12.日本教職員組合

2004年9月16日

中央教育審議会
教育制度分科会地方教育行政部会長
鳥居 泰彦 様

「地方分権時代における教育委員会の在り方」に関する意見書

日本教職員組合
中央執行委員長 森越 康雄

1.日教組の基本的な考え

 地方分権時代における教育委員会の在り方を検討するにあたっては、教育の地方分権化を踏まえ、教育委員会による地域住民の意向を尊重した教育行政の展開と学校の自主性・自律性の確立による地域に根ざした教育の推進を基本とした見直しが必要であると考える。
 これまで、教育の自治と地方分権をめぐる様々な経緯と論争があり、かつて「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」のもとでの教育長の任命承認制に象徴されるように、文部省-都道府県教育委員会-市町村教育委員会-学校の中央集権型の教育行政が推進されてきた。このため地方の教育行政を担当する教育委員会は、地方の実態に即した教育政策の企画立案や学校を支援する機能よりも、管理・監督を中心とする行政機能に力点が置かれ、具体的な教育政策は文部省に追随する形ですすめられていた。その結果、複雑多様化する様々な教育課題や問題行動に対して学校や教育委員会だけでは有効な手立てが講じられないなど制度疲労の状況に追い込まれていた。
 1996年「国民にゆとりと豊かさを実感できる社会」の実現をめざす地方分権推進委員会第1次勧告が行われ、教育分野については「地域が人を育む」ことの重要性が認識され、1998年には中教審によって「今後の地方教育行政の在り方について」が答申された。こうした勧告等によって教育を含め中央集権的なシステムが見直され、地方公共団体の責任と権限を拡大する地方分権一括推進法が施行された。
 これにより国及び地方公共団体間の関係が「対等・協力」に変わり、教育委員会と学校の関係についても、学校の自主性・自律性を確立するため学校支援に重点が置かれるようになった。また、保護者・地域住民の様々な教育要求などを反映させるため学校評議員制度が導入され、教育委員会は教育行政の責任ある担い手として、地域のニーズに応じた教育施策を主体的に企画し実行していくことが求められている。
 しかし、こうした制度改革があるにも拘らず学校運営の現状は、依然として学校に与えられた裁量の範囲は狭く、財政的措置である学校予算も少ない。さらに問題が生じた場合でも処理できる権限が少なく、教育委員会に学校が依存する体質になっている。教育委員会間も「対等・協力」の関係を超えた「指導・助言」体制が顕然と行われるなど「地方分権の灯」が遅々としてすすんでいない。
 こうした教育の閉塞状態をめぐり、いわゆる「教育委員会不要論」が一部の首長などから提起されている。この問題の要因は、「国民全体に対し直接に責任を負う」教育委員会制度そのものにあるのではなく、むしろ教育委員を含めた運営上の問題が関係していると考える。
 今、学校ではいじめ、不登校、高校中途退学、学級崩壊、学習意欲の低下など多くの課題を抱えており、子どもたちが生き生きと学ぶことのできる学校づくりが喫緊の課題になっている。この課題を解決するには市町村教育委員会の機能強化とともに市町村教育委員会を学校に対する支援組織として確立することが必要である。具体的には、学校に自己決定できる権能を与え教育の専門機関として機能が発揮できるような権限の委譲などの基盤づくりを進めなければならない。
 今、地域コミュニティの喪失が指摘され、「地域が人を育む」ことの重要性から「地域に開かれた学校」の実現が求められている。地域住民が学校運営に参画できるように学校評議員制度を見直すべきである。公立学校は、学校の持っているノウハウや施設設備の利点を最大限生かし、地域住民の交流や文化活動をすすめる「地域コミュニティの拠点」として、地域の教育力回復を図る機能を有している。教育委員会は学校がそうした機能が発揮できるよう支援を一層進めるべきである。
 なお広域な地方公共団体である都道府県については、広域にわたるものや市町村の連絡調整に関するものなど地方自治法の趣旨および財政上の優位性をふまえ、教職員の県費負担制度を引き続き維持させることが必要と考える。

2.項目ごとの考え

1 教育委員会制度の意義と役割(教育委員会制度のあり方)

中立性・継続性・安定性と教育委員会権限の強化
  • 教育は不当な支配に服することなく国民全体に対し直接に責任を負って行われるものであり、教育委員会制度は地域の直接の民意に従って行われることが重要である。
  • 首長から独立した機関が教育行政を担当し政治的中立性を確保するとともに、首長の交替による影響を受けず継続性・安定性は確保されるべきである。
  • 教育政策推進に必要な財源が保障されるよう教育委員会に予算提案権を付与し、教育委員会権限を強化することが必要と考える。
教育委員の人選
  • 教育委員会は、教育についての理念や未来像、地域住民の意向を教育行政に反映するために幅広い見識を有する教育委員を持って組織することが重要である。
  • 選出にあたっては、地域住民の意向が反映されるよう公選を含めた地方自治体の裁量による方法の導入が必要と考える。
  • 教育委員の果たす役割を明確にする中で会議の形骸化や委員の名誉職化を防ぎ、地域住民の要求を真正面から受け止めることが必要である。
教育長・教育委員会事務局
  • 資格制などの導入により教育長の専門性を高めるとともに、専任制としてリーダーシップを高め、教育行政におけるチェック・アンド・バランスの確立をめざす。
  • 教育長の人選にあたっては首長推薦による議会承認を必要とする。
  • 指導主事のあり方を見直し、学校の支援・援助を担う職とする。

2 首長と教育委員会との関係

首長と教育委員会との連携
  • 首長は選挙による公約を持って地域の有権者より選出されているが、教育に関する公約だけで選ばれているのではない。そのため、教育委員会に自主性を持たせつつ、首長と教育委員との定期的な協議を行うなど、連携や協力を深める必要がある。
  • 教育予算の編成や執行については、教育委員会の自主性が発揮されるよう一定の権限を付与させるとともに、教育委員会は議会に対する説明責任を果たすことが必要である。

3 都道府県と市町村との関係及び市町村教育委員会の在り方

都道府県教育委員会
  • 市町村教育委員会とは対等・協力の関係を尊重し、市町村教育委員会の判断を過度に制約することのないようにすることが求められる。
  • 広域自治体としての都道府県教育委員会は、生涯学習体系の整備に向けた役割を担うことが重要となる。後期中等教育・高等教育や職業教育・訓練の保障や学校と連携したカリキュラムセンターの設置による教育課程の指針の策定、教員養成や研修プログラム、すぐれた教材の開発・提供など教育の専門家を結集して市町村教育委員会や学校を支援することが求められる。
  • カリキュラムセンターにおける教育課程の指針作成にあたっては各県の独自性と特色を加味するとともに、市町村カリキュラムセンターを設置し、市町村内各学校の教育実践の集積と交流を図ることが大切である。
市町村教育委員会
  • 住民に最も近い自治体である市町村は、学校の設置・運営にかかわる全般的・基本的な責務を有している。教育委員会は、住民の意向を十分に受け入れ教育の専門家と住民の調和を図りながらの「開かれた学校」づくりを積極的に支援する役割がある。
  • 市町村教育委員会に学級編制権と教職員人事の裁量権(任用等にかかわる代決権)を付与する。
  • 一定規模以下の市町村教育委員会については近隣自治体による広域連合などの弾力的な運用を工夫する必要がある。
  • 小規模市町村教育委員会における教育施策が効率的に運用されるよう学校との協力・協働体制をすする。

4 学校と教育委員会との関係及び学校の自主性・自律性の確立

学校への裁量拡大と教育委員会による支援
  • 学校は、子ども・保護者・地域に最も近い存在であり、様々な要求や問題を把握しながら敏速に対応することが教育への信頼回復につながる。そのために、教育委員会は学校裁量権の拡大に努めるほか、学校に必要な情報を提供し、効果的な学校運営が行われるように学校を支援することが大切であり、学校管理規則については名称を含め見直しが必要である。
  • 地域の教育ニーズに応えるカリキュラム編成を行い、地域・子どもの実態に合わせた創造的な教育実現のためにも学校からの予算要求制度の確立と学校への権限委譲を含めた学校財務規則を制定が必要である。
  • 地域・保護者から学校予算に係る要望を集約し、教育費の保護者負担を軽減することが大切と考える。
学校運営への共同参画
  • 地域住民が学校運営に参画し学校改革ができるよう学校評議員制については見直しが必要である。
  • 学校運営協議会についてはその在り方を検討し、保護者、地域住民、教職員と子どもたちの意向が学校のカリキュラム作成、授業計画、学校予算等に反映される、学びあいと連携のシステムとしてすべての学校に設置が必要であると考える。
学校機能の活性化
  • 学校に配置されている教員以外の職種の専門性が活かされるよう教育委員会規則等でこれらの職種の職務内容を明示する必要がある。
  • 教員については授業や指導部門に専念できるようにし、教職員の研修は、日常の教育活動を基礎とした自主的・自律的なものでなければならない。
  • 学校のマネージメントを支えるスタッフ職をより一層活用する施策が必要である。例えば、事務職員への校長権限の一部委任や学校事務の共同実施の推進をはかる。
学校施設の整備
  • 教育委員会は、学校施設を地域社会の拠点として整備するとともに、校舎設計・改築については保護者・地域住民・子どもと教職員の要望が反映されるよう努める必要がある。
  • 教育委員会は、学校施設の保守点検をすすめ安全性を確保するとともに、社会教育を含む効果的な施設活用を促進するとともに、災害時における避難所等の機能が果たせるよう必要な学校施設の整備をすすめる必要がある。

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