新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(中間報告) 序章

○ 内閣総理大臣の下に設置された教育改革国民会議は、日本の教育は危機に瀕(ひん)しているとの認識の下に、人間性豊かな日本人の育成、一人一人の才能を伸ばし創造性に富む人間の育成、新しい時代にふさわしい学校づくりなどの、国民的運動としての教育改革の必要性を訴え、17の提案を行った。その中で、教育政策の総合的推進のための教育振興基本計画の策定及び新しい時代にふさわしい基本法の見直しの二つを示すとともに、教育基本法見直しの観点として、以下の3点を提示した。

  1. 新しい時代を生きる日本人の育成
  2. 伝統、文化など次代に継承すべきものの尊重、発展
  3. 教育振興基本計画の策定

○ 本審議会は、このような観点も踏まえ、我が国の社会の現状と今後の変化を見通しながら、これからの教育の在り方について審議した。その結果、21世紀を迎え、我が国の社会や教育は、以下のような様々な課題に直面しているとの認識に至った。

  1. 日本社会の再生
    • バブル崩壊後、潜在力を生かせず長引く経済不況から脱却できない日本経済、国としての自信と目標の喪失
    • 高い倫理観が求められる指導者層における責任感、規範意識の低下とリーダーシップの欠如
    • 若年層が夢や希望を持ちにくい閉塞(そく)感漂う社会
    • 伝統、文化など次代に継承すべき価値を尊重する必要性
    • 成熟化社会への移行の中で心の豊かさを求める気運や、互いに支え合う精神に基づきボランティア活動等を通じて社会的課題の解決に取り組もうという気運の高まり
  2. グローバル化の進展と国際的な大競争時代
    • グローバル化の進展がもたらす世界規模の大競争の激化
    • 大競争時代の下での産業構造、就業構造の激変、日本的雇用慣行の変容、企業再構築(リストラクチャリング)の進行、フリーターの増加
    • 我が国産業の国際競争力の強化の必要性
    • 生命科学(ライフサイエンス)、超微細技術(ナノテクノロジー)、情報通信技術(IT)等、先端科学技術分野の強化と産業化の必要性
    • 南北格差の拡大、宗教対立の激化 など
  3. 「知」の世紀への対応
    • 「知」の世紀をリードする人材の育成のための大学改革の推進
    • 地球環境など人類が直面する問題を解決するための知の結集
    • 国家戦略としての科学技術の推進 など
  4. 少子高齢化による社会の活力の衰退
    • 急激な少子高齢化と労働力人口の減少による社会の活力の衰退
    • 18歳人口の減少に伴う大学進学状況の激変
    • 家庭、地域社会の教育力の崩壊
    • 女性が能力や適性を十分に発揮できにくい社会的な条件や意識 など
  5. 心の危機
    • 自由と責任、権利と義務、個と公のバランスの欠如
    • 社会の構成員としての自立心、自己責任の意識の欠如
    • 倫理観、マナーなどの道徳的価値の軽視
    • 他者への思いやり、弱者への配慮の重要性 など
  6. 教育再生への挑戦
    • 保護者の期待に真にこたえる学校教育の確立(「確かな学力」の育成)
    • 子どもの学ぶ意欲、規範意識、勤労意識、体力の向上
    • 過度の平等主義から脱却し、社会の変化に対応する学校教育の改革
    • 世界的な大競争時代に対応する人材を育成する大学改革
    • 外国語を使える日本人の育成の必要性
    • 学校完結型から生涯学習社会への転換の必要性
    • 家庭、地域社会の教育機能の再生 など

○ 良き社会は良き教育によって作られる。危機に直面する我が国社会が、創造性と活力に満ちた豊かな社会として発展を続けるためには、政治、行政、司法制度や経済構造の改革など21世紀にふさわしい国のかたちの再構築を図る一連の諸改革と軌を一にして、教育についても、根本にまでさかのぼった見直しと改革が必要である。その改革は、日本人の潜在力を呼び覚まし、日本人が自信を持って新しい時代に立ち向かう力を与えるものでなければならない。

○ 本審議会が提示する新しい時代の教育目標は、端的に言えば「新しい時代を切り拓(ひら)く心豊かでたくましい日本人」の育成である。そのためには、教育の根本法である教育基本法についても、普遍的な理念は大切にしながら、以下の視点を明確にする観点から見直しを行うべきであるとの意見が大勢を占めた。

  1. 国民から信頼される学校教育の確立
    • 一人一人の個性に応じてその能力を最大限に伸ばす視点
    • 豊かな心と健やかな体をはぐくむ視点
    • グローバル化、情報化、地球環境、男女共同参画など時代や社会の変化への対応の視点
  2. 「知」の世紀をリードする大学改革の推進
    • 「知」の世紀をリードする人材の育成など大学改革の推進の視点
  3. 家庭の教育力の回復、学校家庭地域社会の連携協力の推進
    • 家庭教育の重要性の明確化の視点、学校家庭地域社会が連携協力して子どもを育てる視点
  4. 「公共」に関する国民共通の規範の再構築
    • 「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵(かん)養の視点
    • 日本人のアイデンティティ(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)の視点、国際性の視点
  5. 生涯学習社会の実現
    • 生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が社会で適切に評価されるような生涯学習社会の実現の視点

○ さらに、この目標を達成するためには、必要な施策を総合的、体系的に構成した教育振興基本計画を策定することが重要であり、その根拠規定を教育基本法に明確に位置付ける必要があるとの意見が大勢を占めた。

○ 近代以降、我が国は2度にわたる教育の枠組み(パラダイム)の大転換を経験した。その第1は明治5年の学制公布による近代教育制度の創設であり、第2は教育基本法体系下の戦後教育改革である。今、これらに匹敵する教育改革を実現すべき時が来ている。そのためには、本中間報告で述べる教育基本法の見直しや教育振興基本計画の策定を含めた根本的な取組が不可欠である。

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