平成17年1月13日
地方教育行政の在り方については,今後,次のような考え方の下に改革を行っていくことが必要。
学校教育とりわけ義務教育の実施に当たっては,国はナショナル・スタンダードを示し,教育の機会均等と全国的な教育水準を確保していくことが必要。同時に,地域の実情に応じた教育が実現されることが必要。このため,制度をできる限り弾力化し,教育の直接の実施主体である市町村や学校の裁量を拡大するとともに,市町村の行政体制や学校の組織運営体制を強化していくことが必要。
市町村や学校は,評価・公開を通じ,自らの教育行政や教育活動の内容とその結果について,地域住民や保護者に対し説明する責任を果たすとともに,教育の質を向上させることが必要。また,教育行政制度全体について,だれがどのような責任を負うのかが明確な制度とすることが必要。
教育行政は,保護者や地域住民の意向を十分に把握し,それを反映して行われることが必要。また,保護者や地域住民が,学校運営も含め一定の権限と責任を持って教育に積極的にかかわっていくことで,教育委員会の支援の下,学校教育の改善充実や地域全体の教育力の向上を図っていくことが必要。
教育委員会制度は,戦後,我が国に導入され,導入後も数次にわたり改正。
教育には,以下の3点が求められる。
教育は,個人の精神的な価値の形成に直接影響を与える営みであり,その内容は中立公正であることが求められる。とりわけ学校の基本的な運営方針の決定や,教育に直接携わる教職員の人事について中立性の確保が強く求められる。
教育は,子供の健全な成長発達のため,学習期間を通じて一貫した方針の下安定的に行われることが必要。また,教育は,結果が出るまで時間がかかり,またその結果も把握しにくい特性があることから,学校運営の方針変更などの改革・改善も漸進的なものであることが望まれる。
教育は,地域住民にとって身近で関心の高い行政分野であり,また,特定の見方や教育理論の過度の重視など偏りが生じないようにする必要があることから,専門家のみが担うのではなく,広く地域住民の意向を踏まえて行われることが必要。
教育行政には,以下の3点が求められる。
教育の中立性,継続性,安定性を確保するため,学校などの教育機関を管理する責任は,首長から一定の独立性を持った機関が負うべき。
様々な意見や立場を集約した中立的な意思決定を行うためには,多様な属性を持った複数の委員による合議が必要。
広く地域住民の意向を反映した教育行政を実現するためには,教育の専門家や行政官ではない住民が専門的な行政官で構成される事務局を指揮監督する,いわゆるレイマンコントロールの仕組みが必要。
教育委員会制度は,首長からの独立性,合議制,レイマンコントロールの実現の要請にこたえるものとして今日においても必要。なお,教育委員会を置かないことを認めてもよいとの意見については,今後引き続き検討。
自治体は人口規模や行政資源が多様であることから,教育委員会制度について,基本的な事項以外はできる限り弾力化し,自治体がそれぞれの実情に応じて教育委員会の組織や運営について決定できるようにすることを検討することが必要。
委員の候補者の公募や,住民の推薦,選考過程の公開など工夫していくことが望まれる。なお,教育委員の公選制については,中長期的な課題として慎重に検討することが必要。
教育委員会会議の開催回数の増や,夜間開催など開催時間の工夫により,委員による議論の機会を最大限確保することなどが望まれる。また,教育委員会の公開について,会議開催予定の積極的な広報,開催時間や開催場所の配慮,速やかな会議録の作成・公開が望まれる。
住民広聴会の開催や移動教育委員会議の開催など住民の意向把握のための工夫,学校等教育機関への訪問等が望まれる。また,市町村教育委員の自主的な研究会や教育委員会により構成される団体への支援により,教育委員の情報交換・研究協議の場が確保されることが望まれる。
教育委員会の使命は,地域の教育課題に応じた基本的な教育の方針・計画を策定するとともに,教育長及び事務局の事務執行状況を監視・評価することと考えるべき。教育委員会と教育長及び事務局が適度な緊張関係を保ちながら教育事務を執行する体制を実現することが必要。
教育長が教育委員の中から教育委員会によって選ばれ,一般職と特別職の身分を併せ有することとなっている現行の教育長の位置づけや選任方法について,教育委員会と教育長との関係を明確化する観点も含め,改めて検討していくことが必要。
教育行政についての自己評価の導入が進むことが望まれるが,その際,教育委員会が主体となって教育長以下の業務の状況について評価を行うとともに,教育委員自身も,委員としての活動を外部から評価されるようにしていくことが必要。
教育行政の質を左右する指導主事などの専門的職員の配置を,市町村において充実することが望まれる。また,指導主事の人材確保,専門的業務への特化等も望まれる。事務局職員の人事全般についても,教育委員会の独自性に配慮しつつ,教育行政に精通した人材の育成と首長部局との人事交流が望まれる。
小規模な市町村については,市町村自身が事務処理の広域化に積極的に取り組むとともに,都道府県も,市町村の広域化への支援や,地理的な事情等により事務処理の広域化が不可能な市町村に対する支援が望まれる。
教育委員会は,地方自治体の中で独立・完結して教育事務を担っているのではなく,首長と役割を分担しながら必要な事務を実施。これを前提として,教育に関する事務の中で首長から独立して執行する必要があるものは何であるかを明確にすることが必要。
学校教育及び社会教育に関する事務については,教育の政治的中立性の確保及び教育の自主性の尊重のため,引き続き教育委員会が担当すべき。
文化財保護に関する事務については,引き続き教育委員会の担当とすることを基本としつつ,一定の必要性がある場合には,文化財保護と開発行為との調整の仕組みを整えた上で,地方自治体の判断により,首長が担当することを選択できるようにすることを検討すべき。
文化,スポーツ等に関する事務については,基本的には教育委員会の担当とする利点が大きいと考えられるが,自治体の実情や行政分野の性格に応じ,自治体の判断により,首長が担当することを選択できるようにすることを検討すべき。
幼児教育に関する事務については,公立・私立の幼稚園,保育所等を通じ,義務教育との接続も視野に入れた総合的・体系的な施策を展開する上で,市町村教育委員会が積極的な役割を果たしていくことを検討すべき。
私立学校に関する事務については,私学としての自主性を尊重しつつ,公立学校との交流連携や教育委員会のかかわりについて検討すべき。
政治的中立性を確保しつつ,教育行政に理解のある首長の創意工夫を教育政策に反映させる仕組みを積極的に導入することが必要。教育委員と首長との協議会の定期開催や,首長の学校訪問等が重要。教育に関する審議会の設置や,市町村が策定する基本構想の活用も有効な方策。
教育関係予算の編成・執行に当たって,首長部局が教育委員会に対して総枠を示し,その枠内では教育委員会の判断にゆだねるなど,首長部局が教育委員会の独自性を尊重することが望まれる。
教育委員会は,議会における質疑・答弁を通じ,住民に対する説明責任を積極的に果たしていくことが望まれる。また,議会は,教育委員の選任の同意を慎重に行うことが望まれる。
国から地方へ,都道府県から市町村へ権限の委譲を進め,自治体が権限と責任を持って地域の実情に応じた教育を実現できるようにしていくことが必要。また,国は地方の,都道府県は市町村の自主性を最大限尊重するとともに,市町村も主体的に教育行政に取り組むことが必要。
教職員の人事権については,できるだけ市町村に委譲する方向で見直すことを検討すべき。一方,市町村の事務体制や県内全域での人材確保にも留意すべきであり,当面,中核市や一定規模以上の市町村に教職員人事権を委譲する方向で検討することが必要。
都道府県は,県域全体における教育水準の維持向上を図るため,市町村の自主性を尊重しつつ,規模等の差により市町村間の格差が生じないよう支援を行うことが必要。一方,市町村がより主体性を持って学校の運営の責任を負う体制が整うに従い,都道府県の行う指導・助言・援助の役割を限定する方向で見直すことが必要。
教育事務所については,小規模市町村に対する支援や,域内における情報交換,教育研究団体の育成など,市町村相互又は市町村を超えた教育活動への支援に重点を置く方向で見直すことが必要。
学校が生徒・保護者の要請や地域の状況に応じた教育を主体的に行い,保護者や地域住民に対して直接に説明責任を果たしていくためには,学校に権限を与え,校長のリーダーシップの下で自主的な学校運営ができるようにすることが必要。
学校間の異動の担保等に留意しつつ,教職員の配置に対する校長の権限を更に拡大していくことが望まれる。また,教育内容等に関する学校の裁量を拡大していくとともに,学校の企画や提案に基づいた予算の配分や,使途を特定しない裁量的経費の措置など,予算面における学校裁量の拡大を更に進めることが望まれる。
学校評価の質向上のための支援を充実していくとともに,自己評価の実施とその公表の義務化を検討することが必要。また,外部評価は教育活動の改善に有効であり,より充実する観点からその在り方について検討していくことが必要。なお,学校評価については,多面的な評価を行うことが重要。
指導主事による学校指導や現職教員の活用などによる授業改善への支援,教育研究団体の育成など教員の自主的な授業改善への支援が望まれる。また,学校事故や生徒指導上の問題への対応への支援,学校現場の意見の吸い上げが望まれる。
保護者・地域住民に対し学校の管理運営や教育行政への参画を積極的に求めていくことが必要であり,学校評議員の全国的な設置や学校運営協議会制度の積極的な活用が望まれる。また,政策立案のため審議会や研究会を設置することも有効。
学校は,保護者や地域住民に対し自らの教育活動について情報提供し,理解と協力を求めていくことが必要。また,企業や大学等と緊密に連携し協力を得ていくことも望まれる。
学校は,PTAを通じ保護者に対して学校の教育方針等を説明し,保護者の十分な理解を得るようにし,一方,PTAは,保護者全体の意見を踏まえながら学校に協力していくことが望まれる。PTAが学校に協力する際には,学校支援ボランティアの組織化など,保護者や地域住民の自発性を重視した取組を進めることが望まれる。
条例による「教育の日」の制定や教育週間の設定,学校開放週間の設定や公開研究授業の実施など,教育に関する地域住民への情報発信を行うことが望まれる。また,インターネット,テレビ,ラジオなど各種の広報媒体の活用も必要。
ホームページの掲示板や電子メール,FAXなどにより,住民が直接教育委員会に意見を述べることができるようにすることが望まれる。
今後,市町村合併の進展など教育委員会を取り巻く状況の変化,学校運営協議会制度の運用状況,更には教育委員会改革の進捗状況をみながら,教育委員会の在り方について引き続き検討を進めていくことが必要。
初等中等教育局初等中等教育企画課