資料3 「教育委員会の在り方」に関する意見(全国国公立幼稚園長会資料)
平成16年8月23日
中央教育審議会
教育制度分科会地方教育行政部会長
鳥居 泰彦 様
全国国公立幼稚園長会 会長 酒井幸子
今回出されました「論点の整理」は、教育を中軸に据えながらも、社会の変化やニーズを的確に捉え、多角的な視野から教育行政の責任ある担い手としての教育委員会の在り方に踏み込んだものとして、大いに賛同できるものであると考えます。
その上で、主に幼児教育の視点から、幾つかの意見を述べたいと思います。
ヒヤリング事項に関する回答
今、国を挙げて少子化対策を進めています。少子化対策そのものは、我が国にとって極めて重要であり、優先されるべき課題であると受け止めています。しかしながら、子どもの視点に立つことよりも、経済性・効率性が優先される傾向が懸念されます。その中にあって国公立幼稚園が将来的展望と子どもの視点に立って進めている「人間形成の基礎を培う」教育は、貴会が進める「人間力」向上の観点とも合致する極めて重要且つ不可欠のものであり、このことの推進こそ教育委員会の役割であると考えます。
以上を踏まえ「論点の整理」にそって、本会の考えを述べます。
1.総論について
- 地方分権化や市町村の合併が進められている。改革に伴う変化や混乱が予想される中、教育の中立性、継続性、安定性を確保するために、教育委員会制度の理念は堅持されるべきである。
- 幼児教育は、少子化対策や財政事情等を背景に、首長の管理、監督、関与が強くなっている現状がある。子どもの成長、発達等の教育的観点から、教育委員会が中立性を保ち、より主体的に幼児教育に関与することが望まれる。
- ナショナルスタンダードを示し、義務教育の全国的な教育水準を確保することは必要であり、大いに賛同するものである。その際、義務教育の土台をつくる幼児教育の充実を図ることが肝要であり、本会として最も重要視している。
- 「論点の整理」にあるように、保護者、地域住民の教育への参画については、既に実施している学校や園や地域で、様々な成果を挙げていることからも、学校運営や教育行政にその意向を反映させることは必要と考える。その際、意向を十分反映させるとともに、公平性、中立性等、教育的見地からの配慮が必要である。
2.各論について
1 「教育委員会制度の意義と役割」について
- 「人間力」向上を図る教育改革を推進する上で、子どもの成長・発達を一貫して支える教育委員会の役割は重要である。中でも幼稚園教育と小学校教育、とりわけ5歳児と低学年児童の教育の接続を重視することが、今後の教育委員会の重要な役割と考える。
- 教育委員会が独立した執行機関として十分に機能するために、構成メンバーである教育委員の資質や識見、教育長の専門職としての資格等、十分に問うべきである。
- 指導主事の配置の充実など教育委員会事務局の体制を整えるべきとの「論点の整理」に大いに賛同する。教育委員会活動は、実際には事務局の力量に負うところが大きい。教育ニーズが多様化し、増大する中で、指導主事の配置及び専門性を充実させることは、学校や幼稚園の教育を支えるものとして是非とも実現させたい。とりわけ、幼稚園教育に関しては専門的指導を可能とする指導主事の配置が切に望まれる。
2 「首長と教育委員会との関係」について
- 少子化や経済事情等を背景に、首長の交代等が公立幼稚園の存亡を左右する事態が起きている。公立幼稚園ならずとも、教育への適正な評価がなされないまま、また、教育的視点より経済性・効率性を優先したまま、事態が進行することを憂慮している。
首長と教育委員会が密接に連携を図る必要性はあるものの、教育の中立性・安定性・継続性を図る上からも、教育委員会の権限等を明確にしておくことが望ましい。
3 「都道府県と市町村との関係及び市町村教育委員会の在り方」について
- 公立幼稚園の設置主体は市町村であるため、地域の実態に応じた教育を市町村教育委員会とともに進められる利点がある。この例からも、「論点の整理」にあるような、子どもや住民に身近な市町村教育委員会が責任をもって教育行政を担う仕組みづくりは大切である。一方で、都道府県教育委員会が、広域的な視野からの課題解決、教員の研修体制や人事交流等に、積極的に一定の役割を果たすことも必要である。
- 都道府県、市町村間の連絡調整を密にし、十分な指導体制を整えるために、都道府県、市町村双方の教育委員会に、各教育分野の専門の指導主事を配置することが必要である。
4 「学校と教育委員会との関係及び学校の自主性・自律性の確立」について
- 例えば、公立の幼稚園はいずれも小規模園が多く、一人一人の教員の力量が教育内容に大きく影響するため、教員の資質向上等に教育委員会の支援は欠かせない。一方で幼児理解や指導内容・方法、園内研究体制など、これまで積み上げてきた教育財産は多く、これらのノウハウを教育の施策に反映することは有効である。教育委員会と学校や幼稚園とが、双方向の関係を築き、教育の水準の維持・向上を図ることは大切な視点である。
- 国公立の幼稚園では、PTA活動やサークル活動等を通して、母親、父親、地域の人の教育への参画を進め、子育ち・親育ちの場として積極的に教育機能を提供している。
親、地域、学校や幼稚園、教育委員会が一体となり、地域ぐるみで子どもを教育する環境づくりは重要である。
教育委員会の在り方に対する重点意見
幼児教育の重要性は誰もが認識しています。しかし、とりわけ国公立の幼稚園が進める幼稚園教育要領に則った教育は、見えにくい、理解しにくい、すぐには成果が出にくい教育であるとも言われています。従って、具体的施策の段階で、ともすれば、適正な評価を得られず、時には教育を離れて政治的争点となる傾向があることを憂慮しています。
今後、我が国の幼児教育は「総合施設」制度の創設等に伴い、これまで以上に多様且つ複雑な方向に進む可能性が出てきています。我が国のすべての子どもが、幼児期にふさわしい教育を受ける権利を保障する仕組みづくりが、「人間力」向上へとつながると確信します。幼児教育の重要性に鑑み、教育委員会の在り方に以下を提案いたします。
- 教育委員会事務局に各教育分野における専門家を配置し体制充実を図る。
- 公立・私立等の設置主体や幼稚園・保育所等の別を問わず、すべての子ども、とりわけ3歳以上の子どもの教育に教育委員会が積極的に関与する。