平成16年9月17日
中央教育審議会
教育制度分科会
地方教育行政部会
部会長 鳥居 泰彦 様
全国公立小中学校事務職員研究会
会長 神谷 敏明
平成10年9月21日中央教育審議会「今後の地方教育行政の在り方について」の答申で「教育委員会制度の在り方について」・「学校の自主性・自律性の確立について」は、その基本となる改善策が提言されているところであります。
今日的課題である「地方分権時代における教育委員会の在り方」について、学校がどうあるべきか、また、その学校の円滑な教育活動を支援する教育委員会はいかにあるべきか、そのため学校事務職員をどのように活用すべきかについて、貴部会の「論点の整理」2.各論―「4学校と教育委員会との関係及び学校の自主性・自律性の確立」を中心に、現場の学校事務職員で構成する本会の意見を述べさせていただきます。
児童生徒・保護者・地域社会のニーズに的確に答える教育活動を展開していくためには、組織改革等により、学校が自主性・自律性を確立するとともに、学校の裁量権の拡大と責任体制を明確にする制度設計が必要です。
そして、自主性・自律性に基づいた学校運営をしていくためには、教育委員会の学校に対するバックアップ(支援)機能の強化が必須であり、そのための新たな教育委員会の体制づくりと、学校が組織として機能するシステムづくりが必要となります。そして、教育委員会が、学校において「人」・「物」・「金」・「情報」に関する業務を一手に引き受けている学校で唯一の行政職員である学校事務職員を活用することで、学校の自主性・自律性確立の近道だと確信しています。
もとより義務教育は、国が全国的な教育水準の維持・向上を保障する責務を負っているものであり、教育の地方分権は、義務教育の実施主体である市町村や学校に、出来るだけ権限を委ねていこうというのが目的のはずです。
そして教育現場において、全国的な教育水準の確保の基盤となっているのが、教育を支援している「学校事務」です。本会は、「教育委員会が行う事務」と「学校が行う事務」を総称して「学校事務」と捉えています。学校がある限り「学校事務」は存在し、しかもそれは全国共通の水準に達していなければなりません。
今後、地方分権、学校の自主性・自律性が推進されればされるほど、学校裁量は拡大され、「学校事務」を確立しそれに安定性を与えることは必要なことです。国レベルで「学校事務」の全国的水準を確保することが、国の役割分担において重要な課題となります。
地方分権の進展による地方に応じた創意工夫は、それを支える組織体制が整備されて初めて実現されるものです。「学校事務」の安定はナショナル・スタンダードです。その意味で、文部科学省・都道府県教育委員会・市町村教育委員会・学校が互いの役割分担を見直し、整理し、より現場に近いところに権限の委譲・裁量の拡大をはかる仕組みづくりが今こそ求められています。
「小学校設置基準」等は、情報の積極的な提供を義務化し、学校の自己点検・自己評価と結果の公表を学校の努力義務としました。早急に、全ての学校が実施するよう仕組みを講じる必要があります。
学校の自己評価は教育活動そのものの評価に重点が置かれ、ともすれば学校経営評価になっていない弱点があります。今後は組織マネジメントの視点から、学校経営評価をする必要がありますし、総合的な学校評価を第3者に委ねることも必要です。
平成16年9月から制度化された「学校運営協議会」は、全ての県で実施が予定されています。学校・家庭・地域が積極的に学校運営に参画する体制が期待されます。しかし、「学校運営協議会」が円滑に運営されるためには、機能させるスタッフが学校側にいなければなりません。客観的、具体的、継続的な評価とフィードバックを実施、推進していくためには、行政職員として学校に配置されている学校事務職員を活用すべきです。
平成10年の中教審答申においても、制度の改善にあたっては法改正や条例・規則改正を伴うものと現行法の中で運用によって改善可能なものとが指摘をされています。国において制度化すべきものについては法律改正や省令の改正等早急に制度化すべきです。一方、学校予算に伴う校長への裁量権拡大や学校の特色づくり推進など学校予算の配当方式等の改善については、市町村教育委員会の運用によって改善が可能です。各市町村教育委員会が積極的に改善する措置を講じるなど促進の手立てが必要です。
教育委員会組織については「地教行法(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)」において、教育委員会の代表者である「教育委員長」と「教育長」の職務権限が定められていますが、教育長及び事務局主導で教育委員会が運営されていたり、実態において逆転している状況があるのではないでしょうか。合議制の教育委員会と教育長以下の学校経営機関とを区別する必要があります。
教育委員会の規模においては、人口300万人を超える大都市から、人口千人以下の村まで約3千とおりの教育委員会が存在しております。数百校を抱える大規模教育委員会がある一方、1中学校・1小学校だけの極小規模の教育委員会も珍しくはありません。
また、小規模教育委員会であればあるほど、事務局職員が首長部局へ2~3年で異動してしまうため、プロパーな事務局職員が育たず、事務局体制が弱体化している状況もあります。また、小規模教育委員会においては、事務局職員が2~3人というところが多くありますが、各学校配置の事務職員の一体的に連携した事務はほとんど実施されていません(本会調べ)。個々の学校に配置されている事務職員と連携・協力することで、教育行政や「学校事務」が円滑かつ合理的に行える可能性が広がります。
市町村教育委員会の事務機能を確立するためには、論点整理にあるとおり「子どもや住民にもっとも身近な市町村教育委員会が責任を持って教育行政を担う仕組みが必要ではないか。また、小規模市町村では、共同処理などによて教育行政を広域で行っていくことが必要ではないか。」ということについては同感です。
教育委員会の事務組合や一部事務組合などの形態で事務機能の強化をはかることが考えられますが、学校の自主性・自律性の確立を踏まえた教育委員会と学校の事務の再配分を行うことや、現在全国的に実施されている「学校事務の共同実施組織」を教育委員会と学校の間に位置づけ、学校経営の支援と同時に教育委員会の事務機能強化に活用することも有効であると考えられます。
義務教育費国庫負担制度のもと文部科学省は「総額裁量制」を制度化しました。この制度は、国庫負担金の総額の範囲内で地方の裁量を拡大するものとして導入されましたが、裁量権は直接的には給与負担をする都道府県教育委員会において行使されることになります。
しかし、「総額裁量制」を実効ある制度とするためには、学校を設置する市町村教育委員会から、教職員の配置について都道府県教育委員会へ要求が出来る制度を確立する必要等、基本的には、市町村教育委員会に人事権を移譲する必要があります。「総額裁量制」は、市町村教育委員会に教職員配置の裁量を拡大する仕組みにすべきです。
更には、各学校が特色ある教育活動を推進するにあたっては、学校運営上必要な正規職員や非常勤講師などを含めた様々な能力・職種・年齢構成等による教職員集団づくりこそが校長の手腕となります。校長が市町村教育委員会へ教職員の任用・配置・人事異動について、意見具申するとともに、一定の人事権を校長に付与することも必要です。
教育委員会が独立行政委員会として機能するためには、カリキュラム編成における学校の裁量の拡大やその財源保障となる教育委員会の独自財源の確保こそ必要と考えます。
きめ細かな指導や多種多様な教育活動を展開するにあたり、学校予算は重要な位置を占めています。
かつて、教材・教具の整備は、国庫負担制度により整備基準が設定され、各地で教材の整備状況は全国水準が維持できていました。しかし、教材整備費が地方交付税措置になって以降、教育予算は地方自治体の財政力により格差が生じている実態もあります。
学校裁量の拡大に伴い、教育予算・学校配当予算の実態などについて「学校から発信」し、納税者である保護者・地域住民に直接アピールしていくことも重要となっています。学校配当予算の内容や決算報告・教育効果等については、情報公開の対象であり、学校が自ら公開する義務を負っています。
近年、市町村教育院は特色ある学校づくり支援のため、学校からの予算要求書を基に予算配当したり、校内で費目編成ができるよう配当の方式を運用改善するなど学校裁量予算の拡大をはかる自治体が増加しています。先進となる教育委員会において、校長の予算執行権限(専決権)の拡大や、学校からの予算要求のヒアリングを行うなど、運用で十分改善可能なことを示し成果をあげております。
学校が組織としての機能を十分発揮するためには、直接的な教育指導活動を担う教育指導部門と、教育を効果的に行うために必要な事務・管理を担う教育支援部門の2系統で学校組織を考える必要があります。そして教育指導部門を統括する教頭と教育支援部門を統括する事務長が、校長を支えながら経営陣として校長とともに学校経営に責任を持つ体制にすべきです。
また、すべての学校に教育支援体制を確立するためには、共同実施による事務の組織化が有効であり、制度化すべき事務機能強化の具体的方策といえます。更に、教育支援部門並びに共同実施組織で遂行される学校事務の責任体制を明確にするためには、共同実施組織の責任者として、そして各学校における教育支援部門の総括者として、事務長を配置すべきであり、事務長の制度化が必要です。
教育内容・方法を専門に指導する職員は、「地教行法」に「指導主事」が位置づけられていますが、教育支援部門における事務管理や学校経営そのものを専門に指導する職員がこれからは必要と考えます。
奈良県、大阪市、京都市、神戸市などでは、事務職員を活用し「事務指導主事」を配置しています。これら教育委員会では、学校事務職員出身者が事務指導主事として新任校長研修や学校事務職員研修の企画や指導、学校訪問を行い直接学校経営の相談に乗るなど有効に機能しています。
教育の実施主体である学校と、教育活動を支援する教育委員会という関係において、学校と教育委員会は学校経営上一体のものとしてとらえることが必要です。そのためには、教育委員会のスタッフの充実とともに、学校職員と一体になって学校経営にあたるという連携意識がなにより必要です。
以上
生涯学習政策局政策課