当日配付資料3 小川委員意見表明説明資料

2004年12月3日

部会まとめ案(平成16年11月22日)に対する意見

東京大学大学院教育学研究科・教授
小川 正人

1.記述の仕方の整理に関して

 「まとめ案」の「2.教育委員会の在り方」1‐(3)に「教育委員会に対して指摘されている問題点とその要因」について、「1.指摘されている問題点」と「2.問題点の要因として考えられているもの」に分けて記述されているが、後の2の改善への提言と対応するように、問題とその要因を教育委員会制度の課題別に整理して記述したほうが読み手にも分かりやすいし課題の整理にも良いように思う。「まとめ案」の問題点とその要因の書き方では記述がランダムに見え、2の改善への提言とすっきり関連づけて読むことができない。

2.2‐(2)教育委員の選任の改善について

 今回の「まとめ案」の基調は、自治体の条件、状況に応じた教育委員会の組織や運用の柔軟化であるように思う。その際、各自治体で教育委員をどのように選任するかは各自治体の判断や創意工夫に最大限委せられるべき事項であると思う。従来、教育委員の公選制、準公選制といった住民の意向を直接教育委員選任に反映するような仕組みは、首長の権限を制約するとして「違法」とされてきたが、今回、弾力化の方向に踏み出した教育委員会制度改善を図ろうとする場合には、公選制、準公選制といった教育委員選びの方策も各自治体の判断に任せられてしかるべきと考える。「まとめ案」には、「教育委員の選任にあたっては、従来の慣行にとらわれず、地域住民の代表として、教育行政に深い関心と熱意を有する人材の登用に努める必要がある」という文言があるが、まだ、教育委員研修用の『ハンドブック』等に、準公選制が「違法」という説明がなされている状況もあるので、「従来の慣行にとらわれず」という内容に、公選制、準公選制などの教育委員選びも各自治体が判断すれば可能であるというような記述がなされるべきと考える(私自身は、公選制や準公選制が日本の自治体制度によくマッチしているとか、もっと普及されるべきであるという考えをしているわけではないが、教育委員会の組織や運用を弾力化していくという方針を採る以上、教育委員選任の方法が各自治体の判断と創意工夫にうだねられるべきであるという考え方にもとづく)。

3.「2‐(3)教育委員会の運営の改善、公開」に関連して

 「まとめ案」では、教育委員会会議の公開を推奨し、平成13年地教行法改正で公開を義務づけたが傍聴者の数が少ないこともあって、更に、公開の徹底を図ることが望まれると記載している。傍聴者が少ないことは、会議の際に住民の参加的要素が工夫されていないことにも起因しているように思われる。会議のある場面では、住民の発言を保障するようなこともあってもよいし、場合によっては、教育政策の立案や教育行政運営に係わって、住民の提案や異議申し立てができるようなしくみの工夫もあってもよい。教育委員(会)が、様々な機会や場で地域住民や関係諸団体等の意向を把握するための活動に取り組むことは重要であるが、教育委員会会議の場が、教育委員会と住民、関係諸団体等による地域における教育討議のフォーラムを保障する定期的な機会を提供できれば、住民の教育委員会への関心を喚起し傍聴者も多くなっていくように思われる。

4.「3.教育長、教育委員会事務局の在り方の見直し」に関連して

 「(2)教育委員会と教育長の関係の明確化」の中で、「教育委員会の意思決定から教育長を分離するとともに、教育長の選任に首長が関与することを明確にすべきという指摘があるところである」とあるが、逆に、教育委員会の意思決定から教育長を分離し教育委員会の役割の一層の明確化と首長(部局)からの独立的性格をはっきりさせるために、教育長の選任を首長ではなく教育委員会が決定できるようにするような議論もあることを明記すべきと思われる(教育委員会の教育長選任に、首長・議会がどう関与するかの議論も含めて‐そうした教育委員会の教育長選任があって、はじめて、教育委員会と教育長、そして、首長との間に「適度な緊張関係」が生み出され、教育委員会による「評価」が実質的に機能していく環境が整うと思われる)。

5.「4 首長、議会と教育委員会との関係の改善」に関連して

 「まとめ案」のおける「首長、議会と教育委員会との関係の改善」の基調は、首長の教育政策・教育行政に対する関わり方は「間接的」であることを強調したうえで、それには、政治的中立性の保障等、理由のあるということが中心的に述べられ、生涯学習、文化、スポーツ、また、青少年教育等については、自治体全体としての取り組みが必要であることと、教育委員会だけで処理しきれないため、首長と教育委員会が連携したり、教育委員と首長との協議会を定期的に開催するなど意思疎通を図っていくことが必要であると記述している。
 しかし、分権改革の流れや自治体の総合行政の必要等からいって、首長が自治体行政・政策全般に最高の権限と責任を負っていること、そのため、自治体の教育政策・教育行政についても首長が積極的に関わり、「直接的」に教育政策・教育行政への指揮等をとることが重要となっていることを書き込むべきではないだろうか(地教行法上に明示の工夫があってよい)。そのうえで、教育行政の政治的中立性の確保や専門性を確保するような手続きや工夫が教育政策決定や教育行政運営上に十分に配慮されるべきことを指摘した上で、「まとめ案」であるような教育委員会との権限・役割分担の再確認や首長と教育委員会の一層の連携・協力の制度的保障として定期的協議会の法的明示等が考えられて良いと思う。

6.「5 都道府県と市町村との関係の改善」に関連して

 意見というより質問ですが、「まとめ案」の18頁に「当面の方策として、中核市や一定規模以上の市町村に教職員人事権を委譲する方向で検討する必要がある」とあるが、「一定規模以上の市町村」とは具体的に何を意味しているのか?。人口規模的にいえば、特例市等や一定規模以上の人口を抱える市をいっているのか(そうであれば「一定規模以上の市町村」と「町村」を含まない表現を使いますよね)、広域連合的な工夫をした一定規模以上の広域的教育行政単位を有する「市町村」という意味でしょうか?。
 「まとめ案」を読んでいて、上記のような迷いが生じてきますので、最終の「まとめ」では、その点を明確にして記述していただければと存じます。

7.「7 保護者・地域住民と教育委員会・学校との関係に改善」に関連して

 「(1)‐1 保護者・地域住民の意向の反映」の中で、学校評議員制度の設置と、まだ導入されていないことなどが触れられ、学校評議員制度の設定が全国的に進んでいくことが望まれる、としているが、学校評議員制度の趣旨が分かるが、そうした校長への相談的機能を学校評議委員個々の機能として担保している学校評議員制度の不備を自覚的に理解している自治体も多く、それらの自治体は、学校評議員ではなくて、しかも、今度の学校運営協議会のような強い権限・発言権を付与したようなしくみではなく、その中間的な役割を有する多様な住民・保護者参加のしくみをつくってきていることにも言及していくべきである。そうした中で、学校評議委員制度が推奨されるべきなのか、学校評議委員制度も問題を総括する時期にきているのか‐そうした総括的作業をすすめながら各自治体が試みてきている学校参加方式や学校運営協議会の推奨にむけた新しい方策が必要なのかどうかを検討すべきではないだろうか。

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