第5章 「高等教育の将来像」に向けて取り組むべき施策

○ 本章では、中長期的(平成17(2005)年以降、平成27(2015)年~平成32(2020)年頃まで)に想定される我が国の高等教育の将来像(言わば「グランドデザイン」とも呼ぶべきもの)を念頭に、その内容の実現に向けて取り組むべき施策を提言することとする。

1 将来像に向けた施策の主要な柱と方向性

○ 21世紀は「知識基盤社会」(knowledge-based society)の時代であると言われる。
これからの「知識基盤社会」において、高等教育は、個人の人格形成上も国家戦略上も極めて重要である。

○ 今後は、国際競争が激化し、国の高等教育システムや高等教育政策そのものの総合力が問われる時代であり、国は、将来にわたって高等教育につき責任を負うべきである。

○ 18歳人口が減少して約120万人規模で推移する一方で、大学や学部等の設置に関する抑制方針が基本的に撤廃されたこと等により、高等教育政策の手法は「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来像の提示と政策誘導」の時代へと移行することとなる。

○ こうした基本的な考え方を踏まえて、今回の将来像においては、

  1. 18歳人口の減少や大学・短期大学の収容力(入学者数÷志願者数)が100%に達するなどの状況を踏まえた高等教育の量的変化の動向
  2. 新時代の高等教育が全体として多様化して学習者の様々な需要に的確に対応するために求められる高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化
  3. 学習者の保護や国際的通用性の保持のための、事前・事後の評価の適切な役割分担と協調の確保による高等教育の質の保証
  4. 個性・特色の明確化を通じて教育・研究の質の向上を目指す各高等教育機関の在り方
    • 大学(学士課程、修士・博士・専門職学位課程、短期大学の課程)
    • 高等専門学校
    • 専門学校
  5. 高等教育の発展を目指した社会全体(国・地方公共団体や産業界等を含めて)の役割の重要性

等が主要な柱となっている。以下では、この方向性を踏まえて関連施策についての考え方を整理することとする。

2 将来像に向けて具体的に取り組むべき施策

○ ここでは、1で述べた主要な柱と方向性を念頭に置きつつ、これらに沿って将来像の内容を実現するために必要と考えられる施策を「早急に取り組むべき重点施策」及び「中期的に取り組むべき重要施策」として提言することとする。国は、これらの提言を踏まえて施策の具体化を図るべきである。また、各高等教育機関においても、これらの提言の趣旨を踏まえた努力が求められる。

(1)早急に取り組むべき重点施策(「12の提言」)

1.高等教育の量的変化の動向についての関連施策

(人材養成に関する社会のニーズへの対応)

○ 分野ごとの人材養成に関する需要を的確に把握するとともに、人材養成に関する高等教育機関側と産業界側等との対話・協議の場の設定等を通じて、社会のニーズと高等教育の適切な対応関係を確保する必要がある。その際、迅速かつ機動的な政策手法の活用に留意すべきである。

(各高等教育機関の経営の改善)

○ 各高等教育機関が自ら行う経営改善のための努力を支援する必要がある。また、経営状況の悪化した機関への対応策の充実を図るため、関係機関の協力体制を作っておく必要がある。

2.高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化についての関連施策

(入学者選抜・教育課程の改善、「出口管理」の強化)

○ 大学・短期大学への進学率が約50%に達し、高等専門学校や専門学校を加えた進学率が約75%に達している状況を踏まえ、各高等教育機関の個性・特色の明確化を通じた機能別分化を促進すべきである。特に、各機関ごとのアドミッション・ポリシー(入学者選抜の改善)、カリキュラム・ポリシー(教育課程の改善)、ディプロマ・ポリシー(「出口管理」の強化)の明確化を支援する必要がある。

(留学生交流の促進・充実)

○ 留学生交流を一層促進・充実するため、留学生の質の確保、在籍管理の徹底をはじめとする受入体制の充実、渡日前から帰国後に至る体系的な留学生支援体制の充実、卒業後の活躍の場の拡大等を総合的に推進する必要がある。

3.高等教育の質の保証についての関連施策

(大学等の設置認可や認証評価等における審査内容や視点の明確化)

○ 事前・事後の評価の適切な役割分担と協調による質の保証に関し、大学等の設置認可や認証評価等における審査の内容や視点の明確化を図る必要がある。
(例えば、学位授与機関たる大学にふさわしい教員組織、学問分野に応じた十分な学問的経歴等を有する教員(研究者教員)の配置、「専任教員」の教育・研究や管理運営上の責任、「実務家教員」の実績評価方法、教養教育の実施方針の明示、設置後の学校法人の経営状況など)

4.各高等教育機関の在り方についての関連施策

(教養教育や専門教育等の総合的な充実)

○ 教養教育や専門教育等の在り方の総合的な見直しを通じて、「21世紀型市民」の育成を目指し、多様で質の高い学士課程教育を実現する。このため、充実した教養教育の実施や分野ごとのコア・カリキュラムの策定等を支援する必要がある。

(大学院教育の実質化)

○ 体系的な教育課程の実施による充実した大学院教育の実現を支援すべきである。また、大学院教育の実質化のための将来計画を策定するなどにより、大学院における教育の課程の組織的展開の強化を図る必要がある。

(世界トップクラスの大学院の形成)

○ 大学の選択に基づく機能別分化を促進する中で、世界的研究・教育拠点の形成を支援し、トップクラスの大学院を目指す必要がある。

(助教授・助手の位置付けを含めた教員組織の活性化)

○ 教育・研究を組織的に展開するとともに若手教員が自らの資質・能力を十分に発揮して活躍できるよう、助教授・助手の位置付けを含めた教員組織の見直しによる活性化を図る必要がある。

5.高等教育の発展を目指した社会の役割についての関連施策

(高等教育への支援の拡充)

○ 高等教育への公財政支出の拡充と民間資金の積極的導入を図るべきである。特に、教育基本法及び教育振興の在り方の検討を見据えつつ、欧米並みの公的支出に近づける努力が必要である。

(多元的できめ細やかなファンディング・システムの構築)

○ 高等教育への財政的支援は、国内的のみならず国際的な競争的環境の中で高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形に移行し、機関補助と個人補助の適切なバランス、基盤的経費助成と競争的資源配分を有効に組み合わせること(デュアル・サポート)により、多元的できめ細やかなファンディング・システムの構築を図る必要がある。

  • 国立大学支援
  • 私立大学支援
  • 公立大学支援
  • 国公私を通じた競争的
  • 重点的支援
  • 競争的資源配分
  • 学生支援
(学生支援の充実・体系化)

○ 高等教育を受ける機会を実質的に保障して「ユニバーサル・アクセス」を実現する見地から、学生の多様な需要や社会的要請を踏まえつつ、学生に対する効果的な経済的支援のための関連施策の充実・体系化を図る必要がある。特に、大学院レベルでの国際的に有為な人材の育成に留意すべきである。

(2)中期的に取り組むべき重要施策

1.高等教育の量的変化の動向についての関連施策

○ 社会のニーズと高等教育の適切な対応関係の確保に資するため、人材養成に関する高等教育機関や産業界等の意欲的な取組の評価等の活動を継続的に推進する必要がある。

2.高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化についての関連施策

○ 学習者の多様なニーズに対応した教育サービスの提供を支援するため、履修形態の弾力化を一層進める必要がある。

○ 社会人の学習意識の高まり等に対応して、学位以外の履修証明の方法の普及や社会的な定着を促進する必要がある。

○ 通学制・通信制の区分の在り方を含め、新時代のキャンパス像(教育・研究環境)の在り方について幅広く検討する必要がある。

○ 設置形態の枠組みを超えた高等教育機関間の連携協力による教育・研究・社会貢献機能の充実・強化を一層促進する必要がある。

○ 研究活動の中核を担う人材、教育活動の中核を担う人材、経営を支える人材それぞれの資質向上とそれにふさわしい処遇の確保を図る必要がある。

○ 高等教育機関の運営に関して、法務・財務、労務管理、病院経営、入学者選抜、学生生活支援、産学官連携・技術移転等の分野で活躍する専門的人材(教員や事務職員等の別を問わない。)の内部育成や外部登用を活用して、幅広く厚みのある人材層の形成を促進する必要がある。

3.高等教育の質の保証についての関連施策

○ 事前・事後の評価の適切な役割分担と協調による質の保証を推進する必要がある。

  • 認証評価の円滑な導入と充実
  • 国際的な質保証システムの構築への貢献
  • 自己点検・評価の充実及び情報公開の一層の促進
  • 認証評価以外の各種の評価活動の支援
  • 評価する側の適正さの担保

4.各高等教育機関の在り方についての関連施策

○ 大学の選択に基づく機能別分化を促進する中で、各種の職能団体との連携など分野の特性に応じた設計の下での専門職大学院の創設・拡充等を図る必要がある。

○ 各学校種ごとの個性・特色の違いを明確にし、国際的通用性の確保に留意しつつ、相互の連携・接続の円滑化を図る必要がある。

○ 短期大学・高等専門学校・専門学校の各学校種ごとの位置付けや役割に応じた多様で質の高い教育の展開を支援する必要がある。

○ 国立大学の法人化、公立大学法人制度の創設、私立学校法改正による学校法人制度の管理運営面の改善の趣旨を生かして、国公私立大学それぞれが、組織運営体制の充実、学長のリーダーシップの強化、学内組織の役割分担の明確化等を図れるよう支援する必要がある。

5.高等教育の発展を目指した社会の役割についての関連施策

○ 多元的できめ細やかなファンディング・システムの構築等を通じて、国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担、適切な競争条件の確保を目指すべきである。

○ 各高等教育機関は、寄附金・委託費や附属病院収入・事業収入等の自主財源確保など、多様で安定的な財源の確保を図ることが望まれる。国はそのような努力を積極的に支援すべきである。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)