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資料   1

「教養教育」『審議のまとめ』以降の主な意見の概要

1   総論
【「審議のまとめ」についての評価】
   「審議のまとめ」について、一番大事なものは何か、全体がどう関連しているのか
  を整理して示すことが必要。
   「審議のまとめ」では、幼児に対する教養教育の視点が欠けている。家庭でのしつけそのものが教養教育である。家庭で、もっと、あいさつやことば、ことわざを教えることが重要。
   
【「新しい時代における教養」とは何か】
   「教養」とは、「知を軸にした人格形成」である。一方、「修養」とは、例えば優れた職人などに見られるように、一つの技芸をやり抜くことによって身に付くもの。
   これからの教養として考えるべきは、必ずしも書物や文字にこだわらない、行動や動作、振る舞い、感性などを含むものであって、小・中・高それぞれの教育段階で必ずあるべきもの。また、個人だけでなく、集団としての教養もあり得る。
   豊かな時代にあって、学習へのモチベーションを高めることが重要な課題。教養教育とは、何のために学ぶのかを考えさせること。
   教養は、他者との関わり方、コミュニケーション能力などの社会性の観点も含め幅広く捉えるべき。
   教養の本質は自己統治能力にある。このことは、企業側は強く認識しているが、学生には意識されていないことが多い。
   人間がいろいろなものから受ける情報を心の中で醸して、それを改めて外に出すという操作が教養の一つの発露の仕方。これは大変重要なことであるが、今の教育の中ではほとんど忘れられている。
   教養は、健全な批判機能を含むもの。
   国の目標が決まれば教養の内容が決まるというものではない。
   教養は、多くは、不易(永遠に変わらないもの)と流行(時代時代に応じて変化するもの)の不易の部分、人間のよりどころとして持つべきもので、変化の激しい時代だからこそ重要。また、社会の激変により、従来存在しなかった新しい教養も必要であり、流行の中にも教養は存在する。
   職人がきちんと一本の釘を打つことも教養であり、学歴や知恵ではなくて、相手に対する想像力のようなものも一つの教養。
   日本の教育で一番欠けているのが公共性や公的なものへの関心を育てること。教養教育を通じこれを捉え直していくことが必要。
   従来の受動的な教養主義ではなく、自分で能動的に行動しようとする新しい教養の側面を重視する必要があるのではないか。
   教養とは、自らを客観化・相対化できる知性であり、自分が歴史の中のどういう地点、世界の中のどういう地点に立っているのかを考え、謙虚になることが出発点。
   現在の学問的状況の弊害として、学問の専門化、分割化がある。また、本来、ファクトファインディングの知識とユテライゼーションの知識はペアになっているべきものであるが、近代の職業化された科学の中ではファクトファインディングだけが専門化して、それをどう使うかは社会に委ねることになってしまった。教養教育は、分割された知識をバインドするものと考えるべき。
   教養の中心は、一人一人がどのような人間でありたいか、どのような人間として人生を送りたいか、そのために遭遇するものや人をどう捉えるかということ。
   教養は上から与えられるのでなく、一人一人が自覚的に身に付けるべきものだが、初中教育についてみると、例えば、朝の読書などのように、ある程度意図的な動機付けは必要。
   今、西田哲学を読んでわかる大学生がどれだけいるか。今の問題は学校で学ぶことと現実の生活との乖離をどうするかということ。子どもの生活の現実を見てそこから答えを考えるべき。
   情報化社会になればなるほど、情報化社会の影の部分についての認識が重要であり、個人の内面の自己規律や社会的な倫理観の裏付けが不可欠。
   
   
2   初等中等教育段階
【基礎基本が重要】
   学校では、国語、算数、歴史など不易の部分をきちんと教えていくことが必要。
   小学校・中学校段階では読み・書き・そろばんといった「型」を画一的に徹底的にたたき込むことが必要。
   小学校では勤勉性を身に付ける意味でも多少画一的な内容をしっかり身に付けさせることが必要だが、中学校以降は発達段階から見ても本人の個性や関心を重視すべき。
   
【国語教育・読書が重要】
   不易を忘れて時流に乗った改革は失敗する。学校の週当たりの授業時数は20数時間しかない。何が大事か、中核かを見極めることが必要であり、それは初中教育では国語である。
   国語教育は、言語的な基礎として、国民としてのアイデンティティとして、論理的思考力の基盤として、情緒の基盤として何よりも重要であり、質量双方の飛躍的充実が必要。
   教養の涵養に読書は不可欠であり、ある程度義務的にでも取り組ませるべき。例えば、初中段階では「朝の10分間読書」、大学ではリーディングアサインメントなど。
   古典を読むことが重要。日本版「グレートブックス」の選定なども有効。
   司書の配置を含め、図書館の機能の充実が必要。メディアセンターとして整備することも重要。
   ロングセラーを大切にすることが必要。5年以上続けて売れている本には補助金を出すなどの措置を検討すべき。
   
【科学教育・自然の理解が重要】
   国際的に通用するために必要なのは英語力よりもむしろ普遍的で論理的な思考力や、それをもって相手を説得する力。このような力を育てる上で科学の学習は重要。
   コンピュータ社会になればなるほど、教養の大きな柱として、人間と自然との関わりや、自然の一部としての人間存在についての理解が不可欠。
   
【情操教育が重要】
   小さい頃からの情操教育、芸術教育が重要。
   初中教育において、東洋的な知恵を学ぶ機会をもっと取り入れるべき。また、芸術教育において、音楽や絵画だけでなく、演劇などの総合芸術を取り入れることにより、子どものモチベーションもあがる。
   
【体験活動が重要】
   体験活動を通じ、自分と他者との関係の作り方や異世代とのコミュニケーションの方法を学ぶことにより、自分が社会の中でどういう存在か、何をすべきかを考えるようになり、初中教育段階での教養の基盤が形成される。
   
【キャリア教育が重要】
   子どもたちに、学ぶことと働くこととのつながりを理解させ、学ぶことへの意欲を高めていくことが必要。
   自立した一人の人間として自分の生き方を持つことが教養であり、そのためには初中教育段階からのキャリア教育の系統的な実施が重要。そのための学校設定科目を設置することも有効。また、企業と連携したデュアルシステムのように、学校と職場が絡み合って、社会との接点の中で人格を育んでいくことも新しい時代の教養教育の一つの在り方。
   
【教員の資質の向上・多様な人材の参画】
   教員の資質の向上が必要不可欠。学校外の社会で研鑽を積むなどの研修の充実が重要。また、地域の人材や社会人を学校教育に積極的に登用していくことが重要。
   高齢者や社会人に、正規の教員やNPO等の活用によるボランティアとして教壇に立ってもらい、自分たちの蓄積してきた経験を次世代に伝えてもらうことが重要。
   教員が教養教育の取組事例を共有することができる仕組みを作るべき。ネットの活用も有効。
   生徒による授業評価や保護者との懇談などの場を活用しながら学校や教員への評価を行って行くべき。教員はシステム的に評価されることになれば、自ずから自己啓発が進む。
   
【入試との関わり】
   大学入試に割くエネルギーや若い時期の知識欲を教養として根付かせる方法を考えるべき。
   大学入試をめざして、ある時期懸命に努力することは悪いことではないが、大学関係者には、大学入試の内容が生涯にわたる教養の涵養にとって意味のあるものとなるよう意識してもらう必要がある。
   
   
3   高等教育段階
【大学設置基準大綱化の影響】
   大学設置基準の大綱化自体はまちがっていないが、教養教育の理念が正確に理解されていなかったために今のような事態を招いた。
   大学の教養部がなくなったことで教養教育がなくなったということはない。各大学ごとに工夫しており、新しい取組もある。このことを徹底的に調査すべき。
   
   
【大学における教養教育の在り方】
   大学の一般教育の失敗の原因の一つは、各大学で各科目がバラバラに設定され、全体として学生に何を伝えたいのかイメージが示せず、学生の学ぶ意欲をかき立てられなかったこと。この問題を解決するためには、特定の人が教養教育を担当するのでなく、大学の教員一人一人が自らの専門分野と他の分野や社会との関わりや、自分の生き様を意識的に学生に伝えていくことを教養教育として位置付け、教員の努力を求めていくことが必要。
   日本の特に人文系の大学教育は、プロ教育でも、教養教育でもない極めて中途半端な状況。プロ教育の前提として、なぜ自分がその職業を選ぶのか熟慮し、自己発見をするような場が必要であり、それが学部教育ないし教養教育の役割。
   大学の大衆化の中での教養教育を考えると、今や皆が共通に身に付けるべき教養など存在しないというところから出発すべき。学生に主専攻と異なる副専攻を学ばせることによって違った思考のチャネルを持つことが有効な教養教育になる。
   大学での教養教育は、専門分野を踏まえながら職業人としての幅や視野を広げることをねらう在り方や、長い目で見た将来の教養の入り口を与えるため、専門分野に関係なくリベラルアーツ教育に徹する在り方など、各大学で様々な在り方を考えるべき。
   教養教育を生涯にわたるものとして捉える一方で、例えば17歳前後の2年間なり、ある一定の年齢を教養教育に充てるような教養教育の在り方の制度的な設計についても検討する必要がある。
   大学の多くの学部・学科がグローバル化や産業社会のニーズに対応したものとなる中で、人間とは何か、自然とは何か、人間と社会の関係とは何かといった本質的な問題を探求する学問の重要性を再認識するべき。
   教養は、「教養」(旧来の教養)、「きょうよう」(ボランティア、スポーツ、コンピュータなど)、「キョウヨウ」(大衆文化、ギャグ、マンガなど)など広く考えていくべき。この3つのどこにウェートを置くかは大学ごとに考えればよい。
   教養の基礎としては、まず一つのディシプリンをきちんと習得することが必要であり、その基礎がないと本当の学際性など育たない。
   今の日本には本当の意味での専門家が育っていないことは教養教育の問題と合わせ懸念すべき問題。
   
【大学における教育の充実が重要】
   大学では、一つのテーマについて教員がチームを組んで行う教育方法も有効。
   大学では、1年生の時からゼミのような少人数で教員と密接に接することがその後の教育に大きな意味を持つ。チューターのようなアドバイザー的存在も重要。すでにこのような取組を始めている大学もあり、一層の促進が必要。
   教育環境も大きな影響がある。例えば1年生に教員の研究室で授業を行うなど、学生の知的好奇心をかき立てるような雰囲気作りが重要。
   人類の英知というべき古典を読むことが旧制高校などでは普通に行われていた。それが失われ、若い時期に徹底的に考える機会が少なくなっていることは問題。
   大学生の勉強時間の低下は大きな問題。
   
【教員の資質向上・多様な人材の参画】
   大学教員のFDが重要。大学の教育に学外の人材を巻き込んでいくことも重要。
   大学教員の意識改革が不可欠であり、大衆化の進む大学では、まず学生に必要なことを覚えさせ、技術を身に付けさせた上でなければ物事の原理を考えさせるような教育は不可能であることを認識すべき。
   大学の教育を充実していくためには、教員人事の流動化が必要。また、多様な人材の登用も重要。
   大学教員の評価に際し、研究だけでなく教育面の評価を充実すべき。
   
【異文化との接触が重要】
   教養教育を大学の外に出すこと、つまり、テレビ番組や研修施設での学習機会など社会の持つ様々な教育機能を教養教育に生かしていくことも重要。
   教養を培うためには本人の自覚が必要であり、ボランティアや国際体験などの機会に多くの大人に出会い、自らの成長へのモチベーションとすることが重要。
   海外から留学生を受け入れるだけでなく、日本の大学生を大量に外国に送り出し、日本を外から見、自分は何をすべきかを考える機会とすべき。
   アジアの大学のネットワーク化が有効。アジア・太平洋の大学間で実施しているUMAPの取組を支援すべき。
   
   
4   生涯学習
【生涯学べるシステムづくりが重要】
   教養は一生涯の問題であり、必要と思ったときに学習できる仕組みの整備が重要。
   
【社会全体で取り組む視点が重要】
   高齢者を中心に、学ぶだけでなく、その成果を生かして社会参加をしたい、誰かの役に立ちたいという欲求が強い。このことは本人の生きがいにもつながることであり、行政でその「つなぎ」の方法を検討するなど支援が必要。また、学習したことを生かせるような認証の仕組みを整えたり、それに国際的な互換性を持たせたりすることも検討すべきではないか。
   高齢者になってからも「完成」を目指して常に努力する姿を若い世代が見ることのできるような社会づくりが重要。
   企業や社会に一人一人の個性や能力を生かそうという姿勢がなければ、本当の意味での教養教育は不可能。
   拝金主義が蔓延する社会の在り方を変えていくことが必要であり、働く意義の再構築が必要。例えば、NPOで比較的安価な報酬で自らの生きがいのために働くということは、失業率の低下の面でも、社会政策のコストの削減の面でも、一人一人に働く意義をもたらす意味でも重要。
   これからの社会では、介護やホテルマンなどのような対人サービスのような仕事が多くの部分を占めるようになる。一人一人が生きがいをもって働くことができるようにするためにも、これらの職業のイメージを向上させるような積極的な政策が必要。
   フリーターのような人が連携し、自分たちの考え方を発信するなり、社会に貢献するツールとしてネットワークを活用することも重要。
   社会の中で、NPOやボランティア活動に対する評価のシステム化が必要。
   社会の変化に応じて教育を変えていくという議論だけでなく、あるべき教育の実現のためにいかに社会を変えていくかというメッセージを発信すべき。

 

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