほど岩本委員がおっしゃった海外の日本人学校の話は,私は,デジタル田園都市国家構想の文脈でその話をしていて,やはり学びとデジタルということを考えたときに,フランスの日本人学校の校長先生とつながっていて,そういうニーズが非常にあるのだ,何とか前橋の学校とつながって高校教育できないかみたいな。まだ実現まではかなり距離がある話なのですけれども,そのような話があったというのは少し補足です。
 それから,皆様のお話を聞いていて,私も内なるグローバル化というのにずっと取り組んできたものですから,全てアグリーですという中で,杉村先生にお聞きしたESDという考え方が,大学というよりも,むしろ初等中等の中にどれぐらい浸透しているかというのは,今,高校で探究がすごく熱心に始まっている中で,いわゆるSDGsをテーマにした探究学習って,みんなやり始めているのですね。ところが,それがどうもESDの感覚とつながっていない。しかし,そこをつなげてあげるだけで,地域のことをやっていたら,気がついたらグローバルだったねというところに持っていけるはずなのだけれどもと思うのですが,その辺り,どうなのでしょうかというのをお聞きしたかったところです。
 以上です。
【村田委員】  それでは,杉村委員,簡潔にお願いいたします。
【杉村委員】  では,簡潔に。
 本当にありがとうございます。最後の大森先生の御質問ですが,ついこの前も,「SDGsは知っているだけれど,ESDは何ですか」とお尋ねくださった方がありましたが,今日の説明のように,私としては,ESDはSDGsの根幹を支えるものと考えております。先生が今おっしゃったとおり,探究学習におけるSDGsですが,実際には,その中身はきっとESDにつながると思います。更にもう少し申し上げると,国際理解教育をずっと実践してこられた日本の先生方にすると,ESDが出てきたことで,国際理解教育はどのように捉えられているのかと,そういう御意見も実はあるように思います。
 しかしながら,ユネスコが脈々と伝えようとしてきたもの,その根底は皆共通であり,つながっているように思います。その時代時代のいろいろなニュアンスや求められるものを反映して,少しずつ表現は変えられていますけれど,最終的には,正に自分事として日常から世界とつなげて考え,持続可能な未来社会のための創り手となる,そういう人材を育てるところを共通の柱として取り組んでいくべきではないかというのが私の考えです。
 ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
【村田委員】  ありがとうございました。
 それでは,最後,松浦委員,よろしくお願いいたします。
【松浦委員】  すみません。もう本当に簡単に,一言。大変興味深い御発表ありがとうございました。
 少し違う観点から,一言だけ申し上げると,グローバル化の部分に限らないのですけれども,特にグローバル化を考えるときに,危機管理的な観点が,サステナビリティも大切なのですけれども,予測不可能な状態にどう対応していくのかということも必要になってきているということを,我々,この3年で学んだのかな。コロナだけでなく,戦争の影響であるとか,経済情勢の影響で,海外との関係というのはすごく変数が多い中で考えていかなければいけないということを日頃実感しているもので,先生方のお話を聞いて,なおさら,もっとその観点も必要なのだなということを改めて自覚しました。ありがとうございました。
【村田委員】  ありがとうございました。
 少し時間をオーバーしてしまいましたので,この辺で「グローバル」のグループは終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
(スポーツ・文化芸術・体験活動グループの委員が移動)
 
スポーツ・文化芸術・体験活動グループ
【牧野委員】  皆さん,よろしくお願いいたします。牧野です。司会進行を務めさせていただきますので,どうぞよろしくお願いいたします。
 こちらのグループですけれども,スポーツ・文化芸術・体験活動のグループになります。毎回同じことなのですが,御発言のある方は挙手ボタンを押していただきますようにお願いをいたします。また,このセッションはレコーディングをしておりますので,御了承いただければと思います。
 ここから意見交換に入りたいと思うのですが,先ほどの御発表もそうなのですけれども,スポーツと文化芸術と体験活動という,非常に幅広い話題を扱っていますので,どう話を進めていいか私も困っているところがあります。もう一つの議題であるグローバルということとも関わりがありますので,少し変な言い方になりますけれども,ひとつずつ分けるのではなく,全体を交ぜる形でお話をしていただければと思います。スポーツはスポーツでお話があれば結構なのですけれども,それと,例えば文化芸術とか体験といったこと,学校外での体験活動,例えば先ほど福山市の御発表もありましたけれども,子供たちを様々に地域やいろいろな社会的なものと結びつけて,深く学んでいくこと,それが,先ほどの最後の御報告にもありましたが,本質を学ぶことにつながるのではないかとか,こういう形でお話を展開していただいて,委員の皆さんの御意見をいただければと思いますので,よろしくお願いいたします。
 それでは,ここから,御自由に発言いただければと思います。いかがでしょうか。では,永田委員,お願いいたします。
【永田委員】  難しいというか,なかなか設問が確定していないので,物議を醸し出した方がいいかと思いまして,発言します。
 物議を醸し出させていただくということですが,理系は第一原理主義者なので,基本的にここで捉えるスポーツとは何か,ここで捉える文化芸術とは何か,それを皆さんでもう一度考えてみてほしいと思って提案をします。
 皆さんの話は大変結構で,私もほとんど賛同できるのですが,体育とスポーツの違いについては触れられていませんでした。体育にあってスポーツにないもの,スポーツにあって体育にないものというのがあるはずで,両方に共通しているものもあるはずです。例えば健康とか体力というのは多分共通しているのだと思います。
 スポーツというのは,大日方委員がおっしゃったとおり,実は,体育というものが先に明治時代に日本の中で構築されていく中で,スポーツという概念は既にあって,その中には,エンターテイメント性・楽しさが,体育にはないものとして語られています。それから,もう一つ大切な要素で,これはあえて触れられなかったのでしょうが,競争というのが非常に重要な要素になっています。
 従いまして,スポーツ全体の話の中で少し違和感がありましたのは,そこの部分を明快にしておかないといけないのではということだと気付きました。教育振興計画の中に書くのであれば,スポーツのエンターテインメント性というのはきちんと出していかなければいけないし,楽しいから続くということも当然あるので,それは最も大切にしなければいけないことの一つだろうと思います。
 その楽しさは,東京パラリンピックを地元でやりまして,久しぶりに必死に見て回って,尊敬の念に至るわけです。これは,種目は違うが,とても自分では到達できないレベルのすばらしいものであると思うからです。それはどこから得たかというと,やはり最先端での競争の中から感動が生まれて,尊厳が生まれて,インクルーシブというような概念をわざわざ考えなくても,スポーツに関わる人々は,普通なのです。
 これが東京オリンピック・パラリンピックの一つの成果であり,とてもよかったと思います。身近に,こんなにパラが感動できるものだ,すばらしいものだということを,感動させてもらいました。
 そのような意味合いで言うと,インクルーシブだとかダイバーシティーだとかということを強調すべきではなくて,究極,言わなくても,スポーツはそこに到達するのだろうということをよく認識した方がいいのではないかと思って聞いておりました。
 芸術については,最後の吉田委員の文章には感動しました。これも大変すばらしいと思いました。教育全般にわたることを最後にバレエで締めていただきまして,確かにそうなのだろうと思いました。
 芸術には幾つかの領域がありまして,いわゆるファインアートやデザインの世界,それから音楽の世界,それから身体芸術の世界,大きく言ってこの三つあるわけです。これらの根源的な哲学的な問題として芸術とは何かというと行動です。芸術とは作品をつくりますが,究極,行動です。まして,小学校,中学校,高校レベルで。岡本太郎は「爆発だ」と言ったではないですか。そのとおりだと思うのです。最終的に心の中から出てきたものを造形であるとか身体を通しての表現であるとか,あるいはもっと論理的な音楽という表現で表していくというところなので,最終的に行動していく,つまり表現をするということが非常に重要です。
 だから,先ほどの吉田委員がおっしゃった,これは身体芸術になりますが,画一的な教育を受けたら絶対に自由な発想でのバレエはできないというところに多分至るのだと思います。
 その辺りの第一原理主義的な理解は必要で,せっかく新しい教育振興基本計画をつくるのであれば,今まで不得意であったようなことも,きちんと改めて,向き合ってつくったらどうかということで,特別な意見はなくて,雑感,その辺りのことを述べさせていただきました。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。
 いかがでしょうか。第一原理主義的にとおっしゃいましたけれども,物議を醸すということで,スポーツは一体何であるのか,また,文化芸術は何であるのかということを基本に,その一番核になるものは一体何なのかといったことを一度議論した方がよいのではないかと。
 私の受け止めですけれど,多分,そこを突き詰めていくと,スポーツも,文化芸術も,体験活動も,さらにはグローバル教育といったことも,それらがどんなものなのかといったことも見えてくるような印象を持ちましたが,その辺りでいかがでしょうか。
 大日方委員,いかがですか。スポーツと体育の違いはどこかということも含めて,今,御指摘がありましたけれども。
【大日方委員】  ありがとうございます。私がきちんと全ての問いを理解しているかどうか分からないのですが,永田委員がおっしゃるとおり,スポーツがコンペティションの部分,ゲーム性のところがあるというところは,もちろん,私自身も競技者であり,何よりもそういう意味でいうと世界一になりたくて突き詰めてきた人間なので,強くあります。
 その一方で,これは全くの私見ですけれども,教育というところにおいては,スポーツを楽しむベースとなる部分がもう少し強調されてもいいのかなと,そちらに重点を置いてもいいのかなと思います。
 教育という限られた時間の中で,プライオリティーは何なのかなというようにも感じていて,特にスポーツ基本計画策定の議論の中で多くの時間を割かれたのは,スポーツというのは本質的には自発的なものであるし,もちろん我々も,苦しいことも多いけれども,勝利とかコンペティションの前提には,楽しむということが大切という認識があったなとも思っています。
 また,後半の方でおっしゃった点ですが,教育が,パラリンピックというものによって特にインクルーシブなのだと言わなくてもできる,それを見てすごいなと思ってもらう。それは東京大会で得たすばらしいレガシーだったと思います。
 こうしたレガシーができたのは,パラリンピックをそれなりに勉強してきている下地というものがあったようにも思います。特にオリ・パラ一体というような言葉はむしろ政策的に生み出した部分というところでもありますが,やはり今の段階ではそういう言葉が必要だと思います。私もパラリンピックとかパラスポーツとか言わないで,スポーツの中に当たり前にパラという要素も入るのだということができればいいなと思うのですが,今の段階では,少しまだ,社会的な機運ではそこに至っていない段階かなという認識,課題意識を持っている状況です。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 いかがでしょうか。永田委員の御提起もありますけれども,もう少し本質的な話で議論を深められないか,深めていくと広げられるのではないかということだと思いますけれども,いかがでしょうか。
 今,大日方委員から,スポーツのいわゆる自発性の問題,それからそこを突き詰めていくと,むしろインクルーシブとわざわざ言わなくても,ある意味で社会の中に普通に入っていけるようなものになるのではないかという話が提起されたのだと思います。いかがでしょう。なかなか取っつきにくいですかね。
 今村委員,お願いできますか。
【今村委員】  永田先生の面白い問いかけにきちんとお話しできるか分からないのですけれど,この点について,現場の肌感覚で発言をさせていただきたいと思っています。
 私は,まず,大日方先生のプレゼンテーションに100%,どちらかというと賛同しています。といいますのは,本当にスポーツのコンペティション性のところが醍醐味(だいごみ)だというのは,ゲーム性としては分かるのですけれど,それは本当に全ての子供たちの権利を守る形で,学校教育や家庭教育で,すごく果敢に挑ませる子供たちへのスポーツや部活の在り方の中で,本当に子供の権利を守る形で実装されているだろうかというと,現状そうなっていないような点が多いのではないかなと思うのです。
 もちろん,物すごく一生懸命やりたい子たちにはそこを保障していってあげる必要があると思うのですけれど,例えば,地方だと,これは社会教育が弱体化しているが故というところもあると思うのですが,子供の部活の参加は100%ですというような地域も,中学校も高校もまだすごく多かったりして,部活に100%入らなければいけないという前提で,帰宅部なんて概念はありませんという中でされている部活の,何というのか,過度なコンペティション性が,多くの子供たちのスポーツを楽しむ権利を排除していないかと思ったりする局面に出会うことも多くあります。
 部活自体もこれからどう捉え直していくのかという時代に来ていると思うのですけれども,例えば,運動会の在り方,体育祭の在り方,一つ一つにも,大人たちがこれまで文化として継承してきた在り方が,実は多くの子供たちの楽しめる機会を排除しているのではないかという現状が,障害の有無に関わらず,私はあると思います。
 本当に個人的なことなのですけれど,うちの子が行っている小学校はチーム制で運動会が開催されるのですが,例えば50メートル走にしても1,200メートル走にしても,自分のスコアよりも伸びたらそのチームに加点されるという評価の仕組み,正に大日方先生がおっしゃっていたようなやり方でやっているので,走るのが決して得意ではなかったうちの子でも物すごく楽しめるし,人と比較して遅いとかではない次元で楽しむことができる環境にさせてもらえています。それは,母親の運動音痴をそのまま継承してしまっているこの子にとってすごくいい機会を与えてもらっているなと思ったりしています。
 ということで,今回の振興計画の中でスポーツと運動,スポーツと体育というものを,何かごっちゃにして語っていたら申し訳ないのですけれども,私は,大日方先生が投げかけられた点はきちんと大切に計画に反映していくべきではないかなと,まずスポーツの点の議論については感じました。
 まずは以上です。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 いかがでしょう。今,スポーツのところを中心に話が進められていますが,先ほどの永田委員の御提起から大日方委員,それから今村委員のお話で,どちらかというと永田委員の御提起が,今,私も思いましたのは,例えばいわゆる公教育における自由と平等の関係の話に収れんしていくところがあるのかなと。そういう感じに受けとめました。
 一つはスポーツを個人が自由に行うという意味での自由と,みんなに同じように保障しなければいけないという平等の話。もう一つは,平等が,今度は逆に言うと,ある意味で楽しみみたいなことの自由を抑圧する,いわば強要という形になってしまうといったことにおいて,それらつまり個人の楽しみであったり,自由にスポーツを行うということを,平等という形の中に自由をどう埋め込んで,実現していくのかということに収れんしていくような話になってきたのではないか,という感じを受けるのです。それは先ほどの芸術とか文化とも関わりがあるのだろうと思うのですが。
 三好委員,いかがでしょうか。福山市での取組の中で,子供たちが地域の様々なアクターと結びつく中でより深い学びをされているという御報告だったと思いますけれども,今のような例えば自由と平等という議論をしようとすると,そこはある意味でトレードオフの関係であったものをうまく調整しなくてはいけない,またそういう対立関係ではない,違うものにうまく変えていくということが可能になるような論理がそこにはあるのではないかという印象もあったのですが,その辺りで少し御発言いただけますでしょうか。
【三好委員】  ありがとうございます。
 今おっしゃった自由と平等とか平等と公平,この辺りは,学校を覆っている考え方,価値への問いかけや問い直しであると思います。今日報告させていただいたいろいろな取組の基というのは,学習指導要領で掲げられている子供たちが主体的,多様的に学ぶということ。それは,ともすれば活動で終わってしまって,その本質を考えて,本質から問い直して変えていかないと,主体的,多様的な学びにはならない。活動あって学びなしということを,この間,校長会等でも話してきました。例えば学校だったら,みんな同じようにとか,一斉にという価値を問い直し緩めることはものすごく大変です。
 ですから,コロナ禍で,GIGAスクールで端末を配っていただきましたが,「いろいろな家庭の状況があるから,一斉に配れない」とか,「使える子や使えない子があるから,事前に準備をして教師が指導できるようになって配る」とか,本市においても,県内においても,県外においても,そういう声を様々聞きました。
 そこで平等とか公平とは何なのかという問いを出しながら,できるもの,できることまで制限をかけることが平等,公平なのかを話してきました。これはスポーツに限らず,「学校教育が」なのか,「日本の社会が」なのか,私はわかっていませんが,こういう問い直しと併せてでないと,結局ぶち当たるところは,自由とか平等とか公平とかなのですよね。
 若い人が必ずしも軟らかい,年齢の高い方が難しいというわけでもなく,仕組みを変えても,制度を変えても,基にある考え方とか価値とどう向き合っていくのかが重要だと思っています。いろいろな場をどんどん提供しながらそこで自由,平等,公平にということを改めて考えていきたいという思いで取り組んでいます。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 どちらかというと,学校という議論になってくると,自由と平等は,簡単に言えば,過去のいわゆる産業社会といいますか工業社会で,画一的で,みんな同じように,といったことをベースにするような教育の中で,両者の関係をどうするかという議論になりがちだという話だったと思うのです。それを今,スポーツや芸術や文化という,むしろそれになじまないようなものからどう学校をもう一度組み替えるのかという議論をしなければいけなくなってしまっている。
 そこで,例えば,今,三好委員がおっしゃったように,自由と平等ということよりは,では公平なのかとか,公正とは何か,というような議論で,この自由と平等との関係を組み替えることが可能かどうかといったことも含めて,何か御発言があればと思います。順番に,では,関委員,お願いできますでしょうか。
【関委員】  ありがとうございます。今の牧野先生の話につなげられるかどうか分からないのですが,特に三好教育長のおっしゃっていた様々な学校のイメージ,特に私が興味を持ったのはイエナプランの学校なのですけれども,正に多様な,いろいろな物の考え方,自由を尊重しながら,学年間をもクロスオーバーさせていくような,新たなオルタナティブ教育が公立学校で行われていることに感動しました。この学校に来る子供たちが,ほかの一般的な学校の子供たちと同じような教育環境を福山の中では持たれているのか,多様な学びが,こういうふうな学校形態を採ることができる福山市では,当たり前に行われているのかなというイメージを持ちました。
 この辺について,私どももこのイエナプランを市内の小学校の,統廃合の際に検討したことがあったのですけれども,なかなか,教員の確保の問題,あるいは市内いろいろなところからそこに通いたいという子供に対して公平性の確保などの障害で頓挫しましたが,福山市の場合はどのような対応をされて,こういうふうな多様な学びを子供たちに提供しているのか,もう少しお話を聞かせていただけると有り難いなと思っております。少し話がずれてしまって申し訳ないのですがよろしくお願いいたします。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 三好委員,いかがでしょうか。少し御説明いただければと思いますけれども。
【三好委員】  ありがとうございます。
 準備期間も含め,取組を始めて今,4年目になります。子供の違いということでは,なかなかデータとかはっきりしたものは持てていません。
 しかし,本市で,異年齢集団で取り組む教育活動,そういう学校をスタートできたということは,今日お話をさせていただいた「フロンティア校事業」を通して,教科や学年を越えて子供たちが学んでいることを実感し,学び,授業を変えていこうとする全体の大きな動きがベースとしてあります。いわゆる縦割りによる異年齢の集団で行事だけでなく,総合的な学習や算数の内容を異年齢で学習するなど,福山100NEN教育という名の下での取組が2016年度から始まっていく中で,従来型の授業を変えていくという先生たちの意識と取組,動きが少しずつ広がってきていました。
 そういった異年齢で学ぶカリキュラム,教育課程を考えて広がる中で,そもそも学ぶとか,分かるとか,教えるとか,子供同士が学び合うとか,そういうことを考える研修や授業づくりに全市で取り組んできていましたから,イエナプラン教育校がスタートできました。
 この間,教職員の異動についてよく聞かれますが,イエナプラン教育が目的ではない。目的は,学びを変えることで,子供たちが学ぶ環境と内容をつくっていくことを,不十分ながら全市的に取り組んできた時間があったから,そういう学校もつくり,教職員の異動もできるとお答えしています。
 そういった全体との関係の中で,イエナプラン教育校を設置し,取り組んでいます。答えになっているかどうか分かりませんが,以上です。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 最初,永田委員からの御提起で,本質,核となるのもは何かというような話になりまして,私の方から自由と平等という話を持ち出したのですけれども,今日の議論でスポーツと文化又は体験活動,基本的には先ほど行動だとおっしゃったことや表現といったことに関わって,それらは自由を本質とするものだと規定できるのではないかと思うのです。
 それといわゆる今までの学校教育の平等主義とか画一主義との間の矛盾,又は,それが自由を本質とする活動と衝突してしまっている。そういう意味で,そうしたものが学校の在り方を変え得るのではないか。
 それを,先ほどのイエナプランの学校の話に戻しますと,今度は,学校を変えていくことによって,例えば自治体の学校の在り方が組み替えられていって,そして今日の議論になっているスポーツや文化や体験活動といったことによい影響を与えることが可能になるのではないか。そういう議論にもなってきているように思うのですけれども,それに関わってでも結構ですが,いかがでしょう。
 黒木委員,お願いできますでしょうか。
【黒木委員】  よろしくお願いいたします。
 今,三好教育長さんの福山市での多岐にわたる先進的ないろいろな取組,非常に参考になりましたし,有り難いなと思って聞かせていただきました。また,そもそものところですけれども,吉田委員の御指摘は,大変重い御指摘だと感じます。大日方委員の御発表は,まさしく競技の第一線を経験されたからこその楽しさ,喜び,自発性の大切さをおっしゃったなと感じます。これも,とてもすばらしい言葉だったと思っております。
 改めまして,先ほどの永田委員の御指摘,そして牧野先生の今,会議を回していらっしゃる様子を見ながら,私は教育行政におりますので,この計画の実効性というものをどうしても考えます。
 そうすると,そこには税金が当然投与されて施策が動き出すわけですので,今日の議論のもう一つの側面に環境というものがあると思うのですね。いかに環境をつくるのか,あるいは,先ほどの福山市の場合だと埼玉県と環境をつないだわけですよね。そういった環境づくりというのは非常に大切だなということを改めて感じております。
 自由とか平等という言葉もありましたが,普遍的な価値ですよね。そこに立ち戻るということをとても必要だと思っておりますし,そのために環境を準備していく。つまり,今の教育振興基本計画は,人づくりという部分ではオリ・パラのことも目標の中にきちんと織り込んでありますよね。当然そういったことに施策を集中したという部分も少なからずあったように感じます。
 そういうことから言いますと,では次の環境とは何だろうということを併せて考えます。そうなると,ひょっとすると都市部と地方では違うのかもしれない。先ほどの東京都の方での大日方委員からのそれぞれの自治体の発信ですね。ということは,例えば,私の県では,すぐにはうまくいかないかもしれない。そもそもの,スタートの地点でのそういった都市部と地方との違いにも目を向けながら,どうやって環境をつくっていくことで,文化にしてもスポーツにしても,本物と出会わせるのかというところなのかなと,お話を伺いながら考えておりました。
 以上でございます。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。
 実行可能性の問題として,環境整備をどうするか。それは,子供たちにどんな体験をさせるのか。もう少し言えば,大人たちがどんな体験をするのかといったことにも関わってくる,そして子供たちの活動をどう保障するのかといったことにも関わると思います。環境整備の重要性の御指摘だったと思います。ありがとうございます。
 次に,黒沢委員,お願いできますでしょうか。
【黒沢委員】  少しお時間を頂いて,お話をさせていただきます。
 まず,本日御発表された先生方,大変有意義なお話ありがとうございました。僕自身も,すぐあしたから学校経営に使えるなという部分が幾つかあったので,本当によかったなと思っています。
 そこで,現場の一校長として感じるところを少しお話しさせてもらえばと思うのですけれども,スポーツ,それから文化芸術,体験活動,どれ一つ取っても,子供たちに本当にプラスの影響があるものばかりで,特にうちみたいに経験が少ない不登校の子供たちなんていうのは,本当にスポンジが水を吸うがごとく,いろいろなものを吸収してくれます。
 そのときに僕が注意しているのは,まず一番大切なのは本物に触れさせるということ。2番目は五感を刺激してあげるということ。3番目は,手の届くものを与えてあげる,あるいは身近に感じてもらえるようなことを与えてあげるということ。そうすると子供たちは,「では,自分の将来,こんなことやってみようかな」とか「世の中こんなことがあったのだ」みたいなことをよく理解してくれるので,スポーツ,文化芸術,体験活動は本当に大切だと思います。
 そのような中で,では,それを実施していくというところを先ほど黒木委員も御発言されていましたけれども,現場としては,企画力をもっと上げていきたいなと思います。校長一人あるいは教員一人で考えるのではなくて,何かいろいろ企画力を上げていくような仕組みづくりとか,あるいは教員を日常的に支えてあげるような仕組み,具体的にはヒト・モノ・カネなのですけれども,特にヒトは教員一人で何かやっていくのではなくて,何か「これ,やるぞ」といったときにすぐ応援隊が駆けつけてくれて,みんなでそれを実施段階に落としていくことも重要ではないかなと。
 あわせて,家庭もある程度支援してあげないと,イコールコンディションにならない家庭もたくさんありますし,GIGAだといっても,自宅でしっかりGIGAに対応できる家庭は実際そんなになかったりもします。
 やはり学校を支える,家庭を支える,そのようなところも基本計画の中に少し交ぜていただくと,より実効性が高まるのではないかなとも思っています。
 感想を含めて,以上です。
【牧野委員】  どうもありがとうございました。
 先ほどの環境整備,環境を保障するといったことも含めて,子供たちが様々な本物に触れる活動をして,やりたいとなったらそれを保障するような環境づくりといいますか,また,学校の対応の在り方も考えなければいけないだろうと。
 さらには学校をどう支えるかとか家庭をどう支えるかといったことも含めて,例えば今のコミュニティ・スクールの構想では,学校を地域が支えるといったことよりは,むしろ学校と地域が一緒になって子供を育てましょうということになっているかと思いますけれども,その意味で,例えば社会教育とか生涯学習とか,また社会との関わりもどう考えるのか。そこで本物に触れていくといったことも保障されていくのではないか。そのようなことにつながるような話ではなかったかと思います。
 ありがとうございます。
 次に,元紺谷委員,お願いできますでしょうか。
【元紺谷委員】  ありがとうございます。
 私は学校現場にいる人間の立場でお話をさせていただこうと思います。
都市部と郡部,先ほど都市と地方という話もありましたけれども,都会と田舎という視点です。黒沢委員からは,本物を見せるというお話がありましたが,私も同じ考えで,結構田舎の高校にいましたけれど,何とか子供たちに本物を見せたいと思いました。芸術鑑賞するにしても,3年に1回でもいいから本物のステージを見せたいと思いました。そういった都市と地方の格差をどう是正するかということが重要です。
 先ほどの大日方委員の資料にもありましたけれども,今,働き方改革が進む中で,部活動,運動の話が出ていました。運動も芸術もそうですが,学校の中で先生方が担っていた部活動指導を地域に移行するという話です。これは都市部ではかなり可能だと思うのですけれども,地方だと現実的には難しいと思います。人材がいればいいのですけれども,そういう人もいない。
 ここは少し言いづらい話ではありますが,学校文化,これがいいか悪いか分からないですが,授業で生き生きできない生徒が,放課後で生き生きとした表情を見せる生徒もおります。そういった活動場面が今,地域に移行されようとしています。働き方改革が間違った方向に進んでいるということではありませんが,都市と地方では同じにはいかないと思うので,そこの部分をどう埋めていくかというのが大きな課題だと思っています。
 以上です。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 自由と平等と言いましたけれども,むしろ自由を保障するために,平等にそれを保障できる環境を整えろというお話だったのではないかと思います。例えば都市と地方との格差のようなものが一例として挙げられます。ですから,子供たちが自由にいろいろなものに触れて自由に自分のことを表現できるために,条件を,都市-地方の格差を埋めていく,平等にしていくといったことが大事ではないかという話だったと思います。自由と平等の関係を考えるときの視点の在り方が少しここで組み替えられていくのではないかと思いました。
 ありがとうございます。
 続きまして,清水委員,お願いできますでしょうか。
【清水(信)委員】  ありがとうございます。
 まず,今日,事例報告いただきましたお二人の先生,ありがとうございました。特に大日方先生のお話の中にございましたスポーツを通じての共生社会の実現というところでお話をさせていただこうと思うのですが,私どもの学園には今1,600人の園児,児童,生徒がいて,そのうちの3分の1が発達障害,自閉症という障害のある子たちです。
 今日のテーマのスポーツ,体育というところで,まず,本学園の体育の中で運動会。
どんな運動会をやっているかということですけれども,障害のある子もない子も一緒に運動会は当然やっております。ですから,演目の中でも一緒にやります。
 大きな特徴が出るのは,幼稚園も小学校でも,全員リレーというのをやります。そうしますと,徒競走であれば一斉に,年少さんは徒競走だけですから,あまり差は出ないのですけれども,年長さんの全員リレー,又は小学校高学年の全員リレーになりますと,やはり障害のある子たちで一緒に順番で走りますので,第1走者はトップで帰ってきても第2走者が最下位になるとか,また,途中で走りをやめてしまう子たちもおります。
 最終的には,本当にインクルーシブ教育の中での運動会ですので,障害のない子が,立ち止まった傷害のある子たちに一生懸命声援を送ったり,伴走をしたり,ゴールまでたどり着かせている風景が,毎年,幼稚園でも,小学校でも,中学校でも,高等専修学校でも見られております。
 部活動においても,発達障害の子たちが参加しているものも幾つかあります。高等専修学校では,陸上部においては,個人競技であれば特に障害のある子たちも活躍できる場面がいっぱいあります。マラソンに関しては結構いいタイムを出す子が毎年おりまして,そして,卒業後も一生懸命トレーニングして市民マラソンに参加している子たちもおります。
 球技はどうしても,集団球技は発達障害の子たちは苦手ですけれども,ただやり方があるのですね。例えば,卓球ですと個人戦で一人ですから,一生懸命練習していって個人戦で参加し,また団体戦にも参加する。シングルかダブルかですけれども,シングルの方で参加するとか。あとは団体スポーツでは,ラグビー部もあります。やはりラグビーは,発達障害の子たちはタックルするのが怖いとかいったところがありますが,ボールを持って走るとか,ボールを蹴るとか,ボールを取るとか,そういう一連の運動に関しては一緒に参加ができます。練習試合とか対外試合のときには,彼らが毎回ウォーターボーイとして活躍して,トライを取られると一生懸命お水を持って走る姿が見られます。
 ですから,インクルーシブ教育の中でのスポーツ,部活動,これは将来,絶対的に私はつながるものだと思っていますが,ただ問題点があります。卒業した後どうつなげていくかというところで活動する場がないのですね。
 本学園を卒業した子たちの中でパラリンピックに出た子は誰もいませんけれども,ゆうあいピックとか障害のある子たちが出られる大会には結構多くの卒業生が出ておりますけれども,なかなかそれをスキルアップできる環境はないと。
 一つ,そういうインクルーシブの教育環境の中で,障害のある子たちと一緒に運動,スポーツをやってきた子たちで,特に障害のない子たちの中でも,高校に行って甲子園に出た子もおりますし,ラグビーで花園に出た子もおりますし,また,前回の東京オリンピックでは2名がオリンピックにも出て,マスコミでも大きく取り上げられた事例もございます。
 是非インクルーシブ教育というベースをまずつくっていただいて,そこで共に体を動かして,それを卒業後も一緒にできれば一番いいですけれども,それができなくても,つなげていただいて,スポーツを継続できる環境を是非つくっていっていただきたいなと思います。
 前回もお話ししましたけれども,やはり障害理解という点ではまだ難しいところがいっぱいあると思いますので,そこで私どもの学校とか特別支援学校の高等部さんを間に挟んで地域につなげるというのも一つの案ではないかなと思っています。
 事例を少しお話しさせていただきました。ありがとうございました。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 取り回しが悪くて申し訳ありません。最後に,もう一方の清水委員からお話を伺いたいと思います。お願いいたします。
【清水(敬)委員】  今日御報告いただきました先生方,ありがとうございます。
 私は,本質的な内容のところではないのかもしれませんけれども,今日御報告いただいた内容の中で,特に大日方委員の御報告については大変興味深く聞かせていただきました。その中でも特に,先ほどからも何点か先生方がおっしゃっていましたが,部活動の地域移行のところについてです。また,特に渋谷区さんが少し早めにお取組をされていたという報告もありました。このことにつきまして,私自身も不勉強で知らなかったものですから,この内容についてまた改めて詳しくお聞きしたいなというところが意見としてありました。
 そして,私は生涯学習部会の中でもよく話をさせていただきますが,コミュニティ・スクールに先ほど少し触れました。我々は,PTA,保護者という部分でいきますと,このコミスクの一員として,学校の先生方との取組,少しでもいろいろ参画をさせていただいて,よりよいお力添えをさせていただけるのではないかなと思いますので,そういった部分でのお力添えをどんどんしていきたいと改めて思いました。
 以上です。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。
 時間が来ましたので,この辺りにさせていただきたいと思いますけれども,今日のこの議論,私もなかなか難しいなと思いながら伺っていたのですが,どちらかというと今までの学校教育の中での平等を基本に考えるといったことから,改めて今度は自由をどう考えるのかということが課題化されたのではないかと思います。自由をどう保障しながら,平等,また公平公正といったことを考えるかという議論がこれからどうしても必要になってくる。
 そういう意味で,この部会の大きな議論であるウェルビーイングの議論と,それからインクルーシブなという多様性の包摂の問題とどう共に生きていくのか,又は生きるを共にしていくのかという議論とを重ねていかなければいけないということなのだろうと思いました。
 また御議論いただければと思います。どうもありがとうございます。
(スポーツ・文化芸術・体験活動グループの意見交換終了)
 
 
【渡邉部会長】  「スポーツ・文化芸術・体験活動」のグループにご参加いただいた委員の皆様,お戻りいただけましたでしょうか。
 それでは,次のテーマに移らせていただきます。若干時間が押していますけれども,前回の続きとして総論について,残る時間で皆さんの御意見を伺えたらと思います。
 まず,前回の議論を踏まえて,用意していただいた資料7と8について事務局から御説明をお願いいたします。
【川村教育企画調整官】  川村でございます。それでは,資料を共有して説明させていただきます。
 まず,資料7でございますけれども,前回,キーワードのマッピングということで資料を御用意しておりましたけれども,その際,時間軸を少し入れるべきではないかという御意見や,目標と手段を分けて考えるべきではないかという御意見を頂きましたので,それに基づいて,少し資料を工夫してみました。
 上側が社会全体に関わるようなキーワードを並べておりまして,下側が学校教育に関わるキーワードになりますけれども,上が時間軸を横に取りまして,これまでこういう状況であったというキーワードを左側。ちなみに,キーワードについては,前回の御議論の内容を少し加えておりますけれども,基本的には前回と同じキーワードを使っております。また,本日頂いた議論のキーワードはまだ入っておりませんので,そういったものとして御覧いただければと思っております。
 その上で,現在から5年後ということで,次期基本計画の期間においては,こういうようなテーマが重要になるだろうということで,特に二重線を引いた「共生社会」「誰一人取り残さない」「日本型ウェルビーイング」「教育DX」「主体的社会の担い手」,この辺りが重要なキーワードになってこようかと思いますけれども,そのほかにも複数のキーワード,関連するところを少しバックグラウンドにカテゴライズして並べております。
 その上で,2040年を見据えますと,2040年以降の社会はこうなっているだろうということで,現在から既にこういう社会にもなりつつありますけれども,そういった時間軸ということで,右側は,普遍的な価値ということで御議論があったものを並べております。
 下側につきましては,縦軸に発達段階を取っておりまして,おおむね学校に関する事柄と,少し右側に地域・社会との連携に関わるような事柄,これをキーワードとして並べてみております。
 学校に関することにつきましては,学習指導要領の重要な考え方であります「主体的・対話的で深い学び」「協働的な学び」「個別最適な学び」,こういったカテゴリー,それから,誰一人取り残さないということに関するキーワード,また,高校教育から高等教育にかけての「STEAM」「探究PBL」ということ,また,高等教育関係で出てきた「学修者本位」ですとか,「文理横断・融合」,こういったキーワードがございますし,生涯学習・社会教育に関しましては,生涯学習分科会での議論を踏まえたキーワードということで並べさせていただいております。
 右端には,計画の実効性ということでございまして,こちら,キーワードを並べさせていただいておりますけれども,最終的に教育振興基本計画につきましては,文章化をしてまいりますので,今後,文章を作っていく際の御参考の資料ということの位置づけで,これをこれ以上ブラッシュアップするということではなく,これから文章化するに当たっての議論の素材ということで御留意いただければと思っております。
 もう一つ資料の御説明をさせていただきます。資料8でございます。今,共有をさせていただきました。
 資料8につきましては,これまで頂いた議論の中で,策定に向けた基本的な考え方に係る頂いた御意見を整理して,骨子ということで,たたき台としてお示ししているものでございます。
 次期基本計画のコンセプト,まずこちらを0ということで置いておりますけれども,全体的な構成としては,コンセプトの後に,1ポツとして,我が国の教育をめぐる現状と課題というパートがございまして,その次に,2ポツといたしまして,今後の教育政策に関する基本的な方針というパートがございます。それから,3ポツといたしまして,今後の教育政策の遂行に当たって特に留意すべき事項,4ポツ,今後5年間の教育政策の目標と基本施策ということで,おおむねこれまでの基本計画につきましては,こういう構造となっておりまして,特に4ポツの辺りは,今後各論で御議論いただくことであろうかと思いますけれども,それに当たっての総論に関する基本的な考え方,その部分で,これまでの御議論を整理させていただいたものでございます。
 まず,基本的なコンセプトとして,この予測困難な時代の象徴として,3期期間中には,新型コロナウイルスの感染症拡大による影響が非常に大きかったであろうということ。
 そして,柱としまして,誰一人取り残さず,全ての人の可能性を引き出すための教育の実現に向けて,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実,学習者主体の学び等の充実を図り,日本型ウェルビーイングの概念整理を踏まえた上で,多様な個人のウェルビーイングの実現を目指す。また,共生社会の実現・地域コミュニティの再構築に向けて,個人と社会のウェルビーイングの実現をつなぐ学校や社会教育施設の役割・機能を充実するという観点があろうかと思います。
 もう1点,少子化・人口減少の中で,持続可能な社会の発展を生み出していく人材を育むために,主体的に社会の形成に参画し,生涯にわたって学び続ける学習者としての基盤を学校教育において培うとともに,社会や時代の変化に応じて課題を発見・解決するための学びを特に高等教育においていつでも受けられる教育・社会環境を整備するということが2点目としてあろうかと思います。
 コロナ禍を契機としましてデジタルが飛躍的に社会に浸透しましたので,この社会基盤に変化をもたらずデジタルトランスフォーメーションを教育・学習全体の中に組み込むということも,観点として重要であろうかと思います。
 これらを通じた価値創造によりまして,人間中心社会としてのSociety5.0の実現を目指すということで,コンセプトとして,たたき台として作成させていただいております。
 その後,我が国の教育をめぐる現状と課題,普遍的な使命につきましては,御議論ございました教育基本法,また,学制150年,こういったものは,常に立ち返るべき教育の「不易」であろうという考え方。
 また,第3期計画期間中の成果と課題につきましては,フォローアップの際に御指摘のあった事柄をこちらに掲げさせていただいております。説明は省略させていただきますけれども,御議論のあった成果と課題でございます。
 それから,社会の現状や変化への対応,これは不易と流行(りゅうこう)で言いますと,流行(りゅうこう)の部分になるかと思いますけれども,VUCAの時代における「持続可能な社会の創り手」,主体的社会参画,価値共創,Society5.0,それから,経済成長のみならず精神的豊かさや健康を重視する日本型ウェルビーイング,共生社会の実現・全ての人の可能性を引き出すといった考え方(D&I,誰一人取り残さない,公正と平等,エンパワーメント)。また,生産性向上のためのイノベーション,成長分野の人材需要,今後求められる資質・能力への対応,地域コミュニティの再構築に向けたつながりを耕していくということ,地方創生,デジタル田園都市,人生100年時代,マルチステージ,リカレント教育,それから,デジタルの3段階を踏まえたDXの推進,18歳成年,子供の意見表明,主体的な社会参画,こういったところが,社会,時代の変化として御議論のあったところかと思っております。
 その上で,教育政策に関する国内外の動向ということでまとめさせていただきまして,2ポツとして,今後の教育政策に関する基本的な方針ということで,1点目として,日本型ウェルビーイングの向上・共生社会の実現に向けた教育ということで,基本的な考え方のところにつきましては,先ほど冒頭申し上げたコンセプトのようなことをこちらで記載させていただいております。
 その上で,教育政策の方向性として,これを育むための教育のありようとして,個別最適な学び,協働的な学びの一体的な充実ですとか,地域や社会に開かれた教育・学校経営,また,生徒指導の発達を支持するような形でやっていくというこれからの考え方,また,学校・家庭・地域の連携・協働の推進,特別なニーズに対応した教育・学習機会,不登校・いじめ等への対応,特定分野に特異な才能のある児童生徒への対応,障害者の生涯学習の推進,異文化交流ということで記載をしております。
 2点目として,社会の持続的な発展を生み出す人材の養成ということで,こちらも主体的な考え方につきましては,コンセプトでお話しした内容でございます。
 教育政策の方向性としては,主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善ですとか,情報活用能力の育成,また,主体的な社会参画意識の醸成として,キャリア教育,主権者教育,子供意見表明といったこと,高校教育改革,STEAM,探究PBL,デジタル・グリーン等の成長分野,文理融合・文理横断といったこと,産学・地域の連携の人材育成,グローバルに活躍する人材の育成,大学教育の質保証の様々な取組,短期大学,高等専門学校,専修学校の充実,また,高等教育機関におけるリカレント教育ということでまとめております。
 3点目として,地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育ということで,基本的な考え方,こちらは生涯学習分科会でおまとめいただいております考え方に基づきまして,社会教育を通じた「人づくり・つながりづくり・地域づくり」,また,この教育政策の方向性としても,公民館等の社会教育施設の機能強化(デジタル化等),また,社会教育人材の育成,地域と学校の連携,障害のある方の生涯学習機会の充実ということで,それを支えるための実効性確保のための条件整備・対話を4点目に置いておりまして,指導体制,ICT,NPO・企業等の多様な担い手の連携・協働,教育DX,経済的・地理的状況によらない学びの確保,学校施設の安全・安心,児童生徒の安全確保,各ステークホルダー(子供の声を聞くことを含む)との対話を通じた計画策定・フォローアップということでございまして,この辺り,これまでの御議論をまとめておりまして,その後は,明朝で書いておりますのは,現行の各論の項目,それから,指標について,御参考で掲載しているものでございます。
 説明,以上でございます。
【渡邉部会長】  ありがとうございました。
 今日の議論の位置づけは,総論として一旦整理をした上で,キーワードとして,まだこういう視点が足りないのではないかといった御指摘をいただけると有り難いと思います。
 各論については,後日,改めてテーマごとに議論する機会を設けたいと思います。したがって,今日は総論の視点での御意見をお願いします。
 それでは,皆さんから御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。
 まず,岩本委員からお願いいたします。
【岩本委員】  ありがとうございます。
 少し総論的なところで,これがあった方がいいのではないかというところを述べさせていただきますと,今回の基本的な方針だとか,とてもきれいな理念的な言葉が並んでいて,誰も反対する部分はここにはないと思うのですけれども。逆に,では,こういう理念に対して,今,何が課題なのか,その課題のちゃんとした設定,何を乗り越えて,そういう誰一人取り残さずにとかの理想を目指すのか,そこの課題設定というか,この5年で本当に超えていきたいものというところを,もう少し明確に述べてもいいのではないかと思っています。
 私,全体を見させてもらった中で,理念的なところで,3つぐらいあるのかなと思います。
 1つ目が,格差,教育格差ですね。家庭の格差,地域間格差,性別の格差とか,いろいろ差があるわけですけれども,それを今回超えて,誰一人取り残さずに,ということだと思うのですけ。その視点で見たときに,地域間格差の扱いみたいなのが,あまり項目的な観点が弱そうだなと思いました。グローバルとか留学生のところを見ても,やはり地域間の格差,都市部と地方もそうですし,地方の中でも,僻地だとかというところがありますので,地域間格差という観点が,もう少しちゃんと格差の中でも扱ってもいいのかなと。
 2点目は,自前主義からの脱却というところで,今まで全部ここだけでやるとか,学校だけでやるとかという,抱え込んできたやつを,地域等との連携・協働でということは,その部分は出ているのですけれども,学校間連携みたいな部分がでていない。今後更に小規模化していく,オンラインも入ってくる,その中で,リソースも限られているという中で,リソースのシェアリングだとか含めて,学校間の連携だとかという視点なんかが,割と自前主義の脱却というところから見ても,少し弱いのかなというふうには思います。もう少しちゃんと総論でも述べてもいいのかな。
 3つ目は,同質性や同調圧力からの脱却ということですね。超えていくというところで,ゆえに,越境する,それを受け入れる,若しくは,もう越境してきている人などをちゃんと生かしていくみたいなこと,これをリアルでやるというのもそうですし,オンラインを通じた越境という部分の促進もあるでしょうし,それは子供たちや留学生とかというだけではなくて,もしかしたら,教育に関わる大人も越境する,受け入れるみたいなところも含めて,それで,同質性や同調圧力みたいなものを乗り越えていくみたいな。そういった課題感みたいなものを分かりやすく出して,だから,こういうことなのだという総論があってもいいかなと思います。
 以上です。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 この部会の初めの方に取り上げた第3期教育振興基本計画の総括でも,そういった課題認識を頂いております。また,他の審議会や有識者会議等でも,今御指摘いただいた3点について議論にあがっておりますので,どういった形でこれを課題として取り上げ,今後の方針とするか,そうした整理をこれからしていくことが重要だと思いました。ありがとうございました。
 それでは,次に,永田副部会長,お願いいたします。
【永田副部会長】  ありがとうございます。
 今,岩本委員がおっしゃったのは,ちょうど私も言おうとしているど真ん中なのですが,実は大切なのはその前後かなと思っています。今おっしゃった地域間格差であるとか,自前主義の脱却,あるいは,最後のところは自由・公平というように書いてもいいのかもしれませんが,そのような課題があると。それを,今回,教育振興基本計画ですから,計画として出す我々としては,どのような観点から次の何年間かをやっていくかという提案をしないといけないと思います。それを最終的には政策,施策として,どういうヒト・モノ・カネで形を整えるかという議論なのだと思うのです。
 その基軸の部分だけ今日は触れたいと思うのですが,大変気になって,前回も少し申し上げましたが,日本型ウェルビーイングという単語が残っています。少し前に中教審の初中で,令和の日本型教育という単語も出ました。この「日本型」というのが定義されていません。この部分があやふやなまま,これを進めていくと,最後に困ると思うのです。日本型のウェルビーイングを目指しましょうよと言っても,うまく書けないのではないか。
 今日のグローバルも多分そうです。もちろん大賛成で,進めましょうですが,その前提として,では,なぜ日本で学ばなければいけないのだろうと。あるいは,日本や日本人のアイデンティティというのが,どのような意味合いでそのグローバルの中で生きているのかという,議論があったと思うのです。私は,そちらのグループではなかったから詳細はわかりませんが。
 ですから,そのような問題も全部含めて,何かいいキーワードはということで,ここからジョーク半分ですが,国家間の問題を出すと大変なので,オリンピックに倣うといいのはないかと思って,オリンピック・パラリンピックでは「おもてなし」でほぼ,日本のオリンピックの基本をうたったと思うのです。ですから,同じように,これを書き込めとは言いませんが,私の個人的な意見では,そこは「おもいやり」なのだろうと思っていて,それが今日,スポーツ・芸術の方でも話し合った自由ということの基本だと思うのです。それは,他者がいる中での自由というのは,基本的には,他者への尊敬と思いやりなのだと思うのです。例えば,そのような意味合いで,日本型とは何かといったときの基軸として何を持ってくるのかを,皆さんで一所懸命考えた方がいいのではないでしょうか。
 先ほどは,ジョーク半分というか,私見なので,「おもてなし」だったら,今度は「おもいやり」だと思いましたが,その部分と,先ほど岩本先生から出てきた課題抽出をきちんとして,私で言えば,「おもいやり」の観点から言うと,政策はこうなったらいいのではないかというふうにできたらいいと思っています。これは一例ですので,別に縛られることはないと思います。
 ありがとうございました。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 本質的な理念に関することだと思いました。今の世界情勢では,日本が持つ教育基本法の理念は,恐らく世界の中では極めて誇るべき精神なのかもしれませんし,今のような御提案も含めて,ここは重要な議論になると思いますので,本質的な議論として受け止めさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
 それでは,次に,安孫子委員,お願いいたします。
【安孫子委員】  私からは,社会の持続的な発展を生み出す人材養成の中というところで,意見を述べさせていただきます。
 今回,2つ目のテーマでもありました吉田委員からの芸術についてですが,IT人材育成の強化は,国の新しい制度も加わり,大変期待しているところですが,次に見えてくる課題というのは,グローバルで競争していく企業としては,デザインの分野が重要な人材育成課題となると考えます。サイエンスを追求していくと,そこは必ずレッドオーシャンになっていって,その次の価値の決め手はデザイン力になります。企業としては,ここ数年の間に,中国又はインドなどの上質のデザインを安く提供する力のあるサプライヤーが多く出てきて,そのデザイン力向上のスピード感を実感しています。今まであまりこの点は議論されていませんでしたが我が国としても,デザインを強化する人材育成を今後の課題として明確に宣言させていただきたいと思います。
 私からは意見として以上です。
【渡邉部会長】  ありがとうございます。
 御指摘の通り,芸術との関係も非常に強い分野だと思います。
 続いて,清原副部会長,お願いいたします。
【清原副部会長】  ありがとうございます。清原です。
 資料8,「基本的な考え方(たたき台)」の「次期基本計画のコンセプト」に関連付けながら,総論において強調し続けていただきたい3つの視点について発言します。
 1点目,資料8,「0.次期基本計画のコンセプト」1つ目の〇で,「予測困難な時代の象徴」として,「新型コロナウイルス感染症拡大による影響」が書かれていますが,それに本日のグローバルに関する話題提供を受けて,ウクライナ侵攻など,世界の紛争や平和が脅かされる状況を含み,その中での現状認識を明記することが必要と思います。第3期と第4期の計画の前提となる状況の相違は,何といっても新型コロナウイルス感染症拡大とその対応と,ウクライナの侵攻等の国際状況だと思うからです。
 本日テーマとなったスポーツとの関連では,昨日の全国3,547校の参加校の中で,高校野球決勝戦を制して優勝した仙台育英高校の須江監督が次のように語りました。「今の高校生は中学校の卒業式もちゃんとできなくて,高校生活というのは,僕たち大人が過ごしてきた高校生活とは全く違うのですね。青春ってすごく密なのに。しかし,全国の高校生のみんなが本当によくやってくれて,ただただ最後に僕たちがここに立っていただけなので,是非全国の高校生に拍手してもらえたらなと思います」と。
 私も,次期教育振興基本計画は,何よりもやはり「児童生徒をめぐる現状認識を私たちが共有しながらつくり上げていく」ということが明記されるということが大事だと思います。
 2点目は,「0.次期基本計画コンセプト」の2つ目の〇について申し上げます。ここにある「個別最適な学びと協働的な学び」の理念は,学校教育だけではなく,生涯学習,社会教育,そして,リカレント教育,全ての教育に共通のコンセプトだと位置づけたいと思います。そして,生涯学習分科会の,議論の整理の副題は,「全ての人のウェルビーイングを実現する,共に学び,支えあう生涯学習・社会教育に向けて」とさせていただいています。「ウェルビーイング」は,計画を通底するコンセプトの一つです。
 そこで,私は,「地域コミュニティ」ということについても,「次期基本計画のコンセプト」の中に明確に1つの視点,あるいは,軸として明示することを提案します。家庭,学校,地域,多様な団体との連携・協働による教育の場としての「地域コミュニティ」の明記です。
 これまでも学校教育における「コミュニティ・スクール」の取組は,大変重視されてきました。保護者や地域住民が児童生徒とともに教育に参加し,「地域コミュニティの創生」や「地方創生」にも結びついてきました。「地域コミュニティ」において,様々な背景を持つ年代の異なる多様な個人が共に学び支え合う学びの活動の中から,「共に学び支え合う地域コミュニティ」の形成がなされてきました。さらに,「誰一人取り残さない学び」が,「地域コミュニティ」の場で進められることが大切です。
 生涯学習分科会議論の整理の結びに,次のように書きました。「住民自治を支える社会教育は,持続的な地域コミュニティを形成する社会全体の基盤である」と。しかし,これは社会教育だけではなく,コミュニティ・スクールを含めれば,「教育そのものが正にこれからの社会の基盤として位置づけられる」ことを,この計画では示していきたいと思っています。
 最後に,3点目として,「教育デジタルトランスフォーメーション(教育DX)」については,次期計画に基本的なコンセプト,方針に位置づけ,意義を明記するとともに,今後検討される計画内容において,可能な限り具体的な形,姿,方向性を示すことが重要と考えます。
 2019年末にGIGAスクール構想が示されていたことから,2020年当初,新型コロナウイルス感染症が世界を席巻(せっけん)した直後の4月から普及がなされ,非対面・非接触が求められる状況への適切な教育実践を支えました。コロナ禍にウクライナ侵攻等の世界情勢も伴い,留学や海外研修,海外への修学旅行も困難となる中,オンラインが国際的なコミュニケーションや交流を支えてきました。生涯学習,社会教育の学習形態,資格取得や資格更新研修の形態,高等教育機関での教育,また,リカレント教育でも,オンライン形式やハイブリッド形式が活用されてきています。昨年9月にはデジタル庁が発足して,「誰一人取り残されないデジタル社会の実現」を目指す重点計画が示されています。
 そこで,コンセプトの3つ目の〇,「コロナ禍を契機としてデジタルが飛躍的に社会に浸透。将来の社会基盤に変化をもたらすデジタルトランスフォーメーションを教育・学習全体の中に組み込む」というのは,適切な指摘と考えます。これに関連して,グローバルの分野で,河野委員が,「グローバル市民教育」を提起されましたが,関連して,私は,「デジタル・シティズンシップ概念」にも注目したいと思います。三好委員も,主体的・対話的,深い学びのスライドに,この「デジタル・シティズンシップ」をキーワードとして位置づけていらっしゃいました。ユネスコによれば,「情報を効果的に見つけ,アクセス,利用,作成し,他のユーザーとともに積極的,批判的,センシティブかつ倫理的な方法でコンテンツと関わり,自分の権利を意識しながら,安全かつ責任を持ってオンラインやICT環境をナビゲートする能力」が「デジタル・シティズンシップ」とされています。
 本日は,体験活動の意義の在り方も提起され,グローバルにおける河野さんの報告で,「デジタルとリアルの組合せによる高校留学プログラム(Student Learning Journey カリキュラム)」の事例と効果が紹介されました。GIGAスクールが導入され,デジタル教科書・デジタル教材の研究が進む今後の状況にあって,諮問に明記されていますように,「超スマート社会を念頭に置き,ウェルビーイングの観点も踏まえ,新型コロナウイルス感染症を契機としたオンライン教育を活用する観点など,デジタルとリアルの最適な組合せが目指すべき方向性である」ことを再確認したいと思います。
 そのために,デジタルであれ,リアルであれ,日本の子供も大人も,芸術・文化・スポーツを含む幅広い教育の分野において,吉田都委員が提起されましたように,しっかりと「自身の意見を表明し,表現する力を培う機会」としての教育の保障が必要と考えます。
 以上です。どうぞよろしくお願いいたします。
【渡邉部会長】  
 3つの御指摘,本当にありがとうございました。恐らく第1期,2期,3期の教育振興基本計画と,今置かれている世界情勢や日本の教育をめぐる環境は,明らかに違った節目を迎えていると認識しています。その中で,地域コミュニティは,かなりウエートを置くことになると思いますし,それから,当然,未来の変化要素の中でも,デジタルの要素をどう組み込んでいくのかは非常に重要ですので,御指摘の視点を踏まえた検討を深めたいと思います。ありがとうございました。
【清原副部会長】  ありがとうございます。
【渡邉部会長】  それでは,次に,吉見委員,お願いいたします。
【吉見委員】  ありがとうございます。
 まず,全般的なことなのですけれども,私,中教審の会議では,文科省の方々に,ずっと足し算から割り算への転換が必要だということを申し上げさせていただいております。先般の大学分科会から出したグランドデザイン答申は,私はとても良かったと思っているのですね。それはなぜかというと,学修者中心の教育への転換というふうに,共通分母を極めて明確に示したことにとても意味があったと思っております。
 今回の計画でも,先ほど永田委員がおっしゃった「思いやり」でもいいし,何か1つ,明確な共通分母を割り出す必要があるのではないでしょうか。全体の分母を示して示し,文章はいろいろあるでしょうが,全体の分母はこれだということを明確に示すことが,社会的にも,いろいろな方面にもインパクトのあるものを出すという意味でも,一番重要なポイントではないかと思います。どうもまだ,足し算ばかりのような気がします。
 あと2点だけ,それに加えて,繰り返し申し上げさせていただきたいのですけれども,割り算を考えるに当たって重要なことが2つあると思います。
 1つは,前から言っておりますが,単線的な年齢主義からの脱却。これ,どういう言葉で表現するかはともかく,日本の教育を非常に狭めてきた非常に重要な問題点は,やはり単線的年齢主義を変えていく,そうした試みがないといけないと思っています。
 もう一つは,風通しよくすることです。グローバルな問題にしても,デジタルの問題にしても,やはり横断性をどうつくっていくかがとても重要で,そのポイントは風通しだと思うのですね。どういう窓を開けるかということです。これらを,是非問題意識も含めていただければと思います。
 これから10年,20年,30年,やはり危機の時代は続くのだと思います。危機を生き抜く人間をつくっていくためには,風通しの良さだとか,年齢主義ではない教育の仕組みがどうしても必要なのだと感じております。よろしくお願いいたします。
【渡邉部会長】  ありがとうございました。
 非常に重要な御指摘を頂いたと思います。次のステージでは,どこまで今の御指摘の点について踏み込むのか,非常に大きな課題になると思います。特にデジタル化との関係では,レイヤーごとのデジタル化というのは横につながっていく視点と言われますが,どう横断性を持たせるのか非常に重要な課題になると思いました。大変重要な御指摘いただきましてありがとうございます。
 それでは,次に,松浦委員,お願いいたします。
【松浦委員】  ありがとうございます。
 先ほどグローバルのグループでも発言したことと関わるのですが,基本的に少し気になっているのが,この部会の時代認識というか,あるいは,社会の将来展望というのが少し楽観的ではないのかなということが気になっています。
 次期基本計画のコンセプトの最初に,予測困難な時代の象徴としての新型コロナウイルスということの指摘はあるのですが,今,清原委員も吉見委員もおっしゃいましたように,予測困難性が危機というのは,コロナだけではなくて,教育に関わっては,世界情勢もそうですし,それから,国際経済の動向で,非常に大きく教育や国内社会の在り方が揺れる時代にある中で,やはり教育をどう展望していくのか。特に危機管理的な観点が,これから育っていく人たちにも当然必要ですし,そして,それを支援していく教育の行政,あるいは,教育機関でも必要になってくる。いろいろな局面での危機管理をかなり重要なものとして今後の教育を展望していくというのが1つのキーワードになるのではないのかなと思っておりますので,意見を申し述べさせていただきました。ありがとうございます。
【渡邉部会長】  ありがとうございます。
 歴史認識については,先ほど申し上げたとおり,私も似たような印象を持っております。
 それでは,時間が押してきておりますので,今手が挙がっています,牧野委員と黒沢委員の2名で一旦,今日は締めくくりをさせていただければと思います。
 では,牧野委員,お願いいたします。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 先ほど永田委員からのお話もありましたし,清原委員,吉見委員もおっしゃったので,1点だけ申し上げたいと思います。
 それに関わることなのですが,総論のところで,社会や地域コミュニティという言葉を多分今回多用していると思うのですが,一体それはどういうものであるかといったことを,やはりどこかできっちり言っておかなければいけないのではないか。
 前回,私の報告では,社会教育の話をさせていただいて,社会というのが帰属の問題からつながりへと変化しているという話をさせていただいたと思います。ここのところ,実はいろいろなところから情報が入ってきているのですが,このコロナ禍ですとか,見通しが利かないといったことの中で,地域社会の現場で一体何が起こっているかと言いますと,実は,帰属を基本に考えているコミュニティのところで住民による行政への依存が起こり始めていて,依存することによって,人々がどんどんばらばらになっていく,孤立をしていくといったこと,格差が広がるといったことが起こってしまっているというのです。
 その意味では,私たちが普通に社会とか地域と聞いてイメージするのは,ある意味では,地域のある種帰属的なところ,地縁的なコミュニティであったりとか,それから,先ほどの吉見委員もありましたけれども,例えば,地縁的なコミュニティから,学校を経由して社会に就労することにおいて,企業に帰属する形で,そこに社会があるのだというイメージ,こういうものでありがちなのですけれども,その帰属の在り方がどんどん壊れてきてしまっていますし,帰属をベースに考えると,人々が孤立するような社会になってきてしまっている。しかも,先行き不安の中で,人々はむしろ帰属にすがるような形で依存をするということの中で,行政が機能不全を起こすということになって,どんどん社会の底抜けが始まっている感じがするのです。
 その意味では,そこをやはりきっちりと捉えた上で,これからの私たちが考える教育の基盤として一体何があるかというと,例えば,社会と置く場合にも,その社会とは一体何であるのか。一般に私たちが明治以降受け止めてきたような帰属による,また地縁関係による社会といった問題ではなくて,むしろ先ほど永田委員がおっしゃったような「おもいやり」の,また,お互いにつながり合っていくですとか,そうしたことがベースになって,グローバルに展開できるような人材を育成する基盤になっていくというような,やはりそういうようなものであることを強く感じます。
 さらに,そこで人々が教育の当事者になっていく。フォー・オールとして,機会を保障されるということだけではなくて,むしろ担い手になっていく,バイ・オールであるといったことを基本にしながら,誰もが当事者になって,そこで社会をつくっていくのだというような観点で社会の在り方を考えておかなければならない時代に入ったのではないか。それが,今まで皆さんが議論されたこととも関わってくるのではないかと強く思いますので,その辺りで,総論のところで,社会又は地域といったものをどう捉えるかといったような議論を少し展開されてはどうかと思いました。
 ありがとうございます。
【渡邉部会長】 社会,地域の在り方,つながりといったキーワードを頂き,ありがとうございました。
 それでは,黒沢委員,最後になりますが,よろしくお願いいたします。
【黒沢委員】  今日はどうもありがとうございました。
 私からは,1点だけお願いというか,頭の隅に入れておいてほしいなということを申し上げさせていただきます。
 誰一人取り残さないとか,ウェルビーイングを考えたときに,やはり福祉的な視点とか,福祉的な支援というのは絶対必要になってくると思うのですね。文部科学省主催のこの会議ですから,切り口としては,当然,文科省という切り口になるのですけれども,福祉となると,文科省の外の話に踏み込んでいくのかなと思っています。お役所という言い方は大変失礼ですけれども,縦割りで考えていったときに,福祉はそちらで考えてねということではなくて,橋渡しになりながら,省庁を超えた施策みたいなものをこれから考えていけるようにいけたらなおいいのではないかなと思っています。
 以上です。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。貴重な御意見を頂きました。
 それでは,時間がまいりましたので,最後に,前回と同様,全体の振り返りをして本日の会議を終わりたいと思います。
 今日は2つのテーマを設定して御議論いただきました。1つ目のグローバルの視点については,世界的な動き,国際情勢の変化を踏まえて,今後の教育政策に関する基本的な方針をどうするか,といった大きな視点で大変幅広い御議論を頂きました。そこには,コロナ禍で激減した学生交流の今後の在り方も含まれると思います。
 杉村委員からは,ESDの取組や多文化共生,持続可能な未来社会構築のための,教育の在り方等の御説明や,コンピテンシーベースで考えることが重要だという御指摘を頂きました。そして,今の情勢を踏まえて,人間の尊厳,平和の文化を非常に重視した教育の在り方を総合的・多角的に考察することが重要という御指摘も頂きました。
 河野委員からも,AFSの取組の御経験も踏まえ,非常に広い視点で次世代に求められるグローバル人材,グローバル市民育成の視点が重要だという御説明でした。これは,国内での内なる国際化と,外に出ていくグローバル教育という両方の視点であったと思います。その中では,異文化理解とそうした教育の在り方,各論としては,高校段階の留学経験の重要性,あるいは,地域社会と一体化した市民教育といった視点が重要だという御指摘を頂きました。当然,方法論としては,デジタル・リアルの組合せで進めていくことが重要となります。
 それから,スポーツ・文化芸術・体験活動の方では,大日方委員から,第3期のスポーツ基本計画を通じて見えることについてお話を頂きました。コロナの影響がございましたので,スポーツにおけるリアルとデジタルの最適な組合せとして,オンライントレーニングの事例紹介等もございましたし,渋谷区内での具体的な取組事例も御紹介いただきました。コロナ禍で,障害の有無を含めて,多様な主体におけるスポーツ機会の創出の重要性ということも御指摘いただきました。背景としては,東京オリンピック・パラリンピックのレガシーを軸として,共生社会を目指し,その実現に向けた社会的な包摂を推進することが重要だという問題提起を頂いたものと思います。
 また,三好委員からは,福山100NEN教育の実体験の中で,認知科学を視点に入れた体験学習の在り方について御説明を頂きました。自然体験を多く行ったものほど非認知能力が高くなる傾向があるという指摘もあります,こういったことを実体験として御紹介いただいたと思いました。
 特に福山100NEN教育の中では,デジタル・シティズンシップに関する取組や教職員のファシリテーションに関する考え方についてお話しいただきました。それから,イエナプラン教育校としての取組について,幼保小の連携や民間のフリースクールの在り方も含めた,オルタナティブ教育のような活動についても御説明いただきました。
 また,文化・芸術では,吉田都委員から書面提出を頂きました。その中で大変印象的な言葉として,自分の意見を持つ自己肯定感のある人間を育てることの重要性や芸術は人間としての心の豊かさ,生きる力を生み出すために必要なのだということ,それから,何事も根幹を理解しないと応用が利かず新たに何かを生み出せない,といった御指摘があり,書面ではありましたが,大変印象に残る言葉を頂きました。
 こうした今日の御議論を踏まえて,先ほど総論の議論も行いました。短い時間で申し訳ありませんでしたが,貴重な御意見を頂いたと思います。
 次期教育振興基本計画の策定に向けた,基本的な考え方に係る議論の整理という段階ではありますが,まず,時代認識に関する御意見がございました。VUCAの時代と言われているように,変化要素が多い中で,今後の教育をどう考えるのかという御指摘だったと思います。ただ,これには,こういう変化の時代における普遍的な要素は何なのか,もう一つの対極として,変化要素にどう対応していくのかという,2つの検討が必要だと思います。
 普遍的な要素としては,このキーワードの中でも整理されているとおり,教育基本法の前文,あるいは,第1条,第2条の目的や目標で掲げられたことは,まさしく今の世界情勢ではますます重要となる理念ではないかと考えます。特に持続可能な未来の多文化共生社会の中で,人間の尊厳や平和の在り方をどう教育として考えていくのか,といったことも意識する必要があると思います。
 それから,豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成や新しい文化の創造を目指す教育として,第3期の教育振興基本計画では自立・協働・創造を掲げ,自立は個別最適な学びへ,協働は協働的な学びという形で受け止められています。そうした中で,新たな時代の変化に対応していくということになると,創造を目指す教育が,第4期の変化要素という視点では非常に重要なのではないかと思います。ゴールとしては,ウェルビーイングをはじめとした普遍的な理念につながるものがありますが,こういった視点で,まさしく,このキーワードの中にもある不易と流行(りゅうこう)として,変化していくもの,普遍的なもの,こういったことを今後の議論の中でも深めていただければと思いました。
 以上,今日のまとめとさせていただきます。次回以降の開催予定について,事務局から連絡をお願いして締めたいと思います。
【川村教育企画調整官】  次回は9月20日火曜日15時から開催予定でございます。次回は個別のテーマを設定せずに,次期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方について御議論いただくことを予定しております。
 以上でございます。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 本日,皆様より貴重な御意見を頂きましたが,もう一回この総論の議論を行うことを考えております。その後,先ほど申し上げたように,もう少し各論を詰め,御指摘のあった課題と基本計画をどう結びつけるのか,そういった視点での各論の議論を今年中に進めていきたいと思います。
 それでは,以上とさせていただきます。ありがとうございました。
 
―― 了 ――