第2章 新時代における高等教育の全体像

  • 本章では、中長期的視点(平成17(2005)年以降、平成27(2015)年~平成32(2020)年頃まで)で想定される我が国の高等教育の将来像のうち、主として高等教育の全体像に関する事項を示すこととする。

1 「高等教育の将来像」についての基本的考え方:高等教育計画から将来像へ

 18歳人口が減少を続ける中、大学・短期大学の収容力(入学者数/志願者数)は平成19(2007)年には100%に達するものと予測される(従前の試算より2年前倒し)。
18歳人口が約120万人規模で推移する一方で、大学・学部等の設置に関する抑制方針が基本的に撤廃されたこと等により、「進学率」の指標としての有用性は減少し、主として18歳人口の増減に依拠した高等教育政策の手法はその使命を終え、「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来像の提示と政策誘導」の時代へと移行する。
 国の今後の役割は、1.高等教育のあるべき姿や方向性等の提示、2.制度的枠組みの設定・修正、3.質の保証システムの整備、4.高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供、5.財政支援等が中心となろう。

(1)18歳人口の動向とこれまでの高等教育計画等

  • 我が国の18歳人口は平成4(1992)年度の約205万人を直近の頂点として減少期に入り、平成11(1999)年度から平成15(2003)年度までは約150万人程度となっている。平成16(2004)年度には約141万人で、平成17(2005)年度から更に減少し、平成21(2009)年度に約121万人となった後は、平成32(2020)年度まで約120万人前後で推移することが予測されている。
  • 大学及び短期大学への進学動向に関して、平成9(1997)年1月の大学審議会答申「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」では、18歳人口の減少に伴い入学者が漸減し、平成21(2009)年度には全志願者に対する入学者の割合である収容力は100%になると試算されていた。しかし、その後の志願率の伸び悩みを考慮して同答申と同様の考え方に基づき再計算を行うと、大学・短期大学の収容力は2年早く平成19(2007)年には100%に達するものと予測される。
  • 18歳人口が約120万人規模で推移し大学・短期大学の進学率が50%超に達する一方で、現状のままでは、社会人学生、外国人留学生やパートタイム学生について量的に大幅な拡大は必ずしも見込めない状態にある。
  • これまでの高等教育政策において、昭和50(1975)年度から平成12(2000)年度までの高等教育計画では、大学等の新増設について抑制的に対応しつつ、第2次ベビーブームによる18歳人口の急増期においては受験競争の緩和等を目的として、臨時的定員を措置するなどの政策的な対応が図られてきた。
  • 平成12(2000)年度から平成16(2004)年度においては、基本的に抑制基調が継続される中、臨時的定員の解消が進められる一方で、新分野への対応等の事情により新増設の動きは続いていた。その結果、入学定員の規模としては大きな変化は見られなかった。
  • 平成14(2002)年8月の中央教育審議会答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」を踏まえ、平成15(2003)年度以降は、大学が社会のニーズや学問の発展に柔軟に対応でき、また、大学間の自由な競争を促進するため、抑制方針は(医師、歯科医師、獣医師、教員、船舶職員の5分野を除き)基本的には撤廃されている。

(2)国の今後の役割

  • 様々な社会の変化や国の役割の変質を踏まえると、今後は「18歳人口に対する進学率」の指標としての有用性は徐々に減少し、主として18歳人口の増減に依拠して高等教育規模を想定しつつ需給調整を図るといった、右肩上がりの成長期に採られてきた政策手法はその使命を終えるものと考えられる。これまでの高等教育計画や将来構想も高等教育の在り方を念頭に置きつつ策定されてきた。しかし、今後は、高等教育の将来像といったものが提示され、各高等教育機関・学生個々人・各企業・地方公共団体等がそれぞれの行動を戦略的に選択する中で、高等教育の規模や配置等が決まり、必要に応じて将来像が見直されるというシステムへと転換することが不可避となろう。即ち、「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来像の提示と政策誘導」の時代への移行と言うことができる。
  • 国の今後の役割は、1.高等教育のあるべき姿や方向性等の提示、2.制度的枠組みの設定・修正、3.質の保証システムの整備、4.高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供、5.財政支援等が中心となろう(第4章2(1)参照)。
  • このように、今回の将来像においては、
    1. 高等教育の量的変化の動向
    2. 高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化
    3. 高等教育の質の保証
    4. 1~3を踏まえた各高等教育機関の在り方
      • 大学(学士課程、修士・博士・専門職学位課程、短期大学の課程)
      • 高等専門学校
      • 専門学校
    5. 高等教育の発展を目指した社会の役割
    等が内容となっている。
  • 後述第5章の「ロードマップ」部分では、これらを主要な柱として関連施策についての考え方を整理している。本章2以下及び第3・4章でも概ねこの順序で叙述することとする。
  • なお、学術研究の推進に関しては、平成16年11月以降、科学技術・学術審議会学術分科会で「学術研究における多様な分野の総合的な推進方策について」の審議が行われている。高等教育機関における教育・研究については、本中間報告の他に、学術分科会等での議論をも踏まえ、総合的な推進を図っていく必要がある。

2 高等教育の量的変化の動向

(1)全体規模等に関する考え方

 様々な変化を背景に、全体規模の面のみからすると、高等教育についての量的側面での需要はほぼ充足されてきており、同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユニバーサル段階の高等教育が既に実現しつつあるとも言える。しかし、今後は、分野や水準の面においても、誰もがいつでも自らの選択により学ぶことのできる高等教育の整備、即ち、学習機会に着目した「ユニバーサル・アクセス」の実現が重要な課題である。
今後、少子化の影響等により、在籍者数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には、学校の存続自体が不可能となることもあり得る。その際には、特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり、そのための関係機関の協力体制が必要である。

(ア)高等教育の全体規模

  • 我が国の大学・短期大学の18歳人口を基準とした進学率は、1960年代前半に15%を超えた後急激に上昇して昭和50(1975)年度には38.4%にまで達し、高等教育の大衆化が急速に進行した。その後、進学率は一時的に安定し、平成に入ってから再び上昇して平成11(1999)年度に約49%となり、ここ数年はほぼ一定で推移していた。大学・短期大学の進学率が一定となっていた要因は必ずしも単純ではないが、長期にわたる経済の停滞や専門学校への進学率等の影響もあると考えられる。
  • 専門学校を含めた進学率は、昭和61(1986)年度からほぼ一貫して増加し続けており、平成16(2004)年度には74.5%に達している。この意味では、我が国の高等教育は、同年齢の若年人口の過半数が高等教育を受けるというユニバーサル段階に既に突入しており、これにふさわしいものへと変革を迫られていると言うことができる。
  • こうした様々な変化を背景に、全体規模の面のみからすると、高等教育についての量的側面での需要はほぼ充足されてきており、ユニバーサル段階の高等教育は既に実現しつつあると言うこともできる。また、今後の大学・短期大学の進学率についても、近年の傾向からすれば、大幅な拡大は必ずしも見込めない状態にある。
  • しかし、ユニバーサル段階の高等教育が真に内実を伴ったものとなるためには、単に全体規模だけでなく分野や水準の面においても、社会人等を含めた多様な学習者の需要に対して高等教育全体で適切に学習機会を提供するとともに、学生支援の充実等により学習環境を整えていくことが不可欠である。その意味で、誰もがいつでも自らの選択により適切に学べる機会が整備された高等教育、即ち、学習機会に着目した「ユニバーサル・アクセス」の実現が重要な課題である。
  • 今後の我が国において、個人が自己啓発を図り、より一層豊かで潤いのある人生を送ることを目指して、人々の多様な生涯学習需要は増大する傾向にあることから、社会人が高等教育機関で学ぶ機会もますます増大していくものと考えられ、この意味でも「ユニバーサル・アクセス」の実現が求められている。
  • このことはまた、「学(校)歴偏重社会」が次第に過去のものとなり、高等教育機関と実社会との「往復型社会」への転換が加速するであろうことをも意味する。
    かつて、我が国社会は「18歳のある1日に、どのような成績をとるかによって、彼の残りの人生は決まってしまう」ような学歴偏重の社会であるとOECD教育調査団(昭和45(1970)年)によって分析されたことがあった。今日では、実社会において、人生の比較的早い段階での学歴・学校歴のみでその人の将来の社会的な処遇が決定されないことは明らかと言ってよい。しかし、依然として人々の意識の上では学歴偏重の考え方も根強く、意識と現実との乖離を解消する努力がなお必要である。
  • 産業構造の変化や雇用の急速な流動化を背景とした昨今の社会人の大学院での学習需要の高まりを見ると、職業生活の上でも、職場での肩書きや専門的資格のみに依拠するのでなく、自己を知的にリフレッシュして付加価値を高めるという意識が急速に社会全体に根づき始めたようにも見える。今後は、高等教育機関と実社会双方の努力により、社会人が必要に応じて高等教育機関で学習を行い、その成果をもって更に活躍する「往復型社会」への転換が加速するものと期待される。
  • また、男女共同参画や少子高齢化の一層の進展等に伴い、女性や高齢者が就労する機会が一層増大することも予想される。高等教育機関は、人々の幅広い知的探求心や学習需要に応えて、必要なときにいつでも学習できる環境と多様なメニューを提供することがますます求められる。

(イ)経営状況の悪化した高等教育機関への対応

  • 社会・経済情勢の変化に伴い、高等教育機関を取り巻く経営環境は厳しさを増しつつある。各機関は、長期的な18歳人口の減少等を見据えつつ、自ら経営努力を行うことが不可欠である。
  • 各高等教育機関の経営改善を支援するため、関係機関の連携のもと、経営分析や指導・助言を通じて、各機関の自主的な改善努力を促すことが必要である。また、各高等教育機関が、必要に応じて財務・会計等に関する専門家の意見を求めることも重要である。
  • 今後、少子化の影響等により、在籍者数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には、様々な手立てを講じてもなお経営が好転せず、学校の存続自体が不可能となる場合もあり得るであろう。そのような際には、特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり、そのために関係機関の協力体制を作っておくことが必要である。
  • また、平成16(2004)年の私立学校法の一部改正によって学校法人に対し財務情報の公開が義務づけられたこと等を踏まえ、各高等教育機関においては、学習者保護の観点からも、財務情報の積極的な公開に努めることが重要である。

(2)地域配置に関する考え方

 大都市部における過当競争や地域間格差の拡大によって教育条件の低下やアクセスに関する格差の増大等を招くことのないような方策を講ずることは重要な課題である。その際、人材の流動性や遠隔教育の普及等とともに、地方の高等教育機関は地域社会の知識・文化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある。

  • 平成14(2002)年8月の中央教育審議会答申「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」までは、首都圏・近畿圏・中部圏における工業(場)等制限区域・準制限区域内の大学の設置等については抑制的に取り扱われてきていた。これに対しては、大都市部における大学の自由な発展を阻害している等の批判があり、同年7月に工業(場)等制限法も廃止されたことを踏まえて、抑制方針は撤廃されている。
  • 大都市部における設置認可の抑制方針を撤廃したことによる大都市部における過当競争や、地域間格差の拡大によって教育条件の低下やアクセスに関する格差の増大等を招くことのないよう、各国公私立大学における適正な定員管理を図るための方策を講ずることも重要な課題である。
  • 地域配置に関しては、人材の流動性や遠隔教育の普及等の要素も考慮することが必要である。また、地方における高等教育機関は、教育サービスの提供の面だけでなく、地域社会の知識・文化の拠点としての役割をも担っていることに留意する必要がある。
  • 地方における高等教育の支援や地域振興に資するため、高等教育機関相互のコンソーシアム形成支援や高等教育機関を核とした知的クラスターの形成支援を充実することも重要と考えられる。

(3)今後の人材養成の分野別構成等に関する考え方

 今後の様々な人材需要に対しては、各高等教育機関が、幅広い基礎的な教育を充実すること、柔軟に教育組織を改組すること、社会人の再教育を充実させること等により対応を図ることが基本である。国は、高等教育機関の自主的・自律的努力を支援するとともに、人材需要見込み等を的確に把握して情報提供する仕組みを整えるべきである。
抑制方針が維持されている医師、歯科医師、獣医師、教員及び船舶職員の5分野の取扱いについては、人材需給見通し等の政策的要請を十分に見極めながら、抑制の必要性、程度や具体的方策について、必要に応じて個別に検討する必要がある。

  • 今後ますます多様化・複雑化し、変化の速度を増していく人材需要に対しては、国が一元的に調整するのではなく、各高等教育機関が、競争的環境の中で創意工夫を凝らし、幅広い基礎的な教育を充実すること、法人化や設置認可の弾力化を活かして柔軟に教育組織を改組すること、社会人の再教育を充実させること等によって総合的な対応を図ることが基本であると考えられる。
  • 特に国として重点的・戦略的に推進すべき人材養成分野については、当該分野の人材需要見込みや国際的環境等を的確に踏まえながら、高等教育機関の自律的・自主的な努力を幅広く誘導・支援していくことが考えられる。
  • 国は、各高等教育機関の行動選択の参考に供するとともに、その自主的・自律的な努力を効果的に支援するため、学問分野ごとの人材養成に関する需要や国際的環境、求められる人材像等について、関係府省や民間シンクタンク等が保有する様々な情報を恒常的に収集・整理するなどして的確に把握し、提供すべきである。また、人材養成に関する高等教育機関側と産業界側等との対話・協議の場の設定や意欲的な取組の評価・顕彰等を通じて、社会のニーズと高等教育のマッチングを常に図る必要がある。
  • その中で、地域社会のニーズに十分応えるべき分野(例えば医療・教育等)や、需要は少ないが学術・文化等の面から重要な学問分野については、国として全体的なバランスが図られるよう配慮していかねばならない。
  • 抑制方針が維持されている医師、歯科医師、獣医師、教員及び船舶職員の5分野の取扱いについては、これらの分野ごとの人材需給見通し等の政策的要請を十分に見極めながら、抑制の必要性、程度や具体的方策について、必要に応じて個別に検討を加えていく必要がある。

3 高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化

 新時代の高等教育は、全体として多様化して学習者の様々な需要に的確に対応するため、大学・短期大学、高等専門学校、専門学校が各学校種ごとにそれぞれの位置づけや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、各学校種においては、個々の学校が個性・特色を一層明確にしていかなければならない。
特に大学は、全体として
 1.世界的研究・教育拠点、2.高度専門職業人養成、3.幅広い職業人養成、4.総合的教養教育、5.特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育・研究、6.地域の生涯学習機会の拠点、7.社会貢献機能(地域貢献、産学官連携等)
 等の各種の機能を併有するが、各大学ごとの選択により、保有する機能や比重の置き方は異なる。その比重の置き方が各機関の個性・特色の表れとなり、各大学は緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。(例えば、大学院に重点を置く大学やリベラル・アーツ・カレッジ型大学等)
18歳人口が約120万人規模で推移する時期にあって、各大学は教育・研究組織としての経営戦略を明確化していく必要がある。

(1)各高等教育機関の個性・特色の明確化

  • 戦後の我が国における高等教育の急速な拡大により、量的側面での「ユニバーサル段階の高等教育」は実現しつつある。しかし、人的物的資源が必ずしも十分でないままでの急拡大が質的充実を伴ってきたとは言い難い。また、18歳人口が約120万人規模で推移する中では、個性に乏しい数多くの高等教育機関が単一の市場(18~21歳の日本人フルタイム学生、即ち「伝統的学生」の獲得)を巡って競争するという状況は、社会全体としての効率性に欠ける面が大きい。新時代の高等教育には、全体として多様化するとともに、学習者の様々な需要に的確に対応(複数の市場を開拓)して個々の高等教育機関が自らの資源を重点的に投入し質的な向上を図ることによって、真の「ユニバーサル・アクセス」(本章2(1)参照)を実現することが求められている。
  • 近年、教育内容の改善や充実を図って様々な改革が続いている。この結果、多様化が進む中で大学とは何かといった本質や、高等教育機関間の個性・特色の違いが不明確になってきているとの指摘がある。ユニバーサル段階の高等教育にあっては、各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない。
  • 大学・短期大学・高等専門学校・専門学校が、各学校種ごとに、それぞれの位置づけや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、各学校種においては、個々の学校が個性・特色を明確化することが重要である。
  • また、各機関が個性・特色の明確化を図り、全体として一層の多様性を確保すると同時に、誰もがアクセスしやすい柔軟な高等教育システムを構築し、学習者の立場に立って相互の接続や連携を改善することが重要である。
  • さらに、高等教育機関相互の連携協力による各機能の補完や充実強化も、必ずしも設置形態の枠組みには捉われずに促進されるものと考えられる。
    例えば、地域の国公私立大学間の連携によるコンソーシアム方式での単位互換制度の充実や、学問分野を超えた融合領域形成のための大学院間の連携等が考えられる。

(2)大学の機能別分化

  • 高等教育機関のうち、大学は、全体として
    1. 世界的研究・教育拠点
    2. 高度専門職業人養成
    3. 幅広い職業人養成
    4. 総合的教養教育
    5. 特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育・研究
    6. 地域の生涯学習機会の拠点
    7. 社会貢献機能(地域貢献、産学官連携、国際交流等)
    等の各種の機能を併有する。各々の大学は、自らの選択に基づき、これらの機能の全てではなく一部分のみを保有するのが通例であり、複数の機能を併有する場合も比重の置き方は異なるし、時宜に応じて可変的でもある。その比重の置き方が即ち各大学の個性・特色の表れとなる。各大学は、固定的な「種別化」ではなく、保有するいくつかの機能の間の比重の置き方の違い(=大学の選択に基づく個性・特色の表れ)に基づいて、緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。
  • 例えば、1や2の機能に特化して大学院の博士課程や専門職学位課程に重点を置く大学もあれば、4の機能に特化してリベラル・アーツ・カレッジ型を目指す大学もある。こうした大学全体としての多様性の中で、個々の大学が限られた資源を集中的効果的に投入することにより、各大学の個性・特色の明確化が図られるべきである。
  • さらに、我が国の高等教育はユニバーサル段階を迎えつつあることから、特に3、4、6の機能に重点を置く大学にあっては、例えば、充実したリメディアル(補習)教育の実施や、就職や他大学の学士・修士・専門職学位課程等への円滑な進学・編入学を特色とすることも考えられる。
  • このように、18歳人口が約120万人規模で推移する時期にあって、各大学は教育・研究組織としての経営戦略を明確化していく必要性がある。このとき、
    各大学は、「機能別分化」を念頭に、他大学とは異なる個性・特色の明確化を目指すこと。
    国や地方公共団体等は、各大学が重点を置く機能を自主的に選択できるように配慮しながら、財政面を含む幅広い支援を行うこと。
  • 等の点に特に注意しなければならない。
  • 各大学においては、自ら選択した機能を十分に発揮できるよう、教職員として多様な人材を育成・確保するとともに、その資質の向上に努める必要がある。
  • 日本の大学について、米国のカーネギー教育振興財団が行っている大学分類のように授与する学位の種類や量に応じて大学を分類することも、現状認識の一つの方法として可能である。自らの理念・目標や大学院の有無・規模等の違いに応じて、こうした様々な分類を参考としつつ、重点を置くタイプを大学が自ら選んでいく必要がある。このような努力は、各大学が志向する方向を明確にして発展を図っていることの表れでもあると考えられ、国としても各大学の努力を支援していくことが重要である。
  • 高等教育の中核を担う大学に関しては、教育・研究・社会貢献という使命・役割を踏まえて、それぞれに応じて具体的にどのような機能に重点を置き、個性・特色の明確化を図っていくか、各大学ごとの自律的な選択に基づく機能別の分化が必要となっている。そうした面からも、質の保証がますます重要な課題となってきている。(本章4参照)

(3)学習機会全体の中での高等教育の位置づけと各高等教育機関の個性・特色

 高等教育の将来像を考える際には、初等中等教育との接続にも十分留意する必要がある。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていく視点が重要である。また、より良い教員養成の在り方についても検討していく必要がある。
このため、各大学は、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、適切に入学者選抜を実施していく必要がある。また、教育の実施や卒業認定・学位授与に関する方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)を明確にし、教育課程の改善や「出口管理」の強化を図ることも求められる。
 生涯学習との関連でも、高等教育機関は履修形態の多様化等により、重要な役割を果たすことが期待される。

(ア)高等教育と初等中等教育との接続

  • 初等中等教育は、「ゆとり」の中で「生きる力」(確かな学力、豊かな人間性、健康・体力)を育む教育を推進しており、生涯にわたって学ぶことのできる自己教育力や基礎・基本、個に応じた指導等を重視する流れにある。
  • 高等教育は、国際的な標準での質の保証が重要な課題となっていることからも、一定の水準を確保することが強く要請される。特に、産業界をはじめ実社会の人材需要は「独創性」「即戦力」「基礎学力」等高度化・多様化の一途をたどっており、人生や職業に関する選択の機会が年齢的に高くなる傾向の中で、高等教育を受けることによる付加価値の程度がますます注目され、高等教育段階での教育機能の重要性が指摘されている。
  • 高等教育は、初等中等教育を基礎として成り立つものであると同時に、初等中等教育の在り方に大きな影響を及ぼすものである。また、両者の接点である大学入学者選抜を取り巻く環境も、急速な少子化の進行等を背景として大きく変化し、私立の4年制大学のうち約3割、短期大学では約4割が定員割れを起こしている。中には、入学者選抜が、本章4(1)で述べる「高等教育の質」の一環としての学生の質に関する選抜機能を十分に果たし得なくなってきている例も見られる。また、進学率の上昇に伴う高等教育の大衆化や高等学校段階までの履修内容の変化等によって、入学者について履修歴の多様化が一層進み、このことが学生の知識・能力の低下や多様化を招いているのではないかといった指摘もある。このような状況をも踏まえて、高等教育の質の確保・向上等に努める必要が出てきている。
  • このような状況を踏まえ、高等教育と初等中等教育との接続に留意することは、今後ますます重要である。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。
  • 初等中等教育との関連では、高等教育が初等中等教育の学校教員の養成機能を担っているという点も極めて重要である。教員養成を担当する大学教員の確保や資質向上を含め、より良い教員養成の在り方について、今後とも検討していく必要がある。
  • 今後の高等教育においては、初等中等教育を基礎として、「主体的に変化に対応し、自ら将来の課題を探求し、その課題に対して幅広い視野から柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる力」(=課題探求能力)の育成が重視されよう。例えば、後述のように、学士課程教育では教養教育及び専門分野の基礎・基本を重視し専門的素養のある人材として活躍できる基礎的能力等を培うこと、修士・博士・専門職学位課程では専門性の一層の向上を目指した教育を行うことを基本として考えることが重要となろう。
  • どのような学生を受け入れて、どのような教育を行い、どのような人材として社会に送り出すかは、その高等教育機関の個性・特色の根幹をなすものである。各機関は、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、入学志願者や社会に対して明示するとともに、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、実際の選抜方法や出題内容等に適切に反映していく必要がある。また、大学は国内外の環境の変化や激しい競争にさらされることから、このような努力を通じて、次の世代を担う者に対し、各人が学んでおくべき内容を示すという機能を果たすことも期待される。
    入学者受入方針に加えて、教育の実施や卒業認定・学位授与に関する基本的な方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)についても、各高等教育機関が(必要に応じて分野ごとに)明確にすることで、教育課程の改善やいわゆる「出口管理」の強化を図っていくことが求められる。

(イ)高等教育と生涯学習との関連

  • 「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」ような生涯学習社会を構築するためには、各種の主体により多様な学習機会が豊富に提供されなければならない。そのうちで、質的に高度で体系的かつ継続的な学習機会の提供者として、高等教育機関が重要な役割を果たすことが期待される。
  • 社会人学生は特に大学院で増加してきており、通学制の大学・短期大学・高等専門学校(本科)に在籍する社会人学生は合計で約3万人に達している。
  • 大学等における社会人の受入れの推進については、従来より大学審議会の累次の答申等を受けて、夜間大学院、通信制大学院及び昼夜開講制の導入等の制度改善が図られてきた。さらに、平成14(2002)年2月の答申「大学等における社会人受入れの推進方策について」において、学生が柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する長期履修学生制度や通信制博士課程等の導入について提言され、これを受けて制度的な整備が図られている。
  • 今後は、社会人の再学習需要や経済情勢・雇用形態の変化を踏まえ、企業等におけるキャリア・パス形成との関連に留意しながら、特に修士・博士・専門職学位課程でのリカレント教育に対応した履修形態等についても、具体的な対応が求められよう。
  • また、今後は、生涯学習の意識の高まりに対応して科目等履修生や聴講生等の履修形態の多様化が更に進むものと考えられる。また、一定のコースないし科目(群)を学んだ成果としての履修証明として、学位以外の方法が社会的に定着することも予想される。
    さらに、生涯学習社会の実現、多様な高等教育機関の発展等の観点から、いわゆる単位累積加算制度を、学位授与にふさわしい履修の体系性の確保等に留意しつつ設けることは、今後の重要な課題である。
  • 我が国における短期高等教育の位置づけについても、ユニバーサル段階での新たな意義・役割や単位累積加算制度の検討との関連等に留意しつつ、明確化する必要がある。

(4)高等教育を取り巻く環境の変化と各高等教育機関の個性・特色

 国内外の高等教育機関の国際展開等の国際化の進展や情報通信技術の発達、e-Learningの普及等の中で、各高等教育機関は個性・特色の明確化を一層進める必要がある。

(ア)高等教育の国際化の進展

  • 高等教育の国際化の進展に伴い、留学生数は近年急増しており、大学・短期大学・高等専門学校・専門学校に在籍する留学生数の合計は平成15(2003)年度に初めて10万人を超えるに至っている。今後は、高等教育機関においても海外分校・拠点の設置、外国の教育研究機関との連携、e-Learning((イ)参照)等を通じて国境を越えた教育の提供や研究の展開等、国際的な大学間の競争と協調・協力が一層進展していくものと考えられる。
  • 海外に目を転じてみれば、米国・英国や豪州といった英語圏の国々やドイツ等の高等教育機関が、東アジア・東南アジア各国に現地校を開設し、現地校のみの教育を受けることで居ながらにして本国の学位を得られるようにすることが盛んに行われ始めている。また、中国・韓国・マレーシア・シンガポール等アジアの国々でも、このような国際動向に積極的に対応し、外国の優れた高等教育機関を誘致し又はこれと連携するための施策を展開し始めている。これは、国内の進学率の急激な上昇に対応すること、また周辺国の教育拠点(ハブ)となることを目的としたものと思われる。我が国においても、海外の高等教育機関と我が国の機関が提携して、我が国における海外学位の授与や海外における我が国の学位の授与などが複数計画されている。
  • 以上のことは、我が国の18歳人口が減少を続ける中、各高等教育機関は国際的な競争的環境の下でも、人材養成や学術研究活動等について個性・特色及び経営戦略の明確化を一層進めなければならないことを意味している。
  • なお、国境を越えて展開される大学教育の提供による学位授与の機会を拡大するに当たっては、我が国の学位の国際的通用性の確保に十分留意することが必要である。また、我が国を含めた各国の大学制度、各大学の適格認定を含めた評価、教育内容及び学位の通用性等について学習者が判断することのできるように、国際的な大学の質の保証に関する情報ネットワークを構築することが急務である。我が国は、こうした国際的な協議に積極的に参加・貢献すべきである。
  • また、今後は、留学生の交流等も含めて、国境を越えて展開される我が国の高等教育による国際的な貢献という視点を常に念頭に置いていく必要がある。特に、学術研究分野においてアジア地域内部でのパートナーシップをどう構築していくかは、我が国の高等教育にとって大きな課題である。

(イ)情報通信技術の発達

  • 通信制による高等教育は、地理的・時間的制約による通学の困難な者に対して学習機会を提供している。これまでの通信教育は郵便やテレビ放送等を利用したものがほとんどであった。しかし、時間の融通のきかない社会人が働きながら学んでいくためには、空間的及び時間的制約を受けない環境、例えば、在宅のまま夜間に学べる環境を整えていくことが重要な課題である。
  • 情報通信技術(IT)の発展に伴い、各家庭へのブロードバンド通信が急速に普及しつつある。今後は、情報通信技術を利用した履修形態、いわゆるe-Learningの役割が増加していくものと思われる。放送大学についても、多様なメディアの活用等による一層の充実が期待される。
    ただし、e-Learningは、知識の伝達には有効な手段であるが、これのみに頼り過ぎる余り、これからの時代にますます重要な幅広い人間性や社会性の涵養が疎かになることのないよう、十分な教育上の留意が必要である。
  • 今後は、e-Learningの普及等、情報通信技術の飛躍的な向上を背景として、通学制と通信制の境界がより連続的なものとなり、伝統的な「キャンパス」(教育・研究環境)の概念にも少なからず影響を及ぼすものと予想される。

4 高等教育の質の保証

 高等教育の量的側面での需要がほぼ充足されてくる一方、特に大学設置に関する抑制方針の撤廃や準則主義化等もあり、大学等の新設や量的拡大も引き続き予想され、また、各高等教育機関が個性・特色を明確にしながら、大学が自律的選択に基づいて機能別に分化するなど全体として多様化が一層進むにつれて、学習者の保護や国際的通用性の保持のため、高等教育の質の保証が重要な課題となる。
個々の高等教育機関は、教育・研究活動の改善と充実に向けて不断に努力することが大切である。また、高等教育の質の保証の仕組みを整えて効果的に運用することは、国としての基本的な責務である。
 高等教育の質の保証の仕組みとしては、事後評価のみでは十分ではなく、事前・事後の評価の適切な役割分担と協調を確保することが重要である。設置認可制度の位置づけを一層明確化して的確に運用するとともに、認証機関による第三者評価のシステムを充実させるべきである。
 個々の高等教育機関が質の維持・向上を図るためには、自己点検・評価がまずもって大切である。
 また、教育内容・方法や財務状況等に関する情報や設置審査、認証評価、自己点検・評価により明らかとなった課題や情報を当該機関が積極的に学習者に提供するなど、社会に対する説明責任を果たすことが求められる。

(1)保証されるべき「高等教育の質」

  • 高等教育の量的側面での需要がほぼ充足されてくる一方、事前規制から事後チェックへという流れの中、特に大学設置に関する抑制方針の撤廃や準則主義化等もあり、大学等の高等教育機関の新設や量的拡大も引き続き予想され、また、一定の組織改編が届出で可能となったことを主な契機として、各高等教育機関が個性・特色を明確にしながら、大学が自律的選択に基づいて機能別に分化するなど全体として多様化が一層進むにつれて、学習者の保護や国際的通用性の保持のため、高等教育の質の保証が課題となる。
  • 高等教育の質の保証に関しては、まず、個々の高等教育機関において、教育・研究活動の改善と充実に向けて不断に努力することが大切である。また、競争的環境の中での各高等教育機関の個性・特色の明確化が一層進む中にあっては、学習者や社会の信頼を保持する上でも、情報の開示を含めた質の保証の仕組みを整えて効果的に運用することも極めて重要であり、国としての基本的な責務である。
  • 本来、保証されるべき「高等教育の質」とは、教育課程の内容・水準、学生の質、教員の質、研究者の質、教育・研究環境の整備状況、管理運営方式等の総体を指すものと考えられる。したがって、高等教育の質の保証は、行政機関による設置審査や認証評価機関による評価(「認証評価」とは、すべての国公私立の大学等が、文部科学大臣の認証を受けた第三者評価機関による評価を受ける制度をいう。以下同じ。)のみならず、カリキュラムの策定、入学者選抜、教員や研究者の養成・処遇、各種の公的支援、教育・研究活動や組織・財務運営の状況に関する情報開示等の全ての活動を通して実現されるべきものである。
  • 高等教育の質に着目する場合、事前評価としての行政による設置認可と事後評価としての評価機関による第三者評価を言わば両輪とした、質の保証が必要である。
  • 高等教育の質の保証の一環としての事前・事後の評価の関係については、双方の適切な役割分担と協調を確保することが重要である。特に、一定の事前評価は必要であるとの観点から、設置認可制度について、我が国の高等教育の質の保証の仕組み全体の中での位置づけを一層明確化し、的確に運用すべきである。また、事後評価に関しては、認証機関による評価のシステムを速やかに整え、社会の負託に十分に応える効果的なものとなるよう発展・充実させていくべきである。
  • 高等教育の質の保証を考える上では、教員個々人の教育研究能力の向上や事務職員・技術職員等を含めた管理運営や教育研究支援の充実を図ることも極めて重要である。評価とファカルティ・ディベロップメント(FD)やスタッフ・ディベロップメント(SD)等の自主的な取組との連携方策等も今後の重要な課題である。

(2)設置認可の重要性と的確な運用

(ア)設置認可の重要性

  • 大学等の設置認可及びその審査の過程は、申請者と大学設置・学校法人審議会との「対話」を通じて、相応の時間をかけて、設置構想の実現可能性や信頼性を確保し、その内容を充実させる手続であり、高等教育の質を担保するための本来的な制度としての意義を有している。また、高等教育の質の保証は事後評価のみでは十分ではなく、事後評価までの情報の時間的懸隔に伴う大学等の選択のリスクを学習者の自己責任にのみ帰するのは適切でない。一部の外国に見られるような、学費の対価として安易に学位を取得させる非正統的な教育機関(いわゆる「ディグリー・ミル(またはディプロマ・ミル)」)の出現を抑止して学習者保護を図るための方策としても、一定の事前評価は必要である。
  • サービスという観点から見た場合、学校教育には、他のサービスとの関係で一般性と特殊性がある。特殊性とは、情報の非対称性、利用者が「学生」であること、単なる知識・技能の取得とは異なる(師弟関係や友人関係を含めた)学習環境の必要性、サービス享受後の効果に永続性があること、サービスの提供とその効果の検証に一定期間を要すること等を指す。
    学校教育が一般的にはサービスとしての市場性を有することに留意しつつも、「高等教育の質」に関しては、市場万能主義に依拠するのでなく、教育サービスの質そのものを保証する観点を重視していく必要がある。

(イ)設置認可の的確な運用

  • 設置認可制度の位置づけを明確化するに当たっては、審査の内容や視点等について、更に具体化を図る必要がある。例えば、大学教員の質を審査することは極めて重要である。社会の需要に的確に対応した、大学に求められる学問的水準の教育・研究活動を担う個々の大学教員の資質及び教員組織全体の在り方が、「大学とは何か」という根本的な問題意識(第3章1(1)(ア)参照)との関連で十分に点検・確認される必要がある。実効性ある審査のためには、「専任教員」や「実務家教員」の意義や必要とされる資質・能力等について、更に具体化・明確化する努力が必要である。また、大学としてふさわしい教育目的やそれを達成するための教育課程、またそれらと資格取得・技能習得との関係、大学としてふさわしい教育・研究環境、他の学校種との違い等について十分に審査することも重要である。
  • 現行の大学設置基準等の規定は定性的・抽象的なものが多く、設置審査の具体的な判断指針としては必ずしも有効に機能しにくい面がある。今後は、設置基準の性格を設置後の評価活動とも連携させたものとして捉え直していくとともに、時代の変化に常に対応した基準となるよう不断の見直しを行っていく必要がある。
  • このような認識に立つとき、現行の設置基準や設置審査については、明確化すべき観点やルール化を図るべき事項が多くあると考えられる(第5章2 3.参照)。「大学の質」に関わる要件を明確化することは、多様な主体が参入して健全な大学間競争を活発に行うための環境整備として欠かせないものと考える。ただし、そうした要件を全て法令等の形式に網羅的・具体的に表現することには困難な面もあり、今後、適切に対応していく必要がある。
  • なお、規制改革の一環として、設置認可については届出制の導入等の大幅な弾力化が逐次進められており、大学等の参入や組織改編は大きく促進されている。少子化が進む中で大学数が大幅に増加している状況を見れば、少なくとも、設置認可制度が大きな「参入障壁」になっているとは言えない。今後は、これらの制度改正の効果等を十分に見きわめつつ、教育の質の国際的通用性や学習者保護の観点を十分に踏まえ、拙速を避けながら適切に対応する必要がある。

(3)認証評価制度の導入と充実

(ア)機関別、専門職大学院評価及び分野別評価

  • 平成16(2004)年4月から認証評価制度が導入されている。この制度は、認証評価機関になろうとする者の申請に基づき、本審議会への諮問及びその答申の手続を経て、一定の基準を満たす場合に文部科学大臣が評価機関を認証し、各評価機関が自ら定める評価基準に従って大学等の評価を行うものである。既にいくつかの機関が認証を受けて活動を開始しており、大学等の特色ある教育・研究の進展に資する観点から評価項目を設定するなど、様々な工夫を行い評価を実施することが期待される。
  • 認証評価制度は、大学等の事後評価の中核として極めて重要であり、その質の維持・向上のため、社会に早期に定着し活用されることが望ましい。
  • 事後評価に関しては、社会的要請を踏まえれば、機関別評価と専門職大学院評価のみでなく分野別評価についても積極的に採り入れられることが期待される。その際、分野の特性に応じて学協会等関係団体の参画・協力を得ることが考えられる。また、教育に関する分野別評価に関連して、他の参考となるべき特色ある取組を促進する方策を講ずることも必要である。
  • 評価結果に関する情報については、適時適切に社会や学習者に提供されるなど、高等教育の質の維持・向上のために活用されることが必要である。

(イ)評価の質の向上

  • 高等教育行政の機能・役割の変化に際しては、多元的な評価機関が形成されることが不可欠の前提となる。機関別・専門職大学院別の評価に加えて分野別評価が、分野の特性に応じて学協会等関係団体の協力を得ながら発展することが期待される。各種評価機関の形成のための国の支援も必要である。
  • 認証評価制度をはじめとした評価の仕組みが社会に定着して活用されるに伴い、評価の質の向上を図るため、評価方法や評価基準等の不断の見直しと改善、評価する側の質の高さや適正さを担保するための仕組みを整えること等が、今後の重要な課題となろう。

(4)自己点検・評価の充実

  • 高等教育の教育・研究水準の維持・向上を図るためには、各高等教育機関が積極的に教育・研究活動等の状況について自己点検・評価を行い、結果を公表するとともに、その改善と充実に向けて不断の努力を行うことがまずもって大切である。また、自己点検・評価の結果は、改組に伴う設置審査や定期的な認証評価の場面で活用されるという意味でも重要である。
  • 特に、自己点検・評価結果の公表に当たっては、各高等教育機関が自ら重点を置く機能及びその機能に関わる具体的な教育・研究上の目標を明示し、目標の達成度や達成の可能性について検証することが望ましい。

(5)評価結果等に関する情報の積極的な開示及び活用

  • 教育内容・方法、財務・経営状況等に関する情報や設置審査等の過程、認証評価や自己点検・評価の結果等により明らかとなった課題や情報を当該機関が積極的に学習者に提供するなど、社会に対する説明責任を果たし、当該機関自身による質の保証に努めていくことが求められる。
  • 具体的には、例えば、ホームページ等を活用して、自らが選択する機能や果たすべき社会的使命、社会に対する「約束」とも言える設置認可申請書や学部・学科等の設置届出書、学則、自己点検・評価の結果等の基本的な情報を開示することが求められる。
  • また、当該機関による情報開示だけでなく外部からの評価結果も併せて提供されることが学習者の便宜のために重要であることから、認証評価機関による評価の結果も開示することとされており、当該機関の質の確保・向上のために積極的に活用される必要がある。
  • 評価結果等に関する情報については、大学等の個性・特色を伸ばし、質を高めるための競争を促進する観点から、公的財源等各種の資源の効果的な配分に適切に反映するなど、積極的に活用されることが重要である。
  • なお、専門学校に関しては、引き続き、各都道府県段階での適切な設置審査の実施と、各専門学校による自己点検・評価や外部検証の努力により、質の確保及び向上を図ることが期待される。

お問合せ先

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

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(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)