1.「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(諮問文、文部科学大臣諮問理由説明)

16文科初第759号
中央教育審議会

次に掲げる事項について、別紙理由を添えて諮問します。

今後の教員養成・免許制度の在り方について

平成16年10月20日

文部科学大臣 中山 成彬

(理由)

 教職は、人間の心身の発達にかかわる専門的職業であり、その活動は、子どもたちの人格形成に大きな影響を与えるものである。
 近年、学校教育が抱える課題は、一層複雑・多様化してきている。直面する教育課題に対応し、21世紀を切り拓(ひら)く心豊かでたくましい日本人を育成する観点から、「人間力向上」のための教育改革を着実に進めていくためには、教員の果たす役割が極めて重要であり、保護者や国民の期待も益々高まってきている。
 信頼され、安心して子どもを託すことのできる学校づくりを進めていくためには、優れた資質能力を有する教員を養成・確保していくことが不可欠であることから、これからの社会の進展や将来の学校教育の姿を展望しつつ、今後の教員養成・免許制度の在り方について、幅広く検討することが重要と考える。

 当面、次の事項について検討する必要がある。

(1)教員養成における専門職大学院の在り方について

(2)教員免許制度の改革、とりわけ教員免許更新制の導入について

別紙 文部科学大臣諮問理由説明

平成16年10月20日

 教職は、人間の心身の発達にかかわる専門的職業であり、その活動は、子どもたちの人格形成に大きな影響を与えるものであります。
 近年、子どもたちの学ぶ意欲の低下や規範意識・自律心の低下、社会性の不足、いじめや不登校等の深刻な状況など、学校教育が抱える課題は、一層複雑・多様化してきております。このような教育課題に対応しつつ、21世紀を切り拓(ひら)く心豊かでたくましい日本人を育成する観点から、現在、「人間力向上」のための教育改革を進めておりますが、改革が十分な成果を上げるためには、教員の果たす役割が極めて重要であり、保護者や国民の期待も益々高まってきております。
 教員としての資質能力は、養成・採用・現職研修の各段階を通じて形成されていくものであり、教職生活の全体を通じて、その向上を図っていくことが求められます。このため、これまで、教員免許状の種類や免許基準の改善、人物重視の採用選考方法への移行、初任者研修や10年経験者研修の制度化など、所要の施策を総合的に講じてきたところであります。
 一方、現在の教員養成については、大学等の教職課程が今日の学校現場が抱える複雑化・多様化する課題に必ずしも十分対応していないなどの課題が指摘されており、教科指導や生徒指導等に関する高度な専門性と実践的な指導力を確実に身に付けさせることが求められております。また、いわゆる指導力不足教員の認定者数の増加等を背景として、教員一人ひとりが自己の資質能力の向上のために一層研鑽を積むことが強く求められるとともに、養成段階から教員としての適格性や専門性を適切に判断することの重要性が高まっております。
 このような状況を踏まえ、信頼され、安心して子どもを託すことのできる学校づくりを進めていくためには、優れた資質能力を有する教員を養成・確保していくことが不可欠であります。このため、これからの社会の進展や将来の学校教育の姿を展望しつつ、今後の教員養成・免許制度の在り方について、幅広く検討することが重要であると考えております。

 当面、次の事項について、速やかに御審議をお願いしたいと考えております。

 第一は、教員養成における専門職大学院の在り方についてであります。
 現在、教員養成については、一般大学と教員養成系大学・学部とがそれぞれの特色を発揮して行っております。また、学部における教員養成のほか、大学院修士課程において、教科又は教職に関する専門性をより深める教員養成を行っております。
 養成・採用・現職研修の各段階のうち、養成段階に期待される役割については、平成9年の教育職員養成審議会第1次答申において、教職課程の履修を通じて、教員としての職務を実践できる「最小限必要な資質能力」を身に付けさせることであるとされております。
 一方、現在の教員養成については、例えば、教職課程の科目は理論や講義が中心で、演習や実験、実習等の時間が必ずしも十分ではないこと、教職経験者が指導に当たっている例が少ないことなど、実践面での指導力の強化が課題として指摘されております。
 このような現状や課題等を踏まえ、高度な専門性と実践的な指導力を有する教員の養成や、現職教員の再教育の充実を図っていくためには、学校現場の様々な課題に即した教育を高度なレベルで実践的に行う教員養成の仕組みを整備する必要があり、教員養成における専門職大学院制度の活用やその在り方について、検討する必要があると考えております。
 具体的には、1.今日の教員に求められる専門性や指導力、2.教員養成全体における専門職大学院の役割及び位置づけ、3.教育内容及び方法、4.専門職大学院制度の趣旨等を踏まえた具体的な教育体制等の設計、5.設置形態及び整備目標、6.専門職大学院の修了者の処遇等を中心に御検討をお願いいたします。

 第二は、教員免許制度の改革、とりわけ教員免許更新制の導入についてであります。
 現在、教員免許制度は、教育職員免許法に基づき、学士の学位等一定の基礎資格を有し、大学等の教職課程において所要の単位を修得した者に対して、終身有効の教員免許状を授与する制度となっております。
 これまで、教員免許制度については、教育職員養成審議会等の答申を踏まえて、専修免許状の創設や教員免許状の取得に必要な単位数の引き上げ、教職に関する科目の充実等、教員の資質能力の向上に関わる様々な改善を図ってきたところであります。
 一方、現在の教員免許制度については、教員免許状の授与に際して、実際の教科等の指導力や適格性等を含めた教員としての全体的な資質能力は必ずしも十分に判断されていないこと、また教員採用者数に比べて、教員免許状取得者数がはるかに多く、この中には教職を志望しない者も少なからず含まれていることなどが指摘されております。
 このような現状や課題等を踏まえ、教員免許状が教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなるようにするとともに、教員一人ひとりが常に緊張感を持って、自己の資質能力の向上のために一層研鑽を積むようにするためには、教員免許制度を改革し、教員免許更新制を導入すること等について、検討する必要があると考えております。
 具体的には、1.教員免許更新制の導入の意義及び位置づけ、2.教員免許状の授与の仕組みや更新手続きなど教員免許更新制の具体的な制度設計、3.教職課程の履修状況を十分に判断した上で教員免許状を授与するための方策、4.学部段階の教職課程の改善・充実方策、5.教職課程の認定に係る審査等の見直し、6.教員免許状の種類の在り方、7.教員免許状と教員の処遇との関係等を中心に御検討をお願いいたします。

 このほか、教員養成・免許制度の在り方については、今後、学校教育を取り巻く課題や社会状況の変化等に伴い、検討が必要になる課題が出てくることも考えられることから、本審議会におかれましては、これらの課題についても、必要に応じて、逐次、御検討いただきたいと考えております。

 以上、今後の審議に当たり、御検討をお願いしたい事項について申し上げました。国民の信頼にこたえる、優れた資質能力を有する教員の養成・確保が確実に図られるよう、今後の教員養成・免許制度の在り方について、幅広い観点から忌憚(たん)のない御意見をいただきますよう、お願い申し上げます。

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初等中等教育局教職員課