第2章 教師に対する揺るぎない信頼を確立する-教師の質の向上-

(1)あるべき教師像の明示

  • 人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教師にかかっていると言っても過言ではない。国民が求める学校教育を実現するためには、子どもたちや保護者はもとより、広く社会から尊敬され、信頼される質の高い教師を養成・確保することが不可欠である。
  • 優れた教師の条件には様々な要素があるが、大きく集約すると次の3つの要素が重要である。
    1. 教職に対する強い情熱
       教師の仕事に対する使命感や誇り、子どもに対する愛情や責任感などである。
       また、教師は、変化の著しい社会や学校、子どもたちに適切に対応するため、常に学び続ける向上心を持つことも大切である。
    2. 教育の専門家としての確かな力量
       「教師は授業で勝負する」と言われるように、この力量が「教育のプロ」のプロたる所以である。この力量は、具体的には、子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級作りの力、学習指導・授業作りの力、教材解釈の力などからなるものと言える。
    3. 総合的な人間力
       教師には、子どもたちの人格形成に関わる者として、豊かな人間性や社会性、常識と教養、礼儀作法をはじめ対人関係能力、コミュニケーション能力などの人格的資質を備えていることが求められる。また、教師は、他の教師や事務職員、栄養職員など、教職員全体と同僚として協力していくことが大切である。

(2)信頼される教師の養成・確保

ア 基本的な考え方

  • 教師の質の向上のためには、養成、採用、研修、評価等の各段階における改革を総合的に進める必要がある。これらの改革に当たっては、教師を励ますような方向で進めるとともに、教職員の処遇の改善が図られるなど、教職や学校が魅力ある職業、職場となるようにすることが重要である。
     教職が魅力あるものとなるためには、教職員の地位や処遇が安定したものであって安心して子どもたちの教育に取り組めることは特に重要であり、資質能力を備えた教職員を安定的に確保するための確実な条件整備が欠かせない。
     そうした土台と合わせて、以下に述べるように、教員養成・免許制度の改革や教員評価の充実等により、教師が常に自己研鑽に努める環境整備が必要である。
  • 現在の教師の年齢構成を見ると、大量採用期の40歳代から50歳代前半の層が多くなっており、今後、この世代が退職期を迎えることになることから、量及び質の両面から優れた教師を養成・確保することに十分留意する必要がある。特に、このような時期こそ、養成段階における教職課程の改善・充実を図ること、採用段階でより優れた教師を確保するための採用選考方法の工夫・改善を図ることは極めて重要となる。
  • 教師の質の向上のためには、職場の同僚同士のチームワークを重視し、全員のレベルを向上させる視点と、個々の教師の能力を評価し、向上を図っていく視点の両方を適切に組み合わせることが重要である。その際には、校長のリーダーシップ及び学校を支える教育委員会の役割が重要である。

イ 教員養成・免許制度の改革

  • 一般大学学部と教員養成系大学学部とが、それぞれの特色を発揮しつつ教員養成を行う「開放制」の原則は、幅広い視野と高い専門的知識を兼ね備えた人材を広く教育界に求める上で意義があり、今後とも尊重する必要がある。
     また、子どもの人格形成にかかわる教師には総合的な人間力が求められることを踏まえ、教員養成を担う大学においては、哲学、倫理学、歴史学等の人文科学や基礎科学等を幅広く履修し、広く豊かな教養を身に付けた人材を育成することが求められる。
     一方、国際的に質の高い教育を実現するためには、質の高い教師が養成されるよう、大学における教員養成の質の維持・向上を図る必要がある。また、教員免許状についても、教師としての資質能力を確実に保証するものとなるようにする必要がある。
  • 大学での養成段階は、教師として最小限必要な資質能力を身に付けさせる段階であり、学校の実態やニーズも踏まえた資質能力の育成を含め、カリキュラム編成や成績評価の改善・充実を図ることが重要である。また、(1)で述べたようなあるべき教師像に示された教師を養成するという使命の重大さにかんがみ、教職課程認定の際の審査の在り方や、外部機関等が教職課程を事後評価する仕組みについても検討する必要がある。
  • 高度な専門性と実践的な指導力を有する教師の養成や、現職教師の再教育の充実を図っていくため、学部段階における教員養成の着実な改善・充実とともに、とりわけ大学院段階における教員養成・再教育の格段の充実を図ることが必要である。このため、学校の様々な課題に即した実践的な教育を高度なレベルで行う教員養成分野における専門職大学院制度を創設する方向で検討することが適当である。その際には、現行の大学院修士課程との関係や、社会人を含めた幅広い分野からの入学者の受入れ等について検討する必要がある。
  • 教師が、国民や社会から尊敬と信頼を得られるような存在となるためには、教員免許状が、教職生活の全体を通じて、教師として必要な資質能力を確実に保証するものとなるようにする必要がある。このため、まず、免許状の授与の段階で、大学で養成すべき教師として必要な資質能力を確実に保証するものとなるよう、教員免許制度の在り方について見直すことが必要である。
  • また、教員免許状を取得した後も、社会状況の変化等に対応して、その時々で求められる教師として必要な資質能力が確実に保持されるよう、定期的に資質能力の必要な刷新(リニューアル)を図ることが必要であり、このための方策として、教員免許更新制を導入する方向で検討することが適当である。なお、我が国の教師の指導力が高いことについて正当な評価がなされないまま、教師に対する不信感のみから教員免許更新制を導入するのであれば、教師の意欲を喪失させる恐れがある。このため、教師の意欲を高める視点が必要であり、教員免許更新制の導入により、教師への人材登用の途を狭めることや、教師の身分を不安定にしたり、過剰な負担感を与え教職の魅力を低下させることのないよう留意する必要がある。

ウ 採用、現職研修の改善・充実

  • 採用や初任者研修、10年経験者研修等の現職研修を通じて、実力ある教師の確保・育成を図ることが必要である。
     採用については、教師としての確かな指導力や総合的な人間力を見極めるため、人物評価を一層重視するとともに、大学の成績やボランティア等の諸活動の実績を評価する選考方法の改善を進めるなど、採用段階でより優れた教師を確保するための積極的な工夫・改善が必要である。また、今後、大量採用時代を迎えることが見込まれるため、民間企業経験者や退職教員等、多様な人材を登用するための工夫・改善も必要である。
  • 研修については、校内研修や任命権者等が実施する研修といった体系的な研修と教師の主体性を重視した自己研修の双方の充実が必要である。また、国として、各地域において中核的な役割を担う教師等を一堂に集めて行う研修や、喫緊の重要課題に関する研修について、今後とも、一層の充実を図るとともに、都道府県教育委員会等に対する指導・助言・援助の機能も一層充実・強化する必要がある。研修の在り方については、講義形式だけでなく、実践的な指導力を向上させるとともに、内容・方法の工夫・改善を図ることが必要である。また、大学と教育委員会や学校との一層の連携を図っていくことが重要である。
  • 教員養成・免許制度の改革が検討される中で、初任者研修や10年経験者研修等については、これまでの実績を検証し、研修内容・方法や受講者の評価の在り方も含め、一層の改善・充実を図ることが必要である。
  • 教師の優れた指導実践を蓄積し、他の教師に継承していくことで、教師全体の指導力の向上を図ることができるような方策についても検討する必要がある。

エ 教員評価の改善・充実

  • 学校教育や教師に対する信頼を確保するために、教員評価への取組が必要である。教師の評価は、民間企業で行われるような成果主義的な評価はなじみにくいという教師の職務の特殊性等に留意しつつ、単に査定をするのではなく、教師にやる気と自信をもたせ、教師を育てる評価であることが重要である。
  • 教員評価に当たっては、主観性や恣意性を排除し、客観性をもたせることが重要であり、教師の権限と責任を明確にし、それに基づいて行うことが効果的である。
  • 優れた教師を顕彰し、それを処遇に反映させたり、教師の表彰を通じて社会全体に教師に対する信頼感と尊敬の念が醸成されるような環境を培うことが重要である。
  • 高い指導力のある優れた教師を位置づけるものとして、教育委員会の判断で、スーパーティーチャーなどのような職種を設けて処遇し、他の教師への指導助言や研修に当たるようにするなど、教師のキャリアの複線化を図ることができるようにする必要がある。
  • 多くの教師は、教育活動や自己研鑽に熱心に努めているが、一方で、熱意や指導力の不足、必要な人格的資質の欠如など、問題のある教師がいることも事実である。安心し、信頼して子どもを託すことのできる学校を実現するためには、これら問題のある教師に対し毅然と対処することが重要である。また、各教育委員会に設置されている相談窓口を通じ、教師に関する保護者の意見や苦情に対応していくことが必要である。

オ 多様な人材の学校教育への登用

  • 優れた知識・技能と社会経験を持つ学校外の多様な人材を学校教育に積極的に登用していくことは、子どもたちに実社会と触れる機会を与え、社会とのかかわり方を身に付けさせるとともに、学校の活性化につながるものであり、有意義である。
     このため、特別非常勤講師制度や特別免許状制度を積極的に活用したり、学校ボランティアとして多様な外部人材の協力を得ることが重要である。
  • 多様な人材の登用に当たっては、優れた指導力を有する退職教員を含む教職経験者や、企業等において種々の専門的な知識・技能を有する職業人、教員志望の学生など、地域や学校の実情に応じて様々な人材に協力を得る工夫が考えられる。
     その際、例えば、学校が中心となって組織を作ったり、活動の場を積極的に提供することなどによって、学校の教育活動にこれらの人材の協力を得ていくことが重要である。
  • 校長や教頭といった管理職に人を得ることは肝要である。教頭については、管理職として民間企業等で培った経営感覚を生かすことが期待されることから、校長と同様に民間人などを登用できるよう、資格要件を緩和することが適当である。

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