中央教育審議会教育振興基本計画部会(第4回) 議事録

1.日時

令和4年7月12日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 3F1特別会議室、3F2特別会議室(東館3階) ※WEB会議

3.議題

  1. 教育とウェルビーイングについて
  2. 誰一人取り残さない教育について

4.出席者

委員

荒瀬委員、今村委員、内田委員、清原委員、小林委員、清水(敬)委員、清水(信)委員、永田委員、堀田委員、村田委員、安孫子委員、岩本委員、大森委員、大日方委員、川口委員、河野委員、黒木委員、黒沢委員、杉村委員、関委員、徳永委員、牧野委員、松浦委員、三好委員、元紺谷委員、吉田(信)委員、吉見委員、渡邉委員
ジェルミー・ラプリー 京都大学准教授、尾上 横浜市立六浦小学校長

文部科学省

丸山 文部科学審議官、藤原 総合教育政策局長、里見 大臣官房審議官、佐藤 総合教育政策局政策課長、森友 文部科学戦略官 等

5.議事録

【渡邉部会長】  それでは,お時間になりましたので,ただいまから第4回中央教育審議会教育振興基本計画部会を開催させていただきます。大変御多忙の中,御出席いただき,ありがとうございます。本日も,新型コロナ感染症の感染拡大を防止するため,ウェブ会議にて開催させていただきます。
 本部会では,第3期教育振興基本計画のフォローアップに関する御意見等を承ったことを踏まえて,前回から,今後の重要テーマについての各論を議論しております。本日は「教育とウェルビーイング」「誰一人取り残さない教育」という2つのテーマについて,どちらも教育段階を超えた横断的なテーマということで御議論いただきたいと思っております。
 それでは,まず本日の会議開催方式と資料等につきまして,事務局から御説明をお願いします。
【川村教育企画調整官】  それでは,事務局の川村から説明をさせていただきます。
 まず冒頭,事務局に人事異動がございましたので御紹介をさせていただきます。7月1日付で大臣官房審議官総合教育政策局担当として里見が着任しております。どうぞよろしくお願いいたします。
【里見大臣官房審議官】  よろしくお願いいたします。
【川村教育企画調整官】  部会長から御説明いただきましたとおり,本日もウェブ会議での開催とさせていただきまして,傍聴につきましてはユーチューブにて配信をしております。
 本日,まず事務局からの資料説明の後,教育とウェルビーイングにつきまして,内田委員と京都大学教育学研究科,ラプリー准教授及び岩本委員から,また,誰一人取り残さない教育につきまして,今村委員,黒沢委員,徳永委員から,それぞれ話題提供を頂きます。
 最後に,文部科学省の学校デザインプロジェクトでウェルビーイングの議論に御参画いただきました横浜市立六浦小学校の尾上校長先生より,学校現場でのウェルビーイングと教育の実践事例を御紹介いただきます。
 先生方からお話しいただきました後,今回もグループを2つに分けまして意見交換とさせていただきます。大変恐縮でございますが,「誰一人取り残さない教育」のグループに分かれていただく先生方におかれましては,前回と同じく,URLをチャット欄にお送りいたしますので,そちらから別のZoomアカウントに移っていただきますようお願いいたします。テーマ別の意見交換は,ユーチューブを2本配信いたしますので,傍聴されている方におかれましては,それぞれのURLより配信を視聴いただければと思います。
 意見交換の際,「教育とウェルビーイング」につきましては牧野委員,「誰一人取り残さない教育」のグループにつきましては清原委員に司会をお願いしております。テーマ別の意見交換終了後,また全体で集まり,本日の会議を終了させていただきます。
 御議論・質疑の時間におきましては,通常と同様,挙手ボタンを押していただきまして,司会の御指名により順次御発言をお願いいたします。御発言以外は,マイクをオフにしていただくようお願いいたします。
 本日の資料,資料1から7を御用意しております。
 最後に本日,全体30名の委員のうち28名に御参加を頂いております。
 以上でございます。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。それでは,議事に入らせていただきます。
 まずは,事務局から資料1について御説明をお願いしたいと思います。
【川村教育企画調整官】  事務局からの資料でございますけれど,本日,事務局用の資料として資料1を御用意いたしております。こちら,大部にわたりますが,目次だけ御紹介させていただきます。
 まず,教育とウェルビーイングにつきましては,次期教育振興基本計画の諮問文,また,政府等の各種会議の提言,また,これまでのウェルビーイングに関連する指標・データを掲載しております。
 誰一人取り残さない教育の関係につきましては,これに関わる文部科学省関係の施策,特別支援教育,高等教育段階における障害のある学生に関する資料,また,障害のある方の生涯学習に関する資料,いじめ防止,自殺予防,不登校児童生徒,ヤングケアラー,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,夜間中学,特定分野に特異な才能のある児童生徒に関する資料,外国人児童生徒に関する資料,遠隔教育に関する資料,教育負担軽減の関係の施策,また,これまでの部会における今回のテーマにまつわる御意見を御紹介しております。
 事前の御説明もさせていただいておりますので,資料の説明については省略させていただきます。
 以上でございます。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。
 それでは,次に,内田委員とラプリー准教授によりまして,教育とウェルビーイングについての話題提供をお願いしたいと思います。
 それでは,内田委員からお願いいたします。
【内田委員】  皆さん,おはようございます。京都大学の内田と申します。本日は,同じく京都大学のジェルミー・ラプリー教授との共同の形で発表させていただきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします。「教育政策におけるウェルビーイング」ということでお話をさせていただきます。
 私は社会心理学を専門としておりまして,特に比較文化の知見から日米,様々なウェルビーイングがあるのではないかということで,その指標作成などにも携わってまいりました。また,ラプリー准教授においては,グローバルな視点での日本教育について検討し,ユネスコやOECDの分析などもされております。今回,ウェルビーイングというものが基本計画に取り入れられるということですが,これは教育にとっても大変重要なテーマであると思います。一方で,ウェルビーイングとは何かというコンセプトがはっきりと明確に共有されているかというと,必ずしも今の日本の現状においてそうではないと思います。ウェルビーイングというのは新しい物差し,コンセプトなので,その浸透には一定の時間はかかると思うのですが,非常に重要な概念として受け止めています。
 ウェルビーイングを考えることは,経済だけではなくて心の充足,生活への評価,感情状態,様々な形で受け止めて考えることです。また,自分の生きる道だけではなく,家族や友人,自分の住むまちや国,学校現場,どのようにすればよい状態でいられるのかについて考えるような包括的な概念とも取ることができます。この点において,ハピネスが,より短期的で個人的で,今現在楽しいというような状態であるのに対して,ウェルビーイングはより包括的で,個人のみならず,個人を取り巻く場が持続的によりよい状態であることを目指すものです。ですので,教育現場というものを考える上でも非常に重要な概念となります。
 また,ウェルビーイングが,今が楽しいという個人・現在的なものだけではなくて,将来に希望を持てる,クラスや地域の人の幸せを願う,このまちや学校,世界をよくしていきたいというような深まりをもつことによって,利他性を考慮に入れた上で検討することができると思います。
 ウェルビーイングを考える際の注意点があります。それは幾つかよくある誤解があるということで,1つ目は意味の問題です。どうしてもウェルビーイングというと,楽しくやっていればいいのかというような話になってしまうのですが,必ずしもそうではありません。ウェルビーイングで包括している概念というのは,生きがいや人生の意義,ユーダイモニアと言われるもの,こちらの比重が高いものでございます。もちろん,だからといって,日々の楽しさというものを犠牲にしてはいけませんので,このバランスを考えながら,よりよい人生の意義を追いかけていく,これが教育のテーマとしても重要であろうと思います。
 また,2点目といたしまして,意味は国や地域の文化により異なっており,世界的なランキングは非常に気にされることが多い一方で,日本における教育現場のウェルビーイングをきちんと考えていく必要があるというのが重要な視点です。
 3点目といたしまして,多様なウェルビーイングの求め方を認めるということです。これまでは一定程度,こういうことをやればいい,こういうことをやれば人は幸せになるというような条件整理のような議論になっていたと思うのですが,そうではない。今回の教育を考えていく上では,様々な人が様々な形で社会に参画し,多様なウェルビーイングを求めることができる。ウェルビーイングというゴールに向かって,様々なルートがあるのだということを認められるような教育現場をつくっていくことが必要だと考えております。
 私自身は比較文化を専門にしてきました。これまでの様々な国際比較ランキングは,やはり北米的な幸福感,個人の自由や選択,競争の中でもまれ,それらが翻って社会を豊かにするという獲得的な幸福感に基づいた検討が行われてきた中で,日本においては,むしろ他者とのバランスや回り回って自分にも幸せがやってくる,あるいは利他性というような協調的な幸福感が重視されてきたということを示してきました。
 獲得的な幸福で見ると,私の人生はすばらしいとか,望んだものを手に入れてきたというようなことは教育の中でもこれまでは目標とされてきたことかと思います。一方で協調的な幸福においては,身近な周りの人をどれだけ大事にできているか,安定した日々を送れているかという,少し違う角度から検討しています。こうしたことは,実際に測定指標の国際比較にも反映されています。例えば,獲得的な幸福感,人生の満足感尺度で測定をすると,日本や韓国,東アジアの社会は得点が低いということでずっと今まで言われてきました。しかし協調的な幸福感を使うと大体平均値が同じになるということで,しかも,日本発の概念であるにもかかわらず,他の国においても重要視されていることが分かります。
 しかしながら,人生の満足感尺度というのは,これまでグローバル指標として教育現場においても使われてきたということがあります。例えばOECDは,満足状態をウェルビーイングと読み替えて,PISAの2015年の中でも使用しています。これによって,例えば東アジア地域は勉強のスコアは高いが精神的なウェルビーイングが低いという結論が導き出されてきたということが,私とラプリー教授の分析などでも示されています。そして,ユニセフのメンタルヘルス指標も,PISAの2015年のスコアから情報を取っています。これで見てみると,やはり同じように,日本は最後から2番目のスコアになってしまうということで,こうしたランキングがメディアなどでも取り沙汰されることがありまして,日本の教育が駄目なのではないかという話が先行する状況が出てきております。
 しかしながら,こうしたこれまでの流れに対して,新しい動きも出てきております。獲得的幸福からより協調的な幸福を考えようというのは,実は日本だけではなく世界的な動きとなっています。ユネスコのアジア太平洋地域のプログラムでは,2017年PISAの後に,幸福を改善するためのプログラムを開始しています。そして,これはラプリー准教授の分析ですが,学校で楽しいと感じているという,これまでの人生満足とは異なる指標を用いて検討してみると,学校が楽しい,「そう思う」「強くそう思う」の合計は,日本,香港,台湾という,今まで低いと言われてきた東アジアの文化でも十分にOECDの平均値のスコアよりも高いことが分かります。このことから見ても,指標がいかに大切で,どういうものを使うかによってかなり結果が異なってくることは御理解いただけるかと思います。
 そして,協調的な幸福感というものは,世界にも徐々に発信がなされてきています。ギャラップ社が実施している世界幸福レポート,こちら毎年リリースされる非常にインパクトがあるものなのですが,今年から「balance and harmony」というチャプターが登場しました。これは,日本の協調的な幸福の概念に触発されて,新しくこうしたことを世界の中でも取り入れていこうということで,このチャプター6には私も筆者として参画させていただいたのですが,非常に大きな動きになっているのではないかと思います。
 このように,これまでの獲得志向的な幸福,そして協調志向的な幸福,このバランスを私たちは今こそ考えるべきではないかと思っています。日本の自己観のモデルというのは,私はよく,2階建ての家のようだという話をさせていただくことが多いのですが,基礎になっている1階の部分が人と協調する,他者の幸せを考えるというような利他性につながるものであるのに対して,2階の部分はより良い機会を求め,多様な生き方を認める,より新しくグローバルなものです。この両方が必要なのだということが重要な視点かと思います。
 また,これに関連することとして,地域の幸福という測定指標をつくってみようということで,これまでもやってきたのですが,例えば,地域の中で感じられる幸福の中には,地域の中での社会関係資本,信頼関係という基盤があって,それを基にして,新しくほかの人に対して,何か利他的な行動や振る舞いをしてみようという向社会的な行動にもつながっている。この循環関係により地域全体がよくなるというモデルを,実際にいろいろな大規模な調査から示してきました。こうした知見を生かして,日本における学校現場をどう考えるかということにも展開できるのではないかと思っています。
 例えば,これは一つの案なのですが,教育とウェルビーイングの概念を整理するとどうなっているのかを検討してみることも考えています。まずは,生徒のウェルビーイング,これは非常に重要なことだと思います。子供たちの幸福なくして私たちが教育を語ることは,なかなか難しいと思います。その中には,これまで言われてきたような獲得的な幸福にまつわるような自己実現,あるいはスキルというものもあるわけですが,一方で協調的な幸福感に関わるような多様なつながりと協働とか社会貢献とか利他性というものも,生徒のウェルビーイングに含めることができるのではないかと思います。
 そして,それを支える要因としての学校現場の場のウェルビーイングとして,例えば,先生,関わっておられる地域の方々,そうした方々の幸せというものがどういうふうに実現されているか。この相互関係によって私たちは,学校の状況のウェルビーイングを深く広く包括的に検討することができるかと思います。
 現在考えている,これも試案ですが,ウェルビーイングの構成要素としては,例えば,生徒のウェルビーイングの中には主観的に,学校が楽しいかどうか,心身が健康かどうかだ,こういった声を拾っていくことが必要です。そして,それを支える要因,自己実現や多様なつながりがあるか,安心・安全な状況があるかということもあります。また,自分にはよいところがある,相談できる大人がいるといったことを子供たち自身がどんなふうに実感をしているのか,そういう声を聞く機会も必要であろうと思います。
また,同時に生徒だけではなくて,やはり今,教員のストレスという問題もよく出てきていると思いますので,そこも検討が必要です。学校の先生が元気であれば,やはり子供たちにもそれは伝わっていくと思います。先生たちが今の仕事を楽しいと思っていられるか,子供の成長を実感しているか,保護者や地域との信頼関係があるのかどうか。こうした先生や学校を取り巻く状況についてもきちんと包括的に理解した上で,学校現場のウェルビーイングを考えることができないかと思います。
 こうした計画や実際の概念整理が目指すことは,やはり自分たちで活用できてこそ,こうした目標や概念整理,指標があり得ると思います。決して外向きのランキングや評価ではないということです。それぞれの学校が自分たちの学校や地域で,ウェルビーイングは何かを考えるきっかけ,そして,子供たちの声をきちんと聞くきっかけとして,こうしたものを使うことができないかと思います。また,ウェルビーイングが実現できているというアウトカムだけで一喜一憂するのではなくて,それを支える要因がどれだけきちんと充実したものとなっているのか,こういったものを包括的に検討することも重要だと思います。そして,それはある特定の学校に限らず,小学校から大学,生涯教育に至るまでの長いプロセスの中で,教育現場とコミュニティーの中での連動としてのウェルビーイングを捉える必要があると思います。やはり大人が,これが子供のウェルビーイング,子供の幸せだろうと思っていた思い込みもあるかもしれない。これを是正して,子供や現場の声を聞くことが学校の現場を改善していくことにつながっていくと思います。
 こうしたことを通して,私たちは生徒の状態,教員の状態と個々人の状態が,どれだけ互いに影響を与えて,それが翻って教育現場,地域の現場というものを元気にしていくのか。また,良い状況の中で暮らしていくことによって,そこに参加している人が新たによいものを受け取っていく,この循環関係をつくり出すことができるのではないかと思っております。
 以上です。御清聴,どうもありがとうございました。
【渡邉部会長】  大変よくまとめていただき,ありがとうございました。
 続きまして,「持続可能な幸せをつくる学びの実現に向けて」ということで,岩本委員から話題提供をお願いいたします。
【岩本委員】  岩本です。それでは,始めさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。私は,ウェルビーイングというものと学校や教育の現場をどうつないでいくのかというところでの発表をさせていただけたらと思います。
 まず前提として,ウェルビーイングといった英語や片仮名に対して抵抗感を持たれる先生が多くいらっしゃる中で,これをどのように分かりやすく伝えていくのかというところで,今回,私は「持続可能な幸せ」というような言葉で伝えていくことを提案させていただけたらと思っています。
 先ほどの内田先生の話でもありましたが,ウェルビーイングというのは,自分の幸せだけではなくて他者,身の回りや地域や社会や国や地球という自分と他者と,今と未来,今だけがよければいい,未来のリソースだとかを奪ってでも刹那的な何かをではなく,今も未来も幸せな状態をという,自利,利他と現在と未来という考え方を包摂する概念がこのウェルビーイングだと思います。これは,日本で言えば,正に持続可能な幸せというような意味合いで言っていけるだろうと思っています。今までESD,Education for Sustainable Developmentということで,日本が主導してやってきたところはありますが,今後は恐らくEducation for Sustainable Well-being,ESW若しくはLearning for Sustainable Well-being,こういった概念を今後,日本発で,サミットだとか万博だとかを含めて,私は日本から発信をしていった方がいいのではないかと思っています。自分と他者,そして現在と未来の幸せをつくっていく,そういったための教育,学びがこれからの目指す姿であるところだと思います。
 要は,Education for Sustainable Well-being,これがどういう構造でできているのかを少し分かりやすくというので示していますが,まずやはり教育の目的,目指すもの,そして,実際にその中で身につく資質・能力がウェルビーイングに資するものであるという目的だとか資質・能力レベルの話。そして,その学びや教育が起きる場,教育課程だとか教育のプロセスに加えて,環境とか土壌,その場,人間関係を含む関係性や平等な機会だとか,これがウェルビーイングを保障する。そういう場によって起きている教育であるというものが真ん中。そして,それを支えるには,教育に関わる大人,教職員,保護者,地域の関係者等がウェルビーイングを持続できているという,こういう構造でないと恐らく持続しないということで,ESWの基本的な考え方の構造は,大きく言うとこういったレイヤーがあるであろうと考えています。
 私たちも今,それをどう評価しながら進めていくのかということで取組をしていますので,後半,その話をさせていただけたらと思いますけれども,やはり子供の資質・能力,例えば主体性とか探究性,学び続ける姿勢,協働性だとか社会性というようなものを身につけるために,場としては,安心・安全で対話が起きて,多様性が受容されて,地域や社会にも開かれた土壌が必要である。そして,そういった場や土壌・環境をつくる上で,先ほど言いました大人自身が主体的に学び続ける,探究性を持って,多様な人たちと協働しながら,社会に開かれた形でというのが学校や地域社会の在り方というので,これが相互に関連し合っていることがデータとかでも見えてきているところです。
 今後,ウェルビーイングを目指す教育を考えると,いわゆる明示的なカリキュラム,教育課程という目で見える計画になっているものだけではなくて,いわゆるヒデュン・カリキュラム,隠れた教育課程と言われたりしますが,こういう学びの土壌だとか,ここを含めた本当の意味で深いレベルでのカリキュラム・マネジメント。カリキュラム・マネジメントのカリキュラムが指すものが明示的だけではないというところもしっかりと押さえないといけないだろうと考えています。
 今,高校段階ではこういった生徒自身の資質・能力,そして学びの土壌,そして大人の姿,ここのウェルビーイングの見える化に向けた評価システムを開発してやっていますので,少しそれだけ紹介させていただきますと,基本的にはこの評価の指標だとかも,先ほど言いました構造と同じような構造で,生徒自身も見ますし,土壌も見ますし,そして大人自身の幸福度や生活満足度や成長貢献実感,教職員をはじめ,こういったところを総合的に見て分析をしていくところです。指標の一部も挙げていますが,今日は割愛します。
 これ,実際どういう場面でどのように活用していくのかというところですけれども,学年会議だとかで,今の生徒の実態だとか教職員の実態なんかを見ながらPDCAを回していくだとか,職員会議等で学校評価に活用していくとか,あと,地域や学校運営協議会だとか,そういった場で,やはりデータを基に一緒に対話をしていくように使っていったりだとか,あとは事業評価です。各学校だけではなくて,教育委員会とかが行っている事業がどう寄与しているのか,効果を出しているのかという,いわゆるEBPMみたいな視点で活用するという形で活用されていっています。特に高校の場合ですと,今育てたい生徒像,資質・能力を明確化して,それを評価していこうというようなスクールポリシーを設定してという動きがある中で,スクールポリシーの設定のときに,やみくもにというよりは,現状,しっかりと生徒のウェルビーイングだとか学校の状態を把握した上で,どういう資質・能力を身につけたいのかというものを設定する。その設定したものを基に,実際にそれが伸びているのかとか,それはウェルビーイングに寄与しているのかというところで振り返りをしていくというような形で,スクールポリシーの策定,そこからのカリキュラムマネジメント,PDCAというようなところで活用していくというふうに使われたりしています。
 ポイントとしては,これは,評価で完璧なものが見えるものではなく,あくまで対話のための補助的なツールというものだと思っています。主観で見ていますので。ただ,これがあることで,生徒と教員がこれを基に対話をしていく,教職員同士で対話をしていく。そして,保護者や地域関係者とともに,生徒の姿を基に,中心に置きながら対話をするという,そういったところで,正に先ほどありましたが,ランキングしていくということではなく,PDCAや,よりよい改善のために対話的に使っていくところでやっています。
 最後に,一部始まってきているのが,これを,大人だけではなくて,生徒たち自身が自分たちの学校の状態を,学校のウェルビーイングだとかを含めて把握して,それを自分たちでどうやってよりよく改善していけるのかみたいなことを,生徒同士の対話の中でも進めていくというチャレンジを学校でもやっていきたいという動きが今,少しずつ始まってきているところで,最後,いろいろな事業評価で,何があるところでは土壌が伸びているのかとか資質・能力に影響しているのかみたいなところは分析すると,少しずつ関係性は見えてきていますというところで,ちょうど時間になりましたので,一旦こういった形で,現場で活用も始まっているというところの紹介もさせていただきました。
 以上です。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。実践的なウェルビーイングの提示と受け止めさせていただきました。
 次に,もう一つのテーマでございます「誰一人取り残さない教育」について話題提供をお願いしたいと思います。まずは黒沢委員から不登校特例校での取組について,お願いいたします。
【黒沢委員】  皆さん,こんにちは。不登校特例校で校長をしています黒沢と申します。本日は,本校の18年間の実践,それから私が民間から来て10年,この経験等を含めて話題提供をさせていただければと思います。
 本校は小中一貫の不登校特例校で,小学校4年から中学校3年生までの子供が通っています。毎月転入をしてくる子がいますので,4月の当初から比べますと,3月の終わりにはほぼ倍の人数になっている学校です。八王子全体の大体2割から3割近くの子がうちの学校に不登校の子が入ってくるという学校です。皆さん,少し子供の頃を思い出していただいて,自分が通っていた小学校,中学校はどんな学校だったでしょうか。画面に今,上に4文字,「楽」「安」「自」「仲」ってありますけれども,学校は楽しかったはずです。それから,安心できて,自分の意思で行って,しかも仲間がいた。こういう学校だったと思うのですけれども,不登校になってしまった子たちはどんな学校だったかというと,下の4文字になりますけれど,学校が苦しい,怖い,行けと言われているから行っているだけで,行っても独りぼっち。子供たちにとって,下の4文字のような場所に学校がなってしまっているというところを,我々は少し頭の隅に置いておかなければいけないかなと思っています。
 本校の設立趣旨ですが,18年前に当時の八王子の市長が,不登校対策を何とかしようということで総務省管轄でできた学校です。いろいろ書いてありますが,基礎学力と社会性の獲得,僕自身がまず子供たちを家から出してあげる。人との関わりを学校でつくってあげて,そして学力へということで,学力を前面に出すのではなくて,人との関わりを前面に出しております。
 不登校特例校というところですけれども,今現在,全国に21校あります。いろいろ特徴があるのですけれども,時数軽減ができるところと柔軟な教育課程が組めるところが最大の特徴かと思っています。それ以外の教員配置定数ですとか子供の数に合わせた予算配当ですとか,そういったところは地域の学校と全く同じです。東京都には今現在7校ありまして,公立が5校,私立が2校。小学校を含む公立校は本校のみになっております。協力者会議でも,設置が今後増えるのではないかなと感じているところです。
 では,不登校とはというところですけれども,定義としては,年間の欠席日数が30日を超えた子になります。うちに来ている子供たちは全員30日を超えた子たちですし,そもそも前の学校で全欠状態が続いていた子たちです。いろいろな傷つき体験ですとか教員不信にとにかく陥ってしまっていて,もう学校なんかとか,先生なんかとか,そのような状況になっています。共通しているのは,友達がいないとか学習に向かないとか,こういったところがありますし,親御さん共々3つの不安を抱えている状態でうちに来ます。
 では,どういう子たちが来ているかというと,大別するとこの3パターンになるのですけれども,100人いたら100通りの理由があるので,必ずこれに分類できるということではなくて,大きく分けるとこのような感じだというところで御理解いただきたいと思います。
 まず1つ目が,学校で生きづらい。対人不安がたくさんあります。3人ぐらいからもう集団だと感じる子。学習不安。分布の両端とありますけれども,正規分布する子供たちの両端の子がいると。AゾーンとDゾーンの子がとても多い。なおかつ,ソーシャルスキルを間違って覚えてきていて,あいつ空気読めないよねとか,何か変だねとか,そんなことになったり,こういう子たちには教員の出番です。社会性ですとか学力をつけてあげればいいのですけれども,なかなか教員が手出しできないのが2番と3番になります。
 福祉的な支援のために,本校はSSWもいるわけですが,やはり家庭内の環境がよくない。生活環境を変えてあげないと,不安で学校に行けない,こういう状態の子が多いです。また,その逆で過干渉気味の保護者の方も多いので,関わり過ぎると逆に子供も不安になってしまうところもあります。
 3つ目が医療です。本校は特別支援学校ではないので,入学してくるときの条件が30日の欠席ということだけなのですけれども,来てみて,学習が苦手そうだな,何か理由があるのかな,そういったところを教員が見ながらやっていくというところなのですけれども,本校の場合は,月1回ですけれども,学校医に児童精神科の先生に来ていただいています。児童精神科の先生の目から見て,この子はこういうところが苦手ですよ,こういう子はこういう配慮をしてあげるともっといいのではないですかなんていうことをアドバイスいただいていると。このような子たちなので,学校とはいっても,教育と福祉と医療の接点の場所になっているような感じが僕はしています。
 そういう不登校になってしまった子たちをどうやって学校に向けるかということなのですけれども,ここにありますように,いろいろな登校刺激,特に楽しい,うれしい,おいしいなんていうキーワードと,学校ですから安心ですよ,知的好奇心というところです。いろいろありますけれども,一番大きいのは授業中の居場所をつくってあげる。必ずここに45分間座ってなさいという指導ではなくて,座っているのがつらかったらプレイルームに行っていいよ,保健室に行っていいよ,相談室に行っていいよとしています。それから,授業そのものも分かる楽しさ。一人一人の特性をよく理解した上での集団指導をやっているわけですけれども,やはり分かる楽しさを感じると,子供たちはプレイルームに行かないで授業に出てきます。この学びと遊びという両方を提供できているところになります。あとは御覧ください。
 登校を安定させるためには,もう自己肯定感を上げていくしかないので,自己肯定感をどう上げるかというところを,いろいろな仕組みの中でやっています。
 高尾山学園の体制はこのような感じです。いきなり不登校の子がうちの学校に入るわけではなくて,適応指導教室「やまゆり」を経由して2段階で入ってくるようになっています。転入までの流れは後で御覧ください。とにかく「やまゆり」教室でまず慣らしていくということをやっています。
 18年間の活動を通して,ほとんどの子が元気になります。うちの学校の大きなポイントは,子供の数が少人数であることと,それに比べて教員の数がとても多いというところです。授業中の居場所があるとか,時数軽減できているとか,強制しないとか,適応指導教室が中にあるとか,特別支援教室も併設しているところが大きな特徴かなと思っています。
 卒業後の進路はこんな感じです。進学率は95%,高校在籍率は85%です。
 以上です。
【渡邉部会長】  不登校特例校の具体的な実例をありがとうございました。
 続きまして,今村委員から,「誰一人取り残さない日本の教育実現へ」ということでお話を頂きたいと思います。今村委員,よろしくお願いいたします。
【今村委員】  お話をさせていただきます。私からは,とにかく不登校が爆増している中で,不登校特例校を作り切れない自治体も多い中で,どうすれば本当の意味で誰一人取り残さない日本の教育をつくっていけるのかということの少し実践事例として,NPOカタリバが今取り組んでいることについてお話をさせていただきます。オンラインと対面,行政と学校と民間との新しい協働というところがポイントになってくるかと思っています。もう御存じのことかと思いますので,前提のところは飛ばしますが,とにかく不登校が増えています。
 この真ん中の表を見ていただきたいのですが,とにかく不登校になってしまったときに,どこにも相談・指導につながれない方がとても多いということ,また,適応指導教室とか教育支援センターを利用したケースは16.6%にとどまっていることが言われています。また,そういうところではなくて民間を使おうとすると,基本的には民間団体も国からの補助がない状態で運営しているフリースクールが多いので,家庭が義務教育段階から経済的な負担を高額でしていかなければいけない現状があります。それによって,こういった不登校が何によって不登校になるのかというところは,親御さん起因で家庭環境が大変だから不登校になりやすいのではないかという考え方もあるかもしれないのですけれど,私たちのところにつながってきている家庭の話を聞いていると,お子さんが不登校になったことによって,もちろん因果関係か相関関係かは分かりませんが,お子さんが不登校になったことに起因する就労変化,お母さんや主体となって養育をしている方々の就労環境を変えなければいけない。子供が風邪を引いていたら学校を休ませて,親も一緒に仕事を休むように,お子さんが心の風邪を引いている状態で,親はその子を放置して仕事に行くことはなかなかできないよねということで,なかなか仕事に行けなくなってしまうことから年収が下がって,正社員であることも諦めざるを得ないという方がすごく多いことが見えてきています。
 それによって,子供から始まった就労環境の変化,また,中には夫婦仲で,おまえの育て方が悪いから不登校になったのだとか,お姑(しゅうとめ)さんにあなたのせいとか言われるとかいろいろなことで,みんな,それぞれ孤独を感じて,家族がぎくしゃくしていきながら崩壊を招いているという声も聞いています。
 その不登校ってどんな状況なのかというと,よく語られるのは,では,オンラインの学習環境をつくればいいのではないかというのだけれど,そんな簡単なものではなくて,不登校のお子さんには本当にタイミング,その子の状況,今どの段階にいるのかということを丁寧に見立てながら,周りの人たちがそれに対して丁寧な関わりをしながら,何とかその子が学びをもう一度始めていける状態に伴走していかなければいけないということもあります。これをきちっとするには,全国に不登校特例校を設置することも一つの解かもしれないのですけれど,こればかりは財源との勝負ということもあって,どうすれば本当に,どんな過疎地であっても,不登校になったときに学びに再接続できるかというところを,どうすれば丁寧なリソースを調達していく状況をつくっていけるのかというところがとても問われている現状になっていると思っています。その上で,私たちの実践の現場から見えてきたことをお話しさせていただきます。
 まず1つ目なのですが,私たちは8年前から,島根県の雲南市という,平成の大合併でまちが非常に大きくなったところに,23区と同じ大きさぐらいのところに教育支援センターを新しく設置するということで,そこをNPOとして運営受託をさせていただいています。ここでポイントは,やっていることは,行政と綿密な連携をしながら,とにかく市内に24校小中学校があるわけなのですが,どこに何人の子が不登校の状態で,その子が今,誰の支援を受けているのか,誰の支援も受けられていない,相談にもつながっていない人は誰なのか,家庭の状態が孤独になっているのは誰なのかということを丁寧にモニタリングして,家庭訪問をアウトリーチと呼んでいますが,家庭訪問をしたり,時にはお母さんの友達だよというような,スタッフがお母さんの友達役みたいな感じで夕食の時間に入っていって,一緒にゲームするところから関係をつくって,何とか,「おんせんキャンパス」と私たちが呼んでいる教育支援センターに誘い出していくようなことも含めて,家庭へのアウトリーチ,又は学校に行って,その学校で別室支援ができる場所をつくるなどという場所の支援をしたりとか,そういったことをいろいろとしております。
 このときに,民間団体に教育支援センターを委ねればいいということではなくて,2つの意味でやっていかなければいけないことがあると思っています。1つはきちっとNPO側若しくはフリースクール側が公教育を理解することです。どうしても,心に傷を負ったお子さんたちを支援していると,学校が悪いのではないかって,子供たちに寄り添っている支援者は思ってしまうことがあって,公教育と敵対関係になってしまうこともよく起きるわけですよね。そうすると,学校も,もうこの人たちと話しても分かってもらえないみたいな感じになってしまって,そこがぎくしゃくしたり全く連携が取れないことがあったりします。
 NPO側も育てていかなければいけないのですけれど,もう一つは教育委員会とか学校に対しても,外部連携,協働というスタンスをきちっと学習していただくということ。下請ではないよと。民間団体でプライドを持ってやっている人たちが,どうすれば学校の下請ではない形で協働していけるのかということ。この両方の意味で,本当にみんなで,その子の段階に応じた,今,この子はどの状態なのかというところを一緒に見立てながら,学びに再接続していくという協働を実現していく。この両面の意味で,支援者を育てるという意味,学校,行政が育つという意味,両方の意味で育っていく必要があると思っています。
 そういったことをきちっとやっていき,民間団体をプレーヤーに巻き込んでいくことによって,全国各地に不登校の支援団体もたくさんあるので,お互いにアップデートしていく。行政,学校側もNPO側もアップデートしていくことが重要なのかなと思います。
 2つ目なのですが,例えば島根県雲南市でも24校に1個しか教育支援センターは設置されていません。過疎地だとそういうことになってしまうと思います。なので,対面で支援できる方々は何をして,オンラインで何ができるかということの適切なすみ分けをしていくことも重要かと思います。そのためにも,できれば県教委レベルでシェア型の公的オンライン教育支援センターみたいなものを設置してはどうかと思っています。これについては,未来の教室実証事業で昨年から私たちの方で取り組ませていただいているのですが,オンラインの支援者,地方だと臨床心理士の資格を持っている人が雇えないとかいろいろな声は聞くのですが,実際オンラインだと世界から人材の調達ができるので,本当に倍率も高い状態で,支援の質を高く運営できています。
 今正にやっているところなので様子を見ていただきたいのですけれど,今,画面,見えていますか。これ,うちのメタバースの画面。「くみ」という人が私ですけれど,今この瞬間,子供たちがカタリバのオンライン教育支援センターに来ています。個人情報の関係で顔は映せないのですけれど,様々なところでいろいろなプログラムがいろいろな人たちによって運営されていたりします。Zoomとかだとそこに行かないといけないのですけれど,ここだと想像して話すことができます。こういう感じで近づくと,これはスタッフルームなので顔を出してもいいのですけれど,こうやって顔を出して,スタッフの皆さん,見えるかな。スタッフの皆さん,手を振ってもらってもいいですか。こういう感じで,近づくと,そこにいる人たちに会うことができる。ありがとうございます。みたいな感じのことも,これもブラウザがあれば実現するのですけれど,自治体ごとにやるのはなかなか難しいと思うので,できればそういった形,オンラインの利用とか新しいツールの利用というのも,県教委レベルで開発したものを各市町が利用できる状況にすることで,リアルで対面で支援する人たちの適切な支援の質,そして,オンラインで何をサポートできるかのすみ分けができるようになると思っています。
 昨年の未来の教室実証事業においては,私たちのところにつながってきた子たちの中で1年以上不登校状態でつながってきた子たちも,週に1回以上の学びを継続できるという子たちが8割。まだみんなの中に入っていけないという子もいるのですが,家族以外の誰かとつながることができるということは十分やり得るなということも感じています。ただ,私たちは別にオンラインだけで完結すればいいなんて思っていなくて,これをステップにしながら,どう学校や,もう一度地域資源の中での新しい対面での学びというところにつながっていくことも,ステップとしてオンラインもきちっと活用できるのではないかということを実証していきたいということでやってきました。
 その中で,提案3つ目なのですが,重要だなと思っているのは,正に昨年の、CSTIの提言の中で示されたように,ここからはその子の学びというのは,場所とか時間とかそういったことももっと自由に考え得るのではないかと思っています。特に不登校になってしまった子供をきちっと見立てて,今どこでどんな学びが必要なのか,どんな声かけが必要なのかを考えたときに重要なのは,箱型支援よりも,その子に支援計画をして伴走してくれるコーディネーターがきちっといることの方が重要だと思っています。なので,この支援計画コーディネーターという人たちをきちっと育てて,この人たちが学校ともきちっとコミュニケーションできるような素養を育てていくことも大事で,別室まで行ける,保健室までは行ける,また教室に戻っていける,フリースクールなら行ける,そういった段階に応じた場を,支援計画コーディネーターの方が親子に伴走していきながら,その子がもう一度,学びにつながっていくことを伴走することが重要かなと思います。
 ということで,改めて,本当にどんな過疎のどんな田舎のまちで不登校になったとしても,自治体ガチャとか学校ガチャの状態ではなくて,行政,学校,民間がこれまで以上に踏み込んで連携することによって,また,オンラインも活用することによって,インフラ的にはやり得る状況を,教育振興基本計画の中にどう盛り込んでいくのかというところに何かヒントになるといいなと思いながら事例の発表をさせていただきました。
 私からは以上です。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。カタリバでの実践例ということで,大変分かりやすい御説明だったと思います。ありがとうございました。
 続きまして,徳永委員から,「外国人児童生徒を包摂する教育に向けて」ということで,話題提供をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【徳永委員】  私から,「外国人児童生徒を包摂する教育に向けて」ということで報告させていただきます。
 簡単な自己紹介ですが,専門は教育社会学や異文化間教育学でして,これまで多様性や包摂性の観点から,複数の文化や言語のはざまを生きる子供たち,また,若者たちの強みが発揮されるような教育や社会の在り方について研究をしてきました。最近では,都立の定時制高校において,高校,NPO,大学の3者連携による多文化・多言語交流の部活づくりに関わってきました。本日は,関わってくれた外国につながる卒業生の声も含めながら,報告したいと思います。
 皆さん御存じだと思うのですが,日本が多文化化する中で,日本で育つ,あるいは日本で生まれ育つ外国人児童生徒が増加しています。公立学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒数は10年間で約1.8倍増加しています。外国人児童生徒と一くくりにできないほど,国籍や言語,在留資格,宗教など多様化しています。こういった子供たちが取り残されているという状況が大きな課題になっています。
 例えば不就学率が非常に高い状況だったり,日本語支援が必要な子供たちがなかなか支援につながれていない状況だったり,あるいは,ここでは高校段階のデータを持ってきていますが,高校中退率,大学進学率も全国平均と比べて大きな格差があります。日本学術会議の提言でも,こういった格差は早急に解消に向けた対策がなされるべきであるとも指摘されています。
どうしても私たちは,外国につながる子供たちが日本語ができるようになれば格差はなくなると思いがちなのですが,格差の背景には,日本語力だけではなくマイノリティーにとって不利に働く仕組みがあります。言語だけではなく,例えば家庭の経済状況が非常に厳しかったり,あるいは在留資格ということで,家族滞在のビザを持っている子供は奨学金に応募できなく,あるいは正規の就職ができないという壁にぶつかることもあります。同調圧力が強く,差別や偏見がある中で,どのように障壁を取り除いていけるのかという構造的な視点をきちんと持つ必要があると考えています。
 これを踏まえた上で4点,私から提案をしたいのですが,1点目は「公正の視点から資源配分を」ということで,公正と平等の違いというのは,誰一人取り残さないということを考える上でとても重要になってくると思います。一人一人が異なるニーズを持っています。ですので,そのニーズに合わせた資源を配分していく必要があります。例えば,高校や大学における外国人生徒対象の奨学金を用意するとか,外国人生徒対象の入試制度をつくるとか,あるいは外国人枠を充実化させていくことかもしれません。また,包括的支援,これはほかの話題提供の中でもありましたが,外国につながる子供たちの課題が多様化・複雑化していく中で,学校の中だけでは解決できなくなっており,日本語教師や多文化ソーシャルワーカー,スクールカウンセラー,弁護士など,外部の専門家人材と連携をして,包括的に支援体制をつくっていくことが必要だと思います。
 定時制高校の卒業生が伝えてくれたのですが,学校のスクールカウンセラーに相談に行っても,なかなか日本人には分かってもらえないということがあったので,外国人のメンタリティーが分かるカウンセラーが必要だと言っていました。多文化対応というのが,カウンセラーやスクールソーシャルワーカーでも必要になると思います。
 2点目はストレングス・アプローチに関してです。外国人児童生徒の教育に関わっていますと,どうしても外国人児童生徒の弱みに着目することが多いように思います。日本語ができない,学力が低いなどの語りをよく聞きますが,子供に問題や欠陥があり,それをどのように補完できるのかという見方ではなく,子供は複数の言語を話したり,言語と文化を通訳できるような高い能力を持っていたりしますので,子供たちが持つ能力や知識を私たちが認識して,それを引き出して伸ばしていくことが重要です。その過程で,子供の自己肯定感が高まり,エンパワーされると思います。ストレングス・アプローチは,外国人児童生徒に限らず,ほかの子供にとっても重要な視点だと思います。どのようにエンパワメントできるかということです。
 子供の強みを引き出すためには,日本語指導に加えて,母語・母文化の保障や肯定的なアイデンティティーを育む教育を行うことが,これからの未来を考えるときに更に必要になってくると思います。多文化の強みを持つ子供・若者たちは,多様性が尊重される共生社会をつくっていく重要な担い手です。彼らとともに誰もが生きやすい社会をつくっていきたいです。
 それに加えて3点目ですが,外国人の子供たちをどう支援するかだけではなく,やはり私たちが変わっていく必要があると思います。学校全体で取り組む多文化共生の教育は,みんなで考え,実践していく必要があると思います。多様性を強みとする学校づくりということで,例えば子供や教職員の多様性を尊重していくとか,学校全体で多文化共生に取り組むモデル校を設置して,それを広げていくとか,すばらしい多文化共生の実践をされている学校もあり,教員もいらっしゃるので,そういうところをきちんと評価していく必要があるでしょう。その点は,定時制高校の卒業生も語っていまして,言語が2つぐらいできる先生がいたらよかった,悩みが相談できたとか,あるいは,日本人との関わりが大切で,日本人がほかの文化を知るためにもこういった教育を行った方がいいのではないかという声もありました。
 今回少し紹介しましたように,私たちが子供や若者から学ぶ姿勢がとても重要であり,彼らは社会課題を経験する専門家であると捉え,彼らの声を尊重して傾聴していくことが求められていると思います。
 「ユースアドボカシー」という言葉がありますが,外国につながる子供・若者の視点を制度や政策づくりに活(い)かし,彼らをそのプロセスに参画させていくことが重要でしょう。「ユースアドボカシー」の事例が海外では複数ありますので,それらも参考にしながら,当事者不在ではなく,子供・若者の経験や視点を組み込むような仕組みづくりを進めていきたいです。それが当事者のニーズにも応じた,かつインパクトのある政策にもつながるのだと思います。インドルーツの若者が,「1人で悩んだり解決する必要はなくて,一緒に考えてほしい」と日本人の先生に対して言っていましたので,「一緒に」というのはキーワードになるのかと思います。
 最後に,多様性と包摂性というのが今回の基本計画でも重視されていますが,外国人児童生徒が市民として,将来国際社会で活躍できるように環境整備をし,包摂していくこと,そして,それが外国人児童生徒のウェルビーイングの実現,そして社会のウェルビーイングの実現にもつながるのだと思います。一人一人に居場所のある社会をつくるために,是非皆さんと議論していきたいです。
 以上です。ありがとうございました。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。外国人児童生徒についての広範な御指摘,ありがとうございました。
 最後になりますが,横浜市立六浦小学校の尾上校長先生から,ウェルビーイングを目指す学校経営ということで御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
【尾上氏】  よろしくお願いします。横浜の六浦小学校で校長をしています尾上と申します。簡単に自己紹介させていただくと,教員41年目です。この10年間校長をしています。今は,再任用校長として現任校で勤務しています。教員の入り口が,横浜の中でも,重度,最重度の,知的障害のお子さんの特別支援学校,中学生,高校生の進路を考えた4年間があったのが,これが自分の教員の方向づけをしてくれたと思っています。校長になってからも,インクルーシブスクールを具現化することや子供の体験を保障するカリキュラム,それを積み重ねていくことで埋没しています。
 ウェルビーイングに注目しているのも,インクルーシブ教育と非常に親和性が高い。これ,一緒なのではないかなと思うことが多いです。一人一人の合理的な配慮の積み重ねが一人一人の多様な幸せにつながっていって,それが学校や学校を中心とするまちの幸せにつながっていくと捉えられています。また,生活科・総合ベースの体験を保障するカリキュラムを学校は求められていることも感じています。この2点がウェルビーイングに注目している大きな柱かなと思っています。
 今日,この話も学校評価システムを構築していくこと,それと学校の強みを生かした教育課程を編成していく,あとは児童指導・体制の確立や特別支援教育の柱のある学校運営をしていくという,この4つの柱でお話しさせていただけたらと思っています。
 学校評価システムに関しては,校長としての経営ビジョンを,こんな学校を作りたいという経営ビジョンと具体的な取組を明確に示して,教職員の主体的な運営体制を確立していくと。とにかくもう信頼して任せるという信頼関係をつくるようにしています。自己評価を大切に,子供の様子を見ながら,また保護者の考えを聞きながら,やはり自分たちで運営改善していく学校運営に当たっています。その中で,学校運営協議会,地域の皆さんには,学校が意を強くして運営に当たれるように,いろいろ御意見を頂いていると,そのような形です。これは私が示している,このような学校にしていきたいというビジョンです。字だけだと伝わりにくいので,子供や保護者にも伝わるように,ウェルビーイングを実現している子供の様子をイラストでこのように描いたりもしています。
 これは,何ができて,どこに課題があるのかというのを半期に1度,職員の自己評価の中から進捗状況をみんなで確認するために作っている資料です。あと,児童や保護者のアンケート,学校は楽しいですかとか授業は分かりますかとか,保護者からも自由な意見を聞いて,それも年間2回聞く中で,自分たちの学校運営に生かしていくようにしています。
 2つ目,学校の強みを生かした教育課程については,とにかく1年から6年,そして特別支援学級や国際教室,全ての学級で,生活・総合ベースの自分づくり教育を展開しています。地域の人や専門家,企業,商店,そういうところとつながりながら,地域資源や環境,歴史,文化とつながる多様な学びを子供たちにできるようにしていくということ,また,それを実現するための教育環境をつくっていく,そのことが教員の人材育成にもつながると思っています。
 そのような様子を,学校だよりでは毎月2回,保護者には伝えるようにしています。これ,5年生が田んぼを作っていて,その向こうで3年生が花壇に種まきをして,その向こうで2年生が夏の野菜を育てているって,何か夢のような世界ですけれど,6月にこういう時間もありました。あと,児童指導・体制の確立については,一人一人の子供の教育上や養育上,家庭環境上の問題について,子供本人や保護者から悩みや困難を傾聴して,毎日毎日ともに考え,よりよい方向に導いていくという,そういう職員のチームを作って積み重ねています。特別支援教育の柱を大切にしていて,障害の有無や国籍,ジェンダー,家庭環境,本当に多様な背景を持つ子供たちですが,一人一人が安心できる学びの場や居場所を用意していくことを考えています。
 そのような中でまた,私,校長の日々の実践なのですけれど,とにかく現場に出ています。通学路や授業の様子,休み時間,子供を見に行くという感じ。一人一人の子供のウェルビーイングを表情や行動から読み取って,それを皆さんに伝えています,職員や保護者に。あの子,心配だねとか,今日,すごくいい表情をしていたよと,その情報共有から次の一手を考えて実践に結びつけるようにしています。そのような様子の情報発信についても心がけています。毎日,学校ホームページは更新していたり,先ほど見ていただいた学校だよりや学年だより,学校説明会,様々な会合で子供の姿を伝えられたらと思って,私,絵を描くのが好きなので,学校だよりも学校説明会も,だんだん字よりも絵の面積の方が大きくなってきて,保護者もこちらが好評で,今回は上手に描けていましたねと絵を褒められることがとても多いです。文はあまり褒められたことはないですけれど。あと,校長の日々の実践,配慮していることとしては,今言ったように,毎日こういうことを続けていくということ。これ,学校ホームページの様子です。このような感じで,日々の授業の様子をつづって。
 まとめなのですけれども,内田先生がおっしゃっていたとおり,ウェルビーイングの目標というのは,子供一人一人が幸せや生きがいを感じ取れるカリキュラムを学校が持つことが,それが学校全体の生きがいや家庭や地域社会に広がっていくということ。だから,子供一人一人のウェルビーイングを向上させることが,学校やまちのウェルビーイングの醸成になって,その広がりが多様な個人を支えるということ。これ,本校にウェルビーイングの研究をしている教員がたまたまいて,2年生のクラスでウェルビーイングをテーマに授業したものです。子供もよく分かっています。2年生の子供も,やはりウェルビーイングっていいなって。すごくいいことができるのだなと思いました。自分の周りの人も幸せになっていくのがいいと思ったみたいなことを言っていたり,職員の研修でも,この教員が中心になって校内研修でウェルビーイングを取り上げて,職員の方が本当に様々ないい評価としては,幸せについて考え,話すことができる,こういう時間そのものが幸せだって感じたという。ウェルビーイングは授業づくりにも職員の研究にも,また,学校評価の視点であったり学校経営の視点,指標にもなり得るなということで,そんなことを感じています。
 以上です。
【渡邉部会長】  どうもありがとうございました。絵の中にウェルビーイングが表現されているような感じがしました。ありがとうございました。
 今日のテーマは「教育とウェルビーイング」と「誰一人取り残さない教育」についてですが,今の,尾上先生の御発表の中で,この2つは親和性のあるテーマだという御説明がありました。大変重要な方向性を示していただいたのではないかと思います。
 それでは,ここからは2つのグループに分かれていただいて,前回と同じような形での意見交換をお願いいたします。それぞれのテーマについて深掘りをしていただきますが,2つのグループでの進め方について事務局から御説明をお願いします。
【川村教育企画調整官】  それでは,事前に御希望をお伺いしておりましたとおり,教育とウェルビーインググループの先生方はこのZoomにお残りいただきまして,誰一人取り残さない教育のグループにつきましては,チャット欄にURLをお送りしますので,そちらからお入りいただくようお願いいたします。
 現在11時7分ですので,およそ50分弱御議論いただきまして,11時55分にお戻りいただくということで,11時55分からクロージングのセッションを始めたいと思いますので,それまで御議論のほど,どうぞよろしくお願いいたします。
(誰一人取り残さない教育グループの委員が移動)
 
(教育とウェルビーインググループの議論)
【牧野委員】  皆さん,よろしくお願いいたします。牧野です。教育とウェルビーイングということで,先ほど内田委員と岩本委員,御報告どうもありがとうございました。これから教育とウェルビーイングについて,少し皆さんの方から御議論いただきたいと思いますが,最初に,先ほども最後,尾上先生からお話がありましたが,教育とウェルビーイングということと誰一人取り残さない教育といったものが親和性があるというか,実践現場においては同じようなことといいますか,ウェルビーイングを実現することが誰も取り残さないことにつながっていきますし,誰も取り残さないといったことがウェルビーイングにつながるのだという御議論だと思いますが,その意味で,こちらのグループの方で「教育とウェルビーイング」という言い方になっているのですが,これがどういう関係になるのだろうかという思いも少しするのです。教育振興基本計画の部会ですので,教育政策としてウェルビーイングをどう捉えていくのかという議論になるのではないかと思うのですが,まずこの辺りから,少し皆さんで御議論いただければと思います。教育とウェルビーイングとは一体どういうことなのか,どういう関係なのかです。
 最初に,先ほど内田委員からもお話がありましたが,御一緒に研究されてきましたラプリー先生,今日特別に参加してくださっていますので,まず,ラプリー先生から付け加えの意見ですとか御発言がありましたらお願いしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。お願いいたします。
【ラプリー氏】  お願いします。完璧な日本語ではないですから,日本語が出てこない場合は内田先生にパスしましたり,何とか英語で説明したりするのですけれど,よろしくお願いします。
 先ほどの,1時間程度のプレゼンテーションのいろいろな視点から,教育とウェルビーイングがあると思いまして,グローバルな視点とか行政の視点,学校の視点とか現場の視点,いろいろな視点があるのですけれど,私はネイティブの英語スピーカーですから,結局ウェルビーイングってどういう意味かということは,最初,少し確認したいと思います。wellというのは,よいとかよくするとか,beingは存在とか人間の在り方ということから出てきて,定義しないままで片仮名になると皆分からなくなるとか,先ほどの校長先生の発表で,子供たちも教員たちも,ウェルビーイングって何ですかとかという質問が,よく出てきくるということでした。あえて定義しようと思ったら,やはり人間の在り方ということで,それはまだ象徴的です。ただ,先ほどの内田先生の発表では,定義しようと思ったら,内田先生がよく使っている,私も最近使っている,すごく好きな言葉で,場の文化とか,関係性の中でアイデンティティーをつくってくるとか,そういう日本的な定義にしたらいいと思います。それぞれの文化圏でこのウェルビーイングという,西洋から来た象徴概念を定義しないといけないと思いますから,まずはこの場で定義して,その定義を踏まえてどのように測定指標を作るかということはすごく大事かなと思いました。
 2015年からOECDが,単なる学力と経済の関係性から一転してウェルビーイングに注目しています。こういう片仮名になったのは多分,OECDの言説で,残念ながらOECDは多様なウェルビーイングの定義を作ろうと思っていないのです。ですからそのままの西洋どおりの定義をする。2018年に,次のPISAテストでライフサティスファクションだけではなく,新しい,もう少し広い定義にしたのですけれど,ミーニング・オブ・ライフとかセルフエフィカシーという言葉を使っています。その調査でも日本のスコアが低かったので,日本が遅れてしまっているイメージが2030年までは続くと思います。少し長くなりましたが,やはり第一歩としては定義して,そこから測定指標を作って,そこから行政から学校とか現場に移るというか,会議するのが大事かなと思いました。
 中途半端な日本語で申し訳ないのですけれど,ありがとうございます。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。ラプリー先生の共著で,『日本の教育はダメじゃない』という本がありますが,これも日本の子供たちは自己肯定感が低いと言われているのだが,それは観点の違いではないか,違う観点から見れば,日本の子供たちの状況はもっと積極的に捉えられるのではないかという御提言もあったかと思いますが,いかがでしょうか。今,ウェルビーイングの概念定義といったものが,ある意味では外国由来というか,西ヨーロッパ由来のものであることに対して,もう少し日本的な定義の在り方といったものを考えたらどうかというお話ではなかったかと思います。その場合には,先ほど内田委員がおっしゃった,いわゆる獲得的な幸福よりは,むしろ協調的な幸福といいますか,場の関係性のようなことから捉えたらどうかというお話であったかと思います。
 これから各委員の方から御発言いただきたいと思いますが,今,既に永田委員が手を挙げていらっしゃいますが,挙手ボタンを押してお願いできますでしょうか。
 では,まず永田委員,お願いいたします。
【永田副部会長】  ありがとうございます。今,おっしゃったことを言おうとずっと思っていました。今日,内田委員のスライドのおかげで,この話をするたびに違和感があったのですが,それがいい意味においても悪い意味においてもなくなりました。獲得的な幸福と協調的な幸福ということで,非常にはっきり理解できたと思います。それならば,なぜアンケートは獲得的な観点からのものが多いのだろうかと私は思うわけです。友人といい関係ですか,あるいは楽しいですかではなく,友人に少しでも頼りにされましたか,あるいは友人を助けましたかと聞かなければいけないのではないですか。そのような意味合いで,もともとのウェルビーイングは倫理観や社会観に根差しているわけだから,世界的な基準はもちろん取り入れるにしても,特に教育振興基本計画を立てるためには,我々にとってのプロパーなものをまず作らなければいけない。これまでのOECDやユネスコなどいろいろなアンケートは私には異様な違和感がありました。他人のふんどしでアンケートを採っておいて,日本のものを考えましょうというスタイルです。これをまずやめて根本的に考え直さないと,永遠に振興計画にならないと思って聞いていました。
 そのように自分を納得させると,全て獲得型のもので議論されているうちは黙っていようと思っていました。しかし,内田委員のプレゼンの,最後の方には,世界が注目する日本のよさが出てきています。それならば,やはりそこは我々の主体ではないのでしょうか。逆に言うと,弱点になっているのは,協調性やそのようなところに重心があったため,日本の子供たちは,獲得的に何かを行うということが非常に苦手だと思います。ここが難しくて,このあんばいをいかに次の基本振興計画の中で新しい日本のやり方の一歩として書き込むかが重要であり,先ほど内田委員の発表を聞いた途端に手を挙げたくなりました。なぜなら,そのようなつもりで残りを聞かないと駄目なのではないかと思った次第です。
 従いまして,日本に合う,日本の子たちが世界に出ていっても通用する,そのような意味での,ウェルビーイングの追求の仕方を,幾つかの標語にするしかないのかもしれません。それが出ない限り,次の教育振興基本計画のウェルビーイングについては情けない結果になるような気がするのです。ありがとうございました。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。協調的幸福といったことからウェルビーイングを捉え直すということなのですけれど,ある意味,日本型のウェルビーイングを考えてはどうかということだと思います。ただ,それでもやはり世界に伍していかなければいけない,そこの関係をどう考えるのか。むしろ協調的でありながら獲得的になっていくことができるような筋道をどう考えるか,という御指摘ではなかったかと思います。ありがとうございました。
 大森委員,お願いできますでしょうか。
【大森委員】  ありがとうございます。私も,今,永田先生がおっしゃったことにつながってというか,定義があって,その定義に基づいていろいろな指標を考えていってという,尾上校長先生も学校経営にそうされていていいなと思って。そして,我々に合った定義と指標というのに大賛成だし,本当に今日,目からうろこの御発表を聞かせていただいたと思っています。
 一方で,定義や指標を考えようといったときに,私,まちづくりにすごく関わっていて,例えばデジタル田園都市国家構想のアーキテクトとかやっているのですけれど,そこにはそこで,例えばウェルビーイングなまちづくりというのがあって,いろいろなウェルビーイングの指標が今,ばっこしているといったときに,やはり教育は教育のウェルビーイングと分けて考えるべきなのか,社会全体の定義とミックスさせていくべきなのか。一方で,世界のウェルビーイングと日本のは違うよねという考え方でいくと,逆に言うと,では,日本全体でこうだというよりも,その地域だとか,あるいはもっと言えば,その学校だとかその子だとかという,個々のウェルビーイングの指標のような,いろいろなことが起こり得るのかとかいうあたりが,どこまで個に寄り添ったウェルビーイング,地域に寄り添ったらよいのか,そういったことについて内田先生にお聞きできたらうれしいなと思ったのが1点。
 それから,やはり協調ということでいくと,向社会性みたいなことを子供たちにも育みたいと思ったときに,考え方としては,子供たち自身のウェルビーイングが達成されると,おのずと,自然にというか,向社会的になるのか,それともそういう学びもしっかりとやっていくべきなのか,この2点,質問になってしまい申し訳ないのですが,お聞きできたらと思います。
【牧野委員】  ありがとうございます。では,内田委員,よろしいですか。お願いいたします。
【内田委員】  回答させていただきます。大森先生,どうもありがとうございました。大変貴重なコメントだと思います。まちのウェルビーイングと教育のウェルビーイングなのですが,私としては,やはり場をどうつくっていくかということにおいて,非常に密接に関連しているのではないかと思います。私の発表の中でも申し上げさせていただいたとおり,協調的なウェルビーイングあるいは場の全体のウェルビーイングというのは,学校にいる生徒個人個人はもちろんそうなのですけれど,そこから広がって,学校を取り巻く地域環境であるとか生涯学習の環境についても連携して考える問題なのではないかなと思います。学校に特化した測定とか指標みたいなものや目標も必要な一方で,まちのウェルビーイングとの重なりというかオーバーラップも,考えるべきことなのではないかと思っています。
 また,そういう意味でいうと,地域性というのも本当におっしゃるとおりで,ウェルビーイングというものが,幸せを感じている状態というのは,多分どの地域でも重要なことであったとしても,それをどう実現しているのか。例えば,豊かな地域社会の中で学ぶことが多いというような場のウェルビーイングもあれば,自分たちの地域よりもむしろ全然違うところとつながって,そういうところから出てくるウェルビーイングがある場所もある,そんな学校があってもいいと思うのですよね。先ほど今村委員がおっしゃっていたような,バーチャルなつながりや場所から出てくるウェルビーイングも面白いかなと。そうすると,個別の地域性であるとか場所性みたいなものも捉えて,ウェルビーイングを何が支えているのか,それぞれの強みや弱みを分析できる,そんなモデルがいいのかなと思っています。ですので,日本というアンブレラの中にありながらも,個別の多様な地域性や特性を生かせるような,そういうものができていくといいのかなと思います。
 向社会性は重要なことで,これまでの調査だと,本人のウェルビーイングが高いと向社会的にもなるし,向社会性を実施したことで,また自分のウェルビーイングに関わってくるという,循環関係が出来上がっているようです。それは実際体験してみないと分からない。一歩,人を助けてみようと踏み出してみたことで,すごく喜ばれたとか,自分の価値を感じたとか,本当に困っている人が助かったって言って喜んでいるということによって実感することがあると思うので,そういう機会を増やすことと,その循環をうまくしていく。正にどちらが先というのではなくて,利他性と自分の喜び,生きがいを同時に走らせるような,そういうプログラムにできるといいのかなと思いました。ありがとうございました。
【牧野委員】  どうもありがとうございました。大森委員,よろしいでしょうか。
【大森委員】  ありがとうございます。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 次に,村田委員,河野委員,吉田委員,関委員,松浦委員の順でお願いいたします。まず,村田委員からお願いいたします。
【村田委員】  ありがとうございます。私も内田先生に御質問です。大昔,それこそ大学時代に読んだ本で,社会心理学者だと思うのですけれども,島崎敏樹さんの『生きるとは何か』という本があるのですが,岩波新書だったと思いますが,そこに生きがいというのは,友人たちや大事な人,愛する人と一緒にいる,今日のお話で言うと協調系の幸福感といいましょうか,生きがいだと。一方で,自分の人生の目的を追い続けていくこと,これがもう一つの生きがいなのだというようなことを読んで,その両方が必要ということがその本に書かれてあったのです。今日,先生のお話を聞いてそのことを思い出しまして,正に協調系と獲得系と両方が要るのだと思うのですが,確かに今日,永田先生の御発言がありましたように,いわゆる世界,OECD,アングロサクソンと言った方がいいのかもしれませんが,獲得系ばかり中心で,逆に日本は協調系を強めるというか,強調してきたわけです。ここから質問なのですが,両方必要だと思うのですが,日本の場合,「空気を読めよ」とか「空気を読まない」とかということは,逆に協調系というのは人と人,周りと歩調を合わせる,そのことが例えば,今の小中高の教育,大学も若干そうかもしれませんが,いわゆる学齢といいましょうか,年齢に合わせて教育がなされていっている。とんがった才能をなかなか認めない,あるいは同じレベルに合わせていこうというようなことにもつながっているのではないかと思うので,その辺り,協調系と獲得系,これをどう調和していくかが物すごく重要だと思うのですが,その辺り,先生の御意見を聞かせていただければと思います。よろしくお願いいたします。
【牧野委員】  ありがとうございます。では,内田委員,お願いできますでしょうか。
【内田委員】  ありがとうございます。大変重要な御指摘だと思います。協調,独立,それぞれいいところ,悪いところがあると思うのですね。協調に関しては,特に足の引っ張り合い,同調主義みたいなところがどうしてもネガティブなポイント,あるいは忖度による問題ということもあると思います。協調と独立のバランスを取っていくときに重要なのは,それぞれの良い点をうまく見つけていかないといけない。協調の形態が,閉じた社会の協調になると見張り合ったり同調させるというようなことがどうしても出てくるのだと思うのですが,そうではなくて,開放的な協調性というか,自分たちの閉じた社会だけではなく,様々な人とつながる,正に多様につながるような開放的な協調性に転換していくことによって,この問題がある程度是正できるところがあると考えています。つまり,寛容さというか,多様性をいかに日本社会の中で認めていくのかが,新しい協調性の在り方の非常に重要なポイントではないかと考えております。
 簡単ですが,コメントさせていただきます。ありがとうございました。
【牧野委員】  ありがとうございます。村田委員,よろしいでしょうか。
【村田委員】  ありがとうございました。
【牧野委員】  ありがとうございます。
 続きまして,河野委員,お願いできますでしょうか。
【河野委員】  ありがとうございます。大変勉強になりました。私どもが実践しているようなこと,これを非常に体系的にまとめていただいたなということ,大変有り難いと思っています。私どもは,国際理解教育事業ということで留学という分野でありますが,クラスルームを超えた生涯教育だと位置づけて,OECDのラーニング・コンパス,これで示された教育的枠組みを世界的に実践しながら変革を起こす,コンピテンシーをどうやって育成したらいいかということをずっとやってきているのですが,その中でなかなか解けない問題があったのが,今日,非常によく解けました。我々も満足度調査を世界的な調査として毎年実施する中で,「あなたはこの事業に対してどれだけ満足しましたか」という質問をするのですが,それをそのまま英語を日本語に翻訳して,満足したかどうかということを質問すると,日本のホストファミリー,ホストスクールからは,低い評価が毎回出ます。世界のホストファミリー,ホストスクールと比べて何で日本の受入れ家庭はそんなに満足度が低いのだろうかということを悩んでおりましたが,あるとき,これは聞き方がいけないのではないかということで,「満足」ではなく,「あなたはこの体験が有意義だったか」という質問に変えてみたところ,ぐんと数値が上がったということがありました。正にしてあげたい,もっとしてあげたかったのにできなかったことが不満足にレーティングされていたということがありましたので,今回,その問題が非常にクリアになりました。
 留学といいますと派遣にばかりに目が行きますが,日本へ受け入れていく,コミュニティーへ受け入れていく,これが非常に重要なのではないかな。もっと伸ばせる日本人のこの協調型を生かして,日本の教育を普及していけるのではないかと,留学生の受入れを推進する起爆剤になるのではないかと思いました。ありがとうございます。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。留学生受入れの立場から,いわゆる概念ですね,概念から導かれる,つくられている指標の問い方の問題といいますか,それをもう少し協調的な形で組み替えてやると日本のレートも上がるのではないかというお話だったと思います。これは,今後指標をつくるときの1つの大きな参考になるのではないかなと思います。どうもありがとうございます。
 続きまして,吉田委員,お願いできますでしょうか。
【吉田(信)委員】  全国市長会社会文教委員の委員長で埼玉県本庄市の市長を務めております吉田でございます。実は今日のお話を聞いて,私は実は内田先生と雑談をしてみたくなったのです。紋切り型の話というよりも,雑談をする中からいろいろな解が出てくるのではないかなという気がしております。実は今,河野先生から御指摘いただいた満足というものと有意義,これ,非常に大事だなと思うのです。
 やはり日本人というのは,自分の幸福というのは,他者との共生の中においての幸福感を大事にして,自分だけが何かいいとか,それだけで満足と言ってはいけないのではないかという,そういう気持ちを持っているのです。私,前から思っているのですけれども,日本をリードすべき,例えば政治であれ行政であれ経済であれ,トップリーダーの方々が残念ながらこの日本的感性というものについての教養が非常にお粗末。西洋的な感覚というものが是(ぜ)であって,日本的な感覚についての教養がないのです。私は実は寺の住職でございまして,大学を卒業して,坊さんの大学の大学院に行かせていただいて,別にここで仏教の話をするわけではないのですけれども,我々国民全体は,日本的感性を非常に強く持っているわけなのですよ。他者の幸福なくして自分の幸福感はあり得ない。だから,それがいわゆる遠慮にもつながりますし,あなた,満足ですかって言われて,私だけ満足って言っていいのかなという気持ちが出てくる。それは謙虚ということで捉えられるべきであって,不満足ではないのです。そういう意味で,自分自身が自治体のいろいろな満足度調査という,この「満足度調査」という言い方に非常に違和感を覚えていたので,正に内田先生の話を聞いて,なるほどと思いました。
 時間がない中で私,もう一つ言いたいのは,子供たちと触れ合う機会が多いのです。この間も小学校に行ってきました。小学校の6年生,すごいですよ。「意見ある人」と言うとぱっと手が挙がって,私はこう思いますとかって結構言ってくれる。ところが,市内にある大変な進学校,ここで,この間,ある外国のお客様をお招きした。みんな,英語ができるのですよ。ところが,英語のしゃべり方が,すごくぼそぼそぼそーっと小さな声でしゃべるのです。もっとはっきりと主張しないと,英語って使えないのではないかと思う。非常に英語ができるにもかかわらず,ぼそぼそぼそーっと自分の主張がないようなしゃべり方をする。このギャップは一体何なのだろうか。世に進学校と言われているようなところに行った英語を学んでいる子が,なぜか自分の主張をはっきりとできなくなっていく。小学校のときにはあんなにみんな活発にできているのに,だんだん大人になるにつれて日本人は逆に自己主張ができなくなってくるというのは一体何なのだろうかなと。そういうギャップを感じているのです。
 何が言いたいかというと,今,子供たちが留学しなくなっています。外国に出ていって,自分の経験を積んでこようとかって,そういう意欲のない若者が増えていることも,私,非常に危惧しているのですけれども,日本という国は,個を大事にしましょう,個を大事にしましょうと教育をしていながら,実はその個がなかなか伸ばせない状況になっているのは一体何なのか。いろいろなこと言ってしまいましたけれど,日本的な感性というものももう少し表に出して,そういうものも私たちは大事にして,ちゃんと自己主張していきましょうねという,ある意味,子供たちに日本的な社会の中で培われたものであるとか,そういったものに対する誇りとか自信を持たせながら大きく成長させていきながら,自分自身の主張もちゃんとできるようにしていけばいいのですけれど,なかなかそういう教育になっていないのではないかなという感じがしておるのです。
 いろいろ申し上げるのですけれども,自治体の長(ちょう)としてもそれは感じておりまして,協調的な中での幸せというものをもっと大事にするのであれば,例えば,個人情報の問題というのがあるのですけれども,個人情報の壁によって,困っている人に対して民生委員さんなんかが本当の意味で手を差し伸べられないような,そういう制度的な問題もあるのです。本来であれば,もっとお互いに情報交換し合いながら助け合う社会づくりであればいいのに,なぜか日本の場合は,個というものを大事にしましょうと言っているがあまり,本来,個を超えて,お互いに協調してやっていくような幸せみたいなものもどんどん破壊してしまっているような,そんな社会制度になってしまっているのではないか。こんな矛盾も抱えているのですが,個を強調するあまり孤独になっている日本社会等々,こんなことも感じております。
 ばらばらと話をしましたけれど,なぜ内田先生と雑談したかったかというと,今私が申し上げたようなことについて,この取り留めのない話に対して何か感想でもあればおっしゃっていただきたいと思っているのです。
 以上でございます。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。吉田委員,実は今日,終わってから,お昼の時間にランチタイム・ギャザリングがあります。御飯は出ないそうですけれども,雑談の会が予定されていますので,そちらに是非御参加いただければと思います。
【吉田(信)委員】  分かりました。
【牧野委員】  今の御指摘は,日本的な協調性といったことの上に,どうやって個をきっちりとつくっていくのかという,そこに大きな課題があるのではないかという御指摘だったと思います。どうもありがとうございます。
 次に,関委員,お願いいたします。
【関委員】  今まで分からなかったウェルビーイングについて理解することができて感謝申し上げたいと思います。内田先生に1つ御質問なのですが,18のパワーポイントデータの中に地域の幸福の測定指標というものがございますよね。この中で,起点になる部分がどこになるのかなというのが少し,私どもの,日頃の活動の中で感じているものと違うのかなと思ってしまいました。社会関係資本があるかないかが前提になるのか,あるいは,いろいろな活動する中で社会関係資本が蓄積されていくのか。そのことが,ウェルビーイングにどうつながっていくのか。どちらかというと私の感覚では,今まで活動する中で,だんだん社会関係資本が蓄積されていって,結果的に信頼度が高まっていったり,お互いの互酬性の規範が増加していくような体験をしてきたと思うのですが,そしてここの中では最終的には,多世代共創の社会につながっていく,それがまた地域の幸福につながっていくのかなというイメージを持っておったのですが,その辺,この測定指標の図の中でどういったものをイメージされているのかお聞かせいただけたら有り難いと思います。
【牧野委員】  ありがとうございます。それでは,内田委員,お願いできますでしょうか。
【内田委員】  ありがとうございました。この図については「ぐるぐるモデル」って呼んでいまして,ぐるぐるしているのですよね。何かが出発点になって,全ての原点がここにあって,それでぐるぐる回るという。本当にお互いがお互いを支え合っているという状態なので,どこを起点に考えていただいても使えるものにしたいなと逆に思うのです。例えば,現場でいろいろな活動をされている方にとっては,もしかしたら向社会的行動という,正に行動そのものを起点にして,ここからぐるぐると回っていくというモデルで考えることもできると思いますし,あるいは,幸福というものを起点にして考えるならば,幸福な人が一体どんな動き方をするのだろうとも考えることができると思います。
 これもポイントは,矢印は一応右から左みたいになってはいるのですが,実際にはこれが循環していて,多世代共創になっていけば,また社会関係資本になるというふうにぐるぐるとつながるモデルだということが重要かなと思います。これは教育とウェルビーイングにおいても,先ほどから御指摘いただいているような,正に主体性をどう考えるかとか,自分たちの持続的な学びをどう考えるか,ある意味,満足してコンプリートするというのではなくて,多分ずっと循環関係の中で自分自身が成長して大人になっていき,そして社会に貢献していくのだという,そういうスパイラルなモデルが恐らく実現できるのだろうなと思っているので,起点というのは正にどこからスタートしても大丈夫というところでございます。社会関係資本が十分にあるところは,むしろそれをうまく活用して展開していこうと,そんなことを考えることにもつながるかなと思います。ありがとうございました。
【牧野委員】  ありがとうございます。関委員,よろしいでしょうか。今のお話,OECDのラーニング・コンパスのAARの循環にも似ている感じがします。ある意味では,どこから始まっても,開放系の試行錯誤の体系でどんどん拡大していくというか,次へ次へと駆動されていってしまうようなモデルではないかと思いました。どうもありがとうございます。
 続きまして,松浦委員,お願いできますでしょうか。
【松浦委員】  ありがとうございます。時間もないので手短にとは思うのですが,3つのことをまとめて申し上げたいと思います。
 1つは今日,こういう形で定義をきちっとしていただいて,大変参考になりました。私,教育学者なので,理論や教育哲学とかの観点からすると,定義というのは抽象化すればするほど実践的な指導力をなくしてしまうのですが,この2つの枠組みを立てていただいたおかげで実践につながっていける,程よい概念,枠組みを示していただいて,大変感謝しています。
 その上で,一方で,協調系ということをもっと見直していこうということは私も賛成なのですが,そして,協調系こそ本当にビーイングの方に一番ぴったり合うのだと思うのですが,ただ一方で,教育という点で理論的に言えば,実はビーイングというのはすごく教育となじみにくいというか,教育というのはプロセスで,ビカミングというか,その状態にどうやって持っていくのかが大切になってくるので,やはり協調系を強調したとしても,獲得系との関係は概念や理念の中で大切にしなければいけないのではないかと思ったことが1つ。
 2点目は,プロセスということで言うと,先ほどの矢印でも,循環でも右肩上がりでもいいのですが,問題なのは,その矢印をどうやって実現していくのかというプロセスの議論がやはり大切になってきて,もう一方のグループでの不登校状態,それに対してそれぞれに対応していただいているのだが,そこをウェルビーイングに持っていくための矢印こそ,みんなで知恵を絞っていかないと,そうではないと基本計画になっていかないから,逆に言えば,今日のお話でそこのポイントが私の中ではかなり明瞭になってきたということです。
 3番目は,それとの関連で言うと,最初,牧野委員がおっしゃったことですが,教育政策とウェルビーイングと考えていくときには,教育で実現できるウェルビーイングと,教育ではなかなか手に負えないだろうというところの区分けと関係構築をしていかないといけないのかなと思いました。ウェルビーイングというのは本当にすばらしい概念だと思いますが,先ほどのお話にもありましたけれど,我々の大学なんか,受験競争にある意味疲れて大学に入ってくるとか,入ったはいいが,3年生になると今度出口を目指して就活だという,そこはウェルビーイングとは程遠いような競争とか厳しい社会というものが外にあって,逆に言えば,教育の中だけウェルビーイングだと言っていても,外の世界がそういう状態になっていかないとすれば教育の無力さを感じるしかないので,外の社会と教育との関係をどう捉えていくのかということも,このウェルビーイングの観点からは大切なのかなと思いました。
 以上でございます。ありがとうございました。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。3つ大きな課題が出ましたが,内田委員,いかがでしょう。少し時間が気になっていますので,簡潔に答えられるようであれば簡潔にお願いできますでしょうか。
【内田委員】  ありがとうございます。正に教育,ビーイングをビカミングにしていくというのがポイントですね。本当にこれは大切に考えないといけないと思います。ビーイングというのは,状態をどう認めるかということだと思うのです。そのために,まずは状態を知るところから始める必要があるわけですが,それをどう変えていくのか。やはり教育はプロセスだと思いますので,本当にそれはおっしゃるとおりだと思いました。
 また,今日,いろいろな質問を頂いた中で共通していたのが,獲得と協調のバランスをどう考えるのかというので,今までかなり獲得に寄っていたところに協調の要素を入れていくということだと思うので,必ずしも獲得を全部やめてしまいましょうということではなくて,私の発表の中でもありましたように,バランスをどう取っていくのか,これをちゃんと検討していくことがプロセスにもつながるだろうと思いました。
 以上です。ありがとうございました。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。
 いかがでしょう。まだ御発言のない安孫子委員と三好委員はいかがでしょうか。
 では,岩本委員,お願いできますでしょうか。
【岩本委員】  では,2点。今までの議論で全くそうだったなと思って,協調,獲得,どちらかというよりもどちらもというもので,自利すなわち利他,利他すなわち自利というところが1つポイントなのかと思っています。子供たちの話と,先ほどありました教職員とかというのを見たときに,やはり生徒たちのためにというのでとても苦しくなっていっている中で,今回,子供たちの幸せのためにも,一人一人,先生が幸せになっていいのですよというメッセージを出すこと。これ逆に,自利というか,自分自身を大切にすることがおざなりになって,それでも貢献を強いられてきたというのがやはり日本の学校文化にあったので,そのバランス,子供もそうだし,大人も,そして自分自身も大切にするし他者への貢献もというところは1つ大事なポイントかと思っています。
 もう一つが,個人を見るという話と,場とか土壌とか風土としてのウェルビーイングというところ。これに関して言うと,どちらかというと学校を考えると,誰一人取り残さない土壌や風土を構築できているのかというのが今後目指していく1つのポイントになってくると思います。そのときに,今議論がありましたけれども,日本の場合,協調的というか,やはり同調的になっていっていると。これは自分と相手が同じだ,自分が嫌なことは相手も嫌だという自他同一という,この集団の中での協調をこの考え方でやるから同調的になると。自分と人は違う,一人一人違う存在なのだという前提に立った形での協働的な,いわゆる個性,多様性を受け入れていくと変わらなければいけない。その中で1つだけ,少し気になったのは,強みを生かすという発想,僕,とても大事だと思うのです。ただ,強みと言うと,弱さと強さみたいな中での話になってしまうので,強みというよりも違いを生かしていくのだという,一人一人違う,その違いをうまく生かしながらやっていきましょうという方が日本の学校だとか文化にはなじむのではないかと思います。
 以上です。
【牧野委員】  どうもありがとうございました。関係といいますか,言葉の使い方ですね。同調ではなくて,むしろ違いを認め合いつつ,それをお互いに生かし合う関係といったことが大事ではないかという御指摘だったと思います。どうもありがとうございました。
 安孫子委員,いかがでしょうか。お願いいたします。
【安孫子委員】  ありがとうございます。大変勉強させていただきました。企業に置き換えて考えてみました。企業においては,目標を達成するという獲得系,ここは欠かせないものになりますので,企業の中でウェルビーイングを考えていくという大切さは重要に思っていますが,ここの協調系とのバランス,これが非常に重要かなと思いました。
 以上です。
【牧野委員】  どうもありがとうございます。企業のお立場から,どうしても獲得性が中心になってしまうがという話だと思います。どうもありがとうございます。
 では,三好委員,お願いできますでしょうか。
【三好委員】  ありがとうございました。内田委員のお話で,私はとても理解できたという気になりました。そして,皆さんの御意見を伺う中で,ウェルビーイングということを改めて,今,行政という位置で,学校と間に入って,これをどう実現するかということ,短い時間でしたけれど,かなり私なりに考えることができました。その中で,協調系の幸福というところで,開放的な協調性,この言葉もなるほどなと,改めてこの言葉の意味を考えたいと思います。それから,バランス・アンド・ハーモニーと言われたことも非常によく理解できました。
 最後に,松浦委員がおっしゃった受験の競争,外の世界と教育の中のウェルビーイング,ここは正に外で現実的な競争や評価と,教育でプロセスを大事にしながら,他との競争でなく個がどう伸びていくのかというところを行政としてもしっかり見ながら取り組んでいるのですが,この辺りは非常に難しいなということを改めて思いました。たくさん勉強させてもらいました。ありがとうございました。
【牧野委員】  どうもありがとうございました。行政のお立場から,今日のウェルビーイングの概念定義,それから,先ほど松浦委員がおっしゃった点,これをいわば政策的また行政的にどう社会に実装していくのかといった大きな課題があるのではないかという御指摘だったと思います。どうもありがとうございます。
もうそろそろ時間が迫っているのですけれど,私も委員の一人として一言だけ申し上げたいと思うのですが,少し議論を混乱させる話になるかもしれませんが,今日,協調的幸福と,いわゆる獲得的な幸福という,内田委員の概念定義といいますか,御提起から始まって,皆さんからお話があったのですが,1つだけどうしても気になる点があります。先ほど,例えば,協調的な幸福といったことで指標を取り直すと,日本も韓国もあまり変わらないのだというお話があって,幸福感のようなものも,指標を変えれば取り直しができるのではないかというお話だったと思いますが,一面で,今までの議論というのは,個人が,ある意味では同一性をずっと保ち続けているというか,一貫して私はそこに存在しているのだといったことが前提で語られているような感じを受けてしまうのです。むしろ,幸せを感じたりとか,自己認識をするというのは,その場その場で,関係の中に投げ込まれたところで発生するものというか,先ほど岩本委員も自利と利他とおっしゃっていましたけれども,自分を認識したり他者を認識したりするといったことは,ずっと一貫して同じ状態であるわけではなくて,その都度その都度変化していくものであったり,その都度発生するものだと考えていくと,個人をどう捉えるのかといったことと,個人が置かれている場との関係をどうとらえるのかという問題があるように思うのです。これをどうするのか。
 しかも,それを教育行政,又は政策としてどう社会に実装するのかということを考えていくと,むしろ今までは個人を強くするという議論でやってきたものを,もう少し環境を整えていくですとか,又は評価指標の在り方も,岩本委員が最初の御報告で指摘されていたように,個人の問題として扱う以外に,例えば個人を取り巻く環境との関係であったり学校の教職員との関わりであったりというようなことが入ってくるので,そうしたところを少し重点的に見ていくことによって,個人がその場その場で幸せを感じたり,その場その場で自己認識を新たにしていくといったことにつなげ,それが結果的に幸せだとか,又は自分でも何かできるのではないかという肯定感や社会への信頼感の向上,そうしたことに結びつけることができるのではないか。こう思います。
 そうすると,やはりここで私たちが考え直さなければいけないこととして,個人とは一体どのようなものなのかといったこと,そういう点もあるのではないかなという印象を持ちました。また,これからどこかで議論ができればと思いました。よろしくお願いいたします。
 先ほど事務局からありましたちょうど55分になりましたので,ここまでにさせていただきたいと思います。御協力どうもありがとうございました。また,よろしくお願いいたします。
 
(誰一人取り残さない教育グループ)
【清原委員】  それでは,これから,「誰一人取り残さない教育グループ」の意見交換を始めさせていただきます。
 
【清原委員】  それでは,時間に制約がございますが,今まで話題提供をしていただいたお三人に対して,まず,御質問等おありになる方いらっしゃいますか。
 私は,3名の方のお話を聞いていて,武蔵野東学園の清水信一委員も,長きにわたり,「誰一人取り残さない教育」の実践をされてこられたので,最初に御発言を頂くことからスタートしたいなと思いますが,清水委員いかがでしょうか。
【清水(信)委員】  ありがとうございます。
【清原委員】  よろしくお願いします。
【清水(信)委員】  まずは,今日,発表していただいた3人の先生方ありがとうございました。ふだんネット上で発表する機会が先生方は多いので慣れていらっしゃると思うのですが,私どもは操作ができないものですから,緊張して今日もまた迎えました。
 今日,お伺いしていて,感じたことを述べさせていただきます。私どもの学校法人の中には幼稚園,小学校,中学校,高等専修があります。そして,高等専修学校には特別支援の必要な生徒と,また不登校の生徒が学んでおります。今日御発表いただいた黒沢先生の高尾山学園からも,本校に何人も入学をしています。今日の朝,入試広報の方に,高尾山学園から何人ぐらい来ているか,そして,その子たちが本校を卒業してどんな進路を歩んでいるか調べてもらいました。おかげさまで,全員無事に卒業しております。ほとんどがやはり大学,専門学校に進学をしておりました。その後のフォローは,少しまた,当時の担任から聞かないと,大学,専門学校卒業した後何やっているかわかりませんけれども,また機会があったら黒沢先生に御報告させていただこうかなと思いました。今お話しさせていただいたように,私どもの高等専修学校には,障害のある子,自閉症スペクトラムの子たちがいます。そして,高尾山学園さんとか,公立の中学校さんから,不登校の子たちをお預かりして,混合教育,インクルーシブの教育環境で相乗効果の教育効果を上げさせていただいているわけですが。
 まず,本校にいる不登校の子たちの多くも,やはり入学したときは,自分が一番弱い,なかなか理解してもらえないという悩みを持って入ってくる子たちが多いです。しかし,インクルーシブの教育環境の中で,同じクラスになった隣の席にいる障害のある子が,なかなか会話はできなくても,毎日一生懸命登校し,自分の得意分野のことは一生懸命やり,不得意分野を一生懸命トレーニングで克服している姿を見て,これは正に武蔵野東の教職員の力だけではなくて,環境が,不登校の子たちが目標を持った生活ができるようにしているのかなと思うところが随分あります。
 あと,本校で教育をしていて,また,今回の誰一人取り残さないというテーマで,日頃感じていることをお話しさせていただくと,今も先生方の発表の中にございましたが,誰一人取り残さないというのは非常に重要なことだと思いますが,まず,今の教育環境を少し顧みていただきたいのですが,現状,取り残されている子たちが結構います。これは学校教育法の第1条以外で学ぶ子たちです。
 いろいろな学校制度,また,学校制度に関わる法律が,学校教育法第1条に定義される学校とありますので,学校教育法第1条以外で学ぶ子たちは,まずスタートラインから出遅れてしまうのです。私は高等専修学校を長くやっております。まず,先ほどもフリースクールのお話もありました。例えば,JRの定期の割引率も,今,高等専修学校は何とか運動をして改善をしましたが,まだフリースクールさんの場合にはなかなかここは改善していないと思うし,また,学校安全の問題ですとか,日本スポーツ振興センターの保険の問題ですとか,命に関わる問題もなかなか解決していないところがまだまだあるように思います。
 高等専修学校は,おかげさまで,長い年月をかけましていろいろな格差を是正してきまして,特に就学支援金とか,授業料減免も,1条校の私立高校より遅れはしましたが,何とか今,格差なしの学校で子供たちが学ぶようになってきております。
 ですので,まず,同じ日本の子供たちですので,どこで学ぶ,それによってまず格差が生まれないようにしていただきたい。どこで学ぼうが,まずスタートラインはそろえていただきたいなと強く感じているところです。
 もう一つは,障害のある方たちの生涯学習という点で,今日の資料の中にも,先ほど見ていたら,44ページ以降にございますが,障害のある子供たちの教育を長年していてつくづく感じるのは,やはり理解教育が進んでいないということ。いろいろなことを進めようと思っても環境が整備されていない。ウェルビーイングという観点で見ても,相互理解,そういうところでは,やはりインクルーシブ教育を本当に幼児期から浸透させていけば解決できる問題は相当あるのではないかなと感じております。
 私どもの法人には,今,正職員,時間講師,事務職まで入れて296名の教職員が在籍をしております。そのうちの46名が武蔵野東幼稚園,小学校,中学校,高等専修学校を卒業した者が教職課程を取って,学園に教職員として戻ってきております。
 そしてなおかつ,今1,600人弱の園児,児童,生徒がいるわけですが,学園の卒業生が,御自分のお子さんを,また2代にわたってお預けいただいている卒業生の割合も非常に多いというのが最近の傾向として出ております。ということは,インクルーシブ教育の中で,その卒業生は学ぶことがあったので,我が子をまた自分の母校である武蔵野東学園に預けてくれているということです。
 ですので,そういう理解教育が進めば,生涯学習も進んでいくし,生涯学習のところを読ませていただくと,公民館とか地域にはなかなかそのラインがつくれないというような資料も載っていました。あれを見たときに,ふと思ったのが,本校では年20回ぐらい卒業生講座をやっております。ですから,特別支援学校の高等部さんを拠点として,障害のある子供たちの生涯学習を考えてみるのも一つのなのかなと,その資料を見て,本校の取組からして,そのようなことも感じました。
 以上でございます。ありがとうございました。
【清原委員】  清水先生,ありがとうございます。インクルーシブ教育を実践されてこられた立場から,例えば不登校の場合にも,持続可能に次の教育段階に引き受けてこられた御経験,そして障害のある子供たちに対する理解をまだまだ深めていく必要があるし,明確におっしゃいませんでしたが,「合理的配慮の前提としての相互理解」を提起していただきました。
 あと30分ほどの時間でございます。どうぞ皆様,せっかくの少人数の機会ですので,是非挙手をしていただいて,順次御発言をいただければと思います。どなたからでも,どうぞ挙手を。
 それでは,吉見委員,お願いいたします。
【吉見委員】  ありがとうございます。黒沢委員,今村委員,徳永委員,大変示唆的な御発表ありがとうございました。
 二つ質問と,それからその先で一つ意見に近いものがございます。ただ,その前に,私,徳永委員がおっしゃったストレングスアプローチには本当に賛成でございます。それが日本にとって,非常に重要であると私も思います。
 それで,質問なのですが,一つは黒沢委員の御発表の中で,この高尾山学園を卒業された子たちが高校,大学でリーダーになっていくということが書かれていたかと思うのですけれども,具体的にどういうふうにリーダーになっていくのかをもう少し御説明いただけないでしょうか。これが,黒沢委員への質問です。
 それから今村委員への質問ですが,御発表の中で,個別支援計画コーディネーターを育成すべきであると言われました。これもよく分かるし,そのとおりだと思いますが,では実際にどう育成すればいいのか。具体的に個別支援計画コーディネーターを育成する仕組みをどう構築するか。教育プログラムを含め,どういう仕組みを作ればそういう人たちが育成されると考えているのか,そこを具体的に教えていただければ幸いです。
 あと,これは意見ですが,一連の議論はウェルビーイングと重なりがとても多いわけですが,ウェルビーイングの反対語は何だろうかと思うのですね。適切なものはないようですが,ビーイングウェルの反対はビーイングロストですよね。つまり,道に迷うということです。道に迷うというのが反対だとすれば,何で道に迷うのかと考えると,道が少ないというのかな,道が一つしかなくてみんなそこにいろいろな多様な人を詰め込もうとするから,そこからはみ出して道に迷ってしまう人がいっぱい出てくるわけです。
 つまり,多様性,ダイバーシティーがどんどん社会の中で増しているときに,今の,日本の社会の仕組みが,前から申し上げていますが,年齢主義的単線主義,非常に標準的,画一的,同調性を強要する仕組みがまだ非常に強い。だから,どうしてもそこからはみ出して道に迷う子供たち,若者たち,様々なポテンシャルある人々が増えていく。
 それを変えていくにはどうすればいいのか。その転換のための計画を何年計画ぐらいで考えるのかがとても重要だと思うのですね。多分,3年や5年でこの牢固(ろうこ)たる構造が変わることはないのだろうと思うのですね。多分,10年,20年計画にこれはなります。ですから,日本が多様性を活(い)かす社会になるには,2040年とか45年とか,そのくらいのスパンで考えざるを得ないのではないかなという気がしています。以上でございます。
【清原委員】  吉見委員,ありがとうございます。コメントについては,私たちの視点として,また議論を深めたいなと思っています。
 御質問を2点頂きました。まず黒沢委員に,卒業後リーダーになった生徒について,情報をよろしくお願いします。
【黒沢委員】  高校と大学でリーダーということなのですが,まず本校に来たときに,いろいろな相談できる大人が本校にいるのですね。そういう中で,相談できる力を子供たちが身につけていくわけです。そうなると,高校に進学,あるいは大学に行ったときに,相談される側(がわ)になるのですね。人の気持ちがよく分かるというか。そういうことを繰り返していくと,いつの間にか生徒会長になるとか,部活のリーダーをやるとか,卒業生で教員になった者も何人もいますし,そういう人とコミュニケーションする力が高められたというところが,僕は大きな要因かなと思っています。
 以上です。
【清原委員】  ありがとうございます。「相談する力」というのが重要なキーワードですね。
 それでは,今村委員,お願いいたします。「個別教育支援コーディネーターの育成」についてです。
【今村委員】  ありがとうございます。今,もちろん私たちの中でも,こういった計画を立てるコーディネーターの育成は日々努力をして開発しているところではあるのですが,今,私の方に,これをすべきという答えを持ち合わせているというよりは,そういった考え方の人を設置していくことが,不登校の支援には重要なのではないかということを申し上げさせていただきました。
 これは特別支援教育の分野だと,特別支援学校においては,全ての児童生徒に個別の指導計画をつくることが義務づけられているわけですので,それに近いといいますか。申し上げたかったのは,とにかく教育支援センターをいっぱい設置すればいいとか,こういった不登校の支援施設をこれぐらい増やせばいいという考え方よりも,学校の中の校内フリースクールを増やせばいいという考え方よりも,その子に伴走する人が,きちっとトータルで,その子が学校復帰といいますか,学びへの復帰をしていくということに伴走する人がいるということの方が重要だという考え方を御意見させていただきました。
 育成の仕方については,やはりこの特別支援の分野から学ぶのがいいかなと思います。
【清原委員】  吉見委員,いかがでしょうか。ありがとうございます。
 それでは,ほかに御発言のある方,どうぞ挙手をお願いします。いかがですか。
 それでは,杉村委員,お願いいたします。
【杉村委員】  ありがとうございます。まず,本日,本当に熱のこもったすばらしい御発表を頂きまして,ありがとうございました。ウェルビーイングの会議の先生方もそうですが,黒沢委員,今村委員,徳永委員,そして清水委員の御発表や御発言を通じ,現場からの声がとても深く重く心に響きました。
 先ほど,吉見委員がおっしゃった,多様な選択肢をつくっていく,新しいいろいろなルートをつくっていくという話に関連してですが,徳永委員も先ほど言及されたのですが,これまで日本の教育は,あるいは世界もそうですが,機会の平等を非常に重視して,とにかくまずは教育の機会をみんなにという目標がずっとあったと思います。それはそれでとても大事ですし,また途上国の中には機会の平等についてもまだ保障されていない国もあるわけですが,一方で,今日,より重要になってきているのが,機会を得るだけではなくて,得た機会が個々の学び手にとってどのように意味を持っているかという点です。今日のいずれの御発表でも,その点を大変強調していただいていたように思っております。その意味では,平等に対して,先ほど徳永先生がおっしゃった公正というところがとても大事な点であると思いました。
 基本計画をつくるときにも,平等と公正をきちっと区別して,何が平等なのか,また平等ということがどのように捉えられるのかを考える必要があると思います。特別支援教育の重要性,あるいはインクルーシブ教育の重要性を考える場合,平等と公正のどちらかだけを尊重することはできない。その選択の難しさにつながっているように思いましたので,コメントとお礼を兼ねての意見でございますが,一言申し上げさせていただきます。ありがとうございます。
【清原委員】  杉村委員ありがとうございます。「平等」と「公正」ということ。「機会均等」ということと,機会をどのように適切に整備するかということを問題提起いただきました。
 それでは,堀田委員,そして続けて荒瀬委員と御発言をお願いします。
 堀田委員,どうぞ。
【堀田委員】  ありがとうございます。私はICTとかテクノロジーとか,その辺を専門にしているので,その観点から少しコメントというか意見を申し上げます。
 先日,元紺谷委員の学校にお邪魔して,視察させていただきました。ここは北海道の各地の小さな高校に向けて,学びの多様性を保障するために,北海道として中核的な遠隔授業配信センターをつくり,そこから小さな学校の2人とか4人とか5人とかの生徒たちに遠隔授業を配信されていました。2つの学校が同時に受けるようなこともあるというようにお話も聞きました。
 個別の学校で,この生徒たちの多様性を全部保障しようと思うと無理なのですが,こういうような集中的な機関があることによって,個別の学校ではなかなか対応しきれない多様性への対応を吸収している部分があるなと思いました。
 先ほどの,今村さんのNPOカタリバさんの話も,オンラインで教育支援センターをつくることで伴走できることと,対面で寄り添うことの上手なすみ分けをやられているように感じます。
 徳永委員の話でも,外国人児童生徒の多様性に各学校で,あるいは各地域で対応することの難しさを御指摘いただいたと思いますが,そういう方々の学びの保障も考えたときに,やはり何か集中的な支援センターみたいなこと、オンラインでできることが結構あるのではないかと。それができれば,対面で,そばで対応して伴走する人の役割も,負担も少し減るのではないかと。
 こういう多様性に対応しなければいけない時代において,今,存在する学校に全ての労力を負わせることの難しさというか,リスクというか,そういうことを考えたときに,今のような集中的な何かセンター的な機能を持った機関をちゃんとつくって,そこからオンラインでできることを配信する,対応する,何かそういうような仕組みを,この基本計画に何か盛り込めないものかなということを感じました。意見ですが,以上です。
【清原委員】  堀田委員,ありがとうございます。今村委員も提起してくださいましたが,諮問の中にも,対面と,つまり「リアルとデジタルの調和」というか,「ハイブリッド」というか,そういう在り方も提起されていますので,そのことに対応する方向性の御意見だと受け止めます。ありがとうございます。
 それでは,荒瀬委員,お願いいたします。
【荒瀬委員】  ありがとうございます。少し雑駁(ざっぱく)な感想みたいなことになってしまうのですが,私,黒沢委員のおっしゃったことで,二つ非常に心に残ったといいますか,気になった言葉があります。
 一つは,楽しい,うれしい,おいしいという,これはとても学校の持っている機能として大事だなと思いまして,個人的な話で申し訳ありませんが,私の孫が,今,スウェーデンの学校に通っているのですが,お昼休みの給食はもちろんのこと,午後にフィーカと言ってお茶の時間があるのですね。これ大人もやりますが,子供もやるという。それが楽しみの一つで学校に行っているのですね。
 学校に行く理由というのは一体何なのかというのは,個人によって違うと思うのですが,学校での学びというのは,一体何によって学ぶのかというと,教科書使って,そこで知識を入れるということもとても大事ですが,それだけではないものがあって,不登校の子供たちの話とかを聞くにつけて,結局,学校に行っていないことによって自己肯定感を失っていくとか,あるいは学ぶ機会,人と触れ合う機会を失っていくとか,それが生涯にわたって影響するとかということになってくると,何を理由に学校に行くかということを考えていくと,その楽しい,うれしい,おいしいの,そのおいしいも本当に大事なことだなということを思いながら聞いておりました。
 それともう一つ,これは今村委員もそうですし,徳永委員もそうですし,気になった言葉があって,今村委員に関して言うと,公教育の果たすべき役割という中に,公教育は,公教育以外の教育の担い手といいますか,提供者に対する理解をしていくことが大事だということと,逆に,外部とあえて言いますが,外部の方からすると,公教育に対するまた理解も重要だという,こういう協働というものがとても大事なのだろうということ。
 それから,徳永委員のおっしゃったことで言うと,子供とか若者の声をしっかりと聞く仕組みが大事だという。これからの学校教育を考えていくときに,こういったことを本当にしっかりとやっていくことが大事なのだろうなと思いました。
 それで,最後なのですが,翻って考えると,学習指導要領とは一体何なのかなということを改めて思った次第です。今,全ての学校段階で新しい学習指導要領が動き出しています。高等学校はこの4月から学年進行ということですので,まだ全てではありませんが,こういう形で動いていく中に,とりわけ学年進行で始まった高等学校の新学習指導要領が一体何を目指すのかというときに,この4月から成年年齢が引き下げられましたことで,もう既に選挙権は持っていたわけですが,18歳が成年に達すると。では,その成年に達する人に学校教育は一体何をしていく必要があるのか。その際,先ほども申しました,学校に行く何らかのきっかけを持っている子供の幸せであるとか,あるいは,その中で,特に時数軽減であるとか柔軟な教育課程が組めるという話なのですが,これって結局,学習指導要領から外れるということですよね。そういったようなことが大事であるとするならば,では学習指導要領は本当にどうあるべきなのかということを改めて思った次第です。
 いよいよ新学習指導要領が始まったばかりですが,次期学習指導要領に向けての動きというのが始まろうとしているわけで,そういう中で子供たちの参加ということも考えていく必要があるなということを改めて思いました。
 以上です。ありがとうございました。
【清原委員】  ありがとうございます。私も荒瀬委員に共感して,今,お話を伺っておりました。特に,公教育と,それから民間との協働ということについては,ますます重要な概念になってくるなというふうに私も受け止めました。「おいしい」は大事です。
 それでは,黒沢委員,よろしくお願いいたします。
【黒沢委員】  先ほど,吉見委員から出ていた,コーディネーターの育成というところに絡んだことで一つだけ意見を言いたいと思っています。
 本校に来ている教員,職員,全員不登校のスペシャリストになっていますが,もともとスペシャリストではないのですね。全然知らないと,そういう人たちなのですが,やはり自分で実際に生徒を抱えて,それからいろいろなケースを抱えて,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,いろいろな人がうちにいますが,そういう人たちと意見を聞きながら,この子のことはどうしたらいいのだろうと,こういう会議を繰り返しやっていくのですね。
 その中にはプレイルームの職員もいて,子供が遊んでいるときにどういう素の状態になっているのかとか,そういう情報を逐次上げるようにしているわけですが,そういう経験値を1年ぐらい継続すると,結構コーディネーションできるような能力が,教員には持てるようになってくるのかなと思うのです。やはり先生方も成長していただくという意欲を持って本校に来ていただくと,やはりいろいろな意味で成長できるかなと。これは別に教員だけに限らず,いろいろな職員全て,補助員に至るまで,やはりそういう経験を積んでいくということが大切かなと思っています。
 以上です。
【清原委員】  ありがとうございます。伴走するのは1人ではなくて,多様な存在がチームでということも重要ですね。ありがとうございます。
 川口委員,それではお願いいたします。
【川口委員】  御指名ありがとうございました。委員の先生方,御発表いただき誠にありがとうございました。誰も取り残さない教育というものの実践に日々取り組まれている皆様に最大限の敬意を表したいと思いました。
 それで,私は労働経済学が専門なのですが,学校教育において誰も取り残されないということが,やはり労働市場においても誰も取り残されないということにつながるということも重要かなと思いまして,そういった観点で見てみると,やや懸念すべきことが労働市場では起こっているなと感じております。
 国勢調査という10年に一遍やっている国の調査がありますが,これで学歴を聞いているのですね。それで,その調査を見ますと,1960年よりも後に生まれた人のコーホートの中で5%ぐらいの方は最終学歴が中卒なのですね。これは男性のことなのですが,男性の約5%が,最終学歴が中卒。それは高校に進学されない方も高校中退された方も含めての数字なのですが,この方々の,労働市場での就業の機会というのはかなり限定されるようになってきておりまして,例えばなのですが,30歳の時点の就業率というのを見てみると,1990年の時点では9割弱の方が働いていらしたのです。これが2010年,20年後になりますと,もう75%まで落ちているということで,もう高校を出ていない方の就業というのは間違いなく厳しくなっているというようなことがありまして,今日,御発表いただいた中でも,卒業後の進路,特に高校に進学するですとか,あるいは大学に進学するといったような指標というのを取り上げた発表というのもあったと思いますが,そういった教育での成果というものが,やはり労働市場での成果というものにもつながっているということがありますので,そういった点というのも含めて,教育の在り方というのも考えていく必要があるのかなと思いました。
 最後に1点なのですが,文部科学省さんの方で,21世紀出生児縦断調査,これはそもそもは厚生労働省が始めた調査ですが,調査対象になっている人が学齢期になるに従って,文科省の方に所管が共管になって,またこういう調査をずっと続けていただいて,労働市場に出たところで,また厚生労働省に戻るか何か分からないですが,労働市場での就業に一体どういうふうにつながっていくのかというような調査を続けていただくことも大切なのかなと思いました。
 すみません,1点ですが,ありがとうございました。
【清原委員】  川口委員,ありがとうございます。大変重要な視点ですし,やはり継続的な調査の意義を再確認いたしました。
 それでは,残りの時間,あと10分ほどですが,元紺谷委員,黒木委員,今村委員,そして,できれば御発言いただいた徳永委員も最後に一言と思います。
 それでは,元紺谷委員,お願いいたします。
【元紺谷委員】  ありがとうございます。今日,委員の話を聞きまして,全然知らないことがたくさんありました。勉強になりました。
 それで,まず黒沢委員の話の中でも出てきたのですが,守備範囲がたしか,聞き間違っていなければ,不登校の生徒を対象で,特別支援は対象ではないと説明されていたのではないかと思うのですが,特別支援で不登校の子を救う道ってあるのかなという。あるいは,黒沢委員の学校にも,そういった子も一定程度入るような隙間があるのかなというのを知りたかったなと思います。
 あと,高尾山学園は,人的には特別支援学校並みにかなりの先生方が配置されているので,そういった体制がなければ,やはり救えないのかなと思いました。
 今村委員がその話と関わって,お金をかければできる。しかし,それでは無理なのだというような話があったのですが,私は今村委員の話の中で,こんなにたくさんの学校や行政以外でサポートできる組織というかものがあるのかなと。そして,こんなに充実しているのだなということが,まず勉強になりました。
 それで,今村委員に一つだけ聞きたいことがあったのですが,先ほど,支援センターの連携,オンライン支援センターで,8割が学びに再接続できたということは,2割はまだできていない。その子たちが取り残されているが,それはどこに原因,またどういうところが足りないと思われているのかというのを教えていただきたいと思いました。これが1点。
 もう一つは,皆さんにというか,先ほど御発言いただきました清水委員にも関わるかもしれないのですが,特別支援が必要な子供たちは特別支援学校に行くのですが,こぼれる子がいます。高等支援学校に入れない子。実は,定時制や通信制には,そういった子が入らざるを得なくてきていて,しかし,まだまだ高等学校における特別支援教育が充実していないので,高校ではあたふたしながら,そういった子供たちを何とかということで,今やっています。
 今,うちの学校では,一つのチームになれれば子供は絶対救えるという,この信念で今やっております。ですから,今村委員のああいった取組は,北海道でももっともっと広まればいいかなと思いました。
 以上です。
【清原委員】  ありがとうございます。
 時間の関係がありますから,まず,黒木委員から発言していただいて,今村委員,御発言のときに今の元紺谷委員の御質問にも答えていただけますか。
 では,黒木委員,最初に御発言どうぞ。
【黒木委員】  ありがとうございます。黒木でございます。
本当にすごく勉強になる会でございました。黒沢委員のところで,先ほども御指摘がありましたが,楽しい,うれしい,おいしいって本当いい言葉ですね。すごく感動しました。
 それから,今村委員のところで,協働ということ,公教育と同じ方向を見ることが大事だというようなことと,公教育からも歩み寄るべきだというお話ですね。とてもよかったと思います。
 徳永委員のところでも,ストレングスアプローチって本当にいいですね。非常に印象に残っています。
 私たちは教育振興基本計画に御意見を賜らせていただければと思っておりますので,ということで申しますと,計画の中にある施策として育成するものが,ゴールとしての若者,人材であるような気がするのですね,やはり。ゴールとは言えないのかもしれませんが,グローバルな人材を育成するでありますとか,イノベーションを牽引(けんいん)する人材を育成するでありますとか,教育においてこういった力を育成しましょうという,ゴールではないかもしれませんが,目指すものがどうも書かれてある。
 今日,聞いていて,加えて,先ほどの黒沢委員のところでしたら,不登校を支える人材が非常に大事だという話でございますね。それから今村委員のところでは,個別支援計画コーディネーター,私も非常にこれ印象残って,どうやって育成するのだろうと思いました。徳永委員のところでは,多文化ソーシャルワーカーとか,多文化スクールカウンセラー。
 どうでしょうね。こういう,若者たちがゴールに至るまでのハブとしての人材と言ったら少し失礼かもしれませんね。支える人材と言えばいいのでしょうか。コーディネートする人材と言えばいいのでしょうか。こういった人材の育成ということも,計画には書くべきじゃないでしょうか。そこに予算もというような気がしております。
 以上でございます。
【清原委員】  大事な御指摘ありがとうございます。私たちも多くの方が今,共感していらっしゃいました。やはり人材については,教員以外に触れていく必要を感じますね。
 それでは,今村委員,お願いいたします。次に,大日方委員です。今村委員,お願いします。
【今村委員】  ありがとうございます。まず,先ほどの御質問いただいた,2割が再接続していないというところなのですが,本当におっしゃるとおりで,本当に一度傷ついてしまって,学ぶことをやめてしまった,家族との関わり以外のコミュニケーションを断っている子供たちを,もう一度外に連れ戻すというのは,本当に難しいことだなと思っています。
 特に,やはり拠点といいますか,リアルな対面での支援を丁寧にできる雲南市での取組は,オンラインも使いながら,対面で会いに行くみたいなことができるので,非常に子供たちや親御さんと関係性をつくりながら,学びに再接続するということの手応えを感じながらやっているのですが,先ほどお話しした「8割は」というのはオンラインだけで関わった子供たちなのですが,未来の教室実証事業の中では「8割も」というのが正直な感覚ではありました。ほかの実証ではなかなかそこまで関われなかったので,そうだったのですが,それでも2割の子はまだ取り残されている。これはオンラインが合わなかったのか,若しくは,それでもまだ深いところに傷を負っていて,そこに私たちがいるせいなのか,両面あると思います。どこに行っているのか,分からないなと思います。
 私が御発言させていただこうと思って手を挙げていたのは,先ほど荒瀬先生がおっしゃっていた件です。私たちは学習指導要領をどう捉えていけばいいのかというのは,今回の,教育振興基本計画の議論の中で,結構,中核というか,本当にどうしていくのかを考え直さなければいけないように思っていて,そこに一定の結論を出さなければいけないときに来ているのではないかと思うのです。
 というのは,不登校になったから標準授業時数を柔軟化して捉えていいというのも,これもまた何か変な話といいますか。これは教育の機会確保法によって,フリースクールの利用とか,ホームスクーリングとか,そういったものも学びとして認めようということで,学校ごとで判断をされているという事例は,既に様々なところで起きています。
 実は,うちの息子も発達に特性が,少し保育園のときに過剰に見られて,もう入学の段階から,近隣にたまたま歩いていけるところにフリースクールがあって,毎日元気にフリースクールに行っているのです。朝から晩までフリースクールに行っているのですが,在籍校として公立の学校に在籍させていただいているのですが,やはりそこの先生方に,うちの子が行っているフリースクールに行っている子が言われるのは,年に1回でも学校に通おうとして通えなかったという実績がないと,それは出席として認めるのは何か違うのではないか。積極的不登校というのは,法律の違反,就学義務違反なのだと親に言われるような学校も,まだあるのです。
 ただ,私たちが行っているフリースクールでは,少しグループワークが多い形の学びではあるのですが,十分に学んでいるように見えるのです。学習指導要領との授業の読替えもしているし,むしろ滞在時間は通常の学校より多い,放課後も含めて見ていただいているのが多いという状況なのですが,傷ついてからではないと,学習指導要領に従った学びではないところで学ぶ権利がないのか。
 これは少しどう捉えていったらいいのだろうというところに来ているように思っています。ただフリースクールなら何でもいいわけではないということも十分,分かっているのですが。ごめんなさい,問いとして持ったということで発言させていただきました。
【清原委員】  大変重要な課題で,荒瀬委員も御指摘いただきましたように,これから,また全体で議論していくテーマだと思います。
 時間は55分までとされていますが,今,挙手していただいている大日方委員,徳永委員,是非御発言をしていただいて,それからメイン会場に戻りたいと思います。
 どうぞ,大日方委員,御発言ください。
【大日方委員】  ありがとうございます。本日の議論から本当に多くの学びを得ることができました。
 そのような中で,私から,誰一人取り残さないということについて,一つ申し上げたいのは,私自身が取り残されないように必死で生きてきたという経験です。取り残されないように,つまり周りの人と違わないようにとか,周りの人の,大人の評価みたいなものなのですが,その価値観の中で,やはり一本道だったなというように感じています。やはりそれも同調圧力というものだったと思うのですが,これをどういうふうに子供たちには感じさせないか,あるいは子供たち自身が同調圧力を生み出さない,自分自身が生み出してしまう存在にならないことという視点も非常に必要なのではないかと思いました。
 それをやるためには,やはり他人と比較しないということ,ほかの人と比較するのではない。比較するのならば,過去の自分と今の自分の成長を見る観点からにする。大人が一緒になって,そういう見方もあるよとか,こういう見え方もするよというような,違う見方をあえて大人が伝えるというようなこと。そして,子供自身が自分で意思決定をするということを,大人も,多分,親もだと思いますが,そういうことが大切なのだということを伝えていくということが必要なのではないかと感じた次第です。
【清原委員】  本当に基本的な視点だと思います。「誰一人取り残さない」ということは,「一人一人の自己決定権をきちんと尊重していくこと」と,「人との比較だけで評価しない」という重要な御指摘ありがとうございます。
 それでは,徳永委員。お願いいたします。
【徳永委員】  すみません,ありがとうございます。今日は大変貴重な機会を頂きました。
 改めて,この誰も取り残さないというテーマを,どのように基本計画の中に入れていくのかについて考えた場合に,一つ目に,特別支援教育や不登校の子供の教育支援,外国人児童生徒の教育,ヤングケアラーへの支援などをどのように横断的に議論していくのかが重要だと思います。重なり合う課題もあると思いますし,個別具体的な課題もあると思うので,横串を刺すような,統合できるような見方や概念,視点を考えていく必要があると思います。個別に語ってしまうと一つ一つの問題で終わってしまうので,それらを統合できるような視点です。
二つ目は,外国人児童生徒の研究や実践を行っていて感じるのですが,誰も取り残さないという課題であっても,声の大きい課題と声が小さい課題があるような気がしていまして,この基本計画の中で誰一人取り残さないということが重要だと思います。特に排除されやすい子供たちの課題をきちんと名づけていき,現在は取り上げられにくいことでも今後重要になってくる課題などを認識して言葉にして入れていくことが重要だと思います。包摂的な基本計画をつくるということを最後にお伝えしたいと思いました。ありがとうございます。
【清原委員】  本当に視野が広がりましたし,その中で,いかに私たちのまとめも包摂性,包括性を持っていくかということだと思います。
 清水敬介委員,一言もし何かありましたら,いかがでしょうか。大丈夫ですか。
【清水(敬)委員】  ありがとうございます。すみません,いろいろと今日は聞かせていただきました。
 私も本当にまだまだ知らないことが今日たくさんありまして,まだまだ不勉強なところもありました。また,次回に意見させていただきたいと思います。今日はありがとうございました。
【清原委員】  それでは,予定の時間を1分だけ過ぎました。今,チャットにまたURLが出ましたので,今度はスムーズに戻れることを願いながら。
 今日は本当に皆様,短い時間でしたが,凝縮された議論ができましたので,それでは,元気にメイン会場に御一緒に戻りましょう。ありがとうございます。失礼します。
【荒瀬委員】  ありがとうございました。
 
(誰一人取り残さない教育グループの委員が移動)
【渡邉部会長】  それでは,委員の皆様が戻られたようですので,これから今日のまとめに関するお話をさせていただきたいと思います。本日,教育とウェルビーイング,誰一人取り残さない教育の2つのテーマについて熱心な議論を頂きまして,本当にありがとうございました。時間の関係で全体での議論の時間を取れませんでしたが,私の所感として,本日のテーマについて振り返りをして,今日の会議を終了させていただければと思います。
 次期教育振興基本計画の諮問事項では,未来社会というものを超スマート社会,Society5.0時代というような形で示しているわけですが,そうした未来に対応する基本計画の策定が本部会に諮問されています。それは,本日の議論の中心にありましたように,持続可能性を前提として,一人一人の多様な幸せと社会全体の幸せであるというウェルビーイングを実現できるような制度を目指すこと,それは親和性のある,誰一人取り残さない教育を目指すということでもあります。したがって,今日の議論は次期基本計画の方向性そのものを示すような議論を頂いたのではないかと思いました。
冒頭の,各委員の先生方の御発表とその後の議論の内容をお聞きしながら,キーワードだけ振り返っておきたいと思います。
 まず内田委員から,日本におけるウェルビーイングとは何かということで非常に明確な定義を頂いたと思います。包括的で個人及び個人を取り巻く場が持続的によい状態であることを目指すわけですが,幸せの意味というのは一律ではない。地域や学校によって違うので,こういうことを考えるきっかけが重要であるという御説明を頂きました。すなわち,多様なウェルビーイングを認めるのだと。そして,ウェルビーイングの構成要素の例を示していただきましたが,これはランキングなどの評価ではなくて,多様な強み,弱みの分析,思い込みを是正していくために使うということ。そして,子供と先生の幸せの循環,これは「ウェルビーイングの循環」という表現をされていましたが,これを回すことが非常に重要だというお話でした。その際,獲得系の幸福感と協調的な幸福感の違いも明確にしていただきました。
 岩本委員からも,実践的で持続可能な幸せのための教育のロジックモデルを提示していただき,高校の魅力化評価システムという活用例を御説明いただきました。ここでも同じように,獲得系と協調的な幸福感の両方を見ることの重要性ということに加え,生徒集団の多様性の土壌を生かしていくことの重要性,主体性と協調性のバランスによる持続可能性といった視点からの幸せに関する御説明だったと思います。
 尾上校長先生は,ウェルビーイングを目指す学校経営ということでインクルーシブな教育を進められてきたわけですが,学校経営を実践する中では,ウェルビーイングとインクルーシブの概念は親和性があるという御指摘を頂きました。これは大変重要なことだと思います。先ほどの様々な考え方の整理と同時に,私たちはOECDラーニング・コンパス2030の個人と集団のウェルビーイングの方向性を考慮しながら計画をまとめることも重要になります。日本の教育のウェルビーイングを中心に据えながらも,日本の内向き感あるいは同調性というものをどう開いていくのかというバランスを考えると,単純に日本のウェルビーイングだけ取り入れればよいという整理にするのはなかなか難しいでしょう。したがって,こうした考えを整理しながら,学校経営のPDCAマネジメントや対話のためのツールとして使えるのかどうか,学校経営として現場で実践されるようなものになるのか,ということが重要だと思いました。
 それから,誰一人取り残さない教育についても御議論いただきました。黒沢委員からは不登校特例校に指定された学校の実践例を御説明いただきました。登校への支援策の考え方や,様々な登校刺激の必要性についてお話しいただきましたが,何よりも登校を安定させるための自己肯定感の醸成の重要性という御指摘が大変重要なことだと思いました。
 今村委員からも,カタリバでの実践例について御説明いただきました。オンラインと対面の両方の重要性や教育支援センターの活用,メタバースの活用例もお示しいただき,こういった新しいツールをどう活用していくのか,オンラインとリアルの循環をつくる必要性について御指摘いただきました。
 また,行政と学校,民間の新しい協働体制の重要性や,不登校の状況に応じた伴走体制をどう整備するのか,その必要性も御指摘いただいたと思います。
 徳永委員からは,外国人児童生徒を包摂する教育に向け,生徒のエンパワーメントの重要性について御説明いただき,マイノリティーの声を生かしていく仕組みの重要性を御指摘いただきました。中でも非常に印象に残りましたのは,マイノリティーの視点だけではなくて,マジョリティーの変容,要するに,多文化共生とか異文化の理解を進め,日本人のマジョリティーがどう変わっていくのかが重要だということでした。こうしたことを考慮し,強みを伸ばすという発想での支援方法がどうあるべきか,人材,予算などリソースがない地域で支援方法について課題提起があったと思います。
 それぞれ御発表いただいた皆様のキーワードだけでも大変重要な御指摘であり,有意義な御議論を頂いたのではないかと思います。
 最後にもう1点,本日の議論では直接取り上げられておりませんが,冒頭,事務局から御説明があった資料1の中にあります特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導支援の在り方については,現在有識者会議で御議論いただいております。この提言内容についても,今後議論を経た上で答申に反映できたらと考えております。
 私からは以上でございます。次回も今回同様,2つのテーマについて,まず話題提供を頂いた後,グループに分かれての議論をさせていただければと思っております。次回のテーマは,「社会教育・地域とのつながり」と「教育と産業界の連携」を予定しております。次回の教育振興基本計画部会は,8月5日の金曜日14時からと予定しておりますので,よろしくお願いいたします。
 それでは,本日は以上とさせていただきます。ありがとうございました。
 
―― 了 ――