7.スポーツ界における好循環の創出に向けたトップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働の推進

政策目標:

 トップスポーツの伸長とスポーツの裾野の拡大を促すスポーツ界における好循環の創出を目指し、トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働を推進する。

 世界の舞台で活躍するトップアスリートは、地域スポーツや学校の体育に関する活動等地域におけるスポーツの中で育まれ、長期間にわたるたゆまぬ努力により、その才能を開花させたものである。
 また、トップスポーツにより培われるアスリートの技術や経験、人間的な魅力は社会的な財産であり、それらを地域におけるスポーツに還元することは、スポーツの活性化と裾野の拡大につながるとともに、新たな次世代アスリートの発掘・育成によるトップスポーツの伸長にも寄与するものと考えられる。
 このような好循環の創出に向け、トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働を推進する。
 その際、スポーツに関する専門的人材及び施設を有する企業・大学等が地域スポーツの担い手の一つとして地域における連携・協働に加わることは、このような好循環にも資することから、地域スポーツと企業・大学等との連携・協働も推進する。

(1)トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働の推進

1.施策目標:

 次世代アスリートの育成と地域スポーツの推進や学校の体育に関する活動の充実等を目的とした、トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働の推進を図る。

2.現状と課題:

 我が国では、世界の頂点を目指すトップスポーツと、住民が楽しみや健康の保持増進等のために行う地域スポーツや学校の体育に関する活動は、それぞれが別の目的を持った活動として捉えられ、これまではその連携が不十分であった。そのため、次世代のアスリートの発掘・育成を計画的・継続的に一貫して行う体制も不十分である。アスリートの中には、学齢期において勉学面や人間形成の面等、将来の長い人生において必要な資質について、適切な時期に適切な指導・経験が与えられていない者も一部にいるとの指摘がある。したがって、ジュニアアスリートの指導に関わるスポーツ指導者、スポーツ団体、保護者及び学校は、目先の大会等の結果のみにとらわれることなく、スポーツキャリア全体を含めた長期的な視点に立ってアスリートを育てていくことが必要であり、学業とのバランスも含め、キャリアデザインの重要性を認識することが重要である。
 また、アスリート自身も、現役引退後のキャリアパスに漠然とした不安を感じているものの、引退後のセカンドキャリアに向け現役時代から計画的に準備する者は少なく、競技団体によるサポートもあまり行われていない。
 一方、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者を総合型地域スポーツクラブ(「総合型クラブ」)等の地域スポーツクラブにおいて活用することは、住民のスポーツ参加機運を高めるにあたり非常に有意義であると考えられるが、トップアスリートを含め、専門性を有するスポーツ指導者の活用は全体的には十分とは言えない状況である。
 学校の体育に関する活動については、中学校においては、平成20年及び平成21年に改訂した学習指導要領により武道等が必修化されるとともに、小学校においては、学校の小規模化や教員の高齢化等の問題により学校の体育に関する活動の指導に課題を抱えるなど、いずれも専門性を有するスポーツ指導者の活用を含めた指導体制の充実が必要となっている。
 また、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者等を学校の体育に関する活動において活用することは、児童生徒がスポーツに親しむ態度を涵養するにあたり非常に有意義であると考えられるが、トップアスリートを含め、  専門性を有するスポーツ指導者の活用は全体的に十分とは言えない状況にあり、今後、スポーツ指導者を活用する際の円滑な受入れに向けて体制を整える必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国及び地方公共団体は、トップスポーツと地域におけるスポーツの人材の好循環を創出するため、地域におけるスポーツ活動の中から潜在的な能力のある次世代のアスリートを戦略的に発掘・育成する体制を整備するとともに、将来的には育成されたアスリートが、総合型クラブ等において優れた地域のスポーツ指導者となり、自身が有する技術や経験、人間的な魅力をジュニアの育成や地域貢献等に還元し、あわせて自らの指導者としてのスキルアップを図るという流れを作り出すことにより人材の好循環のサイクルを確立する。

○ 国は、トップアスリートや、スポーツ指導者、スポーツ団体に対して、トップアスリートとしてのアスリートライフ(パフォーマンスやトレーニング)に必要な環境を確保しながら、現役引退後のキャリアに必要な教育や職業訓練を受け、将来に備えるという「デュアルキャリア」についての意識啓発を行うとともに、競技引退後の奨学金等による支援や企業、総合型クラブ、学校等への紹介・斡旋等アスリートのスポーツキャリア形成のための支援を推進する。

○ スポーツ団体においては、トップアスリート等のスポーツキャリア形成の一環として、大学と連携し、トップアスリートが指導者として資質向上を図るための支援を行うとともに、地方公共団体と連携し、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者等を総合型クラブや学校等へ派遣することが期待される。

○ 国は、充実した活動基盤を持つ拠点となる総合型クラブ(「拠点クラブ」)を、地域住民が身近にスポーツを行うことができる地理的な距離を考慮し、広域市町村圏(全国300箇所程度)を目安として育成し、拠点クラブにトップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者を配置し、周辺地域のクラブや学校の体育に関する活動等を対象に巡回指導等を実施する体制を整備する。

○ 地方公共団体においては、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者等を活用し、総合型クラブの活動や学校の体育に関する活動等を支援することが期待される。
 その際、地域のスポーツ活動全体をコーディネートするスポーツ推進委員を活用することにより効果的・効率的に総合型クラブや学校にスポーツ指導者等を派遣することが期待される。

○ 総合型クラブ等地域スポーツクラブにおいては、住民のスポーツへの参加機運を高める優れたスポーツ指導者を確保するため、専門性を有するトップアスリート等を積極的に活用することが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、平成24年度から中学校で必修となる武道等の指導の充実や、学校において専門的な指導を行うことができるスポーツ指導者の不足を補い、体育の授業や運動部活動の充実を図るため、地域スポーツクラブや関係団体等と連携し、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者を学校で活用することを推進する。

○ 国は、地域での教育支援体制を強化するため、地域のスポーツ指導者を活用するなどして、小学校全体の体育の授業等を計画したり、担任とティームティーチングで体育の授業に取り組む人材(小学校体育活動コーディネーター)の派遣体制の整備を支援する。

○ ジュニア期においては、長期的な視点に立ってアスリートを育てていくことが必要であることから、ジュニアアスリートの育成に関わるスポーツ指導者、スポーツ団体、保護者、地方公共団体及び学校等においては、個々のアスリートの特性や発達段階、学業とのバランスや本人のキャリア形成にも配慮した適切な支援に努めることが期待される。

(2)地域スポーツと企業・大学等との連携

1.施策目標:

 企業や大学に蓄積された人材やスポーツ施設、スポーツ医・科学の研究成果等を地域スポーツにおいて活用するための連携・協働の推進を図る。

2.現状と課題:

 地域のスポーツ環境を充実させるためには、地方公共団体、学校、地域スポーツクラブ、大学、企業等地域における様々な主体が、スポーツ推進に関連し保有する様々な資源を最大限活用しつつ連携・協働して取り組んでいくことが重要である。このことは、スポーツ界の好循環の創出にも必要となると考えられる。
 企業のスポーツチームは、優れたアスリートやスポーツ指導者等が在籍するほか、スポーツ施設を保有しており、こうした人的・物的資源を地域に提供することにより、地域に根ざした企業活動に結びつける取組も行われている。
 今後、地方公共団体において、こうした地元企業による取組を地域の活性化に積極的に活用していくことが必要である。
 また、スポーツ産業による用具等の研究開発については、競技水準の向上や安全なスポーツ環境の確保等、地域のスポーツ環境を支えるものであるが、大学や地域スポーツの関係者との連携を深め、地域のニーズにも応えるよう活動を充実させる必要がある。
 他方、大学、特に体育系大学・学部は、アスリート等が知識や技能を獲得する人材育成の場であるとともに、医学・歯学・生理学・心理学・力学をはじめ経営学や社会学等を含めたスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)に関する高度な研究の場となっている。しかしながら、現状では、これらの活動は、大学で完結するかたちで行われがちであり、地域における他の主体との連携・協働は拡充の余地が大きい。
 また、その保有する高度なスポーツ施設を地域に提供することにより、地域スポーツの拠点となる取組も一部の大学で着手されており、地域のスポーツ環境を充実させるためには、こうした大学の社会貢献活動が広く行われるようにすることも課題である。
 さらに、スポーツ基本法に基づき、障害者スポーツについて、障害の種類に応じて必要な配慮が求められていること、スポーツを健康の保持増進の観点から効果的に活用していくこと、スポーツ事故等に対応した安全なスポーツ環境を整えること等が求められているが、こうした高度な課題に十分に対応できる知見や推進体制が整っていないのが現状である。これらに対応するため、地域スポーツにおいて、企業や大学との連携・協働を推進し、その資源を積極的に活用する必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、地域スポーツにおけるスポーツ指導者やクラブマネジャー等の優れた人材を確保するために、例えば、企業や大学による地域スポーツクラブ向けの公開(寄附)講座や講習会等の開催等、地域スポーツクラブと地元の企業や大学との連携・協働の取組を支援する。

○ 国は、健常者と障害者が同じ場所でスポーツを行うための方法や、スポーツ障害・事故防止策、地域の活性化につながるスポーツ・レクリエーションプログラム等について、大学等での研究成果や人材を広く地域スポーツに活用するための取組を推進する。

○ 地方公共団体においては、スポーツを地域振興に積極的に活用するため、スポーツ団体だけでなく、地元企業(地域のスポーツチームを有する地元の企業を含む)や大学と連携・協働することが期待される。また、拠点クラブによる地元の企業や大学との連携・協働を推進することが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、例えばスポーツツーリズムによる地域活性化を目的とする連携組織(いわゆる「地域スポーツコミッション」)等の設立を推進するなど、スポーツを地域の観光資源とした特色ある地域づくりを進めるため、行政と企業、スポーツ団体等との連携・協働を推進する。

○ 企業においては、地方公共団体や大学等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放等スポーツを通じた地域貢献活動を実施することが期待される。

○ 大学においては、地方公共団体や企業等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放、総合型クラブの運営や地元のジュニアアスリートの発掘・育成、スポーツ指導者等の養成等スポーツを通じた地域貢献活動を実施することが期待される。

○ 大学においては、学生によるスポーツボランティア活動を支援することが期待される。

お問合せ先

スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室

(スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室)