序章 大学院を巡る社会状況とこれまでの大学院改革の進捗(ちょく)状況

1 大学院を取り巻く社会状況の展望

 「大学改革」は,いまだ道半ばである。
 21世紀は,新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す,いわゆる「知識基盤社会」の時代であると言われている。この「知識基盤社会」においては,個人の人格形成の上でも,社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上においても,大学とりわけ大学院は極めて重要な役割を果たし,国際競争が激化する今後の社会では,各国の大学院システムないし高等教育政策そのものの総合力が問われることとなる。
 また,真の科学技術創造立国の実現に向けて,我が国が国際競争力を維持・向上させていくためには,科学技術や学術活動の基盤となる人材を大学院においていかに養成し,確保していくかが重要な課題となっている。
 一方,国際的な状況は,国境を越えた高等教育の提供や「知識基盤社会」化を念頭に置いた大学改革が進行中であり,こうした面からも,我が国の大学院教育の国際的通用性が本格的に問われようとしている。
 このような内外の状況を踏まえて,我が国の大学院が国際的にも信頼される「魅力ある教育」を展開していけるか否かを国家社会の行く末を左右する重要な課題ととらえ,その観点から大学院の人材養成機能の強化に取り組んでいくことが急務である。
 政策展開に当たっては,平成17年1月の本審議会答申「我が国の高等教育の将来像」の方向性を基本としつつ,現在,総合科学技術会議や各省の関係審議会等において「第3期科学技術基本計画」の策定に向けた様々な検討が行われる中で,優れた科学技術人材の養成・確保等が重要な議題の一つとなっている点を踏まえることが重要である。

2 これまでの大学院改革の進捗状況

 大学院における教育研究機能については,これまで,旧大学審議会や本審議会の累次の答申等を踏まえ,大学院大学,通信制大学院等の新しいタイプの大学院の設置や,入学資格,修業年限等の制度の弾力化のほか,教育研究機能の強化を図るための様々な支援策が講じられてきた。その結果,質的・量的充実が図られ,基本的には「知識基盤社会」への移行のための基盤強化に一定の成果をあげてきたと言うことができる。
 しかしながら,各大学院の目的と教育体制の関係が不明確な傾向があり,これとも関連して,人材養成の目的に沿った教育の組織的展開が弱く,急速な量的拡大に伴う諸課題に対応しきれていない,などの指摘が依然としてなされている。
 また,専門職大学院制度の発足等に代表される近年の諸改革の中で,大学院教育とそれ以外の教育との関係についても改めて整理が望まれる等,新たな課題も存在する。
 これらを総じて見ると,いまだ,大学院は国際的にも信頼される「魅力ある教育」を展開し,本来期待される人材養成上の役割を十分に果たしているとは言い難い。

近年の主な大学院改革の進捗状況

  • 大学院大学,通信制大学院等の新しいタイプの大学院の増加
    • 大学院大学
       学部を置くことなく大学院のみを置く大学 1大学(昭和63年)→ 14大学(平成17年)
    • 通信制大学院(制度創設平成10年)
       印刷教材や放送授業等により通信教育を行う大学院 0(昭和63年)→ 18大学24研究科(平成17年)
    • 夜間大学院
       社会人の通学上の利便性から,主に夜間において教育を行う大学院 2大学2研究科(昭和63年)→ 25大学31研究科(平成17年)
    • 連携大学院(制度創設平成元年)
       民間の研究所等が参画して大学院教育を展開する大学院 0(昭和63年)→ 105大学206研究科(平成16年)
    • 専門職大学院(制度創設平成15年)
       法曹,経営学修士(MBA),技術経営(MOT)など特定分野の高度専門職業人養成に特化した大学院 0(昭和63年)→ 93大学122専攻(平成17年)

など

  • 大学院学生数の増加 87,476人(昭和63年)→ 254,483人(平成17年)
  • 入学資格や修業年限等の制度の弾力化
    • 学部3年次修了から大学院への入学資格を認める(制度創設平成元年)
       大学の学部3年次を修了後大学院に入学した者 170人38大学(平成15年)
    • 優秀な学生は最短1年で修士の学位を取得可能(制度創設平成元年)
       修士課程短期修了者 384人49大学(平成15年)
    • 大学院修士課程(専門職学位課程)における長期在学コース等の導入(制度創設平成11年)
       長期在学コース 26大学院31研究科, 短期在学コース 35大学院39研究科(平成16年度)
    • 本校の所在地以外の地域で授業や研究指導の一部を行うことが可能(平成3年)
       サテライト教室実施状況 27大学32研究科(平成10年) → 77大学109研究科(平成16年)

など

  • 教育研究機能の強化
    • 自己点検・評価システムの導入(制度創設平成3年)
       自己点検・評価を実施する大学 583大学(約83パーセント)(平成11~15年)
    • 一定規模以上の学生を擁する大学院には大学院専任の教員等を備える(制度創設平成11年)
       大学院所属の教員(助手を含む) 609人(平成元年) → 26,218人(平成16年)
    • 研究科以外の教育研究上の基本組織の制度化(制度創設平成11年)
       研究科以外の組織を置く大学 14大学 41教育部等/35研究部等(平成17年)
    • 大学院におけるインターンシップ
       インターンシップを実施した研究科 28研究科(平成10年) → 99研究科(平成14年)

など

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