現行の義務教育制度においては,児童生徒は,6年間の小学校教育,その後の3年間の中学校教育により9年間の普通教育を修了することとなっている。6-3制と称されるこの制度は,我が国の基本的な学校教育の仕組みとして戦後広く社会に定着している。
一方,近年,学校教育,とりわけ義務教育をめぐって,本まとめの1においても述べたような課題が生じる中で,その要因の一端は,児童生徒の心身の発達に現在の学校教育の在り方,とりわけ小学校高学年における指導の在り方が適合していないことにあるのではないかとの指摘もある。
有識者からのヒアリングによれば,脳科学や発達心理学の分野における研究成果からは,子どもたちの発達は,年齢の区分ごとにいくつかの段階があるとされる。その区切り方や具体的な発達の内容については論者によって様々な見解があるが,基本的に,小学校4年生に相当する年齢を中心にその前後1年くらいが大きな区切り目の一つとされることが多い。
実際の学校教育の場においても,経験的に小学校4年生を区切りとして子どもたちの発達段階が大きく変化するとの意見が強い。
一方,現行の制度下では,小学校6年間を一つのまとまりとする教育活動が行われており,小学校1年生にも6年生にも,学級担任制を中心に,同様の原理に基づく指導が行われることが通常である。このような中で,身体的な発達のスピードが速まり,思春期の到来も早まっていると言われる小学校高学年の児童に対する指導においては,従来どおりの小学校的な指導では限界があるのではないかとの指摘がなされるようになっている。
また,学校間の連携や接続の不十分さについても指摘がなされている。
例えば,文部科学省の調査結果では,いじめや不登校,校内暴力の件数は,中学校に入った途端に急激に増加している。また,学習内容に対する理解度も,小学校段階と中学校段階とでは大きな落差がある。これは,学習内容が難しくなるためだけではなく,思春期の難しい時期に,卒業や入学などを経て学習方法や指導原理の異なる新しい環境に入る際の移行が円滑に行われていないことも背景の一つではないかと考えられる。幼稚園と小学校との接続に関しても,両者間の連携の不足が,いわゆる「小1プロブレム」と呼ばれるような小学校低学年での問題を解消できない要因の一つとなっているとも言われている。
教員自身も自らの属する学校種への帰属意識が強すぎ,他の学校種との交流が少ないことや,学校間での充分な情報交換が行われる機会が不足しており,前の学校での状況を踏まえて新しい学校に適応させていくための指導が不十分であることなども指摘されている。
こうした課題の解決に資するため,文部科学省の指定する研究開発学校においては,小学校と中学校とを一貫した教育に関する研究が行われているところであり,それらの学校では,例えば,小学校高学年からの教科担任制の導入,小・中学校にまたがる多様な区分によるカリキュラム編成など,発達段階を踏まえた教育活動の改善や小学校,中学校双方の教員による一貫した指導によって,児童生徒の教育に大きな効果を上げている例も見られる。また,これら一連の研究の成果について,どこで区切り目をつけるべきかの判断は,地域によって異なるケースがあるとの分析も行われている。
本分科会では,こうした現状と課題を踏まえつつ,望ましい学校の区分の在り方,学校間の連携の在り方について議論を行った。その中では,以下に示すように,学校の区分について,6-3制そのものについて見直すべきだとする意見もあったが,その改正は学校現場に与える影響が大きく,慎重であるべきとの意見もあった。また,幼・小,小・中の接続を改善する観点から,幼小,小中の一貫教育や,カリキュラムを中心とした連携の強化を図るべきとの意見が多く出された。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室