21世紀は「知識基盤社会」(knowledge-based society)の時代であると言われている。これからの「知識基盤社会」においては、高等教育を含めた教育は、個人の人格の形成の上でも、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上でも、極めて重要である。物質的経済的側面と精神的文化的側面の調和のとれた社会を実現し、他者の文化(歴史・宗教・風俗習慣等を広く含む。)を理解・尊重して他者とコミュニケーションをとることのできる力を持った個人を創造することが、今後の教育には強く求められている。また、高等教育においては、先見性・創造性・独創性に富み卓越した人材を輩出することも大きな責務である。
我が国の高等教育に関しては、従来より、旧大学審議会の28本に及ぶ諸答申、特に平成10(1998)年答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」や平成12(2000)年答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」等を踏まえて、各般の高等教育改革が着実に進捗している。
その後、国立大学の法人化、公立大学法人制度の創設、学校法人制度の改善、法科大学院等の専門職大学院制度の創設、設置認可の弾力化と第三者評価制度の導入、株式会社による大学設置を認める構造改革特区など、平成10(1998)年当時にはまだ具体的日程に上っていなかった諸改革も、大学改革に関する様々な議論に加えて、国全体の行政改革・司法改革・規制改革等との関連もあり、相次いで実施されてきている。
我が国の高等教育改革は、これら各般のシステム改革の段階から、各機関が新たなシステムの下で教育・研究活動の活性化の成果を具体的に競い合う段階へと移行する最中にある。
国際的には、ケルンサミット(1999年)等を契機として、世界各国において「知識基盤社会化」を念頭に置いた高等教育改革が大幅に進展しつつある。例えば、EUでは「欧州高等教育圏」創設を目指した「ボローニャ・プロセス」が進行している。また、特にアジア近隣諸国においては、ここ数年の高等教育進学率の急上昇に伴い高等教育改革が急速に進展しつつあり、我が国が高等教育改革について国際的な競争の中でどのような進路を選択するのか、大きな岐路にさしかかっていると言ってよい。
我が国の高等教育の整備については、これまで、高等教育計画を策定して計画的な整備目標を設定してその実施に努めてきた。しかし、このような内外の新たな状況を踏まえれば、従来の諸施策にとらわれず新しい発想で対処していかなければならない。我が国の高等教育に関し、広く議論を喚起するための出発点として、中長期的観点から望ましい方向やあるべき姿を提示する必要が生ずるゆえんである。
そこで、本審議会では、平成13(2001)年4月の「今後の高等教育改革の推進方策について」の諮問を受けて以降、総会で3回、大学分科会で30回にわたってこの課題につき審議を重ねてきた。本中間報告は、その成果として、「知識基盤社会」の時代における高等教育と社会の関係を踏まえつつ(第1章)、従前の高等教育計画や将来構想に替わるものとして、中長期的観点で想定される高等教育の全体像、高等教育機関の在り方及び高等教育の発展を目指した社会の役割に関する将来像(言わば「グランドデザイン」とも呼ぶべきもの。第2章~第4章)と、そこに至るまでの中期的な施策の方向性(言わば「ロードマップ」とも呼ぶべきもの。第5章)を示すものである。本審議会がこのような見解をまとめるに至った背景となる考え方や認識に関しては、巻末の補論1~3に提示してある。
教育の在り方は、その国の将来の社会・経済の在り方を左右する重大な問題である。明治以来の我が国の教育は、関係者の営々たる努力と国民全体の支援によって、我が国社会を今日の繁栄・発展に導く上で、全体として大きな成功を収めてきたと言ってよい。にもかかわらず、戦後久しく、我が国においては高等教育、特にその経済的基盤に関する社会全体での議論が必ずしも活発であったとは言い難く、国全体の経済発展と個人所得の動向に支えられてきたとの感を持たざるを得ない。この二つの基盤が大きく変調しつつある今日、高等教育の量の面でも、また質の面でも、より根本的な議論が不可避となっているのである。本中間報告の中でも述べるように、高等教育の危機は社会の危機であり、これ以上、現在の高等教育が置かれている深刻な状況を座視し続けることは許されないものと考える。
本中間報告が、新時代の高等教育を築くための道標となり、また、我が国社会の持続的な発展の礎となることを願ってやまない。
高等教育局私学部参事官付