16全事協総第28号
平成16年9月17日
中央教育審議会教育制度分科会
地方教育行政部会長 鳥居 泰彦 様
全国公立高等学校事務職員協会長
阿玉 新一
「教育委員会の在り方に関する論点の整理」に関して、全国公立高等学校事務職員協会の立場から意見を申し上げる機会を与えていただきありがとうございます。
私どもは、この度「地方分権時代の教育委員会の在り方について」についてのご審議に当たり、学校運営全般のご検討をいただきましたことに対して、大きな期待を持って審議を見守っているところでございます。
これまで、学校の教授指導面へ様々な提言が示され、学校教育が進められていますことは、周知のとおりであります。
現在、各学校現場では、それぞれ伝統や地域性を配慮した教育目標を立てながら、その達成に向けての教育活動に取り組んでおります。しかしながら、現在取り組まれております教育改革の推進では、これまでの内容とは異なり、学校教育の根幹に関わるものであり、その実現には新たな取り組みと重大なる決意が必要であると考えております。
全国公立高等学校事務職員協会代表の立場から、新しい時代にふさわしい学校づくりとそのための支援体制を構築していくために、主として「学校の自主性、自律性の確立」という観点から、今回の問題点に対する考え方や今後の方向性について意見を述べさせていただきます。
高度情報化や少子化、深まる生涯学習への対応など学校を取り巻く環境の変化は急速であり、学校教育に対する要請や期待される内容も変化し現実の運営面との間に乖離が生じ、その状況を改善すべく高等学校での教育改革が行われていると認識しております。
教育の公共性、継続性、安定性の確保は公教育の基本原則であり、高等学校教育の公平性、中立性の確保を前提に各学校が地域住民のニーズに応え、自主的、自律的に取り組みを進めるためには学校の管理運営の在り方を検討する必要がある。教育委員会は、学校の設置者たる地方公共団体の執行機関として管理運営に関する責任を有している。学校における具体的、日常的な運営の責任は校長が負っている。
これまで教育委員会は、各部・課が所管事務に関して、それぞれの観点から支援・指導を行ってきたが、校長がリーダーシップを発揮し、組織的に改革を進める学校に対して、教育委員会の各部・課が横断的に総合評価を行い、学校を支援・指導する体制にあらため、いわゆる縦割り行政的な弊害の解消を図る必要がある。
教育委員会は学校への裁量権を拡大させ、学校の自主性・自律性の確立のための経営支援や教育力向上のための教育活動支援を権力的でない指導・助言・援助等を行い、校長が学校経営にリーダーシップを発揮できるよう支援体制を整備する必要がある。
今後、教育委員会は基本的な方針の決定、企画・管理・調整や全県的に行う基本的な事務に純化し、できるだけ学校へ権限を委譲するべきである。
校長が自主的・自律的に学校経営を行うためには、経営者としての自覚を持って学校のビジョンや学校経営計画を策定し、学校が目指す学校像を明らかにし教育活動の目標やそのための具体的方策を提示していくことが必要である。
校長が保護者や地域住民のニーズ等に迅速に対応するため、学校経営のリーダーシップを発揮するためには校長への権限の拡大が不可欠である。そのために、教育委員会は、人事、予算、情報、学校経営に関する権限を学校に委譲する必要がある。
学校の裁量拡大に対応して、学校経営の責任者である校長がその職責を十分に果たすためには、学校の持つ総合的な機能、教員と事務職員との職務分担を見直し、校長のもとに教育指導部門と学校経営部門の2つの組織の確立を図り、教育指導部門は教頭が主管し、学校経営部門は事務長が統括し、学校教育を推進していく体制を構築する必要がある。
教育指導部門では、教頭を補佐する教員を配置し、学校の組織的な課題に対応できる体制を作り課題解消能力の向上を図り、保護者や地域住民のニーズに迅速かつ的確に対応していくものとする。
学校経営部門では、経営事務管理を担う学校事務の職務範囲を明確にするため、校長の補助機関として事務長制度を確立し学校経営事務組織を整備することが必要である。学校教育法第50条を見直し、校長・教頭の次に事務長を置くよう法令を改正するとともに、学校事務の職務範囲の見直しも必要と思われる。校長の職務は、学校教育法第28条3、8項等により1.教育課程管理2.職員管理3.児童・生徒管理4.施設・設備管理5.事務管理の5つに区分できるが、教員が主として行う教授・指導活動以外の活動は学校経営事務の範疇に含まれると考えられる。教授・指導活動に関わる情報管理についても情報開示請求、個人情報管理、処理手続きの透明化などを考慮しての取扱は他の情報管理と同様である。教員の生徒指導への充実を図るため、情報管理事務について学校経営部門で管理することやそのための事務職員の確保についても今後検討すべきである。今日の教育改革の中で、従来からの「学校事務」について、学校経営への参画など新たな視点から全面的に見直しが必要と思われる。
また、学校経営計画実現のための人事構想に基づき、教職員の異動並びに採用が行えるよう校長の権限を拡大し、教育委員会は校長の方針に最大限の配慮が行えるよう体制を整備することも検討すべきである。
高等学校が、生徒や保護者、地域社会の要請に応じ、自律的に教育活動を展開するために、学校現場の経営責任者である校長がリーダーシップを発揮できるよう教育委員会は、校長の示した学校経営計画を実現するため総枠での予算配付を行い、使途等の予算編成は校長に委譲するべきである。
教育委員会は、学校の教育活動をマネージメントする学校経営計画を予算面で支援し、学校独自の特色ある教育活動、教育の質的向上ができるよう、各学校へ画一的に配付していた予算制度を見直し、校長が主体的に予算執行計画の策定から執行までを行う制度を構築すべきである。
予算配付について教育委員会は、運営費標準として算出した額を総枠とし、学校が希望した予算の配付を行い、科目の枠に拘束されない予算編成・執行により、学校の自主性が強化され、校長の責任が強まる。事務職員には予算編成・執行面での主導的役割りが求められ、校長の学校経営計画実現のため学校経営に参画する視点・実践が強く求められることになる。
予算編成に際しては、予算編成規程等を整備し、校長・教頭・事務長・担当者等の役割を明確にする必要がある。
総枠予算配付の現状は、地方自治法施行規則の会計規程により目節に区分され流用不可能な予算を含んでおり、会計法規の改正と併せて検討する必要がある。
また、学校評価とも関連するが、校長の経営者としての意識を高め、教職員がコスト意識を持って教育活動を行っていくため、各学校が教育活動に要するコストや資産等の財務状況を明らかにするバランスシートの作成・公表も検討すべき課題である。
学校の自律的経営と校長の裁量権の拡大による学校教育活動を的確に評価・検証し公表することは学校の説明責任の確保や学校教育の質的向上を図る上から必要である。学校評価は自己評価の義務化と第三者の評価が必要である。
第三者の評価の実施は、学校運営協議会を活用し、保護者や地域の代表による外部評価を取り入れるとともに、教育委員会は学校自体では対応しきれない課題や問題点について評価・検証を行い、支援・指導を通じて魅力的な学校づくりが行えるよう評価を実施していくことが望まれる。
各教育委員会は、児童・生徒数の減少により、学校の小規模化が進行している状況から、学校の適正規模・適正配置による整備を進めている。
また、地方分権、市町村の合併等からも学校事務の一定の事務の共同実施が検討されている。
地域ごとに複数の学校のグループ化を図り、財政的な面での効率化を図る観点から一定の事務を共同で実施することや、一定の業務を管理委託することも考えられる。共同実施は、数校の特定事務の共同・集中処理を行う場合や共同実施を体現する組織を学校事務センターや学校支援センターとして教育委員会と学校との中間に位置する組織を設置する場合が考えられる。
いずれの場合においても、学校の組織には学校事務職員は必置のものであり校長の学校経営計画実現のため、校長を支援する役割が求められている。
共同実施については教育委員会が責任を持って進めるべきである。
高等学校は、小中学校に比べて地域社会とのつながりが弱い面があったが、高等学校が自律的な改革を進めるためには地域社会との連携は非常に重要なものである。学校評議員や学校運営協議会等地域住民の意見を学校運営に反映させる制度を活用し、保護者や地域住民のなお一層の学校運営への参画を促進していくことが必要と思われる。将来的には学校運営協議会が公立学校における学校経営計画の策定や教職員人事等に関与することも想定される。
地域社会とパートナーシップを構築し、地域の人材活用の推進を図るため、保護者や地域住民、卒業生を社会人講師として積極的に活用したり、NPOとの連携を構築するなど、地域の豊かな教育力を学校が取り入れることも必要である。このためには、学校がしっかり運営されていることが大前提であることはいうまでもない。学校運営への参画については、地域住民、保護者等に対する信頼の確立を確保する観点からのものであり、不当な関与を容認するものであってはならないことに十分留意する必要がある。委員の人選については、広い視野と将来を見通せる見識のある方がふさわしい。
また、高等学校が教育活動を進めるに当たり、地域社会の協力を得ながら良好な関係を構築し、生涯学習やコミュニティを形成できるよう学校が持つ様々な機能を地域社会に積極的に提供していく必要がある。公開講座や体育施設開放等のさらなる充実が求められている。また、地域が学校を育てると同時に学校が地域を育てる観点からも、学校から地域に向けて情報発信をし、教職員の持つ専門知識を地域社会に還元することが必要と思われる。そのためには、教職員が地域の活動に参加しやすい状況を整備する必要がある。
ただ、小中学校など地域に根ざした学校ではその効果が期待できるが、高等学校においては地域性が低いことから一律に効果があるとは考えにくい現状もある。
地方教育行政は、全体として国の教育を構成するものであり、全国的な教育水準の維持や教育の機会均等を図る観点から、国・都道府県・市町村の連携が図られるよう役割分担を明確にするとともに、都道府県教育委員会と市町村教育委員会との緊密な連携を図るために連絡協議会等を設置し、現状と課題について情報を共有し、共通認識を持ち、課題解決に向けた施策の検討をしていくことが必要と思われる。
生涯学習政策局政策課